説明

気体搬送ポンプ、検出センサ

【課題】 気体を微量であっても高い精度で搬送することができ、しかも信頼性に優れる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 気体搬送ポンプ10は、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、テーパ状の入口側ディフューザ部15、テーパ状の出口側ディフューザ部16からなる流路と、ヒータ20を備えるようにし、ヒータ20によってチャンバー部12内の気体を膨張・収縮させて体積変化を生じさせることで、入口側チャンネル13から出口側チャンネル14へと気体を確実に搬送するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体搬送ポンプ、および雰囲気中に存在する分子等を検出する検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の気体を搬送する場合、一般には、ファン等により気体に流れを生じさせる手法、ポンプ等により気体を圧送する手法、真空ポンプ等で圧力差を生じさせることで気体を吸引する手法等が用いられる。
しかし、このような手法では、微量の気体を搬送することや、気体の流量を高精度に制御するのは困難となっている。
【0003】
一方、液体の搬送においては、ダイヤフラムを圧電素子や静電アクチュエータで駆動する方式のポンプがある。
また、液体の搬送においては、例えばインクジェット方式のプリンタ技術において、熱エネルギーをインク(液体)に与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方式等が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
これらの技術では、液体の流量を微量に制御して搬送することが可能となっている。
【0004】
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したようなダイヤフラムを用いたポンプや、熱エネルギーを用いて気泡を発生させる方式の技術は、液体を対象としたものであり、気体を対象として微量流量で搬送を行う技術は未だ提案されていない。
前記の技術は、いずれも液体に圧力変化を生じさせることで、液体の移動を生じさせるものである。このような技術を単純に気体に適用しても、気体の場合液体よりも密度が低いため、液体と同程度の圧力変化を生じさせたとしても、体積変化が生じるまでに至らず、単に密度が上昇するだけに留まり、その結果気体の移動を生じることが困難となるのである。気体に移動させるに足る圧力変化を生じさせようとすると、ダイヤフラム等の変化量を大きくしなければならず、間欠的動作ならともかく、連続的動作を実現するのは難しい。また、上記したような技術では、微量な流量での気体の搬送は、さらに困難である。
【0006】
また、上記のような従来の手法では、熱エネルギーを用いて気泡を発生させる方式を除き、いずれも機械的な可動部分を備える構成となっている。このため、可動部分の故障等による信頼性の低下を免れることは困難となっている。この他にも、可動部分を備える場合、その作動音や作動による発熱等が問題になることもある。また、このような機構をセンサ等に適用しようとした場合、可動部分の作動音や振動、熱等が、センサの検出感度に悪影響を与えることも考えられる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、気体を微量であっても高い精度で搬送することができ、しかも信頼性に優れる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明の気体搬送ポンプは、ポンプ内に形成されたチャンバー部と、チャンバー部とポンプの外部とを連通するよう形成された第一のチャンネルと、第一のチャンネルとは異なる位置にてチャンバー部とポンプの外部とを連通するよう形成された第二のチャンネルと、チャンバー部と第一のチャンネルの間に形成され、第一のチャンネル側からチャンバー部に向けて内径が漸次縮小する第一の縮径部と、チャンバー部と第二のチャンネルの間に形成され、チャンバー部側から第二のチャンネル側に向けて内径が漸次縮小する第二の縮径部と、チャンバー部内の温度を変化させる温度変化手段と、を備えることを特徴とする。
このような気体搬送ポンプにおいては、温度変化手段でチャンバー部内の温度の上昇・下降を繰り返す。すると、チャンバー部内で気体が膨張・収縮し、体積変化を生じる。膨張時、気体は、チャンバー部に臨むように形成された第一の縮径部と第二の縮径部からチャンバーの外部に出ようとするが、第一の縮径部は第一のチャンネル側からチャンバー部に向けて内径が漸次縮小し、チャンバー部側においてその内径が小さくなっているのに対し、第二の縮径部は、チャンバー部側から第二のチャンネル側に向けて内径が漸次縮小し、チャンバー部側においてその内径が大きくなっている。この部分における圧力損失の違いにより、気体は第一の縮径部よりも第二の縮径部からの方が外部に流出しやすい。一方、気体が収縮すると、第一の縮径部と第二の縮径部からチャンバーの外部の気体をチャンバー内に引き込もうとする。このとき、気体は、第二の縮径部よりも第一の縮径部からの方が、外部の気体を引き込みやすい。
