説明

気化制御装置

【課題】媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化する気化装置を最適に制御する。
【解決手段】
媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、前記気化装置による気化動作によって前記媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長のレーザ光により計測する計測手段と、前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、を備えて構成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置に関し、特に、気化装置を最適に制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶剤等を気化させる気化装置は、様々な産業で使用されている。例えば、石油系溶剤を使用して洗濯物を洗浄、乾燥するドライクリーナには、石油系溶剤を気化させる装置が備えられている。また、自動車ボディや電気部品や建材等への塗装工程、紙や建材やフィルム等への印刷工程においては、インキを調合した溶剤を気化させる装置が使用され、半導体や光学部品等へ蒸着材料を蒸着させる蒸着工程においては、蒸着材料を気化させる装置が使用されている。また、樹脂や金属や紙等を積層接着して製造される機能包装(レトルト食品容器、紙容器、フィルム包装)やフィルムを積層した積層フィルムの積層工程においては、接着剤として使用される溶剤を乾燥させる装置が使用されている。そして、各気化装置は、気化制御装置を備えて構成されている。
【0003】
ところで、例えば、上記の石油系溶剤を使用したドライクリーナは、ドラム内に熱風を送風し、ドラム内に収容された洗濯物に含浸した石油系溶剤を気化させて洗濯物を乾燥させる気化手段を有する気化装置と、気化装置を制御する気化制御装置を備えて構成されている(特許文献1参照)。この場合、ドラム内に気化した石油系溶剤の気化成分の濃度を測定し、気化成分の濃度が、例えば石油系溶剤への引火の危険性がない濃度になる様に気化装置を制御することが考えられる。ここで、気化した石油系溶剤の気化成分の濃度を測定する方法としては、例えば、化学反応式の検知管や半導体式の電子センサを用いて、ドラム内のガスをサンプリングして計測する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−213779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された従来のドライクリーナの気化制御装置において、前述した化学反応式の検知管等を用いてドラム内の気化成分の濃度を計測する場合、いずれも一般的にサンプリングして計測するバッチ計測であり、気化装置の運転中に洗濯物から気化する気化成分の濃度を継続して測定できないため、例えば、気化動作中に気化する気化成分の濃度が変化する場合、その変化に追従して気化装置を制御できないという問題がある。また、サンプリングした箇所の濃度しか測定することができず、ドラム内全体の測定をすることができないため、測定精度は劣り精度よく気化装置を制御できないという問題もある。また、ドライクリーナに限らず、前述した塗装工程や積層工程等で使用される気化装置においても、上記の様なバッチ計測で計測しているので、最適に気化装置を制御できないという同様の課題がある。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、気化装置の運転中に媒体(例えば、塗装物や洗濯物や印刷物や包装物等)又は気化可能な物質(例えば、蒸着材料等)から気化する気化成分の濃度をサンプリングすることなく継続して計測し、気化装置を最適にする制御する気化制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による気化制御装置は、媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、前記気化装置による気化動作によって前記媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長のレーザ光により計測する計測手段と、前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、を備えて構成することを特徴とする。
【0008】
