説明

気体流量計

【課題】微風域から強風域に至るまでの広範な風量域において風向と風量を高精度に検出することができ、かつ良好な汚れ耐性を有する気体流量計を実現する。
【解決手段】電熱線13と銅箔14とを一組とする熱電対11をプリント基板10上に形成すると共に、サーミスタ12をプリント基板10上に配し、熱電対11及びサーミスタ12を制御回路21と接続する。そして、通電制御回路16で電熱線13への通電を制御すると共に、熱起電力検出回路17で電熱線13と銅箔14との接合点15a、15b間の温度差に応じた熱起電力を極性と共に検出し、これにより微風域での風向と風量を得る。また強風域は熱電対11により風向を検出し、サーミスタ12で風量を検出する。熱電対はプリント基板10上で多数直列接続するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体流量計に関し、より詳しくはボイラ燃焼室と送風機間の管路等に配されて該管路を通過する気体の質量流量を計測する熱式の気体流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボイラ燃焼室に送風される風量を検出する手段として、例えば、特許文献1に示すような風圧センサが広く使用されている。
【0003】
この風圧センサは、管路中に設けられた絞りの両端の圧力を計測し、その差圧を検出して風量を検出している。
【0004】
また、この種の風量検出手段としては、熱式の質量流量計を使用した技術も数多く提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2では、ガスまたは液体がそれぞれ第1の温度センサと、加熱素子と、第2の温度センサとを通って導かれ、質量流量が2つの温度センサの温度信号から決定され、加熱エネルギを節約するために、加熱素子はサイクルで動作され、第1のサイクル相では、加熱素子は第2のサイクル相よりも高温度で動作され、第1のサイクル相は第2のサイクル相よりも短時間とした質量流量の測定方法が提案されている。
【0006】
この特許文献2は、所謂フローセンサ式質量流量計と呼称されるものであって、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を使用し、微細な温度センサを半導体基板上に形成し、2つの温度センサの温度差から質量流量を求めることができる。
【0007】
また、特許文献3では、発熱抵抗体及び温度補償抵抗体を基板に形成してなる流量測定素子と、前記流量測定素子を支持し少なくとも前記流量測定素子の駆動回路を収容するケーシングとを備え、前記流量測定素子が前記ケーシングを介して流量測定対象の空気通路に配置される熱式空気流量計において、温度測定を行う第1、第2温度センサを有し、前記第1温度センサが前記流量測定素子の基板に設けられ、前記第2温度センサが前記ケーシングの内部に設けられた熱式空気流量計が提案されている。
【0008】
この特許文献3では、流量測定素子の出力信号と、第1及び第2の温度センサの出力信号とに基づき空気流量を算出し、これら空気流量から風量を求めている。
【0009】
さらに、特許文献4では、流体が流れる主通路と、この主通路を流れる流体の一部を導入する副通路と、この副通路内に配置され、流体の流量を検出するセンサとを備える熱式流量計測装置において、上記副通路の内面に形成され、上記流体に含まれる液状体を捕獲し、移動させる捕獲手段を備えた熱式流量測定装置が提案されている。
【0010】
この特許文献4では、副通路若しくは主通路に水滴又は油滴等の液状体の捕獲手段を形成し、捕獲手段により、捕獲された液状体を、流量検出用センサ素子とは、離隔した経路を介して、副通路外部に排出するようにすることにより、流量検出用センサ素子に水滴等の液状体が付着するのを防止している。
【0011】
また、特許文献5では、送風気体の流路に配置される風速検出用の抵抗発熱体及び温度補償抵抗を含む回路から前記送風気体の送風量に応じた信号を出力する熱線式風速センサの取付構造であって、前記抵抗発熱体及び前記温度補償用抵抗は、前記送風気体の流れ方向に沿って並設された熱線式風速センサが提案されている。
【0012】
この特許文献5は、図15に示すように、回路基板101の基板面上側に、計測制御に必要な各種電子部品102〜106が装着されると共に、回路基板101の下部の右側縁部には四角形状の切欠部107が形成されており、該切欠部107には、抵抗発熱体108と温度補償用抵抗109とが前後方向に互いに離間して平行配置されている。すなわち、抵抗発熱体108及び温度補償用抵抗109を空中配線して回路基板101に固着し、抵抗発熱体108及び温度補償用抵抗109を空中に晒して送風気体に直接触れさせることにより、風量を検出している。