つまりこれにより、チャンバー部内の温度を上昇させるとチャンバー内の気体が第二のチャンネル側に流出し、チャンバー部温度を下降させると第一のチャンネルからチャンバー内に気体が流入する。チャンバー部内の温度の上昇・下降を繰り返すことで、第一のチャンネル側から第二のチャンネル側に気体を搬送することができるのである。このとき、ポンプ内で、気体は相変化せず、気体状態のまま搬送される。温度変化を用いることで、ダイヤフラム等を用いる場合に比較し、気体に圧力変化を容易に生じさせることができ、これにより、微量流量であっても、気体を確実に搬送することが可能となる。
【0008】
温度変化手段としては、ヒータと、ヒータの発熱温度を変化させるコントローラとからなるものを用いることができる。
また、ポンプを通る気体の流量を検出する流量センサをさらに備えることもできる。その場合、流量センサは、第一のチャンネル、第一の縮径部、チャンバー部、第二の縮径部、第二のチャンネルからなる気体の流路の近傍に設け、流路内の温度変化を検出することで気体の流量を検出するのが良い。さらに言えば、この流量センサは、第一のチャンネルおよび/または第一の縮径部の近傍と、第二のチャンネルおよび/または第二の縮径部の近傍に、それぞれ備えるのが好ましい。そして、それぞれ備えられた流量センサの出力の差分を検出するのが、ノイズ除去等を図ることができるために好ましい。
【0009】
このような気体搬送ポンプにおいて、第一のチャンネル、第一の縮径部、チャンバー部、第二の縮径部、第二のチャンネルは、シリコン基板にリソグラフィ法によって形成することができる。これにより、気体搬送ポンプを、非常に微小なものとすることができ、しかも安価に大量生産することも可能である。
シリコンは、熱伝導率が高いこと、加工が容易であること、安価であること等の優れた特徴を有しているが、シリコンに限らず、ガラス系材料や樹脂系材料、セラミックス系材料等を用いて、第一のチャンネル、第一の縮径部、チャンバー部、第二の縮径部、第二のチャンネルを形成しても良い。ガラス系材料や樹脂系材料の場合、パターン形成には、リソフラフィ法を用いても良いし、モールド法やインプリント法を用いても良い。
また、第一のチャンネルおよび第一の縮径部と、第二の縮径部および第二のチャンネルとは、それぞれ複数組形成しても良い。
さらに、気体搬送ポンプは、非常にシンプルな構造であり、可動部分も有さないため、故障等も生じにくく、高い耐久性・信頼性を得ることができ、また作動音等も生じない。
【0010】
上記したような気体搬送ポンプは、様々な用途に用いることができる。例えば、特定の種類の物質を検出するための検出センサにおいて、検出対象の物質を含んだ気体を、物質を吸着する吸着材や分子(気体分子)認識材料等に送り込む用途がある。このように、物質を含んだ気体を吸着材に強制的に送り込むことで、特定の物質の検出感度を向上させたり、測定時間を短縮したりすることができる。これ以外にも、気体を搬送して気流を起こすことで、各種の機器を冷却する等、様々な用途への適用が可能であり、本発明の気体搬送ポンプは、その用途を特に限定する意図はない。いずれの場合においても、微量な流量で気体を搬送する場合、気体搬送ポンプの小型化、マイクロ化を図りたい場合に本発明は有効となる。
【0011】
本発明の検出センサは、気体中に含まれる質量を有した物質を検出する検出部と、検出部に気体を送り込むポンプ部とを備える。そして、ポンプ部は、外部から検出部に気体を送り込むための流路が形成されたポンプ本体と、流路内で気体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、体積変化発生部により気体に体積変化が生じたとき、流路内で検出部から離れる方向に気体が移動するのを阻止する逆流防止部と、を備えることを特徴とする。
体積変化発生部により気体に体積変化が生じたとき、逆流防止部により流路内で検出部から離れる方向に気体が移動するのを阻止することで、気体は流路内で検出部に向けて移動する。このようにして、ポンプ本体は、流路を通して、外部から検出部に気体を送り込むことが可能となる。
このとき、ポンプ本体はチャンバー部を有し、体積変化発生部はチャンバー部内で気体に体積変化を生じさせ、逆流防止部として、気体の移動方向に向けて流路の内径が漸次縮小する縮径部を、チャンバー部の前後にそれぞれ形成するのが好ましい。ところで、逆流防止部に微細な縮径部を用いると、気体に対する流路抵抗が大きくなる。このため、逆流防止部をそれぞれ備えた流路を複数、並列に備えることができる。この場合、流路をチャンバー部から放射状に設けても良いし、並行するように設けても良い。
