説明

殺菌済みのペクチン及びその製造方法

【課題】ペクチン由来のアリシクロバチルス属細菌をペクチンとしての機能を損なうことなく殺菌したペクチン及びその効率的な製造方法並びにその好適な用途を提供する。
【解決手段】有機溶媒に分散させたペクチンをビーズミルを用いて湿式粉砕し、ペクチンに存在するアリシクロバチルス属細菌を殺菌したペクチンを製造する方法。ペクチンは平均粒子径0.1μmから1μmまでの大きさに粉砕することが望ましい。また、殺菌済みのペクチンは酸性飲料の製造に用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌済みのペクチン及びその製造方法に関する。詳しくは、ペクチン中に存在するアリシクロバチルス属細菌を殺菌した殺菌済みのペクチン及びその製造方法並びにその殺菌済みのペクチンを用いて酸性飲料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペクチンは、食品、化粧品、医薬品などの分野で広く用いられている水溶性の植物性繊維である。ペクチンは、通常は100μmないし数mmの大きさの粉末製品として流通している。また、エタノールやイソプロパノールなどの有機溶媒中で不溶化して沈殿する。この現象を利用して、ペクチンを有機溶媒中でビーズミルにより湿式粉砕して低分子化する方法が知られている。
【0003】
ペクチンは、食品分野では、安定材、ゲル化材ないし増粘材として、主としてジャム、マーマレード、フルーツプレパレーション、ゼリー、プリン、デザートベース、麺類、パン、各種飲料などの製造に使用されている。例えば、酸性乳飲料においては、乳由来のカゼインタンパク質が凝集・沈殿して外観や食感を損なうのを防止するため、従来から安定化材としてペクチンを添加している。しかし、最近では、酸性飲料について、ペクチン中のアリシクロバチルス(alicyclobacillus)属細菌の存在が問題となっている。
【0004】
アリシクロバチルス属細菌は、近年になって酸性飲料の異臭を伴う変敗事故によって検出された好気性芽胞形成細菌で、特徴的なω−シクロヘキサン脂肪酸を主要菌体脂肪酸として有している。アリシクロバチルス属細菌の一般的な形状は、幅0.7〜1μm、長さ3〜5μmの桿菌で、栄養細胞の末端に芽胞を形成する。YSG寒天培地上でコロニーを形成し、温度域20〜70℃、pH域2〜6で生育可能である(非特許文献1)。
【0005】
このように、アリシクロバチルス属細菌は、耐熱性の好酸性菌であり、高い耐熱性と耐酸性を有するため、通常の飲料製造ラインにおける加熱処理(すなわち、pH4.6以上では120℃・4分以上、pH4以上では85℃・30分、pH4.0未満では65℃・10分など厚生省告示などによる殺菌基準)では死滅しないという特徴を持っている。アリシクロバチルス属細菌は、病原性はないが、フェノール様の異臭を発生して食品の商品価値を損なうおそれがあるため、食品に存在することは好ましくなく、できるだけ殺菌する必要がある。未殺菌のペクチン中には、通常、300個/g程度のアリシクロバチルス属細菌が存在していることが知られている。
【0006】
アリシクロバチルス属細菌は、ペクチン又はこれを添加した飲食物などを超高温で加熱することにより死滅するが、このような処理はペクチン自体がダメージを受けて、食品添加物としての機能(安定化能、ゲル化能、増粘機能など)を損なうことになる。また、高温での加熱は飲食物の風味を劣化させ、栄養成分の損失を生じ、商品価値を損なうことになる。
【0007】
なお、ペクチン同様にアリシクロバチルス属細菌が存在する果汁については、果汁又は果汁飲料を膜ろ過して直接的に除菌する方法を採ることができる。しかし、ペクチンの場合は、これを添加するとその溶液がきわめて高粘度となるため、膜ろ過法は作業効率が悪く、採用できない。
【0008】
【特許文献1】WO01/095747号公報
【特許文献2】特開平5−15317号公報
【特許文献3】特開2003−160411号公報
【特許文献4】特開2004−187585号公報
【非特許文献1】2004年12月10日株式会社健帛社発行『好熱性好酸性菌−Alicyclobacillus属細菌−』(ILSIJapan食品安全研究部会微生物分科会編集)
