説明

気化冷却機能を有する外装材

【課題】建物の外装材に保水性または透水性を持たせ、外装材表面から水を気化させることで、外装材部分で外気の冷却を図り、低いコストでヒートアイランド化を抑制するとともに、建物の空調設備の負荷や、ランニングコストを低減させる。
【解決手段】外ルーバー11の羽根12を保水性セラミック材で成形し、羽根12の断面に長手方向に連続する中空部13を形成する。中空部13をゆっくり通過する水を羽根12自体にも浸透させ、その保水機能によって、外ルーバー11が水分を含んだ状態とする。夏場の晴天時などには、羽根12が直射日光で熱せられることで、保水されていた水分が蒸散し、その際の気化潜熱によって羽根12および周辺の外気を冷却し、ヒートアイランド化を抑制する。また、外ルーバー11位置で、外気が冷却されることで、室内の空調の負荷も低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気化冷却機能を有する外装材に関するものであり、建物の外装材としてのルーバーあるいは外装パネルなどに、保水性または透水性を持たせ、外装材表面から水を気化させることで、外装材部分で外気の冷却を図り、ヒートアイランド化を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部などでは、環境問題としてヒートアイランド化が問題となっており、従来、路面に透水性インターロッキングブロック、あるいは保水性インターロッキングブロックを敷設するなどして、雨水等の水を利用し、その気化潜熱により外気の冷却を図ったものが種々研究されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、特許文献3、特許文献4には、屋根面あるいは外装パネルで太陽光を反射させ、建物の屋根面あるいは外壁部分での温度上昇を抑制するものが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献5、特許文献6には、屋上緑化や壁面緑化によりヒートアイランド現象を緩和する技術が記載されている。
【特許文献1】特開平11−228250号公報
【特許文献2】特開2006−009520号公報
【特許文献3】特開平08−189161号公報
【特許文献4】特開2007−192016号公報
【特許文献5】特開2002−364130号公報
【特許文献6】特開2006−271358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2記載の発明は、路面からの冷却を図ったものであるが、建物について、直接、冷却効果を与えるものではない。
【0006】
特許文献3、特許文献4記載の発明は太陽光を反射させ、建物の温度上昇を抑制するものであるが、直接的な冷却効果はない。
【0007】
特許文献5、特許文献6記載の発明は建物についてみると、屋上緑化や壁面緑化によるヒートアイランド化の抑制が図られているが、植物の管理に手間がかかるという問題がある。
【0008】
本発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、建物の外装材に保水性または透水性を持たせ、外装材表面から水を気化させることで、外装材部分で外気の冷却を図り、低いコストでヒートアイランド化を抑制するとともに、建物の空調設備の負荷や、ランニングコストを低減させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る気化冷却機能を有する外装材は、建物の外装材として、保水性または透水性を有する外装材を用い、前記外装材に水を通し、水の一部を外装材表面より気化させるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
外装材の種類としては、後述するルーバー、外装パネルの他、建物の外壁近傍での気化冷却を図れるものであれば、特に限定されない。
【0011】
外装材として、保水性または透水性を有する外装材を用いることで、外装材に沿って水がゆっくり流れていき、一部浸透した水が外装材の表面で気化することで、気化潜熱による外装材表面およびこれに接する外気の冷却が図れる。
【0012】
保水性または透水性を有する外装材の材料としては、例えば透水性舗装あるいは保水性舗装などの路面に用いられているセラミック系材料や保水性材料を配合したセメント系材料を用いることができる。
【0013】
また、保水性または透水性を有する外装材は、外装材全体が保水性または透水性を有する必要はなく、保水性または透水性を有する材料とそれ以外の材料の組み合わせでもよい。また、それ自体は保水性などを有さない外装材に、保水性材料または透水性材料を貼り付けたり、外装材の空洞部に保水性材料または透水性材料を充填したものなどでもよい。