また、体積変化発生部は、流路内で気体の温度を変化させることで体積変化を生じさせるのが良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気体を微量であっても高い精度で搬送することが可能となり、しかも非常に小さなサイズの気体搬送ポンプを実現できる。さらに、非常にシンプルな構造であり、可動部分も有さないため、故障等も生じにくく、高い耐久性・信頼性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における気体搬送ポンプ(ポンプ部)10の機能的構成を説明するための図、図2は気体搬送ポンプ10の実際的な構成を示す図である。
この図1および図2に示すように、気体搬送ポンプ10は、本体11内に、所定の容積を有したチャンバー部12、このチャンバー部12に外部から気体を導入する入口側チャンネル(第一のチャンネル)13、チャンバー部12から気体を送り出す出口側チャンネル(第二のチャンネル)14、チャンバー部12と入口側チャンネル13の間に設けられた入口側ディフューザ部(第一の縮径部、逆流防止部)15、チャンバー部12と出口側チャンネル14の間に設けられた出口側ディフューザ部(第二の縮径部、逆流防止部)16が形成され、チャンバー部12に、ヒータ20が設けられた構成を有している。
【0014】
図3に示すように、本体11は、例えば2枚のシリコン基板11a、11bを貼り合せることで形成されている。これらシリコン基板11a、11bのいずれか一方または双方の合わせ面に所定形状の凹部を形成することで、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16が形成されている。
【0015】
チャンバー部12は、例えば円形状断面を有している。このチャンバー部12の一方の側には、入口側ディフューザ部15が形成され、他方の側に出口側ディフューザ部16が形成されている。
【0016】
入口側チャンネル13は、一端が本体11の側面に開口し、他端が入口側ディフューザ部15に連通するよう形成されている。入口側ディフューザ部15は、入口側チャンネル13とチャンバー部12とを連通するように形成され、入口側チャンネル13側からチャンバー部12側に向けて、その断面積(内径)が漸次小さくなるテーパノズル状とされている。
【0017】
出口側チャンネル14は、一端が本体11の側面に開口し、他端が出口側ディフューザ部16に連通するよう形成されている。出口側ディフューザ部16は、チャンバー部12と出口側チャンネル14とを連通し、入口側ディフューザ部15とは異なる位置でチャンバー部12に開口するように形成され、チャンバー部12側から出口側チャンネル14側に向けて、その断面積が漸次小さくなるテーパノズル状とされている。
【0018】
このようにして、本体11には、入口側チャンネル13から、入口側ディフューザ部15、チャンバー部12、出口側ディフューザ部16を経て、出口側チャンネル14までが連通した気体流路が形成されている。
そして、図2および図3に示したように、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14にポート17、18が形成され、ここに配管等を接続することができるようになっている。
【0019】
さて、チャンバー部12に設けられたヒータ20は、例えばAu、Pt、Cu、Pd、Ir、Cr、Mo、Ti等の貴金属、高融点金属や、ITO、SnO、Poly−Si等の金属酸化膜や半導体等からなる電熱線であり、本体11の外部に配置される電源(図示無し)に電気的に接続される。そして、電源(図示無し)におけるヒータ20への電圧の印加は、コントローラ21によって制御されるようになっている。
コントローラ21の制御により電源から電圧が印加されるとヒータ20が発熱し、これによってチャンバー部12内の温度が上昇して気体が膨張し、ヒータ20への電圧の印加を停止するとヒータ20の発熱が中止され、チャンバー部12内の温度が低下して気体が収縮する。気体搬送ポンプ10では、ヒータ20、コントローラ21が、温度変化手段、体積変化発生部として機能し、気体の膨張・収縮を利用することで、気体の送給を行うようになっている。以下、これについて詳述する。
【0020】
気体搬送ポンプ10においては、外部の気体を入口側ディフューザ部15からチャンバー部12に導入し、出口側ディフューザ部16から吐出する。チャンバー部12に気体が導入された状態で、ヒータ20が発熱すると、チャンバー部12内の温度が上昇して気体が膨張する。すると、膨張した気体は、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16からチャンバー部12の外部に流出しようとする。
