説明

気体充填装置及び気体充填方法

【課題】容器の内容積を本充填の前に推定するのではなく、水素ガスを充填しながら容器内容積の推定を繰り返し行うことで、充填時間を短縮し、かつ質量基準充填に対応できる気体充填装置等を提供すること。
【解決手段】気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、容器内の圧力情報及び気体の充填量情報を、それぞれ圧力計測部及び流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した圧力情報及び気体の充填量情報、並びに予め定められた気体温度情報を、容器の充填前の気体量情報と、容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報に代入し、複数の具体的一次関数式情報を生成し、これら複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて容器の内容積情報を推定する気体充填装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素等の気体を容器に充填するための気体充填装置及び気体充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水素ガスを燃料とする水素自動車、燃料電池自動車(以下「水素自動車」とする。)の開発が進められており、また、水素自動車の燃料タンク(以下「容器」とする。)に水素ガスを充填する水素スタンドにおいて、短時間で水素ガスを充填する方法が検討されている。水素ガスを短時間で容器に充填すると、容器内の温度が上昇するため水素充填量が少なくなり、結果として、水素自動車の航続距離が短くなることが問題となっている。
【0003】
そこで、容器内の温度上昇を所定範囲内に抑えつつ最短時間で充填を行う方法として、外気温度と容器初期圧力から充填時の圧力上昇率(単位時間当たりの圧力上昇変化)を決定し、圧力上昇率が一定の範囲内に入るような流量で充填を行う方法(以下「一定昇圧率充填」という。)が提案されている。
その場合、容器内容積と目標圧力上昇率から目標充填流量を求め、流量制御を行う方法と、容器内容積を把握することなく流量制御を行う方法が考えられ、後者については、例えば特許文献1の方法が提案されている。
しかし後者の場合には、後述する「質量基準充填」に対応できないという問題がある。
【0004】
一方、水素自動車の航続距離を延ばすため、容器内温度に関わらず、充填率100%まで充填を行う方法(以下「質量基準充填」という。)が提案されている。
ここで、「充填率(State of charge)」とは、例えば容器内圧力が70MPa、容器内温度が15℃とするのに必要な水素ガス重量で、実際の水素ガス充填量を除した際の比率をいう。
「質量基準充填」を行う場合、水素スタンド(充填設備)側で容器の内容積を把握する必要があるが、その方法として、水素スタンドと水素自動車間に通信設備を設置し、容器内容積のデータを水素自動車から水素スタンドに与える方法と、通信設備を用いずに、初めに少量のガスを容器に充填し、その間の充填量と圧力上昇幅から容器内容積を推定(充填前の容器内温度は外気温度に等しいと仮定する。)してから本充填を行う方法がある。しかし、前者の場合、設備コストの増加に繋がるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−98474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
容器の内容積を把握するため、水素スタンドと水素自動車間に通信設備を設置せず、容器への充填量とその間の圧力上昇幅から容器内容積を推定する方法においては、容器内温度は外気温度に等しいと仮定することから、充填時に容器内温度が上昇すると容積推定精度が低下するため、容器内温度上昇を抑えるため小流量で充填する必要があり、充填に時間がかかるという問題があった。
【0007】
そこで、容器の内容積を本充填の前に推定するのではなく、水素ガスを充填しながら容器内容積の推定を繰り返し行うことで、充填時間を短縮し、かつ質量基準充填に対応できる気体充填装置及び気体充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明によれば、気体を収容する容器に対して充填される気体の充填量を計測する流量計測部と、前記容器内の気体の圧力を計測する圧力計測部と、を有する気体充填装置であって、前記容器の充填前の気体量情報と、前記容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報を格納する一次関数式情報格納部を有し、前記一次関数式情報は、前記容器内の圧力情報、前記容器に対して充填される気体の充填量情報及び前記容器内の気体温度情報を含み、前記一次関数式情報は、これら前記容器内の圧力情報、前記気体の充填量情報及び前記気体温度情報が代入されることで、具体的な前記一次関数式情報である具体的