説明

歯科用修復材料

【課題】 α−ジケトン/芳香族アミン化合物/脂肪族アミン化合物/トリハロメチル基置換s−トリアジン化合物系のような、芳香族アミン化合物及びs−トリアジン化合物系を含む光重合開始剤を用いた歯科用修復材料の太陽光安定性(耐変色性)を良好なものとする。
【解決手段】 (A)ラジカル重合性単量体、(B)トリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物と(B2)芳香族アミン化合物とをその成分として含む光重合開始剤、及び(C)紫外線吸収剤を含んでなる光重合性の歯科用修復材料において、該(C)紫外線吸収剤として、2−(4,6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(i−オクチル)オキシ〕−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤を用いる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤に比べるとその変色量は1/2程度となり、審美性が長く保たれる歯科用修復材料とできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性単量体、光重合開始剤及び紫外線吸収剤を配合した光重合性歯科用修復材料に関する。さらに詳しくは、太陽光に長期間曝露しても硬化体の変色が少ない光重合性歯科用修復材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により欠損を生じた歯質の修復において、該欠損が小さい場合には、一般に充填用コンポジットレジンと呼ばれる、主に(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体(以下、ラジカル重合性単量体のことをモノマーとも称す)と金属酸化物等の無機フィラーとを主成分とする修復材料のペーストを該欠損部に充填、歯牙の形状を付与した後に重合、硬化させる手法が主流である。
【0003】
歯科分野における上記重合開始方法としては、光重合と化学重合に大別される。特に光重合開始剤を用いた光重合型の修復材料は、光を遮断しておけば重合反応が進むことはほとんどないため、全ての成分を1ペーストの状態で製造、保管しておくことができる。従って、化学重合型のもので必要な使用時の混合・練和が必要なく、また可使時間が長いなどの利点を有する。そのため、近年では光重合型の修復材料が主流である。
【0004】
歯科治療分野においては、生体への為害性のために紫外線領域に活性を有する光重合開始剤の使用は困難であり、そのため可視光域に活性を有する光重合開始剤が主に使用されている。該光重合開始剤としては、α−ジケトンやアシルホスフィンオキサイド等の光を吸収しそれ自身が分解して重合活性種を生成する化合物や、さらにこれに第3級アミン化合物などの適当な増感剤を組み合わせた系が広く検討され、使用されている。
【0005】
上記したような治療手法においては、光重合型の充填用コンポジットレジンを修復すべき歯牙の窩洞に充填して歯牙の形に成形した後に、専用の光照射器を用いて活性光を照射して重合硬化させて歯の修復が行われている(以下、このような重合硬化させるために照射する光を「活性光」と呼ぶことがある)。一般に、このような活性光は、360〜500nm程度の波長域(α−ジケトン化合物の主たる吸収域である)における光強度が100〜1500mW/cm程度の出力の光源を用い、0〜10mm程度の距離から照射される。
【0006】
前記充填用コンポジットレジンは、患者の口腔内に充填した後、光照射を行って重合、硬化させる。そのため、重合のための活性光の照射時間を長く取ると、操作に時間がかかるだけではなく、患者にも多大な負担を強いるという問題があり、活性光の照射時間(硬化時間)の短縮が要望されている。
【0007】
硬化時間を短縮するための手法の一つとして、光重合開始剤の配合量、特にα−ジケトンの配合量を多くすることがある。しかし、α−ジケトンの配合量を多くすると、環境光、即ち、作業者がペーストの形状やペーストの重合により得られる硬化体の色調を視認するため、口腔内を照らすデンタルライトあるいは蛍光灯のような室内灯などの白色光(視認性等を考慮して500〜10000ルクス程度に調整されており、光源にもよるが、α−ジケトン化合物の主たる吸収域である360〜500nmにおける環境光の光強度は1mW/cm以下であり、前記活性光の数%にも満たない)に対する感受性も高くなってしまい、充填や築盛等の操作をしている間に複合修復材料(ペースト)の粘度が上昇してしまい、操作が困難になってしまうという問題があった。
【0008】
α−ジケトンの配合量を増加させずに、あるいはα−ジケトンを用いずに硬化時間を短くする、即ち活性光の照射時間が短くても優れた重合活性を示し、歯科用複合修復材料の光重合開始剤としても用いるできるものとして、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、α−ジケトン等の増感剤及び芳香族第3級アミン等の電子供与体を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
歯科分野以外においても重合活性に優れた光重合開始剤の要求は大きく、そのような技術としては、例えば平版印刷版作成用感光材料に配合する重合開始剤として、特定構造の増感色素、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、及びアミン化合物を用いる技術(例えば、特許文献2〜5参照)や、カラーフィルター製造用の感光性樹脂組成物に配合する光重合開始剤として、アセトフェノン系化合物、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、及びアミン化合物を用いる技術(例えば、特許文献6参照)が提案されている。
【0010】
また本発明者等は、上記、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、増感剤及び電子供与体からなる光重合開始剤の重合活性、環境光に対する安定性及び保存安定性を向上させたものとして、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、α−ジケトン、芳香族アミン及び脂肪族アミンからなる光重合開始剤を既に提案している(特願2004−068373)。
【0011】
【特許文献1】特開平02−229802号公報
【特許文献2】特開平09−302012号公報
【特許文献3】特開平10−101719号公報
【特許文献4】特開2003−206307号公報
