説明

歯科用ハンドピースのチャック装置

【課題】構造が簡単で、切削工具が確実に把持でき、かつ切削工具の着脱が容易に行える歯科用ハンドピースのチャック装置を提供する。
【解決手段】歯科用ハンドピースのヘッド部に回転自在に軸支され、その中央部付近の内径が下方に向かって漸増するテーパー部を有する回転筒と、同回転筒内に摺動可能に挿入され、切削工具の外径より小さい内径の躯体の下部が下方に向かって拡がるテーパー部を、躯体側面に下端から切り込まれた複数のすり割溝を有するコレットと、前記回転筒内の内壁に固着され、前記コレットの複数のすり割溝に嵌入させてコレット下部の内径を拡げる楔状突起を円筒の上端に前記複数のすり割溝と同数突設したガイド筒と、上下端部を前記回転筒の上端面とコレットの頭部下面に当接させて前記コレットの躯体上部に周設したスプリングとで構成された歯科用ハンドピースのチャック装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用ハンドピースに係り、特に切削工具を固定するチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から歯科用ハンドピースのチャック装置の発明は、種々の発明が開示されている。
例えば、特開平3−165755号公報には、
「頭部内に回転自在に軸支された筒型の回転筒と、該回転筒内に摺動自在に挿入され、その筒内の下端部に先端縮小の形をなすテーパ面を設けたロック部材と、回転筒とロック部材の内部に挿入され上方部に軸方向に複数のすり割溝が形成され、且つ上方部外周面に前記ロック部材の筒内テーパー面と当接する階段状の凸起部を設けたコレットチャックと、該コレットチャックの筒内面に設けた切欠段部と、該コレットチャックと回転筒とを一体に回転させるための回り止め部材と、該コレットチャックを回転筒内で軸方向に一定距離を摺動可能とする抜け止め部材との間に設けられた間隙と、該コレットチャックのテーパ面に当設する方向に付勢して、コレットチャックに切削工具を締着させるスプリングとからなる歯科用ハンドピースのチャック装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−165755号公報
【0004】
しかしながら、内径が切削工具の外径より大きいコレットチャック(以下コレットと略記する)を使用し、前記コレットのテーパ面とスプリングの力とで切削工具を把持(チャック)する構造では、切削工具をチャックする前にコレット内径を切削工具の外径まで縮める必要があり、このために前記スプリングの力の一部が使われ、スプリングの力を全て切削工具の把持につ利用することはできなかった。
また、スプリングの力を強くすれば切削工具の後部を把時する力は強くなるが、切削工具の外周にコレットの内周が食い込んだ状態となる場合や、
切削工具を取り外すためにスプリングを縮め、コレットの内径を切削工具より大きい元の内径に戻そうとしても、コレットの弾性力が不足して元に戻らない場合があり、切削工具が容易に抜けなくなるという不具合もあった。
これはコレットの内径を元の内径に戻す力として、コレットの弾性力のみが使用されていることからくる不具合であった。
【0005】
上記のように従来の歯科用ハンドピースのチャック装置では、切削工具の着脱を容易にしようとスプリングの力を弱めると、治療中に生ずる振動等により、切削工具が脱落する危険性を無視することができなくなり、
逆に、切削工具を把握する力を強くしようとすると、スプリングの力が大きくなりすぎてコレットの内壁が切削工具の内壁が切削工具の外周に食い込んだり、コレットの弾性不足により内径の復帰が十分でなかったりして、切削工具の着脱が容易に行えなくなるという矛盾した問題があり、治療中の切削工具の脱落防止と、切削工具の着脱の容易さとを兼ね備えた歯科用ハンドピースのチャック装置を実現することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では簡単な構造で、切削工具を強固、確実に把持して、治療中に前記切削工具の脱落する危惧を除き、かつ切削工具の着脱が容易に行える歯科用ハンドピースのチャック装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み本発明者は、鋭意実験研究の結果、次の手段によりこの課題を解決した。
[1] 切削工具(13)を回転させる歯科用ハンドピースのヘッド部(1)に、前記切削工具(13)を着脱自在に装着するチヤック装置であって、
前記歯科用ハンドピースのヘッド部(1)に回転自在に軸支され、その中央部付近の内径が下方に向かって漸増するテーパ部(3b)を有した回転筒(3)と、
