説明

歯車伝動装置

【課題】軸線方向の両方の端面に支持部材が露出している歯車伝動装置を提供する。
【解決手段】歯車伝動装置20は、内歯歯車49とキャリア26とクランクシャフト40と外歯歯車14X,14Yとリング歯車9を備えている。キャリア26は、一対の支持部材26X,26Yとキャリアピン26aを備えている。キャリアピン26aは、中継歯車22を支持している。クランクシャフト40は、偏心体38X,38Yとクランクシャフト歯車36を有している。外歯歯車14X,14Yは、中心に形成されている第1貫通孔45と中心からオフセットされた位置に形成されている第2貫通孔を有している。第1貫通孔45に偏心体38X,38Yが嵌合しており、第2貫通孔にキャリアピン26aが遊嵌している。リング歯車9には、中継歯車22に噛合う内歯と、インプット歯車5に噛合う外歯を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車伝動装置に関する。特に、内歯歯車と、その内歯歯車の内側で内歯歯車と噛合いながら偏心回転する外歯歯車を備えている偏心揺動型の歯車伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の歯車伝動装置が開示されている。その歯車伝動装置は、内歯歯車とキャリアとクランクシャフトと外歯歯車を備えている。内歯歯車はケースに固定されている。キャリアは、内歯歯車と同軸に配置されているとともにケースに回転可能に支持されている。また、キャリアは、一対の支持部材とキャリアピンを備えている。一対の支持部材は対向して配置されており、キャリアピンによって連結されている。キャリアピンはキャリアの軸線に沿って延びている。クランクシャフトは、一対の支持部材の間に配置されているととともに一対の支持部材に回転可能に支持されている。クランクシャフトはキャリアの軸線に沿って延びている。クランクシャフトは偏心体と歯車を有している。クランクシャフトの歯車は、モータのトルクを伝達するインプット歯車等に噛合っている。外歯歯車は、一対の支持部材の間に配置されている。外歯歯車の中心には第1貫通孔が形成されており、第1貫通孔にクランクシャフトの偏心体が嵌合している。外歯歯車の周方向に沿って複数の第2貫通孔が形成されており、第2貫通孔にキャリアピンが遊嵌されている。外歯歯車の第2貫通孔にキャリアピンが遊嵌しているので、キャリアと外歯歯車は一体に回転する。外歯歯車は、内歯歯車に噛合っている。なお、本明細書でいう「貫通孔にキャリアピンが遊嵌している」とは、貫通孔とキャリアピンの間に隙間が形成された状態で、貫通孔をキャリアピンが通過していることを意味する。
【0003】
特許文献1の歯車伝動装置では、インプット歯車等を介してモータのトルクがクランクシャフトに伝達される。クランクシャフトが回転すると、偏心体がクランクシャフトの軸線の周りを偏心回転する。なお、クランクシャフトの軸線はキャリアの軸線に一致している。偏心体が偏心回転すると、外歯歯車は、内歯歯車と噛合いながら内歯歯車の軸線の周りを偏心回転する。なお、内歯歯車の軸線はキャリアの軸線に一致している。外歯歯車が内歯歯車の軸線の周りを1周だけ偏心回転すると、外歯歯車は、外歯歯車と内歯歯車の歯数差に対応する角度だけ内歯歯車に対して相対的に回転する。すなわち、クランクシャフトが回転すると、外歯歯車が内歯歯車に対して相対的に回転する。その結果、キャリアが、内歯歯車の軸線の周りを回転する。別言すると、キャリアがケースに対して相対的に回転する。キャリアが、歯車伝動装置の出力軸に相当する。
【0004】
上記したように、キャリアは一対の支持部材を備えている。一方の支持部材の軸線方向の外側の面は、歯車伝動装置のケースから露出している。露出している支持部材には、歯車伝動装置によって回転させられる部材が固定される。本明細書では、歯車伝動装置によって回転させられる部材を「被回転部材」と称する場合がある。さらに本明細書では、歯車伝動装置における被回転部材を固定する部材を「出力部」と称する。すなわち、一対の支持部材のうちの一方の支持部材が、歯車伝動装置の出力部に相当する。
【0005】