【特許文献5】特開2003−301009号公報
【特許文献6】特開2003−156842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら本発明者等のさらなる検討によって、上記重合開始剤を配合した修復材料には以下のような欠点があることがわかった。即ち、歯科用の修復材料においては、良好な審美性を得るために、修復後に周囲の歯質と同じ色調を有していることは重要である。ところが、上記のような光重合開始剤を配合した修復材料の硬化体は、太陽光等の紫外光に暴露された時に比較的短時間で大きく着色(変色)してしまう。硬化体が変色すると、修復時にあわせた色調からずれてしまうため、初期の審美性が失われてしまい、歯科用修復材料として必要な要求を満たすことができない。例えば、JIS T 6514では、硬化体を太陽光に10時間暴露しても、その変色が肉眼で容易に検出できないことを要求している。
【0013】
従って、本発明は、活性光の照射時間が短くても優れた重合活性を示し、かつ、硬化体を太陽光に長時間さらしても、審美性に影響を与えるほどの変色のない(太陽光安定性に優れる)硬化体を与える歯科用修復材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。そして、前記トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物、α−ジケトン等の増感剤及び芳香族第3級アミン化合物(及び脂肪族アミン化合物)からなる光重合開始剤において、如何なる成分が太陽光安定性に影響を与えるかにつき検討した結果、トリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物及び芳香族第3級アミン化合物が共存する場合にのみ、変色が起こることを見出した。そして、該変色を抑制する方法につき種々検討を重ねた結果、特定の紫外線吸収剤を用いた場合にのみ、良好な結果を得られることを見出し、その結果本発明を完成した。
【0015】
即ち本発明は、(A)ラジカル重合性単量体、(B)光重合開始剤及び(C)紫外線吸収剤を含んでなる歯科用修復材料において、該(B)光重合開始剤が、(B1)トリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物と(B2)芳香族アミン化合物とをその成分として含み、かつ、(C)紫外線吸収剤がトリアジン系紫外線吸収剤であることを特徴とする光重合性歯科用修復材料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光重合性歯科用修復材料は、重合開始剤の成分として重合活性に優れるが紫外線の影響により変色しやすいトリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物及び芳香族アミン化合物を用いていながらも、太陽光等の紫外光に対して安定であり、紫外光に暴露しても硬化体の着色が少ない。このため初期の審美性が低下しにくい優れた歯科用修復物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光重合性歯科用修復材料(以下、単に本発明の歯科用修復材料)は、(A)ラジカル重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)トリアジン系紫外線吸収剤からなり、(B)光重合開始剤として、(B1)トリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物、(B2)芳香族アミン化合物を含むものである。また、(B)光重合開始剤としてさらに(B3)α−ジケトン化合物、(B4)脂肪族アミン化合物を含んでいることも好ましい。以下、これら各成分について説明する。
【0018】
本発明の歯科用修復材料に用いられる第一の成分は(A)ラジカル重合性単量体である。ラジカル重合性単量体としては、酸性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸残基等)を有さない(メタ)アクリレート系の重合性単量体が、硬化速度や硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性等の観点から好適に用いられ、特に、複数の重合性官能基を有する、多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体が好ましい。当該多官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できるが、水に対する溶解度が5質量%以下の非水溶性の化合物が好ましい。一般に好適に使用されるものを例示すれば、下記(I)〜(III)に示されるものが挙げられる。
【0019】
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(以下、bis−GMAと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D−2.6Eと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0020】
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル等。
【0021】
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等。
【0022】
これら多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0023】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。歯科用修復材料としての良好な硬化体物性(機械的強度、非溶出性など)を得るためには、これら多官能の(メタ)アクリレート系単量体以外の単量体の配合量は、全ラジカル重合性単量体中に30質量%以下、好ましくは10質量%以下より好ましくは5質量%以下とするのがよい。
【0024】
本発明の歯科用修復材料の第二の成分は、(B)光重合開始剤であり、該光重合開始剤は、(B1)トリハロメチル基により置換されたs−トリアジン化合物(以下、単にトリアジン化合物とも称す)及び(B2)芳香族アミン化合物をその成分として含む。
【0025】
