説明

母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのTaqManMGBプローブ及びその使用方法

本発明は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのリアルタイム定量MGBプローブ及びその使用方法に関する。本発明はTaqman突然変異型及び野生型の2つのMGBプローブ、及び1対のプライマーを設計し、リアルタイム定量Taqman MGBプローブ法により、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異に対する遺伝子型解析を行うことにより、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断する。この方法は操作が簡単で、時間が節約でき、高い特異性及び感度、検出結果の直観性、正確かつ高い信頼性を有するため、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異に対する大規模なスクリーニングまたは予防検査に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子工学技術の分野に関し、具体的には、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断するためのプローブ及びその使用方法に関する。より具体的には、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのリアルタイム定量TaqMan MGBプローブ及びその使用方法に関する。本発明は、さらに、前記MGBプローブ及びその関連製品の、母性遺伝のミトコンドリア難聴疾患を診断するためのキットまたは類似製品の製造における使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ配糖体系抗生物質(ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、トブラマイシン及びミクロノマイシンなど)は、様々な菌に対して抗菌作用を有し、かつ低価格であることから、臨床上でグラム陰性菌及び陽性菌感染の治療のために広く使用されている。しかし、この種の抗生物質は高い耳毒性を有するという副作用を有し、不可逆的な聴覚障害を招くおそれがある。十年来の研究により、一部のアミノ配糖体系抗生物質による難聴患者は、母性遺伝の家族歴があり、ミトコンドリアDNA 12S rRNA遺伝子(以下、ミトコンドリア遺伝子、またはmtDNAと略称する)の第1494位がC→Tのホモ接合点突然変異(以下、C1494T突然変異と略称する)していることと関連があることが示唆されている(Zhao H et al,American Journal of Human Genetics, 2004, 74: 139-152; Wang Q et al,Biochem Biophys Res Commun. 2006,340:583-588)。単回投与量のアミノ配糖体系薬物の使用は、この突然変異の保因者に重度の聴覚障害を引き起こしうる。これまでの研究結果によれば、この突然変異の保因者は、さまざまな投与量でアミノ配糖体系薬物を投与された後、ほぼ全てが重度また比較的重度の聴覚障害を発症する。したがって、この突然変異が後天性難聴発症の重要な原因であることが理解できる。この種の聴覚障害は、関係する特定の遺伝子変異と誘発因子とが確認されていることから、予防可能な疾病である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異(mtDNA C1494T突然変異)は、最近明らかになったアミノ配糖体系薬物の単回投与量の使用により中毒による難聴を引き起こしうるミトコンドリア遺伝子突然変異である。中国ではミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異による母性遺伝性難聴家系が4例発見されており、各家系の発症人数は2〜28人と異なる。いまだ発見・報告されていない同種の家系も多く、当該突然変異が散発性難聴の発症メカニズムにおいてある程度の比率を占めていると考えると、この種の難聴の予防が更に重要になる。予防のかなめは、スクリーニングによってmtDNA C1494T突然変異の保因者を検出し、この種の保因者にアミノ配糖体系抗生剤を絶対に投与しないようにして、重度の耳毒性反応の発生を予防することにある。
【0004】
2004年にmtDNA C1494Tと難聴の関係が発見されて以来、この突然変異を検出する方法として主に直接塩基配列決定法が使用されている。直接塩基配列決定法は遺伝子突然変異を評価するためには有効な方法であるが、コストが高く、工程が複雑で、所要時間が長い等の問題がある。我々はこれらの問題を解決するために、mtDNA C1494T突然変異を広範囲にスクリーニングするという需要を満たすための、簡単、迅速、正確で、汚染が少なく、かつ低コストである検出方法を設計した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は以下の原理によって実現される。
