説明

気孔率の計測システム

【課題】本発明は、電極を必要とせずに、材料の気孔率を計測できるシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決すために、本発明の気孔率の計測システムは、テラヘルツ帯の電磁波を被測定材料に照射する電磁波照射手段と、この電磁波照射により、前記被測定材料を透過したテラヘルツ帯電磁波より複素屈折率を演算する複素屈折率演算手段と、その演算結果より得られた複素屈折率を下記方程式に代入し、気孔率vについて解くことにより、気孔率を演算する気孔率演算手段とからなることを特徴とする手段を採用した。
<式1>


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック或いは樹脂等で形成された材料の気孔率の計測システムに関し、特にテラヘルツ帯の電磁波を被計測材料に照射し、その透過波・反射波を利用して、非接触で気孔率を計測する計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、気孔率を測定する方法としては幾つか知られているが、非接触での測定は容易ではなく、センサーや電極設置による各種問題が生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、電極を必要とせずに、材料の気孔率を計測できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の気孔率の計測システムは、テラヘルツ帯の電磁波を被測定材料に照射する電磁波照射手段と、この電磁波照射により、前記被測定材料を透過したテラヘルツ帯電磁波より複素屈折率を演算する複素屈折率演算手段と、その演算結果より得られた複素屈折率を下記方程式に代入し、気孔率vについて解くことにより、気孔率を演算する気孔率演算手段とからなることを特徴とする。
<式1>


【発明の効果】
【0005】
本発明により、テラヘルツ帯の電磁波を透過可能な導電性を有しない材料であれば材料の如何にかかわらず、その気孔率を、非接触で計測することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】気孔率の異なる耐熱コーティング皮膜組織
【図2】テラヘルツ時間領域分光システム
【図3】皮膜の透過計測模式図と実際の計測波形
【図4】解析のフローチャート
【図5】求められた複素屈折率の実数部と虚数部の周波数依存性
【図6】皮膜の気孔率と平均複素屈折率の相関(上:実数部、下:虚数部)
【発明を実施するための形態】
【0007】
(実施例1)での結果から、イットリア安定化ジルコニアに限らず、テラヘルツ帯の電磁波をある程度透過可能な材料について、適用可能である。
(実施例1)での結果から、気孔だけでなく、微視的なきれつの存在によっても、屈折率は変化すると考えられることから、その相対変化から内部での微視破壊の発生量を把握できる。
(実施例1)での結果から、反射測定においても、同様のアプローチを行うことが可能であることから、基材上の皮膜に対しても適用可能である。
(実施例1)での結果から、溶射皮膜に限らず、PVD,CVD,ディップコーティングなど、セラミックスやポリマーといったテラヘルツ波を透過しやすい材料のコーティングに適用可能である。
【実施例1】
【0008】
以下、表1に示す実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
イットリア安定化ジルコニア(ZrO−8wt%Y)粉末を大気プラズマ溶射により、炭素鋼上に成膜し、実施例1〜6の試料とした。この際、表1に示す条件を適用し、特に溶射距離を変化させることにより、異なる気孔率を有する試料とした。基材上に成膜後、切断と研磨により基材を除去し、皮膜だけの試料とした。皮膜だけの試料はラッピング加工により両表面が平行になるようにした。一つの試料から三〜四個のサンプルを作成し、テラヘルツ波による複素屈折率の測定を行った。また、電子顕微鏡観察用に皮膜を樹脂埋め後、断面研磨し、断面組織の観察を行った。図1に各断面組織写真を示す。溶射距離が長くなるほど気孔率が高くなっている。得られた電子顕微鏡写真(1000倍にて測定)をイメージ変換により白黒の二色の画像に変換後、気孔に対応する黒い領域の面積率を測定することにより、気孔率を評価した、一つのサンプルにおいて5か所の画像から得られた値を平均することにより、その試料に対する平均気孔率を得た。その値を表1に示す。誤差は標準偏差により求めた。
【表1】

【0009】
一方で、皮膜のみとした試料に対し、図2に示すテラヘルツ波時間領域分光システムを用いて、テラヘルツ波(0.3〜6.3THz)を透過させ、透過後の電磁波の測定を行った(図3)。このシステムではパルス幅10fsの極短パルスを光伝導アンテナに照射することにより、テラヘルツ波を発生させ、それを再び光伝導アンテナにて検出することにより、時間領域でのテラヘルツ波の測定を可能としている。透過波形の例として、図3に実施例3−Aの場合に得られた波形と、試料が無い状態での波形(入射波に対応)を示す。
【0010】
測定波形に対し、図4に示す手順により解析を行い、複素屈折率を導出した。図5に得られた複素屈折率の実数部と虚数部の周波数依存性を示す。ポーラスな皮膜ほど屈折率の実数部が小さい傾向にあることが明らかである。表2にすべての試料に対して得られた複素屈折率実数部の平均値nを示す。
【表2】

【0011】
図6には、皮膜の組織観察から得られた気孔率と複素屈折率実数部との相関を示す。気孔率と屈折率の変化に明瞭な相関が存在し、気孔率の増加に伴い屈折率が低下していくことが明瞭に理解できる。したがって、あらかじめこのカーブを測定しておくことにより、皮膜の気孔率を、テラヘルツ波を用いた非接触測定により評価できる。
以上のような測定結果から、前記式1において、測定対象材料によって決定される定数A, B, Cを以下のようにして求めた。実測された気孔率と複素屈折率の実数部の相関データに対し(図6参照)、次の関数、

を、各ポイントデータと上記式との差の二乗和が最小となるようにフィッティングを行い(最小二乗法)、A,B,Cを決定した。
【0012】
その結果、以下のように中間式2を得た。
<式2>

【0013】
これをvについて解くことにより、下記式3に示す気孔率vの計算式を得た。
<式3>

【0014】
テラヘルツ波により測定したn(表2に記載)を上記式3に代入することにより気孔率vを算出した結果を表3に示す。実測による気孔率と良く一致しており、もっとも大きなエラーの場合で0.072であった。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、セラミック或いは樹脂等で形成された材料の気孔率の計測システムであって、テラヘルツ帯の電磁波を被測定材料に照射する電磁波照射手段と、この電磁波照射により、前記被測定材料を透過したテラヘルツ帯電磁波より複素屈折率を演算する複素屈折率複屈折率演算手段と、その演算結果より得られた複素屈折率を下記式1により演算して気孔率を演算する気孔率演算手段とからなることを特徴とする気孔率の計測システム
<式1>





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−64512(P2011−64512A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213877(P2009−213877)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】