説明

比較的低いイオン強度を有する薬学的組成物

本発明は、薬学的組成物、例えば複数回投与眼科用組成物の提供を目的とする。本組成物は、米国および/または欧州における防腐剤効力要件を満たすのに十分な抗菌活性を有する。本組成物は、そのような効力を維持する助けとなるように比較的低いイオン強度を有する。本組成物は本抗菌性防腐剤を含み、本抗菌性防腐剤は、典型的にはイオン強度によって顕著に影響を及ぼされ、好ましくは、ソルビン酸塩、非高分子性ジ第4級アンモニウム化合物、またはそれらの組み合わせから選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本願は米国特許法§119に基づき、2008年9月3日に出願された、米国仮特許出願第61/093,900号に対する優先権を主張する。この仮特許出願は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、組成物のための改善された防腐性を生じさせる比較的低いイオン強度を有する薬学的組成物に関する。より詳しくは、本発明は、防腐剤、治療薬または両方、および比較的低い濃度のイオン溶質を含むように製剤化されている眼用、耳用または鼻用の薬学的組成物(例えば複数回投与水性眼科用組成物)に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、米国薬局方(「USP」)、および他の国々における類似の指針の防腐効力要件を満たすのに十分な抗菌活性を有するように製剤化された薬学的組成物、特に眼科用組成物に関する。防腐性を実現する能力は、1つ以上の抗菌剤または防腐剤と、比較的低い量のイオン溶質との独自の組み合わせにもとづいている。
【0004】
多くの薬学的組成物は無菌である(すなわち細菌、真菌およびその他の病原性微生物を実質的に含まない)ことが要求される。そのような組成物の例は、ヒトまたは他の哺乳類の体の中に注入される液剤および懸濁剤;創傷、すり傷、火傷、発疹、外科的切開、または皮膚が無傷でない他の病態に局所適用されるクリーム、ローション、液剤、または他の調製物;ならびに眼に直接適用される(例えば人工涙液、洗浄用溶液、および薬剤)か、または眼と接触することになるデバイス(例えばコンタクトレンズ)に適用されるさまざまな種類の組成物を含む。
【0005】
前述の種類の組成物は、当業者に良く知られている手順によって無菌条件下で製造することができる。しかし、製品用の包装が開けられると、中に含まれていた組成物は大気および他の潜在的微生物汚染源(例えばヒト患者の手)に曝され、製品の無菌性が危うくなることがある。そのような製品は、典型的には患者によって複数回利用され、従って、しばしば「複数回投与」性であると称される。
【0006】
微生物汚染のリスクへの複数回投与製品の頻度の高い、繰り返される曝露のせいで、そのような汚染が起こるのを防ぐための手段を使用することが必要である。使用される手段は、(i)本明細書において「抗菌性防腐剤」と称される、組成物中の微生物の増殖を防ぐ化学薬剤、または(ii)微生物が容器内の薬学的組成物に到達するリスクを防ぐかまたは減少させる包装システムであってよい。
【0007】
従来の複数回投与組成物は、一般に、細菌、真菌、および他の微生物の増殖を防ぐために1つ以上の抗菌性防腐剤を含んでいた。多数の異なる防腐剤が現在知られており、特定の組成物にとってどの単数または複数の防腐剤が望ましいかを選ぶのは難しいことがあり、複数の競合する要因を含むことがある。
【0008】
一例として、一般には、より低い濃度の防腐剤を使用することで、防腐剤[単数または複数]によって引き起こされるかもしれないあらゆる毒性を最小にすること方が望ましいが、典型的には、より大きな防腐効力を実現するにはより高い濃度の防腐剤の方が望ましい。別の例または代りの例として、ある種の防腐剤は、条件(例えばpH、張性または類似条件)あるいは特定の薬学的組成物内に存在する成分に応じてより多い効力またはより少ない効力を示す。
【0009】
これらの競合する要因および/または難点を考慮すると、それらの組成物内の1つ以上の防腐剤の効力を促進する、薬学的組成物、特に眼用、耳用および/または鼻用の薬学的組成物(例えば水性液剤、懸濁剤またはゲル)を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、抗菌性防腐剤および水を含む薬学的組成物が開示される。本抗菌性防腐剤(ant−microbial preservative)は、典型的にはイオン強度によって顕著に影響を及ぼされ、好ましくは、ソルビン酸塩、非高分子性ジ第4級アンモニウム化合物、またはそれらの組み合わせから選ばれる。本組成物は、典型的には水性であり、本組成物のイオン強度は、典型的には0.20未満、より好ましくは0.12未満、さらにより好ましくは0.08mol*L−1未満である。存在するとき、非高分子性ジ第4級アンモニウム化合物は、リン酸基を典型的に含むものである。本発明の組成物は、複数回投与組成物としても非常に望ましい。
【0011】
本組成物は、治療薬を含むことが好ましい。一実施態様において、治療薬は、低いpHレベルにおけるほど溶けやすくなり、おそらくまったく実質的に溶けやすくなるものである。そのような実施態様において、本組成物のpHは、典型的には7.0未満、より典型的には6.0未満、さらにより典型的には5.5未満であり、さらにその上典型的には5.2未満である。そのような治療薬の一例は、タンドスピロンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、1つ以上の抗菌性防腐剤を有する防腐化薬学的組成物の提供に関して記述され、該1つ以上の防腐剤の防腐効力は、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる。従って、該1つ以上の防腐剤の効力は、低いイオン強度を有するように組成物を製剤化することによって維持または増強される。本組成物は、典型的には、1つ以上の治療薬、または成分、および/またはより通常の防腐剤の防腐効力とは相容れない組成物内の条件も含む。
【0013】
特に明記しない限り、成分の百分率は、重量体積パーセント(w/v%)によって表される。
【0014】
本発明の薬学的組成物は、低い全体イオン強度を維持するように製剤化される。これは、イオン成分または溶質の数および/または濃度を比較的低いレベルに維持することによって実現される。そのようなイオン成分の例は、塩化ナトリウム(NaCl)などのイオン塩を含む。イオン溶質のさらに別の例は、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを含む。
【0015】
本明細書において用いられるイオン強度は、組成物のイオンの間の平均静電相互作用として表わされる、薬学的組成物(好ましくは水性組成物)の特性として定義される。イオン強度は、各イオンの重量モル濃度(単位質量の溶媒あたりの物質の量)に各イオンの原子価の二乗を乗ずることによって得られる合計の2分の1である。組成物のイオン強度Iは、溶液中に存在するすべてのイオンの濃度の関数であり、次の方程式
【0016】
【数1】