一次関数式情報として表すことができる構成となっており、予め定められた前記気体温度情報を格納する気体温度情報格納部を備え、前記気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を、それぞれ前記圧力計測部及び前記流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報、並びに前記気体温度情報格納部に格納されている前記気体温度情報を前記一次関数式情報に代入し、複数の前記具体的一次関数式情報を生成し、これら複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記容器の内容積情報を推定することを特徴とする気体充填装置により達成される。
【0009】
前記構成によれば、容器の充填前の気体量情報と、容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報を格納する一次関数式情報格納部を有し、一次関数式情報は、容器内の圧力情報、容器に対して充填される気体の充填量情報及び容器内の気体温度情報を含み、一次関数式情報は、これら容器内の圧力情報、気体の充填量情報及び気体温度情報が代入されることで、具体的な一次関数式情報である具体的一次関数式情報として表すことができる構成となっている。
すなわち、この一次関数式情報は、容器の充填前の気体量情報と、内容積情報が関連して、つまり、いずれか一方の値が定まれば他方の値も定まる2つの変数情報となっている。
また、この一次関数式情報には、容器内の圧力情報、容器に対して充填される気体の充填量情報及び収容容器内の気体温度情報を含むため、これらの情報が異なる一次関数式情報の傾きは、それぞれ異なることになる。
【0010】
そこで、前記構成では、気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、容器内の圧力情報及び気体の充填量情報を、それぞれ圧力計測部及び流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した容器内の圧力情報及び気体の充填量情報、並びに気体温度情報格納部に格納されている気体温度情報を一次関数式情報に代入し、複数の具体的一次関数式情報を生成する。
そして、このように生成された、複数の具体的一次関数式情報をグラフ等に表すと、一次関数式情報の交点が生じる。
このため、前記構成では、これら複数の具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて収容容器の内容積情報を推定する構成となっている。
【0011】
このように、前記構成では、所定の圧力が上昇するごとに、容器内の圧力情報及び気体の充填量情報を、それぞれ圧力計測部及び流量計測部を用いて、複数回取得し、具体的一次関数式情報を生成し、これらの情報に基づき容器の内容積情報を推定する構成となっている。特に、前記構成では、気体温度情報を所与のものとすることで、気体温度情報を一定して、具体的一次関数式情報を生成でき、この気体温度情報を一定にすることによる推定誤差を、交点情報等で修正する構成となっている。
このため、実際に気体温度情報を一定に保持して、前記基本式情報から容器の内容積情報を推定する場合等に比べて格段に迅速に容器の内容積情報を推定でき、これにより、迅速な気体の充填が可能となる。
【0012】
好ましくは、複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記収容容器の内容積情報を推定した後、前記収容容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を複数回取得し、前記収容容器の内容積情報を推定することを特徴とする気体充填装置である。
【0013】
前記構成によれば、複数の具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて容器の内容積情報を推定した後、容器内の圧力情報及び気体の充填量情報を複数回取得し、容器の内容積情報を推定する構成となっている。
このため、一旦、容器の内容積情報を推定し、気体の迅速な充填を開始した後も容器の内容積情報を推定し、これに基づき内容積情報を修正することができるので、より正確に収容容器の内容積情報を推定することができる。
【0014】
