説明

毛包間葉系幹細胞およびその使用

【課題】毛包間葉系幹細胞の単離方法、ならびにその使用法の提供。
【解決手段】a)活力のある毛髪を調製する工程と、b)工程a)で調製した毛髪を分割する工程と、c)真皮毛乳頭と共に杯状様物質付着毛杯を単離する工程と、d)前記毛杯から真皮毛乳頭を分離する工程と、e)工程d)で得た毛杯を培養する工程と、f)コンフルエントな細胞をプールする工程とを含む、毛包間葉系幹細胞の単離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛包間葉系幹細胞の単離方法ならびに治療および予防ならびに美容整形術の
ためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜、手のひら、および足の裏を除いて、毛包は、ヒトの外皮全体で見られ、毛包は内
蔵型の複雑な機能的構成要素(小型器官)に相当する。局所解剖学的−解剖学的に、以下
の4つの部分に区別されている。a)毛包漏斗部:毛包口と皮脂腺と毛管(hair c
anal)との交点との間の部分;b)峡部:皮脂腺の交点と立毛筋の挿入部との間の部
分;c)毛包漏斗下部(infrainfundibulum)(毛球上部):立毛筋の
挿入部から毛球までの部分;およびd)毛包真皮乳頭を含む毛球(毛球)。頭皮は頭皮上
に3〜5本の毛包群(いわゆる毛包単位)中に分散した約100,000個の末端毛包を
含むと評価されている。これらの毛包単位をコラーゲン線維網が取り囲み、境界コラーゲ
ン線維によって互いに分離されている。
【0003】
タマネギ状の毛球は、毛包成長の近接端部を形成し、末端毛の場合、皮下脂肪組織に及
ぶ(図2a、ボックス)。毛球中に存在する毛基質細胞が分化し、それによって毛幹が形
成される。基質細胞は、いわゆる「一過性増殖細胞」(すなわち、高増殖性成長期後に死
滅する細胞集団)である。神経および血管の繊細な網によって供給される毛包真皮乳頭(
図2bおよびc)は、近位毛球(proximal hair bulb)に湾曲し、典
型的にはタマネギ状である。毛真皮乳頭は、その組成に関して基底膜と類似する細胞外基
質内に埋没しているという点で真皮と異なる。したがって、毛包の増殖期(いわゆる成長
期)の間、毛真皮乳頭の1つの線維芽細胞は、細胞付属物(appendices)を介
して基質ケラチノサイト(keratinozytes)に直接接触することができる。
真皮乳頭の先端上に存在するメラノサイトは、毛周期に依存して退行期(後退期)の開始
まで成長期のIV期からメラニン産生活性を示す。基質ケラチノサイトの活性は、特殊化
した乳頭細胞を用いた形態形成シグナルおよび細胞分裂誘発シグナルによって制御される
。毛包のこの部分で機能障害が起きた場合、増殖期(成長期)は中断し、毛包が後退期(
退行期)に入る。これは、基質ケラチノサイトおよび重複突出部分を破壊するプロセスに
より、不可逆的な脱毛に至る一方で、毛乳頭細胞の機能にのみ影響を与える病毒により乳
頭のサイズおよび形成されるべき毛幹の厚みを決定することができることを示す。したが
って、顎鬚の末端毛包には最も大きな毛真皮乳頭が見られ、頭皮毛包に影響を与える男性
ホルモン性脱毛においては、次第に小さくなっていく毛真皮乳頭が見られる。
【0004】
毛包の真皮鞘(dermal sheath)(DS)は線維芽細胞様細胞および膠原
線維の二層からなり、内層は毛幹周囲に環状に配向している。間葉系毛根鞘のより厚い外
側の部分は、毛幹と平行に存在するコラーゲン線維および弾性線維を含む。さらに、基底
膜(硝子膜)上に広がる神経線維の環状網が見られるが、これは毛髪の触覚機能を示す。
間葉系DSは、近位、毛球、末端で毛包真皮乳頭に合流する。
【0005】
毛幹は陥入した上皮毛根鞘に取り囲まれたジャケット様物質(jacket−like
)である。毛包内毛幹形成および着色の長さでは、断面で内毛根鞘(IRS)および外毛
根鞘(ORS)を容易に定義することができる。IRSは、外側のほとんどが二層のヘン
