説明

段階的膜酸化反応器システムの操作

【課題】多段イオン輸送膜酸化システムを操作する方法を提供する。
【解決手段】本方法は、第1膜酸化段と第2膜酸化段を少なくとも含む多段イオン輸送膜酸化システムを用意する工程、前記第1膜酸化段の特性温度及び前記第2膜酸化段の特性温度を含む操作条件で前記イオン輸送膜酸化システムを操作する工程、並びに前記第1膜酸化段の特性温度を変化させ及び/又は前記第2膜酸化段の特性温度を変化させることによって生産能力及び/又は生成物品質を制御する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦支援の研究又は開発に関する陳述]
本発明は、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社と米国エネルギー省との間の契約第DE−FC26−97FT96052号のもと、政府の支援とともに行われたものである。政府は、本発明において一定の権利を有するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックのイオン輸送膜に酸素イオンを透過させることは、高温酸化反応器システムの設計及び操作の基礎を成す。この反応器内で、透過した酸素は被酸化性の化合物と反応することにより、酸化又は部分酸化された反応生成物を形成する。これらの酸化反応器システムを実際に適用するためには、広い表面積、酸化剤フィードガスと膜の酸化剤側とを接触させるための流路、反応体フィードガスと膜の反応体側とを接触させるための流路、及び、膜の透過側から生成ガスを引き出すための流路を有する膜集成体が必要となる。これらの膜集成体は、ガス流動パイプを有するモジュールとして配列された集成された数多くの個々の膜を含むことができ、このパイプは、モジュール内にフィードガスを導入し、そしてモジュールから生成ガスを引き出すのに適している。イオン輸送膜集成体は、例えば平面状又は管状の形態で製作されてよい。
【0003】
イオン輸送膜(ITM)酸化反応器システム内の合成ガス(syngas)の生成は、酸素分離のための単位操作と、高温合成ガス発生のための単位操作とを組み合わせて単一プロセスにする。ITM酸化反応器システム又はITM合成ガス反応器内では、酸素は膜のカソード側で酸素含有流、例えば空気から混合物導電膜を選択的に透過することにより、続いて膜のアノード側で反応体と反応する。主要な反応体は酸素、蒸気、炭化水素、蒸気と炭化水素フィードガスとからなる予め改質された混合物、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、及び/又は二酸化炭素含有ガスを含んでよい。
【0004】
このプロセス中には、合成ガス生成物を生成するための部分酸化、完全酸化、水蒸気改質、二酸化炭素改質、及び水性ガスシフトを含む、数多くの発熱・吸熱反応が発生する。ITM酸化反応器は典型的には、狭い温度範囲、例えば700℃〜1000℃(1292°F〜1832°F)で作業する。代表的な段階的ITM反応器システム及び操作が、“Staged Membrane Oxidation Reactor System”と題する米国特許出願公開第2008/0302013号明細書に記載されている。このシステムは、安定的なITM合成ガスプロセスを提供するように操作することができる。このプロセスは、生産能力の設計及び原料の有益な生成物への変換の設計を含む設計条件で、所要の温度制約内で作業するように制御することができる。
【0005】
ITM合成ガス反応器システムは、所望の生成物組成及び生成物流量を有する合成ガス生成物を産出するように設計されてよく、システムは好ましいフィード炭化水素変換率で作業する。設計条件は、申し分ない膜作業寿命全体にわたって、指定された生成物品質及び生産能力をもたらすように、所与の原料を用いた効率的な作業のために選択される。商業的な理由及び/又は操作上の理由で、所定の時間にわたって設計外又は代替の条件でITM反応器システムを操作することが必要となる場合がある。例えば、下流における合成ガス消費プロセスの要求が低いことにより、生産速度を低下させたターンダウン作業期間が必要とされることがある。別の例では、特定の操作上の理由から合成ガス組成を変化させることが必要とされる場合もある。時間を変化させるために設計外又は代替の操作が必要とされる他の状況も考えられる。
【0006】
膜に対する損傷を最小限に抑え、膜の寿命の潜在的な低下を最小限に抑え、そして所望の効率で所望の合成ガス生成物品質を提供するように、設計外又は代替の操作の時間中に用いられる操作条件を選択することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
設計外又は代替の操作条件でシステムを操作・制御する効果的、効率的なそして信頼性高い方法のために、ITM酸化反応器システムによる合成ガス発生技術が必要である。具体的には、直列に配列され操作される複数の段又は段の群を有するITM反応器システムのための設計外又は代替の操作法が必要である。本明細書中に開示され主張される本発明の実施態様は、これらの必要性に対処するための設計外又は代替の操作方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は多段イオン輸送膜酸化システムの操作方法に関する。
【0009】
下記開示のいくつかの態様がある。
【0010】
[態様1](a)第1膜酸化段と第2膜酸化段を少なくとも含む多段イオン輸送膜酸化システムであって、
(a1)前記第1膜酸化段が、反応体フィードガス入口と段間反応体ガス出口とを有する反応体ゾーンを含み、
(a2)前記第2膜酸化段が、前記第1膜酸化段の段間反応体ガス出口と流体連通する段間反応体ガス入口と、生成ガス出口とを有する反応体ゾーンを含み、そして
(a3)前記第2膜酸化段の反応体ゾーンと流体連通する段間フィードガス入口
をさらに含む多段イオン輸送膜酸化システムを用意する工程、
(b)前記第1膜酸化段の特性温度及び前記第2膜酸化段の特性温度を含む操作条件で、
(b1)反応体フィードガスを第1段の反応体フィードガス入口に導入し、
(b2)第1段の段間反応体ガス出口から段間反応体ガスを引き出し、該段間反応体ガスを前記第2膜酸化段の段間反応体ガス入口に導入し、
(b3)前記第2膜酸化段の段間フィードガス入口に反応体段間フィードガスを導入し、そして
(b4)前記第2膜酸化段の生成ガス出口から生成ガス流を引き出すこと
により前記イオン輸送膜酸化システムを操作して、ある生産能力及び生成物品質で以って生成ガスを提供する工程、並びに
(c)生産能力及び/又は生成物品質を制御する工程であって、
(c1)前記第1膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させること、
(c2)前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させること、
(c3)前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させること、
(c4)前記第1膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させること、
(c5)前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させること、
(c6)前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させること、
(c7)前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生成物品質を向上させること、
(c8)前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生成物品質を低下させること
からなる群より選択される方法によって前記第1膜酸化段の特性温度を変化させ及び/又は前記第2膜酸化段の特性温度を変化させることによって生産能力及び/又は生成物品質を制御する工程
を含む、多段イオン輸送膜酸化システムを操作する方法。
[態様2]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記第2膜酸化段及び/又は前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様3]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記第1膜酸化段及び/又は前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様4]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様5]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記第2膜酸化段及び/又は前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様6]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記第1膜酸化段及び/又は前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様7]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様8]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生成物品質を向上させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様9]前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生成物品質を低下させることによって制御される、態様1に記載の方法。前記多段イオン輸送膜酸化システムの残りの膜酸化段のうちのいずれの特性温度も実質的に変化させないままであってよい。
[態様10]前記反応体フィードガスが水及び1種又は2種以上の炭化水素を含み、前記反応体段間フィードガスが1種又は2種以上の炭化水素を含み、そして前記生成ガス流が水素及び一酸化炭素を含む、態様1〜9のいずれか1つに記載の方法。
[態様11]前記生産能力が前記生成ガス流中に含まれる水素と一酸化炭素の複合モル流量として規定される、態様1〜10のいずれか1つに記載の方法。
[態様12]生成ガスの品質が、
(a)前記生成ガス流中の水素のモル分率と一酸化炭素のモル分率を足し合わせること、
(b)前記反応体フィードガス及び反応体段間フィードガス中の1種又は2種以上の炭化水素の変換率、及び
(c)比(xCO+xH2)/(1−xH2O)(式中、xは指定成分のモル分率である)
のいずれかによって規定される、態様1〜11のいずれか1つに記載の方法。
[態様13]前記多段イオン輸送膜酸化システムの各段が、酸化剤ゾーンと、該酸化剤ゾーンから反応体ゾーンを隔てる1つ又は2つ以上のイオン輸送膜と、酸化剤ガス入口と、酸素欠乏酸化剤ガス出口とを含む、態様1〜12のいずれか1つに記載の方法。
[態様14]任意の段の酸化剤ガス入口に酸化剤ガスを導入し、その段から酸素欠乏酸化剤ガスを引き出すことを含む、態様13に記載の方法。
