説明

歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置

【課題】歯車の高度な品質を実現するべく、研削工具に対する該歯車の位相のズレ量を正確に判断するために、仕上げ加工の実施前と実行後とにおける、それぞれの歯間隙部の中心線の位置を正確に把握することが可能な、歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置を提供する。
【解決手段】歯面100bの仕上げ加工が施された歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の歯車100の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定方法であって、歯車100の歯底100cは、前記仕上げ加工によって加工されることなく加工前の形状を維持しており、前記位相のズレ量は、前記仕上げ加工の完了後に、歯車100上の隣接する二つの歯部100a・100aの間隙部について把握される、互いに対向する歯面100b・100b間の中心線である中心線C2の位置と、歯底101bの中心線である中心線C3の位置と、のズレ量によって計測される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面の仕上げ加工が施された歯車に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯車を有する機械設備や装置においては、省エネルギー化の要望が高まっており、これにともない、該歯車についても動力伝達率や耐久性に関するさらなる向上が求められ、該歯車は益々高度な品質が要求されている。
ここで、歯車の高度な品質を実現するためには、該歯車の仕上げ加工を施す研削工具に対して、歯車の位相を正確に合せることが重要な要件となる。
【0003】
即ち、図9は歯車の製造工程の流れを示した工程図であるが、本図に示すように、歯車の製造工程は、主に丸棒状の素材に対して歯切りを行う荒削り加工工程110と、該荒削り加工工程110の完了後、歯切りされた素材に熱処理を施す熱処理工程120と、該熱処理工程120の完了後、歯面を研削して該歯面に仕上げ加工を施す仕上げ加工工程130とを有して構成される。
また、図10は仕上げ加工工程130における、歯車100の加工状態を示した拡大図であるが、本図に示すように、歯車100はネジ状に形成される研削工具200によって、歯面100bの仕上げ加工が施される。
具体的には、歯車100の近傍において、研削工具200は、軸心方向が歯車100の軸心方向と直交するようにして配設される。また、研削工具200は、本体軸の外周面上に螺旋状の砥石部200aが形成され、該砥石部200aが、荒削り加工工程110によって歯切りされた歯車100の歯部100aと、互いに噛合するようにして配設される。
そして、研削工具200が軸心を中心にして回転することで(図10に示す矢印Cの方向)、歯車100は軸心を中心にして回転されつつ(図10に示す矢印Dの方向)、砥石部200aによって歯面100bを研削されるのである。
【0004】
よって、研削工具200に対する歯車100の軸心回りの位相にズレが生じると、例えば、該歯車100上に隣接する歯部100a・100aにおいて、各対向側の歯面100b・100bの仕上げ加工による取代(図4(b)を参照)が均一にならない。
その結果、例えば一つの歯部100aについては、一方の歯面100bについては取代が多くなって、該歯面100bの表面部に施された熱処理の効果が殆ど失われ、他方の歯面100bについては、取代が少なく黒皮(酸化被膜)が十分に除去されないなどの現象が生じ、歯車100の高度な品質を実現するのは困難となる。
このようなことから、歯車100の高度な品質を実現するために、該歯車100の仕上げ加工を施す研削工具200に対して、該歯車100の位相を正確に合せることは極めて重要な要件となる。
【0005】
そこで、このような研削工具に対する歯車の位相のズレを低減し、該歯車の高度な品質を実現するための技術として、「特許文献1」に示される技術が開示されている。
前記「特許文献1」においては、加工装置の主軸上に取付けられた歯車に対して、仕上げ加工の実施前と実施後とにおける各々の歯間隙部(前記歯車上において、隣接する二つの歯部の間隙部。以下同じ。)の角度位置を、非接触式のセンサーによって自動的に測定し、これら測定値の差を研削工具に対する歯車の位相のズレ量とみなして、該ズレ量を無くすように運転制御の補正を行うこととした、加工装置の制御方法に関する技術が開示されている。
なお、前記「角度位置」とは、歯間隙部の中心線の位相を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−88191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記「特許文献1」によって開示される加工装置の制御方法を用いれば、研削工具に対する歯車の位相のズレ量は、歯車の仕上げ加工の実施中、常に補正されることとなる。よって、研削工具に対する歯車の位相のズレを低減し、該歯車の高度な品質を実現することができるとも思われる。
しかし、歯車には研削工具が高荷重にて押し付けられるため、加工装置の主軸上に取付けられた歯車の取付姿勢は、仕上げ加工の実施中に僅かに変化することもある。このような場合、仕上げ加工の実施前と実行後とにおいて、歯車の角度位置を各々正確に測定できたとしても、これら角度位置から研削工具に対する歯車の位相のズレ量を算出すれば、歯車の取付姿勢の変化分だけ誤差を含むこととなる。