【0013】
【特許文献1】特開2003−336838号公報
【特許文献2】特表2002−533663号公報
【特許文献3】特開2005−9965号公報
【特許文献4】特開2006−162631号公報
【特許文献5】特開平8−15296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、ボイラでは、送風機からボイラ燃焼室に燃焼用空気を送風し、これにより燃焼運転を行っているが、送風機が停止しているときにはボイラ燃焼室から送風機側に空気が逆流する場合がある。特に、多缶式ボイラの場合、隣接するボイラからの排気ガスが煙道を介してボイラ燃焼室から送風機側に流れ込むおそれがある。このような排気ガス量は、風速換算で0.01〜0.1m/s程度の僅かな風量であるが、このような僅かな風量であっても風向と共に検知できるようにし、送風機等を保護するのが望まれる。
【0015】
また、運転開始時はボイラ燃焼室を所定時間掃気するプレパージが行われる。そして、このプレパージは風速換算で5〜10m/s程度の風量がボイラ燃焼室に送り込まれるが、プレパージ時の風量が極端に不足すると、ボイラの燃焼運転時にも風量不足となって不完全燃焼を惹き起こすおそれがある。また、プレパージ時や燃焼時においても風量のみならず風向をも計測し、ボイラや送風機の異常を未然に防ぐのが望ましい。
【0016】
しかしながら、上記特許文献1〜5では、いずれにおいても風量は検知できても風向までは検知することができない。
【0017】
一方、空気中には塵や埃が浮遊しており、斯かる塵や埃が送風機に直接吸入されてしまうことがある。また、ボイラの起動時には送風機のインペラやケーシングに付着した結露水が水滴となって飛散するおそれがある。したがって、管路に配される流量計には過酷な環境に耐え得ることが要求される。
【0018】
しかしながら、特許文献1に示すような風圧センサでは、管路中に絞りが設けられているため、該絞りが埃や塵によって閉塞すると正確な風量検知が困難になる。
【0019】
また、特許文献2のようなフローセンサ式質量流量計では、計測素子を極小にして感度を向上させているものの、極小の計測素子に塵、埃、水滴等が付着すると正確な風量測定をすることができなくなる。
【0020】
また、特許文献3の熱式空気流量計も、特許文献2と同様、塵、埃、水滴等に弱く、これら塵、埃、水滴等が温度センサに付着してしまうと正確な風量検知が困難になる。
【0021】
また、特許文献4の熱式流量測定装置は、水滴付着を防止することは可能であるが、センサ素子そのものの脆弱さは変わらない。すなわち、水滴以外の塵や埃等の外的要因に対しては脆弱であり、これら塵や埃等がセンサ素子に付着すると正確な風量検知が困難になる。
【0022】
一方、特許文献5の熱線式風速センサは、上記図15に示すように、極細の抵抗発熱体108及び温度補償用抵抗109を空中配線しており、このため、手加工で安定して製造するには高度な熟練を要し、また機械的強度が弱いため組立時の取り扱いも容易ではない。また、手加工等によることなく製造するためには高価な設備投資が必要となり、経済的負担の増大を招くおそれがある。
【0023】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、本発明の第1の目的は、風向の検出が可能な気体流量計を低コストで提供することにある。また、本発明の第2の目的は、塵や埃、水滴等の影響を極力排除した汚れ耐性の良好な気体流量計を提供することにある。さらに、本発明の第3の目的は、微風域からプレパージ時等の強風域の広範な風量域において風向と風量を高精度に検出することができる気体流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記第1の目的を達成するために本発明に係る気体流量計は、管路内に配されて該管路を通過する気体の質量流量を測定する熱式の気体流量計であって、通電により発熱する電熱線と該電熱線に接合される銅箔とを一組とする熱電対が基板上に形成され、前記電熱線と前記銅箔との接合点間で熱起電力を発生させるセンサ本体と、該センサ本体の制御を司る制御手段とを備え、前記制御手段が、前記電熱線への通電状態を制御する通電制御手段と、前記電熱線と前記銅箔との接合点間の温度差に応じた熱起電力を極性と共に検出する熱起電力検出手段と、該熱起電力検出手段の検出結果に基づいて風向及び風量を検出する風向・風量検出手段とを有していることを特徴としている。
【0025】
また、上記第2の目的を達成するために本発明に係る気体流量計は、上述の気体流量計において、前記センサ本体は、多数の前記熱電対が基板上で直列に接続されていることを特徴としている。
【0026】
