説明

毛小嚢及びデノボ乳頭の作製方法並びにインビトロ試験及びインビボ移植のためのそれらの使用

本発明は毛小嚢を作製する方法に関し、前記方法は(a)デノボ乳頭を提供する工程、(b)線維芽細胞、角化細胞及びメラニン細胞の群から選択される他の細胞集団を提供し、更に前記デノボ乳頭を少なくとも1つの他の細胞集団と一緒に非接着性培養容器で同時培養する工程を含む。本発明はまた、毛小嚢を作製する前記方法で使用することができるデノボ乳頭を作製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デノボ(de novo)乳頭を毛嚢の別の細胞集団とともに超低付着性培養容器中で同時培養することによって毛小嚢を作製する方法に関する。本発明はまた、毛小嚢の作製方法で使用することができるデノボ乳頭を作製する方法に関する。本発明の目的はまた、前述の方法によって作製された毛小嚢及びデノボ乳頭である。毛小嚢及び/又はデノボ乳頭は、毛減少症状の治療用移植片として、及び物質の毛調整作用又は毒性作用をインビトロで試験するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
人間の非言語的意思疎通において毛が果たす決定的な役割のゆえに、毛の成長が低下したとき、罹患者は例外なく支援を希求する。究極的治療法はもちろん新しい健常な毛嚢サイクルを回復又は再生させることである。つい最近まで、医薬はこれらの患者に何らの有効な治療を提供することができなかった。20世紀後期に、毛の成長を刺激する(軽度で不確実ではあったが)いくつかの薬剤が市販された。例はミノキシジル、フィナステリド及びラタノプロストである。毛嚢の発達及びサイクルの統一的進行に要求される複雑なタイミング及び無数の遺伝子発現変化は、進行した脱毛症の治療に対する単純な医薬的アプローチの障壁になることは大いにあり得よう。結果として前記薬剤の作用は、毛の薄くなった頭皮に新規な毛嚢を生じさせるという最終目標には不十分である。どのようにして毛嚢を形成するかが判明している細胞タイプを利用することによって、細胞利用療法は、純粋な分子的アプローチよりも早く臨床に到達するであろう。
毛嚢細胞利用療法のあるアプローチは、少数の毛嚢を取り出し、それらから適格細胞及び/又は誘導性細胞を単離し、続いて新規な毛嚢を生じる前記細胞の固有の能力を維持しながら前記細胞をex vivoで増やすことを必要とするであろう。明らかに、真皮性毛嚢細胞の誘導性能力及び毛嚢上皮性細胞の適格性を維持する細胞培養条件が、いずれのタイプの細胞利用脱毛症治療法の開発達成の前に必要である。初期の研究で真皮性細胞の誘導性特性はインビトロでは時間とともに減衰することが示されたので、毛嚢細胞の発毛特性を培養で維持することに研究の目標が置かれた。最近の進歩の多くが、完全な毛嚢及びそれらの細胞成分のための培養方法論の進歩から得られた。培養で増殖させたヒトの毛嚢は、毛嚢乳頭線維芽細胞、外毛根鞘(ORS)角化細胞及び毛母基由来の成長能力をもつ表皮性細胞を含む(Tobin et al. J Invest Dermatology 1995, 104(1):86-88)。
【0003】
これまでの生物工学的研究の目標は、所定の組織培養条件下で増殖させたばらばらの細胞から始まる、完全に統制された機能的器官系を作製又は再構成することである。毛嚢は、個体の生涯にわたってサイクルを繰り返し、その下半分を次々と再生させるという点で、極めて大きな再生能力を有することはずっと前から知られていた。真皮性毛乳頭及び結合組織鞘線維芽細胞は特徴が幹細胞様であり、毛の成長を誘導する固有の特性を有する。毛嚢は、適格性をもつ上皮幹細胞と強い誘導作用をもつ真皮細胞が毛嚢の成長サイクルで相互に作用することによってそれ自体を再生させる。毛嚢の上皮幹細胞及び間葉幹細胞から完全な毛嚢を再構成することが可能である。
脱毛症のための任意のタイプの細胞利用治療に関して特記されるべき試みの大半が毛嚢形成効率及び細胞タイプの選択を含む(これらはStenn & Cotsarelis(Curr Opinion Biotech 2005, 16:493-497)によって概略されている)。毛嚢の生物工学操作の場合は、嚢胞又は他の上皮性供給源に由来する適格細胞の存在下又は非存在下において、ばらばらにした嚢胞に由来する真皮性成分を用いて開始することができよう。ばらばらにした多数の細胞を培養で増やし、続いて真皮性細胞のみを又は適格上皮細胞と一緒に脱毛症頭皮に再導入することができよう。以前の実験では、真皮性誘導細胞を正しく配置して開始したとき新規な嚢胞の形成が生じることが示された。更にまた、解離又は凝集した発毛促進性上皮細胞と真皮性細胞を一緒にして開始する方法もまた新規な毛嚢の効率的な作製方法であることが立証された。
【0004】
脱毛症治療のための細胞利用アプローチにおける最初の試みは、当然ながら、毛嚢の生物工学操作のために自家組織を用いてドナー細胞の免疫拒絶を回避することであった。しかしながら、毛嚢はMHC(主要組織適合性複合体)クラスI抗原を発現しない免疫免除部位であるという考え方に基づき、組織移植用の異種(アロジェニック)毛嚢組織を開発できるかもしれないという興味深い可能性が存在する。それにもかかわらず、このタイプのアプローチについては安全性試験及び規制に関するハードルのために膨大な財源が必要となろう。
毛嚢の生物工学操作のためのまた別の可能なアプローチは、インビトロミニ器官として毛嚢を実際に形成し、続いてこの新規に作製された嚢胞を脱毛頭皮に移植しなおす工程を必要とする。擬似真皮又は擬似真皮調製物を、適切な担体上もしくは適切なマトリックス中に培養真皮乳頭細胞を含む擬似乳頭又は適切なマトリックス形成媒体(in situでマトリックスを形成することができる)上に培養真皮乳頭細胞を含む擬似乳頭前駆体とともに提供し、前記擬似乳頭又は擬似乳頭前駆体を前記擬似真皮又は擬似真皮調製物に導入することによって、皮膚及び毛の等価物を作製できることがDE10162814B4から知ることができる。この種のアプローチは、真皮細胞及び表皮細胞の両細胞を正常な毛嚢の三次元的構造物へと分化させるために、おそらく適切な増殖因子とともに埋め込まれた三次元的マトリックスを含むはるかに複雑な細胞培養系を必要としよう。特に、乳頭構造物は、前記擬似真皮中に腔を形成し(例えば穴を開けるか又は穿刺することによる)、更にその中に前記擬似乳頭を配置することによってのみ得られる(PDに形成された腔に擬似乳頭の寸法が一致するように擬似乳頭は形成される)。前記アプローチは、直接的細胞接触と同様にほぼ生理学的な乳頭構造における意図的な細胞編成を欠いている。
【0005】
最近、毛嚢又はその部分を含む真皮乳頭に由来するマルチポテント幹細胞又はその子孫集団を作製するまた別の方法が示された。WO2005/071063A1の方法は、マルチポテント幹細胞が成長し非接着的に増殖する条件下で前記毛嚢又は真皮乳頭含有部分を培養することを含む。真皮乳頭はこの方法では入手できないが、単離したマルチポテント幹細胞が毛の成長の誘導又は哺乳動物での皮膚の再生のために直接用いられた。しかしながら、前記明細書では、WO2005/113747A2で確認されたように一定量の接着細胞が形成されることもまた判明した(WO2005/113747A2は、立体的条件下で培養することによって少なくとも2つのマルチポテント又はプルリポテント成体幹細胞タイプから多細胞性凝集物を作製する方法を開示する)。現在のところ、前記器官類似体は外分泌腺組織から寄せ集められた上述の幹細胞に限定される。
したがって、本発明の基礎をなす技術的課題は、従来技術の上述の欠点を回避すること、及び生理学的DPのサイズ及び形状に自由に及び容易に編成される再構築毛嚢及び乳頭の作製方法を提供することである。本発明が目指すまた別の問題は毛の等価物又は皮膚代替物を見つけることであり、それらは、インビトロモデルとして、より具体的には活性な物質の試験及び/又は評価のため、更に具体的には毛嚢での試験及び/又は評価に適しているであろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、以下の工程を含む哺乳動物の毛嚢の作製方法を提供することによって問題を解決する。
(a)少なくとも1つのデノボ乳頭を提供する工程、
(b)線維芽細胞、角化細胞及びメラニン細胞の群から選択される少なくとも1つの他の細胞集団を提供する工程、及び