【0014】
気化させるための水としては、水道水を使用することも可能であるが、例えば敷地内の雨水貯留槽の水を建物の上部までポンプアップし、建物の上部外装材を通じて流下させる際に、その一部を外装材の表面から気化させ、下まで流下した水は雨水貯留槽に戻すか、あるいは雨水貯留槽から排水するといったシステムを構築することも可能である。
【0015】
その場合、雨水貯留槽に貯留された水の一部はヒートアイランド化抑制のために消費され、かつその分、排水量が抑制され、下水の負荷も抑えることができる。
【0016】
請求項2は、請求項1に係る気化冷却機能を有する外装材において、前記外装材が、少なくとも一部が保水性または透水性を有する材料からなるルーバーであることを特徴とするものである。
【0017】
外装材としてのルーバーは、本来的には細かいピッチで設けた羽根により、適度に直射日光を遮り、拡散・緩和することによって、熱負荷を低減すると同時に窓面の輝度(まぶしさ)を抑制し、快適な視環境を生み出すという機能を有しているが、この羽根に保水性または透水性を有する材料を用い、水をゆっくりと流下させることで、水の一部を羽根の表面で気化させ、気化潜熱による冷却機能を併せ持つことになり、ヒートアイランド化の抑制が可能となる。
【0018】
また、ルーバー位置で外気が冷却されることで、室内の空調の負荷も低減させることができる。
【0019】
請求項3は、請求項2に係る気化冷却機能を有する外装材において、前記ルーバーを構成する羽根が保水性または透水性を有する材料からなり、該羽根の内側に羽根長手方向に延びる中空の水路が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
ルーバーの羽根の成形において、断面に中空部を設けるなどして水路をつくり、水路を連続させることで、ルーバーの広い面積で、水を蒸散させ、ヒートアイランド化抑制効果を高めることができる。また、成形自体は押出成形などが可能である。
【0021】
請求項4は、請求項3に係る気化冷却機能を有する外装材において、前記ルーバーを構成する上下の羽根の間に羽根間で水を移動させるための連結材を介在させてあることを特徴とするものである。
【0022】
例えば、前述したように、雨水貯留槽の水を建物の上部までポンプアップし、建物の上部から流下させる場合、ルーバーの上下の羽根の間での水の移動が必要となる。そのための手段として、請求項4では上下の羽根の間に連結材を設け、連結材を通じて水の移動が可能となるようにした。
【0023】
その場合、連結材として、保水性または透水性を有する材料を用いるか、連結材の断面内に上下の羽根の中空部をつなぐパイプあるいは中空部を設けるなどすればよい。
【0024】
請求項5は、請求項1に係る気化冷却機能を有する外装材において、前記外装材が、少なくとも一部が保水性または透水性を有する材料からなるパネルであり、該パネルの内側に、水を誘導するための中空の水路が形成されていることを特徴とするものである。
【0025】
すなわち、請求項5は、外装材がルーバーでなくパネルの場合である。この場合も、必ずしもパネル全体が保水性または透水性を有する必要はない。また、前述したように雨水貯留槽の雨水をポンプアップして利用することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外装材が気化冷却機能を有するため、外装材本来の機能に加え、建物外壁位置での気化冷却効果によるヒートアイランド化の抑制が可能となる。
【0027】
また、外装材位置で外気が冷却されることで、室内の空調の負荷も低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、最良の形態として、本発明を建物の外装材としての外ルーバーに適用した場合の実施形態を、図1〜図3を参照しながら説明する。図1(a)は建物の室外側から見た正面図、図1(b)はルーバーの縦断面図(縮尺は(a)図に対し5倍)、図2は建物側からの断面斜視図として表した図、図3はルーバーに対する給排水ルートを示した分解斜視図である。
【0029】
図において、符号1は建物躯体の柱、符号2は梁、符号3は床スラブを示し、バルコニー4部分の庇5の外側に外装材としての外ルーバー11が設けられている。
【0030】
外ルーバー11は、本来的なルーバーの機能としては、細かいピッチで設けた羽根12により、適度に直射日光を遮り、拡散・緩和することによって、熱負荷を低減すると同時に窓面の輝度(まぶしさ)を抑制し、快適な視環境を生み出すという機能を有しているが、本実施形態ではこの羽根12に保水性を持たせ、水をゆっくりと流下させながら、水の一部を羽根12の表面で気化させ、気化潜熱による冷却機能を併せ持つものとしている。
