説明

気体溶解装置の起動運転制御方法

【課題】気体溶解装置の起動初期におけるポンプの空運転を抑制し、安全かつ安定に起動すること。
【解決手段】内部に流入した流体を気体と混合し、気体が溶解した液体を生成する溶解タンク2と、溶解タンクに流体を供給するポンプ3とを備えた気体溶解装置1の起動初期は、あらかじめ定めた設定時間の間、空運転しない回転数でポンプを運転し、その後、ポンプの回転数を上昇させ、定常運転に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡が発生する湯水の生成などに利用可能な気体溶解装置の起動時の運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湯水に発生する微細気泡は、入浴の効能を高めることができ、そのような微細気泡が発生する液体を生成することのできる気体溶解装置は、微細気泡発生浴槽に組み込まれている(特許文献1)。
【0003】
一方、浴槽内の湯水を一旦吸い込んだ後、浴槽に設けた噴射口から噴射させて循環し、マッサージ効果を実現した噴流発生浴槽が提供され、ジェットバスとして広く認知されている。
【0004】
本出願人は、上記噴流発生浴槽について、浴槽内の湯水の水位を水位検知手段によって検知し、検知した水位が所定位置よりも低くなった場合に、湯水の循環を行うポンプを停止する制御方式を提案している(特許文献2)。具体的には、上記制御方式は、ポンプに空気が吸引されることにともなうエアがみ状態にあるか否かを、ポンプに備えたモータの回転数や電流値に基づいて判定するものである。
【0005】
それに対し、水などの溶媒となる流体に空気などの溶質となる気体を溶解タンク内で混合し、気体が溶解した液体を生成する上記気体溶解装置の場合は、溶解タンクに流体を供給するポンプの運転を停止すると、液体の生成時に溶解タンク内で圧縮された気体が、圧力開放にともない膨張する。膨張した気体は、圧力損失の小さいポンプの吸い込み側に逆流し、その近辺に残留する。このように気体が残存する状態で次にポンプの運転を開始すると、その初期において、残存する気体が混入した気液混合流体がポンプ内部に流入する。この気液混合流体は、気体量が、定常時の気液混合流体に比べて多いものであり、ポンプに備えたモータは、定常時よりも高速で回転してしまい、ポンプは、エアがみ状態に対応する空運転をする。空運転すると、流体の供給量が減少し、微細気泡の安定した発生が困難となる。また、空運転はポンプに過負荷を与えるため、発熱などにともない故障や発火などの原因となり、空運転を抑制することは、気体溶解装置の安全性を高めるために是非とも要望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−313464号公報
【特許文献2】特開2007−159670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載した制御方式は、噴流発生浴槽におけるエアがみ状態を防止する技術ではあるが、エアがみ状態にあるときにはポンプを停止するため、この制御方式を気体溶解装置に適用すると、再運転開始時にほぼ必ずポンプが停止することとなる。したがって、気体溶解装置の起動がきわめて不安定となることが予想される。
【0008】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、気体溶解装置の起動初期におけるポンプの空運転を抑制し、安全かつ安定に起動することのできる気体溶解装置の起動運転制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0010】
