説明

気液接触装置及び気液接触方法

【課題】中空糸内の滞留水を排出することができ、かつ気液接触効率の高い気液接触装置及びこの気液接触装置を用いた気液接触方法を提供する。
【解決手段】複数本の中空糸14が束ねられ、該中空糸が下部側においてのみ結束部材13によって互いに結束された中空糸モジュール15がケーシング12内に配置されている。ケーシング12内の上部に気体溜まり部16が形成され、中空糸14の上端部が該気体溜まり部16内に位置し、且つ該上端部よりも下側は液に没した状態となるように通水及び通気を行う。ガス導入口12cから気体溜まり部16に供給されたガスは、中空糸14の上端側から下端側に流れる。水中の微生物が中空糸14の外周面に付着し、中空糸14の外周面に生物膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸内にガスが供給され、該ガスが中空糸を透過して液と接触する気液接触装置及びこの気液接触装置を用いた気液接触方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、中空糸の内孔とは、チューブ状中空糸を長手方向に貫通する内孔をいうものとし、中空糸の細孔とは、中空糸の壁部分を構成する合成樹脂に存在する微細孔をいうものとする。
【背景技術】
【0003】
I. 汚水の生物処理法の効率化のために、処理を担う微生物を反応槽内に高濃度で維持することと、低コストで汚水に酸素を供給することが検討されている。
【0004】
微生物を高濃度で維持するためには、微生物を包括固定したゲルを生物処理槽に投入する方法、プラスチック成型物やスポンジ等に微生物を付着させた固定床や流動床等が実用化されている。
【0005】
一方、酸素を効率的に供給するためには、純酸素を用いる方法や、微細な気泡を汚水に吹き込む効率的な散気装置が工夫されてきた。しかしながら、純酸素を用いる方法は、酸素の製造コストが空気を吹き込む通常の方法に匹敵してしまうことが課題であり、また、気泡の微細化においては、そのための物理エネルギーに関わる動力が高くなることが課題であった。これらの課題を解決するために、中空糸膜を経由して空気から直接酸素を液相へ移動させる方法が検討されている。
【0006】
II. 第2図は、中空糸を用いた従来の気液接触装置1Aの縦断面図を示している。この気液接触装置1Aは、ケーシング2Aと中空糸モジュール5Aとを有している。
【0007】
このケーシング2Aは、上端が開放し、下端が閉止した略円筒形であり、その側面の上部に液の流入口2aが設けられ、側面の下部に液の流出口2bが設けられている。また、該流入口2aよりも上側にガス排出口2cが設けられている。
【0008】
中空糸モジュール5Aは、複数本の中空糸4が束状に引き揃えられ、この束の上部側が合成樹脂等よりなる結束部材3によって互いに結束されている。各中空糸4の上端は開放しており、下端4eは封止されている。
【0009】
この中空糸4をケーシング2A内に挿入するようにして中空糸モジュール5Aが配置され、ケーシング2Aの上端のフランジ部2fに対して結束部材3がパッキン9を介して当接され、ボルト7及びナット8によってこれらフランジ部2f及び結束部材3が連結されている。
【0010】
この気液接触装置1Aを運転するに際しては、流入口2aから液を供給すると共に流出口2bから液を流出させる。また、中空糸4の上端から中空糸4内にガスを供給する。このガスは、中空糸4を通ってケーシング2A内の液に供給される。また、ガス排出口2cからケーシング2Aの外側にガスが排出される。なお、ケーシング2A内の上部は液で満たされておらず、該上部は気体溜まり部6となる。
【0011】
第2図の中空糸膜モデュールは、下端4eが塞がれた「デッドエンド」の構造であるため、中空糸4の内部で発生した水分を排出できない。また、この構造では中空糸4の内部にパージされた空気は、中空糸4のうち液面よりも上側の部分(空気溜まり部6に位置する部分)及び液面よりも下側の部分の両方の細孔から排出されるが、水面下の中空糸部分はデッドエンドであってガスの排出口がないため、空気中の酸素は分子拡散でカラムの下に届く。しかしながら、分子拡散の速度はパージの量よりも数オーダー低いため、モデュール底部の生物膜は酸素律速になってしまう問題もある。更に、中空糸4の内部は空洞であるため、浮力によって中空糸4が浮かび上がってしまい、ケーシング2Aの中に均一に充填されにくい問題もある。