[態様15]任意の段の特性温度が、反応体フィードガス流量、反応体フィードガス組成、反応体フィードガス温度、反応体段間フィードガス流量、反応体段間フィードガス組成、反応体段間フィードガス温度、段間反応体ガス温度、及び任意の段に供給される酸化剤ガスの温度からなる群より選択される1つ又は2つ以上の操作パラメータを変化させることによって制御される、態様14に記載の方法。
[態様16]前記多段イオン輸送膜酸化システムが3〜500段を含む、態様1〜15のいずれか1つに記載の方法。
[態様17]前記多段イオン輸送膜酸化システムが100を超える段を含む、態様1〜15のいずれか1つに記載の方法。
[態様18]前記多段イオン輸送膜酸化システムが、任意の反応体ゾーンの内部及び/又は第1段と第2段との間の段間反応体ガス流路内に配置された1種又は2種以上の触媒を含む、態様1〜17のいずれか1つに記載の方法。
[態様19]前記1種又は2種以上の触媒が、酸化触媒、水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、及び水性ガスシフト触媒からなる群より選択される、態様18に記載の方法。
[態様20]前記反応体段間フィードガスと前記反応体フィードガスが同じ反応体ガス流の部分として提供される、態様1〜19のいずれか1つに記載の方法。
[態様21]前記反応体段間フィードガスと第1反応体フィードガスが異なる供給源から得られる、態様1〜19のいずれか1つに記載の方法。
[態様22]前記反応体段間フィードガスが二酸化炭素を含む、態様1〜21のいずれか1つに記載の方法。
[態様23]前記反応体フィードガス及び/又は前記反応体段間フィードガスが天然ガス及び/又は予め改質された天然ガスを含む、態様1〜21のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】開示された実施態様に従って操作することができる一般的なITM酸化システムを概略的に示すフロー図である。
【図2】開示された実施態様に従って操作することができる図1の実施態様の具体的な形態を概略的に示すフロー図である。
【図3】例1及び2に関して、反応器の段番号に対する平均膜温度をプロットした図である。
【図4】例1及び2に関して、反応器の段番号に対する平均合成ガス温度をプロットした図である。
【図5】例1及び2に関して、反応器の段番号に対する累積合成生産量をプロットした図である。
【図6】例1及び2に関して、反応器の段番号に対する累積酸素流量をプロットした図である。
【図7】例1及び2に関して、反応器の段番号に対するメタン原料変換率をプロットした図である。
【図8】例1及び2に関して、反応器の段番号に対する合成ガス純度をプロットした図である。
【図9】例3の多段ITM酸化システムの作業に関して、反応器の段番号に対する酸素フラックス及び酸素フラックス感度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
膜酸化反応器システムは典型的には、合成ガスを生成するために、部分酸化、完全酸化、水蒸気改質、二酸化炭素改質、水性ガスシフト、及び/又はこれらの反応の種々の組み合わせを利用する。これらの反応のうちの或るものは強発熱性であり、また他のものは吸熱性である。ITM酸化反応器システムは一般に、狭い操作温度範囲を必要とするので、発熱反応及び吸熱反応の適切な制御が必要となる。ITM酸化システムが設計外又は代替の条件で操作されるときには、適切な温度制御が重要であり、このような制御の方法を、段間フィードを伴う反応体段階的ITM酸化システムの操作に関連して下で説明する。段モジュールは直列に操作される。
【0013】
具体的にはメタンから合成ガスを生成するために、透過済酸素と反応性成分との間に発熱反応が発生するときには、個々の膜を横切る過剰の温度勾配が生じるのを防止するために、個々の膜を横切る反応体変換度を制限しなければならないことが判っている。また、膜が酸素を輸送するときには、膜の前縁と後縁との間で膜材料内に過剰の酸素空孔勾配が生じるのを防止するために、個々の膜を横切る酸素抽出量を制限しなければならないことも判っている。過剰な温度勾配又は酸素空孔勾配は、膜寿命を重度に制限するおそれのある過剰の応力を膜内に引き起こすことがある。
【0014】
このことは、各段における反応体変換が制御され、各モジュール内の膜を横切って抽出された酸素の量が、膜材料内の過剰の酸素空孔勾配を防止するのに十分に低く保たれ、そして所望の場合には、膜と接触する二酸化炭素の分圧が臨界分圧未満に維持されるように、複数の反応器段を活用することにより達成される。反応器段は、並列及び/又は直列に配列された複数の膜モジュールを含んでいてよい。それぞれの個々のモジュールを横切って抽出された酸素の量は、好適なモジュール・サイズ決定によって制限することができ、そして1つの段内部の所期の総酸素抽出度は、段内部の選択された複数のモジュールを操作することにより達成することができる。
【0015】
システム内の所期の総フィード変換率は、直列の複数の反応器段を利用し、各段における反応体変換度が選択された値で制御され、そして化学平衡に近づくように、各段を操作することにより達成することができる。このことは、反応体ガスの部分を多段反応器システムの2つ又は3つ以上の段内に導入し、各段が直列及び/又は並列に配列された複数の膜モジュールを含むことにより達成することができる。段におけるそれぞれの個々のモジュールを横切る反応体変換度は、適切なモジュール・サイズ決定及び/又はフィードガス流量によって制御することができる。下流の合成ガス変換プロセスから来た再循環ガス又は他の源から来た反応体ガスは、付加的な反応体ガスとして膜反応器システム内に導入することにより、変換率全体を高め、且つ/又は選択された段における温度を制御することができる。この再循環ガスは二酸化炭素を含有してよく、そして必要ならば、反応器内の任意の地点におけるこの二酸化炭素の分圧を、膜劣化を防止するように制御することもできる。再循環ガスが二酸化炭素を含有する特定の事例において、合成ガス生成物中のH2とCOとの比を制御するように、再循環ガス量を変化させることが好ましい場合がある。
【0016】
システム設計条件並びに設計外又は代替の条件で商業的用途のために合成ガスを生成する上で、ITM酸化反応器システムの効率的であり、フレキシブルであり、そして信頼性高い操作が必要される。本明細書中に記載された実施態様は、生産能力、生成物品質、及び原料の有益な生成物への変換が同時に且つ独立して制御されるように、設計外又は代替の条件における段階的膜酸化反応器システムの操作を制御する方法を提供する。設計外又は代替の操作時間中のITM酸化反応器システムの操作を制御することにより、生産能力を向上又は低下させ、生成物品質を向上又は低下させ、且つ/又は膜寿命を延ばすことが重要である。
【0017】
設計外又は代替の条件でITM膜酸化反応器システムを操作するときには、所期の設計外又は代替の生成速度及び生成物品質を達成しながら、上記問題点を回避するために膜温度を制御することが重大である。本明細書中に記載された実施態様は、段階的反応器システムを横切る温度プロフィールを調節することにより、生産能力及び原料の有益な生成物への変換を同時且つ独立して制御することができるように段階的膜酸化反応器システムを操作する方法を提供する。これらの方法は、段が、段のうちの少なくとも2つの間に段間フィードを伴って直列に操作される任意の多段ITM酸化反応器システムの操作の際に用いることができる。本明細書中に記載された実施態様の用途のためのシステム例が、米国特許出願公開第2008/0302013号明細書に開示されている。これを参考のため本明細書中に引用する。
【0018】
Wagner's Lawによって示唆される、イオン輸送膜を通る酸素フラックスは、膜の両側における酸素分圧の比の自然対数の駆動力、すなわちIn(PO2,1/PO2,2)に対して比例する。この駆動力依存は高いフラックス速度をもたらすものの、伝統的な圧力制御手段、例えば上流側の酸素含有流体圧力及び/又は下流側の流体圧力を変化させることによって酸素フラックスを制御するというような手段を用いた場合には、ITMイオン輸送膜反応器システムの能力制御を極めて難しくしてしまう。
【0019】
例えば、10psig(24.7psia、1.68atm)の21vol%酸素を含有する周囲空気フィードが提供され、そして酸素回収率85%で非透過酸素欠乏ガスを0psig(14.7psia、1atm)の大気に放出するITM酸化合成ガス反応器は、フィード空気中0.3528atm、及び非透過放出物中0.0383atmの典型的な酸素分圧を有している。膜反応器の反応体側における典型的な酸素分圧は、10-16atmのオーダーにあってよく、酸化反応が著しく高速であることにより、この酸素分圧を直接に制御することは極めて困難である。こうして、この例では、フィード末端駆動力In(PO2,1/PO2,2)は35.80であり、放出末端駆動力In(PO2,1/PO2,2)は33.58であり、そして単純平均駆動力は34.69である。酸素含有フィードガスからの酸素回収率85%と関連する酸素濃度の大きな変化は、フィード空気から非透過放出物への酸素フラックスのための駆動力に対して公称6%の影響しか及ぼさない。
【0020】
フィード空気圧力を20psig(34.7psia、2.36atm)に倍加し、そして同じく10psiの圧力低下で操作することにより、同じ85%の酸素回収率で10psig(24.7psia、1.68atm)で放出を行うと、フィード末端駆動力In(PO2,1/PO2,2)37.70、放出末端駆動力In(PO2,1/PO2,2)34.10、及び単純平均駆動力35.90がもたらされる。フィード空気圧力を(かなりのコストで)倍加すると、単純平均酸素フラックス駆動力の変化は5%未満となる。生産能力を制御するためのフィード空気圧力の大きな変化を用いることは経済的でなく、商業用途のための設計及び操作性に潜在的な複雑さを取り込む。例えば、高圧操作のためのパイプを設計しなければならず、高圧での操作は圧縮及び関連動力を必要とし、またシステムの過剰圧力が発生するおそれがある。
【0021】
上記考察は、ITM膜酸化反応器システム内の酸素フラックス及び関連生産能力を制御するために、総圧力又は酸素分圧を一次パラメータとして使用することには深刻な限界があることを示している。低減された酸素フラックスでターンダウン操作を行うことを含む、設計外又は代替の条件でシステム操作を制御する別の方法について、下で説明する。
【0022】
下記定義は、本明細書中に定義された実施態様に対応する説明及び主張において使用される用語に当てはまる。
【0023】
イオン輸送膜モジュールは、ガスが膜構造の外面を横切って流れることができるように配置されたガス流入領域とガス流出領域とを有する複数のイオン輸送膜からなる集成体である。複数のイオン輸送膜は、ガスが膜構造の内面を横切って流れることができるように配置されたガス流入領域とガス流出領域とを有していてもよい。膜モジュールの流入領域から流出領域へ流れるガスは、これがモジュール内の膜構造の表面を通過するのにつれて、組成が変化してよい。各膜構造は酸化剤側又はカソード側とも記される、酸化剤ガスフィード側又はゾーンと、酸素イオンが膜を透過して反応体側で反応性成分と反応するのを可能にする活性膜層又は領域によって分離された反応体側、透過側又はアノード側とを有している。膜モジュール設計のタイプの一例において、各モジュールは内側領域と外側領域とを有しており、酸化剤ガスフィードは内側領域を流過し、そして反応体ガスは膜構造の外側領域を流過する。