従って、これら角度位置から算出された歯車の位相のズレ量に基づいて、研削工具に対する歯車の位相を補正しても、該歯車の高度な品質を実現するのは困難であった。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、歯車の高度な品質を実現するべく、研削工具に対する該歯車の位相のズレ量を正確に判断するために、仕上げ加工の実施前と実行後とにおける、それぞれの歯間隙部の中心線の位置を正確に把握することが可能な、歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、歯面の仕上げ加工が施された歯車に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定方法であって、前記歯車の歯底は、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、前記位相のズレ量は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車上の隣接する二つの歯部の間隙部について把握される、互いに対向する歯面間の中心線である第一中心線の位置と、前記歯車の軸回り方向における前記歯底の中心線である第二中心線の位置と、のズレ量によって計測されるものである。
【0011】
請求項2においては、請求項1に記載の歯車の芯ズレ測定方法であって、前記第一中心線の位置は、互いに対向する前記歯面に当接させた第一接触球の中心を通る位置によって把握され、前記第二中心線の位置は、前記歯底の両側面に当接させた第二接触球の中心を通る位置によって把握され、これら第一接触球および第二接触球の中心位置のズレ量によって、前記位相のズレ量が計測されるものである。
【0012】
請求項3においては、歯面の仕上げ加工が施された歯車に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定装置であって、前記歯車の歯底は、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、前記芯ズレ測定装置は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車上の隣接する二つの歯部の間隙部に対して、互いに対向する歯面間の中心線である第一中心線の位置を把握する第一測定子と、前記歯車の軸回り方向における前記歯底の中心線である第二中心線の位置を把握する第二測定子と、これら第一測定子および第二測定子によって把握された、第一中心線および第二中心線のズレ量を測定する測定手段と、を有するものである。
【0013】
請求項4においては、請求項3に記載の歯車の芯ズレ測定装置であって、前記第一測定子は、互いに対向する前記歯面に当接される第一接触球を有し、前記第二測定子は、前記歯底の両側面に当接される第二接触球を有し、前記第一中心線の位置は、互いに対向する前記歯面に当接された前記第一接触球の中心を通る位置として把握され、前記第二中心線の位置は、前記歯底の両側面に当接された前記第二接触球の中心を通る位置として把握され、前記測定手段は、これら第一接触球および第二接触球の中心位置のズレ量を測定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明に係る歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置によれば、歯車の仕上げ加工の実施前と実行後とにおける、それぞれの歯間隙部の中心線の位置を正確に把握することが可能となり、研削工具に対する該歯車の位相のズレ量を正確に判断することができる。従って、歯車の高度な品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る、歯車の芯ズレ測定装置の全体的な構成を示した断面側面図。
【図2】同じく、歯車の芯ズレ測定装置を示した図であり、図1中のB矢視から見た断面正面図。
【図3】同じく、歯車の芯ズレ測定装置の全体的な構成を示した一部断面平面図。
【図4】被測定物である歯車において、隣接する歯間隙部近傍を示した図であって、(a)は仕上げ加工前の状態を示した拡大図、(b)は仕上げ加工後の状態を示した拡大図。
【図5】被測定物である歯車において、隣接する歯間隙部の芯の位置を表した図であって、(a)は互いに対向する歯面間の芯の位置を示した拡大図、(b)は歯底の芯の位置を示した拡大図。
【図6】被測定物である歯車の保持状態を示した断面側面図。
【図7】様々な歯車の支持状態を示した図であって、(a)は軸物歯車の支持状態を示した断面側面図、(b)は内径孔付き歯車の支持状態を示した断面側面図。
【図8】被測定物である歯車において、隣接する歯間隙部の芯の位置を測定する際の状態を示した図であって、(a)は互いに対向する歯面間の中心線の位置を測定する際の状態を示した拡大図、(b)は歯底の中心線の位置を測定する際の状態を示した拡大図。
【図9】歯車の製造工程の流れを示した工程図。
【図10】仕上げ加工工程における、歯車の加工状態を示した拡大図。
【図11】従来の、歯車の歯間隙部の角度位置を測定するための検出器の近傍を示した拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0017】
[芯ズレ測定装置1]
先ず、本発明を具現化する歯車の芯ズレ測定装置1の構成について、図1乃至図5を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図1および図3における矢印Aの方向を前方と規定して以下説明する。また、図1乃至図3においては、図面上の上下方向を芯ズレ測定装置1の上下方向と規定して説明する。
【0018】
芯ズレ測定装置1は、仕上げ加工が施された歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車100の位相のズレ量を測定する装置である。
より具体的には、芯ズレ測定装置1は、仕上げ加工が施された歯車100に対して、仕上げ加工の実施前における歯間隙部(前記歯車100上において、隣接する二つの歯部100a・100aの間隙部。以下同じ。)の中心線の位置と、仕上げ加工の実施後における歯間隙部の中心線の位置とのズレ量を測定する装置である。