また、本発明の気体流量計は、前記制御手段は、前記加熱制御手段からの出力と前記熱起電力検出手段への入力とを切り替える切替手段を有し、前記電熱線への加熱動作と前記熱起電力の検出動作とが交互に繰り返されることを特徴としている。
【0027】
さらに、本発明の気体流量計は、前記電熱線への通電パターンを複数種記憶した記憶手段と、前記検出された熱起電力に応じて前記通電パターンを変更する通電パターン変更手段とを有していることを特徴としている。
【0028】
さらに、上記第3の目的を達成するために本発明に係る気体流量計は、上述の気体流量計において、前記基板の温度を検出する温度検出手段が、前記基板上に配されていることを特徴としている。
【0029】
また、本発明の気体流量計は、ボイラ燃焼室と該ボイラ燃焼室に気体を送風する送風機との間に介装されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
上記気体流量計によれば、熱電対の接合点間における温度差に応じた熱起電力が熱起電力検出手段により極性と共に検出され、風向・風量検出手段により風量のみならず風向をも検出されるため、管路内の空気の流れ方向を検知でき、僅かな逆風をも検知して送風機を保護することが可能となる。しかも、熱電対は基板上に形成されているので、空中配線を要することなく、組立性にも優れた部品点数の少ない気体流量計を低コストで得ることができる。
【0031】
また、前記センサ本体は、多数の前記熱電対が基板上で直列に接続されているので、熱電対の一部に塵、埃、水滴等、計測を阻害する物質が付着しても、風量の測定誤差を抑制することが可能となり、汚れ耐性の向上を図ることができる。
【0032】
また、前記制御手段は、前記加熱制御手段からの出力と前記熱起電力検出手段への入力とを切り替える切替手段を有し、前記電熱線への加熱動作と前記熱起電力の検出動作とが交互に繰り返されるので、風向及び風量を高精度且つ効率良く検出することができる。
【0033】
また、前記電熱線への通電パターンを複数種記憶した記憶手段と、前記検出された熱起電力に応じて前記通電パターンを変更する通電パターン変更手段とを有しているので、風量に応じた通電パターンの選択が可能となり、電熱線が加熱焼損したり、電熱線が過度に冷却されて熱電対接合点間の温度差と風量とが比例しなくなるのを極力回避することが可能となる。
【0034】
さらに、前記基板の温度を検出する温度検出手段が、前記基板上に配されているので、プレパージ時や燃焼時等の強風域で、電熱線が過冷された結果、温度差と風量とが比例しなくなっても温度検出手段によって検出された基板温度から風量を検出することができる。しかも、電熱線に通電することにより熱起電力検出手段によって風向は常に検知することができることから、強風域でも風向及び風量を検出することが可能となる。さらに、電熱線が過度に加熱されて焼損するのを温度検出手段で監視することもできる。
【0035】
さらに、ボイラ燃焼室と該ボイラ燃焼室に気体を送風する送風機との間に介装されているので、送風機の停止等の微風域では熱起電力で風向・風量を検出でき、またプレパージ時や燃焼時の強風域では電熱線への通電と温度検出手段による基板温度の検知とを併用することにより、風向及び風量を検出することができ、ボイラ系の送風状態を常時監視して送風状態に起因した異常発生を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0037】
図1は本発明に係る気体流量計としての空気流量計を備えたボイラの一実施の形態を模式的に示す全体構成図である。
【0038】
すなわち、このボイラは、バーナ1を備えたボイラ燃焼室2と、ボイラ燃焼室2からの排気ガスを排出する煙突3と、ボイラ燃焼室2に燃焼用ガスとしての空気を送風する送風機4と、ボイラ燃焼室2に供給される送風量を制御する絞り弁5とを備え、送風機4と絞り弁5とを接続する管路6中には熱式の空気流量計7が配設されている。
【0039】
図2は上記空気流量計7の第1の実施の形態を示すシステム構成図であって、該空気流量計7は、センサ本体8と該センサ本体8を制御する制御部9とを備えている。
【0040】
センサ本体8は、プリント基板10上に熱電対11が形成されると共に、該熱電対11近傍の前記プリント基板10上にはサーミスタ(温度検出手段)12が配されている。
【0041】
熱電対11は、通電により発熱する電熱線13と、該電熱線13に接合される一対の銅箔14、14とからなる。具体的には、プリント基板10上に一対の銅箔14がパターン化されて形成されており、電熱線13の両端が前記銅箔14、14に接合され、電熱線13への通電により、該電熱線13と銅箔14、14との接合点15a、15b間で熱起電力が発生するように構成されている。
【0042】