【0024】
イオン輸送膜は、高温で酸素イオンを輸送するか又は透過させることができる混合金属酸化物を含むセラミック膜材料からなる活性層を含む。イオン輸送膜は、酸素イオンに加えて電子を輸送することもでき、そしてこのタイプのイオン輸送膜は典型的には混合導体膜と記される。イオン輸送膜は、高密度活性膜材料からなる層と、多孔質又はチャネル付き支持層からなる1つ又は2つ以上の層を含む複合膜であってもよい。
【0025】
多段膜酸化システム内の「段」、「反応段」、「膜酸化段」、及び「反応器段」という用語は等価であり、段内に並列及び/又は直列に配列された1つ又は2つ以上の膜からなる集成体として定義される。この場合、それぞれの段は(1)反応体側又は反応体ゾーン(これらの用語は等価である)、(2)酸化剤側又は酸化剤ゾーン、(3)酸化剤ゾーンを反応体ゾーンから分離する1つ又は2つ以上のイオン輸送膜、(4)反応体ゾーンと流体連通する反応体ガス入口又は入口領域、及び(5)反応体ゾーンと流体連通する反応体ガス出口又は出口領域を含む。より具体的には、それぞれの段は、反応体フィードガス入口又は入口領域(最初の段の場合)、段間反応体ガス流入口又は入口領域(最初の段でない場合)、段間反応体ガス流出口又は出口領域(最後の段でない場合)、及び生成ガス出口又は出口領域(最後の段の場合)を有することができる。それぞれの段はまた、酸化剤ゾーンと流体連通する1つ又は2つ以上の酸化剤ガス入口又は入口領域、及び、酸化剤ゾーンと流体連通する1つ又は2つ以上の酸素欠乏酸化剤ガス出口又は出口領域を有している。
【0026】
反応体ゾーンから酸化剤ゾーンを分離する1つ又は2つ以上のイオン輸送膜は、酸素イオンの膜透過を許し、そして高密度活性膜材料は、段の酸化剤ゾーンと反応体ゾーンとの間のガスのいかなる相当のバルク流も許さない。膜内の少量の許容し得る漏れがいくつかの事例において発生することがある。
【0027】
段は、反応体ガス流に関して直列及び/又は並列の流れ配列を成して配置された任意の数の個々の膜モジュールを有していてよい。反応体ガスは段入口内に導入され、段内のモジュールの間で分配され、そしてモジュールの反応体側を通過する。モジュールからの流出ガスが段出口を介して引き出される。段はそこで発生する反応を高めるために1種又は2種以上の触媒を含んでいてよく、触媒は酸化触媒、水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、及び水性ガスシフト触媒のうちのいずれかを含んでよい。触媒は(1)任意の段の反応体ゾーンの後、及び/又は(2)任意の段内部の任意の膜モジュールの下流側、及び/又は(3)任意の段内部の任意の膜モジュールの上流側、及び/又は(4)任意の段内部のモジュール内部又はモジュール間に任意の所望の形態を成して配置されてよい。
【0028】
多段膜酸化システムは、2つ又は3つ以上の段を含み、そして段の反応体側又は反応体ゾーンを通るガス流に関して直列に作業する。すなわちシステムは反応体段階的である。反応体段階的膜反応器システムは、システムを通る反応体ガス流に関して直列に配列された2つ又は3つ以上の膜段を含むシステムであって、反応体ガス流出物は、1つの段の出口領域からすぐ下流側の別の段の入口領域内に流れるものとして定義される。反応体フィードガスが最初の段に入り、そして生成ガスが最後の段から引き出され、そして段間反応体ガス流が、それぞれの直列段対の間を流れる。付加的な反応体ガスを含む反応体中間段フィードガスが、少なくとも1つの段間反応体ガス流中に導入されてよく、そして多段反応器システム内の段間反応体ガス流のうちのいずれかに導入されてよい。
【0029】
反応体ガスは、1種又は2種以上の反応性成分を含むガスであって、これらの反応性成分が、膜酸化反応器段の反応体ゾーン内で発生する反応(1)、及び膜反応器段の反応体ゾーンの後又は前の触媒領域内で発生し得る反応(2)のうちのいずれかに関与するものとして定義される。反応体ゾーン内の反応は、(1)膜を透過する酸素と反応性成分のうちのいずれかとの間、(2)反応性成分のうちのいずれかの間で発生してよい。これらの反応は、段階的反応器システムの任意の段から出口ガス又は生成ガスとして引き出すことができる反応生成物を形成する。
【0030】
「炭化水素」という用語は、少なくとも水素原子と炭素原子とを含む化合物として定義される。「含酸素炭化水素」という用語は、少なくとも水素原子と炭素原子と酸素原子とを含む化合物として定義される。
【0031】
「予め改質された天然ガス」という用語は、天然ガス流中の炭化水素の一部を触媒改質することから得られた反応生成物を意味する。予め改質された天然ガスは典型的には、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、及び水を含む。天然ガスは、下流側の改質プロセス又は部分酸化プロセスにおいてコークス化を排除する目的で、メタンよりも重い炭化水素を変換して分解するように予め改質することができる。「予め改質する」及び「予め改質された」という用語は、膜反応器システム内の更なる反応の前に炭化水素含有流を部分改質することを含む。「予め改質する」又は「予め改質された」という用語は、水及び/又は二酸化炭素と、炭化水素含有流中の炭化水素の一部、具体的にはメタンよりも重い炭化水素とを、改質生成物を形成するために触媒反応させることとして定義することもできる。
【0032】
1実施態様の場合、段階的反応器システムは、水素と一酸化炭素とを含む合成ガス生成物を生成するように操作される。この実施態様は、1種又は2種以上の炭化水素を含む第1反応体ガスと、水蒸気(気化水)を含む第2反応体ガスとを利用する。第1反応体ガスは、主としてメタンと、炭素原子数2〜6のより低い濃度の炭化水素とを含む天然ガスであってよい。別の第1反応体ガスは、天然ガスを水蒸気で予め改質する結果としての、メタンが豊富なガスであってよい。他の炭素質反応体ガスを別の用途で使用することもできる。任意には、酸素、窒素、水素、水、メタン、他の炭化水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素からなる群より選択された1種又は2種以上の成分を含む第3反応体ガスが使用されてもよい。第3反応体ガスは、例えば、合成ガス生成物をフィードガスとして使用する下流側のプロセスからのオフガスによって提供することができる。3種の反応体ガスがこの実施態様で使用されるときには、主要の反応性成分はメタン、他の炭化水素、水、水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素のうちのいずれかである。
【0033】
酸化剤ガスは、酸素と他の成分とを含むガスであって、これらの他の成分から、イオン輸送膜を透過させることにより酸素を抽出することにより、反応体ゾーン内で反応性成分と反応させることができるものとして定義される。酸化剤ガスは、酸素原子、例えば水、一酸化炭素、及び二酸化炭素を含有する1種又は2種以上の化合物を含む一種の反応体ガスである。
【0034】
反応体フィードガスは、多段膜反応器システムの第1段の反応体ゾーン又は反応体側内に導入された反応体ガスとして定義される。段間反応体ガスは、段間を流れる、すなわち1つの段の反応体ゾーンの出口領域から次の段の反応体ゾーンの入口領域内に流れる反応体ガスとして定義される。このガスは反応生成物を含み、そして未反応の反応性成分を含んでよい。所与の段に入る段間反応体ガス流中の反応性成分及び酸化生成物の相対量は、(1)前の段で化学平衡に近づく程度、及び(2)所与の段の反応ゾーンへの段間反応体ガス中に導入される反応体段間フィードガス(もしあれば)の量及び組成に依存し得る。
【0035】
反応体段間フィードガスは、(1)第1段以外の任意の段の反応体ゾーン内に導入された反応体ガス、又は(2)その反応体ゾーンに入る前に段間反応体ガスと混合された反応体ガスとして定義される。反応体段間フィードガスは、第1段への反応体フィードガスと同じ組成を有していてよく、又は反応体フィードガスとは異なる組成を有していてもよい。反応体フィードガス又は反応体段間フィードガスは典型的には、高濃度の反応性成分を含む。生成ガスは、多段膜反応器システムの最後の段の反応体ゾーンからの反応体ガス流出物であり、生成ガスは1種又は2種以上の酸化生成物を含み、また未反応の反応性成分を含んでもよい。生成ガスは例えば、少なくとも水素と酸化炭素とを含有する合成ガスであってよい。
【0036】
膜モジュールは多数の平面状ウエハーの形態を有していてよい。これにおいて各ウエハーは中心又は内側領域と外側領域とを有している。ウエハーは、周縁の少なくとも一部の周りをシーリングされた2つの平行な平面状部材によって形成されている。酸素イオンは、平面状ウエハーのいずれか又は両方の表面上に配置されてよい活性膜材料を透過する。ガスはウエハーの中心又は内側領域を流過することができ、そしてウエハーは、ガスがウエハーの内側領域に入り且つ/又は内側領域から出るのを可能にするために、1つ又は2つ以上のガス流開口を有している。こうして酸素イオンは、外側領域から内側領域内に浸透することができ、或いは逆に、内側領域から外側領域内に浸透することができる。1実施態様の場合、膜モジュールの外側領域内で外面と接触するガスは、膜モジュールの内側領域内部のガスよりも高い圧力であってよい。本発明の実施態様において使用することができる代表的な膜組成及び平面状モジュール形態が、米国特許第7,179,323号明細書及び同第7,279,027号明細書に記載されている。これら両明細書を参考のため本明細書中に引用する。
【0037】
或いは、膜モジュールは管状形態を有していてよく、ここでは酸化剤ガスは管の一方の側と接触した状態で(すなわち管の内側領域又は外側領域で)流れ、そして酸素イオンは、管壁内又は管壁上の活性膜材料を透過して、管の他方の側に流れる。酸化剤ガスは、管軸に対して概ね平行な方向で管の内側又は外側を流れることができ、或いはこれとは異なり、管軸に対して平行ではない方向で、管の外側を流れることもできる。モジュールは、複数の管の酸化剤側と反応体側とを隔離するのに適した管板集成体によって、バヨネット形態又はシェル−管形態を成して配列された複数の管を含んでいてよい。
【0038】
モジュールは反応器段内部に直列に配列されていてよく、多数のモジュールが単一軸に沿って配置される。典型的には、第1モジュール内の膜構造の表面を横切った反応体ガスは、そのモジュールの流出領域から流れ、その後、このガスのいくらか又は全ては第2モジュールの流入領域に入り、その後で第2モジュール内の膜構造の表面を横切って流れる。一連の単一モジュールの軸は、流れ全体の方向に対して、又は直列のモジュールを通過するガスの軸に対して平行又はほぼ平行であってよい。
【0039】
モジュールは、2つ又は3つ以上の平行なモジュールからなる列の形で段内部に配列されていてよく、平行なモジュールの列は、流れ全体の方向に対して、又はモジュールを通過するガスの軸に対して平行ではなく、概ね直交方向であってよい軸上に位置する。複数のモジュール列が直列に配置されていてよい。このことは、定義によれば、第1モジュール列内の膜構造の表面を横切った反応体ガスの少なくとも一部が第2モジュール列内の膜構造の表面を横切って流れるように配置されていることを意味する。
【0040】