クランクシャフトは、他方の支持部材からキャリアの外側に延びている。キャリアの外側に延びている部分のシャフトに歯車が形成されている。以下の説明では、クランクシャフトに形成されている歯車をクランクシャフト歯車と称することがある。クランクシャフト歯車に、モータのトルクを伝達するためのインプット歯車が係合する。すなわち、歯車伝動装置の出力部の反対側には、モータのトルクをクランクシャフトに伝達するための歯車群が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−46596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の歯車伝動装置では、歯車伝動装置の出力部の反対側には歯車群が配置される。従って、キャリアの両端を歯車伝動装置の出力部とすることができなかった。キャリアの両端を歯車伝動装置の出力部とすることが望まれている。キャリアの両端を歯車伝動装置の出力部とすることができれば、例えば、歯車伝動装置から両側に延びる一対の片持ち梁を回転させることが可能となる。
【0008】
なお、本明細書において、「支持部材が露出している」という表現は、支持部材が被回転部材を固定できることを意味する。歯車伝動装置を軸線に沿って観察したときに、単に、ケースの外側から支持部材を目視できることを意味するものではない。例えば、支持部材の一部分は目視できるものの、支持部材の他の部分がモータを固定するためのモータ支持部によって隠されている場合、「露出している」とはみなさない。本明細書は、軸線方向の両側にキャリアの支持部材が露出している歯車伝動装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示する歯車伝動装置は、クランクシャフト歯車にモータのトルクを伝達するために、外周面と内周面の双方に歯が形成されているリング歯車を採用する。以下の説明では、リング歯車の外周面の歯を外歯と称し、内周面の歯を内歯と称することがある。リング歯車はキャリアと同軸に配置される。リング歯車とクランクシャフト歯車の間には、中継歯車が配置されている。中継歯車によって、リング歯車のトルクがクランクシャフト歯車に伝達される。リング歯車の外周側には、リング歯車の外歯と係合するインプット歯車が配置される。モータのトルクは、インプット歯車からリング歯車に伝達され、さらに中継歯車を介してクランクシャフトに伝達される。
【0010】
外歯と内歯が形成されたリング歯車を採用することにより、本明細書が開示する歯車伝動装置は、キャリアの半径方向の外側に、モータのトルクをクランクシャフトに伝達するための歯車群を配置できる。「キャリアの半径方向」は、キャリアの軸線に直交する方向に相当する。また、中継歯車を採用することにより、リング歯車のトルクが伝達されるクランクシャフト歯車を、キャリアと同軸に配置することができる。上記の構成によって、キャリアの軸線方向のいずれの側にも、歯車群を配置せずに済む。また、キャリアの軸線方向のいずれの側にも、モータ、或いはモータを固定するためのモータ支持部を配置せずに済む。これによって、キャリアの両側を露出させることに成功した。すなわち、本明細書が開示する歯車伝動装置は、キャリアの両端部に被回転部材を固定することができる。
【0011】
本明細書が開示する歯車伝動装置は、内歯歯車とキャリアとクランクシャフトと外歯歯車とリング歯車を備えている。内歯歯車は、ケースに固定されている。キャリアは、内歯歯車と同軸に配置されているとともにケースに回転可能に支持されている。また、キャリアは、一対の支持部材とキャリアピンを備えている。一対の支持部材は対向して配置されており、キャリアピンによって連結されている。キャリアピンには、中継歯車が回転可能に支持されている。クランクシャフトは、一対の支持部材の間でキャリアに回転可能に支持されている。クランクシャフトは、キャリアの軸線と同軸に延びており、クランクシャフト歯車と偏心体を有している。クランクシャフトは、中継歯車と噛合っている。なお、キャリアが複数のキャリアピンを備える場合、中継歯車は、キャリアピンの少なくとも1本に設けられていればよい。
【0012】
外歯歯車は、一対の支持部材の間に配置されている。外歯歯車には、中心に第1貫通孔が形成されており、中心からオフセットされた位置に第2貫通孔が形成されている。第1貫通孔に、クランクシャフトの偏心体が嵌合している。第2貫通孔に、キャリアピンが遊嵌している。外歯歯車は、クランクシャフトの回転に伴って、内歯歯車と噛合いながら偏心回転する。リング歯車は、内歯歯車と同軸に配置されているとともに内歯歯車に対して回転可能である。リング歯車には、外周面と内周面に歯が形成されている。その内歯は、中継歯車に噛合っている。その外歯は、モータのトルクを伝達するインプット歯車に噛合っている。
【0013】
本明細書に開示する歯車伝動装置では、一対の支持部材の軸線方向の外側面が、双方ともケースから露出している。上記したように、本明細書に開示する歯車伝動装置は、内歯と外歯が形成されたリング歯車と、リング歯車のトルクをクランクシャフト歯車に伝達する中継歯車を採用する。それによって、クラックシャフト歯車がキャリアの軸線と同軸に配置されている歯車伝動装置において、一対の支持部材の軸線方向の外側面を、双方ともケースから露出させることが可能となる。
