説明

気流層ガス化炉の運転方法

【課題】 安定してスラグを流下させるとともに、効率的にガス化炉を運用することにある。
【解決手段】 酸化剤とともに供給される微粉固体炭素質原料をガス化し、灰分を溶融スラグに変換するガス化部2と、ガス化部2の下方に配置され、溶融スラグを水砕するためのクエンチ水14を保有するクエンチ部3と、ガス化部2の底部に配置され、ガス化部2で生成された溶融スラグをクエンチ部3に流下させるスラグタップ9と、前記クエンチ部3に設置され燃料を用いて前記スラグタップ9の下面を加熱するクエンチ部バーナ10とを備えてなる気流層ガス化炉を運転するに際し、前記微粉固体炭素質原料に旋回流を形成させてガス化するガス化運転時には、クエンチ部バーナ10から供給する酸化剤の量によってスラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石炭に代表される微粉固体炭素質原料を酸素、空気等の酸化剤を用いてガス化し、原料の灰分をスラグに変換する気流層ガス化炉の運転方法に係り、特に効率を向上させかつ安定に灰をスラグ化できるガス化炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭等の固体炭素質原料をガス化する炉には、固定層、流動層、気流層等の各方式が種々提案されている。これらの方式の中で、気流層石炭ガス化法は、微粉砕された石炭を該石炭に含まれる灰分の溶融温度以上に保持された高温の炉内に酸素、空気等の酸化剤とともに供給し、可燃分を一酸化炭素および水素を主成分とするガスに、灰分を有害成分のないスラグに変換する技術であり、高効率で、環境保全性にも優れ、適用可能な原料種が多い等の優れた特徴を有する。なお、高いガス化効率が得られる気流層ガス化法については例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
従来の気流層ガス化炉の概略構成を説明する。石炭ガス化炉は、圧力容器内に下方から順に、クエンチ部、ガス化部、及び熱回収部を備える。石炭は微粉砕機により微粉砕され、窒素等の不活性ガスを利用して気流搬送されてガス化部に上下2段に配置された石炭バーナに送られる。石炭バーナに送られた石炭は、別途石炭バーナに供給される酸素、空気等の酸化剤とともに高温のガス化部内へそれぞれ噴き込まれる。前記上下2段に配置された石炭バーナは、ガス化部内の仮想円径に接するようにそれぞれ複数個設置されており、ガス化部内において反応時間を十分確保するための旋回流が形成される。
【0004】
ガス化部の下段に設置された石炭バーナは、比較的多くの酸化剤を炉に供給して灰分の溶融温度以上の炉内温度を維持させる。したがって、石炭中の灰分は溶融スラグとなり、ガス化部底部、すなわちガス化部とクエンチ部の間に設置されたスラグタップを通ってクエンチ部へ流下する。クエンチ部にはクエンチ水が貯められており、スラグタップを経て流下した溶融スラグはクエンチ水に落下して水砕され、クエンチ部に接続された配管より炉外へ排出される。
【0005】
一方、ガス化部の上段に設置された石炭バーナでは、比較的少量の酸化剤を炉に供給し、ガス化反応に対して活性なチャーを発生させ、石炭中の可燃分を一酸化炭素及び水素に富むガスに変換させる。生成されたガスは、ガス化部の上方に設けられた熱回収部を通って圧力容器の上端部に接続された生成ガス出口ラインへ送られ、チャー回収装置、ガス精製装置等により該ガス中の固形物および硫黄化合物を除かれた後、例えばガスタービン等に送られ発電に利用される。
【0006】
ところで、上述の気流層ガス化炉を安定に運転させるためには、ガス化部において溶融されたスラグがスラグタップに固着してスラグタップを閉塞に至らしめることを回避し、安定にスラグをクエンチ水内に排出することが非常に重要となる。溶融したスラグがスラグタップに付着する主要な原因は、ガス化部底部すなわちスラグタップの上面は灰の溶融温度以上の1500〜1800℃に維持されているのに対し、クエンチ部すなわちスラグタップの下面は一般的に600〜1100℃とスラグの凝固点よりも低く、スラグタップから流下するスラグが固化しやすい状態にあることである。
【0007】
このような問題を解決するための方法として、例えば特許文献2に開示されている例がある。特許文献2に開示されている例では、クエンチ部にクエンチ部バーナが設置されているとともに、クエンチ部内のスラグタップ下面近傍の温度を検出する温度検出器が設けられ、クエンチ部バーナへの燃料供給量及び酸化剤供給量を調節する燃料流量調節器及び酸化剤流量調節器が設けられている。そして、この温度検出器の検出値を入力として燃料流量調節器及び酸化剤流量調節器にクエンチ部バーナへの燃料供給量及び酸化剤供給量の指令を出力するコントローラを設けて、スラグタップ下面の温度をスラグが安定に流下可能な状態に維持する。