レ層、中間の多層ハクスレイ層、およびIRS毛小皮によって形成される。3つ全ての層
は、毛球の外縁に存在する基質細胞から出現する。ORSが連続的に表皮の基底細胞層と
なり、IRSはほぼ毛包漏斗部レベルで終焉する。したがって、毛包口の表皮被覆物への
末端移行は表皮角化を示す。皮脂腺孔のすぐ下でORSはIRSと隣接する。ORSの1
つの重要な位置は、立毛筋の挿入点(いわゆる毛隆起部)である。この領域およびその近
くでは、毛包の上皮幹細胞は、その座部(seat)を有すると推測される。峡部レベル
での横断面により、硬毛をIRS断面と比較してそのより厚い毛幹によって認識し、軟毛
を小断面直径と比較してIRSよりも薄い毛幹によって認識することができる。
【0006】
毛包は、2つの初代細胞種から構成される。第1の細胞種は毛包形態形成の開始時に外
胚葉/表皮から漸増し、他は中胚葉から漸増する。毛包の上皮幹細胞は毛包のいわゆる毛
隆起部(毛隆起筋(hair bulge muscle)の挿入点)内またはそれに隣
接して有意に存在し、これは間葉系幹細胞が真皮乳頭中に存在する有効な学説であった。
これに関して、前の分析では、調製された真皮乳頭を皮膚の脱毛部分に移植することがで
き、これにより毛包形成が誘導されることを示している(Oliver,1970,Ja
hoda et al.,1984,Reynolds et al.,1999)。そ
れにより、毛乳頭細胞の除去位置により、形成される毛髪の型が決定される(例えば、頬
髯/鼻毛毛乳頭によりマウス耳中に頬髯/鼻毛が再度誘導される)。細胞数を増加させる
ために毛包真皮乳頭(DP)を栄養培地に置くこともできる。これらの培養DP細胞を、
皮膚の脱毛領域(例えば、手のひら)に移植することができ、さらに新規の毛包の形成を
誘導することができる(Messenger,1984)。DP細胞は、実際、毛髪を誘
導することができるが、DSC領域またはDS領域を再生しない。DSCは、「真皮鞘杯
(dermal sheath cup)」を意味し、本発明の細胞の位置を示す。さら
に、DP細胞によって形成された毛髪は寿命が短い。
【0007】
一方では、脱毛は加齢の一部(老人性脱毛症)であり、男性ホルモン性脱毛症、円形脱
毛症、および瘢痕性/外傷性脱毛症の場合のように、能動的な病理学的機構の結果である
か、他方では、化学療法の後遺症などの損傷に反応した結果である。脱毛は、一般に、社
会において否定的に捕らえられている。脱毛を予防するか毛髪を元に戻す治療への強い要
求により複数の異なる医薬品、製品、および技術が発達した。生物学的毛髪研究では、毛
包構成要素内のDPは、胚形成時の毛包の発達および分化を決定し、毛髪線維の成長およ
び毛包周期を調節する重要な構造として同定された。ほとんどの一般的な男性ホルモン性
脱毛を含む多数の脱毛疾患の場合、DPは外因性要因に影響を受け、DPは毛包の活力を
維持することができないという事実に至る。1つには、これはDP由来の細胞のサイズの
減少および喪失の結果であるかもしれない。DPサイズの減少は、毛包サイズの減少に直
接関係する。
【0008】
単純化した方法では、毛髪疾患を、「過剰な」毛髪(多毛症/多毛)または「過少な」
毛髪(全ての脱毛症型(円形脱毛症、男性ホルモン性脱毛症、萎縮性脱毛症、毛孔性扁平
苔癬、紅斑性狼瘡、先天性貧毛症および無毛症((丘疹状無毛症など)による脱毛症、代
謝疾患(例えば、甲状腺の機能障害など)の場合のびまん性脱毛、火傷または外傷後の脱
毛症、化学療法または他の病毒による脱毛症などが含まれるがこれらに限定されない))
として定義することができる。これらの異なる脱毛症のうち、男性ホルモン性脱毛症のみ
について2つの承認活性成分(フィナステリド、ミオキシジル)のみを利用可能である。
有効成分は幹細胞に影響を与えず、全ての症例において美容的に許容可能な発毛を保証す
ることができる有効成分は存在しない。多毛症の治療は、本質的に物理的に行われる(す
なわち、レーザー治療または電気分解法による毛包の破壊)。この場合、幹細胞機能の阻