任意の数の単一モジュール又はモジュール列は、段内部に直列及び/又は並列に配列されていてよい。1実施態様の場合、一連の単一モジュール又は一連のモジュール列におけるモジュールは、共通の軸上に位置していてよい。軸の数は1に等しいか、又は各列内のモジュール数に等しい。別の実施態様の場合、一連のモジュール又はモジュール列における連続するモジュール又はモジュール列は交互にずらされて、モジュールがそれぞれ少なくとも2つの軸上に位置するか又は列内のモジュール数よりも多い数の軸上に位置するようになっていてよい。これらの実施態様の両方は、本明細書中に使用される直列のモジュールの定義に含まれる。
【0041】
第1領域及び第2領域に当てはまる「流体連通」という用語は、流体が第1領域から、任意には中間領域を通って、第2領域へ流れることができることを意味する。中間領域は第1領域と第2領域との間に接続パイプを含んでいてよく、又は、第1領域と第2領域との間に開いた流域又は流路を含んでいてもよい。第1領域及び第2領域に当てはまる「に接続される」という用語は、流体が第1領域から直接に第2領域に、又は接続パイプを通って第2領域に流れることができる。「直接流体連通」という用語、及び流体に当てはまる「直接に」という用語は、流体が第1領域から第2領域へ、及び/又は第2領域から第1領域へ流れることができ、この場合、流体の流路がパイプ、及び/又はオリフィス、弁、及びその他の流れ制限装置から選択された1つ又は2つ以上の流れ制御装置を含んでよいことを除けば、領域間の流路が、いかなる容器、貯蔵タンク、又はプロセス設備とは流体連通していないことを意味する。
【0042】
本明細書中に使用される不定冠詞「a」及び「an」は、明細書及び特許請求の範囲に記載された実施態様における任意の構成要件に適用されるときには、1つ又は2つ以上を意味する。「a」及び「an」の使用は、このような限定が具体的に言及されない限りは、その意味を単一の構成要件に限定しない。単数又は複数の名詞又は名詞句に先行する定冠詞「the」は、具体的な特定構成要件を示し、そしてこれが使用される文脈に応じて単数又は複数の含意を有することができる。形容詞「any」は、量には無関係には1つ、いくつか、又は全てを意味する。第1のものと第2のものとの間に置かれた「及び/又は(且つ/又は)」という用語は、(1)第1のもの、(2)第2のもの、及び(3)第1のものと第2のもの、のうちの1つを意味する。
【0043】
一般的な実施態様の概略的なフロー図が、図1に示されている。一例としての膜酸化システムは第1段1と、第2段3と、第3段5と、最終段又は第n段7とを含んでいる。少なくとも2つの段がある限り、任意の所望の数の段を使用することができる。各段は、酸素透過性膜を有する一般的なモジュールとして概略的に示されている。酸素透過性膜は、モジュールを酸化剤側と透過側又は反応体側とに分割している。上で説明したように、段は、直列及び/又は並列に配列された任意の数の膜モジュールを含むことができ、そして1種又は2種以上の触媒を含んでよい。
【0044】
第1段1は、酸化剤側又は酸化剤ゾーン1aと、膜1bと、反応体側又は反応体ゾーン1cと、任意の触媒1dと、好適なガス入口及び出口領域とを含んでいる。任意の触媒1dがモジュールにすぐ続くものとしてここでは示されている。或いは又は加えて、触媒はモジュールの直前(図示せず)又はモジュールの内部又は周囲に任意の所望の形態で(図示せず)配置されてよい。同様に、第2段3は、酸化剤側3aと、膜3bと、反応体側3cと、好適なガス入口及び出口領域と、任意の触媒3dとを含んでいる。触媒3dはモジュールにすぐ続くものとしてここでは示されている。或いは又は加えて、触媒はモジュールの直前(図示せず)又はモジュールの内部又は周囲に任意の所望の形態で(図示せず)配置されてよい。同様に、第3段5は、酸化剤側5aと、膜5bと、反応体側5cと、好適なガス入口及び出口領域と、任意の触媒5dとを含んでいる。任意の触媒5dはモジュールにすぐ続くものとしてここでは示されている。或いは又は加えて、触媒はモジュールの直前(図示せず)又はモジュールの内部又は周囲に任意の所望の形態で(図示せず)配置されてよい。最終段又は第n段7は、酸化剤側7aと、膜7bと、反応体側7cと、好適なガス入口及び出口領域と、任意の触媒7dとを含んでいる。任意の触媒7dはモジュールにすぐ続くものとしてここでは示されている。或いは又は加えて、触媒はモジュールの直前(図示せず)又はモジュールの内部又は周囲に任意の所望の形態で(図示せず)配置されてよい。最終段7からの生成ガスが、生成物ライン7eを介して引き出される。
【0045】
図1において、段間反応体ガスが段1から流路1eを介して、段3から流路3eを介して、そして段5から流路5eを介して流れる。1実施態様の場合、段1,3及び5のそれぞれが、別個の圧力容器内に密閉されていてよい。この場合、流路1e,3e及び5eは、容器間のパイプ、導管、又は閉じられたチャネルである。別の実施態様の場合、段1,3,5及び7は、単一の圧力容器(図示せず)内に密閉して、反応体ガスが各段の反応体ゾーンを連続して通流できるようになっていてもよい。この場合、流路1e,3e及び5eは段間の開いた領域であり、これらの流路を通って、ガスは1つの段の反応体ガス出口領域から、後続段の反応体ガス入口領域内に流入することができる。各段は下流側の段及び/又は上流側の段に隣接し、第1段は下流側の段に隣接し、そして最終段は上流側の段に隣接し、そして他の全ての段は、上流側の段及び下流側の段に隣接している。「上流側」及び「下流側」という用語は、反応体ガスの流れ方向に対して定義される。
【0046】
各段における酸化剤ゾーン及び反応体ゾーンは互いに隔離されているので、酸化剤ゾーンを通る酸化剤ガスのバルク流と、反応体ゾーンを通る反応体ガスのバルク流とは別々であり、独立している。反応体ゾーンから酸化剤ゾーンを分離する膜は、ゾーン間のいかなる相当のバルクガス流をも防止し、そして酸素が膜を通って反応体ゾーンから反応体ゾーンへ透過するのを許す。いくつかの事例の場合、少量の許容し得る漏れが、膜内の欠陥によって発生することがある。
【0047】
酸化剤ガス、例えば予熱空気、又は過剰空気ともに操作された燃焼器から得られた酸素含有燃焼生成物が、酸化剤入口ライン9を介して第1段1の酸化剤側1a内に導入され、そして膜1bの酸化剤側と接触し、そして酸素の一部が膜1bを透過し、そして酸素欠乏ガスが酸素欠乏酸化剤出口ライン11を介して第1段1から出る。同様に、付加的な酸化剤ガス流がライン13,15及び19を介して、それぞれ段3,5及び7内に導入されてよく、そして酸素欠乏ガスがそれぞれ酸素欠乏酸化剤出口ライン21,23及び25を介して段から出てよい。或いは、酸化剤ガスのいくらか又は全てが、ライン28,30及び32を介して、2つ又は3つ以上の段を直列に通流してもよい。1実施態様の場合、例えば酸化剤ガスはライン9,28及び21を通流することにより、段1及び3が酸化剤ガスに関して直列に作業する。同様に、単一の酸化剤流が、一対の下流側の段に酸化剤を提供することもできる。このように、段は、酸化剤ガス流に関して個々に操作されてよく、酸化剤ガス流に関して直列に操作されてもよく、或いは酸化剤ガス流に関して個々の操作と直列操作との任意の組み合わせを利用してもよい。酸化剤ガス入口及び出口のマニホルド(図示せず)を使用することにより、複数段の酸化剤ゾーン内に酸化剤ガスを導入し、そして複数段の酸化剤ゾーンから酸素欠乏酸化剤を引き出すことができる。
【0048】
上記の代わりとして、他の酸化剤ガス流形態が可能である。例えば、酸化剤ガスは、反応性ガス流に対して向流を成して、又は反応性ガス流に対して横流を成して、又は十分な酸化剤ガスが膜の酸化剤ゾーン側に提供されるような任意の他の配列を成して流れることができる。
【0049】
反応体ガスはマニホルド27を介して多段反応器システムに入ることができ、第1部分がライン29を介して引き出されて、ライン31内に提供された別の反応体ガス(例えば水蒸気)と合体されてよく、そして合体したガスは反応体ガス入口ライン33を介して第1段1の反応体側1c内に導入されてよい。別の反応体ガス部分は、反応体段間フィードガス・ライン35,37及び39のうちのいずれかを介してマニホルド27から引き出され、そして反応体段間フィードガスとして、それぞれ段間反応体ガス流路1e,3e及び5eのうちのいずれかに導入されてよい。或いは、反応段間フィードガスは、任意の段の反応体側に直接に且つ/又は触媒1d,3d,5d及び7dのうちのいずれかの上流側に導入されてもよい。マニホルド27内の反応体ガスは、1種又は2種以上の炭化水素を含んでよく、そして成分、すなわち水、一酸化炭素、二酸化炭素、及び水素のうちのいずれかを含んでもよい。マニホルド27内の反応ガスは、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、及び水を含む予め改質された天然ガスであってよい。ライン31を介して提供される反応体ガスは、例えば気化水(上記)であってよい。
【0050】
ライン27内の反応体ガスの源及びライン31を介して提供された反応体ガスの源とは異なる源から、マニホルド41を介して、付加的な反応体ガスが提供されてよい。この付加的な反応体ガスは、第1段1、ライン1e内の段間反応体ガス、ライン3e内の段間反応体ガス、及び最終段又は第n段7に入る段間ガスのうちのいずれかに導入されてよい。或いは、付加的な反応体ガスは、触媒1d,3d,5d及び7dのうちのいずれかの上流側に導入されてもよい。この付加的な反応体ガスは、例えばライン7eからの生成ガスを使用する下流プロセスから得られた二酸化炭素を含む酸素含有ガスであってよい。付加的な反応体ガスは、ライン7eからの生成ガスを使用する下流プロセスからの未反応オフガスを含んでよく、且つ/又は、ライン7eからの生成ガスを使用する下流プロセスからの部分改質された未反応オフガスを含んでよい。段5と最終段7との間に、任意の数の付加的な段が活用されてよい。
【0051】
上記ラインのうちのいずかにおけるガス流量は、制御弁又は当業者に知られた他の流動装置(図示せず)によって調節することができる。或いは又は付加的に、ガス流のうちのいずれかの温度は、当業者に知られた方法によって加熱及び/又は冷却することにより制御することができる(図示せず)。米国特許第6,010,614号明細書(その全体を参考のため本明細書中に引用する)には、セラミック膜反応器内の温度制御が開示されている。
【0052】
酸素含有ガスを含むタイプの反応体ガスの種々の組み合わせを、図1の段階的膜酸化反応器システム内のモジュールの反応体側内に導入することができる。1実施態様において、例えば、マニホルド27及びライン29,35,37及び39を介して反応器段内に、予め改質された天然ガスが導入されてよく、そしてライン31及び33を介して第1段1内に蒸気が導入されてよい。この実施態様では、マニホルド41及びライン29,43,45及び47を介して付加的な反応体ガスが提供されることはない。別の実施態様では、予め改質された天然ガスと水蒸気とがライン31及び33を介して、第1段内に導入されてよく、そして二酸化炭素含有ガス(例えば下流側プロセスからの再循環ガス)が、マニホルド41とライン43,45及び47のうちのいずれかとを介してシステム内に導入されてよい。下流側プロセスは、炭化水素合成法(例えばFischer-Tropsch法)又は含酸素合成法(例えばアルコール合成法)であってよい。下流側プロセスは、図1の段階的酸化反応器システムによって生成された合成ガスを利用することができる。マニホルド27及びライン29,35,37及び39は、この実施態様では使用されない。異なる源からの反応体ガスの組み合わせが反応器段内に導入される他の実施態様が可能である。例えば、予め改質された天然ガスが、マニホルド27及びライン29,35,37及び39を介して、段階的反応器システムに提供されてよく、水蒸気がライン31を介してシステム内に導入されてよく、そして二酸化炭素含有ガス(例えば下流側プロセスからの再循環ガス)が、マニホルド41とライン43,45及び47のうちのいずれかとを介してシステム内に導入されてよい。別の例において、予め改質された天然ガスを含む反応体ガスと、二酸化炭素を含有する付加的な反応体ガスと、水蒸気とを含む反応体ガスが、マニホルド27及びライン29,35,37及び39を介して、段階的反応器システムに提供されてよく、そして水蒸気がライン31を介してシステム内に導入されてよい。マニホルド41とライン43,45及び47はこの事例では使用されない。
