説明

歯科用補綴物の製作方法、歯科用補綴物の製作システム、歯科用補綴物、及び歯科用補綴物製作装置

【課題】 歯の治療にあたり、自然の歯の質感に近い優れた品質の歯科用補綴物を容易に製作することを可能とする。
【解決手段】 歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測して、これらの形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、これを三次元印刷装置に入力して三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の材料を築盛し、焼成する。また、治療前に撮影して得られた歯の色彩データと、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、三次元印刷装置により、この三次元印刷データにもとづき歯科用補綴物の材料を敷くとともに、当該データにもとづき選択された着色剤を塗布して、歯科用補綴物の材料を色付けしつつ築盛する。また、印刷材料として予め着色された歯科用補綴物の材料を使用し、後に築盛するもの程色が薄く透明度の高いものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の治療に用いる歯科用補綴物の製作に関し、特に三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物の材料を築盛して歯科用補綴物を製作する方法、歯科用補綴物の製作システム、歯科用補綴物、及び歯科用補綴物製作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯の治療において、オールセラミックスクラウンを築盛法により製作する場合は、一般に次のような手順で行われていた。
(1)患者の歯の治療にあたり、支台歯を形成する。
(2)患者の歯型の印象を採取し、その印象に石膏材を流して、歯列模型を製作する。
(3)歯を分割できる歯列模型を製作する。
(4)上下の模型を合わせて噛み合わせを確認する。
【0003】
(5)咬合器に固定した状態で、歯列模型上の支台歯と対合歯との空間に、元の歯の形状に戻るように、セラミックス材やワックス材を支台歯の上に盛り上げて、歯モデルを形成する。
(6)このようにして形成した歯モデルは、炉で焼成して焼き固めることで、オールセラミックスクラウンとして使用することができるようになる。
一方、ワックス材を用いて製作した歯モデルは、鋳型材によって型取りした後、熱を加えてワックス原型を溶かし出し、ワックスが流れ出た鋳型内に、溶解したセラミックスを流し込んで固めることで、オールセラミックスクラウンとして使用することができるようになる。
【0004】
(7)このように焼成又は鋳造により得られたオールセラミックスクラウンに、個々の患者の歯に合うように手作業で色付けを行い、炉に入れて焼成する。
(8)さらに、色付け作業終了後、表面につや出しコーティングを行い、再び炉に入れて焼成することで、オールセラミックスクラウンが完成する。
【0005】
このように、従来の歯科用補綴物の製作方法では、セラミックスなどの素材を、元の歯の形状が再生されるように支台歯の上に手作業で盛り上げることで、歯モデルが形成されている。
しかし、この方法では、素材を盛り上げて形づくる元の歯の形状は、ある程度推測によらなければならず、治療前の歯を正確に再現することは極めて困難であった。
また、歯科技工士の力量の違いにより、完成する歯科用補綴物の品質に差が生じ、安定した品質の歯科用補綴物が得られにくいという問題もあった。
【0006】
一方、患者の多くは、自分の歯が元の状態によみがえることを希望しているため、できるだけ元の歯の形態に近い歯科用補綴物を製作できれば大変好ましい。
このような問題の解決に関連する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載のCAD/CAMシステムを用いた歯科用補綴物の作製方法などがある。
【0007】
この歯科用補綴物の作製方法では、歯科用補綴物を設計するにあたり、CAD/CAMシステムを用いて、治療に際して計測された歯の形状情報と、予め保存しておいた患者の健康時の歯の形状情報を三次元グラフィック表示することで、歯科用補綴物を健康時の形状と同一に設計し、これにもとづいて歯科用補綴物を自動的に作製し、患者の元の歯を再生可能としている。
この方法によれば、人手によらず、健康時の形状と同一の形状の歯科用補綴物を自動的に作製することができ、患者の歯を元の形状に近い状態によみがえらせることが可能になっている。
【0008】
しかしながら、このCAD/CAMシステムを用いる方法は、ブロック材料を切削・研削加工することで歯科用補綴物を作製するものであり、築盛法により歯科用補綴物を作製するものではない。
このため、築盛法により歯科用補綴物を作製する場合に行えるような、細やかな調整などは行うことができない。
例えば、築盛法によれば、色の異なる複数のセラミックス材を適宜築盛することでより自然な歯の色を再現することができるが、CAD/CAMシステムを用いる方法では、単色のブロック材料を切削・研削加工するため、このようなことを行うことはできない。
【0009】
一方、近年、三次元印刷装置に関する技術の発展により、立体的形状を三次元印刷することが可能になってきている。
三次元印刷装置とは、三次元のオブジェクトを造型するための印刷装置(造形装置)である。印刷方式には、様々なものがあり、例えばアクリル系光硬化樹脂を使用したインクジェット紫外線硬化方式のもの、ABS樹脂を使用した熱溶解積層方式のもの、パウダーを使用した粉末固着方式のものなどを挙げることができる。
このような三次元印刷装置を用いれば、あらゆる立体的形状を出力することができ、三次元設計データに基づいて、様々な立体物を製作することが可能となっている。
【0010】
特許文献2には、このような三次元印刷装置を用いた歯の模型の製造方法が記載されている。
すなわち、特許文献2には、歯の模型を、インクジェット印刷、立体平板印刷、溶融析出模型製造(FDM)などの三次元印刷により製造することが記載されている。
また、そのインクジェット印刷において、予め加熱したワックス、プラスチック、又は光ポリマー樹脂を液状で三次元印刷装置にセットして、部品上で固化させることが記載されている。
さらに、電圧を印加してセラミックス層を導電性領域上に析出させる技術についても記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2002−224143号公報
【特許文献2】特開2006−163370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の三次元印刷装置を用いた歯の模型の製造方法では、セラミックス材をインクジェット印刷の材料として適切に用いることはできなかった。
また、セラミックス層を析出させる技術については記載されているが、この方法では、歯科用補綴物の形状を適切に再現することは困難であった。
【0013】
一方、三次元印刷装置により、歯科用補綴物を製作するためには、単にその形状の立体物を再生するだけでは十分ではない。
すなわち、治療において実用可能なものとするためには、歯科用補綴物としての強度や安全性が必須であり、印刷材料として、例えばセラミックス材などの歯科用補綴物の材料を使用することが必要である。
【0014】
また、これに加えて、歯科用補綴物に、その患者の歯に適した色を出力することも必要である。