前記回転筒(3)内に摺動可能に挿入され、装着する切削工具(13)の外径より小さい内径の駆体の下部が下方に向かって広がる末広がりのテーパ部(5a)を有し、また駆体側面に下端から切り込まれた複数のすり割溝(5c)を有し、さらに、上端側方に突出して周設された環状頭部(5e)を有し、前記切削工具(13)を前記駆体の内壁で把持するコレット(5)と、
前記回転筒(3)内の下部内壁に嵌入固着され、前記コレット(5)の複数のすり割溝(5c)に嵌入させてコレット下部の内径を広げ、切削工具(13)の着脱を可能にする楔状突起部(18a)を、円筒の上端に前記複数のすり割溝(5c)と同数突設して備えたガイド筒(18)と、
上下端部を前記回転筒(3)の上端面(3a)とコレット(5)の環状頭部(5e)下面に当接させて、前記コレット(5)の駆体上部(5b)に周設したスプリング(17)とで構成され、
前記切削工具(13)の外径より小さい内径のコレット(5)の下部を、その側面に設けたすり割溝(5c)に、ガイド筒(18)に備えた楔状突起部(18a)を嵌入することによって広げて前記切削工具(13)を装着可能にし、装着後は前記スプリング(17)がコレット(5)を引き上げ、回転筒(3)の内壁中央部のテーパ部(3b)とコレット(5)下部のテーパ部(5a)との嵌合によって前記切削工具(13)を安全確実に装着できるように構成してなることを特徴とする歯科用ハンドピースのチャック装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば次のような優れた効果を発揮することができる。
〈1〉本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置が、
前記歯科用ハンドピースのヘッド部に回転自在に軸支され、その中央部付近の内径が下方に向かって漸増するテーパを有した回転筒と、
前記回転筒内に摺動可能に挿入され、装着する切削工具の外径より小さい内径の駆体の下部が下方に向かって広がる末広がりのテーパー部を有し、また駆体側面に下端から切り込まれた複数のすり割溝を有し、さらに上端側方に突出して周設された環状頭部を有し、前記切削工具を前記駆体の内壁で把持するコレットと、
前記回転筒内の下部内壁に嵌入固着され、前記コレットの複数のすり割溝に嵌入させてコレット下部の内径を広げ、切削工具の着脱を可能にする楔状突起部を、円筒の上端に前記複数のすり割溝と同数突設して備えたガイド筒と、
上下端部を前記回転筒の上端面とコレットの環状頭部下面に当接させて、前記コレットの駆体上部に周設したスプリングとで構成されているため、
前記すり割溝から楔状突起部が離れた状態では、切削工具の外径より大きく広げられたすり割溝の元に戻ろうとする収縮力が挿入された切削工具に作用し、さらに前記スプリングの伸張力によってコレットが上方に押し上げられるので、コレット外周のテーパ部と、回転筒内のテーパ部とが嵌合し、コレットの外周を内側に押圧する力が作用するので、
前記コレット自身の収縮力と回転筒からの押圧力と相まって、前記切削工具を強力、確実に把持できる。
このように、本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置は、簡単な構造でありながら、二つの把持機構が含まれており、それらが同時に作用するので、治療中の振動等によって、切削工具がスリップしたり脱落したりするおそれがなくなる。
【0009】
〈2〉また、前記すり割溝に楔状突起部を嵌入させると、コレットの下部の内径が切削工具の外径より大きく広げられた状態となるので、切削工具は容易に着脱でき、コレットの
内壁が切削工具の外周に食い込んで取り外しが困難となる事態を防止できる。
〈3〉本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置をヘッド部内に装着したハンドピース
では、施術者が前記ヘッド部の上面に設けられた頭蓋を指で押し込めば、前記コレットが押し下げられ、前記ガイド筒の楔状突起部がコレットのすり割溝に嵌入するように構成されているので、施術者は治具等を使用することなく小さい力で容易に切削工具を歯科用ハンドピースのヘッド部に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】歯科用ハンドピースの外観斜視図
【図2】チャック装置の分解組立て外観斜視図
【図3(a)】チャック装置内部の部分拡大縦断面図であり、切削工具着脱時の状態を示す
【図3(b)】チャック装置内部の部分拡大縦断面図であり、切削工具を把持した時の状態を示す
【図4】頭蓋を押して切削工具を装着可能とした状態を示す縦断面図
【図5】切削工具を把持した状態を示す縦断面図
【符号の説明】
【0011】
1:歯科用ハンドピースのヘッド部