(c)前記デノボ乳頭を前記少なくとも1つの他の細胞集団と一緒に非接着性培養条件下で同時培養する工程。
“デノボ乳頭”又は“新生乳頭”という用語は、本明細書では相互に用いられ、哺乳動物の真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)の細胞凝集物を意味し、前記は単離後の毛嚢の生理学的な真皮乳頭(DP)の少なくとも半分のサイズ及び近似の形状を有する。デノボ乳頭は、1つ又は多数の異なる細胞外マトリックスタンパク質(好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニン)を含むコーティングを含むことができる。そのようなコーティングは、デノボ乳頭そのものを形成するDPFによって生成されてもよく、又はデノボ乳頭が毛小嚢作製方法の工程(c)にしたがって同時培養される前の任意の段階で添加されてもよい。
【0007】
“小嚢”又は“新生嚢”という用語は本明細書では相互に用いられ、不完全な哺乳動物の毛嚢構造物を指す。前記構造物は真皮細胞性土台を含むが、他の細胞タイプ(例えば筋細胞、神経、血管など)を欠き、その結果天然の嚢胞と比較してサイズが低下する。本発明の小嚢はデノボ乳頭を含み、線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される少なくとも1つの他の細胞集団の細胞が前記デノボ乳頭を安定的に被覆しているか、又は前記細胞集団の細胞が前記デノボ乳頭にコロニーを形成する。前記線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞は哺乳動物の毛嚢に由来する必要はないが、他の哺乳動物組織から誘導してもよい。好ましくは、本発明の小嚢は少なくとも1つの他の細胞集団の細胞によって安定的に被覆又はコロニー形成されたデノボ乳頭を含み、前記他の細胞集団は、哺乳動物の毛嚢(例えば結合組織鞘線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される)から誘導可能であるか、及び/又は前記に由来する。前記小嚢の三次元形態は哺乳動物の生理学的な毛嚢の三次元的外観に類似する。特に小嚢は、三次元的に形成され、場合によって空間的に仕切られ、再構築されたデノボ乳頭であり得る。前記デノボ乳頭はその表面に嚢胞様構造物を有し(毛の形態発生のもっとも初期を連想させるものを含む)、更に真皮乳頭細胞を含む。
【0008】
本発明は以下の多段工程を含む毛小嚢を作製する方法に関する。
これらの工程はデノボ乳頭の提供を含む。本発明にしたがえば、提供されるべきデノボ乳頭は任意の適切な方法によって作製することができる。好ましくは、下記に開示する本発明のデノボ乳頭の作製方法の1つにしたがって作製されたデノボ乳頭が用いられる。
前記工程は更に他の細胞集団の提供を含む。他の細胞集団は哺乳動物の毛嚢から、好ましくはDP調製物に用いられる同じ毛嚢から誘導することができ、更にデノボ乳頭を少なくとも1つの他の細胞集団と非接着性培養容器で同時培養することができる。少なくとも4つの異なる細胞集団(即ち、DPF、結合組織鞘の線維芽細胞(CTSF)、角化細胞(KC)及びメラニン細胞(MC))を所定の態様で哺乳動物の毛嚢から単離し、標準的条件下で別々に培養し、続いて倍増させることができる。これらの単離物から長期生育能力をもつ細胞培養を形成すること及びそれらを例えばスクリーニング方法のための使用に供することもまた可能である。
他の細胞集団を線維芽細胞、角化細胞及びメラニン細胞の群から選択することは、本発明の好ましい実施態様である。前記線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞は哺乳動物の毛嚢に由来する必要はないが、前記細胞は哺乳動物の他の組織から誘導してもよい。前記線維芽細胞は好ましくは結合組織鞘から誘導される。
好ましくは、前記少なくとも1つの他の細胞集団は哺乳動物の毛嚢から誘導可能であるか又は前記に由来し、前記細胞集団は、結合組織鞘線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される。
【0009】
デノボ乳頭を少なくとも角化細胞と一緒に同時培養することは本発明の別の好ましい実施態様である。角化細胞は基本小嚢の新生のために供給される。角化細胞とメラニン細胞を乳頭培養に同時に提供することは本発明のまた別の好ましい実施態様である。メラニン細胞の添加は、毛の色素沈着の研究に、又は将来の所望の毛色の移植のために特に有用である。他の別個に増殖させた細胞成分を、デノボ乳頭の作製方法に関して下記に記載する非接着性細胞培養容器(例えば超低付着性培養容器、前記容器に新生乳頭が既に作製されてある)に添加することができる。角化細胞又は角化細胞とメラニン細胞との混合物が特定の混合比で被覆細胞に添加され、非接着性容器で数日間適切な培地を用いてインキュベートされる。KC対MCの好ましい比は2:1、5:1、10:1又は20:1である。同時培養は少なくとも12時間、好ましくは1日から5週間、より好ましくは2日から3週間、もっとも好ましくは1週間又は実質的に2日間続く。多層の新生嚢胞を作り出すために(多層新生嚢胞は毛嚢の構造及び機能によりいっそう類似する)、生じた真性嚢胞を12時間から10日から選択した所定の期間、好ましくは1から5日、もっとも好ましくは実質的に2日間、CTSFで被覆することによって多層新生嚢胞を得ることができる。これらの条件下では、細胞混合物は嚢胞構造物に成長して、毛嚢に典型的な特徴、例えば毛幹の発生を生じる。前記器官類似構造物は毛幹類似物がその上に形成されることにより小嚢と称される。
【0010】
毛小嚢を作製する本発明の方法の好ましい実施態様では、
(a)デノボ乳頭を提供し、
(b)デノボ乳頭をKC、MC又は予め決定した比を有するKC及びMCの混合物と接触させ、更に非接着性容器で予め決定した期間同時培養し、
(b’)場合によって工程(b)を繰り返し、好ましくは1回目に用いたものと異なる細胞タイプの細胞を接触及び同時培養に用い、
(c)場合によって工程(b)又は(b’)の被覆されたデノボ乳頭を、工程(d)の前及び/又は工程(d)と同時に細胞外マトリックスタンパク質(好ましくはコラーゲンIV)で被覆してもよく、
(d)工程(b)、(b’)又は(c)の被覆されたデノボ乳頭を、非接着性培養容器で予め決定した期間CTSFと同時培養する。
本発明はまた、以下の工程を含むデノボ乳頭の作製方法を提供することを目的とする。
(a)少なくとも1つの哺乳動物の毛嚢に由来する少なくとも1つの真皮乳頭(DP)を提供する工程、
(b)DPを細胞培養容器の表面に機械的に固定し、それにより基底板に穴を開けて真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)を流出させることによって、前記DPから前記DPFを単離する工程、
(c)コラーゲンコーティング無しに単離DPFを単層培養で増殖させ、前記DPFを少なくとも1回継代する工程、
(d)増殖DPFを凝縮させて生理学的DPのサイズ及び形状を示す細胞凝集物にし、前記DPFを1.000から100.000DPF/cm2の培養容器表面当りの細胞濃度にて非接着性培養容器中で分化させ、前記増殖DPFを少なくとも48時間凝縮させる工程、
(e)前記デノボ乳頭を細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンで被覆する工程。
【0011】
本発明はまた、以下の工程を含むデノボ乳頭の作製方法を提供することを目的とする。
(a)少なくとも1つの真皮乳頭(DP)を少なくとも1つの哺乳動物の毛嚢から提供する工程、
(b)DPを細胞培養容器の表面に機械的に固定し、それにより基底板に穴を開けて真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)を流出させることによって、前記DPからを前記DPF単離する工程、
(c)コラーゲンコーティング無しに単離DPFを単層培養で増殖させ、前記DPFを少なくとも1回継代する工程、
(d)増殖DPFを凝縮させて生理学的DPのサイズ及び形状を示す細胞凝集物にし、前記DPF1.000から100.000DPF/cm2の培養容器表面当りの細胞濃度で非接着性培養容器中で分化させ、前記増殖DPFを少なくとも48時間凝縮させる工程、