【0031】
具体的には、本実施形態では外ルーバー11の羽根12を保水性セラミック材で成形し、図1(b)に示すように羽根12の断面に長手方向に連続する中空部13を形成し、中空部13をゆっくり通過する水を羽根12自体にも浸透させ、その保水機能によって、外ルーバー11が水分を含んだ状態とする。なお、本実施形態では、風切音対策のため、羽根12の断面外形状を流線型としている。
【0032】
特に夏場の晴天時などには、羽根12が直射日光で熱せられることで、保水されていた水分が蒸散し、その際の気化潜熱によって羽根12および周辺の外気が冷却され、ヒートアイランド化の抑制につながる。
【0033】
また、外ルーバー11位置で、外気が冷却されることで、室内の空調の負荷も低減させることができる。
【0034】
図2は、その効果を示しており、例えば夏季に外ルーバー11に接する位置近傍の外気温が33〜35°程度に上昇したときに、本発明の気化冷却機能を有する外装材としての外ルーバー11の作用により、バッファゾーンとしてのバルコニー4部分で31〜33°と2度程度の温度低下が期待でき、空調器により室内側の窓際ペリメータゾーンの温度を26°程度に設定するといった空調が行われ、ペリメータゾーンにおける熱負荷低減が図れる。
【0035】
図3は、外ルーバー11を利用した給排水ルートの例を示したものである。本実施形態では、外ルーバー11の上下の羽根12の中空部を、内側にパイプを貫通させた連結材14でつないでいる。
【0036】
好ましい形態として、建物の敷地内に設置される雨水貯留槽に集められた雨水を太陽光発電の電力を利用して建物の上部までポンプアップし、外ルーバー11の羽根12の中空部13につないだ配管により、外ルーバー11に流す。
【0037】
流下する雨水は、連結材14で接続された羽根12内の水路をゆっくり流下しながら、一部が保水機能により外ルーバーに蓄えられる。下まで流下した雨水は再度外ルーバー11内を循環させてもよいし、余った水は雨水貯留槽を通じて下水に排水される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を建物の外装材としての外ルーバーに適用した場合の実施形態を示したものであり、(a)は建物の室外側から見た正面図、(b)はルーバーの縦断面図(縮尺は(a)図に対し5倍)である。
【図2】図1の実施形態を建物側からの断面斜視図として表した図である。
【図3】図1の実施形態におけるルーバーに対する給排水ルートを示した分解斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1…柱、2…梁、3…床スラブ、4…バルコニー、5…庇、6…縦樋、7…横樋、
11…ルーバー、12…羽根、13…中空部、14…連結材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外装材として、保水性または透水性を有する外装材を用い、前記外装材に水を通し、水の一部を外装材表面より気化させるようにしたことを特徴とする気化冷却機能を有する外装材。
【請求項2】
前記外装材が、少なくとも一部が保水性または透水性を有する材料からなるルーバーであることを特徴とする請求項1記載の気化冷却機能を有する外装材。
【請求項3】
前記ルーバーを構成する羽根が保水性または透水性を有する材料からなり、該羽根の内側に羽根長手方向に延びる中空の水路が形成されていることを特徴とする請求項2記載の気化冷却機能を有する外装材。
【請求項4】
前記ルーバーを構成する上下の羽根の間に羽根間で水を移動させるための連結材を介在させてあることを特徴とする請求項3記載の気化冷却機能を有する外装材。
【請求項5】
前記外装材が、少なくとも一部が保水性または透水性を有する材料からなるパネルであり、該パネルの内側に、水を誘導するための中空の水路が形成されていることを特徴とする請求項1記載の気化冷却機能を有する外装材。


【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−116741(P2010−116741A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291553(P2008−291553)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000152424)株式会社日建設計 (55)
【Fターム(参考)】