【0008】
この例によれば、クエンチ部バーナによる燃料の燃焼によって、スラグの流下状態を安定させるために最も有効なスラグタップ下面の温度を高くすることが可能となる。なお、クエンチ部バーナの燃料としては一般的に軽油等の液体燃料かあるいはメタン、プロパン等の気体燃料が用いられる。また、酸化剤としては空気あるいは酸素濃度を調整した酸素及び窒素の混合ガスが利用される。
特許文献3には、生成ガスをクエンチ部に循環させて溶融スラグの飛散防止に利用するとともに、循環する生成ガスをスラグタップの加熱に利用することが示されている。しかし、特許文献3には、クエンチ部に循環する生成ガスの燃焼についてはなにも開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−65094号公報
【特許文献2】実開昭60−161151号公報
【特許文献3】特開平9−87639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記クエンチ部バーナにおける燃料及び酸化剤との量論関係によれば、供給した酸化剤中の酸素量Aに対する燃料が完全燃焼するために必要な酸素量Bの比(A/B、以下、空気比と称する)が1.0の時に最も火炎温度が高い。すなわち、過剰に酸化剤を供給して空気比を高くした運用を行うと、かえってクエンチ部におけるガス温度は低下してしまう。したがって、先に示す例では、ガス化の対象となる石炭の性状あるいは石炭中の灰の温度−粘度特性によってスラグタップ下面の温度維持が困難な場合にあっては、クエンチ部バーナの燃料供給量を増加させる必要があった。これはすなわち、対象とする石炭のガス化運転を行う際に、本来必要としない補助的な燃料を多量に使用することとなり、非常に不経済でかつ非効率的なガス化炉の運用にならざるを得ない。
【0011】
本発明の目的は、安定してスラグを流下させるとともに、効率的にガス化炉を運用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は、微粉固体炭素質原料を酸化剤とともに供給して旋回流を形成し、前記微粉固体炭素質原料の可燃分を一酸化炭素及び水素を主成分とするガスに、灰分を溶融スラグにそれぞれ変換するガス化部と、このガス化部の下方に配置され、溶融スラグを水砕するためのクエンチ水を保有するクエンチ部と、前記ガス化部の底部に配置され、ガス化部において生成された溶融スラグを前記クエンチ部に流下させるスラグタップ部と、前記クエンチ部に設置され気体あるいは液体燃料を用いて前記スラグタップの下面を加熱するクエンチ部バーナとを備えてなる気流層ガス化炉の運転方法において、クエンチ部バーナを利用したガス化炉の昇温時にはクエンチ部バーナから供給する燃料量と酸化剤の量を変化させてスラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を制御し、前記微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時にはクエンチ部バーナから供給する酸化剤の量を変化させることによってスラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を制御することによって達成される。
【0013】
上記課題はまた、上記気流層ガス化炉の運転方法において、ガス化炉の昇温時にあってはクエンチ部バーナから酸化剤とともに気体あるいは液体燃料を供給し、微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時にはクエンチ部バーナに供給される気体あるいは液体燃料の供給を停止して酸化剤供給量のみを制御することによっても達成される。
【0014】
上記気流層ガス化炉の運転方法において、微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時には、クエンチ部バーナの気体あるいは液体燃料の供給口から不活性気体等のガスによるパージを行うようにしてもよい。
【0015】