【0019】
即ち、図4(a)に示すように、荒削り加工工程110(図9を参照)によって歯切りされた歯車100は、仕上げ加工工程130(図9を参照)によって歯面100bを研削され、仕上げ加工が施される。この際、図4(b)に示すように、仕上げ加工の施された歯車100の歯間隙部は、歯先から歯底100cに渡る歯面100b・100bの大部分について、研削工具200(図10を参照)によって一定の取代を除去される一方、歯底100cが除去されずに残される。つまり、歯車100の歯底100cは、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持している。
従って、仕上げ加工後の歯底100cの中心線は、仕上げ加工の実施前における歯車100の歯間隙部の中心線(図4(a)における中心線C1)と一致する。
【0020】
そこで、本実施例においては、図5(a)に示すように、仕上げ加工の実施後における歯車100の歯間隙部において、歯面100b・100bの深さ方向の中央部近傍(より具体的には、歯車100の基準円直径P上)における中心線(図5(a)における中心線C2)を、前記歯間隙部の中心線として測定する。
また、図5(b)に示すように、仕上げ加工の実施後における歯車100の歯間隙部において、歯車100の軸回り方向における歯底100cの中心線(図5(b)における中心線C3)を、仕上げ加工の実施前における歯車100(図4(a)を参照)の歯間隙部の中心線C1として測定する。
そして、これら測定された中心線C2と中心線C3とのズレ量をもって、仕上げ加工の実施前と実施後との間における歯間隙部の中心線の位置(角度)のズレ量、つまり仕上げ加工の実施前と実施後との間における歯車の位相のズレ量を把握するのである。
【0021】
図1に示すように、芯ズレ測定装置1は、上下方向に並設される測定子群2を備える。
前記測定子群2は、歯車100における歯間隙部の角度位置のズレ量を測定する際に、該歯間隙部に対して突き当てられる部位群である。
【0022】
測定子群2は、第一歯底部測定子21と第二歯底部測定子22、および歯面部測定子23によって構成される。
そして、芯ズレ測定装置1の前端部(図1における矢印Aの方向側の端部。以下同じ。)において、これら測定子群2を構成する複数の測定子21・22・23は、上方から下方に向かって第一歯底部測定子21、歯面部測定子23、第二歯底部測定子22と順に配設される。
【0023】
ここで、第一歯底部測定子21と第二歯底部測定子22のうちの何れか一方(本実施例においては、第二歯底部測定子22)については、前後方向(図1における矢印Aの方向、およびその反対の方向。以下同じ。)に向かって出入可能な構成となっており、また他方(本実施例においては、第一歯底部測定子21)については、前後方向に可動不能な構成となっている。
【0024】
即ち、第一歯底部測定子21は、球状の接触端子部21aと、該接触端子部21aの後端部より後方(図1における矢印Aの方向と対向する側の方向。以下同じ。)に向かって延設される基部21bとを有して構成され、該基部21bの前後方向中央部には縁部21cが形成される。
また、第二歯底部測定子22は、前記第一歯底部測定子21と略同等に形成され、球状の接触端子部22aと、該接触端子部22aの後端部より後方に向かって延設される基部22bとを有して構成されるが、該基部22b上に縁部は設けられていない。
なお、これら接触端子部21a・22aは、ともに歯車100の歯底100cの幅方向の寸法(図5(b)における寸法Y)に対して、やや大きな直径寸法を有して形成される。
【0025】
一方、後述する測定子保持部3(より具体的には、ハウジング31)の前端部の左右方向(正面視にて、測定子群2の配設方向と直交する方向。以下同じ。)中央部には、後方に向かって延出する2個の歯底部測定子用穴部31a・31bが、上下両端部近傍に形成されている(歯底部測定子用穴部31aが上端部に配置され、歯底部測定子用穴部31bが下端部に配置されている)。
【0026】
そして、第一歯底部測定子21は、基部21bの後端部が上側に配置される歯底部測定子用穴部31aに挿嵌されており、縁部21cの後面が、測定子保持部3の前面に当接されることで、該測定子保持部3に対する前後方向の位置が決定される。
また、第二歯底部測定子22は、基部22bの後端部が下側に配置される歯底部測定子用穴部31bへ前後摺動可能に挿入されている。なお、歯底部測定子用穴部31bの底部(図1において、該歯底部測定子用穴部31bの後端部)には、圧縮コイルなどからなる付勢手段34が予め配設されており、第二歯底部測定子22は、該付勢手段34によって常に前方に向かって付勢される。
【0027】
このように、測定子保持部3の前端部において、第二歯底部測定子22は、歯底部測定子用穴部31bによって摺動方向を規制(前後方向への摺動に規制)されつつ、前後方向に向かって出入可能に配設され、第一歯底部測定子21は、歯底部測定子用穴部31aによって移動不能に嵌合されている。
【0028】
一方、歯面部測定子23は、球状の接触端子部23aと、該接触端子部23aの後端部より後方に向かって延出される基部23bとを有して構成される。
ここで、前記接触端子部23aは、前述した第一歯底部測定子21の接触端子部21a、あるいは第二歯底部測定子22の接触端子部22aに比べて、大きな半径寸法を有するように形成される。
つまり、前記接触端子部23aは、仕上げ加工が施された歯車100の歯間隙部において、該歯車100の基準円直径P上の幅方向の寸法(図5(a)における寸法X)と同程度の直径寸法を有して形成される。
【0029】
そして、前述した第二歯底部測定子22と同様に、歯面部測定子23は、測定子保持部3の前端部において、前後方向へ向かって出入可能に設けられる。