しかし、これらの従来の技術では、セラミックス材などの粉体を用いて、元の歯に近い形状や、自然の歯に近い色彩を備えた歯科用補綴物を適切に製作することはできなかった。
【0015】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成するとともに、この三次元形状データと治療前の歯の色彩データにもとづいて、歯科用補綴物を築盛するための三次元印刷データを作成し、三次元印刷装置を用いて、セラミックスなどの材料を適切に築盛する歯科用補綴物の製作方法、歯科用補綴物の製作システム、歯科用補綴物、及び歯科用補綴物製作装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作方法であって、歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測して、得られた形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に入力して、当該三次元印刷装置により三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する方法としてある。
【0017】
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、歯の治療前のときと、歯の治療時の歯の形状データを用いて歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、これにもとづき三次元印刷装置を用いて、築盛法により歯科用補綴物を製作することができる。
このため、手作業の築盛法で行い得るような歯科用補綴物の材料の細やかな調整を行えるとともに、手作業の場合では得られない安定した品質の歯科用補綴物を容易に製造することが可能となる。
【0018】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、三次元印刷装置により歯科用補綴物の材料を築盛した後、得られた歯科用補綴物を焼成する方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、築盛により得られた歯科用補綴物を焼き固めることで、適切な強度を備えた歯科用補綴物を得ることが可能となる。
【0019】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、治療前に撮影して得られた歯の色彩データと、三次元形状データにもとづき歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを三次元印刷装置に入力して、三次元印刷装置により、三次元印刷データにもとづき歯科用補綴物の材料を敷くとともに、三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、歯科用補綴物の材料を色付けしつつ築盛する方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、歯科用補綴物の色彩を適切に調整することができ、CAD/CAMシステムによる歯科用補綴物の製作方法では実現できなかった色彩の微調整を行うことも可能となる。
【0020】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、治療前に撮影して得られた歯の色彩データと、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを三次元印刷装置に入力して、三次元印刷装置により、印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を三次元印刷データにもとづき選択して築盛する方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、例えば予め色付けされた印刷材料を、三次元印刷装置により出力することで、歯科用補綴物の色彩を調節することが可能となる。
【0021】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、三次元印刷装置により、透明度が異なる二以上の印刷材料を、順次層状に築盛する方法としてある。
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、三次元印刷装置により、印刷材料を層状に築盛するにあたり、三次元印刷データにもとづいて、後に築盛する印刷材料として、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを用いる方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、自然な歯の質感をよりリアルに再現した歯科用補綴物を容易に製作することが可能となる。
【0022】
なお、このとき歯科用補綴物は、鉛直方向に対してやや斜めに倒した状態で出力されるように印刷することが好ましい。
歯科用補綴物の材料の層を斜めに形成する方が、層を水平に形成する場合よりも筋が目立たず、より良い品質の歯科用補綴物を製作することができるためである。なお、その傾斜角度は、第一実施形態において後述するように、自由に設定することが可能である。
【0023】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、歯科用補綴物の材料が、少なくともセラミックス、レジン、もしくはジルコニアのいずれか、又は少なくともセラミックス、レジン、もしくはジルコニアのいずれかを含む複合物である方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、セラミックスは勿論、レジンやジルコニアを印刷材料として用いた場合にも、優れた品質の歯科用補綴物を製作することが可能となる。
【0024】
また、本発明の歯科用補綴物の製作方法は、歯科用補綴物の材料として歯科用セラミックス粉末を使用する方法としてある。
歯科用補綴物の製作方法をこのような方法にすれば、例えば現在手作業による築盛法で使用されている歯科用セラミックス粉末を印刷材料として三次元印刷(3D印刷)を行うことができる。
このため、従来と同じ材料を用いて、より安定した品質の歯科用補綴物を簡易に製造することが可能となる。
【0025】
また、本発明の歯科用補綴物は、上記のいずれかの歯科用補綴物の製作方法により製作されたものとしてある。
このように、三次元印刷装置を用いて歯科用補綴物を製作することにより、CAD/CAMシステムを用いた場合に比較して、より品質の高いオールセラミックスクラウンなどを製作することが可能となる。
【0026】
また、本発明の歯科用補綴物の製作システムは、三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作システムであって、歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測する形状計測装置と、歯の治療前の歯の色彩データを取得する色彩認識装置と、形状計測装置により計測して得られたそれぞれの時点の歯の形状データを入力して、これらの形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に出力する情報処理装置と、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する三次元印刷装置とを有し、情報処理装置が、治療前の歯の色彩データを色彩認識装置から入力して、この色彩データと、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを三次元印刷装置に出力し、三次元印刷装置が、三次元印刷データにもとづき歯科用補綴物の材料を敷くとともに、三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、歯科用補綴物の材料を色付けしつつ築盛する構成としてある。