電熱線13に使用される金属材料としては、銅との間で熱起電力を生じるものであれば特に限定されるものではないが、抵抗率が大きく、銅との間で大きな熱起電力を生じるのが好ましく、Cu−Ni合金の一種であるコンスタンタン(Cu:55%、Ni:45%)が好んで使用される。
【0043】
また、制御部9は、電熱線13への通電を制御する通電制御回路16と、前記接合点15a、15b間の熱起電力を極性と共に検出する熱起電力検出回路17と、電熱線13への通電制御回路16と熱電対11からの熱起電力検出回路17への入力を切り替える切替回路18と、サーミスタ12からの出力が入力される測温回路19と、熱起電力検出回路17や測温回路19からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器20と、上記各構成要素を制御する制御回路21とを備えている。尚、前記熱起電力検出回路17には、検出信号を増幅する電圧増幅器(不図示)が内蔵されている。
【0044】
また、制御回路21は、A/D変換器20からの出力信号が入力される入力部21aと、所定の変換マップや所定の演算プログラム等が記憶された記憶部21bと、該記憶部21bに記憶された演算プログラム等を読み出して演算処理を行う演算部21cと、該演算部21cの演算結果に基づき通電制御回路16や切替回路18に所定の信号を出力する出力部21dとを備えている。
【0045】
このように構成された空気流量計7においては、送風機の停止時等、風速換算で0.01〜0.1m/s程度の微風域の場合は、熱電対11における接合点15a、15b間の温度差ΔTに応じた熱起電力が極性と共に検出され、風向及び風量を算出することができる。
【0046】
一方、プレパージ時や燃焼時等、風速換算で5〜10m/s程度の強風域の場合は、電熱線13は強風に晒され、冷却されることとなるため、前記接合点15a、15b間には温度差ΔTは生じるものの、該温度差ΔTは最早風量と比例せず、正確な風量を計測することが困難になる。
【0047】
そこで、強風域では、前記温度差ΔTに基づいて熱起電力の極性を検出し、風向を検知すると共に、プリント基板10の基板温度Tをサーミスタ12で検出し、その検出結果に基づいて風量を算出している。
【0048】
すなわち、本空気流量計7は、上記微風域では熱起電力検出回路17で極性と熱起電力を検出して風向及び風量を算出し、上記強風域では熱起電力検出回路17で極性を検出すると共に測温回路19でサーミスタ12からの基板温度Tを検出し、これにより風向及び風量を算出している。
【0049】
図3は、微風域における熱起電力と極性の検出原理を説明する図である。
【0050】
図3(a)は、通電制御回路16及び熱起電力検出回路17の双方が駆動していない待機状態を示している。すなわち、本実施の形態では、後述するように送風状態に応じて3種類の通電パターンが適宜選択されるが、通電・測定サイクルを一定とするための調整区間として待機状態が設けられている。
【0051】
図3(b)は、通電制御回路16から電熱線13に通電した状態を示し、矢印A方向の風向に晒されている電熱線13に対し、矢印B方向に通電され、電熱線13が発熱する。そして一定時間電熱線13が加熱された後、切替回路18により、図3(c)に示すように、通電制御回路16から熱起電力検出回路17に切り替えられ、接合点15a、15bの温度差ΔTに応じた熱起電力が検出される。すなわち、風向が矢印A方向の場合は、矢印C方向への正の熱起電力が生じ、一方、風向が矢印A方向とは逆の場合は、熱起電力の極性が反転し、矢印D方向への負の熱起電力が生じる。そして、両接合点15a、15b間で温度差ΔTが生じると、該温度差ΔTに比例した熱起電力が熱起電力検出回路17で極性と共に検出される。
【0052】
このように温度差ΔTに応じた熱起電力が極性と共に検出されると、その検出信号(アナログ信号)はA/D変換器20でデジタル信号に変換されて制御回路21に入力される。この制御回路21では記憶部21cで記憶された熱起電力−風量変換マップに基づいて風量変換され、風向と共にボイラの主制御装置に転送され、処理される。
【0053】
このように本実施の形態では、電熱線13への通電と熱起電力の測定・検出が交互に繰り返し行われ、僅かな風量が管路6に流入したときであっても、風量のみならず風向をも検知することができる。
【0054】
また、本実施の形態では、制御回路21の記憶部21bには、上述したように3種類の通電パターンが記憶されており、演算部21cでは検出された熱起電力に応じて前記通電パターンのうちのいずれかの通電パターンが選択されるように構成されている。
【0055】
図4は、風量と接合点15a、15b間の温度差ΔT及びプリント基板10の基板温度Tとの関係を示した図である。
【0056】
風量が図中Eで示す領域にあるときは、温度差ΔTに応じた風量(熱起電力)を得ることが可能である。