【0009】
特許文献1には、アリサイクロバシラス(Alicyclobacillus)属に属する耐熱性好酸菌が酸性飲料中で増殖することを抑制するために、該酸性飲料中にブドウ種子の水抽出物及び/又はブドウ果実搾汁粕の水抽出物を配合する方法が開示されている。しかし、この方法は、耐熱性好酸菌の増殖を抑制する方法であり、耐熱性好酸菌を殺菌ないし除去する方法ではない。
【0010】
特許文献2には、容器内に内蔵したビーズミルなどの粉砕媒体にペクチンを含む食物繊維のハイドロゲルを強制的に押し込み、湿式粉砕することによって、平均粒子径が20μm以下の微粒子ハイドロゲルを大量に得る方法が開示されている。しかし、特許文献2には、この方法をペクチン中のアリシクロバチルス属細菌を殺菌ないし除去する方法に応用することについては、何ら開示されていない。
【0011】
また、アリシクロバチルス属細菌などの耐熱性好酸性菌を含む飲食品に対して、特許文献3には、ジグリセリンミリスチン酸エステル及び/又はその塩を有効成分とする菌抑制剤を添加してその増殖を抑制する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、ポリグリセリン脂肪酸エステルやレシチンなどを含有する品質低下防止剤を添加して耐熱性好酸性菌の働きを抑制する方法が開示されている。しかし、これらの菌抑制剤や品質低下防止剤の添加は、飲食物としての風味に影響を与える他、近年、安全嗜好の高まった消費者から回避される傾向にあり、これら菌抑制剤や品質低下防止剤を添加した場合、飲食品としてのイメージダウンを受けるおそれが大きい。また、これら菌抑制剤や品質低下防止剤は、耐熱性好酸性菌の活動を抑制するだけであり、耐熱性好酸性菌を殺菌・除去するものではない。
【0012】
また、非特許文献1には、アリシクロバチルス属細菌の一般的性状や生理・生化学的性状などについて記載されている。しかし、非特許文献1には、アリシクロバチルス属細菌を含む試料を微粉砕することによって殺菌・除去することに関しては、何ら開示されていない。
【0013】
以上のとおり、公知文献には、アリシクロバチルス属細菌の殺菌法について開示したものはない。このことから、ペクチンの機能を損なうことなく、また、ペクチンを添加した飲食物の風味を損なうことなく、ペクチン中のアリシクロバチルス属細菌を殺菌ないし除去する方法は、未だ開発されていないものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の状況に鑑み、本発明は、ペクチン由来のアリシクロバチルス属細菌を、ペクチンとしての機能を損なうことなく殺菌を済ませたペクチン及びその製造方法並びにその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明のうち特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、有機溶媒に分散させたペクチンをビーズミルを用いて湿式粉砕し、ペクチンに存在するアリシクロバチルス属細菌を殺菌したペクチンを製造する方法である。
【0016】
同請求項2に記載する発明は、ペクチンを平均粒子径0.1μmから1μmまでの大きさに粉砕することとした請求項1に記載のアリシクロバチルス属細菌を殺菌したペクチンを製造する方法である。
【0017】
同請求項3に記載する発明は、請求項1又は2に記載の方法により殺菌してあるアリシクロバチルス属細菌を殺菌済みのペクチンである。
【0018】