【0030】
即ち、後述する測定子保持部3(より具体的には、可動部材32)の前端部の中央部には、後方に向かって延出する歯面部測定子用穴部32aが形成されている。
そして、歯面部測定子23は、基部23bの後端部が歯面部測定子用穴部32aへ前後摺動可能に挿入される。なお、歯面部測定子用穴部32aの底部(図1において、該歯面部測定子用穴部32aの後端部)には、圧縮コイルなどからなる付勢手段35が予め配設されており、歯面部測定子23は、該付勢手段35によって常に前方に向かって付勢される。
【0031】
このように、測定子保持部3の前端部において、歯面部測定子23は、歯面部測定子用穴部32aによって摺動方向を規制(前後方向への摺動に規制)されつつ、前後方向に向かって出入可能に配設されるのである。
【0032】
ところで、歯面部測定子23は、測定子保持部3によって、第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22に対して左右方向に可動可能な構成となっている。
即ち、測定子保持部3は芯ズレ測定装置1の前部に配設され、ハウジング31や可動部材32やガイドロッド33・33や測定手段37などにより構成される。
【0033】
ハウジング31は測定子保持部3の基部となる部材であり、例えば前方に向かって延出する略直方体形状の部材から形成される。また、ハウジング31の正面視中央部には、前端から後方に向かって延出する可動部材用穴部31cが形成される。
【0034】
ハウジング31の前後方向中央部には、複数のガイドロッド33・33が嵌設される。
より具体的には、これらガイドロッド33・33は、左右方向(平面視において、可動部材用穴部31cの軸心方向と直交する方向)に軸心方向を向けつつ、互いに前後方向に並設されるとともに、途中、可動部材用穴部31cを横切るようにして、ハウジング31に嵌設される。
【0035】
なお、前述のとおり、ハウジング31の前端部において、可動部材用穴部31cの上下両側には、歯底部測定子用穴部31a・31bが各々形成され、該歯底部測定子用穴部31a・31bを介して、第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22がハウジング31によって保持されている。
【0036】
一方、可動部材32は、可動部材用穴部31cの断面形状に比べて小さな断面形状を有しつつ、前後方向に向かって延出する部材によって形成され、その長手方向の寸法は、前記可動部材用穴部31cの長手方向に比べて短く形成されている。
【0037】
また、可動部材32の前後方向中央部には、左右方向(平面視において可動部材32の軸心方向と直交する方向)に貫通する複数の貫通孔32b・32bが形成される。
これらの貫通孔32b・32bは前後方向に並設されており、該貫通孔32b・32bにはそれぞれガイドロッド33・33が摺動可能に貫通している。
【0038】
つまり、ハウジング31の可動部材用穴部31cに内挿される可動部材32は、可動部材用穴部31c内において、貫通孔32b・32bを介して前記可動部材32を貫通する複数のガイドロッド33・33に案内されながら、左右方向へ可動可能に配設される。
【0039】
なお、前述のとおり、可動部材32の前端部の中央部には、歯面部測定子用穴部32aが形成され、該歯面部測定子用穴部32aを介して、歯面部測定子23が可動部材32によって保持されている。
【0040】
このように、可動部材32は、ハウジング31に対して、左右方向に移動可能な構成となっており、換言すれば、可動部材32に保持される歯面部測定子23は、ハウジング31に保持される第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22に対して左右方向に可動可能な構成となっているのである。
【0041】
そしてさらに、図3に示すように、ハウジング31の前後方向中央部には、ダイヤルゲージなどからなる測定手段37が挿設される。
前記測定手段37は、ロッド状に形成されつつ軸心方向に出入可能に設けられる測定子37aを有しており、該測定子37aの軸心をガイドロッド33の軸心(つまり、可動部材32の可動方向)と平行、且つ前記測定子37aの先端部が可動部材32の側面に当接するようにして、ハウジング31に挿設される。
【0042】
このような構成を有することで、ハウジング31に対する可動部材32の左右方向への移動距離、つまり、第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22に対する歯面部測定子23の移動距離は、測定手段37によって正確に測定される。
【0043】
ところで、測定子保持部3は、本体可動部4に対して、前後方向に出入可能な構成とされるとともに、正面視にて左右方向に回動可能に設けられる。
即ち、図1に示すように、本体可動部4は芯ズレ測定装置1の後部に配設され、ガイドシャフト41や本体フレーム42や軸受け手段43やハンドル機構部44などを有して構成される。
【0044】
ガイドシャフト41は円柱状部材からなり、前端部から前後方向中央部にかけて形成される拡径部41aと、該拡径部41aの後端部から後方に向かって延出し、該拡径部41aの断面形状に比べて小さな断面形状を有して形成される縮径部41bとにより構成される。
なお、拡径部41aおよび縮径部41bは、互いに同軸上に配設されるようにして、一体的に形成される。
【0045】
そして、ガイドシャフト41は、拡径部41aを前方側に向けつつ、側面視にて歯面部測定子23と同軸上となるようにして、ハウジング31の後面より後方に向かって延設される。
より具体的には、ガイドシャフト41の軸心は、正面視において、第一歯底部測定子21の軸心と、第二歯底部測定子22の軸心との間隙のちょうど中央部に位置するようになっている。
【0046】