【0053】
図1のシステムの選択された実施態様が図2に示されている。この実施態様の場合、20の反応器段が使用され、そして制御の目的で、それぞれ10段からなる2つの群に配列されていることにより、段201〜219は第1群にあり、段221〜241は第2群にあるようになっている。予め改質された天然ガスがラインを介して反応体フィードガスとして導入されてよい。反応体フィードガスは一次マニホルド245を介して流れ、そして分割されることにより、二次マニホルド247及び249を通流する。水蒸気がライン251を介して第1段201内にフィードされる。
【0054】
反応体フィードガスは第1段201の反応体側を通流し、そして段間反応体ガスは、段219までの連続する段の間を流れる。段201〜219からなる第1群から出た段間反応体ガスはライン253を介して流れ、次いで、段221〜241からなる第2群内の連続する段の反応側を通流する。合成ガス生成物はライン255を介してシステムから流出する。段201〜219からなる第1群は、単一の圧力容器(図示せず)内に入れられていてよく、段間反応体ガスは、段間の開いた流域を通流し、そしてマニホルド247からの反応体ガスは段間のそれぞれの流域内に噴射される。
【0055】
マニホルド247内の反応体フィードガスは10個の個々の流れに分割され、そしてこれらの流れのうちの最初の流れが、ライン257内の反応体フィードガスを提供し、このガスはライン251内の流れフィードと混合される。残りの9個の反応体ガス流は、反応体段間フィードガス流を提供し、これらのガス流は、図示の対を成す隣接段201〜219間の対応する段間反応体ガス流と混合される。同様に、マニホルド249内の反応体フィードガスは10の個々の流れに分割されることにより反応体段間フィードガス流を提供し、これらのガス流は、図示の対を成す隣接段221〜241間の対応する段間反応体ガス流と混合される。段221〜241からなる第2群は、単一の圧力容器(図示せず)内に入れられていてよく、段間反応体ガスは、段間の開いた流域を通流し、そしてマニホルド249からの反応体ガスは段間のそれぞれの流域内に噴射される。
【0056】
マニホルド247は、段201〜219内に、概ね等しい流量の反応ガスを提供するように設計されてよく、或いは、このマニホルドは、反応を制御する目的で、各段又は段群に異なる流量を提供するように設計されていてもよい。同様に、マニホルド249も、段221〜241内に、概ね等しい流量の反応ガスを提供するように設計されてよく、或いは、このマニホルドは、反応を制御する目的で、各段又は段群に異なる流量を提供するように設計されていてもよい。
【0057】
第1の予熱された酸化剤ガスが、ライン259を介してマニホルド261内に導入され、そして10の部分に分割されることにより、図示の段201〜219の酸化剤側に酸化剤ガスを提供する。第2の予熱された酸化剤ガスが、ライン263を介してマニホルド265内に導入され、そして10の部分に分割されることにより、図示の段221〜241の酸化剤側に酸化剤ガスを提供する。第1及び第2の予熱酸化剤ガス流を共通の上流側のヒータ(図示せず)から提供することができ、そして600〜1150℃の温度まで空気加熱されてよい。酸素は、段内の膜を透過し、そして前記のように段の反応体側上の反応性成分と反応する。酸素欠乏非透過ガスが、マニホルド267内にガスをフィードするラインを介して段201〜219から引き出され、そしてガスはライン269を介して放出される。同様に、酸素欠乏非透過ガスが、マニホルド271内にガスをフィードするラインを介して段221〜241から引き出され、そしてガスはライン273を介して放出される。当業者に知られた方法のうちのいずれかによって、引き出された非透過ガスから熱及び/又は圧力エネルギーを回収することができる。
【0058】
マニホルド261は、段201〜219内に、概ね等しい流量の酸化剤ガスを提供するように設計されてよく、或いは、このマニホルドは、例えば反応及び/又は温度を制御する目的で、各段又は段群に異なる流量を提供するように設計されていてもよい。同様に、マニホルド265も、段221〜241内に、概ね等しい流量の酸化剤ガスを提供するように設計されてよく、或いは、このマニホルドは、例えば反応及び/又は温度を制御する目的で、各段又は段群に異なる流量を提供するように設計されていてもよい。
【0059】
段における温度及び段を通した反応は、段に供給される反応体ガス及び酸化剤ガスのうちのいずれかの流量、組成、及び温度のうちのいずれかを制御することによって調節することができる。所望の場合には、段間熱交換器を使用することにより、プロセス流のうちのいずれかに対して熱を加える又は取り除くことができる。温度制御は、制御弁275及び277によってそれぞれマニホルド247及び249内に供給される反応体ガスの流量を制御することにより、且つ/又は、制御弁279及び281によってそれぞれマニホルド261及び265内に供給される酸化剤ガスの流量を制御することにより、達成することができる。段201〜219からなる群に供給される反応体ガスの制御は、例えば温度インジケータ/コントローラ283によって行うことができ、このコントローラ283は制御ライン285を介して制御弁275に制御信号を送る。同様に、段221〜241からなる群に供給される反応体ガスの制御は、例えば温度インジケータ/コントローラ289によって行うことができ、このコントローラ289は制御ライン291を介して制御弁277に制御信号を送る。
【0060】
別の例において、温度インジケータ/コントローラ283が、酸素欠乏非透過ガス・マニホルド267(図示せず)及び/又は酸素欠乏非透過ガス放出ライン269(図示せず)上に配置されていてよい。同様に、温度インジケータ/コントローラ289が、酸素欠乏非透過ガス・マニホルド271(図示せず)及び/又は酸素欠乏非透過ガス放出ライン273(図示せず)上に配置されていてよい。段201〜219からなる群に供給される酸化剤ガスの制御は、例えば、段の上流側の酸化剤ガス流(図示せず)に、又は段の下流側の酸素欠乏非透過ガス流に配置された制御弁279によって行うことができる。同様に、段221〜241からなる群に供給される酸化剤ガスの制御は、例えば、段の上流側の酸化剤ガス流(図示せず)に、又は段の下流側の酸素欠乏非透過ガス流に配置された制御弁281によって行うことができる。
【0061】
典型的な実施態様の場合、段に供給される酸化剤ガスの流量は、例えばマニホルド267及び271を通して段から引き出された酸素欠乏非透過ガス中の目標酸素濃度を維持するように変化させることができる。例えば酸素濃度は、マニホルド267及び/又は放出ライン269上に配置された酸素アナライザ/インジケータ・コントローラ(図示せず)によってモニタリングすることができる。このコントローラは制御ライン(図示せず)を介して制御弁279に制御信号を送ることができる。同様に、酸素濃度は、マニホルド271及び/又は放出ライン273上に配置された酸素アナライザ/インジケータ・コントローラ(図示せず)によってモニタリングすることができる。このコントローラは制御ライン(図示せず)を介して制御弁281に制御信号を送ることができる。膜を透過する酸素の流量はまた、段内部の、具体的には膜透過表面の近くの操作条件(例えば圧力及び/又は温度)によって影響を及ぼすことができる。別の実施態様では、段又は一連の段に供給されるいずれかのガス又は全てのガス(例えば反応体フィードガス、反応体段間フィードガス、及び/又は酸化剤ガス)をその段又は一連の段から省くか又は迂回させることにより、温度及び/又は反応に影響を及ぼすことができる。
【0062】
上記の段階的ITM反応器システムは、酸素、水蒸気、炭化水素、水蒸気と炭化水素フィードガスとの予め改質された混合物、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、及び/又は二酸化炭素含有ガスをうちのいずれかを含んでよい反応体ガス流を利用する。段階的反応器システム内で発生する反応は、合成ガスを生成するために、例えば部分酸化、完全酸化、水蒸気改質、二酸化炭素改質、水性ガスシフト、及びこれらの組み合わせを含むことができる。これらの反応のうちの或るものは強発熱性であり、また他のものは吸熱性である。ITMシステムは一般に、狭い操作温度範囲を必要とするので、発熱反応及び吸熱反応の適切な制御が必要となる。上記実施態様は本質的に安定な作業を可能にし、この作業において、膜システムの温度は所要範囲内で制御することができる。
【0063】
上記多段反応体段階的膜酸化システムは、直列の少なくとも2つの段を利用し、また特定の作業要件及び生成物要件に応じて、最大10段、最大20段、最大100段、又は100を上回る段を直列で利用することができる。図2の実施態様の場合、例えば10段からなる2つの群(201〜219及び221〜241)のそれぞれに供給される反応体段間フィードガスの総流量は、別々に制御される。図2の実施態様と類似する他の実施態様が可能であり、10段からなる、より数多くの群を利用することができ、この場合、10段からなる群のそれぞれに供給される反応体段間フィードガスの総流量及び/又は組成は、別々に制御される。下記の例1及び2における1実施態様の場合、例えば、それぞれ10段からなる群が14個ある。この場合、10段からなる群のそれぞれに供給される反応体段間フィードガスの総流量及び/又は組成は、別々に制御される。このように操作される1つの段群は、任意の数の段を含むことができる。
【0064】
本明細書中に記載された実施態様は、合成ガスの生成のために設計されているが、しかしイオン輸送膜を透過することによって提供される酸素を利用するいかなる酸化又は部分酸化プロセスにも適用することができる。合成ガスの生成のために利用される場合には、酸化剤ガスは典型的には予加熱空気であり、そして水蒸気は第1反応器段の反応体側内に導入される。反応体ガス、例えば予め改質された天然ガスは、等しい又は等しくない流量の複数の流れに分割され、そして複数の反応器段内に導入される。いくつかの実施態様の場合、各段内の反応体ガスが、水蒸気改質反応、二酸化炭素改質反応、及び/又は水性ガスシフト反応に関して、これらの反応のための触媒が各段に提供される場合には、化学平衡に近づくことが好ましい。段に入る反応体ガス、段を出る反応体ガス、及び/又は任意の触媒(例えば図1の触媒1d)を出る反応体ガスはこうして、これらの反応に対して化学平衡状態であるか又は化学平衡に近い状態であってよい。