(e)場合によって、前記デノボ乳頭を細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンで被覆する工程。
従来技術の毛の成長誘導におけるこれら細胞の使用の制限因子となるのは特に単離DPFの増殖及び生理学的な投与の形態である。必要量の細胞に到達するために数回の増殖サイクルを要し、その過程のあいだ細胞は単層培養として培養され、特に真皮乳頭線維芽細胞の培養はそれらの誘導能力を喪失させ、即ち、経験によって示されるとおり5−8週間後に誘導能力を喪失させる。このように処理された細胞は脱分化し幹細胞マーカーを発現するが、もはや毛嚢を生じさせるために用いることはできない。
【0012】
驚くべきことに本発明の固有の培養条件下で数日から数週間後に、細胞が分化及び安定化レベルに到達するか、又は毛の成長を誘導するそれらの能力を取り戻すことを本発明者らは提示した。この場合、細胞培養に続いて増殖したDPFは、厳密に規定した濃度で特殊な非接着性培養容器に移される。驚くべきことに、誘導性特性の再獲得に加えて、活発な細胞間接着及びシグナリング物質の交換の結果として、その後細胞は細胞凝集物を形成し更に分化することが見出された。これらの固有の条件下で、このように処理された細胞は、単離後の毛嚢内の真皮乳頭の生理学的形状に近似する形状及びサイズに凝縮する。この作用を得るために、使用される細胞対培養容器表面比は決定的な重要性を有する。
工程(a)の前に、毛嚢を患者又はドナーである哺乳動物から採取する。サンプルは特にヒト、げっ歯類、ブタ、イヌ、サル、ヒツジ、ネコ又はイヌ、好ましくはヒトから採集する。組織サンプルは皮膚生検によって採集すること、特に罹患場所の近くから採取することが本質的に好ましい。本発明では、毛嚢サンプルは、好ましくは頭髪、あごひげ、眉毛、陰毛又は他の体毛から回収される。毛嚢の回収は推奨医療実施要領(good medical practice)にしたがう。サンプルを精製して障害物質を除去することができる。
【0013】
工程(a)の毛嚢由来DPの提供及びDPFの単離は、以前の標準的プロトコルから新しく開発した形態で進められる。皮膚生検の小片を用い、表皮を下層の真皮及び脂肪組織から例えば外科用メスを用いて切り取る。脂肪組織を例えば毛抜きを用いてわずかに圧迫して、それによりその中に存在する毛球が解剖用顕微鏡下で容易に調製される。そのようにして単離した毛嚢を例えば再び毛抜きを用いて毛幹上で固定し、結合組織鞘を例えば別の毛抜きを用いて注意深く長軸に沿って分離し、それによって毛球を反転させてDPF及び毛母基を含む毛幹を露出させる。このようにして、毛球の近位部分(結合組織鞘線維芽細胞と一緒に)及び真皮乳頭が毛嚢の残りの部分から、例えば針又はカニューレを用いて容易に分離される。更にまた毛幹(同様に必要とされる毛母基角化細胞及びメラニン細胞を含む)が更なる培養のために最適に調製される。
その後工程(b)で単離した真皮乳頭を細胞培養容器に移し、容器の表面に機械的に固定する。好ましくは、単離した真皮乳頭を酵素的分離に付すのではなくそれらをピンの先端又は外科用メスを用いて培養容器の底に機械的に固定することによってDPFを入手する。培養容器当り1から8DPをインキュベートするのが好ましい。特に2から4DPが例えば6ウェル又は12ウェルの細胞培養プレートの各ウェルに移され、プレートの底に固定される。結果として、基底板に小さな穴が開くが、乳頭の形態はほぼ維持され、DPFが真皮乳頭から遊走し増殖する。
【0014】
工程(c)のDPFの培養は、標準的培養液にてコラーゲンコーティング無しで実施される。前記標準的培養液は、削減量のウシ胎児血清(例えば通常の20%FCSに対して10%)及び更に別に補充した抗生物質(例えば1xペニシリン/ストレプトマイシン)を含む。単離の後、第1回目の培養液交換はもっとも早くて1週間後、もっとも遅くて2週間後に実施される。細胞がDPから出て増殖したら、培養液を細胞密度に応じて週に1回から2回交換することができる。細胞が70−80%のコンフルエンシーに達したとき、細胞を例えばトリプシン/EDTAを用いて室温でプレートの底から剥がし、他の培養容器(例えばT25細胞培養フラスコ)に継代する。培養過程で、細胞を更に増やして直接実験に使用するか、又は更なる使用のために液体窒素中で凍結することができる。継代数には制限がなく生命活性があるならば任意の高密度に増殖させることができるが、前記DPFは少なくとも2回、より好ましくは少なくとも5回、もっとも好ましくは9回未満継代するのが好ましい。高処理方法のためには、8継代が好ましい。本発明の別の好ましい実施態様では、本方法は非誘導性DPFを凝縮させることによって実施される。誘導性特性を欠くDPFもなお組織の操作に用いることができるということは予期せぬ発見であった。
【0015】
次に続くことは工程(d)の凝縮相であり、ここでは、分離し倍増させたDPFが厳密に規定した成分を含む培養液(すなわち標準的培養液)を用いて非接着性培養容器で培養される。この系では、特殊な容器表面又は容器表面(特に底面)の特殊なコーティングが細胞の付着を低下させるか、又は細胞の表面への付着を阻止さえする。好ましくは、非接着性培養容器はガラス、ポリスチロールで製造されるか、及び/又は表面が抗接着層で処理される。より好ましくは、PTFE-又はポリペプチドHEMA-被覆表面が容器に適用される。超低付着性培養容器の使用が本発明では特に好ましく、前記は例えばコーニング社(Corning, Inc., USA)によって販売されている。そのような非接着性容器及びコーティングは当業者には公知であり、容易に購入又は製造することができる。
自由な接触の結果として、数日後に細胞は一定のサイズに凝集して、サイズ及び形状が本来の乳頭に類似する凝集物を形成する。増やしたDPFを好ましくは少なくとも48時間、2から5日間、より好ましくは2から3日間、もっとも好ましくは実質的に2日間、凝縮させ、場合によって更に3から15日間、好ましくは5から10日間、又は2から21日間培養する。形成される凝縮物のサイズ及び形状は皮膚生検が取り出された領域に左右される。DPF(あごひげ、体毛、眉毛、陰毛、又は頭髪から取り出し、増やされる)は種々のサイズの凝集物を形成し、この凝集物は順次それぞれの毛の形状、サイズ及び長さを決定する。更に重要なことは容器に接種される最初の細胞数であり、前記は容器表面に対して相応な比率でなければならない。本方法の別の実施態様では、工程(d)の容器表面当りの細胞濃度は、2.000から50.000DPF/cm2、好ましくは3.000から20.000DPF/cm2、より好ましくは5.000から10.000DPF/cm2、もっとも好ましくは実質的に6.666DPF/cm2である。
【0016】
この段階で自家形成マトリックスが凝縮物の周囲に既に形成されている。このプロセスを加速し、それに対する影響を標的誘導的態様で示すために、生理学的マトリックス成分をこの時点で培養液に添加し、真皮乳頭の特性を模倣する包を形成する。後続プロセスの工程(e)では、上記のようにして得たデノボ乳頭は細胞外マトリックスタンパク質の組成物で被覆される。この組成物は生理学的組成物を模倣するように作製される。前記はコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンから成り得る。前記細胞外マトリックスタンパク質は、単位重量当り2−6:0.5−2:0.5−2部の割り当て、もっとも好ましくは単位重量当り実質的に4:1:1.15部の比を有するコラーゲンIV、フィブロネクチン及びラミニンの混合物であることが特に好ましい。しかしながら、上述の細胞外マトリックスタンパク質をそれぞれ個々に、又は異なる体積比率で、又は他のマトリックスと一緒に用いることもまた排除されない。本発明の別の実施態様では、前記細胞外マトリックスタンパク質は更に別に、他のコラーゲン(例えば1、10A1、18A1)、グリコサミノグリカン及び/又はプロテオグリカン、好ましくは硫酸ヘパラン、デコリン、硫酸ケラタン、バイグリカン、アグレカン、ヴェルシカン、パーレカン、CD44v3、及び/又はシンデカンを含む。繰り返せば、新生乳頭のそのような被覆は接着性が極めて低い細胞培養容器(例えば超低付着性細胞培養容器)で実施される。前記被覆は1から5日間、好ましくは1から2日間実施される。