一方、本体フレーム42は、芯ズレ測定装置1の基部となる部材であり、例えば上下方向に向かって延出する略直方体形状の部材から形成される。本体フレーム42の上部には、前後方向に貫通する貫通孔42aが穿孔される。
【0047】
前記貫通孔42aの前部には、例えば循環式直動玉軸受けなどからなる軸受け手段43が同軸上に嵌設される。また、前記貫通孔42aの前後両端部は、前側蓋部材46および後側蓋部材47によって各々閉塞されている。
【0048】
ここで、前側蓋部材46および後側蓋部材47の正面視中央部には、各々貫通孔46a・47aが形成され、これら貫通孔46a・47aの断面形状は、ガイドシャフト41の拡径部41aおよび縮径部41bの断面形状と、それぞれ同程度に形成されている。
また、貫通孔42aの前後両端部に、前側蓋部材46および後側蓋部材47を配設した状態において、これら前側蓋部材46および後側蓋部材47に形成される貫通孔46a・47aと、前記貫通孔42a(より具体的には、軸受け手段43)とは互いに同軸上に位置するようになっている。
【0049】
そして、ガイドシャフト41は、拡径部41aの後部において、軸受け手段43に保持されるとともに、該拡径部41aの前端部が前側蓋部材46の貫通孔46aを貫通して前方に向かって延出し、且つ縮径部41bの後端部が後側蓋部材47の貫通孔47aを貫通して後方に向かって延出するようにして、本体フレーム42に挿設される。
つまり、ガイドシャフト41は、軸受け手段43を介して、軸心方向(前後方向)に摺動可能、且つ該軸心を中心にして回転可能に支持されている。換言すれば、ガイドシャフト41(より具体的には拡径部41a)の前端部に固設される測定子保持部3は、本体可動部4が有する軸受け手段43によって、前方側に出入可能な構成とされるとともに、正面視にて左右方向に回動可能に設けられる。
【0050】
従って、本実施例における芯ズレ測定装置1において、測定子保持部3の前端部に設けられる第一歯底部測定子21と第二歯底部測定子22、および歯面部測定子23は、本体可動部4によって、全体的に前後方向へ向かって出入可能に設けられるとともに、正面視にて、第一歯底部測定子21の軸心と、第二歯底部測定子22の軸心との間隙のちょうど中央部に位置する軸心を中心にして、左右方向に回動可能に設けられるのである。
【0051】
なお、図2に示すように、ハウジング31の下端部には、下方に向かって延出する当接部材38が固設されるとともに、該当接部材38の下方には、上方側に開口する凹陥部である開口部39aが形成され、本体フレーム42(図1を参照)に固設された規制部材39が配設されている。
【0052】
規制部材39の開口部39aにおいて、その幅方向(図2における左右方向)の寸法は、当接部材38の厚み寸法に比べて大きくなるように形成されている。
そして、正面視において、規制部材39は、開口部39aを介して、当接部材38の下端部の周囲を取り巻くようにして配設される。つまり、当接部材38の下端部が規制部材39の開口部39a内に挿嵌されている。
【0053】
このように、本実施例における芯ズレ測定装置1においては、測定子保持部3(より具体的には、ハウジング31)が大きく左右方向に回動した際は、当接部材38の下端部側面部と、規制部材39の開口部39aの内側面部とが当接して、その回動が規制されるようになっている。
【0054】
そしてさらに、図1に示すように、本体可動部4の後部にはハンドル機構部44が設けられる。
前記ハンドル機構部44は、測定子保持部3の前後方向への出入操作を容易にするための機構部である。ハンドル機構部44は、付勢手段45や板状部材48やカム板49やハンドル50などにより構成される。
【0055】
付勢手段45は圧縮コイルなどからなり、本体フレーム42の貫通孔42a内において、ガイドシャフト41と同軸上に配設される。
即ち、付勢手段45は、ガイドシャフト41の縮径部41b上、且つ拡径部41aの後端部と後側蓋部材47の前面との間において、前記縮径部41bと同軸上に配設されており、ガイドシャフト41は、付勢手段45によって常に前方に向かって付勢されている。
【0056】
一方、ガイドシャフト41の縮径部41bの後端部には、板状部材48が、該縮径部41bの軸心と直交して配設されつつ、ボルト等の締結部品によって前記ガイドシャフト41と堅固に固設されている。
【0057】
また、板状部材48と後側蓋部材47と間において、ガイドシャフト41(より具体的には縮径部41b)の左右両側には、略長方形形状の板部材からなる2枚のカム板49・49が、互いに平行、且つ左右方向に平面部を向けて配設される。
【0058】
そして、これらカム板49・49の下端部には、左右方向に向かって同時に貫通する回転シャフト49aが貫設され、該回転シャフト49aの軸心を中心にして、カム板49・49を前後方向に回動することで、測定子保持部3に関する前後方向への出入操作を容易に行えるようになっている。
【0059】
即ち、カム板49が上下方向に延出する姿勢で保持されている場合、ガイドシャフト41は付勢手段45によって前方に向かって付勢されるとともに、板状部材48の前面が、カム板49の短手側の後側面に当接されることとなる。
よって、板状部材48と後側蓋部材47とは、最も近接した状態となり、ガイドシャフト41の前端部の位置、つまり該前端部に配設される測定子保持部3(より詳しくは、測定子群2)の位置は、最も前方側に進出した位置(以下、「出限位置」と記す)となる。
【0060】
一方、回転シャフト49aの軸心を中心にして、カム板49を後方に向かって(図1において、時計回り方向に)回動させ、該カム板49を、前後方向に延出する姿勢で保持すると、ガイドシャフト41は付勢手段45によって前方に向かって付勢されるとともに、板状部材48の前面が、カム板49の長手側の後側面に当接されることとなる。
よって、板状部材48と後側蓋部材47とは、最も離間した状態となり、ガイドシャフト41の前端部の位置、つまり該前端部に配設される測定子保持部3(より詳しくは、測定子群2)の位置は、最も後方側に退出した位置(以下、「戻限位置」と記す)となるのである。