このような(B1)成分及び(B2)成分を含む光重合開始剤としては、α−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤、α−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物/脂肪族アミン化合物からなる光重合開始剤、アセトフェノン系化合物/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤、各種増感色素/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤などが挙げられる。
【0026】
これらのなかでも、歯科用修復材料としての色調に優れたものとでき、また環境光のもとでは比較的安定で操作性に優れ、かつ、活性光の照射によって速やかに重合を開始する優れた重合開始剤である点で、α−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤、又はα−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物/脂肪族アミン化合物からなる光重合開始剤が好ましく、より重合活性に優れる点で、α−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物/脂肪族アミン化合物からなる光重合開始剤であることが特に好ましい。
【0027】
本発明における(B1)トリアジン化合物としては、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロメチル基を少なくとも一つ有するs−トリアジン化合物であれば公知の化合物が何ら制限なく使用できる。特に好ましいトリアジン化合物を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子は、塩素、臭素及びヨウ素の何れでもよいが、塩素が一般的であり、従って、トリアジン環に結合した置換基(CX)としては、トリクロロメチル基が一般的である。
【0030】
上記R及びRはそれぞれ独立にトリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、アルキル基及びアルコキシ基の何れでもよい。R及びRの少なくとも一方が、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基である場合、本発明の歯科用複合修復材料の保存安定性を特に優れたものとできる。他方、R及びRの少なくとも一方が、ハロゲン置換アルキル基である方がより良好な重合活性を得られやすく、共にハロゲン置換アルキル基であると特に重合活性が良好である。
【0031】
トリアジン環と共役可能な不飽和結合により結合した有機基としては、公知の如何なる有機基でもよいが、好ましくは炭素数2〜30、特に炭素数2〜14の有機基である。このような有機基を具体的に例示すると、フェニル基、メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基、ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基等の炭素数6〜14のアリール基;ビニル基、2−フェニルエテニル基、2−(置換フェニル)エテニル基等の炭素数2〜14のアルケニル基等が例示される。なお、上記置換フェニル基の有する置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の炭素数1〜6のアルキルチオ基;フェニル基;ハロゲン原子等が例示される。
【0032】
また、R及びRにおけるアルキル基及びアルコキシ基は、置換基を有するものであってもよく、このようなアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基;トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、α,α,β−トリクロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。さらに、アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の非置換のアルコキシ基;2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ基、2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ基等のアミノ基により置換されたアルコキシ基等が例示される。
【0033】
上記のような一般式(2)で表されるトリハロメチル基置換s−トリアジン化合物を具体的に例示すると、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
【0034】
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。
【0035】
これらトリアジン化合物は、必要に応じて1種で、あるいは2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本発明における(B2)芳香族アミン化合物は、窒素原子に結合した有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基であるアミン化合物であればよく、公知のものが特に制限なく使用できるが、より重合活性が高く、保存安定性に優れ、また揮発性が低いため臭気が少なく、さらには入手が容易な点で、窒素原子に一つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合したアミン化合物(以下、第3級芳香族アミン化合物とも称す)であることが好ましい。代表的な第3級芳香族アミン化合物としては下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
(式中、R及びRは各々独立にアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアルキルオキシカルボニル基である。また、nは0〜5の整数を表す。nが2以上の場合は、複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。さらにR同士が結合して環を形成していてもよい。)
上記R、R及びRにおけるアルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。また、このアルキル基は、当然のことながら置換基を有している置換アルキル基であってもよく、このような置換アルキル基としては、フロロメチル基、2−フロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを例示することができる。
【0039】