このような構成により、計測手段によって、気化装置による気化動作によって媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長のレーザ光により計測し、制御手段によって、計測手段の計測結果に基づき、気化装置の気化手段を制御して、媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御する。これにより、サンプリングすることなく気化装置の運転中に継続して気化成分の濃度を計測できる。
【0009】
また、請求項2の様に、前記計測手段は、前記気化成分の濃度の計測領域に、前記レーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光し、受光強度に基づき前記気化成分の濃度を計測する構成にするとよい。
【0010】
さらに、請求項3の様に、前記計測手段は、前記計測領域の外方から、前記レーザ光を投光し、前記計測領域の外方において、該計測領域を透過するレーザ光を受光する構成にしてもよい。
【0011】
また、請求項2又は3においては、請求項4の様に、前記計測手段は、投光するレーザ光を、前記計測領域を光走査可能な構成にしてもよく、請求項5の様に、前記計測領域を複数に分割して設定する構成にしてもよい。
【0012】
さらに、請求項5においては、請求項6の様に、前記計測手段は、投光するレーザ光を、全ての前記複数に分割された計測領域を光走査可能な構成とし、前記気化成分の濃度を前記複数に分割された計測領域毎に計測する構成にしてもよいし、請求項7の様に、前記計測手段は、前記計測領域にレーザ光を投光するレーザ投光部と、該計測領域を透過するレーザ光を受光するレーザ受光部を、前記複数に分割された計測領域毎に備え、前記気化成分の濃度を前記複数に分割された計測領域毎に計測する構成にしてもよい。
【0013】
さらにまた、請求項7においては、請求項8の様に、前記レーザ投光部は、対応した計測領域を光走査可能な構成にしてもよい。
【0014】
また、請求項5〜8においては、請求項9の様に、前記制御手段は、前記複数に分割された計測領域毎の計測結果に基づいて、前記気化装置の気化手段を制御して、前記気化量を前記計測領域毎に制御する構成にしてもよい。
【0015】
さらに、請求項5〜9においては、請求項10の様に、前記気化手段は、前記複数に分割された計測領域毎に備える構成にしてもよい。
【0016】
また、請求項11の様に、前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化手段における前記媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる作用の強度を調整して、前記気化量を制御する構成にしてもよい。
【0017】
さらに、請求項12の様に、前記気化手段は、加熱作用及び減圧作用の少なくとも1つで構成するとよい。
【0018】
さらに、請求項13の様に、前記媒体は、溶剤を塗布した塗装物や印刷物であってもよい。
【0019】
さらにまた、請求項14の様に、前記媒体は、溶剤又は接着剤を塗布して積層させた積層フィルムや包装物であってもよい。
【0020】
また、請求項15の様に、前記計測手段は、中間赤外域の波長のレーザ光を投光する構成にしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の気化制御装置によれば、計測手段によって、気化装置による気化動作によって媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長のレーザ光により計測し、制御手段によって、計測手段の計測結果に基づき、気化装置の気化手段を制御して、媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御することができる。これにより、サンプリングすることなく気化装置の運転中に継続して気化成分の濃度を計測することができるため、気化成分の濃度が変化しても変化に追従して気化成分の気化量を制御することができる。このようにして、気化装置を最適に制御する気化制御装置を提供することができる。また、バッチ計測の様に計測領域内の一箇所からの計測結果ではないため、バッチ計測と比較すると代表性の高い測定結果を得ることができ、測定精度を高めて精度よく気化装置を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る気化制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】気化成分の固体、液体、気体への相転移の様子を説明する状態図である。
【図3】上記第1実施形態の気化制御装置の制御動作を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る気化制御装置の第2実施形態を示す概略上面図である。
【図5】上記第2実施形態の計測手段の別の構成例を示す概略上面図である。
【図6】本発明に係る気化制御装置の第3実施形態を示す概略上面図である。