【0017】
本発明はまたデノボ乳頭及び本発明の方法によって入手される毛嚢に関する。本明細書で新生乳頭及び小嚢のそれぞれの作製方法に関して先に開示した事柄は、適切な場合には、本作製方法による製品に限定することなく有効であり応用可能であると考えられる。
本発明のデノボ乳頭及び/又は毛嚢はともに皮膚等価物の作製に用いることができる。好ましくは、皮膚等価物は例えばマトリダーム(Matriderm; Dr. Suwelack Skin & Health Care AG)を用い標準的な方法にしたがって構築され、小嚢の挿入部位には、2-光子レーザーを用いて規則的な間隔で切れ目をつけるか、又はパンチで予め穴を開ける。結果として、本発明のデノボ乳頭及び/又は毛嚢を含む皮膚等価物は本発明のまた別の目的である。再構築真皮乳頭の他に、前記皮膚等価物は1層以上の角化細胞(前記は表皮性構造物又は真皮周囲構造物中にそれら自体を形成することができる)及び場合によって1層以上のメラニン細胞(前記は真皮乳頭構造物を覆うことができる)を含む。
本発明のデノボ乳頭及び/又は毛嚢はまた移植片として用いることができる。したがって、本発明の更に別の目的は、本発明のデノボ乳頭及び/又は本発明の毛嚢を、場合によって医薬的に許容できるアジュバントと一緒に含む移植片である。
同様に、本発明の皮膚等価物はトランスプラントとして用いることができる。活性な成分として本発明の皮膚等価物の有効量を、場合によって医薬的に許容できるアジュバントと一緒に含むトランスプラントを提供することは、本発明の更に別の目的である。
【0018】
“有効量” という用語は、疾患又は病的状態に対して予防又は治療に相当する効果を有するそれぞれ移植物又はトランスプラントの量を意味する。予防的効果は、発症を防止するか、又は病原体による感染さえも防止し、ただ1回の対応物の浸潤後にその後の病原体の増殖を厳密に低下させるか又は完全に不活化することさえも可能である。治療に相当する効果は、1つ以上の症状をある程度緩和するか、又は疾患もしくは症状に付随するか又はその原因となる1つ以上の生理学的又は生化学的パラメータを部分的又は完全に正常に復帰させる。移植片又はトランスプラントのそれぞれに対応する量は、毛量の減少という症状を緩和する所望の予防的又は治療的効果を達成するために十分に多い量である。個々のいずれの哺乳動物に対しても、それぞれの用量レベル、頻度及び投与期間は種々の因子に左右されることは理解されよう。前記種々の因子には、使用される個々の成分の活性、年齢、体重、一般的健康状態、性別、投与期間、投与経路、薬剤の併用及び個々の治療法の負担度が含まれる。周知の手段及び方法を用いて、当業者は日常的検査として正確な量を決定することができる。
【0019】
本発明の移植片又はトランスプラントは、一般的な固体又は液体担体、希釈物及び/又は添加物並びに医薬的操作のための通常的アジュバントを用い公知の態様で、更に意図する適用態様にしたがって適切な量を用いて作製される。これらの医薬的に許容できる賦形剤には塩類、緩衝液、充填剤、キレート物質、抗酸化剤、溶媒、結合剤、減摩剤、コーティング、添加剤、保存料及び分散剤が含まれる。本発明の目的では、“アジュバント”は、一緒に、同時期に又は連続して投与した場合に移植又はトランスプラントの結果としての個々の身体応答を可能にし、強化し又は改変する全ての物質を意味する。活性成分と混合して1回分の投薬形を作製する賦形剤の量は、処置される宿主及び個々の投与態様にしたがって変動する。
導入の態様に応じて、移植片又はトランスプラントはそれぞれ多様な態様で処方することができる。処方物中の治療的に活性な成分の濃度は約0.1から100wt%で変動し得る。それらは単独で投与しても又は他の処置と併用してもよい。
【0020】
本発明はまた、毛量が減少する症状の予防的又は治療的処置のための本発明のデノボ乳頭、毛嚢及び/又は皮膚等価物を開示する。本発明の方法による前述の製品は好ましくは治療的処置に用いられる。治療に相当する効果は、毛量減少の1つ以上の症状をある程度緩和するか、又は病的状態に付随するかもしくは前記の原因となる1つ以上の生理学的又は生化学的パラメータを部分的又は完全に正常に復帰させる。モニタリングは一種の治療と考えられるが、ただし、本発明の方法による製品が、明確な間隔で、例えば増殖応答を更に押し上げ当該症状の徴候を完全に消し去るために投与されることを条件とする。同一の製品又は異なる製品を用いることができる。本発明の目的では、予防的処置が、対象者が毛量減少の開始について何らかの必須条件(例えば家族的傾向、遺伝的欠陥又は以前に罹患した疾患)を保有する場合に所望される。
本発明に関係する毛量減少という病的状態は、脱毛症(例えば男性ホルモン性脱毛症、円形脱毛症など)、遺伝性禿頭、瘢痕、火傷、放射線療法、化学療法、疾患関連脱毛、事故による損傷、毛嚢の損傷、外科手術跡、切開創、又は皮膚移植に起因するドナー部位創の結果であり得る。
本発明はまた、毛量減少症状の予防的又は治療的処置のために移植片又はトランスプラントをそれぞれ作製するために、本発明のデノボ乳頭、毛小嚢及び/又は皮膚等価物を使用することに関する。前記移植片及びトランスプラントは、哺乳動物(好ましくはヒトの個体)の脱毛の開始及びその結果生じる問題を前もって防止するために、又は生じた症状及び持続症状を治療するために投与することができる。
【0021】
毛量減少症状を治療する方法を提供することは本発明のまた別の目的である。本方法では、本発明のデノボ乳頭、毛嚢及び/又は皮膚等価物が、そのような治療を必要とする哺乳動物の皮膚に取り入れられる。小器官様嚢胞、特に自己由来/アロジェニックヒト毛嚢前駆体が毛の増殖を誘導する目的で移植に用いられ、一方、皮膚代替物は皮膚(好ましくは頭皮)の再生に用いられる。小器官様嚢胞は、罹患皮膚領域の以前に脱毛した縮小化毛嚢(峡)に取り込まれる。好ましくは、デノボ乳頭及び毛小嚢は注射され、より好ましくは特別に構築されたサイズが約150μmの装置によって注射される。全ての成分が自己由来の態様で用いられ、GLP/GMP条件下で治療されることがまた好ましい。新生乳頭、毛小嚢又は毛嚢区画が、本明細書の中で既に述べたように、例えば遺伝性禿頭、瘢痕(火傷)、疾患関連脱毛、化学療法/放射線照射誘発性脱毛などの症例で毛の新規な増殖発生を刺激する。長期の生存活性を有する毛嚢への小嚢の成熟は、ミクロ生育環境(すなわち永続的遠位毛嚢)によって促進される。
【0022】
本発明はまた、毛に対して調整作用を示す物質についての直接的な薬理学及び化粧品インビトロ試験のために上述の製品を使用することに関する。前記毛の調整作用は、特に毛の増殖、毛の形状、毛の構造、毛色及び毛の色素沈着の群から選択される。毛の増殖を調整する作用(毛の消失の事例(例えば脱毛症によって生じる)では毛の増殖を促進する意図を有する)とともに過剰で所望されない毛の増殖事例(例えば多毛症及び/又は女性多毛症、又は女性における髭の成長、又は望ましくない体毛によってもたらされる)での毛の増殖を抑制する作用を分析することが好ましい。特に、高処理方法の使用は、製薬工業及び化粧品工業で既存の物質又は新規な物質を潜在的な毛の増殖を調整する作用について効率的に試験することを可能にする。前記物質には、薬剤、化粧剤、化合物、ポリマー化合物、増殖因子、細胞生成物、生細胞及び/又は生物分子が含まれる。更にまた、メラニン細胞(すなわち色素形成細胞)を小嚢に添加したときに、形成された毛幹の色素沈着及び/又は着色に対する物質の作用を研究することができる。同様に、毛の形状及び毛の構造に対する物質の作用(例えばカールの形成など)を試験することができる。
【0023】