前記課題は、本発明によれば、気体を収容する容器に対して充填される気体の充填量を計測する流量計測部と、前記容器内の気体の圧力を計測する圧力計測部と、を用いる気体充填方法であって、前記容器の充填前の気体量情報と、前記容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報は、前記容器内の圧力情報、前記容器に対して充填される気体の充填量情報及び前記容器内の気体温度情報を含み、前記一次関数式情報は、これら前記容器内の圧力情報、前記気体の充填量情報及び前記気体温度情報が代入されることで、具体的な前記一次関数式情報である具体的一次関数式情報として表すことができる構成となっており、前記気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を、それぞれ前記圧力計測部及び前記流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報、並びに前記気体温度情報格納部に格納されている、予め定められた前記気体温度情報を前記一次関数式情報に代入し、複数の前記具体的一次関数式情報を生成し、これら複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記収容容器の内容積情報を推定することを特徴とする気体充填方法により達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、容器の内容積を本充填の前に推定するのではなく、水素ガスを充填しながら容器内容積の推定を繰り返し行うことで、充填時間を短縮し、かつ質量基準充填に対応できる気体充填装置及び気体充填方法を提供することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る気体充填装置の第1の実施の形態にかかる例えば、水素ガス充填装置の主な構成等を示す概略図である。
【図2】水素ガス充填装置の主な構成等を示す概略ブロック図である。
【図3】第1の記憶領域の内容を示す概略ブロック図である。
【図4】第2の記憶領域の内容を示す概略ブロック図である。
【図5】水素ガス充填装置の主な動作等を示す概略フローチャートである。
【図6】水素ガス充填装置の主な動作等を示す他の概略フローチャートである。
【図7】各一次関数データの一例を示す概略説明図である。
【図8】容器内の温度が上昇しないよう、小流量で充填を行い、所定の圧力まで上昇後、上昇した圧力幅と充填量から内容積を推定し、それから本充填を行う場合の水素ガスの充填時間を示すグラフの一例である。
【図9】本発明を適用した場合の水素ガスの充填時間を示すグラフの一例である。
【図10】温度推定方法の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0018】
図1は、本発明に係る気体充填装置の実施の形態にかかる例えば、水素ガス充填装置1の主な構成等を示す概略図である。
図1に示すように、水素ガス充填装置1は、高圧水素を貯蔵する蓄圧器2を有している。この蓄圧器2には、配管3が接続され、この配管3が、充填ホース4に連結される構成となっている。
この充填ホース4は、例えば、水素ガスを燃料とする水素自動車内に配置された容器である例えば、容器5と着脱可能な構成となっている。
また、この配管3には、蓄圧器2からの水素ガスの流量等を調節するための調節弁6が配置されていると共に、配管3内の水素ガスの流量を計測する流量計測部である例えば、流量計7も配置されている。
さらに、この配管3には、配管3内の水素ガスの圧力を計測する圧力計測部である例えば、圧力計8が配置されている。
また、水素ガス充填装置1は、装置外の外気温を計測するための温度計11を備え、これら調節弁6、流量計7、圧力計8及び温度計11等を制御等するための制御装置9及び記憶演算装置10も有している。
【0019】
本実施の形態の水素ガス充填装置1は、例えば水素スタンド等に配置され、水素ガスを燃料とする水素自動車のタンクである容器5に水素ガスを充填するための装置として用いられる。
【0020】
図1の制御装置9及び記憶演算装置10には、コンピュータが配置され、コンピュータには、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク等が、バス等を介して配置されている。
バスは、すべてのデバイスを接続する機能を有し、アドレスやデータパスを有する内部バスである。CPUは所定のプログラムの処理を行う他、バスに接続されたROM等を制御している。ROMは、各種プログラムや各種情報等を格納している。RAMは、プログラム処理中のメモリの内容を対比したり、プログラムを実行するためのエリアとしての機能を有する。
【0021】
図2は、水素ガス充填装置1の主な構成等を示す概略ブロック図である。図2に示すように、制御装置9及び記憶演算装置10は、調節弁6、流量計7、圧力計8、温度計11及び入力装置12等と接続されていると共に、第1の記憶領域20や第2の記憶領域40にも接続されている。
図3は、図2の第1の記憶領域20の内容を示す概略ブロック図であり、図4は、図2の第2の記憶領域40の内容を示す概略ブロック図である。
図2等における第1の記憶領域20及び第2の記憶領域40は、実際に各データがこのように区分されて格納されていることを示すものではなく、説明の便宜上、区分して示したものである。
図5及び図6は、水素ガス充填装置1の主な動作等を示す概略フローチャートである。
以下、図5及び図6の概略フローチャートに沿って、水素ガス充填装置1の動作等を説明しながら、図3及び図4の第1の記憶領域20及び第2の記憶領域40の内容も併せて説明する。
【0022】
