説明

気密容器および画像表示装置の製造方法

【課題】接合強度と気密性を両立した信頼性の高い気密容器の製造方法を提供する。
【解決手段】粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材14、13よりも軟化点が低い接合材1aを、第1のガラス基材14の上に枠状に形成し、第2のガラス基材13を、接合材1aと接触させるように、接合材1aが形成された第1のガラス基材14に対向配置する。局所加熱光の照射は、局所加熱光が照射された接合材1aの第1の領域50と、第1の領域50に隣接し、局所加熱光が照射されていない接合材1aの第2の領域51との境界52において、第1の領域50の、境界52に隣接する部分53の接合材1aの粘度が1018(Pa・sec)以下である間に、第2の領域51の、境界52に隣接する部分が加熱され溶融するように行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器および画像表示装置の製造方法に関し、特に、内部が真空にされ、電子放出素子や蛍光膜を備える画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の、フラットパネルタイプの画像表示装置が公知である。これらの画像表示装置は、対向するガラス基材を気密接合して製造され、内部空間が外部空間に対して仕切られた外囲器を備えている。これらの気密容器を製造するには、対向するガラス基材の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的な接着材を配置し、周辺部に接合材を枠状に配置して、加熱接合を行う。このようにして製造された気密容器の一例を図7(a)に示す。接合材の加熱方法としては、ガラス基材全体を加熱炉によってベークする方法や、局所加熱により接合材周辺を選択的に加熱する方法が知られている。局所加熱は、加熱冷却時間、加熱に要するエネルギー、生産性、容器の熱変形防止、容器内部に配置された機能デバイスの熱劣化防止等の観点から、全体加熱より有利である。特に、局所加熱の手段としてレーザ光が知られている。
【0003】
特許文献1には、OLEDの外囲器の製造方法が開示されている。まず、対向配置された第1のガラス基材と第2のガラス基材の周縁部に枠部材と接合材(フリット)を配置する。次に、接合材の延びる方向に沿って、実質的に接合材に一定の温度が維持されるような形態でレーザ光を照射して、気密接合を得る。
【0004】
特許文献2には、FEDやPDPの外囲器の製造方法が開示されている。まず、対向配置された第1のガラス基材と第2のガラス基材の4辺の間に封着材料を配置する。次に、4辺上の各封着材料にそれぞれレーザ光を照射し、4辺上の各封着材料を一緒に溶融させて、気密接合を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0082298号明細書
【特許文献2】特開2008−059781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来より、レーザ光を単純に4辺に照射するのではなく、レーザ照射条件を変更したり、照射ルートや照射順を様々に改良した接合方法が知られている。しかしながら、図7(a)に示すような連続的、かつ閉じた接合を有する気密容器を得るために、図7(b)に示すように、局所加熱光58を接合材に沿って走査する場合、クラック発生の問題が生じ、気密性および接合の信頼性が低下する場合があった。これは、局所加熱光58を用いる場合には、図7(b)に示すように、局所加熱光58が照射された領域(接合部)56と、局所加熱光58が照射されていない領域(未接合部)57とが存在するためであると考えられる。すなわち、接合部56の冷却過程において、接合部56と未接合部57との間で局所的な収縮差が発生し、それに起因したクラックが、接合部56と未接合部57との境界55近傍のガラス基材に発生するためであると考えられる。
【0007】