母性遺伝のミトコンドリア遺伝子配列(配列番号5)におけるC1494T突然変異を検出するために、前記遺伝子配列の1494塩基部位を含む領域に対応するTaqMan MGBプローブ(プローブの配列は1482〜1508番目の塩基に対応する)を設計し、当該MGBプローブ断片の5’末端を蛍光レポーターで標識し、3’末端を非蛍光クエンチャーMGBで標識した。1494番目の塩基に対応する塩基がCからTに置換されているMGBプローブを、突然変異型リアルタイム定量MGBプローブ(または突然変異型MGBプローブ、突然変異型Taqman MGBプローブ)と称する。MGBプローブの1494番目の塩基に対応する塩基がCのままであるMGBプローブを、野生型リアルタイム定量MGBプローブ(または野生型MGBプローブ、野生型Taqman MGBプローブ)と称する。
【0006】
突然変異型MGBプローブと野生型MGBプローブとではMGBプローブの5’末端の蛍光レポーターが異なるため、異なる波長の蛍光を、リアルタイム定量PCR装置にそれぞれ記録することができ、それらは分析ソフトウェアによって異なる色や標識として表示される。そのため、突然変異型MGBプローブはC1494T突然変異が発生したテンプレートには完全にアニールできるが、野生型テンプレートには完全にはアニールできない。一方、野生型MGBプローブはC1494T突然変異が発生したテンプレートには完全にはアニールできず、野生型テンプレートにのみ完全にアニールできる。また、異なるMGBプローブがアニールしたテンプレートは、異なる波長の蛍光を発することができる。
【0007】
リアルタイム定量PCR増幅系では、配列番号5で示された母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列を増幅するためのフォワードプライマーとリバースプライマー(いかなる生物プライマーソフトウェアによって設計してもよい)を加えるとともに、突然変異型リアルタイム定量MGBプローブを加える。必要であれば野生型リアルタイム定量MGBプローブを加えてもよい。
【0008】
MGBプローブが短い(12〜25塩基前後)ため、5′末端の蛍光レポーターはエネルギーを吸収した後、近接する3′末端の非蛍光クエンチャーにエネルギーが転移される。したがって、3′末端の非蛍光クエンチャーは、5′末端蛍光レポーターの蛍光を抑制することができる。従って、MGBプローブが無傷(intact)である場合、即ち5′末端の蛍光レポーターの蛍光が3′末端の非蛍光クエンチャーによって抑えられている場合には、MGBプローブの5′末端の蛍光レポーターが発する蛍光を検出できない。
【0009】
ある実施形態においては、プライマーと、突然変異型MGBプローブと、野生型MGBプローブとを同時にリアルタイム定量PCR反応系中に加える。反応系のテンプレートを変性させた後、低温でアニーリングするときに、プライマーとMGBプローブが共にテンプレートに結合する。プライマーの媒介により、DNA合成がテンプレートに沿ってMGBプローブの結合部位まで伸長すると、Taq酵素の5′-3′エキソヌクレアーゼ活性(この活性は二本鎖特異性であり、遊離している一本鎖MGBプローブは影響を受けない)によりMGBプローブ5′末端に結合している蛍光レポーターがMGBプローブから切り離されて反応系中に遊離し、3′末端の非蛍光クエンチャーの抑制が解除され、光刺激を受けて蛍光シグナルを発する。即ち、DNA鎖を一つ増幅するたびに蛍光分子が一つ生成されることから、蛍光シグナルの蓄積とPCR産物の形成とが完全に同時になる。即ち、蛍光シグナルの強度と対応するPCR産物の量とは比例する。テンプレートがC1494T突然変異型である場合には、突然変異型MGBプローブは、C1494T突然変異型のテンプレートに完全にアニールし、PCR反応において5′末端の蛍光レポーターがTaq酵素により絶えず切り離されて3′末端の非蛍光クエンチャーの抑制が解除され、その蛍光強度はPCR産物の量の増加に伴って増加し続ける。一方、野生型MGBプローブは、突然変異型MGBプローブと塩基が一つ異なるため、C1494T突然変異型のテンプレートにアニールできない。そのため突然変異型MGBプローブが発した蛍光シグナルのみが検出される。テンプレートがC1494C野生型である場合には、野生型MGBプローブはテンプレートに完全にアニールするが、突然変異型MGBプローブは、野生型MGBプローブと塩基が一つ異なるため、C1494C野生型のテンプレートにはアニールできず、野生型MGBプローブが発した蛍光シグナルのみが検出される。突然変異型MGBプローブおよび野生型MGBプローブのそれぞれの5′末端にそれぞれ異なる蛍光レポーターが結合されているため、発せられた蛍光の色の違いによって、蛍光に対応するテンプレートを区別することができる。即ち、サンプル中に母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子が含まれるか否かを検出できる。
【0010】