本発明者等は前記課題を達成するための手段を見出すため、クエンチ部に設置されたクエンチ部バーナの酸化剤供給量とスラグタップ下面温度との関係を検討した。図3にクエンチ部バーナの燃料である軽油供給量を一定とした場合のクエンチ部バーナの酸化剤供給量とスラグタップ下面温度との関係を示す。図3によれば、クエンチ部バーナから供給される軽油量の如何にかかわらず、スラグタップ下面温度はクエンチ部バーナから供給される酸化剤量によって制御可能であることがわかる。さらには、クエンチ部バーナの軽油を遮断した場合においても同様に、クエンチ部バーナの酸化剤量によってスラグタップ下面温度が制御可能であることがわかった。これは例えば特許文献3に開示されるように、ガス化部内で旋回流を形成させる旋回型の気流層ガス化炉にあっては、該ガス化部内での旋回流により形成される当該部の圧力分布によってスラグタップに高温の生成ガスが導かれ、循環流が形成されるためである。すなわち、本発明者等は、ガス化部内で生成された可燃性の生成ガスの一部がクエンチ部に循環され、上述のようにクエンチ部バーナにおける酸化剤中の酸素供給量のうち軽油の完全燃焼に要した酸素量を除いた残存酸素がクエンチ部に循環される生成ガスと燃焼反応を起こし、該スラグタップ下面温度が上昇したためであることを見出した。
【0016】
つまり、クエンチ部バーナから供給される酸化剤は、クエンチ部バーナから供給される燃料があるかぎりこの燃料を燃焼させるが、燃料が燃焼してしまったらクエンチ部に循環される生成ガスを燃焼させるのである。したがって、クエンチ部バーナに供給する燃料量ではなく、クエンチ部バーナから供給する酸化剤供給量を制御することで発熱量を調整し、スラグタップ下面温度を所要の値に保持することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クエンチ部バーナへ供給する補助的な燃料を多量に使用することなく、スラグタップ部におけるスラグの安定した流下が可能で、かつ効率的なガス化炉の運用が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る運転方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る気流層ガス化炉の概略構成を示す系統図である。
【図3】クエンチ部バーナへ供給された酸化剤量とスラグタップ下面温度との関係の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施例により本発明を詳細に説明する。図2に本発明を実施するに好適な気流層石炭ガス化装置の概略系統図を示す。図示の気流層石炭ガス化装置は、石炭バーナ5a,5bおよびクエンチ部バーナ10を備えてなる石炭ガス化炉と、石炭バーナ5a,5bにそれぞれ接続されて石炭を供給する上段石炭供給ライン6a,下段石炭供給ライン6bと、同じく石炭バーナ5a,5bにそれぞれ接続されて酸化剤を供給する上段酸化剤供給ライン7a,下段酸化剤供給ライン7bと、クエンチ部バーナ10に接続されて燃料(軽油)及び酸化剤を供給するクエンチ部バーナ燃料酸化剤供給系と、石炭ガス化炉上部に接続されて生成ガスを取り出す生成ガス出口ライン8と、石炭ガス化炉底部に接続されてスラグを排出するスラグ排出ライン15と、を含んで構成されている。
【0020】
石炭ガス化炉は、軸線を上下方向にして配置された圧力容器1を炉の本体とし、圧力容器1内に下方から順に、クエンチ部3、ガス化部2、及び熱回収部4を備える。クエンチ部3とその上方に配置されたガス化部2の間にはスラグタップ9が設けられている。
【0021】
クエンチ部3底部に前記スラグ排出ライン15が接続され、クエンチ部3内部には、クエンチ水14が収容されている。クエンチ部3のクエンチ水14の水面より上の壁面に前記クエンチ部バーナ10が設置されている。また、スラグタップ9の下面温度を検出する温度検出器16が設けられ、温度検出器16の出力した温度信号は前記コントローラ17に入力される。
【0022】
前記石炭バーナ5a,5bは、ガス化部2に、上段、下段に分かれてそれぞれ複数設けられ、噴出し方向がガス化部内の仮想円径に接するように配置されている。この配置により、前記石炭バーナ5a,5bから噴出される燃料と酸化剤により、ガス化部内において反応時間を十分確保するための旋回流が形成される。
【0023】