本発明は、接合強度と気密性を両立した信頼性の高い気密容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1のガラス基材と、第1のガラス基材とともに気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、第1のガラス基材の上に枠状に形成する工程と、第2のガラス基材を、接合材と接触させるように、接合材が形成された第1のガラス基材に対向配置する工程と、局所加熱光を、接合材の枠状に延びる方向に沿って接合材に照射し、対向配置された第1のガラス基材と第2のガラス基材とを接合する工程と、を有し、局所加熱光の照射は、局所加熱光が照射された接合材の第1の領域と、第1の領域に隣接し、局所加熱光が照射されていない接合材の第2の領域との境界において、第1の領域の、境界に隣接する部分の接合材の粘度が1018(Pa・sec)以下である間に、第2の領域の、境界に隣接する部分が加熱され溶融するように行われる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、局所加熱光が照射された第1の領域(接合部)に隣接する第2の領域(未接合部)への局所加熱光の照射は、接合部の、未接合部との境界に隣接する部分(接合材境界領域)の接合材粘度が1018(Pa・sec)以下である間に行われる。これにより、未接合部の接合材粘度が下降するが、局所加熱光は、接合部と未接合部との境界にも照射されるため、接合材境界領域の接合材粘度も、室温の状態に戻る前に再下降することになる。その結果、クラックの発生要因となる局所的な接合材の収縮差は低減され、接合強度と気密性を両立した信頼性の高い気密容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の気密容器の製造方法を適用可能なFEDの一部破断斜視図である。
【図2】本発明のプロセスフローの一例を示す、ガラス基材の斜視図である。
【図3】接合部と未接合部との状態を示す平面図である。
【図4】第2の局所加熱光を照射する時の接合材粘度とクラック発生頻度との関係を示す例示的な特性図である。
【図5】未接合部との境界に隣接した接合部の接合材粘度と経過時間との関係を示す例示的な特性図である。
【図6】第1および第2の局所加熱光の照射方法を示す平面図である。
【図7】気密容器が製造される様子を示す平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の気密容器の製造方法は、内部空間が外部雰囲気から気密遮断されることが必要なデバイスを有するFED、OLED、PDP等の製造方法に適用することが可能である。特に、内部が減圧空間とされたFED等の画像表示装置では、内部空間の負圧によって発生する大気圧荷重に対抗可能な接合強度が求められるが、本発明の気密容器の製造方法によれば、接合強度の確保と気密性とを高度に両立することができる。しかし、本発明の気密容器の製造方法は、上述の気密容器の製造に限定されるものではなく、対向するガラス基材の周縁部に気密性が要求される接合部を有する気密容器の製造に広く適用することができる。
【0013】
図1は、本発明の対象となる画像表示装置の一例を示す部分破断斜視図である。画像表示装置11の外囲器(気密容器)10は、いずれもガラス製のフェースプレート12、リアプレート13、および枠部材14を有している。枠部材14はそれぞれが平板状のフェースプレート12とリアプレート13との間に位置し、フェースプレート12とリアプレート13との間に密閉空間を形成している。具体的には、フェースプレート12と枠部材14、およびリアプレート13と枠部材14とが互いに対向する面同士で接合されることによって、密閉された内部空間を有する外囲器10が形成されている。外囲器10の内部空間は真空に維持され、フェースプレート12とリアプレート13との間の間隔規定部材であるスペーサ8が所定のピッチで設けられている。フェースプレート12と枠部材14、またはリアプレート13と枠部材14は、あらかじめ接合または一体形成されていてもよい。
【0014】
リアプレート13には、画像信号に応じて電子を放出する多数の電子放出素子27が設けられ、画像信号に応じて各電子放出素子27を作動させるための駆動用マトリックス配線(X方向配線28,Y方向配線29)が形成されている。リアプレート13と対向して位置するフェースプレート12には、電子放出素子27から放出された電子の照射を受けて発光し画像を表示する蛍光体からなる蛍光膜34が設けられている。フェースプレート12上にはさらにブラックストライプ35が設けられている。蛍光膜34とブラックストライプ35は交互に配列して設けられている。蛍光膜34の上にはAl薄膜よりなるメタルバック36が形成されている。メタルバック36は電子を引き付ける電極としての機能を有し、外囲器10に設けられた高圧端子Hvから電位の供給を受ける。メタルバック36の上にはTi薄膜よりなる非蒸発型ゲッタ37が形成されている。
【0015】
