説明

歯車

【課題】樹脂製歯車の加工を簡素化するとともに、高温下での使用における繊維構造体の寸法変化を低減することにより、樹脂と繊維構造体との接着剥離による強度低下を抑制した歯車を提供する。
【解決手段】スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて繊維構造体を得て、当該繊維構造体を用いて歯車を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車に関する。さらに詳しくは、力学特性に優れ、高温加工時または高温雰囲気下での使用における収縮やガスの発生を低減した新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維からなるからなる繊維構造体を補強材として用いた、繊維強化樹脂製の歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドは、耐熱性に優れ、かつ、難燃性に優れていることがよく知られている。かかる全芳香族ポリアミドのなかでも、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。
【0003】
前記特徴を利用して、高温環境下での歯車の補強材料として、歯車の噛み合い時に生ずる騒音の解消や軽量化等を目的として、歯部にメタアラミド繊維強化樹脂複合体を用いることが検討されている。しかしながら、樹脂の熱硬化収縮よりも繊維の熱収縮率が大きいため、高温下で使用される樹脂歯車の寸法変化が大きくなるという課題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、シート状の布帛を棒状に巻き、次いで、該棒状体の両端部を接続してドーナツ状に成形した補強材が開示されている。特許文献1においては、繊維構造体の熱収縮率を減少させる目的で、樹脂含浸前のメタアラミド繊維構造体を、真空又は不活性ガス雰囲気下において250℃〜300℃の温度で熱処理し、予め熱収縮させている。しかしながら、この方法によれば、加工コストの増加や、繊維物性の強度低下、さらには、ドーナツ状繊維構造体の接合部分(非連続部分)の部分的な機械的強度低下等の問題があった。
【0005】
そこで、特許文献2には、筒状の平織物を使用して機械的強度を均一にした補強材が開示されている。しかしながら該織物は、伸縮性に乏しいために取扱性が悪く、織物をその長手方向に巻いてドーナツ状の繊維構造体を形成することが困難であった。このため、補強材への樹脂の含浸斑が発生し、歯車全周にわたって機械的強度を安定化させることが困難という問題があった。
【0006】
さらに、特許文献3には、ドーナツ状の繊維構造体の形成を容易にし、機械的強度を安定化するため、アラミド繊維からなる紡績糸を筒状に編成したものを補強材として用いることが開示されている。筒状に織られた布が裏返されながら巻き込まれてドーナツ状に繊維複合体が形成されるため、接合部分(非連続部分)が存在しなくなり、樹脂を含浸して歯車を構成する合成樹脂製歯車において、歯車の全周にわたって機械的強度が均一化できる。また、特許文献4においては、樹脂の含浸斑を抑制するために、繊維構造体を形成する紡績糸の構成を改良する方法が開示されている。特許文献4によれば、歯車の全周にわたって機械的強度が均一化され、かつ、樹脂を含浸するときの斑を抑制することができる。しかしながら、特許文献3および特許文献4のいずれにおいても、従来の湿式紡糸法を採用し、残存溶媒量が多いメタアラミド繊維が用いられているため、高温使用時においてメタアラミド繊維が大きく収縮するという問題は、解決されていないのが現状であった。
【0007】
ここで、特許文献5および特許文献6には、層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。特許文献5および6に記載されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物の配合により、残存溶媒量の低い繊維となる。しかしながら、これら層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、メタ型芳香族ポリアミドの特徴である絶縁性が低く、さらに、切断加工や撚糸加工時に層状粘土鉱物が脱落して飛散する場合があった。そこで、当該繊維を歯車の繊維構造体として用いる場合にあっても、層状粘土鉱物の脱落・飛散という問題が生じることが予想される。
【0008】
さらに、特許文献7には、繊維中に残存する溶媒量が1.0重量%以下であって、300℃での乾熱収縮率が3%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする高温加工性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。しかしながら、特許文献7においては、破断強度が4.5cN/dtex以上の繊維は報告されておらず、高い破断強度および寸法安定性については、さらなる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−106646号公報
【特許文献2】特開平10−29985号公報
【特許文献3】特開平8−156124号公報
【特許文献4】特開2002−113788号公報
【特許文献5】特開2007−254915号公報
【特許文献6】特開2007−262589号公報
【特許文献7】国際公開第2007/089008号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の背景技術に鑑みてなされてものであり、その目的とするところは、樹脂製歯車の加工を簡素化し、高温下での使用における繊維構造体の寸法変化を低減することにより、樹脂と繊維構造体との接着剥離による強度低下を抑制した歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を達成する手段について鋭意研究の結果、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて繊維構造体を得て、当該繊維構造体を用いて歯車を作製することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を樹脂で含浸してなる繊維強化合成樹脂からなる歯車であって、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである歯車である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯車は、熱収縮を低減するためのメタ型全芳香族ポリアミド繊維構造体の処理を必要としないため、その加工を簡素化することができる。