クエンチ部バーナ燃料酸化剤供給系は、クエンチ部バーナ10に接続されて燃料(軽油)を供給するクエンチ部バーナ燃料供給ライン13と、同じくクエンチ部バーナ10に接続されて酸化剤を供給するクエンチ部バーナ酸化剤供給ライン12と、クエンチ部バーナ酸化剤供給ライン12に介装されて酸化剤流量を調整するクエンチ部バーナ酸化剤流量調節器20と、クエンチ部バーナ燃料供給ライン13に介装されて燃料流量を調整するクエンチ部バーナ燃料流量調節器18と、クエンチ部バーナ燃料流量調節器18とクエンチ部バーナ10の間のクエンチ部バーナ燃料供給ライン13に接続された不活性ガスライン21と、不活性ガスライン21に介装された遮断弁22と、遮断弁22とクエンチ部バーナ燃料供給ライン13の間の不活性ガスライン21に介装された固定オリフィス23と、クエンチ部バーナ燃料流量調節器18、クエンチ部バーナ酸化剤流量調節器20および遮断弁22を制御するコントローラ17と、を含んで構成されている。
【0024】
以下、上記構成の石炭ガス化装置の運用について説明する。石炭は図示されていない微粉砕機により微粉砕され、窒素等の不活性ガスを利用して気流搬送されてガス化部に上下2段に配置された石炭バーナ5a,5bに送られる。石炭バーナに送られた石炭は、別途上段酸化剤供給ライン7a,下段酸化剤供給ライン7bにより石炭バーナに供給される酸素、空気等の酸化剤とともに高温のガス化部2内へそれぞれ噴き込まれる。前記上下2段に配置された各複数個の石炭バーナから噴出される石炭と酸化剤は、ガス化部内において旋回流を形成し、ガス化のための反応時間を十分確保する。
【0025】
ガス化部の下段に設置された石炭バーナ5bは、比較的多くの酸化剤を炉に供給するようにしてあり、灰分の溶融温度以上の炉内温度を維持させる。したがって、石炭中の灰分は溶融スラグとなり、ガス化部2底部、すなわちガス化部2とクエンチ部3の間に設置されたスラグタップ9を通ってクエンチ部3へ流下する。クエンチ部3にはクエンチ水14が貯められており、スラグタップ9を経て流下した溶融スラグはクエンチ水14に落下して水砕され、クエンチ部3に接続されたスラグ排出ライン15より炉外へ排出される。
【0026】
一方、ガス化部2の上段に設置された石炭バーナ5aでは、比較的少量の酸化剤を炉に供給するようにしてあり、ガス化反応に対して活性なチャーを発生させ、石炭中の可燃分を一酸化炭素及び水素に富むガスに変換させる。生成された高温のガス(生成ガス)は、ガス化部2の上方に設けられた熱回収部4を通って圧力容器1の上端部に接続された生成ガス出口ライン8へ送られ、図示されていないチャー回収装置、ガス精製装置等により該ガス中の固形物および硫黄化合物を除かれた後、例えばガスタービン等に送られ発電に利用される。
【0027】
ガス化運転を行っている場合、石炭中の灰分は溶融状態のスラグに変換され、ガス化部2の炉壁を介してスラグタップ9へ流下される。本運転中、ガス化部2の下段反応領域では、供給された石炭中の灰分の溶融温度以上の1500〜1800℃を維持するよう石炭バーナ5bに供給する酸素量が最適化される。一方、スラグタップ下面近傍の温度が温度検出器16によって検出され、検出した温度を示す温度信号がコントローラ17に送られる。コントローラ17は、入力された温度信号に基づいて、スラグタップ下面近傍の温度を最適化するよう、クエンチ部バーナ10における酸化剤供給量を指示する信号をクエンチ部バーナ酸化剤流量調節器20へ送る。
【0028】
クエンチ部バーナ10から供給された酸化剤は、クエンチ部バーナ燃料供給ライン13により供給された液体あるいは気体燃料の燃焼にまず消費される。そして、クエンチ部バーナ燃料供給ライン13により供給された燃料の燃焼に消費されなかった残存酸化剤は、ガス化部2内での旋回流により形成される圧力分布によって生ずるスラグタップ部における高温の前記生成ガス循環流の一部と燃焼反応を起こす。この燃焼反応により、スラグの流下状態を安定させるために有効なスラグタップ9下面の温度を高くすることが可能となる。このように残存酸化剤が生成ガスと燃焼反応を起こすため、新たにクエンチ部バーナ10の燃料供給量を増加させなくてもスラグタップ9下面の温度を溶融スラグの固着を回避できる温度にすることが可能となり、安定したスラグ流下が維持され、非常に経済的である。
【0029】
ところで、一般的に気流層石炭ガス化炉を起動する際には、クエンチ部バーナ燃料供給ライン13及びクエンチ部バーナ酸化剤供給ライン12を用いて液体あるいは気体燃料と酸化剤をクエンチ部バーナ10に供給し、ガス化部2内の温度を石炭の着火温度以上に昇温する。本実施例においてもこの過程においては、クエンチ部バーナ10に供給される酸化剤の空気比を好ましくは1.0に近い状態となるよう燃料供給量及び酸化剤量を調節する。すなわち、クエンチ部バーナ10をガス化炉の昇温及びスラグタップ9の保温いずれにも利用する場合、ガス化炉に石炭を供給する前過程(炉の昇温過程)においてはコントローラ17により燃料供給量及び酸化剤量を調節し、石炭ガス化運転に移行した時点で酸化剤量のみ制御すればよい。