【0012】
第3図は、異なる従来の気液接触装置1Bの縦断面図を示している。
【0013】
この気液接触装置1Bのケーシング2Bは、上端が開放し、下端が閉止した略円筒形である。その側面の下部に液の流入口2aが設けられ、側面の上部に液の流出口2bが設けられ、底面に取出口2dが設けられている。
【0014】
中空糸モジュール5Bは、複数本の中空糸4が束状に引き揃えられ、この束の上部側及び下部側が合成樹脂等よりなる結束部材3,3Aによって互いに結束されている。この結束部材3Aの外径はケーシング2Bの内径よりも小さくなっている。各中空糸4の両端は開放している。
【0015】
この結束部材3Aの下面に受け部材3Bが締結されている。
【0016】
この受け部材3Bは、上開容器形であり、下面中央からはノズル部3bが下方に延設されている。この受け部材3Bの上端面が該結束部材3Aの下面周縁に当接され、ボルト3g及びナット3hによって連結されている。
【0017】
この中空糸4をケーシング2B内に挿入するようにして中空糸モジュール5が配置され、ケーシング2Bの上端のフランジ部2fに対して結束部材3がパッキン9を介して当接され、ボルト7及びナット8によって連結されている。また、この受け部材3Bのノズル部3bが前記取出口2dに挿通されている。Oリング2eが、ノズル部3bと取出口2dとの間に介在されている。
【0018】
この気液接触装置1Bを運転するに際しては、流入口2aから液を供給すると共に流出口2bから液を流出させる。また、中空糸4の上端から中空糸4内にガスを供給し、受け部材3Bを介してケーシング2Bの外に排気する。この中空糸4内に供給されたガスの一部は、中空糸4の細孔を通ってケーシング2B内の液に供給される。
【0019】
第3図の気液接触装置1Bのように、中空糸の両端をかたく固定した場合は、中空糸4をケーシング2B内に均一に充填できる長所はあるが、中空糸束の内部(中央側)の中空糸が水と接触しにくくなる短所がある。中空糸と水が接触しにくいと、生物膜の実質的な有効面積が減少することになり、生物処理効率が低下する。
【0020】
III. 一般に、多孔性の中空糸膜を経由して空気から直接酸素を液相へ移動させる方法を採用する場合、ガス中の気体分子が液相に移動する際には、まず、分子が気液界面の境膜(ガス境膜・液境膜)を拡散しなければならないが、液境膜の移動抵抗はかなり高い。気泡には必ずこれらの境膜が形成される。この特性が空気の吹き込み(曝気)で問題になる。これに対し、疎水的な膜は高い表面張力によって液を弾く特性がある。
【0021】
そこで、第4図(a)に模式的に示すように、多孔性の疎水膜よりなる中空糸4の表面に生物膜10を形成させれば、酸素ガスは液境膜を介さずに直接的に中空糸表面の生物膜と接触できる。符号4aは中空糸膜の細孔を示す。一般にガス境膜の移動抵抗は極めて小さいので、これを無視できる。このため、疎水性の中空糸は効率的酸素供給装置になりうる。
【0022】
中空糸表面に生物膜を形成させて排水を処理する特許文献として、米国特許4181604がある。同号公報の廃水処理装置は、液の送入口及び排出口を有する容器内に、中空糸をループ状に配置し、該中空糸の両端を送気管に接続した構成を有している。そして、該送入口から液が供給されると共に排出口から液が排出され、また、該送気管を介して中空糸の両端からガスが供給され、該ガスが中空糸を透過して液に供給される。
【0023】
ところが、この種の疎水性中空糸には、次のような欠点がある。
【0024】
(i)第4図(b)に示す通り、中空糸4の内部で結露が発生し(符号11は結露によって生じた水滴を示す。)、中空糸の内孔が目詰まりすることがある。
【0025】
(ii)スキン層を有するガス分離膜よりもバブルポイント(ガスを押し込んだ際に、膜表面から気泡が発生しはじめる臨界圧力)がかなり低く、ガス圧を高くして強く通すと細孔から気泡が発生し、付着した生物膜が剥離してしまう。
【0026】
これに対処するために、第5図に示す通り、結露せず、しかも、バブルポイントも高いスキン層4bを有する中空糸4Bを用いて酸素供給をおこなう検討が行われている。しかしながら、この場合は、スキン層4bにおける移動抵抗が液境膜のそれと同レベルで高いため、疎水膜ほどの効率的な物質移動は望めない。