害がより有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、過少な発毛の治療手段が求められるのはもっともなことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の問題を、特許請求の範囲に記載の主題によって解決する。
【0011】
以下の図面は、本発明を例示する。
【0012】
本発明は、新規の毛包DPの完全な形成、既存の毛乳頭(DP)への移行、真皮結合組
織(DSCおよびDS)被覆物(coating)の一部の形成、およびDP細胞よりも
アルカリホスファターゼ活性が低いことを特徴とする成体毛包間葉系幹細胞(DSC)に
関する。好ましくは、本発明の細胞は、哺乳動物、特にマウス、ラット、ウサギ、モルモ
ット、ヤギ、ブタ、ウシ、またはヒトに由来する。本発明の細胞は、毛包結合組織被覆物
(DS)および毛真皮乳頭(DP)細胞と異なり、より大きく且つ太い毛髪を産生するた
めに新規の毛包を完全に形成するか既存の毛乳頭に移行する能力または特徴を有する。さ
らに、これらの細胞は、それぞれ、真皮結合組織被覆物の一部を形成する能力または特徴
を有する。これら2つの特徴は、DS細胞やDP細胞で示されない。本発明の成体毛包間
葉系幹細胞(以下でDSC幹細胞またはDSC細胞とも呼ばれる)は、杯状の配置で毛球
(以下でヘアボウル(hair bowl)または毛杯(hair cup)とも呼ばれ
る)の下方の棒状部(pole)周囲で見出され、真皮鞘杯細胞(DSC)と称されてい
る。間葉系幹細胞と関連して本明細書中で使用される、用語「成体」は、間葉系幹細胞は
胚幹細胞ではなく、成体生物から単離された間葉系幹細胞であることを意味する。
【0013】
本発明の細胞を生化学的に特徴付けることができる。したがって、そのアルカリホスフ
ァターゼ発現を利用した。DP細胞と異なり、DSC細胞は、限定的なアルカリホスファ
ターゼ活性しか示さない。DP細胞は、全毛周期で顕著なアルカリホスファターゼ活性を
示すという事実によって特徴付けられる。アルカリホスファターゼ活性は、DSC細胞で
あまり顕著ではない。DS細胞は、いかなるアルカリホスファターゼ活性も示さない。
【0014】
本発明に関して、低アルカリホスファターゼ活性は、DSC細胞の活性がDP細胞と比
較して約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または5
0%低いことを意味する。さらに、低アルカリホスファターゼ活性は、DSC細胞の活性
がDPの明白なアルカリホスファターゼ活性よりも少なくとも約10%、好ましくは少な
くとも約15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%低い
ことを意味する。
【0015】
本発明は、a)活力のある毛髪を調製する工程と、
b)工程a)で調製した毛髪を分割する工程と、
c)真皮毛乳頭と共に杯状様物質(cup shape−like)付着毛杯(hai
r cup)を単離する工程と、
d)前記毛杯から真皮毛乳頭を分離する工程と、
e)工程d)で得た毛杯を培養する工程と、
f)コンフルエントな細胞をプールする工程とを含む、毛包間葉系幹細胞の単離方法に
関する。
【0016】
好ましくは、毛包は、哺乳動物、特にマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブ
タ、ウシ、またはヒトに由来する。さらに、本発明は、本発明の方法によって得ることが
できる毛包間葉系幹細胞に関する。
【0017】
DSC細胞を、以下の方法によって単離することができる。第1に、毛包を以下のよう
に顕微解剖によってその一部分に分割する。それにより、活力のある毛髪(例えば、無傷
の成長期毛髪)を解剖顕微鏡下で調製する。着色毛髪の場合、その上方棒状部の毛髪を貫
く断面切断を行い(図3b、矢印)、杯状様DSCを毛真皮乳頭(DP)と共に剥離する
(図3c)。この組織部分をめくり返し(図3d)、毛真皮乳頭(図3e)を毛杯(図3