フェースプレート12、リアプレート13、および枠部材14は、透明で透光性を有していればよく、ソーダライムガラス、高歪点ガラス、無アルカリガラス等が使用可能である。後述する局所加熱光の使用波長および接合材の吸収波長域において、これらの部材が良好な波長透過性を有していることが望ましい。
【0016】
次に、本発明の気密容器の製造方法におけるガラス基材の接合方法について、図2から図6を参照して説明する。なお、以下の説明では、第1のガラス基材を接合材が形成される基材、第2のガラス基材を第1のガラス基材と対向配置される基材という意味で用いている。このため、第1および第2のガラス基材が意味する具体的な部材が異なる場合がある。
【0017】
(ステップ1)まず、図2(a)に示すように、枠部材14(第1のガラス基材)を準備し、次に、図2(b)に示すように、接合材1aを枠部材14の上に、複数の直線部(辺)とこの直線部を連結する連結部(コーナー部)からなる枠状に形成する。接合材1aは、粘度が負の温度係数を有し、高温度で軟化すればよく、フェースプレート12、リアプレート13、および枠部材14のいずれよりも軟化点が低いことが望ましい。接合材1aの例として、ガラスフリット、無機接着剤、有機接着剤等が挙げられる。接合材1aは、後述する局所加熱光の波長に対して高い吸収性を示すことが好ましい。内部空間の真空度維持が要求されるFED等に適用する場合は、残留ハイドロカーボンの分解を抑制できるガラスフリットや無機接着剤が好適に用いられる。
【0018】
(ステップ2)次に、図2(c)に示すように、電子放出素子27等が形成されたリアプレート13(第2のガラス基材)を枠部材14に対向配置する。このとき、接合材1aとリアプレート13との接触を確保し、接合材1aへの押圧力を均一化するために、補助的に、第3のガラス基材52で枠部材14を覆い、接合材1aを押圧するのが好適である。
【0019】
(ステップ3)次に、図2(c)および図3に示すように、第1の局所加熱光41を接合材1aの任意の位置から枠状に沿って照射する。本実施形態では、第1の局所加熱光41の照射開始位置は第1のコーナー部C1である。第1の局所加熱光41の照射によって、接合材1aの枠状に延びる方向に沿って、接合材1aが順次加熱されて溶融する。その後、溶融した接合材1aの温度が軟化点以下まで低下して、接合材1aの枠状に延びる方向に沿って、接合材1aの一部領域にリアプレート13と枠部材14との間の接合部50が順次形成される。第1の局所加熱光41の照射開始後に、図2(d)から図2(g)に示すように、枠状に延びる接合材1aの各辺ごとに第2から第4の局所加熱光42−44を照射し、各辺に接合部を形成することで、リアプレート13と枠部材14とを接合する。
【0020】
前述のように、接合材1aは、粘度が負の温度係数を有しているため、加熱溶融すると一旦粘度が下がって流動化するが、照射が終わると粘度が回復して、室温の状態まで戻る。接合材1aの粘度回復過程、すなわち冷却過程において、局所加熱光が照射された接合部(第1の領域)50と、局所加熱光が照射されていない未接合部(第2の領域)51との間には収縮差が存在する。接合部50が室温の状態まで戻ると、接合部50と未接合部51との収縮差が増大し、それに伴い、接合部50と未接合部51との境界52での残留応力が増大することで、境界52付近のガラス基材にはクラックが発生してしまう。そのため、第1の局所加熱光41によって形成された接合部50に隣接する未接合部51は、その未接合部51に隣接する接合部50が室温の状態に戻る前に、第2の局所加熱光42によって加熱溶融されることが望ましい。具体的には、接合部50の、未接合部51との境界52に隣接する部分(接合部境界領域)53の接合材粘度が1018(Pa・sec)以下である間に、未接合部51の、境界52に隣接する部分に第2の局所加熱光42が照射されることが望ましい。これにより、接合部境界領域53にも第2の局所加熱光42が照射されることになり、接合部境界領域53が室温の状態まで戻る前に、その接合材粘度は再下降する。その結果、局所的な接合材の収縮差は低減され、上述のクラックの発生を回避することが可能となる。
【0021】