【0027】
また、本発明の歯科用補綴物の製作システムは、三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作システムであって、歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測する形状計測装置と、歯の治療前の歯の色彩データを取得する色彩認識装置と、形状計測装置により計測して得られたそれぞれの時点の歯の形状データを入力して、これらの形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に出力する情報処理装置と、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する三次元印刷装置とを有し、情報処理装置が、治療前の歯の色彩データを色彩認識装置から入力して、この色彩データと、三次元設計データにもとづき歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを三次元印刷装置に出力し、三次元印刷装置が、印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を三次元印刷データにもとづき選択して築盛する構成としてある。
【0028】
また、本発明の歯科用補綴物の製作システムは、三次元印刷装置が、透明度が異なる二以上の印刷材料を、三次元印刷データにもとづいて、後に築盛する印刷材料として、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを用いて、順次層状に築盛する構成としてある。
【0029】
また、本発明の歯科用補綴物製作装置は、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物製作装置であって、歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状データにもとづき作成された歯科用補綴物の三次元設計データと、治療前に撮影して得られた歯の色彩データとにもとづき歯科用補綴物の色彩が決定されて作成された三次元印刷データを入力し、三次元印刷データにもとづき歯科用補綴物の材料を敷くとともに、三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて色付けしつつ築盛し、又は、印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を三次元印刷データにもとづき選択して築盛する構成としてある。
【0030】
歯科用補綴物システム、歯科用補綴物製作装置をこれらのような構成にすれば、歯の治療前のとき、歯の治療時の歯の形状データを用いて歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、これにもとづき三次元印刷装置を用いて、築盛法により歯科用補綴物を製作することができる。
このため、手作業の築盛法で行い得るような歯科用補綴物の材料の細やかな調整を行えるとともに、手作業の場合では得られない安定した品質の歯科用補綴物を容易に製造することが可能となる。
【0031】
また、本発明の歯科用補綴物製作装置は、三次元印刷データにもとづいて、歯科用補綴物を上方から見た平面における印刷対象領域にのみ印刷材料を敷き、印刷材料と硬化剤とを層状に交互に塗布して、歯科用補綴物を築盛する構成としてある。
歯科用補綴物製作装置をこのような構成にすれば、印刷テーブル上に敷く印刷材料の量が減るため、印刷材料の残量が印刷テーブル全体に敷くことができないほど少ない場合でも、印刷対象物のサイズが小さい場合には、その印刷を行うことができ、より柔軟な印刷を実現することが可能となる。
【0032】
また、本発明の歯科用補綴物製作装置は、硬化剤を塗布するたびに硬化剤が塗布されなかった領域における余分な印刷材料を回収する構成としてある。
歯科用補綴物製作装置をこのような構成にすれば、セラミックス粉末をその種類ごとに回収することができ、印刷材料をより効率的に使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、三次元印刷装置を用いて、築盛法により歯科用補綴物を製作することができる。
このため、従来のCAD/CAMシステムによる製作方法では実現できなかった、歯科用補綴物の材料や色彩の微調整を行うことができる。
よって、自然な歯の質感をよりリアルに再現した歯科用補綴物を容易に製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第一実施形態の歯科用補綴物の製作システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第一実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける三次元設計データの作成手順の概要を表す図である。
【図3】本発明の第一実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す拡大図である。
【図5】本発明の第一実施形態の歯科用補綴物の製作システムによる歯科用補綴物の製作手順を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す図である。
【図7】本発明の第三実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態の構成について、図1を参照して説明する。同図は、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムは、三次元形状計測装置10、色彩認識装置20、情報処理装置30、三次元印刷装置40、及び炉50を有している。
【0036】
[三次元形状計測装置10]
本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける三次元形状計測装置10は、歯科用補綴物の三次元の形状データを取得する装置である。
三次元形状計測装置10は、天然歯の印象を用いて作成された歯列模型(作業模型、歯牙模型とも呼ばれる。)などの形状をスキャンし、得られた形状データを情報処理装置30に出力する。
この三次元形状計測装置10としては、メディア株式会社のDECSY(登録商標)における非接触レーザー方式による形状自動計測システムなどを好適に用いることができる。
【0037】
本実施形態における歯科用補綴物には、クラウン、インレー、アンレー、部分被覆冠、全部被覆冠、根面板、マグネット用コーピング、コーピング、ポストクラウン、ブリッジ、接着性ブリッジ、テレスコープクラウン、インプラントの上部構造物、ポーセレンラミネートベニアクラウンなどが含まれる。
【0038】
本実施形態における歯列模型としては、歯の治療前のときに歯の印象を採取して、その印象に石膏材を流して得られる歯列模型や、歯を治療するに際して支台歯を形成して印象を採取して、その印象に石膏材を流して得られる歯列模型等を用いることができる。
また、歯列模型の形状をスキャンするのではなく、治療前のときの歯や歯の治療時に形成された支台歯を、直接スキャンすることで、その形状データを取得しても良い。なお、「支台歯」は、天然歯からなるもののみならず、例えばインプラントや、インプラントに上部構造物を形成したものなど人工的な支台歯を含むものとして用いている。