f)から分離する。この方法は、毛包間葉系幹細胞の調製に使用することができるだけで
なく、爪および咀嚼器官の間葉系幹細胞の調製にも適応させることができる。本方法を、
全ての真核生物(例えば、哺乳動物、特にヒト)で使用することができる。
【0018】
得られた毛杯(DSC)を、標準的な条件を使用した細胞培養液で増殖させる。例えば
、以下のように培養することができる。培地として、AmnioMaxC100基礎培地
(ギブコ)およびAmnioMaxC100補助物質を使用する。第1に、DSCを滅菌
および標準的な条件下(37℃、5%CO2、500μl培地)においてこの培地を含む
24ウェル培養フラスコ(ファルコン、フランクリンレークス、ニュージャージー州、ア
メリカ合衆国)中で培養する。数日後、細胞は自発的に成長し、コンフルエント培養付近
に到達後(全細胞の検出後に1ウェルあたり260μlAmniomax培地でのトリプ
シン処理で停止)に1ウェルあたり200μlのトリプシン−EDTAで分離し、25m
l培養フラスコ(グライナー、フリッケンハウゼン、ドイツ)に移す。これについて、細
胞をプールし、1000U/分で10分間遠心分離し、上清を破棄し、細胞を5mlのA
mniomaxに再懸濁する。培地を3日毎に交換する。得られた細胞が本発明の間葉系
幹細胞であることを決定するために、アルカリホスファターゼ検出を行うことができる。
これについて、実施例に記載のように、細胞を滅菌カバーガラス上で培養し、アセトン中
で固定し、分析することができる。記載の実施例のインビトロ検出のインキュベーション
の時間は、標準的な条件下で約30分〜約1.5時間、好ましくは約1時間である。
【0019】
同一の方法を使用して、爪および咀嚼器官の間葉系幹細胞を単離および増殖することが
できる。
【0020】
本発明の細胞を細胞培養によって増やすことができ、細胞培養物を数世代にわたり培養
することができる。DSC細胞は、一方で形態学的特徴を、他方で生物学的特徴を示し、
互いに明確に区別することができる。真皮結合組織被覆物(DS)の線維芽細胞は、魚の
鱗状のパターンを連想させる形態学的に典型的な成長パターンを示す。DSC細胞はより
密集して成長し、これらの魚の鱗状の構造を形成せず、いわゆる偽毛乳頭を形成する傾向
があり、これは細胞培養フラスコ中に形態学的に毛真皮乳頭(DP)を連想させる小細胞
蓄積を構築することを意味する。既に記載のように、毛包結合組織被覆物(DS)の線維
芽細胞はいかなるアルカリホスファターゼ活性を発現せず、DSC細胞はほんの少し発現
し、DP細胞はインビトロおよびインビボで強力なアルカリホスファターゼ活性を示す。
【0021】
結合組織鞘の下方棒状部における結合組織細胞(いわゆる毛杯細胞(DSC))は、真
皮によって形成される毛包単位の全ての関連構造を再生することができる。この特徴のた
めに、これらにより小さなDPの集団によって新規の発毛またはより太い毛髪の形成が可
能である。この場合、新規に形成された毛髪の寿命は制限されないが、原則的に寿命まで
であろう。対照的に、DP細胞移植後のこのような一生涯の再生能力は記載されていない
。DP細胞を用いた全ての試みは一過性でしかない故に、一生涯の増殖能力を有する真の
幹細胞を、DSC細胞の移植によって皮膚に導入する。
【0022】
本発明は、治療および予防ならびに美容整形術のための手段としての本発明の毛包間葉
系幹細胞に関する。さらに、本発明は、脱毛症の治療もしくは予防または遺伝子治療のた
めの手段の調製のための本発明の幹細胞の使用に関する。
【0023】
本発明の方法によって得ることができる細胞を、脱毛症、とくに円形脱毛症、男性ホル
モン性脱毛症、萎縮性脱毛症、毛孔性扁平苔癬、紅斑性狼瘡、先天性貧毛症および無毛症
による脱毛症、代謝疾患に関するびまん性脱毛、火傷または外傷後の脱毛症、または化学
療法後の脱毛症の治療ならびに遺伝子治療に使用することができる。例えば、細胞を含む
溶液(例えば、生理食塩水)の注射または移植(すなわち基質(例えば、コラーゲン)へ