同請求項4に記載する発明は、請求項3に記載の殺菌済みのペクチンを用いて酸性飲料を製造する方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ペクチンとしての機能を損なうことなく、ペクチンに由来するアリシクロバチルス属細菌を殺菌済みのペクチン及びその効率のよい製造方法並びに好適な用途を提供できるので、本発明によって、ペクチンの用途を大きく拡大できる。また、本発明によって、アリシクロバチルス属細菌混入のおそれがない酸性飲料を容易に製造できる。このように、本発明は、添加対象の飲食物の価値やイメージを損なうことなく、工業的に有用なペクチンとその効率的な製造方法並びにその好適な用途を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る殺菌済みのペクチンの製造方法は、有機溶媒中にペクチンとビーズを共存させ、遠心力や攪拌力などを利用してペクチンとビーズを衝突させることで、ペクチンを微粉化していく方法である。詳しくは、ペクチンが有機溶媒液中で不溶化して沈殿する性質を利用し、ペクチンを有機溶媒に分散させた分散液をビーズミルを通して循環させ、その間にペクチンとビーズを衝突させてペクチンをビーズとビーズの間で擦り潰すなどして湿式粉砕することによって、ペクチンに存在するアリシクロバチルス属菌を粉砕・殺菌する方法である。ペクチンの粉砕方法としては、本発明のようにビーズミルを用いる方法の他に、ジェットミルを用いる方法(加圧噴射された気体で粉体どうしを衝突させて粉砕する方法:後記する試験例2における比較例2の方法)などの乾式粉砕法やペクチン水溶液を超高温処理(例えば120℃・30分間加熱)した後、数倍量のアルコールを加えてペクチンを沈殿させ、これを乾燥・粉砕する方法(同比較例3の方法)があるが、試験例2に示すとおり、乾式粉砕法ではペクチンの殺菌効果が十分でなく、また、超高温処理法ではペクチンがダメージを受けてしまうため、いずれも採用できない。
【0021】
また、粘度の比較的低い低濃度ペクチン溶液(0.1〜0.3%程度)をフィルター口径0.1μm以下の膜に通し、ろ過膜上に残渣として残ったアリシクロバチルス属菌を除去する方法(後記する試験例2における比較例4の方法)も考えられるが、このようなろ過膜法は、ろ過速度が遅く、しかも、その後にろ液を濃縮し、数倍量のアルコ−ルを加えてペクチンを沈殿させ、乾燥・粉砕しなければならないなど労力的・時間的な制約が大きいので、この方法も採用できない。
【0022】
以上の理由により、本発明では従来からペクチンを低分子化するのに用いられているビーズミル法を採用する。本発明において、用いるビーズはどのような種類のものでも差し支えないが、粒径が0.01〜1mm程度のものを使用するのが好ましい。なお、ビーズは、ペクチンを殺菌した後、フィルターにより完全に取り除くことができるため、食用のものである必要はないが、食用に供しても毒性が少なく、また、粉砕時の衝突でも壊れることがない強度を有するものが望ましい。その例として、ナイロンやセラミックやジルコニアを挙げることができる。また、本発明において、ビーズミルは、どのような機種のものでも使用できる。
【0023】
本発明で用いる有機溶媒は、ペクチンが溶解しないものであればどのような種類のものでも差し支えないが、粉砕後にスプレードライヤーなどで蒸発させることができ、安全性に問題ない残存量とすることができるものが好ましく、その例として、エタノールやイソプロピルアルコールを挙げることができる。
【0024】
本発明で用いるペクチンは、どのようなものでも問題はなく、例えば、化学組成としてハイメトキシルペクチン、ロウメトキシルペクチン、アミドペクチンを、用途として、増粘用ペクチン、安定化用ペクチン、ゲル化用ペクチンを、状態として、粉末、スラリー、原料となる植物として、果物由来や野菜由来のものを挙げることができる。
【0025】
本発明において、有機溶媒中のペクチン濃度(分散度)とビーズの濃度(分散度)は、どのような組み合わせにしても構わないが、両者の濃度があまりに高いと溶媒の流動性が低下して作業効率が落ちる。一方、あまりに低いと、衝突の頻度が低下してやはり作業効率が落ちる。通常、ビーズの濃度は対溶液比で数%ないし50%程度、ペクチン濃度は対溶液比で数%ないし50%程度に調整することで、十分に作業性の高い衝突頻度と流動性を得ることができる。
【0026】
本発明において、ビーズミルを用いて有機溶媒中のペクチンを湿式粉砕する際には、ビーズとペクチンの衝突が繰り返されることによる破砕時の摩擦でビーズミルの温度が上昇しやすいが、ビーズミルは外部からの冷却で十分に冷却が可能であるため、ペクチンが熱によりダメージを受けてその機能を損なうおそれはない。また、本発明における湿式粉砕では有機溶媒とビーズ以外は使用せず、両者とも粉砕後は除去することが可能であるため、安全であり、消費者に不安を与えることなくアリシクロバチルス属細菌の殺菌を行なうことができる。