他の実施形態においては、リアルタイム定量PCR反応系中に突然変異型MGBプローブのみを加えてもよい。テンプレートが突然変異型である場合には、最終的に突然変異型MGBプローブから発せられる蛍光シグナルを検出できるため、サンプルが母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を含んでいることを特定することによって、患者がミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患に罹患していることを特定できる。テンプレートが野生型である場合、最終的に突然変異型MGBプローブが発せられる蛍光シグナルを検出できないため、サンプルが母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を含んでいないことを特定することによって、患者がミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患に罹患していないことを特定できる。
【0011】
即ち、理論的には、反応系にC1494T突然変異型テンプレートに対応する突然変異型MGBプローブのみを加えれば、試験の実施が可能である。しかしながら、C1494C野生型テンプレートに対応する野生型MGBプローブも同時に加えた場合、逆補正による2重フェイルセーフが達成され、より正確で信頼できる結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
従って、本発明の第一の目的は、以上の発明原理に基づいて、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのリアルタイム定量MGBプローブを提供することである。当該MGBプローブの5′末端は、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1482〜1487番目の塩基の領域に対応し、3′末端がミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1503〜1508番目の塩基の領域に対応する。また、そのMGBプローブ断片の5′末端は蛍光レポーターで標識され、3′末端は非蛍光クエンチャーMGBで標識されている。さらに、当該MGBプローブは、1494番目の塩基に対応する塩基CがTに置換されており、突然変異型リアルタイム定量MGBプローブと称される。
【0013】
なお、本分野において、TaqManプローブはその3’末端に標識されたクエンチャーの違いによって、普通のTaqManプローブとTaqMan MGBプローブとの二種類に分けられる。普通のTaqManプローブのクエンチャーは蛍光クエンチャーであるが、MGBプローブのクエンチャーには非蛍光クエンチャーが用いられ、自身では蛍光を発しないため、バックグラウンドシグナルの強度を大幅に低下させることができる。同時に、MGBプローブには、修飾因子MGB(Minor Groove Binder)が結合しているため、プローブのTm値を10℃前後上昇させることができる。同様のTm値を得るためには、MGBプローブを普通のTaqManプローブよりも短く設計すればよく、合成コストが低くなるばかりでなく、プローブ設計の成功率も大きく向上する。これは、テンプレートのDNA塩基配列が理想的ではない場合、短いプローブの方が長いプローブよりも設計が容易なためである。mtDNAの1494部位及びその周辺の塩基配列の特徴に鑑み、さまざまな試験を行ったうえで、本発明が選択したTaqMan MGBプローブは、好ましくは5’末端が配列番号5の1485〜1488番目の塩基の領域に、3’末端が1503〜1505番目の塩基に対応し、より好ましくは、TaqMan MGBの5’末端が1487〜1488番目の塩基に、3’末端が1503番目の塩基に対応する。
【0014】
ある具体的な実施形態においては、突然変異型MGBプローブのヌクレオチド配列は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1487〜1503番目の塩基の領域に対応し(配列番号1で示されるヌクレオチド配列)、また、5′末端の蛍光レポーターはFAM蛍光レポーターであり、3′末端の修飾基は非蛍光クエンチャーMGBである。
【0015】
本発明の第二の目的は、突然変異型MGBプローブとあわせて使用する野生型MGBプローブを提供することである。野生型MGBプローブは、1494番目の塩基部位に対応する塩基がCのままであり、かつ5′末端の蛍光レポーターが突然変異型MGBプローブの5′末端の蛍光レポーターと異なっており、プローブの開始点が1487番目の塩基ではなく1488番目の塩基に対応していることを除けば、他の構造は、突然変異型MGBプローブと同じである。
【0016】
ある具体的な実施形態においては、野生型MGBプローブのヌクレオチド配列は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1488〜1503番目の塩基の領域に対応し(配列番号2で示されるヌクレオチド配列)、また、5′末端の蛍光レポーターはHEX蛍光レポーターであり、3′末端は非蛍光クエンチャーMGBである。
【0017】