の埋め込みまたはリポソームへの封入)によって使用することができる。単回の注射また
は移植で十分でない場合、後療法(反復治療)が可能である。単一の皮膚領域について一
定の適用様式が好ましい場合、それに応じて本発明の細胞を投与することができる。
【0024】
爪および咀嚼器官の各間葉系幹細胞は、それぞれの特徴を有する(Chuong et
al.,2001,Thesleff,2000)。これについての1つの理由が、こ
れらが進化において祖先を共有し、胚形成時に実質的な形態学的構造が再現されるので、
爪および歯の場合にも毛包の間葉系幹細胞の位置が見出されるという事実に存在する可能
性がある。したがって、球周囲の毛包および咀嚼器官の培養細胞を用いて歯も再生するこ
とができるかもしれない。形態学的特徴の使用により、毛髪と同様に新規またはより厚い
爪または歯を誘導することができる。したがって、本発明は、さらに、治療および予防の
ための手段としての爪および咀嚼器官の間葉系幹細胞、ならびに爪または咀嚼器官の疾患
の治療および予防ならび遺伝子治療のための薬物の調製のための幹細胞の使用に関する。
【0025】
したがって、DSC細胞の新規の毛包を形成するか、もしくは既に存在する真皮毛包に
付加する能力によって、全ての脱毛タイプおよび毛髪微細化タイプを治療することが可能
である。これに加えて、本発明によってDSC細胞の寿命が延長され、問題なく移植され
る能力があり、これによりにより完全な機能性が保たれる。分泌物質の産生が必要な場合
、毛包、爪または咀嚼器官のDSC細胞を、遺伝子治療においても使用することができる
。例えば、トランスフェクション後に細胞が所望の産物を分泌する能力を持つようにこれ
らの細胞を遺伝子操作することができる。皮膚を介して、血液によって産物を全身に分散
させることができる。例として、インスリン遺伝子のDSC細胞へのトランスフェクショ
ンを挙げることができる。これらの新規のインスリン産生細胞の移植後、真性糖尿病の治
療が可能である。分泌産物欠乏についての多数の他の例(ホルモン、タンパク質、サイト
カイン、ケモカイン、成長因子、リポメディエーター)が公知である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】毛包末端の略図である。
【図2】図2Aは組織学的切片中の成長期の毛髪を示す。フレームは、図2BおよびCに示す切片を示す。DSCは、「真皮鞘杯」を意味し、本発明の細胞の位置を示す。DSC細胞を毛包内の位置による解剖学的−局所解剖学的様式で明白に定義し、これらは杯状様式で毛球を取り囲む位置で毛球の下方の棒状部(pole)に存在する。DPは「真皮乳頭」を意味する。DSは「真皮鞘(dermal sheath)」を意味する。
【図3】真皮鞘杯(DSC)を得るための解剖計画の単一ステージを示す。無傷の成長期毛(a)を立体顕微鏡下で準備する。(b)の拡大図は解剖レベルを示す。着色領域の上方棒状部で毛髪を横断面に沿って切断して、結合した杯状の毛髪剥離物質(DSC)をDP(c)に沿って除去することができる。この組織部分をめくり返し(d)、DP(e)をDSC(f)から分離し、毛包の上皮部分(h)および結合組織被覆物(i)=真皮鞘=DSを残す。
【図4】マウスの耳のDSC細胞移植の結果の図を示す。単離したDSC組織を細胞培養液中で増殖させ、細胞をマウスの耳に移植した。右耳への頬髯DSC細胞の移植後、このマウスの耳から頬髯が成長する。左の未処置の耳では頬髯の成長は見られなかった。図4bおよび4cは各拡大図を示す。
【図5】アルカリホスファターゼ活性を示す図である。この図は、毛真皮乳頭中のアルカリホスファターゼの強力な発現を示す一方で、DSC細胞は弱い発現しか示さない。発現は、DSCからDSへの移行時に突然終焉する(図3bおよびc、図5a〜c)。DP(図5f)およびDSC(図5e)の培養細胞はインビトロで同一の成長パターンを示し、いわゆる偽毛乳頭を形成する傾向がある。DS細胞は、非常に細長い細胞が魚の鱗状の配置になるような成長パターンを示す傾向がある(図5d)。DP細胞(図5f)は、強力なアルカリホスファターゼ活性を示し、DSC細胞(図5e)は弱いアルカリホスファターゼ活性を示し、DS細胞(図5d)はアルカリホスファターゼ活性を示さない。