また、強度を有しつつ、高温下における収縮が抑制されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて製造されるため、高温下での使用における繊維構造体の寸法変化が低減され、樹脂と繊維構造体との接着剥離による強度低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0015】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が一定の範囲にあり、かつ、繊維中に残存する溶媒の量が非常に少ないものである。具体的には、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であって、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである。このため、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、従来のメタ型全芳香族ポリアミド繊維と比較して、高温下での加工および使用にあっても熱収縮率が低減され、高温環境下における樹脂と繊維構造体との接着剥離を抑制することができる。
【0016】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.5質量%以下であることがより好ましい。特に好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
【0017】
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、200℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に大きく収縮するため、樹脂との接着部分における剥離が発生するため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下にするためには、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施する。
なお、本発明における「繊維中に残存する溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0018】
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0019】
〔破断強度〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexの範囲である。4.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが必須であり、5.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。らには、5.7〜6.0cN/dtex、5.8〜6.0cN/dtexの範囲であることが特に好ましい。破断強度が4.5cN/dtex未満である場合には、得られる歯車の使用に耐えられない。一方、6.0cN/dtexを超える場合には、伸度が大幅に低下し、製品の取扱が困難になる等の問題が発生する。
【0020】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、「破断強度」を上記範囲内にするためには、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施する。
【0021】
なお、本発明における牽切加工前の「破断強度」とは、JIS L 1013に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0022】
〔破断伸度〕
本発明で用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断伸度が15%以上であることが好ましく、18%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。破断伸度が15%未満である場合には、紡績等の後加工工程における工程通過性が低下するため好ましくない。
【0023】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有さず緻密な凝固形態とすることにより制御することができる。15%以上とするためには、凝固液を、アミド系溶媒、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)の濃度が45〜60質量%となる水溶液とし、浴液の温度を10〜50℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1013に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0024】
〔300℃乾熱収縮率〕
さらに、本発明で用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、1.0〜4.0%の範囲であることがさらに好ましい。300℃乾熱収縮率が大きい場合には、形成した繊維構造体が高温に曝されると繊維の収縮が起こり、歯車の歯部内における繊維構造体と樹脂と間の亀裂の発生を抑制することができる。特に好ましくは0.1〜3.0%の範囲である。
【0025】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記300℃乾熱収縮率を5.0%以下にするには、後記する製造方法において、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすればよい。310℃未満では乾熱収縮率が大きくなり、335℃より高いとポリマーの熱劣化による強度低下と着色が生じる。
なお、本発明における「300℃乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0026】
(300℃乾熱収縮率の測定方法)
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0027】
〔初期弾性率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmであることが好ましく、900〜1,500cN/mmの範囲であることがさらに好ましい。初期弾性率が800〜1,500cN/mmの範囲にあれば、形成した繊維構造体が外力により変形しにくくなることから、寸法精度を向上することができ、得られる樹脂製歯車における補強効果が向上する。