【図7】上記第3実施形態の気化制御装置の制御動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る気化制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、上記気化制御装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の気化制御装置1は、媒体2に存する気化成分を気化させる気化手段3Aを有する気化装置3の気化動作を制御するもので、レーザ投光部4と、レーザ受光部5と、計測制御部6と、気化装置制御部7とを備えて構成されている。
【0024】
前記媒体2は、後述する気化装置3によって気化される気化成分を、例えば、内部や表面に有しているものであり、本実施形態においては、塗装装置によって塗装された塗装物(電気部品や建材や自動車ボディ等)として説明する。そして、塗装物の内部や表面に存する気化成分は、図1に示す様に、気化装置3によって気化される。
【0025】
前記気化成分は、本実施形態においては、媒体2の、例えば内部や表面に存するもので、塗料の溶剤として使用するトルエンやキシレンや酢酸エチル等の揮発性有機化合物である。
【0026】
前記気化装置3は、気化手段3Aを筐体内に有する装置であり、本実施形態においては、塗装装置に備えられる装置である。また、気化手段3Aは、気化成分を気化させる気化作用を、媒体2に与えるものである。本実施形態において、気化手段3Aは、塗装物に気化作用として加熱作用を与えるものであり、例えば、熱源となる発熱部を備え加熱作用を与える構成の一般的な装置である。さらに、気化手段3Aは、発熱部によって加熱した空気等を送風する送風部を備えた装置でもよい。また、気化装置3は、塗装装置等において、塗装物を移動させる移動手段を設けて、移動させながら加熱作用を与える構成のものが一般的であるが、停止した状態で加熱作用を与える構成のものでもよい。
【0027】
ここで、気化手段3Aは、気化成分を気化させる気化作用を、媒体2に与えるものである。一般的に、気化させるとは、例えば、液体及び固体を気化(昇華)させる行為であり、図2に示す様に、気化成分を液体及び固体から気体へ相転移させることである。図2から分かるように、気化手段3Aによって、媒体2に、例えば、加熱作用を与えることにより、○印にある液体を△印にある気体にすることができる。また、後述する減圧作用を媒体2に与えることにより、□印にある液体を△印にある気体にすることができる。さらに、例えば、後述する蒸着材料等の固体を気体にする場合は、気体状態は液体又は固体よりも常に高温側や、低圧側であるため、加熱や減圧作用を与えることにより気化成分を気化(昇華)させることができる。なお、媒体2に、加熱及び後述する減圧作用を組み合わせて作用させても液体及び固体を気化させることができる。このように、気化作用は、加熱作用に限らず、減圧作用であってもよく、また加熱及び減圧作用を組み合わせた作用でもよい。
【0028】
また、本実施形態において、気化装置3は、発熱部の温度を調節して加熱作用の強度を調整可能に構成され、加熱作用の強度調整により気化作用の強度を調整できるように構成されている。なお、気化装置3は、前述した送風部をさらに備える場合には、送風量調整により加熱作用の強度を調整して気化作用の強度を調整する様にしてもよく、また、移動手段を備える場合には、移動速度を調整することにより単位時間あたりの加熱量を調整して間接的に加熱作用の強度を調整し、気化作用の強度を調整する様にしてもよい。気化が生じている表面部等では、与えられた温度、圧力条件下における気化の飽和状態に達した場合には、気化と液化(または固化)が平衡状態となり気化が進まなくなるので、送風することにより、気化の不飽和状態とすることで気化を促進する効果がある。そして、気化作用の強度は、予期せぬ変化(例えば、気化装置3の設置環境の温度変化)等に追従して調整する必要がある。なお、気化装置3は、温度、送風量、移動速度の少なくとも1つを調整することにより、気化作用の強度を調整できる構成であればよい。
【0029】
前記レーザ投光部4は、図1に示す様に、後述する計測制御部6から指令を受けて気化成分の濃度の計測領域8に赤外域の波長のレーザ光を投光するものであり、図示しないが、例えば、レーザ光を発振させるレーザ発振部と、レーザ光を計測領域8に向けて投光する投光レンズにより構成される。なお、本実施形態において、レーザ投光部4は、中間赤外域の波長のレーザ光を発生可能な構成であり、後述する様に、例えば、塗装に用いる塗料の溶剤の気化成分の濃度を効率的に計測することができる。なお、レーザ発振部は、投光するレーザ光の波長を可変可能な構成でもよい。
【0030】