以下の終末点は、毛の構造の改善及び毛の増殖への影響に関する物質の有効性における情報を得るために評価又は測定することができる:毛幹形成の分析、毛幹の成長の長さ及び特徴、毛列の分析、真皮乳頭の体積及び構造、分裂測定(例えばKi67発現、BrdUの取り込みなど)、アポトーシスの測定(例えばTUNEL、酵素アッセイ、アネキシン測定など)、種々のマーカーの分析(例えば免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、RT-PCRなど)、DPFマーカーとしてのアルカリ性ホスファターゼの測定、ある種の毛特異的タンパク質(例えば毛特異的ケラチンなど)の分析、サイトカイン、増殖因子、ケモカイン及びとりわけ真皮乳頭によって形成されるメッセンジャー物質の全ての種類の分析(例えばBioPlex、ELISAなどによる)、及び/又はプロテオーム、又はマトリックスタンパク質、増殖因子(例えばMSP、HGF、CTGFなど)、転写因子、wnt経路の分子(例えばDKK1、BMP2-4など)、インターロイキン(例えばIL-6など)及び/又はケモカイン/ケモカインレセプター(例えばCXCRなど)(前記は外観の強化を示す)の発現解析とともに、アポトーシス誘導分子及び/又は増殖刺激分子(前記は外観の劣化を示す)。毛の色素沈着に対する影響は、メラニン細胞の配置/遊走、メラニン顆粒の形成/分布、及びチロシナーゼ活性によって、及び/又はメラニン合成に必要とされる遺伝子発現の一連の解析によって測定することができる。本明細書を熟読するとき、当業者には本発明の他の実施態様、改変及び変型は極めて明白であり、本発明の範囲から外れることなく実行に移すことができよう。
【0024】
更にまた、本発明のデノボ乳頭又は小嚢は別々に用いることができるが、医薬、薬剤及び化粧品(beauty culture)中の物質の薬理学的及び毒物学的インビトロ検査のために、毛嚢を有する皮膚等価物の作製に関連して用いてもよい。そのような使用(例えば高処理方法として実施される)は、製薬工業、化学工業及び化粧品工業にとって、それらの物質及び製品の毒性作用についての検査が義務付けられている場合は特に重要である。新法の指示では、以前の動物試験を適切なインビトロ試験方法によって置き換えることが要求されている。したがって、炎症、遺伝的毒性作用などを含む毒性試験用の理想的なスクリーニング系として、小嚢それ自体を(完全な小嚢を有する人工皮膚代替系もまた)用いることができる。本発明のモデルは複雑な生理学的プロセスの解析を可能にするので、本発明のモデル構造物は、動物試験とともに従来利用可能であったより不適切な代替インビトロモデルと完全に置き換えることができる。そのような試験は、本発明のモデル構造物を対象の物質にバイオリアクター内で暴露することによって実施することができる。物質に特異的なインキュベーション時間(具体的には3分から4時間の間である)の後で、前記モデルを培養液で洗浄し、続いて本明細書の先の部分で例示的に記載した適切なアッセイで分析する。
【0025】
本発明は更に別に毛の特性を調整する物質をスクリーニングする方法を開示し、前記方法は、本発明のデノボ乳頭、毛小嚢及び/又は皮膚等価物のサンプルを提供する工程、対応するサンプルを複数の部分に分割する工程、少なくとも1つの部分をスクリーニングされるべき物質とインキュベートする工程、及び前記部分における毛の特性パラメータを前記物質とインキュベートされなかった別の部分と比較する工程を含む。略記すれば、本発明の方法は、本発明のモデル構造物を介して、毛に対する作用を有する物質の識別及び分析を可能にする。一定数の本発明の対象製品を含むと考えられるサンプルを複数の部分に分割する。少なくとも2つのサブセットを提供し、一方をスクリーニングに用い、他方を陰性コントロールとして供する。好ましくは、スクリーニング部分の数はコントロール部分の数を超える。通常は多数の部分が高処理スクリーニングに付される。本発明の方法でスクリーニングされるべき物質にはまったく制限がない。本発明の実施態様では、前記物質は、核酸(RNAiを含む)、リボザイム、アプタマー、抗体、ペプチド、炭水化物、ポリマー、分子量が50から1,000Daの間の小分子、及びタンパク質の群から選択され、好ましくは抗体、サイトカイン及びリポカリンである。これらの物質はしばしばライブラリーで入手可能である。サンプルのそれぞれ別個の部分内でただ1種の化合物をインキュベートするのが好ましい。しかしながら、1つの部分内で少なくとも2つの物質をインキュベートすることによって、複数の物質の相乗作用を調べることもまた可能である。対象製品の更に別のサブセットを物質の非存在下で同時にインキュベートする。インキュベーションプロセスは、多様なパラメータ(例えば細胞タイプ及び検出感度)に左右され、その最適化は当業者に公知の日常的方法にしたがう。本発明の目的で有効な物質の認定は間接的に実施され、好ましくは発現パターン及び/又は細胞生存率(変化する)を決定することによって実施される。決定は指定時点で実施され、この時点は実験の開始時及び陰性コントロールのシグナル強度と相関関係を有する。
【0026】
更にまた本発明は、特に本発明の毛量減少症状の治療又は物質のスクリーニングの方法をそれぞれ実施するためのキットとして実施することができ、前記キットは、本発明のデノボ乳頭、毛小嚢、皮膚等価物、移植片及び/又はトランスプラントを含む。本発明のキットは、本発明の方法の実施の仕方についての文書指示を含むか又は使用者を前記文書指示に誘導する物品を含むことができる。更なる詳細については、本発明の治療方法とともにスクリーニング方法に関する上述の情報を参照することができる(前記情報はまた本発明のキットにも適用することができる)。
本発明の範囲で、デノボ乳頭及び毛小嚢を作製する方法が初めて提供される。前記方法は、三次元培養及び一定比率の細胞濃度対容器表面という手段による、増殖DPFの生理学的細胞凝集物への凝縮を利用する。毛幹を生じる小嚢の形成から、更に遺伝子及びタンパク質発現の解析という手段によって分るように、DPFは特異的な凝縮後にそれらの本来の誘導性特性を取り戻す。細胞のこの誘導性特性は本方法の過程で再び確立され得るので、細胞を増やすための継代数は重要ではない。したがって、非接着性培養容器での三次元的培養を用いるときは、一定で多数の出発細胞を用い、更に再現性のある態様で培養液の制御的供給を実施することが有利である。一般的な分化実験のための他の三次元培養(例えばミクロマス、ペレット培養又は懸垂ドロップ法)と比較して、本発明の培養系の細胞は細胞間接着を強いられることはないが、個々の結合が可能で細胞凝集物を形成し、DPFの場合には乳頭様凝縮物を形成する。
【0027】
作製方法で規定したデノボ乳頭、毛小嚢及び皮膚等価物の提供によって、毛量減少症状の予防的又は治療的処置用のそれぞれ移植片又はトランスプラントが得られる。本発明のこの製品は多数の利点を有する。本毛嚢等価物及び皮膚代替物の両方が単離毛嚢よりも更に標準化しやすい。それらは毛嚢に対する要求が低く、更にいずれの従来モデルよりもインビボの状態に近い。本発明の複雑な三次元モデルはその構造及び組織学的組成においてインビボ毛嚢を模倣し、活性物質の有効性及び適合性について提供される情報に高レベルの相関性をもたらす。本発明の全ての製品は更に高安定性、低製造コスト、取り扱いの容易さという特徴を有し、更にいつでも入手できる。これらの特徴は、標準化プロトコルにおける再現性のある作業のため、更にそれら製品と適合するエフェクター分子との信頼性があり安全な相互作用のための基本を構成する。それらを使用することは、直接的で急速な症状の緩和をもたらす広範囲の治療法の有望で新規な解決方法である。
【0028】
本発明の製品は、医学、製薬及び化粧品分野での多様な応用に、例えば化粧品の開発のため、又は毛の色素沈着、毛の増殖、毛の構造などに影響を与えることによって毛嚢に対して生物学的作用を有する活性物質の発見のために適切である。そのような応用は、インビトロ試験系又はスクリーニングプロセスで実施することができ、それによって毛嚢細胞に対する物質のインビボでの対応作用に関する情報が提供される。本発明の製品のいずれも、毛の増殖促進又は増殖抑制のための活性物質又は活性物質の組成物を識別するために高処理プロセスに適したスクリーニング方法で、更に物質及び化学製品の毒性試験で用いることができる。本発明の作製方法とともに本発明の新しいスクリーニング方法も単純で迅速な態様で実施することができる。更にまた、適切なキットが良好な経費効率で製造される。
【0029】