【0030】
なお、石炭ガス化運転時、クエンチ部バーナ10に供給する燃料については、クエンチ部バーナ10における設定可能な最小流量としても、完全に供給停止しても同様な作用が得られる。また、クエンチ部バーナ10への燃料供給を停止した場合には、遮断弁22へ開信号を送り、不活性ガスライン21からクエンチ部バーナ燃料供給ライン13へ窒素等の不活性ガスを所定量供給し、クエンチ部バーナ10の燃料供給口のパージを行うことが好ましい。本パージにより燃料供給口の焼損が避けられるため、クエンチ部バーナ10への燃料供給を一旦停止した後においても燃料の再供給が可能となるだけでなく、クエンチ部バーナ10の寿命も長くなって、経済的である。
【0031】
図1に上記手順の例をフローチャートで示した。この例では、コントローラ17は、温度検出器16で検出される温度TがTa≦T≦Tbになるように制御する。Taは、スラグタップに溶融スラグを固着させないための下限温度であり、Tbは必要以上に熱を発生させないために設定した上限温度である。
【0032】
コントローラ17は、起動されるとガス化運転中か昇温運転中かを、たとえば微粉炭素質固体原料が供給されているかどうかに基づいて確認する。ガス化運転中でない場合は、図示されていない昇温運転制御に進み、ガス化運転中であれば手順2に進む。手順2で温度検出器16で検出された温度TがTa≦T≦Tbになっているかどうかが判定される。Ta≦T≦Tbの条件が満たされていれば手順3に進み、クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されているかどうかが、クエンチ部バーナ燃料流量調節器18の開度信号に基づいて判定される。クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されていない場合、手順2に戻り、所定の時間間隔でTa≦T≦Tbの条件が満たされているかどうかが判定される。
【0033】
クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されている場合、手順4に進み、クエンチ部バーナ10への燃料供給が停止される。次いで手順5に進み、遮断弁22が開かれ、不活性ガスが不活性ガスライン21からクエンチ部バーナ燃料供給ライン13に供給されてクエンチ部バーナ10の燃料供給口のパージが行われる。次いで手順2に戻り、所定の時間間隔でTa≦T≦Tbの条件が満たされているかどうかが判定される。なお、図1に示した手順4では、燃料供給を直ちに停止するが、徐々に燃料供給量を少なくし、炉内の熱的なバランスの急激な変化を避けるようにしてもよい。
【0034】
手順2で、Ta≦T≦Tbの条件が満たされていないと判定された場合、手順6に進み、温度検出器16で検出された温度TがTa未満であるかどうかが判定される。温度TがTa未満である場合、手順7に進み、クエンチ部バーナ10に供給する酸化剤の量をあらかじめ設定した量だけ増加する。この場合、クエンチ部バーナ10に燃料が供給されているかどうかに関係なく、酸化剤の量をあらかじめ設定した量だけ増加する。増加された酸化剤は、先に述べたように、クエンチ部のスラグタップ9付近に循環する生成ガスを燃焼させ、スラグタップ9下面の温度を上昇させるように作用する。次いで手順2に戻り、所定の時間間隔でTa≦T≦Tbの条件が満たされているかどうかが判定される。
【0035】
手順6で、温度検出器16で検出された温度TがTa未満ではないと判定された場合、つまりTb<Tである場合、手順8に進み、クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されているかどうかが、クエンチ部バーナ燃料流量調節器18の開度信号に基づいて判定される。クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されている場合、前記手順4に進み、前に述べた制御フローが実行される。クエンチ部バーナ10へ燃料が供給されていない場合、手順9に進み、クエンチ部バーナ10に供給する酸化剤の量をあらかじめ設定した量だけ減少させる。この場合、クエンチ部バーナ10に供給される酸化剤は生成ガスの燃焼にのみ用いられており、供給される酸化剤の減少により生成ガスの燃焼量が減少してスラグタップ9下面の温度を低下させるように作用する。次いで手順2に戻り、所定の時間間隔でTa≦T≦Tbの条件が満たされているかどうかが判定される。