【特許文献1】米国特許4181604
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、中空糸内の滞留液を排出することができ、しかも気液接触効率が高い気液接触装置と、この気液接触装置を用いた気液接触方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明(請求項1)の気液接触装置は、液の流入口及び流出口を有したケーシング内に、複数本の中空糸を有した中空糸モジュールを上下方向に配置してなり、該ケーシング内に液が供給され、該中空糸内にガスが供給され、該ガスが該中空糸を透過して該液と接触する気液接触装置において、該中空糸の両端は開放しており、該中空糸の上端は該ケーシング内の上部に位置しており、該中空糸の下端は、ケーシング外に連通しており、該中空糸は、下部側においてのみ互いに結束され、それよりも上側において自由状態となっており、該ケーシングの上部にガス導入口が設けられており、該ガス導入口から該ケーシング内に導入されたガスが、該中空糸内をその上端側から下端側に向けて通気されることを特徴とするものである。
【0029】
請求項2の気液接触装置は、請求項1において、前記ガス導入口にガスを送気する送気装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0030】
請求項3の気液接触装置は、請求項1又は2において、前記ガス導入口に供給されるガスの露点を低下させる手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
請求項4の気液接触装置は、請求項1ないし3のいずれか1項おいて、前記ガス導入口に供給されるガスのフィルタが設けられていることを特徴とするものである。
【0032】
請求項5の気液接触装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記液は水であり、前記中空糸は疎水膜よりなることを特徴とするものである。
【0033】
請求項6の気液接触装置は、請求項5において、前記中空糸は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエチレン及びポリビニリデンジフロライドよりなる群の少なくとも1種よりなることを特徴とするものである。
【0034】
請求項7の気液接触装置は、請求項5において、前記中空糸が精密濾過膜又は限外濾過膜よりなることを特徴とするものである。
【0035】
請求項8の気液接触装置は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記中空糸の外表面に生物膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0036】
請求項9の気液接触装置は、請求項8において、前記生物膜を剥離させる手段を設けたことを特徴とするものである。
【0037】
本発明(請求項10)の気液接触方法は、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の気液接触装置を用いた気液接触方法であって、該ケーシング内の上部に気体溜まり部が形成され、前記中空糸の上端部が該気体溜まり部内に位置し、且つ該上端部よりも下側は液に没した状態となるように、前記流入口及び流出口を介して液を該ケーシング内に流通させると共に、該ケーシングの上部に前記ガス導入口からガスを導入し、該中空糸の上端側から下端側に向けてガスを通気させることを特徴とするものである。
【0038】
請求項11の気液接触方法は、請求項10において、該中空糸内に供給されるガスの圧力が大気圧以上1.1atm以下であることを特徴とするものである。
【0039】
請求項12の気液接触方法は、請求項10又は11において、気液接触によって前記中空糸の外表面に生物膜を形成させることを特徴とするものである。
【0040】
請求項13の気液接触方法は、請求項12において、前記生物膜が所定以上に増殖したときに該生物膜を剥離させることを特徴とするものである。
【0041】