【0014】
キャリアピンは、外歯歯車の回転に伴って、キャリアの軸線の周りを移動する。そのため、キャリアピンが移動する範囲には、リング歯車のトルクをクランクシャフト歯車に伝達する歯車を配置することはできない。本明細書に開示する歯車伝動装置では、キャリアピンに中継歯車を支持させる。そのため、中継歯車も、外歯歯車の回転に伴って、キャリアの軸線の周りを移動する。キャリアピンに邪魔されることなく、インプット歯車からクランクシャフト歯車へのトルク伝達経路を確保することができる。
【0015】
本明細書に開示する歯車伝動装置では、中継歯車が、キャリアの軸線の周方向に等間隔に複数設けられていることが好ましい。複数の中継歯車によって、リング歯車を支持することができる。専らリング歯車を支持するための部品を省略することができる。
【0016】
本明細書に開示する歯車伝動装置では、リング歯車が、一方の支持部材の軸線方向の外側面と他方の支持部材の軸線方向の外側面の間に配置されていることが好ましい。この歯車伝動装置によると、一対の支持部材の線軸方向の外側面の間で、リング歯車からクランクシャフト歯車にトルクを伝達することができる。歯車伝動装置の軸線方向において、一対の支持部材の外側面よりも外側に広いスペースを確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書が開示する歯車伝動装置は、キャリアの両端に被回転部材を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施例のモータ付歯車伝動装置を示す。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施例を説明する前に、実施例の技術的特徴の幾つかを以下に簡潔に記す。なお、主要な技術的特徴は、実施例の説明に含まれている。
(第1特徴) リング歯車の外径は、内歯歯車の内径よりも小さい。
(第2特徴) 中継歯車は中心孔を有しており、中心孔内で円筒ころ軸受を介してキャリアピンに支持されている。中心孔の内壁に溝が形成されており、その溝内に円筒ころ軸受が配置されている。
(第3特徴) クランクシャフトは、2個の偏心体を有している。クランクシャフト歯車は、2個の偏心体の間でクランクシャフトに固定されている。
【実施例】
【0020】
図1は、本実施例のモータ付歯車伝動装置100の断面図を示している。図2は図1のII−II線に沿った断面を示しており、図2のI−I線に沿った断面が図1に相当する。なお、図面の明瞭化のため、一部の部品では断面に付すべきハッチングを省略している。図1に示すように、モータ付歯車伝動装置100は、歯車伝動装置20とモータ部2を備えている。本実施例では、歯車伝動装置20のケース12とモータ部2のケース64が一体に形成されているモータ付歯車伝動装置100について説明する。なお、本明細書に開示する技術は、歯車伝動装置のケースとモータ部のケースが別個に形成されているモータ付歯車伝動装置にも好適に用いることができる。
【0021】
まず、歯車伝動装置20について詳細に説明する。歯車伝動装置20は、内歯歯車49とキャリア26とクランクシャフト40と外歯歯車14X、14Yとリング歯車9を備えている。後述するように、被回転部材24と58は、キャリア26に固定される。モータ付歯車伝動装置100は、モータ60を駆動すると、キャリア26が軸線50の周りを回転する。
【0022】
内歯歯車49は、ケース12に固定されている。より具体的にいうと、図2に示すように、ケース12に形成されている溝12aに内歯ピン10が回転可能な状態で配置されることによって、内歯歯車49が形成されている。本実施例の歯車伝動装置20では、ケース12のうち、内歯ピン10が配置されている部分を内歯歯車49と称する。内歯歯車49はリング状に形成されており、外歯歯車14X、14Yを囲っている。
【0023】
図1に示すように、キャリア26は、一対の支持部材26X、26Yとキャリアピン26aを備えている。キャリアピン26aは、軸線50に沿って、支持部材26Yから支持部材26Xに向けて延びている。支持部材26X、26Yは、キャリアピン26aによって連結されている。キャリアピン26aは一方の支持部材26Yと一体に形成されており、他方の支持部材26Xと連結されている。そのため、キャリアピン26aと支持部材26X、26Yを別々に形成する場合と比べて、歯車伝動装置20を構成する部品数が少ない。キャリアピン26aは、支持部材26Xに形成されている溝25に圧入されている。そのため、支持部材26X、26Yの相対的な位置関係がずれることはない。