指摘すべきことは、5′末端の蛍光レポーター及びそれに対応する3′末端の非蛍光クエンチャーは、本分野において使用可能ないずれの蛍光レポーターまたは非蛍光クエンチャーであってもよく、また、当業者にとっては、これらの蛍光レポーター及びそれに対応する非蛍光クエンチャーもまた周知の技術である。例えば、蛍光色素FAMおよびHEXは、VIC、JOE等の他の蛍光レポーターまたは色素に置き換えられてもよい。
【0018】
本発明の第三の目的は、リアルタイム定量MGBプローブとともに使用するPCRフォワードプライマー及びリバースプライマーを提供することである。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、配列番号5で示されたC1494T突然変異を含む母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の増幅に用いられる。そこで、フォワードプライマー(長さ約15〜24塩基)の5′末端は配列番号5の1〜1464番目(C1494Tの上流)の塩基の領域に対応し、リバースプライマー(長さ約15〜24塩基)の3’末端は配列番号5の1615〜16568番目(C1494Tの下流)の塩基の領域に対応する。好ましくは、フォワードプライマー(長さ約15〜24塩基)の5′末端は配列番号5の1000〜1464番目(C1494Tの上流)の塩基の領域に対応し、リバースプライマー(長さ約15〜24塩基)の3’末端は配列番号5の1615-2000番目(C1494Tの下流)の塩基の領域に対応する。より好ましくは、フォワードプライマー(長さ約15〜24塩基)の5′末端は配列番号5の1400〜1464番目(C1494Tの上流)の塩基の領域に対応し、リバースプライマー(長さ約15〜24塩基)の3’末端は配列番号5の1615〜1700番目(C1494Tの下流)の塩基の領域に対応する。最も好ましくは、フォワードプライマー(長さ約15〜24塩基)の5′末端は配列番号5の1464番目(C1494Tの上流)の塩基部位に対応し、リバースプライマー(長さ約15〜24塩基)の3’末端は配列番号5の1615番目(C1494Tの下流)の塩基部位に対応する。
【0019】
ある具体的な実施形態においては、フォワードプライマーは母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1464〜1481番目の塩基ヌクレオチド配列に対応し、その配列は配列表における配列番号3である。リバースプライマーは配列番号5で示される1592〜1615番目の塩基ヌクレオチド配列に対応し、その配列は配列表における配列番号4である。
【0020】
ある具体的な実施形態においては、各種の生物ソフトウェアのプログラムを利用して前記プライマーを設計することができる。好ましくは、Genetool Liteプログラム(米国Biotools社が提供するソフトウェア)でプライマーを設計する。
【0021】
本発明の第四の目的は、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患診断用キットの製造における前記MGBプローブを使用することである。
【0022】
ある具体的な実施形態において、本発明者は本発明の原理と設計したプライマーとTaqman MGBプローブとを利用して、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患の診断のための、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を体外で検出するためのキットを提供する。そのキットは:
1.血液サンプルからDNAを抽出するための試薬;
2.PCR増幅反応試薬混合液、好ましくはHotstar Mastermix混合液;
3.C1494C部位またはC1494T突然変異部位を含む配列番号5の母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列を増幅するための、フォワードプライマー及びリバースプライマー(好ましくは1:1の比で混合される);
4.前述のリアルタイム定量突然変異型Taqman MGBプローブ;を含み、必要に応じて、さらに、
5.使用説明書
を含む。
【0023】
ある具体的な実施形態においては、前記キットには前述の野生型リアルタイム定量Taqman MGBプローブを含んでもよい。
もう一つの具体的な実施形態においては、前記キット中のフォワードプライマー及びリバースプライマーの構造は前述の通りである。フォワードプライマーは好ましくは配列番号3で示されるヌクレオチド配列から選択され、リバースプライマーは好ましくは配列番号4で示されるヌクレオチド配列から選択される。
【0024】
他の具体的な実施形態においては、突然変異型MGBプローブのヌクレオチド配列は、好ましくは配列番号1で示されるヌクレオチド配列から選択され、その5’末端の蛍光レポーターはFAM蛍光レポーターであり、3′末端は非蛍光クエンチャーMGBで標識される。
【0025】
他の具体的な実施形態においては、野生型MGBプローブのヌクレオチド配列は、好ましくは配列番号2で示されるヌクレオチド配列から選択され、その5’末端の蛍光レポーターはHEX蛍光レポーターであり、3′末端に標識された非蛍光クエンチャーは非蛍光クエンチャーMGBである。
