説明

毛髪用化粧料

【課題】洗髪時および乾燥後の毛髪のいずれに対しても高い滑り性を付与し、きしみ感やべたつきなどの不快感がなく、更には、毛髪に蓄積せずに染毛性を阻害しない毛髪用化粧料の提供。
【解決手段】下記式で表される構成単位を有する重量平均分子量5000〜2000000のホスホリルコリン基含有重合体等を0.001〜10重量%含有し、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント等に有用な毛髪用化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗髪時および乾燥後の毛髪に対して優れた滑り性を付与し得る毛髪用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の増大やエアコンによる乾燥等の外部環境の変化、並びにヘアカラーの普及に伴うヘアダメージの増加から、洗髪時の指通り性の改善や乾燥後の毛髪の滑らかさの向上が消費者ニーズとして高まっている。このような機能を毛髪に付与する原料としては、カチオン性の界面活性剤や油性成分が挙げられるが、中でもシリコーンは乾燥後の毛髪に対して優れた滑り性改善効果を持つことから、今日ではリンスやコンディショナー等の毛髪用化粧料を作製する上で必要不可欠な成分となっている。しかし、シリコーンを配合した毛髪用化粧料は、洗髪時の滑り性が不十分であること、洗髪後の湿潤時における毛髪に不快なきしみ感をもたらすこと、並びに乾燥後の毛髪に油剤特有のべたつきが生じることが知られており、感触面での大きな課題となっている。また該化粧料を長期に使用した場合、頭髪にシリコーンが蓄積し、染毛を行う際に染料の毛髪内への浸透が阻害され、その結果として、毛髪が染まり難い、染めムラが発生する、等の問題がある。
【0003】
ところで、ホスホリルコリン基含有重合体は、生体膜に由来するリン脂質類似構造に起因して、血液適合性、補体非活性化、生体物質非吸着性等の生体適合性に優れ、また防汚性、保湿性等の優れた性質を有することが知られている。そこで、それぞれの機能を生かした生体関連材料の開発を目的としたホスホリルコリン基を有する新たな重合体の合成や、その用途に関する研究開発が活発に行われている。
化粧品分野に関しては、例えば、2−メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモ重合体、2−メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、親水性単量体および/またはアルキル(メタ)アクリルレート誘導体との共重合体を含有する化粧料が、皮膚に対して保湿効果及び肌あれ改善効果、毛髪に対しては被膜形成作用に基づく保護効果を示すことが知られている(例えば、特許文献1−4参照)。
しかしながら、これらに開示されたホスホリルコリン基含有重合体を含む化粧料は、乾燥後の毛髪の平滑性を向上させるものの、その効果は不十分であり、また洗髪時の指通り性については何ら検討がなされていない。
【0004】
特許文献5には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体を含有する化粧料組成物が開示され、該組成物で毛髪を処理することにより、ウェット時およびドライ時の毛髪の櫛通り性を改善することが提案されている。しかし、その効果は限定的であり、特にウェット時の櫛通り性においては、なお改善の必要がある。
特許文献6には、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとの共重合体からなる毛髪用被膜形成剤が提案されている。該形成剤を配合した毛髪用化粧料は、毛髪の滑り性、しっとり感、およびまとまりを向上させうることが開示されている。しかしながら、滑り性改善効果については、依然として不十分であり、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−70321号公報
【特許文献2】特開平6−157269号公報
【特許文献3】特開平6−157270号公報
【特許文献4】特開平6−157271号公報
【特許文献5】国際公開第1999/063956号
【特許文献6】特開2004−189678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、洗髪時および乾燥後の毛髪のいずれに対しても高い滑り性を付与し、きしみ感やべたつきなどの不快感がなく、更には、毛髪に蓄積せずに染毛性を阻害しない毛髪用化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位と、(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位と、アルキル(メタ)アクリレート誘導体に基づく構成単位とを特定割合で含む共重合体を配合した毛髪用化粧料は、洗髪時および乾燥後のいずれの状態の毛髪に対しても優れた滑り性をもたらすとともに、シリコーンの使用感上の大きな課題である、湿潤時のきしみ感や乾燥後のべたつきがない良好な感触の毛髪に仕上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、式(1)〜(3)で表される構成単位を有する重量平均分子量5,000〜2,000,000のホスホリルコリン基含有重合体を0.001〜10質量%含有する毛髪用化粧料が提供される。