請求項14の気液接触方法は、請求項13において、前記ケーシング内に気泡を供給するか、又は、前記ケーシング内の通液速度を増加させることにより、生物膜を剥離させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明の気液接触装置(請求項1)及び気液接触方法(請求項10)にあっては、中空糸の上端部が気体溜まり部内に位置するため、ケーシング上部のガス導入口から該中空糸の上端部を介して中空糸の内孔にガスが流通する。このガスは、中空糸の下端から流出するが、その途中で中空糸の細孔を通って液に供給される。
【0043】
本発明にあっては、中空糸は下部側においてのみ互いに結束され、それよりも上側において自由状態となっているため、ケーシング内に通液したときに、中空糸は液流で自由に揺らぐ。これにより、中空糸モジュールのうち中央側の中空糸も流通する液と接触し易くなり、その結果、中空糸を透過したガスが効率的に液に供給される。
【0044】
また、一般に、中空糸内にガスを供給すると、ガス中の水分が凝縮し、中空糸内に結露が発生し、この結露による水滴により中空糸の内孔が閉塞することがある。本発明の気液接触装置及び気液接触方法によると、中空糸内に供給されたガスは下向きに流れるので、このガスの下向流及び水滴の自重により、中空糸内に発生した水滴は中空糸の下端側から速やかに排出される。
【0045】
請求項2の気液接触装置では、送気装置によって、ガスを中空糸の上端から中空糸内に送気することができる。
【0046】
請求項3の気液接触装置では、ガス導入口に供給されるガスの露点を低下させる手段が設けられているため、中空糸内でガスが凝結して水滴が発生することが抑制される。
【0047】
請求項4の気液接触装置は、ガスのフィルタが設けられているため、ガス中に混在する不純物が中空糸の内孔に入って中空糸を詰まらせることが防止される。
【0048】
請求項5の気液接触装置は、中空糸が疎水膜であるため、中空糸の外側の水が細孔から中空糸膜の内部に侵入することが防止される。
【0049】
この中空糸膜の材質は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエチレン及びポリビニリデンジフロライドよりなる群の少なくとも1種よりなることが好ましい(請求項6)。なお、疎水性を高めるため、これらの材質よりなる中空糸をさらに撥水加工してもよい。
【0050】
請求項7の気液接触装置は、中空糸が精密濾過膜又は限外濾過膜よりなるため、細孔径が小さい。このため、中空糸内への水の浸入やバクテリアの増殖が防止される。
【0051】
なお、中空糸が疎水性の材質よりなる場合でも、中空糸の細孔径が大きいと、中空糸内の内孔に水が浸入する。また、中空糸の外周面に生物膜を形成する場合、生物膜において増殖したバクテリアが該細孔を通って中空糸内で増殖し、中空糸の内孔が目詰まりする原因となる。請求項7によると、かかる問題点が解消される。
【0052】
請求項8の気液接触装置及び請求項12の気液接触方法は、中空糸の外表面に生物膜が形成されているため、酸素を含有するガスを中空糸内に送気すると共に、ケーシング内に被処理水を通水すると、中空糸を透過した酸素が生物膜に効率的に供給され、生物による水処理が効率的に行われる。
【0053】
このように、中空糸の外表面に生物膜が形成されている場合、生物処理が高効率にて行われるため、別途活性汚泥フロックを用いた水処理を行わなくても足るようになる。このため、活性汚泥フロックの固液分離のために必要な大面積の濃縮槽を設ける必要がなく、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0054】
なお、生物膜による生物処理を行った後の水をより清澄な水とするために、凝集剤を加えて重力濃縮槽内で固液分離することもできるが、この場合でも、生物膜による生物処理を行った後の水のSS(浮遊物質)濃度は低く、また剥離した生物膜の沈降速度は速いため、重力濃縮槽は小さいもので足りる。
【0055】
このような生物膜を形成させた中空糸は、中空糸同士が生物膜を介して互いに付着し、中空糸モジュールの中央側の中空糸に液が通液され難くなる場合がある。
【0056】