【0026】
他の具体的な実施形態においては、前記キットに記載された血液サンプルからDNAを分離する試薬は、キレックス(Chelex:ABI社の製品)を主成分とし、足底血液からDNAを抽出する溶液Iである;または、血液サンプルからDNAを抽出する試薬は、市販品と組み合わせて使用する末梢血からDNAを抽出する試薬であってもよい。指摘すべきことは、用語「キット」には、キットと名称は異なるが、キットと類似の構造や成分、生物学的機能を有する生物学製品が含まれるべきである。
【0027】
他の具体的な実施形態においては、本発明は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を体外で検出するための前記MGBプローブまたはキットの使用方法を提供する。他の具体的な実施形態においては、本発明はさらにミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断する(即ち、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出する)ための製品(薬品や試薬、キットなどの製品を含む)の製造における前記MGBプローブまたはキットの使用方法も提供する。
【0028】
母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異の検出は、従来の技術(Hae III酵素切断鑑定方法のような)と比較して、以下の利点がある:
【0029】
1.本発明がミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出する操作工程及び反応時間は、直接塩基配列決定法と比較して、いずれも著しい優位性がある。本発明は、一回のPCR過程のみでmtDNA C1494T突然変異が存在するか否かを検出することが可能であり、配列決定法と比較して、PCR後のアガロースゲル電気泳動検出、PCR産物の精製、シーケンス反応、及びシーケンス反応生成物の精製の四つの工程を省略しており、PCR反応後の処理に伴う汚染リスクを低下させるだけでなく、従来は最短でも12時間であった操作及び反応時間を、1.5時間に短縮する。
【0030】
2.本発明の二つのMGBプローブは、C1494T突然変異型とC1494C野生型にそれぞれ対応するように設計される。2つのプローブを共に同じ反応系に加える場合、それぞれのMGBプローブは配列が完全にマッチングするテンプレートのみとアニールするため、特異性が非常に高い。あるテンプレートについて、突然変異型MGBプローブの5’末端の蛍光(例えばFAM蛍光)は検出されるが、野生型MGBプローブの5’末端の蛍光(例えばHEX蛍光)は検出されない場合、テンプレートはC1494T突然変異型であると判断することができる。逆の場合には、テンプレートはC1494C野生型であると判断することができる。また、理論的には、反応系にC1494T突然変異型テンプレートに対応する突然変異型MGBプローブのみを加えることで、診断が可能である。しかしながら、同時に二種類のMGBプローブを加えた場合には、逆補正による2重フェイルセーフが達成され、結果がより正確で信頼できるものとなる。また、MGBプローブ技術の高い特異性と光スペクトル技術の高い感度によって、本発明は、良好な再現性、高い特異性、高い感度及び操作の容易性などの利点を得ている。
【0031】
3.本発明の結果の分析は、リアルタイム定量PCR装置の解析ソフトウェアのサポートの下で行うため、自動化されることができ、人為的な誤差を減少させる。
【0032】
4.本発明が提供するキットまたは関連製品を使用し、C1494T突然変異を検出するコストは、他の一般的な検出方法のコストと比較して低い。
【0033】
このように、本発明のMGBプローブ及びそのキットは国内の関連検出分野の需要に合致するとともに、操作の簡便性や結果の分析の直観性、高い特異性、高い感度、低価格性等の利点を有し、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異に対するスクリーニングや抗生物質投与前の予防検査を全国規模で行うために、より有利な条件を提供する。このため、アミノ配糖体系抗生物質に敏感な人の薬物性難聴の発症の可能性を著しく低下させる。
【実施例】
【0034】
母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異の検出
1.検出サンプル
中国人民解放軍総合病院難聴病分子診断センター(中国人民解放軍総医院聾病分子診断中心)の難聴資源バンクから神経性感音難聴患者72例を選び、被検個体の末梢全血からDNAを抽出して(袁慧軍等、中華耳鼻咽喉科雑誌、1998,33(2):67-70;李為民等、臨床耳鼻咽喉科雑誌、2001,15(増刊):53-58)、検出サンプルとした。
【0035】
2.MGBプローブ及びプライマーの設計