【0024】
キャリア26は、一対のアンギュラ玉軸受46によって、ケース12に対して回転可能に支持されている。アンギュラ玉軸受46によって、キャリア26がスラスト方向へ移動することを禁止するとともに、ラジアル方向へ移動することも禁止している。支持部材26X、26Yには溝が形成されており、アンギュラ玉軸受46の内輪として働く。なお、キャリア26は、内歯歯車49の軸線50と同軸に配置されている。そのため、キャリア26は、軸線50の周りを回転する。内歯歯車49の軸線50は、キャリア26の軸線ということもできる。一対の支持部材26X、26Yの軸線50方向の外側面(外側端)がケース12から露出している。より具体的にいうと、支持部材26X、26Yの外側端よりも外側には、モータ付歯車伝動装置100を構成する部品が存在していない。そのため、支持部材26Xの外側面28と支持部材26Yの外側面52の双方に、夫々被回転部材24、58を固定することができる。
【0025】
図2に示すように、キャリアピン26aは、軸線50の周方向に沿って等間隔に12本並んでいる。また、キャリアピン26aは、クランクシャフト歯車36よりも、キャリア26の半径方向の外側に形成されている。そのため、キャリアピン26aが、クランクシャフト歯車36の回転を妨げることはない。なお、クランクシャフト歯車36の詳細については後述する。3本のキャリアピン26aには、中継歯車22が支持されている。3個の中継歯車22は、軸線50の周方向に等間隔に配置されている。3個の中継歯車22によって、後述するリング歯車9が支持される。別言すると、リング歯車9は、3個の中継歯車22によって、半径方向(軸線50に直交する方向)への移動が禁止される。なお、中継歯車22の中央には貫通孔が設けられており、貫通孔の内壁に溝22a(図1を参照)が形成されている。溝22a内には円筒ころ軸受18が配置されている。そのため、中継歯車22は、キャリアピン26aに対して相対回転することができる。中継歯車22の溝22aは、円筒ころ軸受18の外輪として機能する。また、キャリアピン26aは、円筒ころ軸受18の内輪として機能する。
【0026】
図1に示すように、クランクシャフト40は、一対の支持部材26X、26Yの間に配置されている。クランクシャフト40は、一対の深溝玉軸受30によって、一対の支持部材26X、26Yに回転可能に支持されている。クランクシャフト40は、キャリア26の軸線50と同軸に延びている。クランクシャフト40には、2個の偏心体38X、38Yが設けられており、クランクシャフト歯車36が固定されている。偏心体38Xと38Yの各々の軸線は、クランクシャフト40の軸線50からオフセットしている。但し、偏心体38X、38Yは、オフセットの方向が反対である。換言すると、偏心体38Xの軸線と偏心体38Yの軸線は、軸線50を挟んだ反対側にある。偏心体38X、38Yとクランクシャフト歯車36は、一対の深溝玉軸受30の間に配置されている。クランクシャフト歯車36は、偏心体38Xと偏心体38Yの間でクランクシャフト40に固定されている。すなわち、クランクシャフト40の軸線50方向の中点に、クランクシャフト歯車36が固定されている。そのため、クランクシャフト歯車36に加えられたトルクが、一対の深溝玉軸受30にバランス良く加えられる。なお、図2に示すように、クランクシャフト40の中心に貫通孔72が形成されている。貫通孔72の内側を、中空部材34が通過している。
【0027】
外歯歯車14X、14Yは、一対の支持部材26X、26Yの間に配置されている。外歯歯車14Xの中心には、第1貫通孔45が形成されている。偏心体38Xが、深溝玉軸受30を介して第1貫通孔45に嵌まっている。そのため、偏心体38Xは、第1貫通孔45の内側で回転することができる。偏心体38Xは円形であり、その中心はクランクシャフト40の軸線50から偏心している。そのため、クランクシャフト40が回転すると、偏心体38Xは軸線50の回りを偏心回転する。偏心体38Xが偏心回転することによって、外歯歯車14Xが軸線50の周りを偏心回転する。
【0028】