【0027】
殺菌を済ませた後のペクチン分散液からビーズと有機溶媒を除去する方法は、以下のとおりである。すなわち、ビーズについては、ビーズとペクチンの粒径の違いを利用し、ローターの遠心力とフィルターを用いて両者を分離する。ペクチンは、ビーズ以下の大きさに粉砕されるので、篩いやフィルターで簡単に分離することができる。また、得られた殺菌済みのペクチンと有機溶媒の混合物は、乾燥により有機溶媒を蒸発させて除去する。
【0028】
本発明において、アリシクロバチルス属細菌の大きさが0.5〜5μm程度であることから、アリシクロバチルス属細菌を殺菌するには、ペクチンは、平均粒子径0.1μmから1μmまでの大きさに粉砕することが好ましい。
【0029】
このようにして製造した殺菌済みのペクチンは、従来同様、各種の飲食品の製造に安定化材やゲル化材や増粘材として用いることができるが、特に酸性乳飲料や酸性果汁飲料などの酸性飲料の製造に用いることが好ましい。
ペクチンを用いた酸性飲料の一般的な製造方法は、以下のとおりである。
まず、ペクチンを水に分散させ、90℃程度まで加温して溶解させた後、酸性乳飲料であれば、乳を添加して攪拌混合する。これに果汁やクエン酸などの酸性原料を添加し、pHを3.7から4.0に調整する。酸性果汁飲料のときば乳原料を添加することはない。このように調整した原料液を60℃程度に保持したまま、150kg/cm2 程度の高圧でホモゲナイズする。90℃で15秒間殺菌を行ない、容器に無菌的に充填するとよい。アリシクロバチルス属細菌を殺菌済みのペクチンについても、上記と同様に用いて酸性飲料を製造することができる。
【0030】
以下、実施例と試験例をもって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明において「%」の表示は、特に断らない限り、重量割合を示す。
また、本発明において、アリシクロバチルス属細菌の生菌数は「日本果汁協会法」(アリシクロバチルス属細菌を至適生育温度付近で培養して選択的に検出する方法)に基づいて、試料1mL(又は1g)中の生菌数を計測したものである。
【実施例1】
【0031】
<殺菌済みペクチンの製造例1>
30%ペクチン(degussa.Texturant Systems 社:UNIPECTIN AYD30)/イソプロピルアルコール溶液をタンク中で攪拌しながら、ペクチンを分散させた。この分散液をタンクからビーズミルに送って5時間循環させ、ペクチンをビーズに衝突させることを繰り返して湿式粉砕した。ビーズは、粒径0.3mmのナイロン材のものを用い、2000rpmで回転させながら分散液を循環させた。タンクとビーズミルには冷却機を備えさせ、4〜5℃の水を循環させて冷却した。粉砕後のペクチン分散液をビーズミルのローターの遠心力によりフィルターを通して分離・回収してスプレードライヤーにかけ、顆粒状の殺菌済みペクチンを得た。得られた殺菌済みペクチン中のアリシクロバチルス属細菌の生菌数は、38個/gであった。また、レーザー粒子計で測定した結果、得られた殺菌済みペクチンの平均粒子径は1μmであった。
【実施例2】
【0032】
<殺菌済みペクチンの製造例2>
30%ペクチン(degussa.Texturant Systems 社:UNIPECTIN AYD30)/イソプロピルアルコール溶液をタンク中で攪拌しながら、ペクチンを分散させた。この分散液をタンクからビーズミルに送って5時間循環させ、ペクチンをビーズに衝突させることを繰り返して湿式粉砕した。ビーズは粒径0.1mmのセラミック材のものを用い、3000rpmで回転させながら分散液を循環させた。粉砕効率を上げるために、タンクとビーズミルの冷却機に100%エタノールを溶媒として流し、粉砕中はタンク内の液の温度を−20℃から−30℃に維持した。粉砕後のペクチン分散液をビーズミルのローターの遠心力によりフィルターを通して分離・回収してスプレードライヤーにかけ、顆粒状の殺菌済みペクチンを得た。得られた殺菌済みペクチン中のアリシクロバチルス属細菌の生菌数は、0個/gであった。また、レーザー粒子計で測定した結果、得られた殺菌済みペクチンの平均粒子径は0.6μmであった。