公開されているミトコンドリア遺伝子配列(Cambridge SequenceまたはNCBIヒトミトコンドリアゲノム配列NC_001807.4またはNT_006713.14等、あるいは配列表の配列番号5)に基づいて、Genetool Liteプログラムのサポートによりプライマー及びTaqman MGBプローブ配列を設計した。ここで、突然変異型MGBプローブ(T1)のヌクレオチド配列は、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1487〜1503番目の塩基の領域(配列番号1で示されるヌクレオチド配列)に対応し、また蛍光レポーターはFAM蛍光レポーターであり、蛍光クエンチャーはTAMRA蛍光クエンチャーである。MGBプローブの構造は以下の通りである。
5' FAM-CCGTCACTCTCCTCAAG-MGB 3'
【0036】
野生型MGBプローブ(T2)のヌクレオチド配列は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1488〜1503番目の塩基の領域(例えば配列番号2で示されるヌクレオチド配列)に対応し、また蛍光レポーターはHEX蛍光レポーターであり、蛍光クエンチャーはTAMRA蛍光クエンチャーである。MGBプローブの構造は以下の通りである。
5' HEX-CGTCACCCTCCTCAAG -MGB 3'
【0037】
フォワードプライマー(F1)は母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1464〜1481番目の塩基のヌクレオチド配列に対応し、その配列は配列表における配列番号3である。リバースプライマー(R1)は配列番号5に示される1592〜1615番目の塩基のヌクレオチド配列に対応し、その配列は配列表中の配列番号4である。
【0038】
3.PCR増幅反応
上記で設計されたMGBプローブのヌクレオチド配列の配列番号1、配列番号2及びプライマー配列の配列番号3、配列番号4に基づいて、MGBプローブT1とT2、及びフォワードプライマーF1とリバースプライマーR1が人工合成で得られた。また、上記の検出サンプルである末梢血から抽出したDNAをテンプレートにして、リアルタイム定量PCR増幅反応を実行した。
反応系:
テンプレート 10ng
Hotstar Mastermix 10μl
プライマーF1、R1(2pmol/l) それぞれ1μl
MGBプローブT1(2pmol/l) 1μl
また、必要に応じてT2(2pmol/l)を1μl加えた。
三次蒸留水を体積が20μlになるまで加えた。
反応条件は表1に示す通りである。95℃で10分間変性させ、続いて95℃で30秒間変性させて60℃で30秒間アニーリングするというサイクルを合計40サイクル行った。各サイクルのアニーリング時に蛍光を検出した。
【表1】

【0039】
4.結果
リアルタイム定量Taqman MGBプローブ法により、被検者72人のうち10人がmtDNAのC1494T突然変異を有することを検出した。
【0040】
図中で丸印のない線は、記録されたFAM蛍光であり、丸印付きの線は記録されたHEX蛍光である。ソフトウェアの分析結果は表2を参照。
【0041】
5.リアルタイム定量Taqman MGBプローブ法の信頼性の検証
全ての被検個体の1494番目の塩基部位について直接塩基配列決定法により検証した結果、リアルタイム定量Taqman MGBプローブ法で検出したC1494T突然変異保因者である難聴患者10例とC1494T突然変異の非保因者62例は、直接塩基配列決定法の結果と同一であった。よって、二種類の方法の一致率は100%となり、本発明の方法を用いたC1494T突然変異の検出における信頼性と安定性が示された。具体的なデータは表2を参照。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、より簡便、迅速、正確で、汚染リスクを低減し、且つ低コストの、mtDNA C1494T突然変異に対する幅広いスクリーニングの需要を満たすことのできる、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのTaqMan MGBプローブ及びその関連製品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】72例の多様な遺伝子型のリアルタイム定量PCR検査結果の一部を示す図(Allelic data for Cycling A.FAM/Sybr, Cycling A.JOE)
【図2】72例の多様な遺伝子型のリアルタイム定量PCR検査結果の一部を示す図の凡例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を検出するためのリアルタイム定量TaqMan MGBプローブであって、
前記プローブの5′末端は、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1482〜1488番目の塩基の領域に対応し、3′末端がミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5で示される1503〜1508番目の塩基の領域に対応し、