【化1】

(式中、R1、R2及びR5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。R3及びR4はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。R6は炭素数12〜24の一価の炭化水素基を示す。mは1〜3の整数を示す。n1、n2及びn3は構成単位のモル比を表し、n1:n2:n3=100:1〜400:1〜50である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪用化粧料は、上記式(1)〜(3)で表される構成単位を特定割合で含むホスホリルコリン基含有重合体を含んでおり、該重合体が水中で自己会合し、ハイドロゲルを形成するため、湿潤時の毛髪に対して優れた滑り性を付与することができる。また該重合体の高い被膜形成能により毛髪の表面状態が効率的に修復され、平滑性が向上することで乾燥後の毛髪の滑り性が顕著に改善される。加えて、該重合体はポリマー素材であることから、シリコーンのような油剤特有のべたつきやきしみ感がなく、該重合体を含む毛髪用化粧料で処理することにより、良好な使用感の毛髪に仕上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の毛髪用化粧料は、上記式(1)〜(3)で表される構成単位を有する特定のホスホリルコリン基含有重合体(以下、PC重合体と略す)を含む。
PC重合体は、重量平均分子量5,000〜2,000,000、好ましくは100,000〜1,500,000の重合体である。重量平均分子量が5,000未満の場合、PC重合体の毛髪表面への吸着力が低下し、所望の効果が得られ難いおそれがあり、2,000,000を超える場合は、製造時の粘性が高くなりすぎるため取り扱いが困難となるおそれがある。
前記PC重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、式(1)〜(3)で表される構成単位以外の他の構成単位を有することも可能である。
【0011】
前記PC重合体を構成する式(1)〜(3)において、R1、R2及びR5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。R3及びR4はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。R6は炭素数12〜24の一価の炭化水素基、例えば、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基などを示す。mは1〜3の整数を示す。
式(1)〜(3)において、n1、n2、n3は構成単位のモル比を表し、n1:n2:n3=100:1〜400:1〜50を満たす。n2が1未満の場合、毛髪への吸着性が不十分となり、湿潤時における毛髪の滑り性改善効果が十分に得られないおそれがあり、400より大きいと使用感の低下を招くおそれがある。またn3が1未満の場合、疎水性相互作用による物理架橋ゲル形成能が低下し、50を超える場合は、PC重合体の含水性が減少し、いずれの場合も湿潤時における毛髪の滑り性改善効果が損なわれるおそれがある。
【0012】
前記PC重合体は、例えば、式(1a)で表されるPC単量体(以下、PC単量体と略す)と、式(2a)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体と、式(3a)で表されるアルキル(メタ)アクリルレート誘導体とを含む単量体組成物をラジカル重合することによって得ることができる。該単量体組成物は、上記各単量体の他に、重合可能な他の重合性単量体を含んでいてもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
式(1a)中、R1は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。式(2a)及び式(3a)中、R2〜R6は式(2)及び式(3)のR2〜R6と同様な基もしくは原子を示す。mは1〜3の整数を示す。
PC単量体としては、例えば、入手性が良いことから、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートが好ましく、更に式(1a')で示される2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(以下、MPCと略す)が好ましく挙げられる。
【0015】
【化3】

【0016】
PC単量体は、既知の方法で製造できる。例えば、特開昭54−63025号公報に示される水酸基含有重合性単量体と2−ブロムエチルホスホリルジクロリドとを3級塩基存在下で反応させて得られる化合物と、3級アミンとを反応させる方法、特開昭58−154591号公報等に示される、水酸基含有重合性単量体と環状リン化合物との反応で環状化合物を得た後、3級アミンで開環反応させる方法等によって製造することができる。
【0017】