第1の発明は、内部に流入した流体を気体と混合し、気体が溶解した液体を生成する溶解タンクと、溶解タンクに流体を供給するポンプとを備えた気体溶解装置の起動運転制御方法であって、気体溶解装置の起動初期は、あらかじめ定めた設定時間の間、空運転しない回転数でポンプを運転し、その後、ポンプの回転数を上昇させ、定常運転に移行することを特徴としている。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、前記設定時間の経過後、ポンプに備えたモータの供給電力に対するポンプの回転数が、あらかじめ定めた設定回転数以下となっている場合に、モータの供給電力を増加させてポンプの回転数を上昇させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の発明によれば、気体溶解装置の起動初期は、あらかじめ定めた設定時間の間、空運転しない回転数でポンプを運転するので、定常運転のときよりも低速回転するポンプによって、気液比が一時的に高くなっている気液混合流体を溶解タンク内に送り込むことができる。ポンプの吸い込み側に残存する気体を溶解タンク内に排出することができ、ポンプはほとんど空回転せず、安全かつ安定に気体溶解装置を起動することができる。気液混合流体の気液比が低くなったときは、高速運転に切り換え、ポンプの回転数を高くすることによって、ポンプの流量特性を所定のものに確保することができ、定常運転にスムーズに移行する。
【0013】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、ポンプに備えたモータの供給電力に対するポンプの回転数が、あらかじめ定めた設定回転数以下となっている場合に、モータの供給電力を増加させてポンプの回転数を上昇させるので、ポンプを高速運転に切り換える際にも空運転は抑制され、定常運転への移行をより一層スムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の気体溶解装置の起動運転制御方法が適用された気体溶解装置を例示した斜視図である。
【図2】図1に示した気体溶解装置が組み込まれた微細気泡発生浴槽を例示した構成図である。
【図3】本発明の気体溶解装置の起動運転制御方法の概要を示したグラフである。
【図4】本発明の気体溶解装置の起動運転制御方法の原理となる、モータに印加する電圧とポンプの回転数の関係を概略的に示したグラフである。
【図5】モータの供給電力を増加させたとき、ねらいとする回転数よりも高い回転数となった場合の運転制御について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記のとおり、図1は、本発明の気体溶解装置の起動運転制御方法が適用された気体溶解装置を例示した斜視図であり、図2は、図1に示した気体溶解装置が組み込まれた微細気泡発生浴槽を例示した構成図である。
【0016】
気体溶解装置1は、やや縦長で箱状の形状を有する中空な溶解タンク2と、溶解タンク2に流体を供給するポンプ3を備え、溶解タンク2内で流入する流体を気体と混合し、気体が溶解した液体を生成する。溶解タンク2とポンプ3とは、溶解タンク2に設けられた流入管接続部4に、ポンプ3の吐出側3bに一端部が接続された流入管5の他端部が接続されることによって配管接続されており、溶解タンク2とポンプ3は互いに連通している。
【0017】
また、気体溶解装置1では、溶解タンク2の上壁部2aに一端部6aが接続された気体循環経路6が、他端部6bにおいて、流入管5と流入管接続部4との接続部に配設された気体循環エジェクタ7に接続されている。また、溶解タンク2の流出管接続部8には、図2に示した微細気泡発生浴槽9の浴槽10に空気が溶解した湯水を供給するための流出管11の一端部が接続されている。
【0018】
ポンプ3の吸い込み側3aには、浴槽10に連通して一端部が接続された吸い込み配管12の他端部が接続されている。吸い込み配管12の一端部は、浴槽10内の湯水13を吸い込むために浴槽10内部に連通する吸い込み口14に連通し、一端部が流出管接続部8に接続された流出管11の他端部は、浴槽10内部に連通し、浴槽10内に空気が溶解した湯水を吐出するための吐出口15に連通している。図1には、吸い込み口14と吐出口15をともに備えた吸い込み・吐出プラグ16を例示している。吸い込み・吐出プラグ16は、浴槽10の槽壁部に取り付けられるものであり、吸い込み口14から吸い込み配管12に連通する第1流路と、吐出口15から流出管11に連通する第2流路とを備えている。これら第1流路および第2流路は、吸い込み・吐出プラグ16において互いに独立しており、相互に連通してはいない。
【0019】
さらに、気体溶解装置1では、流入管5を通じて溶解タンク2内に導入する湯水13(流体)に空気(気体)を混合し、気液混合流体を生成するために、気体供給口17が溶解タンク2の上壁部2aの上方に配置され、ポンプ3の吸い込み側3aと吸い込み配管12との接続部付近に気体導入エジェクタ18が介設されている。気体供給口17と気体導入エジェクタ18とは気体導入配管19を介して連通接続されている。