前記プローブの5′末端は蛍光レポーターで標識され、3′末端は非蛍光クエンチャーMGBで標識されており、且つ1494番目の塩基に対応する塩基CがTに置換されることを特徴とする、突然変異型のリアルタイム定量TaqMan MGBプローブ。
【請求項2】
野生型MGBプローブを、さらに含み、
前記野生型MGBプローブは、1494番目の塩基に対応する塩基がCのままであり、かつ5′末端の蛍光レポーターが突然変異型MGBプローブの5′末端の蛍光レポーターと異なっており、プローブの開始点が1487番目ではなく1488番目に対応していることを除けば、他の構造は全て前記突然変異型MGBプローブと同じであることを特徴とする、請求項1に記載のリアルタイム定量TaqMan MGBプローブ。
【請求項3】
前記突然変異型MGBプローブのヌクレオチド配列は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列から選択され、または前記野生型MGBプローブのヌクレオチド配列は配列番号2に示されるヌクレオチド配列から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載のリアルタイム定量TaqMan MGBプローブ。
【請求項4】
前記突然変異型MGBプローブ5′末端の蛍光レポーターはFAM蛍光レポーターであり、前記野生型MGBプローブ5′末端の蛍光レポーターはHEX蛍光レポーターであることを特徴とする、請求項3に記載のリアルタイム定量TaqMan MGBプローブ。
【請求項5】
リアルタイム定量検出によって母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子配列の配列番号5におけるC1494T突然変異を検出することにより、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断する、ミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断するためのキットであって、
(1)血液サンプルからDNAを抽出する試薬;
(2)PCR増幅反応試薬混合液;
(3)C1494C部位またはC1494T突然変異部位を含む母性遺伝性難聴に関連する配列番号5に示されたミトコンドリア遺伝子配列を増幅するための、フォワードプライマー及びリバースプライマー;
(4)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の突然変異型MGBプローブ;及び、必要に応じて、さらに、
(5)使用説明書
を含むミトコンドリア遺伝子変異による母性遺伝性難聴疾患を診断するためのキット。
【請求項6】
請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の前記野生型リアルタイム定量TaqMan MGBプローブを、さらに含むことを特徴とする、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記フォワードプライマーは、配列番号3で示されるヌクレオチド配列から選択され、前記リバースプライマーは配列番号4で示されるヌクレオチド配列から選択されることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記反応試薬混合液は、Hotstar Mastermix混合液であり、前記フォワードプライマー及びリバースプライマーは1:1の比で混合され、前記血液からDNAを抽出する試薬は、キレックスを主成分とし、足底血液からDNAを抽出する溶液Iであることを特徴とする、請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記反応試薬混合液はHotstar Mastermix混合液であり、前記フォワードプライマー及びリバースプライマーは1:1の比で混合され、前記血液からDNAを抽出する試薬は末梢血からDNAを抽出する試薬であることを特徴とする、請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のTaqMan MGBプローブまたは請求項5〜請求項9のいずれか一項に記載のキットの、母性遺伝性難聴に関連するミトコンドリア遺伝子C1494T突然変異を体外で検出するための使用方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−514427(P2010−514427A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543332(P2009−543332)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/CN2007/071006
【国際公開番号】WO2008/077330
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(508187218)
【氏名又は名称原語表記】JIN ZHENGCE
【住所又は居所原語表記】No.46,DONGZHONG STREET,DONGCHENG DISTRICT,BEIJING CHINA(ZIP CODE 100027)
【Fターム(参考)】