また、上記のRにおけるアリール基、アルケニル基、アルコキシ基及びアルキルオキシカルボニル基の何れも置換基を有するものであってよい。アリール基としては、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものを挙げることができる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものを挙げることができる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が例示され、アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものが例示される。
【0040】
上記一般式(1)で示される芳香族第3級アミンにおいて、基R及びRとしては、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基)、あるいは2−ヒドロキシエチル基がより好適である。
【0041】
また、n=1の場合は、基Rの結合位置がパラ位であることが好ましく、なかでも該Rがアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。一方、基Rが2〜3個結合している場合には、その結合位置はオルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。特に、複数の基Rがオルト位及びパラ位に結合していることによって、硬化体の太陽光安定性(耐変色性)がさらに良好となる。
【0042】
上記一般式(1)で示される第3級芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、Rがパラ位に結合したアルキルオキシカルボニル基である化合物として、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が例示される。また他の芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6−トリメチルアニリン等が挙げられる。
【0043】
これら芳香族アミンは、必要に応じて1種で、あるいは2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の歯科用修復材料の光重合開始剤成分として使用可能な(B3)α−ジケトン化合物としては公知の化合物が何ら制限なく使用できる。該α−ジケトン化合物を具体的に例示すると、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。
【0045】
使用するα−ジケトン化合物は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を混合して使用することもできるが、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましい。
【0046】
本発明の歯科用修復材料に配合する光重合開始剤としては、上記トリアジン化合物、芳香族アミン化合物及びα−ジケトンからなる光重合開始剤でも良いが、さらに(B4)脂肪族アミン化合物を併用するとさらに良好な重合活性を得ることができる。また、脂肪族アミン化合物を配合することにより、芳香族アミン化合物の配合量を少なくすることもでき、これによりさらに太陽光安定性を向上させることもできる。
【0047】
該脂肪族アミン化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用でき、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物及び第3級アミン化合物を挙げることが出来るが、重合活性及び保存安定性に優れ、また歯科用としての臭気等の問題を考慮すると、第3級アミン化合物が好ましい。なお、当該脂肪族アミン化合物とは、窒素原子に結合している有機基が、すべて脂肪族基(但し、置換基を有していても良い)である化合物である。
【0048】
このような窒素原子に結合している脂肪族基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等の直鎖状または分枝状の炭素数1〜8のアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基等が挙げられる。また、脂肪族基に結合している置換基としては、水酸基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;アセチルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等のアシルオキシ基;等の電子吸引性基が例示される。
【0049】
このような脂肪族アミン化合物を具体的に例示すると、2−エチルヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の脂肪族第1級アミン化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン等の脂肪族第2級アミン化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等の第3級アミン化合物であり、好ましくは、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のラジカル重合性官能基を有する第3級アミン化合物である。
【0050】
上記光重合開始剤を構成する各成分の配合量は特に制限されるものではなく、重合活性等を考慮して適宜決定すればよい。一般的には、本発明の歯科用修復材料に配合される重合性単量体の合計(但し、光重合開始剤成分であって重合性基を有するものを除く。以下、同じ)を100質量部とした場合に、トリアジン化合物は0.005〜10質量部、より好ましくは0.03〜5質量部程度、芳香族アミン化合物は0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜3質量部程度であり、α−ジケトンは0.01〜10質量部、より好ましくは0.03〜5質量部である。また脂肪族アミン化合物を配合する場合には、芳香族アミン化合物:脂肪族アミン化合物の質量比が3:97〜97:3、より好ましくは10:90乃至75:25、特に20:80〜60:40の範囲とし、また両アミン化合物の合計量が、0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜3質量部程度とすることが好ましい。
【0051】