【0039】
[色彩認識装置20]
本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける色彩認識装置20は、歯科用補綴物に着色する色彩を決定するための元データとなる色彩データを取得する装置である。
色彩認識装置20は、予め治療前の歯を直接撮影し、得られたカラー画像データを色彩データとして情報処理装置30に出力する。
この色彩認識装置20としては、特に限定されるものではなく、従来公知の一般的な色彩認識装置20を用いることが可能である。
【0040】
例えば、コニカミノルタセンシング株式会社の三次元スキャナー VIVID9i、独BREUCKMANN社のoptoTOP−HE、ローランドディー.ジー社のLPX−1200などを用いることが可能である。
このような三次元スキャナーは、三次元形状計測装置10と色彩認識装置20の機能を併せ持ち、歯の三次元形状データを取得することができるのみならず、歯の色彩データを取得することもできる。
【0041】
[情報処理装置30]
本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける情報処理装置30は、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置である。
この情報処理装置30は、三次元形状計測装置10から歯の形状データを入力して三次元設計データを作成するとともに、色彩認識装置20から歯の色彩データを入力して歯科用補綴物の色彩を決定する。
そして、三次元形状データと色彩データにもとづき三次元印刷データを作成して、これを三次元印刷装置40に出力する。
【0042】
情報処理装置30は、図1に示すように、データ入力手段31、記憶手段32、三次元形状設計手段33、表示手段34、顎運動計算手段35、色彩決定手段36、及び印刷データ送信手段37を備えている。
【0043】
データ入力手段11は、三次元形状計測装置10から歯の形状データを入力するとともに、色彩認識装置20から歯の色彩データを入力して、記憶手段32に記憶させる。
以下、歯の形状データと歯の色彩データを合わせて、歯の形態データと称する場合がある。
【0044】
歯の形状データとしては、例えば、印象材を用いて上下顎から全顎印象を採取し、この印象に石膏材を流して歯列模型を製作し、この歯列模型を三次元形状計測装置10により計測することで、得ることができる。また、この三次元形状計測装置10により、全顎の歯の形状データのみならず、1本ずつの歯の形状データを取得することもできる。
歯の色彩データは、色彩認識装置20により、歯を直接撮影することで、得ることができる。この色彩認識装置20により、全顎の歯の色彩データや1本ずつの歯の色彩データを取得することもできる。
【0045】
歯の形状データの入力タイミングとしては、歯の治療前のとき、及び歯の治療時とすることが好ましい。なお、歯科用補綴物の作成においては歯自体のみならず、歯肉の位置も影響する。歯肉の位置は世代によって異なり、永久歯が生えそろう10代前半と顎の成長が止まる20代以降では異なる。また、歯周病に罹患後治癒した場合や高齢者になった場合には、歯肉の位置が変化する。したがって、「歯の治療前のとき」としては、治療前の健康な歯肉の状態のときであって、かつ歯が健康であるときとすることが好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
また、歯の治療時としては、特に支台歯を形成した直後とすることが好ましい。歯の形状データをこのようなタイミングで入力すれば、支台歯に適合する歯科用補綴物を好適に製作することができる。
【0046】
そして、これらの入力タイミングで得られたそれぞれの形状データを重ね合わせて用いることにより、後述する三次元形状設計手段33により、健康時の歯を再生するために適切な歯科用補綴物を設計することが可能となる。
また、歯の色彩データの入力タイミングは、歯の治療前であれば良く、歯が健康であるときとすることが好ましい。
【0047】
歯の形状データ及び歯の色彩データは、それぞれ三次元形状計測装置10、色彩認識装置20により別個に取得することができる他、上述したような色彩も同時に取り込み可能な三次元スキャナーなどを用いて、三次元形状データとその色彩データを同時に読み取って、情報処理装置30に入力することも可能である。
【0048】
記憶手段32は、データ入力手段11により情報処理装置30に入力された治療前のときと治療時の歯の形状データ、及び治療前の歯の色彩データを、患者の識別情報ごとに記憶する。
【0049】
三次元形状設計手段33は、記憶手段32に記憶された治療前のとき及び治療時の歯の形状データを用いて歯科用補綴物を設計し、歯科用補綴物の三次元設計データを作成する。
図2は、この三次元設計データの作成手順の概要を表す図である。
まず、歯の治療前のときに、各歯の形状データを取得し、これを情報処理装置30に記憶させておく。
【0050】
次に、歯の治療時に、治療対象の歯の支台歯を形成した後に、その支台歯の形状データを取得し、これを情報処理装置30に記憶させる。
これらの形状データの取得において、まず歯の印象を採取し、その印象に石膏材を流して歯列模型を製作し、この歯列模型の形状を三次元形状計測装置10で読み取ることで取得することができる。また、口腔内において、歯の形状を直接三次元形状計測装置10により読み取るようにしてもかまわない。
【0051】
また、三次元設計データの作成方法としては、具体的には、例えば、以下のような手順で行うことができる。
まず、三次元形状設計手段33は、記憶手段32に形状データとして記憶されている治療時の全顎形状データ又は歯の形状データを用いて、情報処理装置30における表示手段34に上下顎模型等を表示する。
【0052】
次に、情報処理装置30における顎運動計算手段35と連携して、最新の噛み合わせ位置や顎運動データを算出する。
そして、三次元形状設計手段33は、このようにして表示手段34に表示された模型支台歯上に、記憶手段32に記憶されている治療前の全顎形状データ、歯の形状データを重ね合わせる。
【0053】
このとき、治療前の歯の形状データ等と治療時の歯の形状データ等とは、噛み合わせによる摩耗や歯の移動によって、一般的には一部位置や形状が変化しているが、顎運動計算手段35により算出された最新の噛み合わせ位置や顎運動データを用いて、これらの形状データ等の重ね合わせ位置を調整することにより、一番患者に適した形状の歯科用補綴物を設計することが可能となっている。
三次元形状設計手段33は、このようにして歯科用補綴物の三次元設計データを作成すると、これを色彩決定手段36に出力する。
【0054】
このような三次元形状設計手段33としては、例えばメディア株式会社のDECSY(登録商標)における三次元形状設計システムなどを好適に用いることができる。
なお、歯科用補綴物の材料によっては、焼成工程において収縮するものがある。したがって、このような収縮する造形材料を使用して歯科用補綴物を製作する場合には、その造形材料の焼成による収縮率を考慮して、三次元形状設計手段33により歯科用補綴物の三次元形状を設計することが好ましい。
【0055】
表示手段34は、情報処理装置30におけるディスプレイなどの表示装置であり、情報処理装置30と一体に構成されていても、外部接続されていてもかまわない。