【図6】DSC細胞の移植後に誘導および再生された毛真皮乳頭を示す図である。TgN−GFPXマウス由来の蛍光DSC細胞を本明細書中に記載のように培養し、SCIDマウスの耳に移植した。6ヵ月後、新規の発毛が認められた(図4)。移植後、共焦点レーザー顕微鏡によってDP領域およびDSC領域中に蛍光細胞が発見され、DS内にも一部発見された(a、b)。新規に形成された全毛乳頭細胞は蛍光を示し、他の細胞は蛍光および非蛍光細胞のキメラ集団(c、d)を示し、これは、DSC細胞がこれらを用いてより太い毛髪を形成するために既存の毛乳頭と集団を形成するかもしれないという事実を示す。
【図7】MSPのウェスタンブロットの結果を示す図である。培養DP細胞(細胞質ゾル=レーン1、膜結合=レーン4)、DSC(細胞質ゾル=レーン2、膜結合=レーン5)、および毛包線維芽細胞(細胞質ゾル=レーン3、膜結合=レーン6)由来のMSP抽出物をクロマトグラフィで分離し(SDS−PAGE:12%ポリアクリルアミド)、ナイロンメンブレン(Hybond ECL,アマシャム バイオサイエンス GmbH,フライブルグ、ドイツ)上にブロッティングした。メンブレンを5%脱脂粉乳および0.5% Tween20(シグマ−アルドリッチ,GmbH,ミュンヘン、ドイツ)でブロッキングし、PBSで洗浄した。製造者の説明書にしたがってMSPに対するポリクローナルヤギ抗ヒトMSP抗体(HGFL(N−19),sc−6088,サンタクルズ)をECL検出システム(アマシャム)で使用した。特にDP細胞で56kDの強力なバンドをはっきりと確認することができる。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は本発明を例示するが、本発明の範囲を限定すると理解すべきではない。
【0028】
顕微解剖:マウス由来の頬髯/鼻毛の毛包を、最初に顕微解剖によってその一部に分離
した。図3aに示すように、解剖顕微鏡下でまず最初に無傷の成長期の毛髪を調製した。
着色毛髪の場合、色素領域の上方棒状部の毛髪を貫く断面切断を行い(図3b、矢印)、
杯状様物質付着ヘアボウル(DSC)を毛真皮乳頭(DP)と共に剥離する(図3c)。
この組織片をめくり返し(図3d)、DP(図3e)をDSC(図3f)から分離する。
解剖後、上皮毛根鞘(図3h)および結合組織被覆物(図3i)が残った。
【0029】
細胞培養:続いて、解剖したDSCを細胞培養液中で増殖させた。培地として、Amn
ioMaxC100基礎培地(ギブコ)およびAmnioMaxC100補助物質を使用
した。第1に、DSCを滅菌条件および標準的な条件下(37℃、5%CO2、500μ
l培地)において前記培地を含む24ウェル培養フラスコ(ファルコン、フランクリンレ
ークス、ニュージャージー州、アメリカ合衆国)中で培養する。数日後、細胞は自発的に
成長し、コンフルエント培養液に到達後(全細胞の剥離後に1ウェルあたり260μlA
mniomax培地でトリプシン処理で停止)に1ウェルあたり200μlのトリプシン
−EDTAで分離し、25ml培養フラスコ(グライナー、フリッケンハウゼン、ドイツ
)に移した。これについて、細胞をプールし、1000U/分で10分間遠心分離し、上
清を除去し、細胞を5mlのAmniomaxに再懸濁した。培地を3日毎に交換した。
培地として、AmnioMaxC100基礎培地(ギブコ)およびAmnioMaxC1
00補助物質を使用した。まず最初に、DSCを滅菌条件下において前記培地を含む24
ウェル培養フラスコ(ファルコン、フランクリンレークス、ニュージャージー州、アメリ
カ合衆国)中で培養する。数日後、細胞は自発的に成長し、増殖させ、標準的な方法を使
用して25ml培養フラスコ(グライナー、フリッケンハウゼン、ドイツ)で継代培養す
ることができる。
【0030】
アルカリホスファターゼの検出:インビボ分析のために、組織を急速冷凍し、OCT試