請求項9の気液接触装置及び請求項13の気液接触方法は、生物膜を剥離させる手段を有するため、所定以上に増殖した生物膜を中空糸から剥離させることができる。これにより、中空糸同士が生物膜を介して互いに付着することが防止され、中空糸モジュールの中央側の中空糸にも十分に通液され、液の浄化が効率的に行われる。
【0057】
例えば、ケーシング内に気泡を供給するか、又は、前記ケーシング内の通液速度を増加させることにより、生物膜を剥離させることができる(請求項14)。
【0058】
請求項11の気液接触方法は、中空糸内に供給されるガスの圧力が大気圧以上1.1atm以下と低圧であるため、ガスを供給する装置を低コストとすることができると共に、運転コストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。第1図は実施の形態に係る気液接触装置1の模式的な断面図である。
【0060】
この気液接触装置1は、主にケーシング12と中空糸モジュール15とから構成されている。
【0061】
このケーシング12は下端が開放された円筒形となっている。このケーシング12の周面の上部に液の流入口12aが設けられ、下部に流出口12bが設けられている。また、このケーシング12の頂部にガス導入口12cが設けられている。
【0062】
この中空糸モジュール15は、複数本の中空糸14が束状に引き揃えられ、該中空糸14が下部側においてのみ合成樹脂よりなる結束部材13によって互いに結束されたものである。該中空糸14の該結束部材13よりも上側は拘束されておらず、自由状態となっている。この結束部材13は円盤形であり、その上半部はケーシング12内に挿入された小径部となっている。この結束部材13の下半部はケーシング12の内径よりも大きい大径部となっている。該中空糸14の両端は封止されておらず、開放している。
【0063】
この中空糸14に生物膜を形成させ、有機物やアンモニア等を有する水の生物処理を行う場合には、中空糸14として疎水膜を用いることが好ましい。これにより、中空糸14の外側の水が中空糸14の内部に浸入することが防止される。疎水膜の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエチレン及びポリビニリデンジフロライドよりなる群の少なくとも1種が挙げられる。
【0064】
この中空糸14としては、細孔径の小さい精密濾過膜や限外濾過膜を用いることが好ましい。この場合、中空糸14の細孔径が十分に小さいため、生物膜で増殖したバクテリアが細孔を通って中空糸14の中で増殖して中空糸を目詰まりさせることが防止される。なお、ガス中の酸素の透過性を高くするためには、精密濾過膜、特に公称孔径が0.02〜0.2μm程度の精密濾過膜を用いることが好ましい。
【0065】
これらケーシング12に中空糸モジュール15を装着するには、このケーシング12の下端側から中空糸モジュール15の中空糸14を挿入する。そして、該ケーシング12の下端部に結束部材13の上半側の小径部を挿入し、該ケーシング12の下端部の外周に設けられたフランジ12fに対してパッキン19を介して結束部材13の大径部を当接させる。次いで、これらフランジ12fと大径部とをボルト17及びナット18を用いて連結する。
【0066】
前記ガス導入口12cは、配管21を介して送気装置20に接続されている。この送気装置20としては、ファン、ブロワ等が好適である。中空糸14内に通気するガスの圧力は大気圧以上であればよく、送気装置の吐出圧は大気圧以上1.6atm以下、特に大気圧以上1.1atm以下が好ましい。吐出圧が高すぎると、通気動力コストが高くなる。この吐出圧は中空糸14の内径、長さ等に応じて適宜選択される。なお、内径0.6mm、長さ5〜10mの中空糸を1000〜10000本引き揃えた中空糸モジュール15に対しては、吐出圧0.05〜0.15atmの市販のファンで通気することができる。
【0067】
次に、この気液接触装置1を用いた気液接触方法の一例を説明する。
【0068】
有機物やアンモニア等を含む水を、流入口12aからケーシング12内に供給し、流出口12bから流出させる。また、ガス導入口12cから気体溜まり部16に空気等の酸素含有ガスを供給し、中空糸14の上端側から下端側に向けてガスを通気させる。このとき、第1図の通り、ケーシング12内の上部に気体溜まり部16が形成され、中空糸14の上端部が該気体溜まり部16内に位置し、且つ該上端部よりも下側は液に没した状態となるように、通水量、通水圧、給気圧、給気量を調整する。