【0057】
しかしながら、上述したように電熱線13に通電することにより該電熱線13は発熱するが、通電時間を常に一定にすると風量が極めて小さい場合は、電熱線13が高温になって焼損してしまうおそれがある。一方、微風域であっても風量が比較的大きい場合は、電熱線13が冷却されて温度差ΔTと風量とが比例しなくなり、正確な風量を計測ができなくなるおそれがある。
【0058】
このように微風域においても、風量によっては風向及び風量の計測に支障が生じ得ることを考慮し、熱起電力の検出信号に応じ、通電パターンの適宜変更を可能としている。
【0059】
図5は、微風域中、中程度の風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートであって、待機時間t1、通電時間t2、測定時間t3で1サイクルtを構成している。
【0060】
この場合、通電時間t2は、図6(a)に示すように、基板温度Tが上限温度Tmaxを超えず、かつ電熱線13が過度に冷却されないように設定される。そして、このような通電時間t2に設定することにより、風量と温度差ΔTは、図6(b)に示すように、比例関係を維持することができ、温度差ΔTに応じた風量(熱起電力)を極性と共に高精度に検出することができる。
【0061】
また、図7は、微風域中、上記中程度の風量よりも小さな風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートであり、待機時間t1′、通電時間t2′、測定時間t3で1サイクルtを構成している。
【0062】
この場合は、風量が極微量であるため、通電時間t2′を長くすると、図8(a)に示すように、基板温度Tが上昇し、電熱線13が焼損するおそれがある。
【0063】
そこで、通電時間t2′は、電熱線13が焼損しないように図5の通電時間t2よりも短い時間に設定される。そしてこれにより、風量と温度差ΔTは、図8(b)に示すように、比例関係を維持することができ、電熱線13は焼損することもなく温度差ΔTに応じた風量(熱起電力)を極性と共に高精度に検出することができる。尚、この場合、通電・測定の1サイクルt及び測定時間t3は図5と同一時間に設定されるため、待機時間t1′はt1′>t1に設定される。
【0064】
また、図9は、微風域中、上記中程度の風量よりも若干大きな風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートを示し、待機時間t1″、通電時間t2″、測定時間t3で1サイクルtを構成している。
【0065】
この場合、通電時間t2″は、図10(a)に示すように、基板温度Tが過度に低下して電熱線13が過冷されないように図5の通電時間t2よりも長い時間に設定される。そしてこれにより、風量と温度差ΔTは、図10(b)に示すように、比例関係を維持することができ、温度差ΔTに応じた風量(熱起電力)を極性と共に高精度に検出することができる。尚、この場合、通電・測定の1サイクルt及び測定時間t3は図5と同一時間に設定されるため、待機時間t1′はt1″<t1に設定される。
【0066】
このように本実施の形態では、風量に応じて通電パターンを可変制御しているので、微風域の風量を風向と共に高精度に検出することができる。
【0067】
一方、プレパージ時や燃焼時等の強風域では、送風機4により風速換算で5〜10m/s程度の風量がボイラ燃焼室に送り込まれるため、電熱線13が過度に冷却され、接合点15a、15b間の温度差ΔTが小さくなって温度差ΔTが風量と比例しなくなる。すなわち、接合点15a、15b間では僅かながらも温度差ΔTが生じることから、極性については検出することができ、したがって風向の検知は可能である。しかしながら、温度差ΔTが風量に比例しなくなるため、熱電対11から得られる熱起電力では正確な風量を求めることはできなくなる。
【0068】
図11は、強風域での風量と基板温度T及び温度差ΔTとの関係を示す図であり、図中、Fで示す領域が強風域である。
【0069】
すなわち、強風域では図9のように通電時間をt2″と長くしても、電熱線13は強風に晒されるため、図11(a)に示すように、基板温度Tが低下し、さらに、図11(b)に示すように、温度差ΔTは生じるものの、温度差ΔTと風量とは比例しなくなり、熱起電力方式のみでは風向は計測できても正確な風量の検出は困難になる。
【0070】
そこで、上述したように強風域では、図9と同様の通電パターンで電熱線13への通電を行って熱起電力検出回路17により極性を検出し、これにより風向を求める一方、プリント基板10上に配されたサーミスタ12でプリント基板10の温度を検出し、斯かる基板温度Tが測温回路19を経て制御回路21に入力され、これによりプレパージ等の強風域での風量を算出している。