特に好ましくは、光重合開始剤の量、即ち、光重合開始剤の成分として配合される全成分の合計量を、重合性単量体100質量部に対して0.01〜20質量部、さらには0.05〜10質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部の範囲とする。
【0052】
本発明における最大の特徴は、上記(B1)トリアジン化合物と(B2)芳香族アミン化合物を含む系において、(C)紫外線吸収剤としてトリアジン系紫外線吸収剤を用いることにある。
【0053】
トリアジン系以外の紫外線吸収剤、例えば、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系などの紫外線吸収剤が知られているが、これらは、重合性単量体に溶解しなかったり、あるいは溶解しても(B1)トリアジン化合物と(B2)芳香族アミン化合物を含む系においては、充分な変色(着色)防止効果を得ることができなかったりする。
【0054】
該トリアジン系紫外線吸収剤は、一般に紫外線吸収剤として知られており、太陽光などの紫外線により歯科用修復材料の硬化体が変色するのを防止するために用いられている。当該トリアジン系紫外線吸収剤は、トリアジン構造の炭素原子に結合した芳香環の1位の位置にヒドロキシル基が結合していればよく、公知のものが特に制限なく使用できる。
【0055】
代表的なトリアジン系紫外線吸収剤としては下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0056】
【化3】

【0057】
(式中、Rはアルキル基又はアルコキシ基、Rは水素原子、アルキル基又はアルコキシ基であり、R、R、R10、R11は水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子である。)
上記R、R、R、R、R10及びR11おけるアルキル基及びアルコキシ基は、置換基を有しているものでもよく、このようなアルキル基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、アミル基、オクチル基等の非置換のアルキル基;クロロメチル基、2−クロロエチル基等のハロゲンにより置換されたアルキル基;ジメチルベンジル基等のアリール基により置換されたアルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基により置換されたアルキル基等の炭素数1〜12のものが挙げられる。さらに、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の非置換のアルコキシ基;2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ基、2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ基等のアミノ基により置換されたアルコキシ基等の炭素数1〜12のものが例示される。
【0058】
、R、R10及びR11におけるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素が挙げられる
上記R及びRとしては水素原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1〜16の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0059】
、R、R10及びR11としては、水素原子またはハロゲン原子であることが好ましく、ハロゲン原子としては塩素原子であることがより好ましい。
【0060】
以下、トリアジン系紫外線吸収剤を具体的に例示すると、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−1−ヒドロキシフェニル、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(メチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(エチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(プロピル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(i−プロピル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(ヘキシル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(オクチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−トリル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(メチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−トリル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(エチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−トリル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(プロピル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−トリル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(ヘキシル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−トリル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(オクチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−エチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(メチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−エチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(エチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−エチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(プロピル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−エチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(ヘキシル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−エチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(オクチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−クロロフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(ヘキシル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(i−オクチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2−メチル−4−クロロフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(i−オクチル)オキシ〕−フェノール、2−(4,6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5(2−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘキサデシルオキシ)、2−(4−4−メチルフェニル−6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5(2−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘキサデシルオキシ)、2−(4,6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5(2−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘプタデシルオキシ)等が挙げられる。
【0061】
これらトリアジン系紫外線吸収剤は、1種または2種以上を混合して用いても構わない。該トリアジン系紫外線吸収剤の配合量は本発明の効果を得られる範囲であれば特に限定されることはないが、多すぎると硬化体の強度や色調に影響を与える場合があるので、一般的には重合性単量体100質量部に対して0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.02〜5質量部である。
【0062】
また本発明の歯科用修復材料には、必要に応じてトリアジン系以外の紫外線吸収剤を配合してもよい。
【0063】
本発明の歯科用修復材料には、上記各成分のほか、歯科用修復材料の配合成分として公知の他の配合成分を配合してもよい。
【0064】
本発明の歯科用修復材料には、高い機械的強度が得られ、重合収縮や熱膨張を低減できる点で充填材(フィラー)、好ましくは無機充填材や有機−無機充填材、特に無機充填材を配合することが好ましい。
【0065】
該無機充填材としては、歯科用修復材料の充填材として公知の無機充填材が何ら制限なく用いられるが、代表的な無機充填材を例示すれば、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の金属酸化物類が挙げられる。また必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用の無機充填材として公知のカチオン溶出性の無機充填材を配合しても良い。これらは一種または二種以上を混合して用いても何ら差し支えない。
【0066】
また、これら無機充填材に重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合充填材を用いても良い。
【0067】
これら充填材の粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm〜100μm(特に好ましくは0.01〜5μm)の平均粒径の充填材が目的に応じて適宜使用できる。また、該充填材の屈折率も特に制限されず、一般的な歯科用の無機充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用でき、目的に合わせて適宜設定すればよい。粒径範囲や平均粒径、屈折率、材質の異なる複数の無機充填材を併用しても良い。
【0068】
さらに、上記フィラーの中でもとりわけ球状の無機充填材を用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた歯科用修復材料となり得る。
【0069】
上記無機充填材は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0070】
これらの充填材の割合は、使用目的に応じて、重合性単量体と混合したときの粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には重合性単量体100質量部に対して50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部の範囲で用いられる。
【0071】
また、歯牙の色調に合わせるために顔料、蛍光顔料、染料を添加してもよいし、その他、歯科用コンポジットレジンの成分として公知の添加剤を、本発明の効果に影響のない範囲で配合しても良い。
【0072】
さらにまた、本発明の歯科用修復材料には本発明の効果を損なわない範囲で、トリアジン化合物及び芳香族アミン化合物をその成分としない他の公知の重合開始剤を配合しても良い。当該他の重合開始剤成分としては、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類;酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)等の+IV価又は+V価のバナジウム化合物類;テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム、ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム等のアリールボレート化合物類;3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、7−ヒドロキシ−4−メチル−クマリン等のクマリン系色素類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンソイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体類等が挙げられる。但し、高い環境光安定性を得るためには、アリールボレート化合物類及び有機過酸化物はできる限り少量にした方が良い。また、クマリン系色素類等の色素類は、重合開始剤として作用するほどの量を配合すると、光重合性組成物の色調に大きな影響を与え、高い審美性を要求される歯科用コンポジットレジンにおいては、歯と異なる色調となってしまう傾向がある。