式(2a)で表される(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが好ましく挙げられる。
式(3a)で表されるアルキル(メタ)アクリルレート誘導体としては、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。
【0018】
前記単量体組成物に用いることができる重合可能な他の重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族基含有(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等の酸基含有単量体;アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン等の窒素原子含有単量体、N,N,N−トリメチル−N−(2−(メタ)アクリルオキシエチル)アンモニウムクロライド、N,N,N−トリメチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリルオキシプロピル)アンモニウムクロライド等のカチオン性基含有単量体が挙げられる。
【0019】
他の重合性単量体は、その種類によりPC重合体の毛髪に対する有効性を左右するおそれがあるので、その性質を考慮して選択することが望ましい。PC重合体の製造に用いる単量体組成物に、上記他の重合性単量体を配合する場合、その配合割合は、本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜選択できるが、PC重合体を構成する上記式(1)で示すn1を100とした場合、モル比で50以下が好ましい。
【0020】
PC重合体の製造は、例えば、上記単量体組成物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスで置換または雰囲気においてラジカル重合、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。精製等の観点から好ましくは溶液重合が挙げられる。PC重合体の精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法など一般的な精製方法により行うことができる。
【0021】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロピル)二塩酸塩、2,2−アゾビス(2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系ラジカル重合開始剤;過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)等の有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸化物が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で用いても混合物で用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して通常0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5.0質量部である。
【0022】
PC重合体の製造は、溶媒の存在下行うことができ、該溶媒としては、単量体組成物を溶解し、反応しないものが使用できる。該溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等の直鎖または環状のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ニトロメタン等の含窒素系溶媒が挙げられる。好ましくは、水、またはアルコ−ル又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0023】
本発明の毛髪用化粧料は、上記PC重合体の1種又は2種以上を含み、その配合割合は、化粧料全体に対して0.001〜10質量%の範囲である。0.001質量%未満の場合、PC重合体の量が不十分であるために所望の効果が得られ難い恐れがある。また10質量%を超える場合、毛髪用化粧料を作製する際のハンドリング性が低下するとともに、得られ毛髪用化粧料は、好ましい使用感を示さない恐れがある。
【0024】
本発明の毛髪用化粧料には、PC重合体の他に、必要に応じて毛髪用化粧料に常用される添加剤を適宜配合することができる。前記添加剤としては、本発明の目的を妨げない限り特に限定されず、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、色材、アルコール類、紫外線防御剤、アミノ酸類、ビタミン類、美白剤、有機酸、無機塩類、酵素、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、殺菌剤、消炎剤、皮膚賦活剤、血行促進剤、抗脂漏剤、抗炎症剤等の薬剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、収斂剤、清涼剤、香料、色素、水等が挙げられる。
これら添加剤の配合割合は、その種類や目的に応じて公知の配合割合に基づき適宜選択することができる。