薬(Tissue tec,Sakura,Zoeterwounde,オランダ)に包
埋し、6μm厚の凍結切片を調製した。製造者の説明書に従ってpH8.1でアルカリホ
スファターゼ「fast red TR」基質溶液(Pierce Company,ロ
ックフォード,イリノイ州,アメリカ合衆国:供給量として10mgのfast red
TR、10ml基質緩衝液、供給量として1.5mlナフトールAS−MXリン酸濃縮
物)を使用してアルカリホスファターゼを検出した。レバミゾールの非存在下で30分間
発色させた。インビトロでのアルカリホスファターゼの検出のために、滅菌スライドガラ
ス上で細胞を培養し、アセトン中で固定し、アルカリホスファターゼの測定について記載
のように試薬を使用した。インキュベーション時間は1時間であった。
【0031】
発毛の誘導:数回の細胞継代後、細胞は依然として新規の毛髪を誘導することができる
。小さな損傷(擦り傷)後、マウスの耳の真皮に3〜5×106細胞を含む0.1mlの
PBSを滅菌16ゲージニードルを使用して創傷から約2mmのところに注射した。これ
らの実験のために、動物を1.66mlの塩酸キシラジン(ロンプン、バイエルウィタル
、レーファークーゼン、ドイツ)を含む10mlの塩酸ケタミン(ヘクサル、ホルツキル
ヒェン、ドイツ)で麻酔した。この後、新規の発毛が認められる場合には、数週間観察を
行った。2ヵ月後、DPおよびDSCの移植後に発毛が認められたが、DS細胞の移植後
では認められなかった。6ヶ月間発毛が認められ、これらの臨床所見は一過性の現象では
ないことを示す。さらに、移植後に既存の毛髪がより太くなることが認められた(図6)

【0032】
共焦点レーザー顕微鏡:DSC細胞による発毛誘導の生物学的特徴に加えて、移植後異
なる細胞の移動が認められた。これについて、マウス(STOCK TgN(GFPX)
4Nagy)の3つの記載の形態学的毛髪領域(DP、DS、DSC)由来の組織を調製
した。これらのマウスの細胞を含む全ての核が緑色蛍光タンパク質を含むので、これらの
マウスを選択した。これらの組織由来の細胞を培養し、6週間にわたり継代した。3つの
異なる細胞型を免疫インコンピテントCbySmm.CB17−Prkdcscid/Jマウ
スの耳に注射した。さらに、非蛍光のGFP STOCK TgN(GFPX)4Nag
y,C3H/HeJマウスおよびPVG/OlaHsdラット由来の細胞を同一の様式で
注射した。新規に発毛するか既存の毛髪が太くなる場合には観察を行った。2〜6ヵ月後
、動物を屠殺し、耳を包埋した。これについて、組織を4%パラホルムアルデヒド(シグ
マ、ダイゼンホーフェン、ドイツ)を含むPBS-/-中で2時間固定し、その後PBS-/-
で数回リンスした。組織を室温で「Tissue−Tek」に包埋し、暗所の4℃で24
時間保存した。その後、セルロースを詰めたポリスチレンボックス中で組織をゆっくり−
70℃に冷却した(いわゆる「緩慢凍結技術」)。最初に、組織ブロックを30分間−2
0℃まで加温した。その後、低温保持装置を使用して20μmと40μmとの間の切片を
作製し、1%ポリ−L−リジン(シグマ、ダイゼンホーフェン、ドイツ)で前処理した顕
微鏡スライド上に置いた。室温で乾燥させた。その後、切片をPBS-/-で1回リンスし
、その後切片をPBS-/-または被覆媒体(例えば、グリセロール)を含む水でカバーし
た。この後、アルゴン−クリプトンレーザーを使用したツァイス社(ゲッティンゲン、ド
イツ)のレーザー顕微鏡(LSM410型)(励起は488nm、発光波長500〜52
0nm、Z軸の間隔2μm)を使用して組織を分析した。
【0033】
その後、連続切片(20〜40μm)を行い、共焦点レーザー顕微鏡を使用してGFP
(=緑色蛍光タンパク質)発現細胞の存在について分析した。これらの実験により、DP
細胞の移植によって新規の発毛が可能であることおよび移植細胞のみが新規の毛髪を形成
する一方で、DS細胞の移植では毛髪は形成されないが、共焦点顕微鏡を使用した場合、