図4は、図3に示す接合部境界領域53の接合材粘度に対して、その粘度において第2の局所加熱光42を照射したときの、経験的に得られたクラック発生頻度を示したグラフである。図4に示すように、接合部境界領域53の接合材粘度が1018(Pa・sec)以上のときに、クラック発生率の増加が見られているが、このクラックはすべて接合部50と未接合部51との境界52付近のガラス基材に発生したものである。一方で、第2の局所加熱光42を、接合部境界領域53の接合材粘度が1018(Pa・sec)以下の状態で未接合部51に照射することで、クラックの発生が大幅に抑えられていることがわかる。ただし、図4では見られていないが、歪点温度以下での冷却過程では、接合材の収縮が進行し、境界に引張り応力が生じるため、クラックの発生確率が増加する可能性がある。このため、接合部の長期信頼性の観点からは、接合材粘度ηが1013.5(Pa・sec)以下の条件を満たす温度範囲で第2の局所加熱光42の照射を行い、接合材が溶融されることがより望ましい。
【0022】
図5は、図3に示す接合部境界領域53の接合材粘度を、局所加熱光41の照射開始時刻(接合部と未接合部の境界形成時刻)を原点T0とした経過時間に対して示したグラフである。図5において第2の局所加熱光が照射される好ましいタイミングは、接合部境界領域53の接合材粘度が1018(Pa・sec)以下に相当するT1以内である。
【0023】
以上のように、本発明では、接合部と未接合部との境界に局所加熱光を照射するタイミングが重要である。その一方で、第2の局所加熱光42の照射開始位置や移動走査方向は、図2(d)に示す例に限定されず、図6に示すように、第1の局所加熱光41の照射開始位置や移動走査方向に応じて適宜変更可能である。例えば、図6(a)に示すように、第1の局所加熱光41が第1のコーナー部C1から照射を開始した場合、第2の局所加熱光42は、第4のコーナー部C4から照射を開始して、第1のコーナー部C1に向かって移動走査することができる。あるいは、その逆で、第2の局所加熱光42は、第1のコーナー部C1から照射を開始して、第4のコーナー部C4に向かって移動走査してもよい。このことは、第1の局所加熱光41が任意の直線部分から照射を開始する場合においても同様である。つまり、第2の局所加熱光42は、図6(b)に示すように、第1の局所加熱光41による接合部と、その接合部に隣接する未接合部との境界54から照射を開始してもよく、あるいは、図6(c)に示すように、境界54で照射を完了させてもよい。いずれにしろ、第2の局所加熱光42は、接合部の、未接合部との境界に隣接する部分の接合材粘度が所定の条件のときに、この接合部に隣接する未接合部の接合材を溶融させればよい。すなわち、上述の接合材粘度が周囲との平衡温度の値まで増大する前で、かつ1018(Pa・sec)以下である(照射後の経過時間)内に、接合部に隣接する未接合部の接合材が溶融されればよい。したがって、その移動走査方向は限定されない。
【0024】
図2(c)および図2(d)に示す工程では、まず、第1の局所加熱光41が第1のコーナー部C1から第2のコーナー部C2に向かって照射を開始する。そして、所定のインターバルの後、第2の局所加熱光42が第1のコーナー部C1から第4のコーナー部C4に向かって照射を開始している。一方で、第2の局所加熱光42は、第1の局所加熱光41よりも先に第1のコーナー部C1から第4のコーナー部C4に向かって照射を開始してもよい。その場合には、第2の局所加熱光42は、図5に示すように、第2の局所加熱光42が先に照射されてからT1以内に第1の局所加熱光41が第1のコーナー部C1を照射するようなタイミングで照射されることが好ましい。さらには、第2の局所加熱光42は、図6(d)に示すように、第1の局所加熱光41と同時に第1のコーナー部C1から照射を開始してもよい。ただし、照射開始地点となる第1のコーナー部C1では、第1および第2の局所加熱光41、42が同一時刻で照射され、接合材1aが軟化点以上になるため、接合材1aの過熱による信頼性の低下をもたらす懸念がある。このことから、接合部と未接合部との境界に隣接した接合部の接合材粘度ηが、軟化点に相当する106.7(Pa・sec)以上である間に、この境界に隣接した未接合部の接合材に局所加熱光を照射して、境界での接合が完結することがより好ましい。つまり、第2の局所加熱光42の未接合部への照射タイミングとしては、未接合部との境界に隣接した接合部の接合材粘度ηが106.7≦η≦1013.5(Pa・sec)の範囲、すなわち歪点以上、軟化点以下にある間がより好ましい。これにより、クラックの発生を一層抑制することができる。以上、上述したように、第2の局所加熱光は、第1の局所加熱光に対して、インターバルを設けて照射する方法や、それぞれの照射開始位置において同期させる方法などを用いることができ、その照射方向は限定されない。接合材の各辺に対する局所加熱光の照射には、これらの照射方法の一つを利用してもよいし、これらの組み合わせを用いてもよい。なお、第1のコーナー部C1において、第1の局所加熱光41と第2の局所加熱光42とについて上述したことが、他のコーナー部C2−C4における、他の局所加熱光41−44の場合にも当てはまることは言うまでもない。