【実施例3】
【0033】
<殺菌済みペクチンを用いた酸性乳飲料の製造例>
実施例2で作った殺菌済みペクチンを70℃の温水に添加して、高速攪拌機で攪拌しながら1%ペクチン溶液500kgを得た。別に、脱脂粉乳を40℃程度の温水に溶解し、3%脱脂粉乳溶液400kgを得た。1%ペクチン溶液300kgと砂糖96kgと3%脱脂粉乳溶液367kgとを混合した後、さらにクエン酸1kgを加えて攪拌し、水236kgを加えて溶液を1000kgとした。この溶液を高圧ホモゲナイザーにかけて150kg/cm2 で均質化処理を行なった。これをプレート式熱交換機で90℃達温で加熱殺菌し、容器に無菌的に充填して冷却し、異臭のない、クリーミーな酸性乳飲料を得た。得られた酸性乳飲料中のアリシクロバチルス属細菌の生菌数は、0個/mLであった。また、得られた容器充填済みの酸性乳飲料を30日間・5℃の室内に保存したが、いずれもクリーミーな性状に変化はなかった。
【試験例1】
【0034】
<ビーズミルによるペクチンの粉砕試験>
(1)試験方法
HMペクチン(degussa.Texturant Systems 社製「UNIPECTIN AYD30」)を粉砕して(検体1・検体2)又は粉砕せずに(検体3)作った3種類の検体を希釈して試料とし、YSG寒天培地に添加して培養した後(培養条件pH3.7・45℃)、試料中のアリシクロバチルス属細菌の生菌数をそれぞれ計測した。
(1)供試検体:
イ.検体1:微粉末(平均粒子径約0.9μm)
濃度100%のエタノールに市販のロウメトキシルペクチンを混合して30%分散液 を作った。このペクチン分散液をセラミック製ビーズ(粒径0.2mm)を封入して あるビーズミルにかけて2000rpmで回転させながら1時間循環させ、ビーズと ペクチンを衝突させてペクチンを粉砕し、ビーズミルから回収して検体1を作った。
ロ.検体2:粗粉末(平均粒子径約12μm)
別のセラミック製ビ−ズ(粒径1mm)を使用した以外は検体1と同じ方法によって 同種の市販ペクチンを粉砕し、検体2を作った。
ハ.検体3:未粉砕(平均粒子径約100μm)
市販のペクチンを粉砕せずに、そのまま用いた。
(2)YSG寒天培地の調製:
イ.組成:A液 酵母エキス(Difco) 0.4%、グルコース0.2%
B液 可溶性デンプン(Difco) 0.4%、寒天0.3%
ロ.調製:
A液をpH3.7に調整してA・B両液を高圧滅菌(121℃・20分間)した。そ の後、A・B両液を混合しYSG寒天培地とした。
(3)試料の調製方法:
イ.20倍希釈試料:各検体5gを95mLの生理食塩水に溶解(20倍希釈)し、70 ℃のウオターバスで20分間保温(ヒートショック)した。
ロ.100倍希釈試料:20倍希釈試料2mLを試験管に入れて8mLの水で希釈した。ハ.各試料1mLをシャーレに採取し、YSG寒天培地を分注・混釈した。
ニ.その後、1検体につき5プレートを培養した(45℃・5日間)。これは、それぞれ ペクチン0.25g、0.05g中のアリシクロバチルス属生菌数に相当する。
【0035】
(2)試験結果
試験結果は表1と表2に示すとおりである。
《表1》
生菌数(5プレート合計)
20倍希釈試料 100倍希釈試料
検体1(微粉末) 7個 2個
検体2(粗粉末) 78個 19個
検体3(未粉砕) 249個 120個
《表2》
ペクチン1gあたりの生菌数(20倍希釈試料から算出した。)
検体1(微粉末) 28個
検体2(粗粉末) 312個
検体3(未粉砕) 996個
【0036】
(3)考察
表1・表2から、ペクチンを微細に粉砕するほどアリシクロバチルス属細菌数が減少することが確認された。
アリシクロバチルス属細菌は、芽胞と称される耐久器官を備えており、熱にも酸にも耐性があるが、ビーズミルで物理的に微細に粉砕することにより、この芽胞ごと菌細胞が破壊されてしまい、生菌数が減少するものと考えられる。
【試験例2】
【0037】
<酸性飲料の製造試験>
(1)試験方法