によって表される。ここで、Cは、組成物内のイオンのモル濃度(mol*L−1)、zは、そのイオンの電荷数であり、総和は、組成物の中のすべてのイオン(i)について計算される。塩化ナトリウムなどの電解質については、塩化ナトリウムの電荷数は1なのでイオン強度は濃度の半分と等しいが、MgSOについては、MgSOの電荷数は2なのでイオン強度はその濃度の4倍の2分の1である。従って、組成物中のイオン強度に対する多価イオンの寄与は、1価化学種と比べるとより重大である。
【0017】
組成物の成分をイオン成分と非イオン成分とに分けることができる。イオン成分は、組成物中でイオン形に解離する成分であり、非イオン成分は解離しない成分である。次に、上記に提供された方程式に従ってイオン強度を決定することができる。組成物中の防腐剤濃度とイオン強度との関係は、防腐効力を決定する上で重要な要因であることが見いだされた。イオン強度によって影響を及ぼされる防腐剤の濃度が増加すると、USP防腐剤効力要件を満たす組成物の能力は典型的には増加するが、そのような効力を維持するために必要な、イオン強度によって影響を及ぼされる防腐剤の比較的高い濃度は典型的には望ましくない。
【0018】
一般に、本発明の組成物のイオン強度は0.20未満、より典型的には0.12未満、さらにより詳しくは0.08mol*L−1未満であることが好ましい。しかし、特定の組成物については、本明細書においてより特定のイオン強度指針が提供される。
【0019】
典型的には、本抗菌性防腐剤の全体、少なくとも一部、または少なくとも実質的な一部(例えば少なくとも50%、70%、90%以上)は、1つ以上の防腐剤で形成され、それらの防腐剤[単数または複数]の防腐効力は、組成物のイオン強度によって顕著に影響を及ぼされる。本明細書において用いられる用語「イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる」は、本発明の組成物中の防腐剤[単数または複数]に適用されるとき、そのような防腐剤[単数または複数]を含み、下記に記載されるようにUSPまたはPh.Eur.Bに合格する組成物において、0.4w/v%の塩化ナトリウムの増加が、S.Aureus、P.Aerugin.、E.Coli、C.AlbicanおよびA.Nigerから選ばれた少なくとも1つ以上、好ましくは少なくとも2つのカテゴリーにおけるそれらの同じ基準に24時間の時点で不合格の原因となることを意味する。本発明にとって、特に好ましい、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる防腐剤は、ソルビン酸塩、ジ第4級アンモニウム化合物、またはそれらの組み合わせを含む。
【0020】
ジ第4級アンモニウム化合物は、典型的には非高分子であり、性質として両性である。さらに、好ましい実施態様において、ジ第4級アンモニウム化合物は、リン酸基を含み、リン酸官能基を含む。特に好ましいのは、式(I)のジ第4級アンモニウム化合物である。式(I)は、下式の通りである。
【0021】
【化1】