先ず、水素自動車が水素スタンドに水素ガスの補給のため駐車すると、図1の充填ホース4が、水素自動車の容器5に装着され、その他の所定の動作等が実行された後、充填動作が開始される。
先ず、図5のST1に示すように、データ番号のカウントを開始する。
【0023】
次いで、ST2へ進む。ST2では、図1の温度計11で計測した外気温度を取り込む。具体的には、図4の外気温度取込プログラム42が動作し、温度計11の温度を取り込み、図3の外気温データ22として登録する。例えば、30℃である。
次いで、ST3へ進む。ST3では、容器5の充填前圧力を計測するため、微小量データに基づき調節弁を微開し、水素ガスを微小量だけ容器5に充填する。
具体的には、図4の調節弁微小開放プログラム43が動作し、図3の微少量データ23を参照して、このデータに基づき微少量の水素ガスを容器5に充填する。例えば、5秒間調整弁を微開する、あるいは50gの水素を充填する。
そして、ST4で微少量充填後の充填量と圧力を取り込む。ここまでは、配管3と容器5の圧力を同圧とし、初期圧力を取り込むための工程である。
【0024】
次いで、ST5へ進む。ST5では、昇圧率決定データに基づき、当該目標昇圧率を決定し、当該昇圧率データとして登録する。具体的には、図4の昇圧率決定プログラム44が動作し、図3の昇圧率決定データ24を参照して、当該昇圧率データを決定し、図3の当該昇圧率データ25として登録する。
ここで、昇圧率決定データ24は、外気温度と容器5の初期圧力により決定されるデータとなっており、例えば、外気温度が30℃、容器5の初期圧力が1MPaの場合に、昇圧率は、5MPa/minと決定される。
したがって、昇圧率決定プログラム44は、図3の外気温度データ22と昇圧率決定データ44を参照して、当該昇圧率を定め、図3の当該昇圧率データ25に登録する。上記の例では、当該昇圧率を5MPa/minとして登録する。
【0025】
次に、ST6に進む。ST6では、容器5の暫定容積データ、当該昇圧率データから、目標充填流量及び目標充填量を決定し、目標充填流量データ、目標充填量データに登録する。
具体的には、図4の充填流量決定プログラム45が動作し、図3の容器の暫定容積データ26と当該昇圧率データ25から目標充填流量及び目標充填量を決定し、図3の目標充填流量及び目標充填量データ27に登録する。
例えば、上述の例では、当該昇圧率データ25が5MPa/minで、容器の暫定容積データ26は、図3から例えば、75Lとなっているため、充填流量決定プログラム45は、この75Lの容器5に昇圧率5MPa/minで水素ガスを充填する目標充填流量を、0.2kg/minとして、登録する。また、目標充填量を3kgとして登録する。
このように、本実施の形態では、初期の段階で水素ガスを容器5内に充填する際は、75Lという比較的内容積が小さい充填容器を想定し、かかる小さい充填容器の内容積のデータを図3の容器の暫定容積データ26に予め登録している。このため、水素ガスの充填の初期の段階で、実際の昇圧率が、要求された昇圧率を上回り、容器内温度が過剰に上昇することを防止する構成となっている。
【0026】
次いで、ST7へ進む。ST7では、図3の当該目標充填流量及び目標充填量データ27に基づいて、図1の調節弁6を開き、水素ガスを蓄圧器2から容器5に充填する。具体的には、図4の水素充填プログラム46が動作し、水素ガスが例えば、目標充填流量0.2kg/min、目標充填量3kgで容器5に充填される。
次いでST8へ進む。ST8では、実際の充填量が目標充填量、例えば3kgに達していないか判断する。実際の充填量が目標充填量に達していれば充填は終了する。
【0027】
次いで、ST9では、実際の圧力が容器5に許容される充填圧力に達していないかを判断する。具体的には、図4の圧力判断プログラム47が判断する。
ST10では、前回の充填量、圧力データ取得時の圧力と現在の圧力を比較し、例えば前回から1MPa上昇していれば、ST11に進む。1MPa上昇していなければST7に戻る。
ST11では、データ番号を1つ増やし、ST12で、そのデータ番号での圧力、充填量を取り込む。
具体的には、図4の圧力充填量データ取得プログラム41が動作し、取り込んだデータをデータ番号と共に図3の圧力充填量データ21として登録する。
【0028】
ST13で、データ数が2個以下の場合、ST7へ戻る。データ数が3個以上の場合、ST14へ進む。
【0029】
ST14では、圧力充填量データ21の各データ番号毎の圧力データ及び充填量データ並びに暫定温度データ30を基本式に代入し、それぞれを、Y軸を充填開始前の水素量、X軸を充填容器の内容積とした具体的な一次関数データとする。
具体的には、図4の一次関数生成プログラム48が動作し、図3の一次関数式情報である例えば、基本式データ28に図3の圧力充填量データ21及び図3の気体温度情報である例えば、暫定温度データ30が代入され、その結果が、具体的一次関数式情報である例えば、各一次関数データ29として登録される。暫定温度データ30は、例えば80度とされる。