顎運動計算手段35は、治療前の歯の形状データ等と治療時の歯の形状データ等にもとづき、最新の噛み合わせ位置等を算出し、形状データ等の重ね合わせ位置を調整するシステムである。この顎運動計算手段35としては、メディア株式会社のDECSY(登録商標)における顎運動計測システムなどを好適に用いることができる。
【0056】
色彩決定手段36は、入力した歯科用補綴物の三次元設計データと、歯の治療前の歯の色彩データにもとづいて、歯科用補綴物に印刷するための色彩を決定する。そして、三次元設計データと、決定された色彩の色彩データを含む三次元印刷データを作成する。
このとき、色彩決定手段36は、三次元設計データの位置情報に色彩データを対応付けて三次元印刷データを作成することができる。
【0057】
色彩の決定方法としては、特に限定されないが、例えば歯が健康であるときと歯の治療直前の色彩データにおける様々な中間色を選択可能に表示手段34に表示し、利用者により選択された色を歯科用補綴物に印刷するための色彩として決定することができる。
【0058】
また、歯の治療前の全顎色彩データにおける、治療対象の歯の隣接歯の色彩の色彩値の平均や、治療対象の歯及びその隣接歯の色彩の色彩値の平均を算出し、その平均の色彩値に対応する色彩を、歯科用補綴物に印刷するための色彩として決定することもできる。
【0059】
さらに、色彩も同時に取り込み可能な三次元スキャナーなどを用いて、形状データと色彩データが情報処理装置30に同時に取り込まれた場合は、治療前の色彩データを、形状データに対応付けて歯科用補綴物に印刷するための色彩として決定することなども可能である。
この場合、色彩データは、形状データの座標情報に対応して多数の色で表現することができ、治療前の歯をよりリアルに再現することが可能である。
【0060】
なお、三次元印刷データにおける色彩を多数色で構成する方法としては、色彩も同時に取り込み可能な三次元スキャナーなどを用いる場合に限定されるものではなく、形状データと色彩データを別個に情報処理装置30に取り込む場合においても、行うことが可能である。
【0061】
次に、色彩決定手段36は、三次元印刷データにもとづいて、使用する印刷材料と、その使用タイミングを決定する。
印刷材料としては、予め着色された一種類又は二種類以上のセラミックス粉末などの造形材料を用いることができる。
また、印刷材料として、未着色や単色のセラミックス粉末などの造形材料と、顔料などの着色剤を用いることもできる。これらの場合、使用タイミングには、造形材料の塗布のタイミングと顔料の塗布のタイミングが含まれる。
【0062】
印刷材料の使用タイミングは、三次元印刷データにおける色彩にもとづいて、所定の領域ごとにその色彩に近い色彩の印刷材料を選択することなどにより、決定することができる。
また、色彩決定手段36は、透明度が互いに異なる複数の印刷材料を、順次層状に築盛するように、その使用タイミングを決定することができる。
【0063】
また、色彩決定手段36に、三次元印刷データを三次元空間において、鉛直方向に対してやや斜めに倒した状態に回転移動して、印刷材料とその使用タイミングを決定させることが好ましい。
このようにすることで、印刷材料を敷く際に生じる層の筋が歯科用補綴物において斜めに形成されるため、層が口腔内で水平に形成される場合に比較して、層の筋が目立たず、より品質に優れた歯科用補綴物を製作することができる。
【0064】
なお、三次元設計データにおいて、歯科用補綴物の鉛直方向に対する回転移動を、三次元形状設計手段33により行うこともできる。また、その傾斜角度は、最適な印刷ができるように自由に設定することが可能である。これは、色彩決定手段36により、三次元印刷データにおける歯科用補綴物の鉛直方向に対する回転移動を行う場合も同様である。
【0065】
また、印刷材料を層状に築盛するにあたり、後に築盛する印刷材料として、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを決定することが好ましい。
このようにすれば、より本物に近い質感の歯科用補綴物を製作することが可能となる。
【0066】
なお、色彩決定手段36により、元の歯の色を再生するために最も適する一の印刷材料のみを用いるように、色彩を決定することも可能である。
その方法としては特に限定されないが、例えば治療対象の歯の色彩の中間色に最も近い色の印刷材料を選択したり、あるいは治療対象の歯及びこれに隣接する歯の色彩値の平均に最も近い色彩値の印刷材料を選択することなどにより行うことが可能である。
【0067】
そして、色彩決定手段36は、歯科用補綴物の三次元設計データと色彩データ、及び使用する印刷材料とその使用タイミングの情報を含む三次元印刷データを印刷データ送信手段37に出力する。
印刷データ送信手段37は、三次元印刷データを色彩決定手段36から入力すると、これを三次元印刷装置40に送信する。
【0068】
なお、色彩決定手段36における、使用する印刷材料及びその使用タイミングを決定する機能を、三次元印刷装置40に持たせ、情報処理装置30から色彩決定手段36における当該機能を省略することも可能である。
この場合、色彩決定手段36は、歯科用補綴物の三次元設計データと色彩データを含む三次元印刷データを印刷データ送信手段37に出力し、印刷データ送信手段37は、この三次元印刷データを三次元印刷装置40に送信する。
【0069】
[三次元印刷装置40]
三次元印刷装置40は、三次元印刷データを受信すると、この三次元印刷データに含まれる歯科用補綴物の三次元設計データ及び色彩データにもとづいて、この三次元印刷データで指定された印刷材料を、指定されたタイミングで交換しつつ、歯科用補綴物を製作する。
印刷材料は、歯科用補綴物の材料である造形材料と、色付けを行うためのインクなどの顔料から構成される。また、既に着色済みの造形材料を印刷材料として用いることもできる。
【0070】
この三次元印刷装置40としては、従来公知のものを用いることができ、例えばZ CORPORATION(登録商標)のZPrinter(登録商標)650や、ZPrinter450などを用いることができる。
これらの三次元印刷装置40は、印刷テーブル上に造形材料を層状に敷き詰めて、三次元印刷データにもとづき印刷対象となる部分における造形材料を硬化剤で固めるとともに必要に応じて顔料を塗布し、さらにその上に造形材料を層状に敷き詰め、これらの動作を繰り返し行うことで、立体物を印刷する。また、印刷テーブル上に余った造形材料は回収され、造形材料のカートリッジ(歯科用補綴物の材料を充填する容器)に再充填される。
【0071】
図3は、本実施形態の歯科用補綴物の製作方法における三次元印刷のようすを示す図である。同図において、まず、印刷テーブルの上にセラミックス粉末が、所定の厚さの層が形成されるようにローラなどを用いて層状に敷かれる。次に、この層における印刷対象部分に歯科用の硬化剤が塗布される。三次元印刷装置40は、これを繰り返し行うことで、歯科用補綴物を印刷する。図4は、その印刷のようすを示す拡大図である。
印刷が完了すると、印刷テーブルから余分なセラミックス粉末を除去することで、歯科用補綴物の印刷物を得ることができる。
【0072】
また、上記のようにセラミックス粉末の層における印刷対象部分に硬化剤を塗布するたびに、または所定のタイミングで印刷テーブルを振動させる振動装置を三次元印刷装置40に備えることも好ましい。このように、セラミックス粉末に硬化剤を塗布して振動を加えることで、製作する歯科用補綴物の密度を向上させ、その品質を一層高めることが可能となる。なお、印刷テーブルを振動させるたびに、ローラなどにより層の上面を平らにすることが好ましい。これにより、印刷テーブルに水平な層を適切に形成させることができる。
【0073】
造形材料としては、例えばセラミックス粉末などを用いることができる。