【0065】
温度逸脱を最小化し、そしてプロセスが段のそれぞれにおいて平衡状態又は平衡に近い状態で作業するのを可能にすることを目的として、図1及び2に示された第1段の反応体側内に、水蒸気流が導入されてよい。所与のガス混合物に関する「平衡状態に対する温度近似」という用語は、本明細書中では、ガス混合物の実際温度と、ガス混合物中の所与の反応体が化学平衡状態にあるであろうときの計算温度との温度差の絶対値として定義される。平衡状態に対する温度近似は、ガス混合物全体に対して、又はガス混合物中の特定の反応体間の特定の反応(例えば水蒸気改質反応、二酸化炭素改質反応、及び/又は水性ガスシフト反応)に対して表現することができる。平衡状態に対する典型的な温度近似は0〜100°Fのオーダーであり、典型的には0〜20°Fのオーダーであり得る。触媒が膜上又は膜に隣接して配置されると、この近似は段のモジュール内部で発生することになり、触媒が図1に示された膜モジュールに続いて配置されていると、平衡に対する近似は触媒モジュールの出口で発生することになる。触媒が膜モジュールに先立って配置されていると、平衡に対する近似はモジュールに先立って発生することになる。
【0066】
各段内のモジュールの反応体側の温度(ひいては段全体の温度)は、各段又は図2に示されるような段群に提供される反応体ガスの量及び分布を変化させることにより制御することができる。各段の反応体側は概ね反応体が豊富であり(例えば被酸化性の種が豊富)、温度上昇をもたらす発熱性酸化反応は、酸素の膜透過速度によって制限される。温度低下をもたらす吸熱性改質反応は、触媒活性と、各段に供給される炭化水素、具体的にメタンの量との両方によって一般に制限される。
【0067】
複数の段において反応全体を実施することにより、十分な触媒を段のそれぞれの内部又はそれぞれの間に提供することができるので、段を出るガスの組成は、次の段に入る前にその段内で発生する反応に関して平衡状態に近づく。このことは、触媒活性を効果的に調和又は調節するので、各段における吸熱性改質反応及び関連する温度低下は、反応体段間フィードガスとして各段に供給される炭化水素、具体的にはメタンの量によって制限することができる。こうして、各段への炭化水素フィード速度は、段内部及び/又は段の出口におけるガスの組成及び温度を制御するように用いることができ、そしてガスの組成及び温度は、炭化水素フィード速度を制御することにより平衡状態に近づくように形成することができる。炭化水素フィード速度が高くなると、このことは吸熱性改質を介してガス混合物を冷却する傾向があるのに対して、炭化水素フィード速度が低くなると、このことは反応体ガス混合物を冷却する吸熱性改質を制限することにより、より高い温度をもたらす傾向がある。
【0068】
反応段のうちの少なくともいくつかが平衡状態で又は平衡に近い状態で作業しないように、酸化反応システムが操作される場合には、段内部及び/又は段の出口におけるガスの組成及び温度を制御するように、各段への炭化水素フィード速度を変化させることもできる。炭化水素フィード速度及びフィード濃度が高くなると、このことは吸熱性改質反応の速度を高め、ひいては、ガス混合物を冷却する傾向があるのに対して、炭化水素フィード速度及びフィード濃度が低くなると、このことは吸熱性改質反応の速度を低くし、ひいてはより高い温度をもたらす傾向がある。
【0069】
膜酸化反応システム内で使用される膜材料は、上述の特定温度範囲内で操作されなければならない。温度上限は、材料の動力学的分解、膜の機械的クリープ、鉄含有酸化物を使用したシステム内の鉄揮発度、揮発した鉄の存在における合成ガス環境中の膜安定性、潜在的な触媒寿命の問題を含む基準、及びその他の基準に基づいて確立される。温度下限は、二酸化炭素によって誘発される膜劣化の可能性、相分解、及びその他の基準に基づいて確立される。本明細書中に記載された実施態様は、安定した信頼性高い膜作業に必要となるガスの組成及び温度の臨界範囲内でシステムを制御することにより、設計外又は代替の条件において本質的に安定した性能を達成するために、ITM酸化反応システムの作業を制御する方法を提供する。
【0070】
本明細書中に使用される「一次設計操作条件」又は「一次設計条件」という用語は、一次設計条件におけるITM酸化反応器システムの操作と関連した一連のプロセス条件であって、この一次設計条件においてシステムは、プロセス流の温度、圧力、流量、及び組成によって定義される本質的に定常状態条件で作業する、プロセス条件として定義される。設計生成物組成及び設計生成物流量は、システムが一次設計条件で作業するときに提供される。本明細書中に使用される「代替の設計操作条件」、「代替の操作条件」、又は「設計外の操作条件」という用語は、一次設計操作条件以外のITM酸化反応器システムを作業するためのプロセス条件として定義される。
【0071】
イオン輸送膜を通る酸素のフラックスは、膜温度のかなり強い関数である。膜作業温度はこのように、酸素フラックスを制御するための良好な制御パラメータである。酸素フラックスは合成生産能力を制御する。温度の低下により、酸素フラックス及び生産能力は低下する。温度の上昇により、酸素フラックス及び生産能力は向上する。しかし、膜材料への損傷を最小化するために、そして膜寿命を最大化するために、温度は適正に制御しなければならない。
【0072】
ITM酸化反応器システム内の炭化水素(例えばメタン含有)原料の変換率(例えば水蒸気−メタン改質反応を介した変換)も、温度の関数である。温度を低下させると平衡メタン変換率が低下し、そして未反応メタンが増大する。温度を上昇させると、平衡メタン変換率が上昇し、そして未反応メタンが低下する。
【0073】
ITM合成ガス酸化反応器システムのための最も魅力的な設計点は、膜材料特性の設計制約の範囲内で最大限の温度で作業するためのものである。最高の作業温度は、最高の酸素フラックス、関連する合成生産能力、及びメタンの有益な合成ガス生成物への平衡変換率をもたらす。
【0074】
ITM酸化反応器システムの商業的な操作は、設計外又は代替の条件における操作、具体的には、低減された生産能力におけるターンダウン操作を必要とする。単純なターンダウンは、システム全体にわたる作業温度を低減することにより達成することができる。このことは酸素フラックスを低下させる。しかし温度の低下はまた、平衡メタン変換率の低下、そして「メタン・スリップ」という用語によって表される合成ガス生成物中の未反応メタンの増大をもたらす。システム全体にわたる温度の低下はまた、逆シフト反応を介して二酸化炭素から一酸化炭素が生成されるのを阻止し、そして生成合成ガス中の二酸化炭素の濃度を高めることになる。このことはいくつかの事例で望ましい場合がある。しかしながら、合成ガスが、合成ガスフィード中に或る程度のレベルの一酸化炭素を必要とする炭化水素合成プロセス、例えばFischer-Tropschプロセスにおいて消費されるときには、このことは望ましくない場合がある。この事例では、低温でのITM酸化システムの操作は、変換効率及び合成ガス生成物品質の望ましくない低下を同時にもたらすことになる。なぜならば、所望の合成ガス成分である水素及び一酸化炭素が、二酸化炭素及び未反応メタンで希釈されるからである。
【0075】
Fischer-Tropsch合成プロセスに供給される合成ガス・フィード中の水素及び一酸化炭素の希釈は、例えば、合成ガスの有益な合成生成物(例えばディーゼル、ナフサ、LPG)への変換、液体合成生成物、未反応ガス(例えば再循環ガス、燃料ガス)の選択性、Fischer-Tropsch合成プロセスの一般的な操作、及び再循環圧縮及び燃料収支を伴う、統合された合成ガス生成プロセス及びFischer-Tropsch合成プロセスの操作に不都合な影響を及ぼすおそれがある。
【0076】
設計操作条件及び設計外又は代替の操作条件は、操作条件の変化が、ITM酸化反応器システムによって生成された合成ガスの設計生産能力及び設計生成物品質にどのように影響を与えるかによって特徴づけることができる。「生産能力」という用語は、生成合成ガス流中に含有される水素と一酸化炭素との複合モル流量として定義される。「生成物品質」という用語は、パラメータ(a)生成ガス流中の水素のモル分率プラス一酸化炭素のモル分率、(b)反応体フィードガス及び反応体段間フィードガス中の1種又は2種以上の炭化水素の変換率、及び(c)比(xCO+xH2)/(1−xH2O)(xは指定の成分のモル分率である)のうちのいずれかによって定義される。
【0077】
「原料変換率」、「メタン変換率」、及び「変換率」という用語は、合成ガスの非炭化水素成分に変換される炭化水素原料、例えばメタン(下記例において使用される)の量、分率、又はパーセンテージとして定義される。変換される炭化水素の量は、モル炭素ベースの差によって計算されてよい。例えば、メタンが原料である場合、変換されたメタン(又は炭素)の量は、提供されたメタン・フィードの量から、反応が行われた後で残ったメタンの量をマイナスした値に等しい。一般的な炭化水素の場合、変換された炭化水素の量は、モル炭素ベースの差によって計算されてよい。例えば、変換された炭化水素中に含有される炭素の量は、提供された炭化水素フィード中に含有される炭素の量から、反応が行われた後で残った炭化水素中に含有される炭素の量をマイナスした値に等しい。
【0078】
段階的反応器システムの場合、原料変換率は、種々のベースを用いて、分率又はパーセンテージをベースとして表すことができる。例えば反応器システムの所与の段に対する原料変換率%は、その段内で変換されたメタン(又は炭化水素)の量を、その段に提供された総メタン(又は炭化水素)の量のパーセンテージとして表すものとして定義されてよい。別の例としては、多段反応器システム内の所与の段までの原料変換率%は、所与の段までの全ての段内で変換されたメタン(又は炭化水素)の量を、反応器システムの所与の段までの全ての段に提供されたメタン(又は炭化水素)の総量のパーセンテージとして表すものとして定義されてよい。別の例としては、多段反応器システム内の所与の段までの原料変換率%は、その段までの全ての段内で変換されたメタン(又は炭化水素)の量を、完全な反応器システムの全ての段に提供されたメタン(又は炭化水素)の総量のパーセンテージとして表すものとして定義されてよい。
【0079】
「設計生産能力」という用語は、設計操作条件で発生する生産能力として定義され、そして「設計生成物品質」という用語は、設計操作条件で発生する生成物品質として定義される。
【0080】
実施態様は、水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成するように操作された多段ITM酸化反応器システムにおける生産能力及び生成物品質に対する段操作温度の効果によって例示することができる。例示のために、代表的な第1段1と第2段3とを有する図1のシステムの2段バージョンを考える。一例としてのプロセスは、(a)ライン33を介して第1段1の反応体フィードガス入口内に反応体フィードガスを導入し、(b)第1段の段間反応体ガス出口からライン1eを介して段間反応体ガスを引き出し、(c)段1からの段間反応体ガスと、反応体段間フィードガスとをライン35を介して合体し、そして合体流を第2段3の反応体段間フィードガス入口内に導入し、そして(e)第2段3の生成ガス出口からライン3eを介して生成ガス流を引き出すことにより操作される。