本発明は、本明細書に記載の個々の方法、製品、キット又は使用はもちろんのこと多様であるので、本明細書に記載のものに限定されないことは理解されよう。更にまた、本明細書で用いられる用語は個々の実施態様を記載することを目的とし、本発明の範囲を制限しようとするものではないことも理解されよう(本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ規定される)。本明細書(添付の特許請求の範囲を含む)で用いられるように、単語の単数形(例えば“a”、“an”及び“the”)は、文脈が明瞭にそうでないことを示していないかぎりそれらの対応する複数形を含む。したがって、例えば“1つの容器”というとき、1つ又は2つ以上の容器が含まれ、前記容器は同一又は異なるサイズ、形状又は組成であり、更に“1つの方法”というとき、当業者に公知の等価の工程及び方法が含まれ、以下同様である。特段の規定がなければ、本明細書で用いられる全ての技術用語及び学術用語は、本発明が属する分野の業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。
本明細書に記載の方法及び材料と類似するか又はそれらと等価の方法及び材料を本発明の実施又は試験で用いることができるが、適切な実施例が下記に記載されている。下記の実施例は制限のためではなく例示として提供される。実施例では、夾雑活性を含まない標準的な試薬及び緩衝液が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】A)リフティング手術から採取したドナー皮膚のパンチ生検である。点線は、更なる毛嚢単離のために真皮皮下境界の切断線を示す。B)“切断”及び切開した毛嚢(図中拡大図)が新規技術によって分離される。結合組織鞘を毛幹の長軸に沿って真っ直ぐに引っ張り、その結果純粋な毛幹が分離され、前記毛幹は、一方に外毛根鞘及び内毛根鞘の角化細胞及びメラニン細胞を有し、他方に真皮乳頭及び結合組織鞘を有する。C)その線維芽細胞プラス隣接する真皮乳頭を有する切開結合組織鞘。前記は正確に切り出すことができた(図中拡大図)。D)電子顕微鏡で撮影した切開真皮乳頭。E)わずかに傷を付け更に固着させた真皮乳頭から真皮乳頭線維芽細胞の成長を示す。それらの嚢構造はほぼ無傷のままである。F)75cm2の非被覆培養フラスコで3回継代した培養真皮乳頭線維芽細胞である。G)超低付着性75cm2フラスコで真皮乳頭様凝縮物を形成する真皮乳頭線維芽細胞。H)細胞外マトリックスで処理して新生乳頭を形成するばかりになっている、6ウェルの低付着性プレートの真皮乳頭線維芽細胞凝縮物の拡大。
【図2】A)細胞外マトリックスを有する新生乳頭(白矢印)及び周囲の角化細胞(前記はマルチ細胞性凝縮物を形成する超低付着性プレートに添加された)。B)超低付着性培養24時間後における嚢胞構造形成の最初の徴候。C)1週間後の新生嚢胞形成。初期の毛幹形成を明瞭に見ることができる。D)培養1週間後の完全な真皮乳頭構造を示す、DIC光学顕微鏡で撮影した新生嚢胞の形成。E)明瞭な毛嚢様構造を示す、皮膚等価物に挿入された新生嚢胞。図中拡大図は下方に成長する毛嚢を示す。倒立顕微鏡により、嚢胞/皮膚等価物の近位部分が見える。F)毛嚢の明確な固着と持続的成長を示す、皮膚等価物内での新生嚢胞の更なる培養。
【図3】種々の発生及び形成段階中に哺乳動物の毛嚢と異なる供給源に由来するKC及びMCを用いて作製された新生嚢胞を示す。A)ステージ1:メラニン細胞及び角化細胞によって取り巻かれた新生乳頭(外因性細胞外マトリックスタンパク質の添加無し)。メラニン細胞及び角化細胞は、初期マルチ細胞性凝縮物を形成する超低付着性プレートに添加された。B)ステージ2:超低付着性培養24時間後における嚢胞構造形成の最初の徴候(上部の突出部に注目のこと)。付着した細胞は新生乳頭に接着し、扁平な形状を示す。C)ステージ3:毛嚢様の鞘の発達を示す、1週間後の新生嚢胞形成の開始。D)ステージ4:新生嚢胞内に初期毛幹の明瞭な形成が見えるようになる。
【図4】2つの異なる時点における機能的新生乳頭の形成を示す。A)凝縮48時間後;及びB)凝縮7日後;7日目に細胞凝集ははるかに濃密になり、自己由来細胞外マトリックスが見えるようになる。
【0031】
(実施例1)
ヒト嚢胞の真皮乳頭線維芽細胞(DPF)、結合組織鞘線維芽細胞(CTSF)、角化細胞(KC)及びメラニン細胞(MC)の単離及び培養
必要な規制の下で一般に受け入れられているリフティング手術の余剰分に由来するヒト頭皮サンプルを顕微鏡下で切開後に単一毛嚢を入手した。マトリックスKC及びMC、CTSF並びに真皮乳頭線維芽細胞(DPF)を単離するために、皮膚を外科用メスにて真皮皮下境界面で切開し、発育相ステージ(成長期)の毛嚢を解剖用顕微鏡の下でピンセットを用いて引き出した。
以前に記載した単離技術(例えばMargel et al., Methods Exp Dermat, 2002, 11:381-385)とは対照的に、切開毛嚢の上方部分の結合組織を長軸に沿ってスライスすることによって所望の細胞集団の純粋な分画を得た。一方の側に毛幹を固定することによって、CTSを毛のマトリックスに沿って下方の基部部分に向かって長軸方向に引っ張ることができる。この技術によりDP細胞が自動的に露出され、損傷及び細胞タイプの混じり合いが回避される。したがって、KC及びMC細胞を含む毛マトリックスと同様に、CTS及び真皮乳頭を外科用メスで容易に切り離すことができる。
DP及びCTS単離物を、それらを針で6-ウェルの細胞培養プレートに固定することによって、前記培養プレートで別々に培養した(1つのウェルに2−4個)。線維芽細胞の急速な成長を可能にするが同時に包の形態及び線維芽細胞の適切な位置を維持するために、その薄い膜をわずかに引っかいて細胞外マトリックス成分(ECM)をほぐした。線維芽細胞の増殖が観察されるまで(ドナーのバリエーションに応じて1−2週間後)、細胞をDMEM+(Gibco/インビトロgen)プラス10%ウシ胎児血清(FCS)で培養した。続いて細胞を25cm2の培養フラスコに移してもう1週間置き、更に75cm2の培養フラスコに継代した。サブコンフルエンスに達した後、継代3代目を3つの75cm2フラスコに分割しそれぞれ1.5−2百万個のDPF又はCTSFをそれぞれ得た。
KC及びメラニン欠乏毛嚢MCを残余の毛幹及び付着した毛マトリックスからトリプシン消化(0.05%トリプシン及び0.53mM EDTA)によって取り出し、文献(Tobin et al. J Invest Dermatology, 1995, 104(1):86-88)に記載された標準的方法で培養した。
【0032】
(実施例2)
新生乳頭の形成
500.000の最適数のDPFをDMEM+を含む75cm2の超低付着性培養フラスコ(Corning)に播種し、細胞凝集物を形成させた。48時間それらを動かさずに維持した後、これらの凝集物は、相当な大きさの天然のヒト毛嚢真皮乳頭を形成する。続いて凝縮物を6-ウェルの超低付着性プレートに移し、ラミニン(最終濃度11.5μg/mL)、フィブロネクチン(最終濃度10μg/mL)、及びコラーゲンIV(最終濃度40μg/mL)の混合物を前記ウェルに添加した。24−48時間培養後に、固有のECM及び添加タンパク質は安定なマトリックス膜を構築し、新生乳頭が形成された。より迅速なECM蓄積及び分化を促進するために、増殖因子、すなわち肝細胞増殖因子(30ng/mL)及び/又は結合組織増殖因子(20ng/mL)のどちらかを培養液に添加することができる。これらの新生乳頭はただちに皮膚にインビボ移植して毛の誘導特性を発展させることができる。
【0033】
(実施例3)
新生嚢胞の形成
250.000のKC及びMC(10:1)を超低付着性培養フラスコ(6ウェル、Corning)の新生乳頭に添加し、DMEM+培養液を所定の角化細胞無血清培養液(Gibco)に交換した。1週間後、被覆された新生乳頭は毛嚢様構造物を形成する。これらの新生嚢胞は既に試験に用いられた。多層の新生嚢胞(毛嚢の構造及び機能によりいっそう類似する)を得るために、DMEM+ 10%FCSを含む超低付着性プレート中で、作製された新生嚢胞をコラーゲンIV(60μg/mL)及びCTSF(200.000細胞)の混合物で更に2日間被覆し、更に3日目毎に培養液を交換することができる。
【0034】
(実施例4)
新生嚢胞を有する皮膚等価物の作製
小児のヒト包皮線維芽細胞を以前に報告された方法(Toma et al. Stem Cells, 2005, 23:727-37)を用いて単離し、DMEM+ 10%FCSで培養した。250.000の真皮線維芽細胞(DPF又はCTSFも用いたが、包皮線維芽細胞が取り扱いの理由から好ましかった)をフィブリノゲン溶液(Sigma、3mg/mL)と混合し、更に2.0%(v/v)のアプロチニン(20μg/mL)及び2.5%(v/v)のトロンビン1.25U/mLを添加した。前記の冷却溶液をトランスウェル培養チャンバーに気泡を避けながら添加した。温度を2−3分間室温に調節した後、30−40の新生嚢胞を前記溶液に穏やかに導入し、37℃で10分間重合させてゲルを得た。作製したマトリックスをDMEM+培養液に48時間浸漬した。
