説明

気体燃料用インジェクタ

【課題】燃料ホース等から燃料に溶出する可塑剤によって生じるインジェクタ弁体の作用面に施されたフッ素樹脂によるコーティング層と金属製のインジェクタシートとの貼り付き現象を回避し、密着性と剥離性をよくして優れた応答性を発揮させる。
【解決手段】弾性材により形成された基材2の表面にフッ素樹脂のコーティング層5を有する密接部材が作用面に配置されているインジェクタ弁体1と、このインジェクタ弁体1と接離するインジェクタシート4を有する弁座3とを有する気体燃料用インジェクタにおいて、インジェクタシート4の表面にフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層15を施すこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPGなどの気体燃料を内燃機関の吸気通路に噴射するインジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、LPGなどの気体燃料を用いた内燃機関において吸気通路に所定量の燃料ガスを所定の間隔で連続して噴射するインジェクタは、燃料ガスを遮断する必要性から図2に示したように、インジェクタ弁体1の作用面にゴムや合成樹脂などの弾性材により形成された基材2が設けられており、更に、対向する弁座3のインジェクタシート4への密着性や剥離性を向上させる目的でフッ素樹脂によるコーティング層5が形成されており、例えば特開2007−205216号公報などに提示されている。
【0003】
ところが、インジェクタに燃料を供給する燃料管路に用いられるゴム製のホースには可塑剤が含有されており、この可塑剤が燃料に溶解して前記フッ素樹脂のコーティング層5の密着に使用されるバインダ樹脂と反応し膨潤を引き起こす場合があり、インジェクタ弁体1の粘着性が増加してインジェクタ弁体1と表面処理を施していないステンレスなどの金属製のインジェクタシート3との間で貼り付きが生じやすい状態になり、開弁作用に影響を与えてエンジン始動の不良や運転性の悪化などの弊害を生じることになる。特に、新品のホースには多量の可塑剤が含まれており影響が著しい。
【0004】
また、例えば、貼り付き防止と耐久性の付与が可能な複数種類のバインダ樹脂を配合したものを使用することも考えられるが、可塑剤を燃料に溶解させるゴム製のホースも新品のときとその後とでは可塑剤の溶出量が変化するので配合比率を変化させたとしても使用条件が異なるので高いレベルで対応させることは困難である。
【特許文献1】特開2007−205216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、燃料ホース等から燃料に溶出する可塑剤によって生じるインジェクタ弁体の作用面に施されたフッ素樹脂によるコーティング層と金属製のインジェクタシートとの貼り付き現象を回避し、密着性と剥離性をよくして応答性のよい気体燃料用インジェクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためになされた本発明である気体燃料用インジェクタは、弾性材により形成された基材の表面にフッ素樹脂のコーティング層を有する密接部材が作用面に配置されているインジェクタ弁体と、このインジェクタ弁体と接離するインジェクタシートを有する弁座とを有する気体燃料用インジェクタにおいて、前記インジェクタシートの表面にフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層を施すこととした。
【0007】
インジェクタシートの表面に低摩擦性のフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層を施すことによりインジェクタ弁体の剥離性の向上を図ることができる。
【0008】
また、本発明において、前記インジェクタシートの表面に施されているコーティング層におけるフッ素樹脂粒子が30〜35容量%である場合には密着性と剥離性の調和を図ることができ、更に、本発明において前記インジェクタシートの表面に施されているコーティング層の厚さを1〜30μm程度とすることにより、均一な被膜により密着性も良好で確実に閉弁をすることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によれば、フッ素樹脂によるコーティング層が施されたインジェクタ弁体と金属製のインジェクタシートシートとの間の燃料による可塑剤溶出による貼り付きと耐久性とを両立させることが可能であり、複雑な配合や特殊な技術を必要とせず、経済面でも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1(a)は本発明におけるインジェクタの概略図、図1(b)はその要部を拡大したものであり、インジェクタ全体の構造は従来と同様に、電磁コイル6を保持して外ケース7に内装させたコイルホルダ8の中心に流量調整ねじ9が配置されており、その下端にばね体10を介してインジェクタ弁体1が軸線方向に往復動可能に配置されたものであって、コネクタ11に接続された導線(図示せず)を介してECU(図示せず)からの指令に基づき前記電磁コイル6をオンオフ作動させてインジェクタ弁体1を昇降させて、その下方に対向して配置した燃料通孔12を有する弁座ホルダ13に保持された弁座3のインジェクタシート4に接離して燃料入口14から送られてくる燃料を所定の間隔で間歇的に前記燃料通孔12に送る従来のものと同様である。
【0012】
そして、前記インジェクタ弁体1は前記図2に示した従来例と同様に、ステンレスなどの金属製で作用面にゴムや合成樹脂などの弾性材により形成された基材2が設けられており、更に、対向するインジェクタシート4への密着性や剥離性を向上させる目的でフッ素樹脂によるコーティング層5が形成されている。
【0013】
特に、本実施の形態では、前記インジェクタ弁体1と接離するインジェクタシート4の表面にフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層15が施されている。
【0014】
このフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層15は、Ni(ニッケル)−P(リン)のマトリックスにフッ素樹脂粒子を分散させたものであり、従来知られているようにNi−Pの組成を有する無電解めっきにより得られる。
【0015】
また、前記コーティング層15は、フッ素樹脂粒子が30〜35容量%であると好ましく、耐久性と剥離性の調和がとれる。更に、前記コーティング層15の厚さが1〜30μm程度であることにより密着性と剥離性の調和をとることができる。
【0016】
以上のように本実施の形態によれば、インジェクタシート4の表面を剥離性に優れた表面処理をすることにより、粘着性の増加による開弁作動への影響をきわめて有効に防止して密着性と剥離性をよくして優れた応答性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す概略図および拡大部分概略図。
【図2】従来例を示す拡大部分概略図。
【符号の説明】
【0018】
1 インジェクタ弁体、2 基材、4 インジェクタシート、5 コーティング層、15 コーティング層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材により形成された基材の表面にフッ素樹脂のコーティング層を有する密接部材が作用面に配置されているインジェクタ弁体と、このインジェクタ弁体と接離するインジェクタシートを有する弁座とを有する気体燃料用インジェクタにおいて、前記インジェクタシートの表面にフッ素樹脂粒子を含有したNi−Pめっきからなるコーティング層が施されていることを特徴とする気体燃料用インジェクタ。
【請求項2】
前記インジェクタシートの表面に施されているコーティング層におけるフッ素樹脂粒子が30〜35容量%であることを特徴とする請求項1記載の気体燃料用インジェクタ。
【請求項3】
前記インジェクタシートの表面に施されているコーティング層の厚さが1〜30μm程度であることを特徴とする請求項1または2に記載の気体燃料用インジェクタ。


【図1】
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【図2】
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