式中、
およびRは、(C〜C)−アルキルであり、
は、水素、および任意選択としてNHC(=O)−(CH10CHまたはNHC(=O)−(CH12CHによって置換された(C〜C16)−アルキルからなる群から選ばれ、
は、水素、およびCHCH(Y)CHからなる群から選ばれ、式中、R、RおよびRは、上記に定義されている通りであり、
Xは、ハロであり、
Yは、OH、O−(C〜C10)−アルキルおよびO−(C〜C10)−アルケニルからなる群から選ばれ、
Mは、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる。
【0022】
、R、R、R、X、YおよびM置換基の前述の定義において、および全体において、以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有するものと理解される。
【0023】
用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する1から30の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の炭化水素基を含み、鎖は、任意選択として、1つ以上のヘテロ原子によって中断される。鎖の水素は、他の基、例えばハロ、−CF、−NO、−NH、−CN、−OCH、−C、−O−CO−アルキル、−O−CO−アルケニル、p−NHC(=O)−C−NHC(=O)−CH、−CH=NH、−NHC(=O)−Phおよび−SHで置換されてよい。好ましい直鎖または分岐のアルケニル基は、アリル、エテニル、プロペニル、ブテニルペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、またはヘキサデセニルを含む。
【0024】
用語「アルキル」は、飽和され、1から30の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を含む。アルキル基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば酸素、窒素または硫黄によって中断されてもよく、他の基、例えばハロ、−CF、−NO、−NH、−CN、−OCH、−C、−O−CO−アルキル、−O−CO−アルケニル、p−NHC(=O)−C−NHC(=O)−CH、−CH=NH、−NHC(=O)−Phおよび−SHによって置換されてよい。好ましい直鎖または分岐のアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、sec−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルおよびドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、またはヘキサデシルを含む。
【0025】
用語「ハロ」は、ハロゲン類の元素を意味する。好ましいハロ部分は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を含む。
【0026】
合成ジ第4級アンモニウム化合物の固有の分子配置(すなわちリン酸基が置換プロペニル基を介して第4級アンモニウム官能基と結合し、この第4級アンモニウム官能基は、少なくとも1つの長い炭化水素鎖とさらに結合している)は、これらの化合物を高度に水溶性にするものである。特に、炭化水素鎖の長さおよびイオン官能基は、本明細書に記載されている使用のためのこれら分子の溶解性および効力を維持するために考慮すべき重要な要因である。
【0027】
好ましい式(I)の化合物は、RおよびRがメチルであり、Rが(CH11CH、(CH−NHC(=O)−(CH10CHおよび(CH−NHC(=O)−(CH12CHからなる群から選ばれ、RはCHCH(Y)CHであるものであり、式中、R、RおよびRは上記に定義されている通りであり、Xはクロロであり、YはOHであり、Mはナトリウムである。最も好ましい化合物は、次の表の中で特定されている。
【0028】
【表1】