顔面のリフティング手術又は包皮より入手した皮膚生検から真皮角化細胞を単離した(Barrandon & Green, Proc Natl Acad Sci, 1985, 82:5390-4)。略記すれば、下層の脂肪組織及び真皮を切り離し、残余の表皮をトリプシン/EDTA溶液(PAA)で一晩4℃にて消化した。細胞スクレーパーを用いてKCを採集し、70μmの細胞ろ過器(Becton Dickinson)を通した後で前記をコラーゲンI被覆培養フラスコに播種した。所定の角化細胞無血清培養液(Gibco)を用いて1週間に2回交換し、KCを60−80%コンフルエンシーで継代又は採集した。
KC(250.000)を前記マトリックスの上に添加し、それらを24時間接着させた。所定の角化細胞無血清培養液(Gibco)を交換することによって余分な細胞を取り、トランスウェルチャンバーを気体-液体境界面に持ち上げてKCが分化できるようにした。
更に細胞株(すなわちKCのためにはHaCat及び線維芽細胞のためにはHS27)もまた同様な皮膚モデルの作製について試験した(なぜならば細胞株は培養がより容易であり、ドナーによる変動が少ないからである)。細胞株は5%ウシ胎児血清(FCS、Gibco)補充DMEM+で増殖させた。
【0035】
(実施例5)
哺乳動物の毛嚢に由来しない細胞を含む新生嚢胞の形成
下記に概略するように入手したKC及びMCを用いて、実施例3に記載したように新生嚢胞を調製した。
ヒト包皮角化細胞及び線維芽細胞の細胞培養:ヒト包皮線維芽細胞及び角化細胞を以前に報告された方法(Toma et al. Stem Cells, 2005, 23:727-37)を用い環状切除から単離した。略記すれば、下層の脂肪組織及び真皮を切り離し、残余の表皮をディスパーゼ溶液(4mg/mL、Sigma)で一晩4℃にて消化した。細胞スクレーパーを用いて角化細胞を採集し、70μmの細胞ろ過器(Becton Dickinson)を通した後で培養フラスコに播種する。全ての角化細胞をコラーゲンI被覆細胞培養フラスコ及び所定の角化細胞無血清培養液(Gibco)を用いて増殖させた。培養液を1週間に2回交換し、角化細胞を60−80%コンフルエンシーで継代又は採集した。線維芽細胞はDMEM+ 10%FCSで培養した。
ヒト表皮メラニン細胞の細胞培養:ヒト成人表皮メラニン細胞(CellMadeから購入)から出発し、製造業者のプロトコルにしたがい細胞培養手順を実施した。略記すれば、15mLのメラニン細胞増殖培養液をT75培養フラスコに添加した。バイアルの下半分を37℃の水浴に1分間置くことによって、細胞を迅速に融解させた。メラニン細胞増殖培養液を含むT-75フラスコに細胞を再懸濁した。T-75フラスコを37℃の5%CO2湿潤インキュベーターに置いた。メラニン細胞増殖培養液は2−3日毎に交換した。培養が80%コンフルエンシーに達したときに細胞を継代した。
得られた新生嚢胞を図3に示す。哺乳動物の毛嚢と異なる供給源に由来するKC及びMCを用いて作製した新生嚢胞の種々の発達段階が示されている。ステージ1では、新生乳頭(外因性細胞外マトリックスタンパク質は添加されていない)はメラニン細胞及び角化細胞に取り囲まれている(前記メラニン細胞及び角化細胞は初期マルチ細胞凝縮物を形成する超低付着性プレートに添加された)。結合のゆるい凝集物が形成された。ステージ2では、超低付着性培養で嚢胞構造の形成を示す最初の徴候を認めることができる。付着した細胞は新生乳頭に接着し、扁平な形状を示し、一方、突出が凝縮物の上部に構築された。約1週間後に、新生嚢胞は毛嚢様の鞘を含む形態を発達させ始めた。出来上がった新生嚢胞内には初期毛幹がはっきりと見えるようになる。
【0036】
(実施例5)
Agilent全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ(単色)を用いる、細胞サンプル由来の種々のヒト真皮乳頭の遺伝子発現の解析
1.SuperAmpTM RNA増幅
単離した2つの天然真皮乳頭、1x103の単層培養真皮乳頭線維芽細胞、48時間後の再凝縮真皮乳頭線維芽細胞及び14日後の再凝縮真皮乳頭線維芽細胞を上記に記載したように調製した。SuperAmpTM溶解緩衝液を用いて前記4つのヒト細胞サンプルを溶解した。
表2:サンプルリスト

SuperAmpTM RNA増幅はMiltenyi Biotec’sの手順にしたがって実施した。略記すれば、増幅はmRNA-誘導cDNAを用い包括的PCRプロトコルにしたがう。mRNAは磁性ビーズ技術により単離した。増幅cDNAサンプルはND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies)を用いて定量した。
表3:cDNA収量の要旨

cDNAの完全性はAgilent2100バイオアナライザープラットフォーム(Agilent Technologies)により確かめた。バイオアナライザー操作の結果はAgilent 2100バイオアナライザーエキスパートソフトを用いゲル画像及び電気泳動図により解析した。大量に増幅されたcDNA生成物の平均長は200−1,000bpの範囲であった。
2.Agilent全ゲノムオリゴマイクロアレイのハイブリダイゼーション
cDNAの各々250ngをCy3標識のための鋳型として用いた(Cys標識はMiltenyi Biotec’sのプロトコルにしたがって実施した)。Cy3-標識cDNAをAgilent全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ4x44k(表4)とAgilentが推奨するハイブリダイゼーションチャンバー及びオーブンを用い一晩ハイブリダイズした(65℃、17時間)。
表4:ハイブリダイゼーションスケジュール

最後に、0.005%のN-ラウリルサルコシンを含む6xのSSPE緩衝液で前記マイクロアレイを1分間1回室温で洗浄し、続いて0.005%のN-ラウリルサルコシンを含み予め加温した0.06xのSSPE緩衝液で2回目の洗浄を1分間(37℃)実施した。最後の洗浄工程はアセトニトリルを用い30秒間実施した。
3.スキャンニング結果
ハイブリダイズさせたAgilentマイクロアレイの蛍光シグナルはAgilentのマイクロアレイスキャナーシステム(Agilent Technologies)を用いて検出した。
4.画像及びデータ解析
Agilentの特徴抽出ソフト(Feature Extraction Software(FES))を用いてマイクロアレイの画像ファイルを読み出して処理した。このソフトは、特徴の強度を決定し(バックグラウンドを差し引くことも含む)、範囲外の特徴を拒絶し、更に統計的信頼度を計算する。弁別的遺伝子発現を決定するために、FES誘導出力データをRosetta Resolver(商標)遺伝子発現データ解析システム(Rosetta Biosoftware)を用いて更に解析した。このソフトは、とりわけ比率実験における2つの単一強度プロフィルを比較する実行可能手段を提供する。ここでは全サンプルをCy3で標識し、前記比率実験はコントロール対サンプル実験(Resolver(商標)システムの自動化データ出力)と称される。この比率は常にコントロールのシグナル強度によりサンプルのシグナル強度を割ることによって計算される。
5.遺伝子リスト、単実験未加工データリスト、単実験標準化データリスト、遺伝子比率リスト/前選択候補遺伝子リスト