2:ヘッド部ケース
3:回転筒
3a:上端面
3b:テーパ部
5:コレット
5a:テーパ部
5b:駆体上部
5c: すり割溝
5d: コレット内下部
5e: 環状頭部
5f:工具の上端当接部
7:頭蓋
7a:頭蓋下部突起
13:切削工具
17:スプリング
18:ガイド筒
18a:楔状突起部
20:回転翼
21:ベアリング
22:把持部
24:頭蓋用スプリング
A:頭蓋の押圧方向
B:切削工具の挿入方向
C:頭蓋の押圧を離す方向
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明を実施するための最良の形態を図に基づいて以下に説明する。
図1は歯科用ハンドピースの外観斜視図である。
図は、加圧空気により回転翼を介して切削工具を高速回転させる、エアータービンハンドピースを備えた歯科用ハンドピースである。
図において、1はハンドピースのヘッド部、2はヘッド部ケース、13は切削工具、22は把持部を示す。
本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置は、上記図1の ハンドピースのヘッド部1のヘッド部ケース2内に装着され、歯牙の切削治療に使用する切削工具13を着脱可能にする装置である。
【0013】
図2はチャック装置の分解組立て外観斜視図である。
図において、3は回転筒、3aは上端面、3bはテーパ部、5はコレット、5aはテーパ部、5bは駆体上部、5cはすり割溝、5eは環状頭部、17はスプリング、18はガイド筒、18aは楔状突起部を示す。
図示するように、前記歯科用ハンドピースのヘッド部1に回転自在に軸支され、その中央部付近の内径が下方に向かって漸増するテーパ部3bを有する回転筒3と、
前記回転筒3内に摺動可能に挿入され、装着する切削工具13の外径より小さい内径の駆体の下部が下方に向かって広がる末広がりのテーパー部5aを有し、また駆体側面に下端から切り込まれた複数のすり割溝5cを有し、さらに上端側方に突出して周設された環状頭部5eを有し、前記切削工具13を前記駆体の内壁で把持するコレット5と、
前記回転筒3内の下部内壁に嵌入固着され、前記コレット5の複数のすり割溝5cに嵌入させてコレット下部の内径を広げ、切削工具13の着脱を可能にする楔状突起部18aを、円筒の上端に前記複数のすり割溝5cと同数突設して備えたガイド筒18と、
上下端部を前記回転筒3の上端面3aとコレット5の環状頭部5e下面に当接させて、前記コレット5の駆体上部5bに周設したスプリング17とで構成されている。
なお、コレット5はその外周下部のテーパ部5aが回転筒3内壁のテーパ部3bと向き合う形で回転等筒3内に摺動可能に挿入され、ガイド筒18は前記回転筒3の下部内壁に固着されている。
【0014】
図3(a)、(b)はチャック装置内部の部分拡大縦断面図である。
図において、5dはコレット内下部、5fは工具の上端当接部を示す。
図3(a)は、切削工具着脱時の状態を示す。
図は、後述(図4)するように、ヘッド部1の頭蓋7を押し下げることによって、前記切削工具13外径より小さいコレット5下部の内径を、コレット5の側面に設けたすり割溝5Cにガイド筒18の上端に突設された楔状突起部18aを嵌入することによって拡げ、前記切削工具13の着脱を可能にした状態を示している。
【0015】
図3(b)は、切削工具を把持した時の状態を示す。
上記図3(a)の状態において、後述(図4)するように、切削工具13を工具の上端当接部5f迄挿入した後、前記頭蓋7の押圧を離すと、前記コレット5の駆体上部5bに周設したスプリング17が伸張してコレットを押上げ、
楔状突起部18aのすり割溝5cへの嵌合を緩めるので、拡げられていたすり割溝5cが元に戻ることでコレット5下部の内径が縮減され、切削工具13はコレットの内壁に安全確実に把持され、また、コレット5が回転筒3の内壁に沿って上方に摺動し、向き合う形で配設された回転筒3の内壁中央部のテーパ部3bと、コレット駆体下部のテーパ部5aとが強く嵌合されるので、回転筒3の回転が確実に切削工具13に伝達されることになる。
【0016】
次に、本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置を装着した歯科用ハンドピースのヘッド部1の操作方法について説明する。
図4は頭蓋を押して切削工具を装着可能とした状態を示す縦断面である。
図において、7は頭蓋、7aは頭蓋下部突起、20は回転翼、21はベアリング、24は頭蓋用スプリング、Aは頭蓋の押圧方向、Bは切削工具の挿入方向を示す。
図4では、歯科用ハンドピースのヘッド部ケース2内に、前記チャック装置が2個のベアリング21により回転自在に軸支されており、回転筒3の外周に回転翼20が固定されている。