【0028】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記初期弾性率を800〜1,500cN/mmにするには、後記する製造方法の可塑延伸工程において、3.0〜10.0倍の範囲で可塑延伸を実施すればよい。延伸倍率が3.0倍未満の場合には初期弾性率が未達となり、一方で、10.0倍より高倍率とした場合には糸切れが多発し、工程調子が悪化する。
なお、ここでいう「初期弾性率」とは、JIS L 1013に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0029】
〔断面形状および単繊維の繊度〕譲渡
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の断面形状は、円形、楕円形、その他任意の形状であってよい。また、単繊維の繊度(単糸繊度)は、特に制限されるものではないが、2.2dtex以下であることが好ましい。2.2dtexを超える場合には、ドーナツ状の繊維構造体が硬くなり、加工性の低下および樹脂含浸斑が発生しやすくなるため好ましくない。
【0030】
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の材料となるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0031】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0032】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、メタ型全芳香族ポリアミド、およびメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する際、意図して層状粘土鉱物を添加しないことを意味する。濃度は特に規定されないが、例えば、0.01質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0001質量%以下である。
【0034】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0035】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
【0036】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られた芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0037】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらの溶媒のなかでは溶解性と取扱安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0038】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ型全芳香族ポリアミドで、溶媒がNMP等のアミド系溶媒である場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0039】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1,000〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
【0040】
本発明に用いられる繊維を得るために用いる凝固浴としては、実質的に無機塩を含まない、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜50℃の範囲で用いる。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このためやはり、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
【0041】
ここで、実質的に塩を含まない凝固液としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
【0042】
凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
かかる紡糸・凝固工程により、凝固浴中で多孔質のメタ型全芳香族ポリアミドの凝固糸からなる繊維(トウ)が形成され、その後、凝固浴から空気中へ引き出される。
【0043】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
【0044】
例えば、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類が実質的に含まれない水溶液を用いることができ、工業的には、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の単独溶媒、または、NMPを含む2種以上からなる混合溶媒を用いることが特に好ましい。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
【0045】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0046】
本発明に用いられる繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜10.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは4.0〜6.5倍の範囲とする。本発明においては、可塑延伸浴中の延伸を当該倍率の範囲で行い、延伸による分子鎖配向を高くすることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
【0047】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、5.0cN/dtex以上の破断強度を有する繊維を得ることが困難となる。一方で、延伸倍率が10.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、20〜90℃の範囲が好ましい。温度が20〜90℃の範囲にある場合には、工程調子が良いため好ましい。さらに好ましくは20〜60℃である。
【0048】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0049】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
【0050】