Agilentの特徴抽出ソフトの出力データは、完全な未加工データセット(単実験未加工データリストと称される)を含む遺伝子リストを含む。更にまた、単実験未加工データリストのシグナル強度は強度値をそれらの中央値で割ることによって標準化される。これらの標準化シグナル強度は共通表の単実験標準化リストに加えられる。このリストは、標準化強度値に加えて、特徴glsPosAndSignifを含み、前記は、値が1のときシグナル強度は正であってバックグラウンドを超えて有意であり、値が0のときシグナル強度は正ではなくバックグラウンドを超えて有意であることを示す。Resolver(商標)ソフトは、標準化サンプル/コントロールlog10比率及び何倍変化、配列の詳細、p-値などを含む遺伝子リスト((全遺伝子の)遺伝子比率リストと称される)の出力を可能にする。例えば、遺伝子比率リストの“-10倍変化”はしたがってサンプルと比較してコントロールで10倍高い遺伝子発現を示す。2倍を超える変化及び0.01未満のp-値を有する推定候補遺伝子は、前選択候補遺伝子リストで要約される。弁別的に発現される遺伝子のいくつかを含むそのようなリストの抽出は表5に示されている。
【0037】

【0038】
表5から推定できることは、三次元における配置及び組織の形成に必要とされる遺伝子の発現レベルは、培養時間が長くなるにつれて天然の真皮乳頭の線維芽細胞で観察される発現レベルに近づくということである。
【0039】
表1:DMEM+-ダルベッコー改変イーグル培養液の組成(Gibco)

【0040】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の毛小嚢を作製する方法であって、以下の工程、
(a)少なくとも1つのデノボ乳頭を提供する工程、
(b)線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される少なくとも1つの他の細胞集団を提供する工程、及び
(c)前記デノボ乳頭を前記少なくとも1つの他の細胞集団と一緒に非接着性培養条件下で同時培養する工程、
を含むことを特徴とする、哺乳動物の毛小嚢を作製する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの他の細胞集団が、哺乳動物の毛嚢から誘導することができるか及び/又は哺乳動物の毛嚢に由来し、結合組織鞘線維芽細胞、角化細胞及び/又はメラニン細胞の群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)のデノボ乳頭が、細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンで被覆される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
デノボ乳頭が、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法にしたがって作製される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって作製される毛小嚢。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で使用することができるデノボ乳頭を作製する方法であって、以下の工程、
(a)少なくとも1つの哺乳動物毛嚢に由来する少なくとも1つの真皮乳頭(DP)を提供する工程、
(b)DPを細胞培養容器の表面に機械的に固定し、それにより基底板に穴を開けて真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)を流出させることによって、前記DPから前記DPFを単離する工程、
(c)単離したDPFをコラーゲンのコーティング無しに単層培養で増やし、前記DPFを少なくとも1回継代する工程、
(d)増やしたDPFを凝縮させて生理学的DPのサイズ及び形状を示す細胞凝集物にし、前記DPFを1.000〜100.000DPF/cm2の培養容器表面当りの細胞濃度にて非接着性培養容器で分化させる工程、及び
(e)デノボ乳頭を細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンで被覆する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で使用することができるデノボ乳頭を作製する方法であって、以下の工程、
(a)少なくとも1つの哺乳動物毛嚢に由来する少なくとも1つの真皮乳頭(DP)を提供する工程、
(b)DPを細胞培養容器の表面に機械的に固定し、それにより基底板に穴を開けて真皮性毛乳頭線維芽細胞(DPF)を流出させることによって、前記DPから前記DPFを単離する工程、
(c)単離したDPFをコラーゲンのコーティング無しに単層培養で増やし、前記DPFを少なくとも1回継代する工程、
(d)増やしたDPFを凝縮させて生理学的DPのサイズ及び形状を示す細胞凝集物にし、前記DPFを1.000〜100.000DPF/cm2の培養容器表面当りの細胞濃度にて非接着性培養容器で分化させ、かつ増やしたDPFを少なくとも48時間凝縮させる工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
増やしたDPFを2〜21日又は3〜15日凝縮させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法であって、更に以下の工程、
(e)デノボ乳頭を細胞外マトリックスタンパク質、好ましくはコラーゲンIV、フィブロネクチン及び/又はラミニンで被覆する工程、
を含む方法。
【請求項10】
工程(d)で非誘導性DPFを凝縮させる、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法によって作製されたデノボ乳頭。
【請求項12】
請求項5に記載の毛小嚢又は請求項11に記載のデノボ乳頭を含むことを特徴とする皮膚等価物。
【請求項13】
活性成分として請求項5に記載の毛小嚢及び/又は請求項11に記載のデノボ乳頭を、場合によって医薬的に許容できるアジュバントとともに含むことを特徴とする移植片。
【請求項14】
活性成分として請求項12に記載の皮膚等価物を、場合によって医薬的に許容できるアジュバントとともに含むことを特徴とするトランスプラント。
【請求項15】
毛量減少症状の予防的又は治療的処置のための請求項5に記載の毛小嚢、請求項11に記載のデノボ乳頭及び/又は請求項12に記載の皮膚等価物。
【請求項16】
請求項5に記載の毛小嚢、請求項11に記載のデノボ乳頭、請求項12に記載の皮膚等価物及び/又は請求項14に記載のトランスプラントを含むことを特徴とするキット。
【請求項17】
物質の毛調整作用をインビトロで試験するための、請求項5に記載の毛小嚢、請求項11に記載のデノボ乳頭及び/又は請求項12に記載の皮膚等価物の使用。
【請求項18】
物質の毒性作用をインビトロで試験するための、請求項5に記載の毛小嚢、請求項11に記載のデノボ乳頭及び/又は請求項12に記載の皮膚等価物の使用。
【請求項19】
毛量減少症状を治療する方法であって、請求項5に記載の毛小嚢、請求項11に記載のデノボ乳頭及び/又は請求項12に記載の皮膚等価物が、そのような治療の必要がある哺乳動物の皮膚に取り入れられる、前記治療方法。
【請求項20】
毛の特性を調整する物質を高処理スクリーニングする方法であって、以下の工程、
(1)請求項11に記載のデノボ乳頭、請求項5に記載の毛小嚢及び/又は請求項12に記載の皮膚等価物のサンプルを提供する工程、
(2)それぞれのサンプルを部分に分ける工程、
(3)少なくとも1つの部分をスクリーニングされるべき物質とインキュベートする工程、及び
(4)毛の特性パラメータを前記部分と物質とインキュベートされなかった別の部分とで比較する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A)】
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【図4B)】
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【公表番号】特表2011−515095(P2011−515095A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501184(P2011−501184)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053363
【国際公開番号】WO2009/118283
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(510258511)テヒニーシェ ウニヴェルシテート ベルリン (1)
【Fターム(参考)】