このとき、図1(b)に示すように、入口側ディフューザ部15は、入口側チャンネル13側からチャンバー部12側に向けて、また出口側ディフューザ部16は、チャンバー部12側から出口側チャンネル14側に向けて、その断面積が漸次小さくなるテーパノズル状とされている。このため、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16においては、その断面積が漸次小さくなる方向(以下、この方向を順方向と称する)に気体が流れる場合と、逆方向、つまり断面積が漸次大きくなる方向(出口側チャンネル14側から入口側チャンネル13側に向かう方向:以下、この方向を逆方向と称する)に気体が流れる場合とでは、圧力損失が異なる。すなわち、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16では、気体が順方向に流れるときの圧力損失よりも、気体が逆方向に流れるときの圧力損失の方が大きくなる。これは、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16のエッジ15a、16aの部分において、気体の粘性によって乱れ渦が生じ、これによって流体の運動エネルギーが損なわれ、その結果、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16における気体の流れが、順方向の方が逆方向よりもスムーズになるからである。
これにより、チャンバー部12内の気体が膨張し、外部に流出しようとした場合、気体は、より抵抗(圧力損失)の小さい出口側ディフューザ部16からチャンバー部12の外部に流出する。
【0021】
この後、ヒータ20への電圧の印加を停止するとヒータ20の発熱が中止され、チャンバー部12内の温度が低下して気体が収縮する。すると、気体の収縮に伴い、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16からチャンバー部12内に気体を導入しようとする。
このとき、テーパノズル状の入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16において、前述したような、気体の流れる方向に応じて圧力損失が異なるため、チャンバー部12内の気体が収縮した場合、気体は、より抵抗(圧力損失)の小さい入口側ディフューザ部15からチャンバー部12の内部に導入される。
【0022】
このようにして、ヒータ20の加熱時にはチャンバー部12内の気体が膨張して出口側ディフューザ部16から出口側チャンネル14に流出し、ヒータ20の停止時にはチャンバー部12内の気体が収縮して入口側チャンネル13から入口側ディフューザ部15を介してチャンバー部12内に気体が導入されるようになっている。
したがって、気体搬送ポンプ10では、このヒータ20の加熱・停止を繰り返すことで入口側チャンネル13から気体を吸い込み、出口側チャンネル14から気体を吐出することができ、ポンプとして機能することになる。
このため、コントローラ21では、所定のサイクルで、ヒータ20のON/OFFを交互に切り替えるようになっている。例えば、コントローラ21では、ヒータ20のON/OFFを100マイクロ秒〜1ミリ秒のサイクルで繰り返すように制御することができる。また、コントローラ21では、ヒータ20をON/OFFさせたときに、室温〜1000℃、好ましくは室温〜500℃の幅で温度変化が生じるように制御するのが好ましい。
【0023】
このとき、ヒータ20のパワーを高めれば、ON/OFF時の温度差が大きくなり、気体搬送ポンプ10における流量が増大する。また、ON/OFFの切り替え周波数を高めれば流量が減少する。これらON/OFF時の温度差と切り替え周波数は、気体搬送ポンプ10の適用対象、用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、高温でガスが分解するような用途に用いる場合には、温度を下げて使うことが必要である。
【0024】
さらに、気体搬送ポンプ10には、吐出する気体の流量を計測するための流量センサ30を備えることもできる。流量センサ30は、入口側ディフューザ部15および出口側ディフューザ部16の少なくとも一方の近傍に配置される。この流量センサ30は、常時一定の電圧を印加し、所定の温度に維持されるようにしておく。
流路内を気体が流れると、入口側ディフューザ部15および出口側ディフューザ部16の温度が低下する。これに伴い、流量センサ30の温度も低下するので、そのときの電気抵抗の変化をモニタリングすることで、入口側ディフューザ部15および出口側ディフューザ部16の温度の低下を検出できる。これによって、予め、入口側ディフューザ部15および出口側ディフューザ部16の温度の低下量と、流量との関係を把握しておくことで、流量センサ30では、気体搬送ポンプ10で吐出する気体の流量を検出することができるのである。
【0025】
流量センサ30の配置や、その出力信号の処理に関しては、感度を向上させるために様々な構成が考えられる。例えば、入口側ディフューザ部15側および出口側ディフューザ部16側のそれぞれに流量センサ30を設け、その差分を取ることで、流量の絶対値を検出したり、ノイズ成分を除去することができる。また、応答特性をとることで、ノイズ成分やドラフト成分を除去することも可能である。
【0026】