図2に示すように、外歯歯車14Xには、中心からオフセットされた位置に第2貫通孔70が形成されている。第2貫通孔70は12個形成されており、夫々の第2貫通孔70は軸線50の周方向に等間隔に形成されている。第2貫通孔70の夫々に、キャリアピン26aが遊嵌している。すなわち、キャリアピン26aが、第2貫通孔70の内壁と隙間を確保した状態で第2貫通孔70を通過している。第2貫通孔70にキャリアピン26aが遊嵌されているので、外歯歯車14Xが偏心回転しても、キャリア26(図1を参照)は偏心回転しない。キャリアピン26aは、軸線50の周方向に等間隔に12個形成されている。夫々のキャリアピン26aの周囲にはローラ16が設けられている(図1も参照)。ローラ16は、キャリアピン26aに対して回転可能である。そのため、外歯歯車14Xからキャリアピン26aにトルクが伝達されるときに、外歯歯車14Xとキャリアピン26aの間の摩擦が低減される。また、3本のキャリアピン26aは、中継歯車22を支持している。夫々の中継歯車22は、リング歯車9とクランクシャフト歯車36に噛合っている。
【0029】
上記の説明は、外歯歯車14Yに対しても共通である。但し、外歯歯車14Yの中心は、軸線50を挟んで外歯歯車14Xの中心の反対側にある。すなわち、外歯歯車14Xと外歯歯車14Yは、軸線50に対して対称に位置している。外歯歯車14Xと14Yの対称配置によって、歯車伝動装置20の回転バランスが良好に保たれる。
【0030】
なお、図1に示すように、中継歯車22を支持しているキャリアピン26aでは、ローラ16が、ローラ16Xとローラ16Yに分割されている。ローラ16Xは、軸線50に沿う方向においてキャリアピン26aと外歯歯車14Xがオーバーラップする範囲に設けられている。ローラ16Yは、軸線50に沿う方向においてキャリアピン26aと外歯歯車14Yがオーバーラップする範囲に設けられている。そのため、中継歯車22を支持しているキャリアピン26aでも、外歯歯車14X、14Yからキャリアピン26aにトルクが伝達されるときに、外歯歯車14X、14Yとキャリアピン26aの間の摩擦が低減される。
【0031】
図1と図2に示すように、リング歯車9は、内歯歯車49と同軸に配置されているとともに内歯歯車49に対して回転可能である。リング歯車9は、外歯歯車14Xと外歯歯車14Yの間に配置されている。外歯歯車14Xと外歯歯車14Yによって、リング歯車9が軸線50方向へ移動することを禁止している。また、リング歯車9の外周面と内周面に歯が形成されている。外周面の歯を外歯と称し、内周面の歯を内歯と称する。リング歯車9の内歯は、3個の中継歯車22の全てと噛合っている。そのため、軸受等で支持することなく、リング歯車9を内歯歯車49と同軸に配置することができる。リング歯車9の外側にインプット歯車5が配置されている。インプット歯車5の中心に貫通孔が設けられており、貫通孔内に配置された円筒ころ軸受6によって、シャフト8に回転可能に支持されている。シャフト8は、ケース64に圧入されている。インプット歯車5の貫通孔の内壁には溝が形成されており、その溝に円筒ころ軸受6が配置されている。インプット歯車5の貫通孔の内壁に形成されている溝は、円筒ころ軸受6の外輪として機能する。また、シャフト8は、円筒ころ軸受6の内輪として機能する。インプット歯車5は、リング歯車9の外歯に噛合っているとともに、モータ60の出力軸62に固定されたモータ歯車66に噛合っている。インプット歯車5は、モータ60のトルクをリング歯車9に伝達するための歯車である。
【0032】
ここで、リング歯車9に噛合うインプット歯車5に、さらにモータ歯車66を噛合わせる構造の効果について説明する。上記したように、リング歯車9は、内歯歯車49の内側に配置されている。また、リング歯車9は、外歯歯車14X、14Yの間に配置されている。そのため、モータ60のトルクがリング歯車9に伝達される部分では、インプット歯車5と内歯歯車49がオーバーラップする。そのため、インプット歯車5とリング歯車9が噛合うために、内歯歯車49を軸線50方向に分割する必要がある(図1の符号49X、49Yを参照)。内歯歯車49Xには内歯ピン10Xが嵌めこまれている。内歯歯車49Yには内歯ピン10Yが嵌めこまれている。すなわち、内歯ピン10Xと内歯ピン10Yを別々に用意している。仮に、内歯歯車49が内歯歯車49Xと内歯歯車49Yに分割されている範囲が広いと、歯車伝動装置20を構成する部品数が増大してしまう。他方、リング歯車9とモータ歯車66を直接噛合わせる場合、別言すると、インプット歯車5をモータ60の出力軸62に固定する場合、モータ歯車66の径を大きくしなければいけない。又は、リング歯車9とモータ60の出力軸62の距離を短くしなければいけない。しかしながら、モータ歯車66の径を大きくすると、モータ歯車66の外周の曲率が小さくなってしまう。すなわち、モータ歯車66の径が大きくなる。そのため、内歯歯車49が内歯歯車49Xと内歯歯車49Yに分割されている範囲が広くなってしまう。その結果、歯車伝動装置20を構成する部品数が増大してしまう。リング歯車9とモータ歯車66の間にインプット歯車5を介在させることによって、内歯歯車49Xと内歯歯車49Yに分割されている範囲を狭くすることができる。インプット歯車5をモータ60の出力軸62に直接固定せずにモータ歯車66を利用することによって、結果として歯車伝動装置20全体の部品数を少なくすることができる。