【0025】
第1から第4の局所加熱光41−44は、接合領域近傍を局所的に加熱可能であればよく、半導体レーザが好適に用いられる。接合材1aを局所的に加熱する性能、ガラス基材の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好適である。また、第1から第4の局所加熱光41−44は、所望の接合予定領域を加熱できればよいため、接合対象物に対して、同じ側に位置していても、それぞれ反対側に位置していてもよい。
【0026】
なお、局所加熱光(レーザ)の走査速度、パワー、スポット径サイズ、波長、使用台数(個数)等は、工業的な生産性や接合材の温度特性に応じて任意に選択可能である。本実施形態においては、例えば、接合材として、幅が0.2mm以上2.0mm以下、厚さが5μm以上12μm以下のガラスフリットを使用することができ、被接合材として、高歪点ガラス基材を使用することができる。その場合、第1〜第4の局所加熱光は、パワー80W〜1000W、波長808nm〜980nm、スポット径0.8mmφ〜3.9mmφ、走査速度100〜2500mm/secの範囲で適用可能である。ただし、局所加熱光の照射条件は、これらの条件に限定されず、より好ましい接合をするために、すなわち、図3に示す接合部境界領域53の接合材粘度が1018(Pa・sec)以下となるように、接合材の特性に合わせて調整することが望ましい。
【0027】
(ステップ4)次に、図2(h)から図2(o)に示すように、ステップ1〜3と同様の手順で、フェースプレート12(第1のガラス基材)と枠部材14(第2のガラス基材)とを接合する。具体的にはまず、図2(h)に示すように、蛍光膜34等が形成されたフェースプレート12を準備する。次に、図2(i)に示すように、フェースプレート12の上に、ステップ1と同様にして接合材1bを枠状に形成する。次に、図2(j)に示すように、ステップ2と同様にして、フェースプレート12と枠部材14とを接合材1bを介して接触させる。ここでは第3のガラス基材52は用いていない。次に、図2(k)から図2(n)に示すように、ステップ3と同様にして、枠状の接合材1bの各辺に沿って第1から第4の局所加熱光41−44を順次照射する。このようにして、図2(o)に示すように、フェースプレート12とリアプレート13が枠部材14を介して対向し、内部空間が形成された外囲器10を形成する。本実施形態において、接合材1bはフェースプレート12に形成しているが、枠部材14に形成することも可能である。なお、接合材1bの種類・物性、レーザ光の照射条件等はステップ1〜3と同様とすることが好ましい。
【0028】
以上説明した実施形態では、リアプレート13と枠部材14を接合し、さらにフェースプレート12と枠部材14を接合し、それによってフェースプレート12とリアプレート13の間に枠部材14が挿入された外囲器10が製造される。しかし、本発明はより一般的には、少なくとも一部がリアプレート13とフェースプレート12とからなる気密容器を製造する方法を提供するものである。従って、枠部材14の形状をした突状部があらかじめ一体形成されたガラス基材をリアプレート13またはフェースプレート12の一方として用い、他方のプレートと接合することも可能である。また、フェースプレート12と枠部材14を先に接合し、その後にリアプレート13と枠部材14を接合することも可能である。
【0029】
さらに、以上説明した実施形態は画像表示装置を対象としたが、本発明はより一般的に、第1のガラス基材と第2のガラス基材との接合に適用することができる。この場合、第1から第4の局所加熱光はすべて第1のガラス基材側から照射してもよく、いくつかを第1のガラス基材側から、残りを第2のガラス基材側から照射してもよく、あるいは、すべてを第2のガラス基材側から照射してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0031】
(実施例1)
上述した実施形態を適用して枠部材とリアプレートの気密接合を行い、さらに、枠部材とフェースプレートの気密接合を行い、真空気密容器を製造した。
【0032】
(ステップ1)