前記レーザ受光部5は、図1に示す様に、計測領域8を透過したレーザ光を受光するものであり、図示しないが、例えば、レーザ光を受光する受光レンズと、受光素子によって構成される。そして、受光素子は、例えば、赤外域の波長のレーザ光に対して感度良好な素子であり、受光レンズを介して計測領域8を透過したレーザ光を受光してその受光強度に応じた出力を発生して、後述する計測制御部6に入力する。
【0031】
また、本実施形態において、レーザ投光部4は、図1に示す様に、計測領域8の外方から、レーザ光を投光し、レーザ受光部5は、計測領域8の外方において、計測領域8を透過したレーザ光を受光し、受光強度に応じた出力を、後述する計測制御部6に入力する構成である。これにより、レーザ投光部4及びレーザ受光部5と計測対象の気化成分が接することがないため、レーザ投光部4及びレーザ受光部5への溶剤付着を抑制することができると共に、遠隔から計測をすることができる。
【0032】
前記計測制御部6は、レーザ投光部4を制御するものであり、図1に示す様に、レーザ投光部4から投光するレーザ光の波長や出力を設定し指令する。また、前記計測制御部6は、レーザ受光部5の受光強度に基づき、計測領域8における媒体2から気化する気化成分の濃度を計測する。従って、計測制御部6は、気化成分の濃度を演算する機能をも備える。なお、この気化成分の濃度は、媒体2に残留する気化成分の濃度ではなく、計測時に媒体2から気化している気化成分の濃度である。
【0033】
本実施形態において、計測制御部6は、例えば、計測した気化成分の濃度と予め設定する気化成分の濃度の目標値とを比較し、計測値が目標値に近づく様に、気化装置3における前述した加熱作用の強度を調整する制御信号を、後述する気化装置制御部7に出力する様に構成され、本実施形態においては、発熱部の温度を調整する制御信号を出力する場合で以下説明する。
【0034】
前記気化装置制御部7は、図1に示す様に、気化装置3における気化動作を計測制御部6の制御信号に基づいて制御をするものであり、本実施形態においては、気化装置3内の発熱部の温度を制御できるように構成されている。
【0035】
なお、本実施形態において、計測手段は、レーザ投光部4と、レーザ受光部5と、計測制御部6とを備えて構成され、制御手段は、計測制御部6と、気化装置制御部7とを備えて構成されている。上記の様に、計測制御部6は、計測手段の構成要素であると共に、制御手段の構成要素でもある。
【0036】
ここで、レーザ投光部4と、レーザ受光部5と、計測制御部6とを備えて構成される計測手段は、ガスによる赤外吸収現象を用いて媒体2から気化する気化成分の濃度を計測するものである。本実施形態における気化成分の濃度の計測原理を以下に説明する。
【0037】
計測領域8を透過したレーザ光のエネルギーは、計測領域8のガス媒質によるエネルギー吸収を受け減衰する。そのガス媒質による光の透過率T(λ)は、下記の(1)式で定義される。
T(λ)=I1(λ)/I0(λ) (1)
ここで、λは光の波長、I1(λ)はガス媒質を透過した光の強度、I0(λ)はガス媒質に入射する光の強度である。そして、光の透過率T(λ)は、濃度と光の減衰の関係を表すランバート・ベール(Beer-Lambert)の法則により、下記の(2)式で表せる。
lnT(λ)=−ε(λ)CL (2)
ここで、ε(λ)はガス媒質のモル吸光係数であり、光をガス媒質に入射したときにそのガス媒質がどれくらいの光を吸収するかを示す波長毎の係数である。Cはガス媒質のモル濃度であり、Lは光が透過するガス媒質の厚さである。また、ガス媒質の濃度を、カラム濃度CL(モル濃度Cとガス媒質の厚さLとの積)で評価することもある。
【0038】
透過率T(λ)は、受光強度と、投光強度の比により求めることができる。したがって、モル吸光係数ε(λ)とガス媒質の厚さLが既知であれば、上記(2)式により気化領域8のガス媒質のモル濃度C若しくはカラム濃度CLを演算し、このモル濃度C若しくはカラム濃度CLを気化成分の濃度として計測することができる。また、モル吸光係数ε(λ)は波長λに応じて変化し、ガスの種類に応じたピーク(以下、「光吸収波長帯」という)があり、この光吸収波長帯付近で透過率T(λ)は低くなる。光吸収波長帯付近では波長λのレーザ光を投光すると、ガスの種類に応じた光吸収があるため、モル濃度C若しくはカラム濃度CLを感度良く計測することが知られている。
【0039】
ここで、前述した化学反応式の検知管等を用いたバッチ計測では、1回の計測に数分かかる。しかし、本実施形態における構成では、所定の波長のレーザ光を計測領域8に投光し、上記に説明した原理に基づき、高速で計測することができる。また、たとえ後述する様にレーザ光を計測領域8内で光走査させる構成であっても、光走査はサブミリ秒単位ですることができるため、気化装置3の気化動作の制御をリアルタイムに行うことができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る気化制御装置1の制御動作について、図1,3に基づいて説明する。