【0073】
本発明の歯科用修復材料はすべての配合成分が事前に混合ペースト化された1ペースト型のものでも、2つのペーストに分けて製造、保管、供給され、使用直前に両ペーストを混合して用いる2ペースト型、あるいは他の形態のいずれでもよいが、使用時の混合操作が不要なため操作性に優れ、また安定した物性のものとして供給することが容易な点で、1ペースト型のものであることが好ましい。
【0074】
このような1ペースト型の歯科用修復材料を製造する方法は特に限定されず、公知の1ペースト型の光重合型歯科用修復材料の製造方法に従えばよい。一般的には、遮光下、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混練し、必要に応じて混練時に混入した気泡の脱泡を行えばよい。得られた組成物のペーストは、遮光容器に小分けされその状態で、歯科医院や歯科技工所へ供給される。また2ペースト型の場合など他の形態を採用する場合も同様である。
【0075】
本発明の歯科用修復材料の使用方法は、公知の光重合型歯科用修復材料の使用方法となんら変わるところはないが、前記したようなα−ジケトン/トリアジン化合物/芳香族アミン化合物(及び脂肪族アミン化合物)系の重合開始剤を採用した場合には、環境光程度の弱い光に対しては安定性が高いため、より操作性に優れる(可使時間が長い)という利点がある。具体的には、使用時に適量を容器から取り出し、修復が必要な窩洞に充填、付形後に、歯科用可視光照射器を用いて可視光照射を行い硬化させればよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称(かっこ内)を以下に示す。
(1)略称・略号
(A)ラジカル重合性単量体
・2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン:エトキシ基部分の繰り返し平均数が2.6である混合物(D2.6E)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(3G)
・1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン(UDMA)
(B1)トリハロメチル基により置換されたs−トリアジン化合物
・2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(TCT)
・2−フェニル−4,6−ビス−(トリクロロメチル)−s−トリアジン(PBCT)
(B2)芳香族アミン化合物
・N,N−ジメチルp−トルイジン(DMPT)
・N,N−ジメチルp−安息香酸エチル(DMBE)
(B3)α−ジケトン
・カンファーキノン(CQ)
(B4)脂肪族アミン化合物
・トリエタノールアミン(TEOA)
・N−メチルジエタノールアミン(MDEOA)
(C)紫外線吸収剤
トリアジン系紫外線吸収剤
・2−(4,6−ジ−2,4−ジメチルフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5〔(i−オクチル)オキシ〕−フェノール(HFT)
その他の紫外線吸収剤
・2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(BP)
(E)無機充填材
・球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm(E−1)
・球状シリカ−チタニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm(E−2)
(F)その他の成分(重合禁止剤)
・ハイドロキノンモノメチルエーテル(HQME)
また、光硬化性コンポジットレジンの調製方法、硬化特性(環境光安定性、硬化時間)及び硬化体の機械的強度の測定は以下の方法を用いた。
【0077】
(1)歯科用修復材料の調製方法
所定の量比で重合性単量体を混合しておき、赤色光下で、これに対して所定量の光重合開始剤及び充填材を加え、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢中でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡して所定の組成を有する歯科用修復材料のペーストを得た。
【0078】
(2)硬化体の硬度(ヴィッカース硬度)
6mmφ×1.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドに歯科用修復材料のペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(LUX・O・MAX、アケダデンタル社製;光出力密度137mW/cm)をポリプロピレンフィルムに密着して10秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を微小硬度計(松沢精機製MHT−1型)にてヴィッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより求めた。
【0079】
(3)環境光安定性試験
歯科用修復材料ペーストの表面が10000ルックスになるように光源と試料との距離を設定しておいた。光源には15W蛍光灯(松下電器製、商品名パルック)を用い、試料表面の照度は、照度計(デジタルルックスメーターFLX−1330、東京硝子器械製)を用いて測定した。作製した本発明の歯科用修復材料をポリプロピレンフィルムに0.03g量り採り、上記蛍光灯の光を所定時間時間照射した後、試料を押しつぶし、試料内部が固まり始めた時間を計測した。なお、照射時間は5秒間隔とした。この時間が長いほど環境光安定性に優れ、良好な操作余裕時間を得ることができる。
【0080】
(4)色調変化
直径15mmの貫通孔を開けた厚さ1mmのポリアセタール製型に歯科用修復材料のペーストを填入し、ポリプロピレンフィルムで圧接して、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社製;光出力密度700mW/cm)で本発明の歯科用修復材料全体に光があたるように5箇所を各10秒づつ光照射した。試験片の半分をアルミ箔で覆い、直射日光に延べ10時間曝露した。アルミ箔で覆った部分(未露光部)と直射日光に曝露した部分(露光部)の色調を、色差計(東京電色社製:TC−1800MKII)を用いて測定し、その差をΔEで表した。