【0036】
図1に示す手順によれば、温度検出器16で検出された温度(スラグタップ9下面付近の温度)があらかじめ設定した温度範囲になったら、クエンチ部バーナ10には燃料は供給されなくなり、以後、クエンチ部バーナ10に供給される酸化剤の量だけでスラグタップ9下面付近の温度が前記あらかじめ設定した温度範囲に制御される。したがって、スラグタップ9における溶融スラグの固着が回避されるとともに、消費される燃料量が低減されて運転の効率が向上する。
【符号の説明】
【0037】
1 圧力容器
2 ガス化部
3 クエンチ部
4 熱回収部
5a 上段石炭バーナ
5b 下段石炭バーナ
6a 上段石炭供給ライン
6b 下段石炭供給ライン
7a 上段酸化剤供給ライン
7b 下段酸化剤供給ライン
8 生成ガス出口ライン
9 スラグタップ
10 クエンチ部バーナ
12 クエンチ部バーナ酸化剤供給ライン
13 クエンチ部バーナ燃料供給ライン
14 クエンチ水
15 スラグ排出ライン
16 温度検出器
17 コントローラ
18 クエンチ部バーナ燃料流量調節器
20 クエンチ部バーナ酸化剤流量調節器
21 不活性ガスライン
22 遮断弁
23 固定オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉固体炭素質原料を酸化剤とともに供給して旋回流を形成し、前記微粉固体炭素質原料の可燃分を一酸化炭素及び水素を主成分とするガスに、灰分を溶融スラグにそれぞれ変換するガス化部と、このガス化部の下方に配置され、溶融スラグを水砕するためのクエンチ水を保有するクエンチ部と、前記ガス化部の底部に配置され、ガス化部において生成された溶融スラグを前記クエンチ部に流下させるスラグタップ部と、前記クエンチ部に設置され気体あるいは液体燃料を用いて前記スラグタップの下面を加熱するクエンチ部バーナと、を備えてなる気流層ガス化炉の運転方法であって、ガス化炉の昇温時にはクエンチ部バーナから供給する燃料量と酸化剤の量を変化させてスラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を制御し、前記微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時にはクエンチ部バーナから供給する酸化剤の量を変化させることによってスラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を制御する手順を備えることを特徴とする気流層ガス化炉の運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の気流層ガス化炉の運転方法において、ガス化炉の昇温時にあっては前記クエンチ部バーナから酸化剤とともに気体あるいは液体燃料を供給し、微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時には前記クエンチ部バーナに供給される気体あるいは液体燃料の供給を停止することを特徴とする気流層ガス化炉の運転方法。
【請求項3】
請求項2記載の気流層ガス化炉の運転方法において、微粉固体炭素質原料をガス化するガス化運転時にはクエンチ部バーナの気体あるいは液体燃料の供給口から不活性ガスによるパージを行うことを特徴とする気流層ガス化炉の運転方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の気流層ガス化炉の運転方法において、クエンチ部バーナから供給する酸化剤の量は、スラグタップ下面温度あるいはその近傍のガス温度を入力として変化されることを特徴とする気流層ガス化炉の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163499(P2010−163499A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5176(P2009−5176)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度〜20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)/パイロット試験設備およびゼロエミッション化技術に関する研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】