【0025】
本発明の毛髪用化粧料は、例えば、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアミスト、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアフォーム、ヘアワックス、ヘアスプレーなどの形態で用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例により本発明の内容を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中の各種測定および評価は、以下の方法に従って実施した。
<分子量測定>
得られた重合体5mgをメタノール/クロロホルム混合溶媒(8/2、体積比)1gへ溶解し、試料液とした。その他の条件は以下の通りである。
カラム:PLgel−mixed−C、標準物質:ポリエチレングリコール、検出:視差屈折率系RI−8020(東ソー株式会社製)、重量平均分子量の算出:分子量計算プログラム(SC−8020用GPCプログラム)、流速1mL/分、試料注入量:100μL、カラム温度:40℃。
【0027】
<滑り性評価(乾燥時)>
以下に示す毛髪処理液調製1で調製した重合体の水溶液100gに、以下に示す毛髪調製2で作製したダメージ毛髪1gを1分間浸漬後、流水で洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。該毛髪13本を1mm間隔でスライドガラスに貼り付け、摩擦感テスター(機種:KES−SE、カトーテック株式会社製)を用い、恒温恒湿室(温度25℃、湿度40%)にて毛髪の動摩擦係数を測定した(摩擦子材質:シリコン、摩擦子移動速度:5mm/秒)。なお、動摩擦係数は、毛髪の滑り性向上により低下することが分かっている。
【0028】
(毛髪調製1)
同一人黒髪(株式会社ビューラックスより購入)を1%ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム水溶液中にて1分間すすぎ洗いした後、流水で洗浄した。次いで、タオルドライし、ドライヤーで乾燥することにより健康毛髪とした。
(毛髪調製2)
毛髪調製1により得た健康毛髪を、5%過酸化水素水と3%アンモニア水を質量比で1:1の割合で混合した水溶液に室温で20分間浸漬後、流水で洗浄した。次いで、タオルドライし、ドライヤーで乾燥した。このブリーチ処理を10回繰り返すことによりダメージ毛髪とした。
(毛髪処理液調製1)
製造した重合体0.5gを、2L容のガラスビーカーに採り、これに蒸留水999.5gを加え、80℃の温浴中にて30分間スターラー攪拌することにより溶解後、室温まで冷却することで重合体の0.05質量%水溶液を得た。
【0029】
<滑り性評価(湿潤時)>
ポリエステル製の人工毛髪13本を1mm間隔でスライドガラスに貼り付けた後、直径60mm、高さ12mmのプラスチックシャーレの底部に両面テープを用いて固定した。次いで、上記毛髪処理液調製1で調製した重合体の水溶液20gを投入し、1分間静置した。その後、摩擦感テスターを用い、湿潤時における毛髪の動摩擦係数を測定した(摩擦子材質:シリコン、摩擦子移動速度:1mm/秒)。
【0030】
<蓄積性評価>
上記毛髪処理液調製1で調製した重合体の水溶液100gに、毛髪調製2で作製したダメージ毛髪1gを1分間浸漬後、流水で洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。この操作を1、10、30回行って処理毛髪を作製した。得られた毛髪をX線光電子分析装置(機種:JPS−9200、日本電子株式会社製)を用いて表面分析して、重合体中のMPCに由来するリン原子と炭素原子の比(P/C)を算出し、この値を重合体の毛髪への吸着量の指標とした。また算出したP/C値を以下の式に導入することで毛髪への蓄積率を求めた。尚、この値は蓄積性が高い程、大きくなることが分っている。
毛髪への蓄積率(%)=(10回若しくは30回処理した毛髪のP/C値)/(1回処理した毛髪のP/C値)×100
【0031】
<染色阻害性評価>
上記毛髪処理液調製1で調製した重合体の水溶液100gに、以下に示す毛髪調製3で作製した白髪1.5gを1分間浸漬後、流水で洗浄し、ドライヤーで乾燥させる操作を10回実施した。得られた処理白髪を、市販のヘアカラー剤(商品名メンズパルティターンカラーブルーブラック、株式会社ダリア製)を用いて染毛した。該毛髪を流水で洗浄後、更に1%ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム水溶液中にて1分間すすぎ洗いを行い、ドライヤーで乾燥させた。作製した染色毛髪について、色差計(機種:NF−333、日本電色工業株式会社製)を用いて、色差ΔE*(ab)を測定した。得られた値を以下の式に導入することで重合体の毛髪に対する染色阻害率を算出した。
尚、染色阻害性がない場合、この値は100となり、値が小さい程、阻害性が高いことを示す。
染色阻害率(%)=ΔE*(ab)(処理毛髪)/ΔE*(ab)(未処理毛髪)×100
(毛髪調製3)