【0081】
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L1−L2
Δa=a1−a2
Δb=b1−b2
なお、L1:未露光部の明度指数、a1,b1:未露光部の色質指数、L2:露光部の明度指数、a2,b2:露光部の色質指数、ΔE:色調変化量である。
【0082】
(5)溶解量
直径15±1mmの貫通孔を開けた厚さ1±0.1mmのポリアセタール製型に歯科用修復材料のペーストを填入し、ポリプロピレンフィルムを用いて圧接した後にスライドグラスで挟み込み、クリップで気泡が入らないように圧接して、トクソーパワーライトで上面をレジン全体に光があたるように5ヶ所を各々10秒間づつ光照射し、硬化体を得た。その後、得られた硬化体を37±2℃に保ったデシケータ中に保存した。なお、デシケータには130℃で5時間乾燥させたシリカゲルを入れておいた。
【0083】
24時間後にデシケータ中から硬化体を取り出し、これを24±2℃に保ったデシケータに1時間いれ、0.2mgの精度で秤量した。硬化体の質量減が0.2mgより大きい場合は再度、24±2℃に保ったデシケータ中に保存し、24時間後に再び秤量を行なった。この操作は硬化体の質量変化が0.2mgより小さくなるまで繰り返し、恒量となったときの質量をmとした。
【0084】
恒量になった硬化体を37±2℃に保った蒸留水中に7日間浸漬した。浸漬終了後、硬化体を水中から取り出し、硬化体を前述の方法でデシケータ中に保存した。上記と同様に、硬化体の質量減が0.2mgより少なくなるまで測定を繰り返し、恒量となったときの質量をmとした。
【0085】
上記の方法で硬化体の質量m及びmが得られた後に、硬化体の中心部1ヶ所と円周部を4等分した点の4ヶ所との計5ヶ所の厚さをマイクロメータで測定し、平均値を硬化体の厚さとした。この硬化体厚さと直径から硬化体の体積を算出した。
【0086】
下記に示した式により硬化体の吸水量及び溶解量を求めた。
【0087】
W=(m−m)/v
W:溶解量(μg/mm
v:硬化体の体積(mm
:水に浸す前の硬化体の質量(μg)
:水に浸した後再び乾燥した硬化体の質量(μg)
(6)表面未重合量
直径7mmの貫通孔を開けた厚さ1.5mmのポリアセタール製型に歯科用修復材料のペーストを填入し、上面を空気に暴露した状態で、トクソーパワーライトで10秒間光照射した。照射完了後、硬化体を型から取りだしその重量を秤量した。その後、硬化体をエタノールに浸漬して3分間超音波洗浄を行い、乾燥後、再び秤量を行って単位面積あたりの重量減少量を表面未重合量(μg/mm)とした。
【0088】
実施例1〜8、比較例1〜7
D2.6E(70質量部)、3G(20質量部)、UDMA(10質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、無機充填材E−1を140質量部、E−2を60質量部、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び光重合開始剤としてα−ジケトンを0.2質量部、芳香族アミンを0.35質量部、脂肪族アミンを0.35質量部及びトリアジン化合物を0.20質量部、さらに紫外線吸収剤として0.40〜2.00質量部のHFT又はBPを配合して歯科用修復材料のペーストを調製した。
【0089】
得られた歯科用修復材料の各種物性を測定した結果を表1に併せて示す。また、トリアジン化合物としてTCT、脂肪族アミンとしてMDEOAを用いた場合(実施例3〜6、比較例3〜6)の表面未重合量と色調変化量との関係を図1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
上記表1及び図1から理解されるように、紫外線吸収剤の配合量を増やすほど太陽光安定性は向上する(色調変化量は少なくなる)が、同時に表面未重合量が増加してしまう。しかしながら、トリアジン系の紫外線吸収剤を用いれば、表面未重合量の増大は、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を採用した場合に比べて遥かに少ない。
【0092】
比較例8〜11
光重合開始剤として表2に示すように芳香族アミン化合物又はトリアジン化合物を配合しない組成のものを用い、紫外線吸収剤として0.40質量部のHFTを用いて、実施例1と同様にして歯科用修復材料のペーストを調製した。得られた歯科用修復材料の各種物性を測定した結果を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
上記表2に結果を示したように、芳香族アミン化合物又はトリアジン化合物を配合しなければ色調変化は極めて少ない。しかしながら、このような光重合開始剤では硬化体の硬度が大幅に低いものしか得られない。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】トリアジン系紫外線吸収剤を用いた場合と、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いた場合の、歯科用修復材料の硬化体の表面未重合量と色調変化との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラジカル重合性単量体、(B)光重合開始剤及び(C)紫外線吸収剤を含んでなる歯科用修復材料において、該(B)光重合開始剤が、(B1)トリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物と(B2)芳香族アミン化合物とをその成分として含み、かつ、(C)紫外線吸収剤がトリアジン系紫外線吸収剤であることを特徴とする光重合性歯科用修復材料。
【請求項2】
さらに、(B3)α−ジケトンを光重合開始剤成分として含む請求項1記載の光重合性歯科用修復材料。
【請求項3】
さらに、(B4)脂肪族アミン化合物を光重合開始剤成分として含む請求項1または請求項2記載の光重合性歯科用修復材料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の光重合性歯科用修復材料を硬化させてなる歯科用修復材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−117543(P2006−117543A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304029(P2004−304029)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】