【0081】
この代表的なシステムのための9つの操作事例研究を、ラボ及びパイロット・プラントの性能データに適合された基本輸送モデルを使用したITM膜フラックス性能の有限要素シミュレーション、及び基本輸送モデルを使用した熱・質量移動のシミュレーションを含む、ASPENPlus熱・材料収支シミュレーション・プログラムを使用して行った。操作設計事例又はベース事例を、下記例1に記載したようにシミュレートした。一次設計事例又はベース事例では、第1段を設計特性温度T1で操作し、そして第2段を設計特性温度T2で操作することにより、合成ガス生産能力PC及び合成ガス生成物品質PQをもたらす。合成ガス生成物は事実上平衡状態で、反応器システムを出る。
【0082】
「特性温度」という用語は、その段の操作温度を特徴づける多段ITM酸化反応器システム内酸化反応器システムの段内の選択された温度として定義される。段の特性温度は、例えば膜の温度(例えば膜表面温度)、反応体ゾーン内の任意の個所又は反応体ゾーン出口で測定した反応体ガスの温度、反応体ゾーン出口を含む反応体ゾーン内の2つ又は3つ以上の個所で測定した反応体ガスの平均、酸化剤ゾーン内の任意の個所又は酸化剤ゾーン出口で測定した酸化剤ガスの温度、酸化剤ゾーン出口を含む酸化剤ゾーン内の2つ又は3つ以上の個所で測定した酸化剤ガスの平均、及び段からの中間又は最終反応済生成ガスの温度であってよい。
【0083】
9つの操作事例研究を表1に要約する。全ての事例において、酸化反応器システムは、定義された反応体フィードガスの流量、組成、及び圧力;定義された酸化剤ガスの流量、組成、及び第1段に対する圧力(2つの段が酸化剤ガス流に関して直列に操作される場合);及び定義された酸化剤ガスの流量、組成、及び各段に対する圧力(2つの段が酸化剤ガス流に関して独立して操作される場合)で操作される。システムは、任意の所望の膜材料及び膜モジュール設計を利用し、そして各段は、任意の所望の数の膜モジュールを利用する。事例2〜9が並べられた順序は比較のためにすぎず、好ましい順番で示しているのではない。
【0084】
【表1】

【0085】
ベース事例(事例1)の場合、第1段(又は段セット)の特性温度T1と、第2段(又は段セット)の特性温度T2とを有する設計操作条件で、システムを操作することにより、設計生産能力PC及び設計生成物品質PQをもたらす。特性温度T1及びT2は、下記事例2〜9に関して記載された設計外又は代替の条件で操作するために、ベース事例設計操作から変化させることがある。
【0086】
事例2
段1の特性温度をT1で維持し、そして段2の特性温度をT2−まで低下させる。その結果、生産能力及び生成物品質の両方がそれぞれPC−及びPQ−まで低下する。これらの条件における操作は、第2段における膜の作業寿命を長くすることができる。
【0087】
事例3
段1の特性温度をT1で維持し、そして段2の特性温度をT2+まで高くする。その結果、生産能力及び生成物品質の両方がそれぞれPC+及びPQ+まで高くなる。この操作シナリオは、短期、高機能、高品質の合成ガス生産のキャンペーンになり得る。第2段における膜の作業寿命は犠牲にされることがある。
【0088】
事例4
段1の特性温度をT1−まで低下させ、そして段2の特性温度を設計値T2で維持する。その結果、生産能力はPC−まで低下し、そして生成物品質は設計値PQで維持される。この事例は、設計生成物品質における低減された合成ガス流が必要となる典型的なターンダウン操作を示している。
【0089】
事例5
段1及び段2の特性温度を、それぞれT1−及びT2−まで低下させる。その結果、生産能力及び生成物品質の両方がそれぞれPC−及びPQ−まで低下する。このシナリオにおける顕著なターンダウン操作は、両段における膜の作業寿命を潜在的に長くするために望ましいことがある。
【0090】
事例6
段1の特性温度をT1−まで低下させ、そして段2の特性温度をT2+まで高くする。その結果、生産能力は、実際の反応器システムの設計及びT1−及びT2+の実際値に応じて、PC−まで低下するか又はPC+まで向上することがある。生成物品質はPQ+まで向上する。この事例における操作は、短期、高品質の合成ガス生産のキャンペーンになり得る。第2段における膜の作業寿命は犠牲にされることがある。
【0091】
事例7
段1の特性温度をT1+まで高くし、そして段2の特性温度を設計値T2で維持する。その結果、生産能力はPC+まで向上し、そして生成物品質は設計値PQで維持される。この事例は、例えば短期、高機能の合成ガス生産のキャンペーンを示す。第1段における膜の作業寿命は犠牲にされることがある。
【0092】
事例8
段1の特性温度をT1+まで高くし、そして段2の特性温度をT2−まで低下させる。その結果、生産能力は、実際の反応器システムの設計及びT1−及びT2+の実際値に応じて、PC−まで低下するか又はPC+まで向上することになる。生成物品質はPQ−まで低下する。このシナリオは、短期、高機能の合成ガス生産のキャンペーンになり得る。第1段における膜の作業寿命が犠牲にされることがあり、そして第2段における膜の作業寿命が延ばされることがある。
【0093】
事例9
段1及び段2の特性温度をそれぞれT1+及びT2+まで高くする。この事例は短期、高機能の合成ガス生産のキャンペーンを示す。両段における膜の作業寿命は犠牲にされることがある。
【0094】
上記のプロセス操作のための温度制御は、適宜の反応体フィードガス及び反応体段間フィードガスの流量を制御することにより達成することができる。適宜の流量コントローラのための設定点は、例えば上記温度、つまり、膜の温度、反応体ガス流、酸化剤ガス流、及び生成物流の温度のうちのいずれかであってよい。
【0095】
上記一例としての2段システムの操作シナリオが、最大100又はそれよりも多い段を有する多段膜システムに適用される場合、温度設定点を一連の反応器段に沿って、モジュール毎又は段毎、又は段群毎に増減する必要はない。例えば、特定の段又は段群における温度設定点は、ベース事例操作から増減することができるのに対して、他の段又は段群における設定点は、ベース事例操作におけるように維持することができる。
【0096】
下記例は上記実施態様を示しているが、しかし実施態様を、例において記載した特定の詳細のいずれかに制限することはない。
【実施例】
【0097】
例1
米国特許出願公開第2008/0302013号明細書に記載されたタイプの段階的膜酸化反応器システムの熱・材料収支を、選択された一次設計生産速度及び生成物品質で合成ガス生成物を提供するための条件集合でシミュレートした。用いられるシミュレーション方法は、表1に要約した9つの比較事例に関して上述したものと同じである。
【0098】
反応器システムは、140の膜酸化段から成っている。このシステムにおいて、1セットが10段からなる14セットを、米国特許出願公開第2008/0302013号明細書に記載されているように操作する。各段群に供給される反応体段間フィードガス流を各セットにおいて10段間に等しく分割する。酸化剤ガスは空気であり、この空気は871℃に予熱し、そして表2Aに示すフラックスをもたらすのに十分な流量で各段に提供する。温度及び温度設定点を測定し、そして表2A、2B及び2Cに要約された操作条件をもたらすように設定する。「sccm/cm2」は、1平方センチメートル当たりの標準立方センチメートルを意味する。ここでは標準状態は0℃及び1atmである。「MMscfd」は1日当たり百万標準立方フィートを意味する。ここで標準状態は、15.6℃(60°F)及び1atmである。
【0099】
操作中、4.83kgmol/hrの水蒸気と0.16kgmol/hrの水素とを740℃まで予熱し、10段からなる第1群の第1反応段に導入する。16.10kgmol/hrの天然ガスと、0.32kgmol/hrの水素と、8.05kgmol/hrの水蒸気とを混合し、そして482℃まで予熱し、そして加熱された混合物を断熱予改質反応器内で予め改質し、そして439℃で反応器から出る。この混合物を反応体ガス及び反応体段間フィードガスとして140の膜酸化段に分配する。段201〜219又は221〜241に対応して、図2に示す10段からなる各群内に、ガス流を導入する。総反応体ガス流を10段からなる各セットに対して制御する。
【0100】
6.81kgmol/hrの水素流を、最初の40段に等しい流量で分割して導入することにより、炭素形成を抑制する。7.19kgmol/hrの二酸化炭素を、最後の70段に等しい流量で分割して導入することにより、86.8mol%のH2+COを含有する、H2/COモル比が2の生成合成ガスを産出する。全部で8.86kgmol/hrの酸素が膜を透過し、モジュールのカソード側で、水蒸気及び予め改質されたフィードガスと反応することにより、合成ガス成分H2及びCOを産出する。
【0101】
流量71.2kgmol/hrの合成ガス生成物を、下記表2に示す組成とともに、31.9bara及び950℃の反応器システムの段140から引き出す。
【0102】
【表2】

【0103】
10段からなる各セットに対応する詳細な熱・材料収支データ、及び平均膜温度、平均合成ガス温度、合成ガス生産量、フラクシングされた酸素量、メタン原料変換率、及び合成ガス純度のプロフィールを、表2A、2B及び2Cに示す。平均膜温度プロフィール、平均合成ガス温度プロフィール、累積合成ガス生産量、フラクシングされた累積酸素量、メタン原料変換率、及び合成ガス純度を、反応器段番号の関数として示すプロットを、それぞれ図3〜8に記載する。
【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
例2
例1の段階的膜酸化反応器システムの熱・材料収支を、同じシミュレーション方法を用いて、しかし例1の一次設計操作条件に対して設計外又は代替の操作条件で実施した。例2の設計外又は代替の操作条件は、例1に対して事実上同じ純度及びメタン原料変換率で、低減された合成ガス生産能力をもたらす。
【0108】
反応器システムは、140の膜酸化段から成っている。このシステムにおいて、1セットが10段からなる14セットを、群のそれぞれに対して温度及びガス流量を制御することによって操作する。各段群に供給される反応体段間フィードガス流を各群において10段間に等しく分割する。酸化剤ガスは空気であり、この空気は871℃に予熱し、そして表3Aに示すフラックスをもたらすのに十分な流量で各段に提供する。温度及び温度設定点を測定し、そして表3A、3B及び3Cに要約された操作条件をもたらすように設定する。
【0109】
操作中、3.57kgmol/hrの水蒸気と0.12kgmol/hrの水素とを736℃まで予熱し、10段からなる第1群の第1反応段に導入する。11.91kgmol/hrの天然ガスと、0.24kgmol/hrの水素と、5.95kgmol/hrの水蒸気とを混合し、そして482℃まで予熱し、そして加熱された混合物を断熱予改質反応器内で予め改質し、そして439℃で反応器から出る。この混合物を反応体ガス及び反応体段間フィードガスとして140の膜酸化段に分配する。段201〜219又は221〜241に対応して、図2に示す10段からなる各群内に、ガス流を導入する。総反応体ガス流を10段からなる各セットに対して制御する。
【0110】