同一人白髪(株式会社ビューラックスより購入)を1%ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム水溶液中にて1分間すすぎ洗いした後、流水で洗浄した。次いで、タオルドライし、ドライヤーで乾燥した後、試験に使用した。
【0032】
合成例1−1
MPC(日油株式会社製)40.41g、ステアリルメタクリレート(以下、SMAと略す。日油株式会社製)(式(3a)において、R5:メチル基、R6:ステアリル基)4.12g、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、DMAPAAと略す。東京化成工業社製)(式(2a)において、R2:水素原子、R3、R4:メチル基、m=3)0.48gを、エタノール55.0gに溶解し、4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、50℃でt−ブチルペルオキシネオデカノエート(商品名:パーブチル−ND、日油株式会社製)(以下、PB−NDと略す)0.10gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中にかきまぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、白色粉末(以下、重合体A−1と略す)41.3gを得た。重合体A−1について、上記の分子量測定に従い分子量を測定した結果を表1に示す。
【0033】
以下に、重合体A−1のIR、NMR、元素分析のデータを示す。
IRデータ:2966cm-1(−CH)、1735cm-1(O−C=O)、1659cm-1(N−C=O)、1460cm-1(−CH)、1254cm-1(P=O)、1169cm-1(C−O−C)、997cm-1(P−O−C)。
NMRデータ:0.8−1.2ppm(CH3−C−)、1.3ppm(−CH2−)、3.3ppm(−N(CH33)、3.9ppm(−N−CH)、3.7−4.4ppm(−CH2CH2−)。
元素分析データ:
理論値:C;54.95%、H;8.73%、N;7.95%、
実測値:C;54.93%、H;8.73%、N;7.96%。
以上の結果から、得られた重合体A−1は、式(1)〜(3)におけるn1〜n3が表1に示すモル比率の重合体であることがわかった。更に重合体A−1の毛髪に対する有効性について、前述の各評価方法に準じて測定した結果を表3に示す。
【0034】
合成例1−2〜1−11
表1に示す各単量体を用いた以外は、合成例1−1と同様な方法にて重合および精製を行い、重合体A−2〜A−11を得た。重合体A−2〜A−11について、上記分子量測定に従い分子量を測定した。また、IR、NMR及び元素分析を行い、n1〜n3を求めた。結果を表1に示す。更に重合体A−2〜A−11の毛髪に対する有効性について、前述の各評価方法に準じて測定した結果を表3に示す。
尚、表1中、LMAは、ラウリルメタクリレート(日油株式会社製)(式(3a)において、R5:メチル基、R6:ラウリル基)を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
比較合成例1−1
MPC45.0gを、エタノール55.0gに溶解し、4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、50℃でPB−ND0.10gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中にかきまぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、白色粉末(以下、重合体B−1と略す)40.7gを得た。重合体B−1について、上記の分子量測定に従い分子量を測定した。また、IR、NMR及び元素分析を行い、n1〜n3を求めた。結果を表2に示す。更に重合体B−1の毛髪に対する有効性について、前述の各評価方法に準じて測定した結果を表3に示す。
【0037】
比較合成例1−2〜1−12
表2に示す各単量体を用いた以外は、比較合成例1−1と同様な方法にて重合および精製を行い、重合体B−2〜B−12を得た。重合体B−2〜B−12について、上記の分子量測定に従い分子量を測定した。また、IR、NMR及び元素分析を行い、n1〜n3を求めた。結果を表2に示す。更に重合体B−2〜B−12の毛髪に対する有効性について、前述の各評価方法に準じて測定した結果を表3に示す。
なお、表2中の略語は以下のとおりである。
DMAEM:ジメチルアミノエチルメタクリレート(株式会社興人製)、EHM:2−エチルヘキシルメタクリレート(日油株式会社製)
【0038】
【表2】

【0039】
参考比較例1
毛髪処理液調製1で調製した重合体の水溶液の代わりに、下記の毛髪処理液調製2で調製したシリコーンの水分散液を用いた以外は前述の各評価方法に準じて、毛髪に対する評価を行った。結果を表3に示す。尚、シリコーンの毛髪への吸着量は、シリコーンに由来するケイ素原子と炭素原子の比(Si/C)を指標とし、この値を以下の式に導入することでシリコーンの毛髪への蓄積率を求めた。
毛髪への蓄積率(%)=(10回若しくは30回処理した毛髪のSi/C値)÷(1回処理した毛髪のSi/C値)×100
【0040】
(毛髪処理液調製2)