【0069】
中空糸14内に供給されたガスの一部は、中空糸14の細孔を透過し、中空糸14の外側を流通する水に供給される。中空糸14内に供給されたガスの残部は、中空糸14の下端側から排出される。
【0070】
運転を継続すると、水中の有機物質やバクテリア等の微生物が中空糸14の外周面に付着し、中空糸14の外周面に生物膜が徐々に形成される。これにより、中空糸膜14から供給される酸素は、直接に生物膜に供給されることになり、アンモニア等の被処理物質の酸化のために酸素が効率的に使用される。
【0071】
また、中空糸14内で結露水が発生しても、この結露水は中空糸14の下端から速やかに排出される。
【0072】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、第1図の気液接触装置1において、流入口12aの上流に、液中の固形物等を除去するためのフィルタを設けてもよい。
【0073】
また、配管21や、送気装置20の吸込側に、ガスの露点を低下させる手段を設けてもよい。このガスの露点を低下させる手段としては、容器内にシリカゲルを充填した除湿機、冷凍式ドライヤ、膜式ドライヤ等が挙げられる。
【0074】
さらに、生物膜が所定以上に増殖したときに、中空糸14から生物膜を剥離させるようにしてもよい。例えば、ケーシング12の下部に気体配管を設置し、生物膜が所定以上に増殖したときに、該気体配管からケーシング12内に気泡を供給してもよい。気泡の代わりに気液混合水を供給してもよい。また、生物膜が所定以上に増殖したときに、流入口12aからケーシング12内に供給する液の通液速度を増加させることにより、生物膜を剥離させてもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例1及び比較例1について説明する。
【0076】
[実施例1]
第1図の気液接触装置を用いて運転を行った。
【0077】
中空糸14としては、外径1.0mm、内径0.6mm、長さ1000mmでポリスルホン製の精密濾過の中空糸(公称孔径0.1μm、膜面積7m)を2200本用いた。ケーシング12としては、内径100mm、高さ1200mm、有効容積8Lの硬質塩化ビニル製カラムを用いた。この気液接触装置において、カラム単位容積あたりの中空糸の膜面積は875m/mである。
【0078】
この気液接触装置に、100mg−N/Lのアンモニアを含む無機栄養塩の合成排水を100L/dayで通水すると共に、ガス導入口12cから空気を3L/minで下向きに通気し、中空糸14の表面に硝化細菌の生物膜を形成させる連続運転を行った。通水量及び通水圧と空気量及び空気圧を調整することにより、ケーシング12の上部に高さ200mmの空気溜り部16が形成されるようにした。
【0079】
流出口12bから流出する水のアンモニア濃度と溶存酸素濃度を経時的に記録した。硝酸に酸化されたアンモニアの量をもとに、以下の式(1)に従って、中空糸14に供給される酸素の量を求めた。
【0080】
NH+1.5O→NO+H+H
NH+2O→NO+H+H
酸素供給量(g−O/m/day)
={処理水に流出する亜硝酸量×(1.5×32/14)+処理水に流出する
硝酸量×(2×32/14)}÷7m…(1)
【0081】
アンモニアの硝化に伴って気液接触装置のpHが下がるところから、pHの低下に応じて中和用アンモニア水を自動添加した。
【0082】
このアンモニア水は、硝化細菌の基質を兼ねるため、生物膜の活性(硝化)の上昇に従って、アンモニア水の供給量が自動的に増える。供給されたアンモニアは速やかに亜硝酸や硝酸に酸化されるため、処理水の亜硝酸と硝酸根濃度を経時的に測定することで、気液接触装置の酸素消費量(中空糸の酸素供給量)を把握することができる。
【0083】
この装置を用いた連続運転結果を第6図に示す。第6図は、運転日数と単位膜面積あたりの酸素吸収速度との関係、及び、運転日数と気液接触装置からの流出水の溶存酸素濃度を示すグラフである。
【0084】
<考察>