【0071】
そしてこれにより、微風域から強風域に至るまでの風量及び風向を求めることができる。しかも、熱電対11は空中配線を要することもなく組立性が容易であり、部品点数も少なく安価な空気流量計を得ることができる。
【0072】
図12は空気流量計の第2の実施の形態を示すシステム構成図である。
【0073】
この第2の実施の形態では、空気流量計22のセンサ本体23において、電熱線24と銅箔25とからなる熱電対が多数直列にプリント基板26上に接続され、これにより熱電対群27が形成されている。
【0074】
具体的には、熱電対群27は、銅箔25がプリント基板26上に一定パターンで形成されており、多数の熱電対が直列接続されるように、電熱線24が、プリント基板26上で図中上下方向に多数並設されている。そしてこれにより銅箔24と電熱線24との各接合点28a、28b間で両端の温度差に応じた熱起電力が検出されることとなる。
【0075】
本第2の実施の形態では、プリント基板26上で銅箔25と前記電熱線24とが多数直列接続された熱電対群27の各接合点28a、28b間で熱起電力が検出されるので、出力を増大させることができると共に、塵、埃、水滴等が熱電対群27の一部に付着しても測定誤差を抑制することができ、汚れ耐性を向上させることができる。すなわち、第1の実施の形態のように熱電対が1個の場合や、特許文献2〜4のような場合は塵、埃、水滴等が測定素子に付着すると測定誤差が生じ易いが、この第2の実施の形態では、電熱線24と銅箔25とからなる熱電対が多数直列にプリント基板26上に接続されて熱電対群27を構成しているので、熱電対群27のうち一部の熱電対に塵や埃、水滴等が付着しても、多数の接合点28a、28bを有していることから、汚れ耐性を向上させることができる。例えば、熱電対群27がn列の直列接続された熱電対からなる場合は、1個の熱電対に塵や埃、水滴等が付着しても熱起電力に対する影響を1/nに抑制することができ、汚れ耐性を向上させることができる。
【0076】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0077】
上記実施の形態では、通電パターンの変更処理を制御回路21で行っているが、ボイラの主制御装置等、外部からの指令により可変制御するように構成してもよく、また通電パターンの切替段数も3段に限定されることはなく、2段或いは4段以上の多段であってもよいのはいうまでもない。
【0078】
また、上記実施の形態では、媒体ガスとして空気を使用しているが、空気以外の気体の流量計に対しても適用できるのはいうまでもない。
【0079】
さらに、上記実施の形態では、空気流量計をボイラに搭載しているが、ボイラ以外の機器にも適用可能である。
【0080】
次に、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0081】
図13に示す実験装置を試作して風速と温度差との関係を調べた。
【0082】
この実験装置は、本発明の気体流量計32が直径100mmの塩化ビニル製管路31に装着され、前記気体流量計32はパーソナルコンピュータ36に接続されている。また、可変風量送風機33と管路31の間に市販の空気流量計34が介装され、さらに前記可変風量送風機33はインバータ35に接続されている。
【0083】
そして、空気流量計34を目視しながらインバータ35を操作して周波数を調整し、可変風量送風機33から管路31に種々の風量を送り込み、気体流量計32の風量特性を計測した。
【0084】
尚、気体流量計は、銅箔とコンスタンタン(電熱線)とからなる熱電対をプリント基板上に20個直列接続したものを使用した。また、コンスタンタンへの通電時間を0.13秒、測定時間を0.05秒、待機時間を0.01秒に設定し、これらを1サイクルにして風量とそのときの熱起電力を検出し、温度差ΔTを算出した。
【0085】
図14はその特性図であって、横軸は風量から求めた風速(m/s)を示し、縦軸は温度差ΔT(K)を示している。また、図中、◆印は正方向(図13のG方向)を示し、■印は逆方向(図13のH方向)を示している。
【0086】
この図14から明らかなように、正方向と逆方向とで極性が反転しており、極性により風向を検知できることが確認された。
【0087】
また、風速の小さい微風域では、温度差ΔTは風速に比例して増加するが、風速が一定以上になると風速と温度差ΔTとが比例関係を維持することができなくなることも分かった。これは風速が増すと熱電対の冷却効果が大きくなり、その結果風速と温度差ΔTとが比例しなくなるためと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の気体流量計を備えたボイラの一実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る気体流量計としての空気流量計の第1の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図3】微風域における熱起電力と極性の検出原理を説明する図である。