【0041】
まず、計測制御部6は、気化条件(例えば、媒体2の種類、気化成分の種類や量、気化装置の設置環境等)に応じた発熱部の温度を気化装置制御部7に指令し、気化装置制御部7から、発熱部に制御信号を出力し、所定の強度(温度)で気化装置3の気化動作を開始させる(ステップ1)。次に、レーザ投光部4は、計測制御部6の指令に基づき、所定の出力で、中間赤外域の波長のレーザ光を計測領域8に向けて投光する。そして、レーザ受光部5は、計測領域8を透過して減衰したレーザ光を受光して受光強度に応じた出力を発生し、計測制御部6に入力する。計測制御部6は、この受光強度と、レーザ光の投光強度の比により、透過率T(λ)を演算する。そして、予め設定されたモル吸光係数ε(λ)と、ガス媒質の厚さLにより、モル濃度Cを演算し、このモル濃度Cを気化成分の濃度の計測結果とする(ステップS2)。但し、ガス媒質の厚さLは、実計測においてはレーザ光の光路長とする。さらに、計測制御部6は、計測した気化成分の濃度と予め設定された気化成分の濃度の目標値とを比較し、例えば、計測値と目標値の差が予め設定する許容範囲内の場合は、計測制御部6は、同じ強度(温度)で気化装置3を駆動させる指令を気化装置制御部7に出力すると共に、ステップS2に戻り再び計測する(ステップS3)。また、計測値が許容範囲外の場合は、ステップS4に進む。最後に、ステップS4として、計測制御部6は、気化条件に変化があると判定し、計測値が目標値に近づく様に、発熱部の温度を所定量増減させる制御信号を気化装置制御部7に出力する。そして、所定時間に達するまで上記ステップ1〜4までの気化動作を行う。このように、計測制御部6の判定結果に基づく制御信号を気化装置制御部7に出力して、気化装置3の気化動作を制御する。
【0042】
このような構成により、本実施形態に係る気化制御装置1は、媒体2から気化する気化成分の濃度を赤外域の波長のレーザ光によって計測することにより、サンプリングすることなく気化装置の運転中に継続して気化成分の濃度を計測することができるため、気化する気化成分の濃度が変化した場合、その変化に追従して気化成分の気化量を最適に制御することができる。したがって、例えば、加熱作用の強度(発熱部の温度等)が弱く有機溶剤が残留した状態で塗装物等の製品が出荷されてその溶剤の臭いでユーザーが体調を壊したり、また、加熱作用の強度が強く過度の乾燥により製品に損傷を与えたりすることなく無く、気化装置を制御することができる。このようにして、気化装置3を最適に制御する気化制御装置1を提供することができる。また、本実施形態に係る気化制御装置1は、レーザ光を計測領域に透過させて気化成分の濃度を計測する構成であるため、バッチ計測の様な計測領域内の一箇所からの計測結果ではなく、代表性の高い測定結果を得ることができ、測定精度を高めて気化装置を制御することができる。
【0043】
ところで、レーザ投光部4から発生するレーザ光の波長は、前述した様に光吸収波長帯域の波長が望ましい。例えば、2.5〜16μm領域には主として有機物の光吸収波長が存在し、1200〜2400nm領域には主として無機物の光吸収波長が存在することが知られている。また、例えば、塗料内の揮発性有機化合物(VOC)を主成分とする溶剤の気化成分の濃度を計測する場合には、−CH結合や−OH結合による光吸収波長を有する中間赤外域の波長(3〜5μm)のレーザ光を使用すると良い。
【0044】
本実施形態におけるレーザ投光部4は、中間赤外域の波長のレーザ光を発生することが可能な構成である。これにより、揮発性有機化合物を主成分とする、例えば油性塗料から気化する気化成分の濃度を効率的に計測することができる。なお、光吸収波長帯は、媒体2の内部や表面に存する気化成分の種類に応じて異なるため、レーザ投光部4は、中間赤外域の波長(3〜5μm)に限らず、気化成分の種類に応じた光波長吸収帯の波長を投光するように構成すると良い。
【0045】
図4は、本発明に係る気化制御装置1の第2実施形態を示す概略上面図である。なお、図1の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0046】
本実施形態において、レーザ投光部4は、図4に示す様に、レーザ光を計測領域8内で光走査可能な構成であり、図示しないが、例えば、半導体製造技術を利用したプレーナー型の光走査手段を備えて構成される。そして、本実施形態において、レーザ受光部5は、例えば、光走査方向に複数一列状に配列された受光素子アレイで構成するとよい。この様な構成において、レーザ投光部4は、レーザ光を、例えば数ミリ秒の間に複数回投光して光走査し、計測制御部6は、一走査周期当たり複数回気化成分の濃度を計測し、各計測結果を平均化処理して計測結果を得る。このようにして、本実施形態における計測手段は、第1実施形態の計測結果と比較すると、計測領域8内を代表するさらに代表性の高い測定結果を得ることができるため、例えば、計測領域8内の気化成分の濃度分布が不均一な場合においても、測定精度を高めて気化装置を制御することができる。また、複数回計測結果を得ることができるため、計測エラーの問題が少なく信頼性の高い測定をすることができる。また、光走査手段として、特許第2722314号に記載された電磁駆動式のガルバノミラーを適用できる。