このような気体搬送ポンプ10を形成するには、例えば、酸化層とフォトレジスト層とが積層されることで構成されたシリコン基板11aに、リソグラフィ法によりパターンを形成することで、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16等を形成する。
これにはまず、シリコン基板11aの酸化層に、リソグラフィ法により、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16のパターンを形成する。
続いて、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16をマスクした状態で、エッチングにより、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14を、所定の深さに形成する。
さらに、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16のマスクを外し、エッチングにより、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16を所定の深さに形成する。
【0027】
他方のシリコン基板11bには、金等の導電材料からなる導電層を設けておき、この導電層にリソグラフィ法およびエッチングにより、ヒータ20と、流量センサ30の配線パターンを形成する。
そして、これらシリコン基板11a、11bを貼り合わせることで、気体搬送ポンプ10を形成することができる。
【0028】
なお、ヒータ20や流量センサ30を設ける部材であるシリコン基板11bの材質や板厚等に関しては、注意深く設計する必要がある。例えば、熱伝達率の大きな材料を採用し、かつ板厚を薄くすれば、発熱や放熱の効率を高めることができ、これにより、ヒータ20のON/OFFの切り替え周波数を高めて気体搬送ポンプ10の流量を増大させることが可能となるからである。
【0029】
このような気体搬送ポンプ10は、微量な気体を搬送する様々な用途に適用することができる。例えば、ガス等の気体検知用の検出センサにおいて、検出センサ部分に気体を供給するための流量制御、半導体プロセス工程や、ガス燃焼機器におけるガス濃度の微量な調整、例えばモバイル用機器におけるCPU冷却のため等における冷媒の供給等である。
例えば、ガス等の気体検知用の検出センサは、爆発危険性や有害性のあるガス等の存在、あるいはその定量的な濃度を検出するためのものとすることができる。この検出センサでは、ガスに含まれる特定の分子を吸着し、その吸着の有無、あるいは吸着量を検出することで、ガス等の存在の有無、あるいはその濃度を検出する。このような検出センサは、ガス等を取り扱う施設、設備、装置等に設置され、ガスの漏れやガス量のコントロールに用いられる。
また近年開発が盛んに行われている、燃料電池用の水素ステーションや、燃料電池を使用する車両や装置、機器等において、水素の漏れが無いか監視する用途にも、上記検出センサは適用できる。
これ以外にも、特定の分子、あるいは特定の特性または特徴を有する複数種の分子を吸着することで、その吸着の有無あるいは吸着量を検出する検出センサは、例えば食物の鮮度や成分分析、快適空間を提供・維持するための環境制御、さらには、人体等、生体の状態検知等に用いることが考えられる。また、人体から出る様々な物質、呼気や腸内フローラの代謝成分等を高感度に検出することで、健康状態のモニタリング、疾患の簡易なスクリーニング、生活習慣性疾患の診断、感染症のモニタリング等といったことを行うことが可能になると考えられる。
【0030】
このような検出センサとしては、大きく分けて2種類の方式のものがある。
一つは、カンチレバー上に、特定の分子を吸着する分子吸着膜(感応膜)を設け、分子吸着膜に分子が吸着されたときのカンチレバーの状態変化から、分子の吸着を検出するものである。分子吸着膜に分子が吸着されると、分子吸着膜の質量が増加する。これにより、カンチレバーのたわみ量が変化するので、その変化量から、特定の分子の吸着を検出できる。また、分子の吸着により分子吸着膜の質量が増加すると、カンチレバーと分子吸着膜とからなる系の共振周波数が変化するので、その変化から特定の分子の吸着を検出することもできる。
もう一つの方式は、水晶振動子に分子吸着膜を設け、分子吸着膜に分子が吸着されたときの、水晶振動子の共振周波数変化から、特定の分子の吸着を検出するものである。
これ以外にも、適宜他の方式の検出センサを採用することは、もちろん可能である。
【0031】
このような検出センサに、上記気体搬送ポンプ10を組み合わせることで、気体搬送ポンプ10で検出対象となるガスを採集し、これを検出センサの部分に供給することで、検出センサにおいて検出を高精度で行うことが可能となる。
【0032】