式(I)の化合物は、公知の手順(例えば米国特許第5,286,719号、第5,648,348号および第5,650,402号参照)に従って合成および/または市販供給元、例えばUniquema(Cowick Hall,Snaith,Goole East Yorkshire,DN149AA)から購入することができる。式(I)の化合物は、参照によってあらゆる目的について本明細書に組み込まれる2008年5月16日出願の「Phospholipid Compositions for Contact Lens Care and Preservationof Pharmaceutical Compositions」と題する米国特許出願第12/122,197号においてさらに考察されている。1つの特に好ましい式(I)の化合物は、ナトリウムココジアンモニウムクロリドリン酸(SCDCP)である。
【0029】
示唆されたように、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる他の好ましい防腐剤は、ソルビン酸塩である。本明細書において用いられる用語「ソルビン酸塩」は、ソルビン酸、ソルビン酸の塩、ソルビン酸塩誘導体、および他の薬学的に許容されるソルビン酸塩、またはそれの組み合わせを指す。もっとも適しているのは、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸マグネシウム、ソルビン酸マンガン、および他のそのようなソルビン酸塩である。
【0030】
典型的には、薬学的組成物は、少なくとも0.0001%、より典型的には少なくとも0.0009%、さらにより典型的には少なくとも0.003%の、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる防腐剤[単数または複数]を含む。薬学的組成物は、典型的には1.0%未満、より典型的には0.1%未満、さらにより典型的には0.03%未満の、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる防腐剤[単数または複数]も含む。これらの濃度は、イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる防腐剤がソルビン酸塩、合成ジ第4級アンモニウム(例えば非高分子性リン酸ジ第四級アンモニウム化合物)、またはそれらの組み合わせから選ばれる状況にとって特に好ましい。
【0031】
イオン強度に対する特定の防腐剤の濃度の高度に好ましい範囲も明らかにされた。ソルビン酸塩の濃度が約0.01から約0.2w/v%のとき、組成物のイオン強度は、好ましくは約0.07モル/L未満、好ましくは約0.01モル/Lから約0.05モル/Lである。非高分子性リン酸ジ第四級アンモニウム化合物(例えばSCDCP)の濃度が約0.01から0.1%のとき、組成物のイオン強度は、好ましくは約0.165モル/L未満、好ましくは約0.1モル/Lから約0.15モル/Lである。非高分子性リン酸ジ第四級アンモニウム化合物(例えばSCDCP)の濃度が約0.005から0.01w/v%のとき、組成物のイオン強度は、好ましくは約0.125モル/L未満、好ましくは約0.07モル/Lから約0.1モル/Lである。非高分子性リン酸ジ第四級アンモニウム化合物(例えばSCDCP)の濃度が約0.0025から0.004w/v%のとき、組成物のイオン強度は、好ましくは約0.09モル/L未満、好ましくは約0.01モル/Lから約0.07モル/Lである。もちろん、特に明記しない限り、これらの範囲は、単に指針であり、より高い範囲またはより低い範囲も本発明の範囲内で用いられてよい。
【0032】
一般に、本発明の組成物(すなわちイオン強度によって顕著に影響を及ぼされる少なくとも1つの防腐剤を含む組成物)は、さまざまな用途、例えばコンタクトレンズケア組成物または薬学的組成物のために用いることができる。しかし、有利には、本発明の組成物は、従来の防腐剤を用いて防腐するのが難しい治療薬を含む眼用、耳用、鼻用の薬学的組成物(特に眼科用組成物)として非常に望ましい。その上、あるいは、本発明の組成物は、潜在的には依然として効力があるものの毒性および/または不快症状などの問題のためにも望ましくない従来の防腐剤を一部または完全に回避することができる。
【0033】