【0047】
図5は、本実施形態の計測手段の別の構成例を示す概略上面図である。本構成例においては、光走査可能な構成のレーザ投光部4及びレーザ受光部5を内部に備えたレーザ投受光部9を、図5に示す様に、反射鏡10と対向して計測領域8を挟んで配置する構成である。ここで、本実施形態における計測手段は、計測制御部6と、レーザ投受光部9と、気化領域8を透過するレーザ光を反射する反射鏡10とを備えて構成されている。
【0048】
反射鏡10は、例えば、平面鏡群であり、レーザ光をレーザ投受光部9に反射するものである。本実施形態において、この平面鏡群は、図示しないが、計測領域毎に光軸が調整された平面鏡を複数枚連ねて構成している。このように構成することにより、レーザ受光部を、受光素子アレイを複数配列させる構成にする必要が無いため、レーザ受光部のコストを低減することができる。また、反射鏡10は、平面鏡に限らず、例えば再帰反射シートのような再帰反射体で構成するとよい。これにより、平面鏡を配置する構成においては、レーザ投受光部9におけるレーザ光の受光強度を上げるために、平面鏡を例えば回転させて反射するレーザ光の光軸を調整する必要があるが、反射鏡10を再帰反射体で構成することにより、光軸調整をする必要がないため、初期設定の作業を簡略化することができる。
【0049】
なお、本実施形態において、計測制御部6は、計測領域8を気化装置3の筐体内で、例えば、光走査方向に、複数に分割して設定する構成でもよく、この場合、レーザ投受光部9により、全ての複数に分割された計測領域を光走査すると共に、複数に分割された計測領域毎の受光出力を計測制御部6に出力し、計測領域毎に気化成分の濃度を計測するように構成するとよい。これにより、光走査方向の気化成分の分布を把握することができる。
【0050】
図6は、本発明に係る気化制御装置1の第3実施形態を示す概略上面図である。なお、図1の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0051】
本実施形態における気化制御装置1は、計測領域8を気化装置3の筐体内で、複数に分割して設定する機能を有する中央制御部11を備え、図6に示す様に、例えば、筐体の内部に形成される領域を、後述する媒体2の移動方向に、3つに分割して計測領域8A,8B,8Cを設定する。そして、気化制御装置1は、図6に示す様に、例えば第1実施形態に示したレーザ投光部4及びレーザ受光部5並びに気化装置制御部7を上記計測領域8A,8B,8C毎に、レーザ投光部4A,4B,4C、レーザ受光部5A,5B,5C、並びに気化装置制御部7A,7B,7Cとして配置して構成されている。
【0052】
また、本実施形態における気化装置3は、気化手段3Aを複数備える構成であり、図示しないが、例えば第1実施形態と同様の発熱部を3つ設け、さらに塗装物(媒体2)を、例えば、図6に示す移動方向に移動する移動手段を備えて構成されている。なお、上記計測領域8A,8B,8Cは、例えば、この気化手段毎に設定されている。
【0053】
前記中央制御部11は、例えば、気化手段毎に計測領域8A,8B,8Cを設定すると共に、各レーザ投光部4A,4B,4Cにレーザ光を投光する指令をし、各レーザ受光部5A,5B,5Cから受光強度に基づく出力が入力される様に構成されている。このようにして、中央制御部11は、各レーザ受光部からの受光出力に基づいて、計測領域毎に気化成分の濃度を計測することができ、気化成分の濃度の分布を把握することができる。また、中央制御部11は、例えば、計測した気化成分の濃度と予め計測領域毎に設定する気化成分の濃度の目標値とを比較し、計測値が目標値に近づく様に、各気化手段における発熱部の温度(加熱作用の強度)を調整する制御信号を、各気化装置制御部7A,7B,7Cに出力する様に構成されている。
【0054】
なお、本実施形態において、計測手段は、各レーザ投光部4A,4B,4Cと、各レーザ受光部5A,5B,5Cと、中央制御部11を備えて構成され、制御手段は、中央制御部11と、気化装置制御部7A,7B,7Cとを備えて構成されている。
【0055】
次に、本実施形態に係る気化制御装置1の制御動作について、図6,7に基づいて説明する。なお、第1実施形態の制御動作と同じ部分については説明を簡略化する。
【0056】