【0061】
なお、回転シャフト49aにはハンドル50が固設されており、例えば、図1に示すように、該ハンドル50を前方に傾倒させることで、カム板49の状態は上下方向に延出する状態となり、測定子保持部3の位置は、付勢手段45の付勢力によって容易に「出限位置」へと変化する。
また、該ハンドル50を後方に傾倒させることで、カム板49の状態は前後方向に延出する状態となり、測定子保持部3の位置は、付勢手段45の付勢力に抗して容易に「戻限位置」へと変化するのである。
【0062】
[芯ズレ測定方法]
次に、本発明を具現化する歯車の芯ズレ測定装置1を用いた芯ズレ測定方法について、図6乃至図8、および図11を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図6および図7における図面上の上下方向を、歯車の上下方向と規定して説明する。
【0063】
先ず、芯ズレ測定装置1のハンドル機構部44(図1を参照)が操作され、測定子群2の位置が「戻限位置」にある状態において、図6に示すように、測定対象物である歯車100はクランプ機構5によって保持される。
つまり、図示せぬ加工装置によって仕上げ加工が施された歯車は、該加工装置の主軸部より取り外され、芯ズレ測定装置1に備えられるクランプ機構5によって保持される。
【0064】
クランプ機構5は、上下方向に同軸上に配設される固定ピン51および可動ピン52を有して構成され、芯ズレ測定装置1の前方に配設される。また、可動ピン52は軸心方向に移動可能な構成を有し、固定ピン51に対して近接離間するようになっている。
そして、これら固定ピン51と可動ピン52とによって歯車100は挟持され、該歯車100は、軸心方向を上下方向に向けつつクランプ機構5によって保持される。
【0065】
ここで、本実施例における芯ズレ測定装置1の測定対象物となる歯車については、例えば中心部にボス部を有する軸物歯車や、ボス部を有することなく中心部にシャフト貫設用の孔部を有する内径孔付き歯車など、何れの場合であってもよい。
【0066】
即ち、図7(a)に示すように、芯ズレ測定装置1の測定対象物となる歯車が前記軸物歯車301である場合は、中心部に設けられるボス部301aを介して、固定ピン51と可動ピン52とによって直接挟持される。
【0067】
また、図7(b)に示すように、芯ズレ測定装置1の測定対象物となる歯車が前記内径孔付き歯車302である場合は、中心部に設けられる孔部302aを介して、既知の油圧マンドレル53が挿設される。そして、該油圧マンドレル53を介して、内径孔付き歯車302は、固定ピン51と可動ピン52とによって挟持されるのである。
【0068】
このようにして、歯車100がクランプ機構5によって保持されると、ハンドル機構部44のハンドル50(図1を参照)が前方に傾倒され、測定子群2の位置は「出限位置」へと移動される。
すると、図8(a)に示すように、第一歯底部測定子21の接触端子部21a、および第二歯底部測定子22の接触端子部22aは、歯車100の歯間隙部の歯底100c内に各々嵌まり込み、接触端子部21a・22aの外周面が該歯底100cの両側面100d・100dに当接することとなる。
この際、図1に示すように、接触端子部21a・22aは、それぞれ歯底100cの上部および下部(歯車100の厚み方向における一側部および他側部)に嵌まり込むこととなる。
【0069】
ここで、例えば歯車100が、はすば歯車のような軸心方向に対して斜め方向に形成される歯部100aを有するような場合であっても、これら接触端子部21a・22aは、本体可動部4(図1を参照)によって、正面視左右方向に自由に回動され、歯底100c内に確実に嵌まり込むようになっている。
【0070】
一方、測定子群2の位置が「出限位置」へと移動されると、歯面部測定子23の接触端子部23aも歯車100の歯間隙部に挿入され、該接触端子部23aの外周面が、該歯間隙部の両側の歯面100b・100bに当接することとなる。
この際、歯面部測定子23は、歯車100における歯間隙部の中心線の位置に応じて左右方向に移動されることとなる。例えば、仕上げ加工の実施前と実施後とにおける歯間隙部の中心線の位置にズレがある場合、仕上げ加工の実施前での歯面部測定子23の左右位置と、仕上げ加工の実施後での歯面部測定子23の左右位置とは、前記ズレ量の分だけ異なることとなる。
【0071】
即ち、第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22は、該歯底100cの中心線上、つまり仕上げ加工の実施前における歯車100の歯間隙部の中心線(図8(a)における中心線C3)上に、接触端子部21a・22aの中心が位置するようにして、歯車100の歯底100cに嵌まり込む。
また、これに対して、歯面部測定子23は、仕上げ加工の実施後における歯車100の歯間隙部の中心線(図8(b)における中心線C2)上に、接触端子部23aの中心が位置するように、可動部材32(図1を参照)を介してガイドロッド33・33に案内されつつ自動的に移動されながら、歯間隙部の歯面100b・100bによって挟持される。
【0072】
このように、これら第一歯底部測定子21および第二歯底部測定子22に対する歯面部測定子23の移動量を測定手段37によって測定することで、歯車100の仕上げ加工の実施前後における歯間隙部の中心線のズレ量、つまり仕上げ加工の実施前と実施後とにおける歯車の位相のズレ量を容易に把握することができるのである。
【0073】
また、図11に示すように、従来の測定装置において、仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量は、加工装置(図示せず)の主軸上に取付けられた歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後とにおける各々の歯間隙部の中心線の位置を、非接触式のセンサー54によって自動的に測定し、これら測定値の結果に基づいて算出することとしていた。