上述したように、気体搬送ポンプ10は、気体の熱膨張を利用することで、確実に体積変化を生じさせ、微量な流量であっても気体を確実に搬送することができる。しかも、気体を搬送させるためには、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16からなる流路と、ヒータ20を備えるのみでよく、機械的な可動部分が不要であるため、高い信頼性を得ることができ、また可動部分を備える場合のように作動音や作動による発熱等が問題になるのも回避できる。
【0033】
また、気体搬送ポンプ10は、その構成からして非常に小型のものとすることができる。これにより、この気体搬送ポンプ10を組み合わせて構成する検出センサ等についても小型化することが可能となる。
【実施例】
【0034】
上記のような構成の気体搬送ポンプ10について、その動作をシミュレーションによって検証した。ここで、チャンバー部12の内径は100μm、入口側チャンネル13の幅は10μm、高さは20μm、出口側チャンネル14の幅は10μm、高さは20μm、入口側ディフューザ部15の長さは5μm、ディフューザ部分の幅は1〜4μm、高さは2〜5μm、出口側ディフューザ部16は入口側ディフューザ部15と同形状とした。
また、ヒータ20には、100mAの電流を100ms流し、100ms停止させるというサイクルを繰り返した。
【0035】
チャンバー部12の部分においては、温度が室温〜500℃に周期的に変動し、出口側チャンネル14からは、気体がチャンバー部12の体積に対して1回の温度サイクル当たり3%の割合で吐出された。
【0036】
なお、上記実施の形態では、気体搬送ポンプ10の寸法例、材質例、製法等を示したが、同様の機能を有するものを実現できるのであれば、上記に示した範疇のものに限るものではない。また、気体搬送ポンプ10の用途についても、上記した以外とすることもできる。
また、気体搬送ポンプ10において、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14を一直線状に配置した構成としたが、これに限るものではなく、入口側チャンネル13と出口側チャンネル14を、互いに所定角度ずれた位置に配置したり、隣接して並ぶように配置する等、様々な配置とすることができる。
【0037】
また、上記実施の形態において、気体搬送ポンプ10を形成するのにシリコンを基板材料として用いた。シリコンは、熱伝導率が高いこと、加工が容易であること、安価であること等の優れた特徴を持っている。しかし、気体搬送ポンプ10を形成するのに、ガラス系材料、プラスチック系材料、セラミックス系材料等を用いても良い。ガラス系材料やプラスチック系材料を用いる場合には、リソグラフィ技術のほか、モールド技術、インプリント技術等を用いて気体搬送ポンプ10を形成しても良い。
本実施の形態では、シリコン基板11aに、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16等を形成し、他方のシリコン基板11bに、ヒータ20と流量センサ30の配線パターンを形成し、これらシリコン基板11a、11bを互いに接合する構成としたが、これに限るものではない。例えば、ヒータ20と流量センサ30を、別体の部材としても良い。
さらに、チャンバー部12、入口側チャンネル13、出口側チャンネル14、入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16等の部材表面には、シリコン酸化層を設けて緻密化したり、SiNを積層したり、あるいは窒化処理を行ったりしてコーティング層を形成し、部材表面と気体との流路抵抗を小さくしても良い。さらには、扱う気体の種類によって、表面のコーディング層の材料を異ならせることもできる。
【0038】
ところで、上記実施の形態における気体搬送ポンプ10においては、微細な入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16を用いているため、気体に対する流路抵抗が比較的大きい。このため、流量を増大させるために、入口側チャンネル13および入口側ディフューザ部15、出口側ディフューザ部16および出口側チャンネル14からなる流路を、入口側、出口側にそれぞれ複数組設け、トータルでの流路面積を拡大することも可能である。この場合、流路をチャンバー部12から放射状に設けても良いし、並行するように設けても良い。また、このような気体搬送ポンプ10を複数積層することで、トータルでの流路面積を拡大するようにしても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施の形態における気体搬送ポンプの概略的な構成を示す図であり、(a)は全体図、(b)は要部の拡大図である。
【図2】気体搬送ポンプの構成を示す図である。
【図3】気体搬送ポンプの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10…気体搬送ポンプ(ポンプ部)、11…本体、12…チャンバー部、13…入口側チャンネル(第一のチャンネル)、14…出口側チャンネル(第二のチャンネル)、15…入口側ディフューザ部(第一の縮径部、逆流防止部)、16…出口側ディフューザ部(第二の縮径部、逆流防止部)、20…ヒータ、21…コントローラ、30…流量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を搬送するポンプであって、