まず、枠部材14を形成した。具体的には、1.5mm厚の高歪点ガラス基材(旭硝子株式会社製PD200)を、外形980mm×580mm×1.5mmに切り出した。次に、切削加工によって、中央部の970mm×570mm×1.5mmの領域を切り出して、幅5mm、高さ1.5mmの略四角形断面の枠部材14を成形した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンスおよびUV−オゾン洗浄により、枠部材14の表面を脱脂した。
【0033】
次に、接合材1aが枠部材14の幅方向の中心に配置されるように、枠部材14上に接合材1aを形成した。本実施例では、接合材1aとしてガラスフリットを用いた(接合材1bも同様)。使用したガラスフリットは、熱膨張係数α=79×10-7/℃、転移点357℃、軟化点420℃のBi系鉛レスガラスフリット(旭硝子株式会社製BAS115)を母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストである。次に、枠部材14上の周長に沿って、スクリーン印刷にて、幅1mm、厚さ7μmの接合材1aを形成し、120℃で乾燥した。そして、有機物をバーンアウトするため460℃で加熱、焼成し、接合材1aを形成した(図2(a)および図2(b)参照)。
【0034】
(ステップ2)
次に、リアプレート13として、高歪点ガラス基材(PD200)からなるガラス基材上に電子放出素子27と駆動用マトリックス配線28、29とが予め形成された電子放出素子基板を用意した。次に、接合材1aが形成された枠部材14とリアプレート13とを、接合材1aを介して互いに接触するように対向配置させた。具体的には、枠部材14の接合材1aが形成された面と、リアプレート13の電子放出素子27が形成された面(気密容器の内面側となる面)とが対向するように、枠部材14とリアプレート13とを向かい合わせて、アライメントしながら接触させた。接合材1aへの押圧力を均一化するために、高歪点ガラス基材(PD200)からなり、リアプレート13と同一サイズの第3のガラス基材52を枠部材14の上に載置した。さらに、押圧力を補助するために不図示の加圧装置によって第3のガラス基材52を押圧した。以上のようにして、リアプレート13と枠部材14を、接合材1aを介して接触させた(図2(c)参照)。
【0035】
(ステップ3)
次に、リアプレート13と枠部材14と接合材1aと第3のガラス基材52とからなる仮組み構造物に、レーザ光を照射した。レーザ光源として、加工用半導体レーザ装置を4つ用意した。第1から第4の局所加熱光41−44は、それぞれ波長980nm、レーザパワー340Wのレーザ光とし、1000mm/sの速度で接合材の各辺に沿って走査した。
【0036】
最初に、第1の局所加熱光41を接合材の第1のコーナー部C1から第2のコーナー部C2に向かって走査した(図2(c)参照)。次に、第1の局所加熱光41が接合材1aの第1のコーナー部C1を照射してから40msec後に、第2の局所加熱光42を接合材1aの第1のコーナー部C1から第4のコーナー部C4に向かって走査した(図2(d)参照)。次に、第1の局所加熱光41が接合材1aの第2のコーナー部C2を照射してから40msec後に、第4の局所加熱光44を接合材1aの第2のコーナー部C2から第3のコーナー部C3に向かって走査した(図2(e)参照)。最後に、第2の局所加熱光42が接合材1aの第4のコーナー部C4を照射してから40msec後に、第3の局所加熱光43を接合材1aの第4のコーナー部C4から第3のコーナー部C3に向かって走査した(図2(e)参照)。第3の局所加熱光43は、第4の局所加熱光44が接合材1aの第3のコーナー部C3を照射してから40msec後に、接合材1aの第3のコーナー部C3を照射して(図2(f))、リアプレート13と枠部材14の接合を完了した(図2(g)参照)。
【0037】
ここで、接合材1aの第1のコーナー部C1について、第1の局所加熱光41を照射してから(接合部50と未接合部51との境界52が形成されてから)第2の局所加熱光42が照射される直前の状態を確認した。具体的には、接合部境界領域53(図3参照)の、第2の局所加熱光42が照射される直前の温度を、不図示の放射温度計で測定した。接合部境界領域53の温度は、放射温度計の測定値で330℃〜360℃であり、接合材1aの粘度に換算すると、1011〜1012(Pa・sec)に相当した。他のコーナー部C2−C4についても、一方の辺に局所加熱光を照射してから他方の辺に局所加熱光が照射される直前の接合部境界領域の温度を放射温度計にて測定した。各コーナー部C2−C4での接合部境界領域の温度は、放射温度計の測定値で、第1のコーナー部C1と同様に330〜360℃であり、接合材の粘度に換算すると、同じく1011〜1012(Pa・sec)に相当した。また、接合部50と未接合部51の境界52付近に第2の局所加熱光42が照射されている時の接合材1aのピーク温度は、放射温度計によれば780℃〜800℃であり、第2の局所加熱光42によって接合材1aが溶融したことを確認した。