なお、第1の記憶領域20が、一次関数情報格納部や気体温度情報格納部の一例となっている。
このように、基本式データ28は、容器の充填前の気体量情報と容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報の一例となっている。
【0030】
ここで、図3の基本式データ28について説明する。本実施の形態の基本式データ28は、M={Pa(b、c)/fz(Pa(b、c)、Ta(b、c))・R・Ta(b、c)}・V−Ma(b、c)で表される。
ここで、Mは、水素ガスを容器5内に充填開始する前の水素量であり、Pa(b、c)は、図1の圧力計8で計測したデータ番号a=0、b=n、c=nにおける容器5内の圧力であり、Ta(b、c)は、データ番号0、n、nにおける容器5内の温度であり、fz(Pa(b、c)、Ta(b、c))は、Pa(b、c)、Ta(b、c)における水素ガスの圧縮係数であり、Rは、気体定数である。
また、Vは、容器5の内容積であり、Ma(b、c)は、図1の流量計7で計測したデータ番号0、n、nにおける水素ガスの充填量である。
尚、データ番号nは、データ番号0とNとの中間点にあたり、データ番号Nが奇数の場合は、N/2の値を超える整数の最小値とし、データ番号Nが偶数の場合は、N/2の値とする。
【0031】
ところで、上述のデータ番号0、n、nにおける容器5内の水素ガスの状態方程式は、以下のようになる。
Pa(b、c)・V=fz(Pa(b、c)、Ta(b、c))・(Mo+Ma(b、c))・R・Ta(b、c)
そして、この状態方程式を変形したのが、上述の基本式データ28である。
【0032】
この基本式データ28に、Pa(b、c)、Ta(b、c)及びMa(b、c)の値を代入すれば、Y軸をM(水素ガスを容器5内に充填開始する前の水素量)とし、X軸をV(容器5の内容積)とする具体的な一次関数データとして表すことができる。
この具体的な一次関数データが、図3の各一次関数データ29となる。
【0033】
図7は、かかる各一次関数データ29の一例を示す概略説明図である。図7に示すように、データ番号aにおける具体的な一次関数データは、記号aで示す傾きを有するグラフとなる。
この記号aで示す具体的な一次関数データは、データ番号aにおける容器5内の圧力Pa、データ番号aにおける容器5内の温度Ta及びデータ番号aにおける水素ガスの充填量Maを基本式データ28に代入した場合のデータである。
また、充填が進行し、データ番号bにおける容器5内の圧力Pb、データ番号bにおける容器5内の温度Tb及びデータ番号bにおける水素ガスの充填量Mbを基本式データ28に代入した場合は、圧力Pbや充填量Mbが、データ番号aの時点と比べ変化するので、図7の記号bで示す傾きを有するグラフとなる。
また、さらに充填が進行し、データ番号cにおいては、図7の記号cで示す傾きを有するグラフとなる。
ここで、容器5内の温度Taは、充填開始時に取り込んだ外気温度とする。また、Tb(c)は充填設備側では測定できないため、暫定の温度(例えば80℃)を用いる。
これら各グラフが、図3の各一次関数データ29の一例となっている。
【0034】
ところで、図7で明らかなように、各一次関数データ29である記号a、b、cのグラフは、仮に充填開始前の水素量(M)の値を定めても、充填容器の内容積(V)の値が一致しない。
これは、容器5内の温度が、図3に示すように、80℃と固定されており、実際の温度との相違が生じるためである。
例えば、容器5内の温度が、80℃より実際は温度が低い場合は、内容積(V)が実際より大きく推定される。
【0035】
そこで、本実施の形態では、後述するように、図7の記号aのグラフと記号bのグラフとの交点であるVabで推定される容器5の内容積、例えば、約98Lをデータとして取得すると共に、記号aのグラフと記号cのグラフの交点であるVacで推定される容器5の内容積、例えば、約97Lをデータとして取得する。
次にこれらの2つのデータの中間である97.5Lを容器5の内容積とする。
【0036】
本実施の形態では、このような処理を行うが、この処理を図6のST15以下で詳細に説明する。
ST15では、各一次関数データ29のうち、データ番号0の一次関数データとデータ番号nの一次関数データの交点における容器の内容積データをV1交点データとして登録する。
具体的には、図4のV1交点データ生成プログラム49が動作し、データ番号0の一次関数データ、例えば、図7では記号aのグラフと、データ番号nの一次関数データ、例えば、図7では記号bのグラフの交点、例えば、図7ではVabにおける容器の内容積データである98Lを、図3の各交点データ31のV1交点データとして登録する。
【0037】
また、ST16では、各一次関数データ29のうち、データ番号0の一次関数データとデータ番号nの一次関数データの交点における容器の内容積データをV2交点データとして登録する。
具体的には、図4のV2交点データ生成プログラム52が動作し、データ番号0の一次関数データ、例えば、図7では記号aのグラフと、データ番号nの一次関数データ、例えば、図7では記号cのグラフの交点、例えば、図7ではVacにおける容器の内容積データである97Lを、図3の各交点データ31のV2交点データとして登録する。