【0033】
また、内歯歯車49Xと内歯歯車49Yに分割されている範囲が狭ければ、内歯ピン10Xと内歯ピン10Yを省略することもできる。より具体的にいうと、インプット歯車5と内歯歯車49がオーバーラップしている範囲では、外歯歯車14X、14Yが内歯歯車49に噛合っていない構造を採用することができる。内歯歯車49Xと内歯歯車49Yに分割されている範囲が狭く、且つ、内歯歯車49に加えられる回転トルクが比較的小さい場合、インプット歯車5と内歯歯車49がオーバーラップしている範囲以外の内歯歯車49のみで回転トルクを伝えることができる。この場合も、部品数の増加を防ぐことができる。リング歯車9とモータ60の出力軸62の距離を短くすると、モータ60が、支持部材26Yの外側面52を覆ってしまう。外側面52に被回転部材58を固定することができなくなってしまう。すなわち、キャリア26の両端に被回転部材を固定することができなくなってしまう。
【0034】
インプット歯車5にモータ歯車66を係合することによって得られる他の効果について説明する。上記したように、リング歯車9に係合するインプット歯車5を直接モータ60の出力軸62に固定する場合には、インプット歯車5の径を大きくすればよい。モータ付歯車伝動装置100では、ケース12とケース64が一体に形成されているので、モータ歯車66の径が大きくなると、モータ付歯車伝動装置100のサイズが大きくなってしまう。インプット歯車5の他にモータ歯車66を使用することによって、モータ60の出力軸62に固定する歯車(モータ歯車66)の径を小さくすることができる。これによって、モータ付歯車伝動装置100のサイズを小さくすることができる。また、モータの出力軸62にインプット歯車5を固定する場合に比べ、モータの出力軸62とクランクシャフト40の間の減速比を調整しやすくなる。
【0035】
次に、モータ付歯車伝動装置100の動作メカニズムについて説明する。なお、以下の説明では、複数個が存在する実質的に同一の部品、即ち、同一の数字にアルファベットを添えた符号を付した部品に共通した事象を説明する場合には、アルファベットの添え字を省略することがある。モータ60の出力軸62が回転すると、モータ歯車66、インプット歯車5、リング歯車9、中継歯車22及びクランクシャフト歯車36を介してクランクシャフト40が回転する。それらの部品が、モータ60の出力軸62の回転を減速してクランクシャフト40に伝達する。クランクシャフト40が回転すると、偏心体38が偏心回転する。換言すると、偏心体38の軸線が、クランクシャフト40の軸線50の周りを移動する。偏心体38が偏心回転すると、外歯歯車14が内歯歯車49の軸線50の周りを偏心回転する。外歯歯車14は、内歯歯車49と噛合いながら軸線50の周りを偏心回転する。そのため、外歯歯車14は、内歯歯車49との歯数差分だけ内歯歯車49に対して回転する。外歯歯車14の歯数と内歯歯車49の歯数(内歯ピン10の数)は異なる。そのため、外歯歯車14が内歯歯車49の軸線の周りを1周だけ偏心回転すると、外歯歯車14は、外歯歯車14と内歯歯車49の歯数差に対応する角度だけ内歯歯車49に対して相対的に回転する。また、上記したように、外歯歯車14の第1貫通孔45にキャリアピン26aが遊嵌されている。そのため、外歯歯車14が内歯歯車49の軸線50の周りを1周だけ偏心回転すると、キャリア26が、外歯歯車14と内歯歯車49の歯数差に対応する角度だけ内歯歯車49に対して相対的に回転する。
【0036】
具体的な例を挙げると、歯車伝動装置20の場合、外歯歯車14の歯数が39本であり、内歯歯車49の歯数(内歯ピンの数)が40本である。外歯歯車14が軸線50の周りを40回偏心回転(すなわち、クランクシャフト40が40回回転)すると、外歯歯車14は軸線50の周りを1回回転する。すなわち、クランクシャフト40が40回回転することにより、外歯歯車14が内歯歯車49に対して1回回転する。上記したように、外歯歯車14の第2貫通孔70に、キャリアピン26aが遊嵌している。そのため、クランクシャフト40が40回回転すると、キャリア26が軸線50の周りを1回回転する。別言すると、キャリア26がケース12に対して1回回転する。キャリア26の両端面(外側面28と外側面52)に固定されている被回転部材24、58を回転させることができる。なお、キャリア26の回転に伴って、中継歯車22が軸線50の周りを移動する。