化粧品原料として市販されているシリコーンエマルジョン(KM−902、シリコーン純分:50%、信越化学工業株式会社製)1gを、2L容のガラスビーカーに採り、これに蒸留水999gを加え、80℃の温浴中にて30分間スターラー攪拌することにより、シリコーンを純分として0.05質量%含有する水分散液を得た。
【0041】
参考比較例2−1〜2−2
毛髪処理液調製1で調製した水溶液を用いなかった以外は、上記の滑り性評価(乾燥時)に準じて、毛髪調製1で作製した健康毛髪(参考比較例2−1)、毛髪調製2で作製したダメージ毛髪(参考比較例2−2)の動摩擦係数を測定した。結果を表3に示す。
【0042】
参考比較例3
毛髪処理液調製1で調製した水溶液の代わりに、蒸留水を用いた以外は上記の滑り性評価(湿潤時)に準じて、湿潤時における毛髪の動摩擦係数を測定した。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例1−1〜1−11
<ヘアトニックの使用感評価>
重合体A−1〜A−11を用いて、表4の処方に従い、ローション状のヘアトニックを調製した。具体的には、イの各成分を室温下にて溶解した後、ロの各成分を40℃にて溶解し、これを攪拌しながらイを加えることにより作製した。得られたヘアトニックに関して、下記の頭髪評価官能試験を実施した。結果を表4に示す。
(頭髪評価官能試験)
25〜55歳の女性10名からなる専門パネルにより、使用時の指通り性、きしみ感、乾燥した後の髪の滑らかさ、べたつき感の4項目について、下記基準により5段階評価した。更にそれを平均して判定した。
(頭髪評価官能試験基準)
評価点;5点:非常に良好、4点:良好、3点:普通、2点:やや不良、1点:不良。
判定基準;平均点4.0点以上を合格、平均点4.0点未満を不合格とした。
【0045】
比較例1−1〜1−14
<ヘアトニックの使用感評価>
表4に記載の処方に従いヘアトニックを調製した。なお、シリコーンは毛髪処理液調製2記載のシリコーンエマルジョンを用いた。得られたヘアトニックに関して、実施例1−1〜1−11と同様にして頭髪評価官能試験にて評価した。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
実施例2−1〜2−11
<シャンプーの使用感評価>
重合体A−1〜A−11を用いて、表5の処方に従い、シャンプーを調製した。得られたシャンプーに関して、実施例1−1〜1−11と同様な項目について頭髪評価官能試験を行い、評価した。結果を表5に示す。
【0048】
比較例2−1〜2−14
<シャンプーの使用感評価>
表5に記載の処方に従いシャンプーを調製した。なお、シリコーンは毛髪処理液調製2記載のシリコーンエマルジョンを用いた。得られたシャンプーに関して、実施例2−1〜2−11と同様にして頭髪評価官能試験にて評価した。結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
実施例3−1〜3−11
<リンスの使用感評価>
重合体A−1〜A−11を用いて、表6の処方に従い、リンスを調製した。得られたリンスに関して、実施例1−1〜1−11と同様な項目について頭髪評価官能試験を行い、評価した。結果を表6に示す。
【0051】
比較例3−1〜3−14
<リンスの使用感評価>
表6に記載の処方に従いリンスを調製した。なお、シリコーンは毛髪処理液調製2記載のシリコーンエマルジョンを用いた。得られたリンスに関して、実施例3−1〜3−11と同様にして頭髪評価官能試験にて評価した。結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表3より、本発明の毛髪用化粧料に含まれるPC重合体は、乾燥時および湿潤時の毛髪に対して優れた滑り性を付与し、シリコーンの問題点である毛髪への蓄積がなく、染毛性も阻害しないことが明らかになった。また表4〜表6より、本発明の毛髪用化粧料で処理した毛髪は、いずれの形態でも使用時の指通り性および乾燥後の滑らかさに優れ、且つ、使用感上のシリコーンの大きな欠点である、きしみやべたつき等の不快さもない良好な風合いであることが分った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)〜(3)で表される構成単位を有する重量平均分子量5,000〜2,000,000のホスホリルコリン基含有重合体を0.001〜10重量%含有する毛髪用化粧料。
【化1】

(式中、R1、R2及びR5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。R3及びR4はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。R6は炭素数12〜24の一価の炭化水素基を示す。mは1〜3の整数を示す。n1、n2及びn3は構成単位のモル比を表し、n1:n2:n3=100:1〜400:1〜50である。)

【公開番号】特開2013−18749(P2013−18749A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154345(P2011−154345)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】