【図4】風量と温度差ΔT及び電熱線温度Tとの一般的な関係を示した図である。
【図5】微風域中、中程度の風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートである。
【図6】微風域中、中程度の風量の場合の風量と温度差ΔT及び基板温度Tとの関係の一例を示す図である。
【図7】微風域中、上記中程度の風量よりも小さな風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートである。
【図8】微風域中、上記中程度の風量よりも小さな風量の場合の風量と温度差ΔT及び基板温度Tとの関係の一例を示す図である。
【図9】微風域中、上記中程度の風量よりも若干大きな風量の場合の通電・測定時間のタイムチャートである。
【図10】微風域中、上記中程度の風量よりも若干大きな風量の場合の風量と温度差ΔT及び基板温度Tとの関係の一例を示す図である。
【図11】強風域での風量と温度差ΔT及び基板温度Tとの関係の一例を示す図である。
【図12】空気流量計の第2の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図13】実施例で使用した実験装置の概略構成図である。
【図14】実施例で得られた風量特性図である。
【図15】特許文献5に記載された熱線式風速センサの正面図である。
【符号の説明】
【0089】
2 ボイラ燃焼室
4 送風機
6 管路
8 センサ本体
9 制御部(制御手段)
10 プリント基板(基板)
11 熱電対
13 電熱線
14 銅箔パターン
15a、15b 接合点
16 通電制御回路(通電制御手段)
17 熱起電力検出回路(熱起電力検出手段)
18 切替回路(切替手段)
19 サーミスタ(温度検出手段)
21b 記憶部(記憶手段)
21c 演算部(風向・風量検出手段、通電パターン変更手段)
23 プリント基板
24 電熱線
25 銅箔
26 センサ本体
27 熱電対群
28a、28b 接合点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内に配されて該管路を通過する気体の質量流量を測定する熱式の気体流量計であって、
通電により発熱する電熱線と該電熱線に接合される銅箔とを一組とする熱電対が基板上に形成され、前記電熱線と前記銅箔との接合点間で熱起電力を発生させるセンサ本体と、
該センサ本体の制御を司る制御手段とを備え、
前記制御手段が、前記電熱線への通電状態を制御する通電制御手段と、前記電熱線と前記銅箔との接合点間の温度差に応じた熱起電力を極性と共に検出する熱起電力検出手段と、該熱起電力検出手段の検出結果に基づいて風向及び風量を検出する風向・風量検出手段とを有していることを特徴とする気体流量計。
【請求項2】
前記センサ本体は、多数の前記熱電対が基板上で直列に接続されていることを特徴とする請求項1記載の気体流量計。
【請求項3】
前記制御手段は、前記加熱制御手段からの出力と前記熱起電力検出手段への入力とを切り替える切替手段を有し、前記電熱線への加熱動作と前記熱起電力の検出動作とが交互に繰り返されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の気体流量計。
【請求項4】
前記電熱線への通電パターンを複数種記憶した記憶手段と、前記検出された熱起電力に応じて前記通電パターンを変更する通電パターン変更手段とを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の気体流量計。
【請求項5】
前記基板の温度を検出する温度検出手段が、該基板上に配されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の気体流量計。
【請求項6】
ボイラ燃焼室と該ボイラ燃焼室に気体を送風する送風機との間に介装されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の気体流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−241318(P2008−241318A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79072(P2007−79072)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】