具体的には、歯科用セラミックス粉末を用いることが好ましく、例えばメタル用セラミックス、アルミナ用セラミックス、ジルコニア用セラミックスなどの各種歯科用陶材の粉末を用いることができる。
歯科用補綴物を製作するにあたり、複数の造形材料を使用する場合には、透明度の低いものから順次築盛していき、後に築盛するもの程透明度が高くなるようにすることが好ましい。このようにすれば、歯科用補綴物の質感をより本物らしくすることができる。
【0074】
なお、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムは、複数種類の造形材料を使用する場合に限定されるものではなく、一種類の造形材料を使用して単色の歯科用補綴物を製作できることは言うまでもない。
また、造形材料としては、そのほかにもレジンやジルコニアを素材とするものなど、歯科用補綴物の材料として適するものであれば用いることができ、セラミックス粉末に特に限定されるものではない。
【0075】
硬化剤は、口腔内で使用するにあたって、安全性の高いものであれば特に限定されないが、例えば歯科用陶材の築盛の際に利用されている練和液(ミキシングリキッド)を用いることができる。また、歯科用の接着剤を使用してもよい。
顔料は、口腔内で使用するにあたって、安全性が高く、焼成後に目的の色を示すものであれば特に限定されず、歯科用の各種着色材料を使用することができる。例えば、歯科セラミックス用着色材料などを好適に用いることが可能である。
三次元印刷装置40により、これらの造形材料、硬化剤、顔料を交互に塗布することで、歯科用補綴物を色付けしつつ築盛することができる。
【0076】
また、印刷材料として、予め着色した一又は二以上の造形材料を用いることもできる。
この場合、三次元印刷装置40は、三次元設計データと色彩データ、印刷材料及びその使用タイミングの情報にもとづき、塗布する一又は二以上の造形材料の選択を制御することで、色彩データに応じた色合いの歯科用補綴物を築盛することができる。
【0077】
また、三次元印刷装置40は、歯科用補綴物を層状に形成していくが、各層ごとに、又は各層内において、造形材料と顔料、又は予め着色された造形材料の塗布を三次元印刷データにもとづき行うことが可能である。
【0078】
三次元印刷装置40により二以上の造形材料を塗布する場合の構成としては、造形材料ごとに塗布のためのノズルを三次元印刷装置40に備えた構成とすることができる。
また、三次元印刷装置40において、三次元印刷データで指定されたタイミングで、指定された造形材料をそれぞれ充填した容器から一のノズルに搬送して、その塗布を制御する構成とすることもでき、その構成は特に限定されない。
【0079】
なお、三次元印刷装置40として、このようなパウダーを使用した粉末固着方式のものではなく、その他の方式のものを用いてもよい。例えば、レジンからなる歯科用補綴物を製作する場合、紫外線硬化方式のものや、熱溶解積層方式のものなどを使用することも可能である。
【0080】
[炉50]
炉50は、三次元印刷装置40により築盛されたセラミックスクラウンなどの歯科用補綴物を焼成する装置である。
この炉50としては、イボクラール ビバデント社のプログラマットP300などを好適に用いることが可能である。
【0081】
三次元印刷装置40によって築盛して得られた歯科用補綴物の焼成条件は、製作する歯科用補綴物の種類や造形材料、顔料などに応じて、適するものとすることができる。
例えば、三次元印刷装置40によりセラミックス粉末を材料として築盛して得られた歯科用補綴物の場合、400℃〜1000℃の温度で焼成させることができる。このとき、焼成開始温度から所定の速度で昇温させ、必要に応じて最終焼成温度で係留し、焼成させることができる。
なお、歯科用補綴物の種類や造形材料によっては、焼成を行わないものもある。
【0082】
[歯科用補綴物の製作方法]
次に、本実施形態の歯科用補綴物の製作方法について、図1及び図5を参照して説明する。図1は、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムの構成を示すブロック図であり、図5は、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムによる歯科用補綴物の製作方法を示す図である。
【0083】
まず、患者の歯の治療前のときに、三次元形状計測装置10、色彩認識装置20を使用して、予めその治療前の歯の形態データを取得し、データ入力手段31により情報処理装置30に入力して、記憶手段32に記憶させておく(ステップ10)。歯の治療前のときとしては、上述したように、歯及び歯肉が健康なときであることが好ましい。
歯の形態データとしては、上述したように、全顎形状データ、個別の歯の形状データなどの三次元形状データと、全顎色彩データ、個別の歯の色彩データなどの色彩データ等を含むものとすることができる。
【0084】
次に、患者が歯の治療に訪れたときに、その患者の治療直前又は治療時の歯の形態データを三次元形状計測装置10及び色彩認識装置20により読み取って情報処理装置30に入力し、記憶手段32に記憶させる(ステップ11)。
このとき、三次元形状データについては、治療により支台歯が作成された後の歯の形状データが読み取られる。
色彩データについては、治療直前のものを読み取って用いることができる。また、色彩データとして、歯の健康が損なわれる直前のものを用いることができれば好ましい。したがって、定期的に歯の色彩データを読み取って、予め記憶手段32に記憶させておくことが望ましい。
なお、歯の形態データとして、治療対象の歯のみについて記憶させておくことのみならず、治療対象の歯とその周辺の歯についての三次元形状データ及び色彩データを記憶させておくこともできる。これは、以下の実施形態においても同様である。
【0085】
そして、三次元形状設計手段33により、記憶手段32に記憶された治療前の歯の形状データと、治療時の歯の形状データとにもとづいて、歯科用補綴物の設計処理が行われ、歯科用補綴物の三次元設計データが作成される(ステップ12)。
次に、色彩決定手段36により、歯科用補綴物に印刷するための色彩、及び印刷材料の使用タイミング等が決定される(ステップ13)。
そして、印刷データ送信手段37により、三次元設計データ、歯科用補綴物の色彩データ、及び使用する印刷材料とその使用タイミング等の情報が三次元印刷データとして、三次元印刷装置40に送信される(ステップ14)。
【0086】
次に、三次元印刷装置40は、受信した三次元印刷データにもとづいて、歯科用補綴物の三次元印刷(3D印刷)を開始する(ステップ15)。
このとき、三次元印刷装置40は、例えば、セラミックス粉末などの造形材料と練和液、及び顔料を層状に交互に塗布することにより、歯科用補綴物を印刷する。
【0087】
また、三次元印刷装置40は、三次元設計データ、使用する印刷材料とその使用タイミング等の情報にもとづき造形材料及び練和液を塗布するとともに、歯科用補綴物の色彩データにもとづき選択された顔料を塗布する。
このとき、三次元印刷装置40は、印刷テーブル上に造形材料を一層ごとに層全体に敷き詰め、練和液を歯科用補綴物の形状に合わせて塗布し、これを繰り返すことで、目的とする立体形状を印刷することができる。
【0088】
この三次元印刷装置40による印刷材料の塗布において、上記の通り、造形材料と顔料は、それぞれ三次元印刷データに応じて適宜交換されて塗布される(ステップ16)。
これにより、三次元印刷装置40は、造形材料を色付けしつつ築盛して、歯科用補綴物を印刷することができる。
【0089】