従って、当業者に知られている従来の抗菌性薬剤、例えば塩化ベンザルコニウムまたはポリクアド(polyquad)−1の代わりに本発明の組成物のための抗菌性防腐剤としてソルビン酸塩およびジ第4級アンモニウム化合物[単数または複数]を利用することができる。より詳しくは、本発明の薬学的組成物は、防腐性とし、かつ従来の抗菌性防腐薬剤、例えば塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム(polyquaternium)−1、クロルヘキシジン、クロロブタノール、セチルピリジニウムクロリド、パラベン類、チメロサール、二酸化塩素、およびN,N−ジクロロタウリンをまったく含まないか、防腐剤としての量をまったく含まないようにすることができる。しかし、本発明の組成物の抗菌活性または防腐効力をさらに増加させるために式(I)の化合物を従来の防腐剤成分と組み合わせて用いてもよい。さらに、そのような従来の防腐剤も、下記の実施例において示される、本組成物のより低いイオン強度によって利益を受けてよい。
【0034】
本発明の薬学的組成物中の送達によって利益を受ける治療薬は、従来の防腐剤自体の防腐効力を抑制する薬剤、および/または従来の防腐剤の防腐効力を抑制する条件下で最も良く送達される薬剤である。特に重要なのは、低いpH値において顕著に溶けやすい薬剤である。そのような低いpH値において、従来の防腐剤の多く、特にポリクオタニウム−1は、効力が減少してしまうことがある。しかし、本明細書において考察される薬剤(すなわちイオン強度によって顕著に影響を及ぼされる薬剤)、特にソルビン酸塩、ジ第4級アンモニウム化合物(例えばSCDCP)、または両方は、組成物全体のイオン強度が比較的低く保たれている限り、そのような低いpH値において防腐効力を保持することができる。従って、本発明の特定の実施態様において、本発明の組成物のpHは、典型的には7.0未満、より典型的には6.0未満、さらに場合によっては5.5未満、または5.2未満のことさえある。
【0035】
一般に、どのようなものであっても適当な治療薬はほとんど本発明の組成物に含まれてよい。しかし、本発明の組成物に含まれてよく、低いpHレベルほど高い溶解度を示す治療薬は、限定するものではないが、エマダスチン、オラパタジン、それらの任意の組み合わせなどを含む。本発明に特に重要な治療薬は、受容体作動薬である。特に好ましい本発明の薬学的組成物は、セロトニン5HT1A受容体作動薬を含み、より詳しくはタンドスピロンを含む。本明細書で用いられるタンドスピロンは、タンドスピロンおよびタンドスピロンのあらゆる薬学的に許容される塩または他の形態を含む。これらの特に好ましい組成物は、加齢関連黄斑変性症(AMD)およびAMD関連病、例えば湿潤AMDから派生する地図状萎縮の局所治療のために特に望ましい。
【0036】
明らかに、低いpHレベルほど溶けやすい治療薬は、多くの場合、イオン性であり、組成物全体のイオン強度を顕著に増加させ得る薬剤である。治療薬[単数または複数]がイオン化度、塩の種類および対イオンに応じて組成物のイオン強度の少なくとも10%、30%、または少なくとも40%もの原因となることがあり得る。
【0037】
治療薬は、存在する薬剤[単数または複数]に応じて薬学的組成物内にさまざまな濃度で存在してよい。一般に、治療薬は、組成物の約0.01%から約5.0%の間である。5HT1A受容体作動薬、特にタンドスピロンの場合、濃度は、典型的には少なくとも0.3%、より典型的には少なくとも0.8%、さらにより典型的には少なくとも1.2%、さらに高くは少なくとも1.75%であり、また、典型的には組成物の5.0%より多くなく、より典型的には3.3%より多くなく、さらにより典型的には2.0%より多くない。
【0038】
本発明の組成物は、水性液剤または非水性液剤として製剤化されてよいが、好ましくは、水性である。さらに、組成物は、懸濁剤、ゲル、エマルジョン、および当業者に知られている他の投薬形態として製剤化されてよい。
【0039】
本発明の眼用、耳用および鼻用の組成物は、組成物によって処置される眼、耳、鼻および/またはコンタクトレンズと適合性であるように製剤化される。本発明の眼科組成物のための重量モル浸透圧濃度(osmolality)の好ましい範囲は、キログラムあたり150から350ミリオスモル(mOsm/kg)である。200から300mOsm/kgの範囲が特に好ましく、約290mOsm/kgの重量モル濃度が最も好ましい。本発明の眼科用組成物のためのpHは、約4.5から約9.0の範囲であってよいが、好ましくは本明細書に詳細が示されるように比較的低くてよい。多くの場合に、眼用、耳用および鼻用の製剤は、等張性または等張性に近いことが必要とされ、製剤の張性は、プロピレングリコール、グリセリン、マンニトールおよびソルビトールを含むがそれらに限定されない適当な非イオン張性剤によって調節してよい。
【0040】
本発明は、特に、組成物が水性薬学的組成物のためのUSP防腐剤効力要件および/またはその他の防腐剤効力標準を満たすことを可能にするのに十分な抗菌活性を有する眼用、耳用または鼻用の組成物の提供に関する。
【0041】
米国およびその他の国/地域における複数回投与医薬品(例えば眼用)液剤のための防腐剤効力標準は、下の表に示される。
【0042】
【表2】