9.39kgmol/hrの水素流を、最初の40段に等しい流量で分割して導入することにより、炭素形成を抑制する。7.58kgmol/hrの二酸化炭素を、最後の100段に等しい流量で分割して導入することにより、86.7mol%のH2+COを含有する、H2/COモル比が2の生成合成ガスを産出する。全部で6.73kgmol/hrの酸素が膜を透過し、モジュールのカソード側で、水蒸気及び予め改質されたフィードガスと反応することにより、合成ガス成分H2及びCOを産出する。
【0111】
流量59.3kgmol/hrの合成ガス生成物を、下記表3に示す組成とともに、31.9bara及び950℃の反応器システムの段140から引き出す。
【0112】
【表6】

【0113】
10段からなる各セットに対応する詳細な熱・材料収支データ、及び平均膜温度、平均合成ガス温度、合成ガス生産量、フラクシングされた酸素量、メタン原料変換率、及び合成ガス純度のプロフィールを、表3A、3B及び3Cに示す。平均膜温度プロフィール、平均合成ガス温度プロフィール、累積合成ガス生産量、フラクシングされた累積酸素量、メタン原料変換率、及び合成ガス純度を、反応器段番号の関数として示すプロットを、それぞれ図3〜8に記載する。
【0114】
【表7】

【0115】
【表8】

【0116】
【表9】

【0117】
例1及び2の操作態様を下で比較する。
【0118】
例2においてフラクシングされた総酸素(6.73kgmol/hr)は、例1においてフラクシングされた総酸素(8.86kgmol/hr)の76%である。
【0119】
例2においてフィードされた総メタン(11.5kgmol/hr)は、例1においてフィードされた総メタン(15.4kgmol/hr)の75%である。
【0120】
例2において生成された合成ガス中に含有される総H2+CO(38.7kgmol/hr)は、例1において生成されたもの(46.7kgmol/hr)の83%である。生成合成ガス純度は、例2において86.7%のH2+CO、そして例1において86.8%のH2+COであり事実上同一である。
【0121】
例1及び2における反応器の最初の30段を通した温度プロフィールは事実上同一である。段31〜120を通して、例2における反応器の温度プロフィールは、例1の温度プロフィールを下回るように制御され、低減された酸素フラックス及びメタン変換率をもたらす。段121〜140を通して、例2における反応器の温度プロフィールは、例1における反応器の温度プロフィールに再び近づくように制御されることにより、例1と事実上同一の純度及びメタン原料変換率を、低減された生産能力でもたらす。
【0122】
例1及び2の結果と、表1に要約した前述の事例1〜9のうちの或るものと比較することにより、実施態様をさらに示すことができる。これらの比較を下に示す。
【0123】
事例1は、下記比較のためのベース事例である。
【0124】
事例2は、最初の60段に関して例1及び2を比較することにより例証することができる。段1〜30の群は第1段を形成することができ、そして段31〜60の群は第2段を形成することができる。
【0125】
事例4は、最後の40段に関して例1及び2を比較することにより例証することができる。段100〜120の群は第1段を形成することができ、そして段121〜140の群は第2段を形成することができる。
【0126】
事例5は、段41〜110に関して例1及び2を比較することにより例証することができる。
【0127】
事例7は、最後の40段に関して例1及び2を比較することにより例証することができる。段100〜120の群は第1段を形成することができ、そして段121〜140の群は第2段を形成することができる。このような比較のために、例2を、ベース又は設計事例操作として用い、そして例1を、設計外又は代替の事例操作として用いる。
【0128】
事例9は、段41〜110に関して例1及び2を比較することにより例証することができる。このような比較のために、例2を、ベース又は設計事例操作として用い、そして例1を、設計外又は代替の事例操作として用いる。
【0129】
例3
例1及び2と同様に別の140段反応器システムをシミュレートすることにより、反応器システムを通して、段番号に対する酸素フラックスを計算する。システムを、800℃、850℃、900℃、950℃、及び1000℃の理論上の操作に関してシミュレートすることにより、等温操作のための反応器の長さに沿った操作温度に対する酸素フラックスの感度を例証する。これらの感度等温線を表4及び図9に示す。50℃の温度変化は酸素フラックスの公称40%の変化をもたらすことが判る。この代表的応答は例えば、合成ガス生産能力を制御するための操作条件を選択するために用いることができる。
【0130】
140段反応器システムの操作をさらにベース設計事例に関してシミュレートすることにより、典型的な膜反応器システム操作に対応する酸素フラックス・プロフィールを示す。設計事例酸素フラックス・プロフィールの結果を表4に要約し、図9に示す。(各ラベル付き段内に含まれる膜の前縁における)バルクガス温度プロフィールはまた段番号15において870℃、段番号35において860℃、段番号95において870℃、段番号135において940℃、及び段番号140において950℃であることが示されている。
【0131】
特定の実施態様又は例に関して本発明を説明してきたが、本発明はこれらに限定されることはなく、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の他の形態のいずれかに変更又は改変することもできる。
【0132】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1膜酸化段と第2膜酸化段を少なくとも含む多段イオン輸送膜酸化システムであって、
(a1)前記第1膜酸化段が、反応体フィードガス入口と段間反応体ガス出口とを有する反応体ゾーンを含み、
(a2)前記第2膜酸化段が、前記第1膜酸化段の段間反応体ガス出口と流体連通する段間反応体ガス入口と、生成ガス出口とを有する反応体ゾーンを含み、そして
(a3)前記第2膜酸化段の反応体ゾーンと流体連通する段間フィードガス入口
をさらに含む多段イオン輸送膜酸化システムを用意する工程、
(b)前記第1膜酸化段の特性温度及び前記第2膜酸化段の特性温度を含む操作条件で、
(b1)反応体フィードガスを第1段の反応体フィードガス入口に導入し、
(b2)第1段の段間反応体ガス出口から段間反応体ガスを引き出し、該段間反応体ガスを前記第2膜酸化段の段間反応体ガス入口に導入し、
(b3)前記第2膜酸化段の段間フィードガス入口に反応体段間フィードガスを導入し、そして
(b4)前記第2膜酸化段の生成ガス出口から生成ガス流を引き出すこと
により前記イオン輸送膜酸化システムを操作して、ある生産能力及び生成物品質で以って生成ガスを提供する工程、並びに
(c)生産能力及び/又は生成物品質を制御する工程であって、
(c1)前記第1膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させること、
(c2)前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させること、
(c3)前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させること、
(c4)前記第1膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させること、
(c5)前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させること、
(c6)前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させること、
(c7)前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生成物品質を向上させること、
(c8)前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生成物品質を低下させること
からなる群より選択される方法によって前記第1膜酸化段の特性温度を変化させ及び/又は前記第2膜酸化段の特性温度を変化させることによって生産能力及び/又は生成物品質を制御する工程
を含む、多段イオン輸送膜酸化システムを操作する方法。
【請求項2】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生産能力を低下させ及び生成物品質を低下させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生産能力を向上させ及び生成物品質を向上させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を下げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を上げて生成物品質を向上させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生産能力及び/又は生成物品質が、前記第1膜酸化段の特性温度を上げ及び前記第2膜酸化段の特性温度を下げて生成物品質を低下させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記反応体フィードガスが水及び1種又は2種以上の炭化水素を含み、前記反応体段間フィードガスが1種又は2種以上の炭化水素を含み、そして前記生成ガス流が水素及び一酸化炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記多段イオン輸送膜酸化システムの各段が、酸化剤ゾーンと、該酸化剤ゾーンから反応体ゾーンを隔てる1つ又は2つ以上のイオン輸送膜と、酸化剤ガス入口と、酸素欠乏酸化剤ガス出口とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
任意の段の酸化剤ガス入口に酸化剤ガスを導入し、その段から酸素欠乏酸化剤ガスを引き出すことを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
任意の段の特性温度が、反応体フィードガス流量、反応体フィードガス組成、反応体フィードガス温度、反応体段間フィードガス流量、反応体段間フィードガス組成、反応体段間フィードガス温度、段間反応体ガス温度、及び任意の段に供給される酸化剤ガスの温度からなる群より選択される1つ又は2つ以上の操作パラメータを変化させることによって制御される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記多段イオン輸送膜酸化システムが、任意の反応体ゾーンの内部及び/又は第1段と第2段との間の段間反応体ガス流路内に配置された1種又は2種以上の触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記反応体フィードガス及び/又は前記反応体段間フィードガスが天然ガス及び/又は予め改質された天然ガスを含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−218349(P2011−218349A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−81886(P2011−81886)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】