【0020】
図2に示した微細気泡発生浴槽9では、さらに、流出管接続部8と吐出口15とを連通して接続する流出管11の途中に、圧力開放部となるベンチュリ20が設けられている。
【0021】
このような気体溶解装置1および微細気泡発生浴槽9では、ポンプ3の作動によって浴槽10内の湯水13を吸い込み口14から吸い込み、吸い込み配管12および流入管5を通じて溶解タンク2に送り出す。溶媒となる湯水13は、溶解タンク2内に単独の流体として噴出し、または気体供給口17から吸引される浴室内の空気と混合され、気液混合流体として噴出し、溶解タンク2内に貯留していた空気または気体供給口17から吸引される空気(いずれも溶質となる)が湯水13中に溶解する。なお、本願では、上記単独の流体および気液混合流体をまとめて「流体」と記載している。
【0022】
所定濃度に空気が溶解した湯水13は、流出管接続部8を通じて溶解タンク2の外部に流出し、流出管11を経て吐出口15から浴槽10内に送り出される。空気が溶解した湯水13は、浴槽10内に貯留する湯水13と混合され、このときまたはベンチュリ20を経た後、湯水13中に溶解した空気が、圧力の低下にともない浴槽10やベンチュリ20内で析出して微細気泡が発生する。
【0023】
浴槽10内の湯水13は、ポンプ3の作動によって循環し、この循環が繰り返されて浴槽10内の湯水13の気泡量が増加し、浴槽10内の湯水13は微細気泡によって白濁し、牛乳風呂のような趣を与える。
【0024】
なお、気体溶解装置1および微細気泡発生浴槽9は、ポンプ3の作動および停止を行う制御部21を備え、制御部21は、ポンプ3に電気的に接続されている。制御部21は、たとえばON/OFFのスイッチ入力などによって、ポンプ3の作動、停止を切り換え、気体溶解装置1および微細気泡発生浴槽9の作動と停止を実現する。
【0025】
気体溶解装置1では、溶解タンク2に湯水13を供給するポンプ3の運転をOFFのスイッチ入力などによって停止すると、上記のとおり、液体の生成時に溶解タンク2内で圧縮された空気が、圧力開放にともなって膨張する。膨張した空気は、圧力損失の小さいポンプ3の吸い込み側3aに逆流し、ポンプ3内やその近辺に残留する。このように空気が残存する状態において気体溶解装置1を再び起動し、ポンプ3の運転を開始すると、起動初期には、残存する空気が混入した気液混合流体がポンプ3の内部に流入する。この気液混合流体は、気体量が、定常時の上記気液混合流体に比べて多いものであり、ポンプ3に備えたモータは、定常時よりも高速で回転してしまい、ポンプ3は、エアがみ状態に対応する空運転をする。空運転すると、流体の供給量が減少し、微細気泡の安定した発生が困難となる。また、空運転はポンプ3に過負荷を与えるため、発熱などにともない故障や発火などの原因となり、危険である。
【0026】
そこで、気体溶解装置1では、起動初期は、あらかじめ定めた設定時間の間、空運転しない回転数でポンプ3を運転し、その後、ポンプ3の回転数を上昇させ、定常運転する。
【0027】
すなわち、吸い込み側3aに逆流して残存する空気が再び湯水13とともにポンプ3の内部に流入する間は、気液比が定常時に比べて高いので、図3に示したように、所定の設定時間、ポンプ3を低速運転する。具体的には、設定時間の間は、ポンプ3に備えたモータに定常時よりは低い低電圧を印加する。また、必要に応じて、ポンプ3の回転数を検出し、高回転とならないように、低電圧を維持する。ポンプ3の回転数の検出では、たとえば、ポンプ3の回転に応じて変化するパルス電圧を所定時間ごとにサンプリングし、パルス数をカウントし、カウントしたパルス数があらかじめ設定した閾値を超えるか否かを判定することで行うことができる。なお、設定時間は、ポンプ3の流量特性などを考慮し、シミュレーションを行ってあらかじめ定めることができる。
【0028】
このように、気体溶解装置1の起動初期には、あらかじめ定めた設定時間の間、ポンプ3を低速運転し、回転数を空運転しない程度に低く抑えるので、残存する空気が混入し、気液比が一時的に高くなっている気液混合流体を溶解タンク2内に送り込むことができる。ポンプ3の吸い込み側3aに残存する気体を溶解タンク2内に排出することができ、ポンプ3はほとんど空回転せず、気体溶解装置1は、安全かつ安定に起動する。