まず、中央制御部11は、気化条件に応じた発熱部の温度を各気化装置制御部に指令し、この指令に基づき各気化装置制御部は、計測領域毎に、各発熱部に制御信号を出力し、所定の強度(温度)で気化装置3の気化動作を開始させる(ステップ11)。次に、各レーザ投光部及び各レーザ受光部は、第1実施形態と同じ様に、レーザ光の投受光をそれぞれ行い、中央制御部11は、気化成分の濃度を計測領域毎に計測する(ステップS12)。そして、中央制御部11は、計測値が、許容範囲内であるかを判定し、許容範囲内であると判定された計測領域の気化装置制御部に、同じ温度で気化動作をさせる指令を出力すると共に、この計測領域についてはステップS12に戻り再計測する(ステップS13)。また、計測値が、許容範囲外の場合は、次のステップS14に進む。最後に、ステップS14として、第1実施形態で説明したステップS4と同じ制御を、計測領域毎に行う(ステップS14)。そして、所定の時間に達するまで上記ステップ11〜14の気化動作を行う。
【0057】
このような構成により、本実施形態に係る気化制御装置1は、複数に分割された計測領域毎に、所定の加熱作用の強度が得られる様に、各発熱部(気化手段)を制御することができる。したがって、複数に分割された計測領域毎に気化成分の気化量を最適に制御することができる。なお、気化装置3は、塗装物(媒体2)を移動させる移動手段を設けた構成で説明したが、媒体2は移動せずに、気化装置3内に固定されていても良い。また、本実施形態において、計測手段は、第2実施形態で説明した光走査可能構成を計測領域毎に適用してもよく、この場合、各レーザ投光部は、対応した計測領域内でそれぞれ光走査させ、各計測領域の計測精度を高めることができる。さらに、本実施形態において、計測手段は、複数に分割された計測領域毎に、レーザ投光部4及びレーザ受光部5を設ける構成で説明したが、計測領域毎にレーザ投光部4及びレーザ受光部5を設ける構成に限らず、計測手段は、分割された計測領域数より少ない数の光走査手段を設ける構成でもよい、例えば、光走査手段を2つ設け、計測領域を分担させ、分担された計測領域を光走査させ、レーザ受光部5により、計測領域毎の受光出力を計測制御部6に出力し、計測領域毎に気化成分の気化量を制御するように構成してもよい。これにより、計測領域毎にレーザ投光部4及びレーザ受光部5を設けることなく、計測領域毎の気化量を制御することができる。
【0058】
なお、以上全ての説明において、媒体2は、塗装物を例として説明したが、媒体2は、塗装物に限らず、グラビア印刷機やオフセット印刷機等によって印刷された印刷物(紙や建材やフィルム等)、包装物製造装置によって樹脂や金属や紙等を積層接着して形成された機能包装物(レトルト食品容器、紙容器、フィルム包装等)や積層フィルム、焼成装置によって焼成される焼成物(陶器等)、ドライクリーナ等によって洗浄乾燥される洗浄物(洗濯物等)であってもよい。これらの場合、気化成分は、印刷工程においては、インキを調合する溶剤として使用する酢酸エチルやトルエンやMEK(メチルエチルケトン)やアルコール等の揮発性有機化合物であり、また、機能包装物や積層フィルムの製造工程における接着工程においては、酢酸エチルやトルエンやアルコール等であり、さらに、焼成工程においては、陶器に内在する水分等であり、洗浄工程においては、例えば石油系有機溶剤等の揮発性有機化合物である。
【0059】
また、気化装置3は、上記の様々な媒体2に対応した装置があり、塗装装置に備えられる気化装置3と同様に、媒体2(機能包装物、積層フィルム、洗浄物、焼成物、印刷物等)の内部や表面に存する気化成分を気化させる気化手段3Aを有し、前述した印刷機、包装物製造装置、焼成装置、蒸着装置、洗浄装置等に備えられる。そして、この様な様々な装置において、気化手段3Aは、前述した加熱作用を与える構成の装置や、媒体2の周囲の圧力を下げる減圧装置を備え減圧作用を与える構成の一般的な装置である。また、気化手段3Aは、加熱及び減圧作用を組み合わせて与える構成の装置もある。そして、この様な気化装置3においても、加熱作用の強度(温度、送風量、単位時間当たりの加熱量)、減圧作用の強度(圧力)を調節可能に構成されている。上記で説明した全ての気化制御装置1は、この様な気化装置3の、加熱作用の強度、減圧作用の強度、加熱及び減圧作用の組合せの強度を調整して、気化量を制御する構成であればよい。
【0060】
さらに、気化装置3は、媒体2に存する気化成分を気化する装置として説明したが、気化可能な物質自体を気化する構成であってもよい。ここで、気化可能な物質とは、気化装置3によって気化される物質であり、例えば、蒸着装置によって半導体や光学部品等に蒸着させる蒸着材料そのものである。この様な蒸着装置においても、前述した加熱及び減圧作用を蒸着材料に与える気化手段3Aを備えて構成されている。上記で説明した全ての気化制御装置1は、気化可能な物質を気化する例えば、蒸着装置等における気化量を制御する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 気化制御装置