また、三次元印刷装置40は、予め造形材料と顔料を混ぜ合わせることなどにより着色された印刷材料を用いて、歯科用補綴物を色付けしつつ築盛することもできる。
さらに、この印刷材料としては、透明度が異なる二以上のものを用いることができ、これらを順次積層することで、歯科用補綴物を築盛することができる。
【0090】
このとき、後に築盛する印刷材料は、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを用いることが好ましい。
このようにすれば、歯科用補綴物の質感をよりリアルに再現することが可能となる。
なお、歯科用補綴物の内部になるほど色が濃くかつ透明度の低い印刷材料を用い、外側になるほど色が薄くかつ透明度の高い印刷材料を用いるようにすることもまた好ましい。この場合、三次元印刷装置40は、三次元印刷データで指定されたタイミングで、指定された印刷材料をそれぞれ充填した容器からノズルに搬送し、各層内において異なる造形材料を塗布する制御を行う構成を備えたものとすることができる。
【0091】
このようにして、三次元印刷装置40による三次元印刷処理が終了して(ステップ17)、歯科用補綴物の築盛が完了すると、次にこの歯科用補綴物を炉50により焼成することで、歯科用補綴物が完成する(ステップ18)。
【0092】
以上説明したように、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムによれば、三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物の三次元印刷データにもとづきセラミックス粉末等を築盛することで、材料の種類や色彩を微調整しつつオールセラミックスクラウンなどを簡単に製作することができる。
また、先に築盛する層よりも後に築盛する層の造形材料及び顔料の濃さを薄く、かつ透明度を高くすることにより、自然の歯に近い質感の歯科用補綴物を得ることが可能である。
【0093】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図6を参照して説明する。同図は、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す図である。
本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける三次元印刷装置40は、より少ない印刷材料で印刷を行うことができる点で第一実施形態と異なる。その他の点については、第一実施形態と同様である。
【0094】
第一実施形態では、図3に示すように、歯科用補綴物の印刷が完了すると、余分なセラミックス粉末は、印刷テーブルから除去するとともに、これを造形材料のカートリッジに再充填することで、再利用することが可能であった。
ここで、第一実施形態における三次元印刷装置40では、どのような大きさや形状の歯科用補綴物についても、造形エリア全体に造形材料を層状に敷く構成となっている。
しかしながら、サイズの小さな歯科用補綴物を製作する場合、本来は造形エリア全体にセラミックス粉末を層状に敷く必要はない。
そこで、本実施形態の三次元印刷装置40は、図6に示すように、歯科用補綴物を上方から見た平面における印刷対象領域にのみ印刷材料を敷いて、三次元印刷を行う構成としてある。
【0095】
すなわち、本実施形態の三次元印刷装置40は、三次元印刷データにもとづいて、歯科用補綴物を上方から見た平面の印刷対象領域に対してのみ印刷材料を層状に敷く構成となっている。
これによって、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムによれば、印刷テーブル上に敷く印刷材料の量が減るため、印刷材料の残量が印刷テーブル全体に敷くことができないほど少ない場合でも、印刷対象物のサイズが小さい場合には、その印刷を行うことができ、より柔軟な印刷を実現することが可能となる。
【0096】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、図7を参照して説明する。同図は、本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける歯科用補綴物の印刷のようすを示す図である。
本実施形態の歯科用補綴物の製作システムにおける三次元印刷装置40は、より効率よく印刷材料を回収できる点で第一実施形態又は第二実施形態と異なる。その他の点については、第一実施形態又は第二実施形態と同様のものとすることができる。
【0097】
すなわち、第一実施形態又は第二実施形態における三次元印刷装置40では、複数種類のセラミックス粉末を用いた場合、歯科用補綴物の印刷後、余分なセラミックス粉末を回収しても、これらが混ざり合った状態となり、簡単に再利用することができない。
そこで、本実施形態の三次元印刷装置40では、図7に示すように、練和液で固定されなかったセラミックス粉末を、歯科用補綴物を一層印刷するごとに回収している。すなわち、練和液を塗布するたびに、練和液が塗布されなかった領域における余分な印刷材料を回収して、カートリッジに再充填する。
【0098】
そして、セラミックス粉末の層を新たに敷く際に、図7に示すように、上記回収された領域については、既に印刷された歯科用補綴物の上に一層分敷いた位置まで、セラミックス粉末を積層させるようにしている。
このようにすれば、セラミックス粉末をその種類ごとに回収することができ、印刷材料をより効率的に使用することが可能となる。
なお、セラミックス粉末の回収及び再充填自体は、従来既存の方法で行うことができる。また、例えば印刷テーブルをそれぞれ多数の孔を備えた上下の二層の板で構成し、これらの層の孔の位置を互いにずらすことで、印刷テーブルを孔の無い状態と、孔の有る状態に切り替え可能とすることができる。そして、印刷テーブルを孔の無い状態にして印刷を実行し、印刷テーブルを孔の有る状態にして造形材料を孔から下に落とし、これらを回収してカートリッジに再充填することができる。
【0099】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、歯科用補綴物としてクラウンのみならず、ブリッジやフレームなどを本発明の歯科用補綴物の製作システムにより製作することが可能である。
また、いずれの実施形態においても造形材料として、セラミックスのみならず、レジンやジルコニア粉末を使用するなど適宜変更することが可能である。
さらに、本発明の歯科用補綴物の製作システムにより、歯科用補綴物の形状を築盛法で再生し、色付けについては手作業で行うことも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、歯の治療にあたり、より自然な歯に近い優れた品質の歯科用補綴物を製作する場合に、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
10 三次元形状計測装置
20 色彩認識装置
30 情報処理装置
31 データ入力手段
32 記憶手段
33 三次元形状設計手段
34 表示手段
35 顎運動計算手段
36 色彩決定手段
37 印刷データ送信手段
40 三次元印刷装置
50 炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作方法であって、
歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測して、得られた形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に入力して、当該三次元印刷装置により前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する