【0037】
上記したように、クランクシャフト40は、外歯歯車14の中心に形成された第1貫通孔45を通過している。また、キャリアピン26aが、外歯歯車14の周方向に設けられた第2貫通孔70に遊嵌している。そのため、クランクシャフト歯車36を、リング歯車9に直接噛合わせることができない。本実施例の歯車伝動装置20では、キャリアピン26aに支持されている中継歯車22を採用することによって、リング歯車9のトルクをクランクシャフト歯車36に伝達することができる。
【0038】
歯車伝動装置20の特徴を説明する。外歯と内歯が形成されたリング歯車9と、キャリアピン26aに支持された中継歯車22を採用することによって、モータ60のトルクをリング歯車9の外側からクランクシャフト40へ伝達することができる。すなわち、モータ60のトルクをクランクシャフト歯車36へ伝達するためのインプット歯車5を、キャリアピン26aよりも軸線50の径方向の外側に配置することができる。キャリア26の軸線50方向の外側にインプット歯車5を配置する必要がない。キャリア26の軸線50方向の外側面をケース12から露出させることができる。すなわち、支持部材26Xの外側面28と支持部材26Yの外側面52の双方を露出させることができる。これによって、歯車伝動装置20は、軸線50方向の両側に被回転部材を固定させる出力部を有する。
【0039】
歯車伝動装置20の他の特徴について説明する。
(1)図1に示すように、偏心体38X、38Yと円筒ころ軸受の間に夫々、スペーサリング42が配置されている。スペーサリング42によって、クランクシャフト40が軸線50方向に移動することを抑制することができる。
(2)ケース64には、孔68が形成されている。孔68が形成されているので、ケース64内でインプット歯車5とモータ歯車66を噛合わせることができる。孔68の一方はモータ60が塞いでおり、他方はカバー4が塞いでいる。
(3)一対の支持部材26X,26Yの中心に貫通孔32が形成されている。支持部材26Xと26Yの間には、中空部材34が配置されている。中空部材34の貫通孔が貫通孔32に連通しているので、外側面52と外側面28の間を、配線や配管等を通過させることができる。
【0040】
なお、図2に示すように、クランクシャフト40の貫通孔72と中空部材34の間には隙間が存在する。そのため、中空部材34によって、クランクシャフト歯車36の回転が妨げられることはない。
【0041】
歯車伝動装置20の好適な変形例をいくつか記す。実施例では、クランクシャフト40が、一対の深溝玉軸受30によって、一対の支持部材26X、26Yに回転可能に支持されている。しかしながら、クランクシャフトは、必ずしも一対の支持部材26X、26Yに支持されていなくてもよい。例えば、歯車伝動装置の軸線方向に貫通孔を有するクランクシャフトを用意し、一対の支持部材を円柱状のキャリアピンで連結し、そのキャリアピンが軸受を介してクランクシャフトの貫通孔に嵌合していてもよい。その場合でも、クランクシャフトを、一対の支持部材に対して回転可能にすることができる。すなわち、クランクシャフトは、キャリアに対して回転可能に支持されていればよい。
【0042】
リング歯車の外径は、内歯歯車の内径よりも大きくてもよい。内歯歯車の内径に制限されることなく、リング歯車の外径を自由に選択することができる。その結果、モータの出力軸とクランクシャフトの間の減速比を自在に設定することができる。
【0043】
実施例では、モータ歯車66とインプット歯車5によって、モータ60のトルクをリング歯車9に伝達している。モータ60の出力軸62とリング歯車9の間に、さらに多くの歯車列を配置してもよい。例えば、遊星歯車機構を有する歯車列を配置してもよい。これにより、より大きな減速比を得ることができる。
【0044】
クランクシャフト歯車36は、偏心体38Xと38Yの間でクランクシャフト40に固定されていなくてもよい。クランクシャフトの軸線方向の一方に偏心体を設け、他方にクランクシャフト歯車を固定してもよい。この場合、歯車伝動装置の軸線方向の一方に外歯歯車が位置し、他方にクランクシャフト歯車が位置する。そのため、内歯歯車を軸線方向に分割することなく、モータのトルクをクランクシャフト歯車に伝達することができる。
【0045】
中継歯車22を支持するキャリアピン26aを、他のキャリアピンとは異なる構成にしてもよい。例えば、中継歯車22を支持するキャリアピンの直径を他のキャリアピンよりも小さくし、中継歯車22を支持することと一対の支持部材を連結することだけに使用してもよい。この場合、中継歯車22を支持するキャリアピンのローラ16(16X,16Y)を省略することができる。また、キャリアピンを、トルクを伝達するキャリアピンと、一対の支持部材を連結するだけのキャリアピンとに分けてもよい。この場合、一対の支持部材を連結するだけのキャリアピンのローラ16を省略することができる。