拡散するにつれて真皮中にGFP発現細胞集団が認められるという予備的調査を確認する
ことができた。DP細胞の移植は、単に新規の毛真皮乳頭の形成をもたらしたが、毛包結
合組織被覆物の形成には至らなかった。対照的に、DSC細胞により新規のDPおよび毛
包結合組織(DS)被覆物の一部の両方が形成された。DSC細胞により全ての真皮構造
を再構築することができる一方でDP細胞はこれを行うことができないという事実により
、、DSCはあまり分化せず、DP細胞よりもより多能性であると推測することができる
。この理由のために、DSC細胞は毛包の成体間葉系幹細胞である。図4は、DSC細胞
の誘導特性を示す。まとめると、結果として、DSC細胞はDPおよび毛包結合組織鞘が
形成される推定上の幹細胞であることが観察された。
【0034】
DSCの移植後に新規の毛髪が形成し、移植DSC細胞が新規のDPおよび新規の結合
組織被覆物(DS)の両方を形成することを示すことができた。これは、DSCおよびD
P領域ならびに結合組織鞘(DS)の両方で緑色蛍光によって共焦点顕微鏡で視覚可能で
あった。細胞注入後6ヶ月間行った分析により、GFP発現細胞は依然として関連毛包構
造に存在することが示された。注入された細胞は幹細胞に典型的な非常に遅い細胞周期を
有し、再生能力を示す。宿主の一部で非GFP発現真皮細胞は漸増しなかった。さらに、
既存の毛髪中に1つの緑色蛍光細胞が観察されたが、これは移植されたDSC細胞が既存
のDPにコロニーを形成し、それによってより太い毛髪を誘導することを示す。
【0035】
[引用文献]
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)活力のある毛髪を調製する工程と、
b)工程a)で調製した毛髪を分割する工程と、
c)真皮毛乳頭と共に杯状様物質付着毛杯を単離する工程と、
d)前記毛杯から真皮毛乳頭を分離する工程と、
e)工程d)で得た毛杯を培養する工程と、
f)コンフルエントな細胞をプールする工程とを含む、毛包間葉系幹細胞の単離方法。
【請求項2】
前記毛包が哺乳動物に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物がマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、またはヒト
である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法によって得ることができる、毛包間葉系幹
細胞。
【請求項5】
完全に新規の毛包を形成する特徴と、既存の毛乳頭に移動する特徴と、真皮結合組織被
覆物の一部を形成する特徴と、真皮乳頭細胞よりも低いアルカリホスファターゼ活性を有
する特徴とを有する、毛包間葉系幹細胞。
【請求項6】
治療、予防、および美容整形術のための手段としての請求項4または5に記載の毛包間
葉系幹細胞。
【請求項7】
脱毛症の治療もしくは予防または遺伝子治療のための手段を調製するための請求項4ま
たは5に記載の毛包間葉系幹細胞の使用。
【請求項8】
前記脱毛症が、円形脱毛症、男性型脱毛症、萎縮性脱毛症、毛孔性扁平苔癬、紅斑性狼
瘡、先天性貧毛症、および無毛症による脱毛症、代謝疾患に関するびまん性脱毛、火傷も
しくは外傷後の脱毛症、または化学療法後の脱毛症である、請求項7に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−101648(P2011−101648A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274731(P2010−274731)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【分割の表示】特願2004−511503(P2004−511503)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(504448221)
【Fターム(参考)】