繊維中に溶媒が残っている場合には、高温下での繊維の着色または変色(特に黄変)を抑制することができず、また、物性低下や収縮、限界酸素指数(LOI)の低下等が生じる。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、1.0質量%以下とする必要があり、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0051】
[乾熱処理工程]
本発明に用いられる繊維を得るためには、上記洗浄工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは100〜200℃の範囲で、乾燥熱処理する。
【0052】
洗浄工程の後、乾燥熱処理を引き続いて施すと、ポリマーの流動性を適度に向上させ、配向が進む一方で結晶化を抑制し、繊維の緻密化を促進することができる。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラー等の繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0053】
[熱延伸工程]
本発明に用いられる繊維を得るためには、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、310〜335℃で熱処理を加えながら、1.1〜1.8倍の延伸を実施する。熱延伸工程における熱処理温度が335℃を超える高温の場合には、糸が着色し、また、激しく劣化して、破断強度が下回るばかりか、場合によっては断糸することがある。一方、310℃を下回る温度では、繊維の十分な結晶化を達成することができず、所望の繊維物性すなわち破断強度等の力学的特性および熱的特性を発現することが困難となる。
【0054】
熱延伸工程における処理温度と得られる繊維の密度とには、密接な関係がある。特に良好な繊維密度の製品を得るためには、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすることが好ましい。また、熱延伸工程における熱処理温度を310〜335℃の範囲とすることにより、300℃乾熱収縮率が5.0%以下の繊維を得ることができる。なお、熱処理は、乾熱処理とすることが特に好ましく、熱延伸工程における熱処理温度は、熱板、加熱ローラー等の繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0055】
また、熱延伸工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度および弾性率の発現に密接な関係がある。本発明に用いられる繊維を得るためには、通常、1.1〜1.8倍、好ましくは1.1〜1.5倍の範囲に設定する必要があり、当該範囲とすることで、良好な熱延伸性を保持しつつ、必要となる強度および弾性率を発現させることができる。
【0056】
<繊維構造体>
本発明の歯車を形成する繊維構造体は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて作製される。繊維構造体は、例えば、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む紡績糸から、円筒状に織編成した円筒状織編布を得た後、該円筒状織編布をその長手方向に巻いてドーナツ状の構造体としたものである。
【0057】
[繊維構造体の構成]
本発明の歯車を形成する繊維構造体は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維のみから作製されてもよいが、さらなる強度向上を目的として、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維の他に、より高い強度を有する有機または無機繊維を含ませて複合化することも可能である。他の繊維を含ませる場合には、その配合量は、得られる繊維構造体全体に対して、好ましくは20〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%の範囲である。
【0058】
他の繊維としては、例えば、全芳香族ポリエステル繊維(高強力ポリアリレート繊維を含む)、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO繊維)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、ポリイミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維等を挙げることができる。複合化の方法としては、例えば、強度が高い繊維を芯部、強度の低い繊維を鞘部として、芯鞘複合糸条とする方法等が挙げられる。
【0059】
[繊維構造体の形状]
本発明の歯車を形成する繊維構造体は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含むフィラメントからなる連続糸条、または上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を材料として含む紡績糸から織物または編物を構成し、当該織物または編物をシート状に加工し、これを棒状に巻いた後に、これを曲げてリング状にする方法や、予め筒状に加工した円筒状の織物または編物を、裏返しまたは表返しながら巻き込んでドーナツ状に加工する方法等を例示することができる。なかでは、全周方向の均一性が高いことから、ドーナツ状に加工する後者の方法を採用することが好ましい。ここで「ドーナツ状」とは、円筒状の織編布の一端から裏返し、あるいは表返しながら、巻き上げた状態を意味する。本発明においては、円筒状の織編布の両端から裏返し、あるいは表返しながら巻き上げて、二重のドーナツ状に形成してもよく、また、裏返し、あるいは表返しに折って二重にした後、裏返し、あるいは表返しながら巻き上げてもよい。さらに、ドーナツ状に加工する前の円筒状の織編布に、予め熱硬化性樹脂を含浸、乾燥して半硬化状態とした後に、巻き上げ等の加工を行うこともできる。巻き上げに際しては、織編布を円柱等にかぶせて張力を掛けながら実施すると、シワになりにくいために取扱性が向上し、また、一定の寸法を有するドーナツ状の繊維構造体が得られるため好ましい。
【0060】
また、織編成する際に、編組織を丸編とし、編目長を0.1〜0.4インチ、好ましく0.2〜0.3インチの範囲とし、かつ、編地密度をコース、ウエールともにそれぞれ10〜40/インチの範囲、好ましくは20〜30/インチの範囲とすると、さらに巻き上げが容易となり、樹脂の含浸性が著しく良好となるため、十分な曲げ強度を兼ね備えた歯車を成形することができる。
【0061】