【0038】
次いで、ST17に進む。ST17では、V1交点データとV2交点データとの中間データを、新しい容器内容積データとして登録する。具体的には、図4の容器内容積データ生成プログラム50が動作し、図3の各交点データ31に登録されているV1交点データ及びV2交点データを参照し、これらの中間データを容器内容積データ32として登録する。
図7の例によれば、V1交点データが98LでV2交点データが97Lであるため、中間データは97.5Lなり、この97.5Lが容器内容積データ32として登録されることになる。これは、図4の容器内容積判断プログラム51が動作して判断される。
交点データは1つでも内容積を推定できるが、推定精度を上げるため、本実施の形態では、2つの交点から容器内容積データ32を求めるようになっている。
ST18では、求められた容器内容積データ32に基づき、目標充填流量、目標充填量を決定し、新しい目標充填流量、目標充填量データとして登録する。
【0039】
次いでST7に戻る。最初は、容器5を最小タンクの75Lとみなし、0.2kg/minの流量となるように、図1の調節弁6を開いていたが、その後、ST18で、当該容器5が97.5Lであると推定された場合は、目標充填流量は0.3kg/min、目標充填量は、4kgとなる。
【0040】
本推定方法に対して、基本式データ28の容器5内の温度を実際に変化させない、すなわち、温度が一定になるように水素ガスを充填し、この状態における容器5の圧力や充填量を計測し、これに基づき容器5の内容積を推定する方法も考えられる。
しかし、この場合は、温度を一定にするため、水素ガスの充填を少なくせざるをえず、容積推定のための充填に時間がかかるという欠点がある。
これに対して、本実施の形態では、容器5内の耐熱性能により容器内の温度を所定上限値(例えば85℃)以内に制御する必要はあるが、繰り返し内容積の推定を行い、所定上限値を超えない最適な充填流量に調整して水素ガスを充填できるので、温度が一定になるように水素ガスを小流量で充填する必要がなく、はじめから所定の流量で充填を開始できるので、迅速に充填をすることができるという特長がある。
【0041】
図8は、容器5内の温度が上昇しないよう、小流量で充填を行い、所定の圧力まで上昇後、上昇した圧力幅と充填量から内容積を推定し、それから本充填を行う場合の水素ガスの充填時間を示すグラフの一例である。
図9は、本発明を適用した場合の水素ガスの充填時間を示すグラフの一例である。双方共、容器5の内容積を150Lとし、タンク内の温度を仮定して充填圧力を計算したものである。
図9に示すように本発明を適用した場合の充填完了時間が約920秒に対し、従来法を適用した図8の充填完了時間は約1150秒であることから、大幅に水素ガスの充填が短縮されていることが分かる。
【0042】
なお、上述の実施の形態では、容器内容積が予め把握できない場合を対象としているが、上述の実施の形態と異なり、予め容器の内容積情報が与えられている場合、又は上述の実施の形態で容器の内容積情報を取得した後においては、一次関数式情報により、容器内の温度を推定することができる。
具体的な推定方法は、上述の実施の形態で用いた図面等を部分的に参照して説明する。図5に基づき以下にて説明する。
【0043】
先ず、この温度推定方法では、図5のST2と同様に、取り込んだ外気温データ22を充填前の容器内温度Tとする。
次にST3と同様に、水素ガスを微小量だけ容器5に充填する。
次にST4で取り込んだ圧力を充填前の容器内圧力Pとする。
【0044】
但し、本温度推定方法では、予め容器の内容積データが与えられている点が異なる。このため、この与えられている容器の内容積Vより、容器内の気体の状態方程式は P・V=fz(P,T)・M・R・T となり、充填前の容器内の水素量Mを求めることができる。
図10は、温度推定方法の一例を示すグラフである。図10の記号hで示す部分が、この求められた実際の充填前水素量Mを示すグラフである。
【0045】
次に充填を開始し、充填を行いながら、充填量、充填圧力を制御装置に取り込む。例えば時刻xにおける充填量をMa、充填圧力をPaとする。
ここで基本式データ28 M={Pa/fz(Pa、Ta)・R・Ta}・V−Ma において、Pa、V、Maを右辺に代入すると、右辺はTaのみの関数となる。従ってこの時刻aにおける関数を、Ta(容器内温度)をX軸に、左辺のM(充填開始前水素量)をY軸に取ると、図10の記号eのグラフとなる。
その後の時刻yで、同様に基本式データ28でTaの関数を求めると、そのグラフは図10の記号fとなる。さらに、その後の時刻zで、同様に基本式データ28でTaの関数を求めると、そのグラフは図10の記号gとなる。
【0046】
そして、各時刻x乃至時刻zと、図10の充填前の容器内の水素量MをY軸としたグラフ(h)との交点のX軸の値が時刻x等において推定される容器内温度Tx、Ty、Tzとなる。