また、ヘッド部ケース2の上部には、前記切削工具13を着脱する際に施術者が押し下げる頭蓋7が配設されている。
そして、施術者が頭蓋7を前記Aの方向に指で押し下げると、前記頭蓋用スプリング24及びスプリング17が縮小するとともに、頭蓋下部突起7aが環状頭部5eに当接してコレット5を押し下げ、コレット下部のすり割溝5cにガイド筒18の楔状突起部18aが嵌入し、前記すり割溝5cが拡がってコレット5の内径が切削工具13の外径より大きくなり、前記切削工具13がBの方向に挿入可能な状態になる。
なお、前記楔状突起部18aの先端は鋭角に作られているため、小さな力で楔状突起部
18aをコレット5のすり割溝5cに嵌入させることができ、コレット下部の内径を容易に拡げることができる。
【0017】
図5は切削工具を把持した状態を示す縦断面図である。
図において、Cは頭蓋の押圧を離す方向である。
図の様に、切削工具13を、コレット5の下部より前記(図3)工具の上端当接部5f迄挿入した後、前記押さえていた指を前記頭蓋7から離すと、まず前記頭蓋用スプリング24の伸張力により、頭蓋7は持ち上げられ、コレット5から離れるとともに、
前記コレット5は、縮小していたスプリング17の伸長力により上方に引き上げられる。
すると、すり割溝5cへの楔状突起部18aの嵌入が少なくなり弛むため、コレット5の弾性により下部の内径が小さくなり、前記切削工具13をその内壁で把持することになる。
さらに、前記図3に示したように、回転筒3内壁内のテーパ部3bとコレット外周のテーパ部5aが接触しながらコレット5が引き上げられるため、コレット5の内径をさらに縮めて、切削工具13をより強固に把持することになる。
本発明の歯科用ハンドピースのチャック装置は、上記のように簡単な機構でありながら、二つの把持機構が含まれており、それが同時に作用することによって、切削工具13を強力かつ、確実に把持できるものとなっている。
【0018】
装着した切削工具13を取り外す場合は、施術者は前記頭蓋7を指で押し、前記図4に示した状態にすればよい。この状態では、前記楔状突起部18aが前記すり割溝5cに嵌入し、強制的にコレット5の内径を広げるので、仮にコレット5の内側が切削工具13の外周に食い込む等していたとしても、前記切削工具13は容易に取り外すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具(13)を回転させる歯科用ハンドピースのヘッド部(1)に、前記切削工具(13)を着脱自在に装着するチヤック装置であって、
前記歯科用ハンドピースのヘッド部(1)に回転自在に軸支され、その中央部付近の内径が下方に向かって漸増するテーパ部(3b)を有した回転筒(3)と、
前記回転筒(3)内に摺動可能に挿入され、装着する切削工具(13)の外径より小さい内径の駆体の下部が下方に向かって広がる末広がりのテーパ部(5a)を有し、また駆体側面に下端から切り込まれた複数のすり割溝(5c)を有し、さらに上端側方に突出して周設された環状頭部(5e)を有し、前記切削工具(13)を前記駆体の内壁で把持するコレット(5)と、
前記回転筒(3)内の下部内壁に嵌入固着され、前記コレット(5)の複数のすり割溝(5c)に嵌入させてコレット下部の内径を広げ、切削工具(13)の着脱を可能にする楔状突起部(18a)を、円筒の上端に前記複数のすり割溝(5c)と同数突設して備えたガイド筒(18)と、
上下端部を前記回転筒(3)の上端面(3a)とコレット(5)の環状頭部(5e)下面に当接させて、前記コレット(5)の駆体上部(5b)に周設したスプリング(17)とで構成され、
前記切削工具(13)の外径より小さい内径のコレット(5)の下部を、その側面に設けたすり割溝(5c)に、ガイド筒(18)に備えた楔状突起部(18a)を嵌入することによって広げて前記切削工具(13)を装着可能にし、装着後は前記スプリング(17)がコレット(5)を引き上げ、回転筒(3)の内壁中央部のテーパ部(3b)とコレット(5)下部のテーパ部(5a)との嵌合によって前記切削工具(13)を安全確実に装着できるように構成してなることを特徴とする歯科用ハンドピースのチャック装置。


【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−220635(P2010−220635A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67778(P2009−67778)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(390011121)株式会社モリタ東京製作所 (28)
【Fターム(参考)】