表3に示す性状のペクチン(5種類)各0.3%、牛乳11.6%、グラニュー糖9.6%、クエン酸0.1%、清水78.4%(合計100%)の配合により酸性乳飲料を試作した。
(2)供試ペクチンの製法
試験に供した5種類のペクチンは、いずれも同種の市販品で、全て粉末状である。
比較例1では、市販のペクチン(degussa.Texturant Systems 社のハイメトキシルペクチンAYD30)をそのまま用いた。
比較例2では、ジェットミルを用いて乾式粉砕したペクチン(平均粒子径10μm)を用いた。
比較例3では、ペクチンを水に水和させ、高温高圧(120℃・30分間)で処理した後、4倍量程度のアルコールを加えてペクチンを沈殿させ、乾燥した後粉砕したものを用いた。
比較例4では、粘度の比較的低い低濃度ペクチン溶液(0.1〜0.3%程度)をフィルター口径0.1μm以下の膜に通し、ろ過膜上に残渣として残ったアリシクロバチルス属細菌を除去し、ろ過液を4倍量のエタノールを加えてペクチンを沈殿させ、乾燥・粉末化したペクチンを用いた。
本発明例では、実施例1と同じ方法で殺菌したペクチンを用いた。
【表3】

(注1)ペクチンの平均粒子径は、試作5回の平均値であり、レーザー
粒子計により測定した。
(注2)ペクチンの処理効率は、表3に示す処理を行なうについて1時間に処理することが可能な量を測定したものである。
【0038】
(3)試作結果
酸性乳飲料の試作の結果は表4に示すとおりである。

【表4】

【0039】
表4から、比較例1に関しては、飲料は安定化されているが、アリシクロバチルス属細菌の存在が確認された。
比較例2に関しては、飲料は安定化されているが、殺菌効果が不十分であることが確認された。
比較例3に関しては、十分な殺菌がなされているが、ペクチンがダメージを受けて安定化能が損なわれていることが確認された。
比較例4に関しては、飲料は安定化されており、殺菌効果も見られるが、ペクチンの処理効率がきわめて悪いことが確認された。
本発明例に関しては、飲料は安定化されており、殺菌効果も十分であるとともに、ペクチンの処理効率も非常に高いことが確認された。
【0040】
(4)考察
以上の結果から、アリシクロバチルス属細菌を殺菌するには、ペクチンを有機溶媒に分散させ、ビーズミルを用いて湿式粉砕する方法が最も効果的であることが判明した。すなわち、本発明の方法が最も殺菌効果が高く、かつ、効率的であることが確認された。
【産業上の利用性】
【0041】
本発明により、ペクチンとしての機能を損なうことなく、ペクチンに由来するアリシクロバチルス属細菌を効率よく殺菌することができるので、本発明は、ペクチンの用途を大きく拡大することができる。また、本発明によって、アリシクロバチルス属細菌混入のおそれがない酸性飲料を容易に製造できる。よって、本発明は、きわめて有用なペクチンとその効率的な製造方法並びにその好適な用途を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒に分散させたペクチンをビーズミルを用いて湿式粉砕し、ペクチンに存在するアリシクロバチルス属細菌を殺菌したペクチンを製造する方法。
【請求項2】
ペクチンを平均粒子径0.1μmから1μmまでの大きさに粉砕することとした請求項1に記載のアリシクロバチルス属細菌を殺菌したペクチンを製造する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により殺菌してあるアリシクロバチルス属細菌を殺菌済みのペクチン。
【請求項4】
請求項3に記載の殺菌済みのペクチンを用いて酸性飲料を製造する方法。






































【公開番号】特開2006−206713(P2006−206713A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19569(P2005−19569)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(306007864)ユニテックフーズ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】