2 媒体
3 気化装置
4 レーザ投光部
5 レーザ受光部
6 計測制御部
7 気化装置制御部
8 計測領域
11 中央制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる気化手段を有する気化装置の気化動作を制御する気化制御装置において、
前記気化装置による気化動作によって前記媒体又は気化可能な物質から気化した気化成分の濃度を、赤外域の波長のレーザ光により計測する計測手段と、
前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化装置の気化手段を制御して、前記媒体又は気化可能な物質から気化する気化成分の気化量を制御する制御手段と、
を備えて構成することを特徴とする気化制御装置。
【請求項2】
前記計測手段は、前記気化成分の濃度の計測領域に、前記レーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光し、受光強度に基づき前記気化成分の濃度を計測することを特徴とする請求項1に記載の気化制御装置。
【請求項3】
前記計測手段は、前記計測領域の外方から、前記レーザ光を投光し、前記計測領域の外方において、該計測領域を透過するレーザ光を受光することを特徴とする請求項2に記載の気化制御装置。
【請求項4】
前記計測手段は、投光するレーザ光を、前記計測領域を光走査可能な構成としたことを特徴とする請求項2又は3に記載の気化制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記計測領域を複数に分割して設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の気化制御装置。
【請求項6】
前記計測手段は、投光するレーザ光を、全ての前記複数に分割された計測領域を光走査可能な構成とし、前記気化成分の濃度を前記複数に分割された計測領域毎に計測することを特徴とする請求項5に記載の気化制御装置。
【請求項7】
前記計測手段は、前記計測領域にレーザ光を投光するレーザ投光部と、該計測領域を透過するレーザ光を受光するレーザ受光部を、前記複数に分割された計測領域毎に備え、前記気化成分の濃度を前記複数に分割された計測領域毎に計測することを特徴とする請求項5に記載の気化制御装置。
【請求項8】
前記レーザ投光部は、対応した計測領域を光走査可能な構成としたことを特徴とする請求項7に記載の気化制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記複数に分割された計測領域毎の計測結果に基づいて、前記気化装置の気化手段を制御して、前記気化量を前記計測領域毎に制御することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項10】
前記気化手段は、前記複数に分割された計測領域毎に備える構成であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づき、前記気化手段における前記媒体に存する気化成分又は気化可能な物質を気化させる作用の強度を調整して、前記気化量を制御することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項12】
前記気化手段における気化させる作用は、加熱作用及び減圧作用の少なくとも1つで構成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項13】
前記媒体は、溶剤を塗布した塗装物や印刷物であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項14】
前記媒体は、溶剤又は接着剤を塗布して積層させた積層フィルムや包装物であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の気化制御装置。
【請求項15】
前記計測手段は、中間赤外域の波長のレーザ光を投光することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の気化制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−271213(P2010−271213A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123819(P2009−123819)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】