編地密度が上記範囲より大きい場合には、伸縮性が無いために巻き上げる際の取扱性が悪化し、得られる歯車において十分な機械的強度が得られない場合がある。一方で、編地密度が上記範囲より小さい場合には、編成時の原糸摩擦が大きくなるため、編成自体が困難となる上、巻き上げる際にシワが発生し、その結果、含浸性にばらつきが生じる場合がある。
【0062】
織編布を構成する繊維には、通常、紡績や編織の工程安定性を向上させることを目的として、種々の原糸油剤が付着している。この原糸油剤を洗浄するために、編織後、公知の界面活性剤(精練剤)を用いて織編布を精練加工することが好ましい。精練加工時に用いる界面活性剤の糸に対する付着量は、得られる繊維構造体への樹脂の含浸性、および得られる歯車の機械的強度に大きく寄与する。すなわち、精練剤の付着量が少なすぎる場合には、樹脂の繊維構造体への含浸性が悪化し、一方で、精練剤の付着量が多すぎる場合には、繊維構造体と樹脂との界面接着性が悪くなり、得られる歯車の機械的強度が低下する。
【0063】
上記界面活性剤(精錬剤)の好ましい付着量は、繊維質量に対して0.01〜0.5質量%である。付着量を制御する方法としては、界面活性剤の濃度を変えたり、水洗時間や水洗回数を変えたり、通常の精練後に界面活性剤を付着させる等の方法が挙げられる。ここで用いる界面活性剤(精錬剤)は、樹脂との親和性がよく、得られる歯車の機械的強度への影響が少ないものであれば特に限定されるものではなく、公知の陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等が好ましく例示される。
【0064】
<歯車>
本発明の歯車は、好ましくはドーナツ状に巻き上げられた繊維構造体を金型に配置し、該金型に液状樹脂を注入して、樹脂を繊維構造体に含浸させることにより成形される。ここで、事前に金型を減圧状態にしておく、あるいは、金型の温度を上げておくことで、樹脂の繊維構造体への含浸性を向上させることができる。また、繊維構造体に熱硬化性樹脂を含浸、乾燥させて半硬化状態とした後、これを金型に配置して成形してもよい。
なお、本発明の歯車の成形にあたっては、一般に、機械切削により歯部を成形するが、歯車型の金型を用いた金型成形を行ってもよい。
【0065】
歯車の製造に用いられる樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドアミノ樹脂、PES(ポリエーテルサルフォン)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、CPレジン(架橋ポリエステルアミド、架橋ポリアミノアミド)等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断らない限り「質量」に基づくものであり、「量比」は、特に断らない限り「質量比」を示す。さらに、紡糸に用いる重合体溶液(紡糸原液)における重合体濃度(PN濃度)は、「全質量部」に対する「重合体の質量%」、すなわち、[重合体/(重合体+溶媒+その他)]×100(%)である。
【0067】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0068】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0069】
[繊度]
JIS L 1013に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0070】
[破断強度、破断伸度、初期弾性率]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で単糸の強度を測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0071】
[繊維中に残存する溶媒量(残存溶媒量)]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0072】
[300℃乾熱収縮率]
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0073】
[紡績糸の破断強度]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1095に基づき、以下の条件で強度を測定した。なお、このときの撚り数は、200t/mとした。
(測定条件)
つかみ間隔 :250mm
初荷重 :7.4cN/dtex
引張速度 :250mm/分
【0074】
[歯車における樹脂と繊維構造体との接着性]
繊維強化樹脂複合体を、真空オーブンにて300℃で1時間熱処理した後に、歯部を形成するために切削して、歯車を作製した。走査型電子顕微鏡を用いて、得られた歯車の断面について、繊維構造体を形成する繊維と樹脂との間に亀裂(マイクロクラック)が発生しているか否かを観察した。
【0075】
[歯車の曲げ強度]
JIS−K7171に従い、常温3点曲げ試験を実施した。試験は、試験片が破損するまでの最大荷重で評価し、これを3点曲げ強度とした。
【0076】
<実施例1>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(IV)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
【0077】
[紡糸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1,500の紡糸口金から、浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP(量比)=45/55であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0078】
[可塑延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP(量比)=40/60の組成の可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0079】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP(量比)=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)、60℃の温水浴(浸漬長5.4m)、さらに、80℃の温水浴(浸漬長3.6m)に、順次通して、十分に洗浄を行った。
【0080】
[乾燥熱処理工程]
洗浄後の繊維について、引き続き、表面温度150℃の熱ローラーにて乾燥熱処理を実施した。
【0081】
[熱延伸工程]
引き続き、表面温度330℃の熱ローラーにて熱処理を加えながら、1.3倍に延伸する熱延伸工程を実施し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0082】