ことを特徴とする歯科用補綴物の製作方法。
【請求項2】
前記三次元印刷装置により前記歯科用補綴物の材料を築盛した後、得られた前記歯科用補綴物を焼成することを特徴とする請求項1記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項3】
治療前に撮影して得られた歯の色彩データと、前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを前記三次元印刷装置に入力して、前記三次元印刷装置により、前記三次元印刷データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を敷くとともに、前記三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、前記歯科用補綴物の材料を色付けしつつ築盛する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項4】
治療前に撮影して得られた歯の色彩データと、前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを前記三次元印刷装置に入力して、前記三次元印刷装置により、前記印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を前記三次元印刷データにもとづき選択して築盛する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項5】
前記三次元印刷装置により、透明度が異なる二以上の前記印刷材料を、順次層状に築盛する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項6】
前記三次元印刷装置により、前記印刷材料を層状に築盛するにあたり、前記三次元印刷データにもとづいて、後に築盛する印刷材料として、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを用いる
ことを特徴とする請求項5記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項7】
前記歯科用補綴物の材料が、少なくともセラミックス、レジン、もくしはジルコニアのいずれか、又は少なくともセラミックス、レジン、もくしはジルコニアのいずれかを含む複合物である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項8】
前記歯科用補綴物の材料が、歯科用セラミックス粉末であることを特徴とする請求項7記載の歯科用補綴物の製作方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用補綴物の製作方法により製作された歯科用補綴物。
【請求項10】
三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作システムであって、
歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測する形状計測装置と、
歯の治療前の歯の色彩データを取得する色彩認識装置と、
前記形状計測装置により計測して得られたそれぞれの時点の歯の形状データを入力して、これらの形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に出力する情報処理装置と、
前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する前記三次元印刷装置と、を有し、
前記情報処理装置が、前記治療前の歯の色彩データを前記色彩認識装置から入力して、この色彩データと、前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを前記三次元印刷装置に出力し、
前記三次元印刷装置が、前記三次元印刷データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を敷くとともに、前記三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、前記歯科用補綴物の材料を色付けしつつ築盛する
ことを特徴とする歯科用補綴物の製作システム。
【請求項11】
三次元印刷装置を用いて、歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物の製作システムであって、
歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状を計測する形状計測装置と、
歯の治療前の歯の色彩データを取得する色彩認識装置と、
前記形状計測装置により計測して得られたそれぞれの時点の歯の形状データを入力して、これらの形状データにもとづき歯科用補綴物の三次元設計データを作成し、この三次元設計データを三次元印刷装置に出力する情報処理装置と、
前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて築盛する前記三次元印刷装置と、を有し、
前記情報処理装置が、前記治療前の歯の色彩データを前記色彩認識装置から入力して、この色彩データと、前記三次元設計データにもとづき前記歯科用補綴物の色彩を決定して三次元印刷データを作成し、この三次元印刷データを前記三次元印刷装置に出力し、
前記三次元印刷装置が、前記印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を前記三次元印刷データにもとづき選択して築盛する
ことを特徴とする歯科用補綴物の製作システム。
【請求項12】
前記三次元印刷装置が、透明度が異なる二以上の前記印刷材料を、前記三次元印刷データにもとづいて、後に築盛する印刷材料として、先に築盛する印刷材料よりも色が薄く、かつ透明度が高いものを用いて、順次層状に築盛する
ことを特徴とする請求項11記載の歯科用補綴物の製作システム。
【請求項13】
歯科用補綴物を築盛法により製作する歯科用補綴物製作装置であって、
歯の治療前のとき、及び歯の治療時の歯の形状データにもとづき作成された歯科用補綴物の三次元設計データと、治療前に撮影して得られた歯の色彩データとにもとづき前記歯科用補綴物の色彩が決定されて作成された三次元印刷データを入力し、
前記三次元印刷データにもとづき前記歯科用補綴物の材料を敷くとともに、前記三次元印刷データにもとづき選択された着色剤を塗布して、前記歯科用補綴物の材料を印刷材料として用いて色付けしつつ築盛し、又は、印刷材料として予め着色された一又は二以上の歯科用補綴物の材料を前記三次元印刷データにもとづき選択して築盛する
ことを特徴とする歯科用補綴物製作装置。
【請求項14】
請求項13記載の歯科用補綴物製作装置が、
前記三次元印刷データにもとづいて、歯科用補綴物を上方から見た平面における印刷対象領域にのみ前記印刷材料を敷き、前記印刷材料と硬化剤とを層状に交互に塗布して、前記歯科用補綴物を築盛する
ことを特徴とする歯科用補綴物製作装置。
【請求項15】
請求項13又は14記載の歯科用補綴物製作装置が、
前記硬化剤を塗布するたびに、前記硬化剤が塗布されなかった領域における余分な印刷材料を回収する
ことを特徴とする歯科用補綴物製作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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