前記ポンプ内に形成されたチャンバー部と、
前記チャンバー部と前記ポンプの外部とを連通するよう形成された第一のチャンネルと、
前記第一のチャンネルとは異なる位置にて前記チャンバー部と前記ポンプの外部とを連通するよう形成された第二のチャンネルと、
前記チャンバー部と前記第一のチャンネルの間に形成され、前記第一のチャンネル側から前記チャンバー部に向けて内径が漸次縮小する第一の縮径部と、
前記チャンバー部と前記第二のチャンネルの間に形成され、前記チャンバー部側から前記第二のチャンネル側に向けて内径が漸次縮小する第二の縮径部と、
前記チャンバー部内の温度を変化させる温度変化手段と、
を備えることを特徴とする気体搬送ポンプ。
【請求項2】
前記温度変化手段で前記チャンバー部内の温度の上昇・下降を繰り返して前記チャンバー部内の前記気体の体積変化を生じさせることで、前記第一のチャンネル側から前記第二のチャンネル側に前記気体を搬送することを特徴とする請求項1に記載の気体搬送ポンプ。
【請求項3】
前記ポンプ内で、前記気体は相変化せず、気体状態のまま搬送されることを特徴とする請求項1または2に記載の気体搬送ポンプ。
【請求項4】
前記温度変化手段は、ヒータと、前記ヒータの発熱温度を変化させるコントローラとからなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の気体搬送ポンプ。
【請求項5】
前記ポンプを通る前記気体の流量を検出する流量センサをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の気体搬送ポンプ。
【請求項6】
前記流量センサは、前記第一のチャンネル、前記第一の縮径部、前記チャンバー部、前記第二の縮径部、前記第二のチャンネルからなる前記気体の流路の近傍に設けられ、前記流路内の温度変化を検出することで、前記気体の流量を検出することを特徴とする請求項5に記載の気体搬送ポンプ。
【請求項7】
前記流量センサは、前記第一のチャンネルおよび/または前記第一の縮径部の近傍と、前記第二のチャンネルおよび/または前記第二の縮径部の近傍に、それぞれ備えられていることを特徴とする請求項6に記載の気体搬送ポンプ。
【請求項8】
それぞれ備えられた前記流量センサの出力の差分を検出することを特徴とする請求項7に記載の気体搬送ポンプ。
【請求項9】
前記第一のチャンネル、前記第一の縮径部、前記チャンバー部、前記第二の縮径部、前記第二のチャンネルは、シリコン基板にリソグラフィ法によって形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の気体搬送ポンプ。
【請求項10】
前記第一のチャンネル、前記第一の縮径部、前記チャンバー部、前記第二の縮径部、前記第二のチャンネルは、ガラス系材料または樹脂系材料からなる基板に形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の気体搬送ポンプ。
【請求項11】
前記第一のチャンネルおよび前記第一の縮径部と、前記第二の縮径部および前記第二のチャンネルとが、それぞれ複数組形成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の気体搬送ポンプ。
【請求項12】
気体中に含まれる質量を有した物質を検出する検出部と、
前記検出部に前記気体を送り込むポンプ部とを備え、
前記ポンプ部は、外部から前記検出部に前記気体を送り込むための流路が形成されたポンプ本体と、
前記流路内で前記気体に体積変化を生じさせる体積変化発生部と、
前記体積変化発生部により前記気体に体積変化が生じたとき、前記流路内で前記検出部から離れる方向に前記気体が移動するのを阻止する逆流防止部と、
を備えることを特徴とする検出センサ。
【請求項13】
前記ポンプ本体はチャンバー部を有し、前記体積変化発生部は前記チャンバー部内で前記気体に体積変化を生じさせ、
前記逆流防止部として、前記気体の移動方向に向けて前記流路の内径が漸次縮小する縮径部が、前記チャンバー部の前後にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項12に記載の検出センサ。
【請求項14】
前記体積変化発生部は、前記流路内で前記気体の温度を変化させることで体積変化を生じさせることを特徴とする請求項12または13に記載の検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−23970(P2007−23970A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210351(P2005−210351)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】