USP 27に関して上において特定される標準は、USPの旧版、特にUSP 24、USP 25およびUSP 26において示されている要件と実質的に同一である。
【0043】
下の実施例によって示される抗菌性防腐剤の有効性は、カテゴリー1A製品について米国薬局方24(USP)に記載されている方法に従う生物曝露(challenge)試験を用いて決定された。公知のレベルの以下、すなわちグラム陽性植物細菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538)、グラム陰性植物細菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC 9027およびEscherichia coli ATCC 8739)、酵母(Candida albicans ATCC 10231)およびカビ(Aspergillus niger ATCC 16404)の1つ以上を試料に接種した。次に、特定の間隔で試料を採取して抗菌性防腐剤システムが製剤中に意図的に導入された生物を殺すか、生物の増殖を阻害することができるか判定した。抗菌活性の速度またはレベルによって、引用されている調製物カテゴリーに関するUSP防腐剤効力標準との適合性が判定される。
【0044】
【表3】

示されているように、USP 27抗菌有効性試験は、カテゴリー1A製品を含んでいる組成物が約10から10の細菌の初期接種を七(7)日の期間で1対数単位(すなわち微生物個体数における90%減少)、十四(14)日の期間で3対数単位(すなわち微生物個体数における99.9%減少)減少させるのに十分な抗菌活性を有することを要求し、この14日の期間が終った後は微生物個体数にいかなる増加もあり得ないことを要求する。真菌に関して、USP標準は、組成物が28日間の試験期間全体にわたって初回接種の個体数と比較して停止(すなわち増殖しない)を維持することを要求する。カテゴリー1A製品は、水性基剤またはビヒクルを用いて作られた、注射製品、またはエマルジョンを含む他の非経口製品、耳用製品、無菌鼻用製品、および眼科製品である。
【0045】
微生物個体数を計算する際の誤差の余地は、一般に、±0.5対数単位であると認められている。従って、上記で考察したUSP標準に関して本明細書において利用される用語「停止」は、初期個体数が、初期個体数と比較して0.5対数オーダーより多く増加することはできないことを意味する。
【実施例】
【0046】
下の表Aは、本発明の眼科用組成物の例としての好ましい製剤に適している、例としての成分と、それらの成分のための望ましい重量/体積百分率の一覧を提供する。
【表A】

【0047】
例示を目的として、表Bは、本発明による1つの可能な製剤を提供し、その製剤のイオン強度を計算している。
【表B】

【0048】
表B中の製剤(遊離塩基として1.5%タンドスピロンを有する)の計算されたイオン強度は、0.07mol/Lであり、このうちタンドスピロン塩酸塩からが0.04mol/Lであり、塩化ナトリウムからが約0.03mol/Lである。
【0049】
本発明の他の実施態様は、本明細書および本明細書に開示される本発明の実施を考慮すれば当業者に自明である。本明細書および実施例は例示に過ぎず、本発明の真の範囲および技術思想は、以下の特許請求の範囲およびその均等物によって示されるものとする。
【0050】
以下の実施例は、選ばれた本発明の実施態様をさらに例示するために示される。実施例において示されている製剤は、眼科用薬学的組成物の分野における当業者に良く知られている手順を用いて調製された。
【0051】
実施例A〜Uの製剤は、本発明の望ましさを例示するために提供される。これらの実施例は、低いイオン強度、低いpH、およびイオン強度によって影響を及ぼされる防腐剤、またはそれらの任意の組み合わせを有する、本発明の薬学的組成物の抗菌活性および/または防腐剤効力を例示する。これらの実施例は、特定の従来の防腐剤がイオン強度によってどのように影響を及ぼされるかも例示する。実施例A〜Uにおける成分の百分率は、重量/体積パーセントである。
【0052】
実施例AからE
表Cは、製剤AからEと、それらの製剤に関するデータとを提供する。
【0053】
ソルビン酸を有するタンドスピロン眼科用製剤の防腐剤効力試験結果 イオン強度の効果
【表C】