【0047】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0048】
1・・・水素ガス充填装置、2・・・蓄圧器、3・・・配管、4・・・充填ホース、5・・・容器、6・・・調節弁、7・・・流量計、8・・・圧力計、9・・・制御装置、10・・・記憶演算装置、11・・・温度計、12・・・入力装置、20・・・第1の記憶領域、21・・・圧力充填量データ、22・・・外気温データ、23・・・微少量データ、24・・・昇圧率決定データ、25・・・当該昇圧率データ、26・・・容器の暫定容積データ、27・・・目標充填流量及び目標充填量データ、28・・・基本式データ、29・・・各一次関数データ、30・・・暫定温度データ、31・・・各交点データ、32・・・容器内容積データ、40・・・第2の記録領域、41・・・圧力充填量データ取得プログラム、42・・・外気温度取込プログラム、43・・・調節弁微小開放プログラム、44・・・昇圧率決定プログラム、45・・・充填流量決定プログラム、46・・・水素充填プログラム、47・・・圧力判断プログラム、48・・・一次関数生成プログラム、49・・・V1交点データ生成プログラム、50・・・容器内容積データ生成プログラム、51・・・容器内容積判断プログラム、52・・・V2交点データ生成プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を収容する容器に対して充填される気体の充填量を計測する流量計測部と、
前記容器内の気体の圧力を計測する圧力計測部と、を有する気体充填装置であって、
前記容器の充填前の気体量情報と、前記容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報を格納する一次関数式情報格納部を有し、
前記一次関数式情報は、前記容器内の圧力情報、前記容器に対して充填される気体の充填量情報及び前記容器内の気体温度情報を含み、前記一次関数式情報は、これら前記容器内の圧力情報、前記気体の充填量情報及び前記気体温度情報が代入されることで、具体的な前記一次関数式情報である具体的一次関数式情報として表すことができる構成となっており、
予め定められた前記気体温度情報を格納する気体温度情報格納部を備え、
前記気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を、それぞれ前記圧力計測部及び前記流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報、並びに前記気体温度情報格納部に格納されている前記気体温度情報を前記一次関数式情報に代入し、複数の前記具体的一次関数式情報を生成し、
これら複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記容器の内容積情報を推定することを特徴とする気体充填装置。
【請求項2】
複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記容器の内容積情報を推定した後、前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を複数回取得し、前記容器の内容積情報を推定することを特徴とする請求項1に記載の気体充填装置。
【請求項3】
気体を収容する容器に対して充填される気体の充填量を計測する流量計測部と、
前記容器内の気体の圧力を計測する圧力計測部と、を用いる気体充填方法であって、
前記容器の充填前の気体量情報と、前記容器の内容積情報が、関連して変わる2つの変数情報となっている一次関数式情報は、前記容器内の圧力情報、前記容器に対して充填される気体の充填量情報及び前記容器内の気体温度情報を含み、前記一次関数式情報は、これら前記容器内の圧力情報、前記気体の充填量情報及び前記気体温度情報が代入されることで、具体的な前記一次関数式情報である具体的一次関数式情報として表すことができる構成となっており、
前記気体の充填中に、所定の圧力が上昇するごとに、前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報を、それぞれ前記圧力計測部及び前記流量計測部を用いて、複数回取得し、これら複数回取得した前記容器内の圧力情報及び前記気体の充填量情報、並びに前記気体温度情報格納部に格納されている、予め定められた前記気体温度情報を前記一次関数式情報に代入し、複数の前記具体的一次関数式情報を生成し、
これら複数の前記具体的一次関数式情報の交点情報に基づいて前記収容容器の内容積情報を推定することを特徴とする気体充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−226558(P2011−226558A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96985(P2010−96985)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】