【0038】
(ステップ4)
次に、蛍光膜等が形成されたフェースプレート12を準備し、以上のステップ1〜3と同様の手順で、フェースプレート12と枠部材14を接合した。本ステップでは押圧用の第3のガラス基材52は用いず、フェースプレート12の上から直接レーザ光を照射した。接合材1bはフェースプレート12に形成し、レーザ光の照射条件(配置条件、レーザヘッドの仕様等)はステップ3と同一とした(図2(h)から図2(o)参照)。
【0039】
以上のようにして気密容器を作成し、さらに通常の方法に従ってFED装置を完成させた。完成したFEDを作動させたところ、長時間安定した電子放出と画像表示が可能であり、FEDに適用可能な程度の安定した気密性が確保されていることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1a、1b 接合材
12 フェースプレート
13 リアプレート
14 枠部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス基材と、該第1のガラス基材と共に気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法であって、 粘度が負の温度係数を有し、前記第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、前記第1のガラス基材の上に枠状に形成する工程と、
前記第2のガラス基材を、前記接合材と接触させるように、前記接合材が形成された前記第1のガラス基材に対向配置する工程と、
局所加熱光を、前記接合材の枠状に延びる方向に沿って前記接合材に照射し、対向配置された前記第1のガラス基材と前記第2のガラス基材とを接合する工程と、
を有し、
前記局所加熱光の照射は、該局所加熱光が照射された前記接合材の第1の領域と、該第1の領域に隣接し、前記局所加熱光が照射されていない前記接合材の第2の領域との境界において、前記第1の領域の、前記境界に隣接する部分の前記接合材の粘度が1018(Pa・sec)以下である間に、前記第2の領域の、前記境界に隣接する部分が加熱され溶融するように行われる、気密容器の製造方法。
【請求項2】
前記局所加熱光の照射は、前記第1の領域の、前記境界に隣接する部分の前記接合材の粘度が106.7(Pa・sec)〜1013.5(Pa・sec)の範囲にある間に、前記第2の領域の、前記境界に隣接する部分が加熱され溶融するように行われる、請求項1に記載の気密容器の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2のガラス基材の一方は、平板状のガラス基材であり、他方は、ガラス製の枠部材、または平板状のガラス基材にガラス製の枠部材が接合または一体形成された部材である、請求項1または2に記載の気密容器の製造方法。
【請求項4】
電子放出素子を備えたリアプレートと、前記電子放出素子から放出された電子の照射を受けて発光する蛍光膜を備え、前記リアプレートと対向して位置するフェースプレートと、前記リアプレートと前記フェースプレートとの間に位置する枠部材と、を備えた画像表示装置を、請求項1から3のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法を用いて製造する、画像表示装置の製造方法であって、
前記リアプレートを前記第1のガラス基材または前記第2のガラス基材の一方として、前記枠部材を他方として、前記気密容器の製造方法に従って、該リアプレートと該枠部材とを接合する工程と、
前記フェースプレートを前記第1のガラス基材または前記第2のガラス基材の一方として、前記枠部材を他方として、前記気密容器の製造方法に従って、該リアプレートと該枠部材とを接合する工程と、
を有する、画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−233479(P2011−233479A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105525(P2010−105525)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】