【0054】
上の表Cにおける結果は、ソルビン酸を有するタンドスピロン眼科用製剤の防腐剤としての防腐性を示し、防腐性に対するイオン強度の効果も示している。これらの実施例は、防腐剤効力が、存在するソルビン酸の濃度と組成物のイオン強度との両方に部分的に依存することを示唆している。従って、0.2%ソルビン酸を有する製剤Dにおける防腐性はPh.Eur.Bに合格すると予測される一方、0.1%ソルビン酸を含む製剤Eは、Ph.Eur.Bに合格すると予測されない。増加したイオン溶質(>0.1%塩化ナトリウム)の結果としての製剤のイオン強度の増加により防腐効力が減少する。例えば、製剤BおよびAは、ソルビン酸濃度が0.2%において固定されているとき、塩化ナトリウム濃度の量の増加に起因してイオン強度が増加する(製剤DおよびCと比べて)と、防腐剤効力が減少することを示している。
【0055】
実施例FからK
下の表Dは、塩化ベンザルコニウム(BAC)およびポリクアド防腐製剤(すなわち製剤FからK)に対するイオン強度の効果を例示する。
【表D】

【0056】
表から分るように、ナトリウムイオンを増加させると、特にS.aureusおよびP.aeruginに対して、0.002% BAC含有製剤(製剤F、GおよびH)に負の影響を及ぼす。0.8%塩化ナトリウムを有する製剤Hは、最も高いイオン強度を有し、PET試験に不合格となり、P.aeruginの再増殖も観察された。ポリクアド系製剤(製剤I、J、K)については、特にS.aureus、P.aeruginおよびC.albicanに対して、イオン強度は効果を有するようであった。
【0057】
実施例LからP
下の表Eは、塩化亜鉛製剤(すなわち製剤LからP)に対するイオン強度の効果を例示する。
【表E】

【0058】
表から分るように、塩化亜鉛防腐製剤において、ナトリウムイオンは、特にS.aureusおよびP.aeruginに対して、防腐性に影響を有する。製剤中のナトリウムイオンが増加すると防腐効果が減少した。0.6%のナトリウムイオンを含む製剤Pは、ナトリウムイオンをまったくもたない製剤Lと比較して劣っていた。
【0059】
実施例QからU
下の表Fは、SCDCP製剤(すなわち製剤QからU)に対するイオン強度の効果を例示する。
【表F】

【0060】
表から分るように、Ca++は、SCDCP防腐製剤の防腐効力に対して強い効果を有する。これは、P.aerugin、E.coliおよびA.nigerに対して明白である。NaもSCDCP防腐製剤に対して顕著な効果を示す。これは、5つの生物すべてに対して明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン強度によって顕著に影響を及ぼされる抗菌性防腐剤であって、ソルビン酸塩または非高分子性ジ第4級アンモニウム化合物から選ばれる防腐剤、および

を含む薬学的組成物であって、
該組成物は、0.20mol*L−1未満のイオン強度を有する
組成物。
【請求項2】
治療薬をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記治療薬が、7.0未満のpHにおいてより高い溶解度を示す、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記治療薬が、タンドスピロンである、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記防腐剤が、ソルビン酸塩である、請求項1、2、3または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記防腐剤が前記ジ第4級化合物であり、該ジ第4級化合物がリン酸基を含む、請求項1、2、3または4に記載の組成物。
【請求項7】
前記防腐剤が前記ジ第4級化合物であり、該ジ第4級化合物は式I
【化2】

式中、
およびRは、(C〜C)−アルキルであり、
は、水素、および任意選択としてNHC(=O)−(CH10CHまたはNHC(=O)−(CH12CHによって置換された(C〜C16)−アルキルからなる群から選ばれ、
は、水素、およびCHCH(Y)CHからなる群から選ばれ、式中、R、R、およびRは、上記に定義される通りであり、
Xは、ハロであり、
Yは、OH、O−(C〜C10)−アルキル、およびO−(C〜C10)−アルケニルからなる群から選ばれ、
Mは、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる
請求項1、2、3、4または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記防腐剤が、SCDCPである、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記pHが、7.0未満である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、眼科用組成物、耳用組成物または鼻用組成物である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、眼科用組成物である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、USP、Ph.Eur.A、Ph.Eur.Bまたはそれらの任意の組み合わせを満たす、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、防腐剤有効量の高分子第4アンモニウム化合物または塩化ベンザルコニウムをまったく含まない、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記イオン強度が、0.12mol*L−1未満である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記治療薬が、未満、より好ましくは6.0未満のpHにおいてより高い溶解度を示す、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記pHが、6.0未満である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記pHが、5.5未満である、前述の請求項のいずれか1項に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−501970(P2012−501970A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525216(P2011−525216)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/055276
【国際公開番号】WO2010/027907
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】