[測定・評価]
得られた繊維に対し、各種の測定評価を実施した。繊度は2.1dtex、破断強度は5.5cN/dtex、破断伸度は24.0%であり、いずれも良好な数値を示した。また、繊維中の残存溶媒量は0.4%、300℃乾熱収縮率は3.9%、初期弾性率は1250cN/mmであり、優れた熱収縮安定性を示した。得られた結果を表1に示す。
【0083】
[紡績糸の作製]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウ(総繊度11万Dtex)に押込捲縮を付与した後、2インチにカットし、通常の紡績工程を通して20番手の紡績糸を得た。
得られた紡績糸の破断強度は、3.5cN/dtexであり、紡績糸として優れた破断強度を示した。
【0084】
[繊維構造体の作製]
該紡績糸を、編目長約0.2インチ、かつコース30/インチ、ウエール25/インチの編地密度にて筒編し、筒編布を得た。
界面活性剤として北広ケミカル製スコアロールを用いて、得られた筒編布を精錬加工し、筒編布の界面活性剤の付着濃度を0.03%とした。その後、この筒編布を一端から裏返しながら巻き上げることによりドーナツ状の繊維構造体を形成した。
【0085】
[歯車の作製]
得られた繊維構造体を、約200度に加温した金型に配置し、減圧下で、ポリアミドアミノ樹脂を注入して含浸させた。次いで該樹脂を硬化させて、繊維強化樹脂複合体を成形した。得られた繊維強化樹脂複合体を機械切削して歯部を形成し、歯車を作製した。
得られた歯車を用いて、曲げ強度の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
<実施例2>
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更してポリマー溶液を製造し、これを紡糸原液に用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0087】
<比較例1>
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=70/30へ変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0088】
<比較例2>
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0089】
<実施例3>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP721.5部を秤量し、このNMP中にメタフェニレンジアミン97.2部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したNMP溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を行った。なお、粘度変化が止まった後、40分攪拌を継続し、重合反応を完了させた。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加えて、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間撹拌し、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.25であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、20%であった。
【0090】
[紡糸工程・可塑延伸工程・多段洗浄工程・乾燥熱処理工程・熱延伸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、紡糸工程における糸速を5m/分とし、可塑延伸工程における可塑延伸浴中の延伸倍率を6.5倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0091】
[歯車の作製]
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0092】
<実施例4>
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマー溶液を製造し、得られたポリマー溶液を紡糸原液として、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0093】
<比較例3>
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=30/70へ変更した以外は、実施例3と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0094】
<比較例4〜5>
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更したこと以外は、それぞれ実施例3および実施例4と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にして紡績糸を製造し、当該紡績糸から繊維構造体を経て、歯車を作成した。得られた紡績糸の破断強度、および歯車の接着性評価結果を、表1に示す。
【0095】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を樹脂で含浸してなる繊維強化合成樹脂からなる歯車であって、
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである歯車。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下である請求項1記載の歯車。
【請求項3】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmである請求項1または2記載の歯車。
【請求項4】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維構造体を形成し、
前記繊維構造体は、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む紡績糸から、円筒状に織編成した円筒状織編布を得た後、該円筒状織編布をその長手方向に巻いてドーナツ状の構造体としたものである請求項1から3いずれか記載の歯車。

【公開番号】特開2011−226617(P2011−226617A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98941(P2010−98941)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】