【0029】
設定時間が経過した後は、気液混合流体の気液比が、ポンプ3がほとんど空運転しない程度に低くなっているので、ポンプ3の回転数を、図3に示したように、定常時などの目標回転数にまで上昇させ、定常運転に移行する。ポンプ3に備えたモータに印加する電圧を次第に高くすることによって回転数を上昇させ、ポンプ3を高速運転に切り換え、回転数を高くすることによって、ポンプ3の流量特性が所定のものとして確保され、定常運転にスムーズに移行する。
【0030】
また、設定時間の経過後に、ポンプ3を低速運転から高速運転に切り換える際には、ポンプ3に備えたモータに供給する電力(供給電力)に対するポンプ3の回転数が、あらかじめ定めた設定回転数以下となっている場合に、モータの供給電力を増加させてポンプ3の回転数を上昇させることが好ましい。モータの供給電力とポンプ3の回転数は、図4に示したように、あらかじめシミュレーションを行ってその関係を求めることができる。ねらいとする回転数に対応する、モータの印加電圧は、ほぼ一義的に決まるので、そのときの供給電力に対するポンプ3の回転数を上記と同様にして検出し、ねらいの回転数である設定回転数以下であると判定したときは、モータの供給電力を増加させる。
【0031】
一方、図5に点線で示したように、モータの供給電力を増加させたときに、ねらいとする回転数より高い回転数となった場合には、電圧の上昇を一旦停止させるかまたは多少低下させる。この状態を保つと、回転数は次第に減少し、供給電力に対応したねらいとする回転数になる。その後、モータの供給電力を再度増加させ、空運転を抑えながら定常運転へと移行させる。
【0032】
このように、モータの供給電力に対するポンプ3の回転数が、あらかじめ定めた設定回転数以下となっている場合に、モータの供給電力を増加させてポンプ3の回転数を上昇させることによって、ポンプ3を高速運転に切り換える際にも空運転は抑制され、定常運転への移行をより一層スムーズに行うことができる。
【0033】
なお、上記のとおりの気体溶解装置1の起動運転制御方法は、たとえば、ポンプ3の回転数を検知する回転数検知手段を設け、この回転数検知手段の検知信号を図2に示した制御部21において判定し、その判定に基づいてポンプ3へコマンド信号を送信するなどによって実行することができる。この場合、制御部21には、ポンプ3の作動および停止とは別に、ソフトウェアまたはハードウェアを組み込むことができる。
【0034】
また、本発明が対象とする気体溶解装置およびこれを組み込む微細気泡発生浴槽は、図1および図2に示したものに限定されない。細部などの構成および構造については様々な態様が可能であり、それらに対して本発明の気体溶解装置の起動運転制御方法は適用することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 気体溶解装置
2 溶解タンク
3 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流入した流体を気体と混合し、気体が溶解した液体を生成する溶解タンクと、溶解タンクに流体を供給するポンプとを備えた気体溶解装置の起動運転制御方法であって、気体溶解装置の起動初期は、あらかじめ定めた設定時間の間、空運転しない回転数でポンプを運転し、その後、ポンプの回転数を上昇させ、定常運転に移行することを特徴とする気体溶解装置の起動運転制御方法。
【請求項2】
前記設定時間の経過後、ポンプに備えたモータの供給電力に対するポンプの回転数が、あらかじめ定めた設定回転数以下となっている場合に、モータの供給電力を増加させてポンプの回転数を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の気体溶解装置の起動運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−269292(P2010−269292A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125832(P2009−125832)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】