よって、従来の測定装置では、歯車100に切り屑などが付着しているような場合においても、前記歯車100の位相のズレは、誤差を含んだまま自動的に測定されて算出されることとなり、仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量が、常に正確に把握されている確証は持てなかった。
【0074】
これに対して、本実施例における芯ズレ測定装置1においては、仕上げ加工が施された歯車100に対して、作業者が直接歯間隙部に測定子群2(図1を参照)を押し当てることから、例えば、歯車100に切り屑などが付着していても、該切り屑を取り除いて、常に仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量を正確に把握することができるのである。
【0075】
測定手段37による歯面部測定子23の移動量の測定が終了すると、ハンドル機構部44のハンドル50(図1を参照)が後方に傾倒され、測定子群2の位置は再び「戻限位置」へと移動される。
その後、歯車100はクランプ機構5より離脱され、芯ズレ測定装置1による、仕上げ加工の実施前後における歯車100の歯間隙部の角度位置のズレ量の測定が完了する。
【0076】
以上のように、本実施例における芯ズレ測定方法は、歯面100bの仕上げ加工が施された歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車100の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定方法であって、前記歯車100の歯底100cは、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、前記位相のズレ量は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車100上の隣接する二つの歯部100a・100aの間隙部について把握される、互いに対向する歯面100b・100b間の中心線である中心線(第一中心線)C2(図5(a)を参照)の位置と、前記歯車100の軸回り方向における前記歯底101bの中心線である中心線(第二中心線)C3(図5(b)を参照)の位置と、のズレ量によって計測されることとしている。
【0077】
また、このような芯ズレ測定方法を実現するべく、本実施例における芯ズレ測定装置は、歯面100bの仕上げ加工が施された歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車100の位相のズレ量を測定する歯車100の芯ズレ測定装置1であって、前記歯車100の歯底101bは、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、前記芯ズレ測定装置1は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車100上の隣接する二つの歯部100a・100aの間隙部に対して、互いに対向する歯面100b・100b間の中心線である中心線(第一中心線)C2(図5(a)を参照)の位置を把握する歯面部測定子(第一測定子)23と、前記歯車100の軸回り方向における前記歯底100cの中心線である中心線(第二中心線)C3(図5(b)を参照)の位置を把握する第一底部測定子(第二測定子)21あるいは第二底部測定子(第二測定子)22と、これら歯面部測定子(第一測定子)23、および第一底部測定子(第二測定子)21あるいは第二底部測定子(第二測定子)22によって把握された、中心線(第一中心線)C2および中心線(第二中心線)C3のズレ量を測定する測定手段37と、を有することとしている。
【0078】
本実施例における歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置1によれば、このような構成により、歯車100の仕上げ加工の実施前と実行後とにおける、それぞれの歯間隙部の中心線の位置を正確に把握することが可能となり、研削工具200(図10を参照)に対する該歯車100の位相のズレ量を正確に判断することができる。従って、歯車100の高度な品質を実現することができる。
【0079】
即ち、従来の測定装置や測定方法においては、仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量は、加工装置の主軸上に取付けられた歯車100に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後とにおける各々の歯間隙部の中心線の位置を測定し、これら測定値の結果に基づいて算出することとしていた。
よって、例えば、仕上げ加工の実施中において、該主軸上に取付けられた歯車の取付姿勢が変化した場合などにおいては、仕上げ加工の実施前と実行後とにおいて、歯車の歯間隙部の中心線の位置を各々正確に測定できたとしても、これら測定値から歯車の位相のズレ量を算出すれば、歯車の取付姿勢の変化分だけ誤差を含むこととなる。
従って、従来の測定装置や測定方法においては、仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量を常に正確に把握することは困難であった。
【0080】
これに対して、本実施例における歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置1においては、歯面の仕上げ加工が施された歯車100に対して、仕上げ加工の実施前後における歯車の位相のズレ量を同時に把握することとしている。
従って、従来の測定装置や測定方法のように、主軸上に取付けられた歯車の取付姿勢の変化に対する影響を受けることもなく、常に正確な歯車100の位相のズレ量を把握することができるのである。