【0046】
実施例の歯車伝動装置20は、次の通り表現してもよい。歯車伝動装置20は、ケース12に固定されている内歯歯車49、キャリア26、中継歯車22、クランクシャフト40、内歯歯車49と噛合っている外歯歯車14X(14Y)、及び、リング歯車9を備えている。キャリア26は、内歯歯車49と同軸に配置されているとともにケース12に回転可能に支持されている。またキャリア26は、対向する一対の支持部材26X、26Yが軸線50からラジアル方向にオフセットした位置で軸線50に沿って延びるキャリアピン26aによって連結されている構造を有している。中継歯車22は、キャリアピン26aに回転可能に支持されている。クランクシャフト40は、一対の支持部材26X、26Yの間でキャリア26に回転可能に支持されている。クランクシャフト40は、キャリア26の軸線50と同軸に延びている。クランクシャフト40は、偏心体38X(38Y)とクランクシャフト歯車36を有している。クランクシャフト歯車36は、中継歯車22と噛合っている。外歯歯車14X(14Y)は、一対の支持部材26X、26Yの間に配置されている。外歯歯車14X(14Y)の中心に、偏心体38X(38Y)と嵌合する第1貫通孔が設けられている。外歯歯車14X(14Y)の中心からオフセットした位置に、キャリアピン26aが遊嵌する第2貫通孔が設けられている。外歯歯車14X(14Y)は、クランクシャフト40の回転に伴って内歯歯車49と噛合いながら偏心回転する。リング歯車9は、内歯歯車49と同軸に配置されている。リング歯車9は、内周面と外周面の夫々に歯が形成されている。内周面の歯(内歯)は、中継歯車と噛合っている。外周面の歯(外歯)は、モータのトルクを伝達するためのインプット歯車5と噛合っている。リング歯車9は、モータのトルクをキャリア26へ伝達する。各々の支持部材26X、26Yの軸線方向の外側面がケース12から露出している。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
5:インプット歯車
9:リング歯車
12:ケース
14X,14Y:外歯歯車
20:歯車伝動装置
22:中継歯車
26:キャリア
26a:キャリアピン
26X、26Y:支持部材
36:クランクシャフト歯車
38X、38Y:偏心体
40:クランクシャフト
45:第1貫通孔
49:内歯歯車
70:第2貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに固定されている内歯歯車と、
内歯歯車と同軸に配置されているとともにケースに回転可能に支持されており、対向している一対の支持部材が軸線に沿って延びているキャリアピンによって連結されているキャリアと、
キャリアピンに回転可能に支持されている中継歯車と、
一対の支持部材の間でキャリアに同軸に回転可能に支持されており、中継歯車に噛合っているクランクシャフト歯車と偏心体を有するクランクシャフトと、
一対の支持部材の間に配置されており、中心に形成されている第1貫通孔に前記偏心体が嵌合されているとともに、中心からオフセットされた位置に形成されている第2貫通孔にキャリアピンが遊嵌されており、クランクシャフトの回転によって内歯歯車と噛合いながら偏心回転する外歯歯車と、
内歯歯車と同軸に配置されているとともに内歯歯車に対して回転可能であり、外周面と内周面に歯が形成されており、内周面の歯が中継歯車に噛合っているとともに外周面の歯がモータのトルクを伝達するインプット歯車と噛合っているリング歯車と、を備えており、
各々の支持部材の軸線方向の外側面がケースから露出していることを特徴とする歯車伝動装置。
【請求項2】
中継歯車は、キャリアの軸線の周方向に等間隔に複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の歯車伝動装置
【請求項3】
リング歯車が、一方の支持部材の外側面と他方の支持部材の外側面の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−255749(P2010−255749A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106519(P2009−106519)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】