【0081】
また、本実施例の芯ズレ測定方法において、前記中心線(第一中心線)C2の位置は、互いに対向する前記歯面100b・100bに当接させた接触端子部(第一接触球)23aの中心を通る位置によって把握され、前記中心線(第二中心線)C3の位置は、前記歯底100cの両側面100d・100dに当接させた接触端子部(第二接触球)21a、あるいは接触端子部(第二接触球)22aの中心を通る位置によって把握され、これら接触端子部(第一接触球)23a、および接触端子部(第二接触球)21aあるいは接触端子部(第二接触球)22aの中心位置のズレ量によって、前記位相のズレ量が計測されることとしている。
【0082】
また、本実施例の芯ズレ測定装置において、前記歯面部測定子(第一測定子)23は、互いに対向する前記歯面100b・100bに当接される接触端子部(第一接触球)23aを有し、前記第一底部測定子(第二測定子)21あるいは第二底部測定子(第二測定子)22は、前記歯底100cの両側面に当接される接触端子部(第二接触球)21aあるいは接触端子部(第二接触球)22aを有し、前記中心線(第一中心線)C2の位置は、互いに対向する前記歯面100b・100bに当接された前記接触端子部(第一接触球)23aの中心を通る位置として把握され、前記中心線(第二中心線)C3の位置は、前記歯底100cの両側面に当接された前記接触端子部(第二接触球)21aあるいは接触端子部(第二接触球)22aの中心を通る位置として把握され、前記測定手段37は、これら接触端子部(第一接触球)23a、および接触端子部(第二接触球)21aあるいは接触端子部(第二接触球)22aの中心位置のズレ量を測定することとしている。
【0083】
このように、本実施例における歯車の芯ズレ測定方法および芯ズレ測定装置1においては、第一歯底部測定子21の接触端子部21aと第二歯底部測定子22の接触端子部22a、および歯面部測定子23の接触端子部23aを歯間隙部に押し当てることにより、仕上げ加工の実施前と実施後とにおける、それぞれの歯の歯間隙部の中心線(中心線C3および中心線C2)の位置を容易に把握可能な構成としているのである。
【符号の説明】
【0084】
1 芯ズレ測定装置
21 第一底部測定子(第二測定子)
21a 接触端子部(第二接触球)
22 第二底部測定子(第二測定子)22
22a 接触端子部(第二接触球)
23 歯面部測定子(第一測定子)
23a 接触端子部(第一接触球)
37 測定手段
100 歯車
100a 歯面
100b 歯面
100c 歯底
C2 中心線(第一中心線)
C3 中心線(第二中心線)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯面の仕上げ加工が施された歯車に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定方法であって、
前記歯車の歯底は、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、
前記位相のズレ量は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車上の隣接する二つの歯部の間隙部について把握される、
互いに対向する歯面間の中心線である第一中心線の位置と、
前記歯車の軸回り方向における前記歯底の中心線である第二中心線の位置と、
のズレ量によって計測される、
ことを特徴とする歯車の芯ズレ測定方法。
【請求項2】
前記第一中心線の位置は、互いに対向する前記歯面に当接させた第一接触球の中心を通る位置によって把握され、
前記第二中心線の位置は、前記歯底の両側面に当接させた第二接触球の中心を通る位置によって把握され、
これら第一接触球および第二接触球の中心位置のズレ量によって、前記位相のズレ量が計測される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯車の芯ズレ測定方法。
【請求項3】
歯面の仕上げ加工が施された歯車に対して、該仕上げ加工の実施前と実施後との間の前記歯車の位相のズレ量を測定する歯車の芯ズレ測定装置であって、
前記歯車の歯底は、前記仕上げ加工によって加工されることなく、仕上げ加工の実施後において仕上げ加工の実施前の形状を維持しており、
前記芯ズレ測定装置は、前記仕上げ加工の完了後に、前記歯車上の隣接する二つの歯部の間隙部に対して、
互いに対向する歯面間の中心線である第一中心線の位置を把握する第一測定子と、
前記歯車の軸回り方向における前記歯底の中心線である第二中心線の位置を把握する第二測定子と、
これら第一測定子および第二測定子によって把握された、第一中心線および第二中心線のズレ量を測定する測定手段と、
を有する、
ことを特徴とする歯車の芯ズレ測定装置。
【請求項4】
前記第一測定子は、互いに対向する前記歯面に当接される第一接触球を有し、
前記第二測定子は、前記歯底の両側面に当接される第二接触球を有し、
前記第一中心線の位置は、互いに対向する前記歯面に当接された前記第一接触球の中心を通る位置として把握され、
前記第二中心線の位置は、前記歯底の両側面に当接された前記第二接触球の中心を通る位置として把握され、
前記測定手段は、これら第一接触球および第二接触球の中心位置のズレ量を測定する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の歯車の芯ズレ測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−103216(P2012−103216A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254289(P2010−254289)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】