約500日間の連続運転で中空糸の表面で徐々に生物膜が増え、これに対応して第6図の通り膜の酸素吸収速度が250日目まで一貫して上昇した。その後、酸素吸収速度は25〜30gO/m/dayでほぼ一定値で推移するようになった。気液接触装置からの流出水の溶存酸素濃度は、運転初期には生物膜の量が少なく、生物の酸素吸収速度よりも中空糸からの供給量が多いためほぼ飽和濃度に近い値で推移していたが、生物膜の量が次第に増えていくに従い、徐々に低下して約1mg/Lで一定になった。これは、充分に増殖した生物膜が最大速度でアンモニアを硝化していることによる。
【0085】
この気液接触装置では、カラム単位容積あたりの膜面積は875m/mであるため、リアクター単位容積あたりの酸素吸収速度は、21.9〜26.3kgO/m/dayになる。これは、この気液接触装置は、活性汚泥処理に用いる通常のエアレーションタンクに対しておよそ10倍の酸素供給能力があることを意味する(通常のエアレーションタンクの1/10の容積で同等の処理性能が得られる)。
【0086】
運転を開始して約200日を経過すると、中空糸に厚い生物膜が付着していることが目視で認められるようになった。この生物膜は水流で剥離していたが、水流を高めたり気液接触装置にガスを通気して曝気したりすると、生物膜の剥離量が増えた。この操作の後ではカラムの損失水頭が約50mm低下したことから、これらを行うことで生物膜の過剰増殖による圧力上昇をはじめとする装置の運転で好ましくない現象を制御できることが判った。このことは、ファンのように通気圧力を高められない送気装置を用いる場合は特に重要な操作である。
【0087】
また、運転の継続に従い、カラム下部の中空糸出口から極めて少量の水(約30mL/day)が流出しはじめた。この水の成分は蒸留水に近く、塩類はほとんど含まれていなかった。このことから、この水は、中空糸の内部での結露水であると判断された。水の生成は気液接触装置を構成する機械類の腐食の原因になったり、カビのような貧栄養の微生物が発生して中空糸の出口を汚染・閉塞したりする。そこで、通気ガスの温度を変える、露点を下げる、などの操作をおこなったところ、このような水は生成することが無くなった。
【0088】
[比較例1]
第2図の気液接触装置を用いたこと以外は実施例1と同様にして運転を行った。中空糸の種類、寸法、本数は実施例1と同様とした。その結果を第7図に示す。
【0089】
第7図に示すように、気液接触装置の溶存酸素濃度は比較的初期に低下し、単位膜面積あたりの酸素吸収速度は、実施例の約1/10である2〜3gO/m/dayで一定となった。
【0090】
運転開始後220日目に気液接触装置を開缶して中空糸の状態を調べたところ、中空糸内部では水があまり溜まっていなかったが、束の奥の中空糸には生物膜がほとんど付着していないことが判った。この原因は、中空糸の束が上下で固定されたことで奥の中空糸が水と接触されにくくなり、酸素供給が滞ったためと考えられる。酸素供給が滞ると、中空糸から適切に酸素が生物膜に供給されなくなる。このことが比較例1において酸素吸収速度(酸素供給速度)が実施例1よりも著しく低くなる理由と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施の形態に気液接触装置を示す断面図である。
【図2】従来の気液接触装置を示す断面図である。
【図3】異なる従来の気液接触装置を示す断面図である。
【図4】(a)は中空糸の外周面に生物膜が形成された状態を示す模式的な拡大断面図であり、(b)は(a)において水滴が発生した状態を示す模式的な拡大断面図である。
【図5】スキン層を有する中空糸の外周面に生物膜が形成された状態を示す模式的な拡大断面図である。
【図6】実施例1の結果を示すグラフである。
【図7】比較例1の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0092】
1 気液接触装置
12 ケーシング
12a 流入口
12b 流出口
12c ガス導入口
13 結束部材
14 中空糸
15 中空糸モジュール
16 気体溜まり部
19 パッキン
20 送気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液の流入口及び流出口を有したケーシング内に、複数本の中空糸を有した中空糸モジュールを上下方向に配置してなり、該ケーシング内に液が供給され、該中空糸内にガスが供給され、該ガスが該中空糸を透過して該液と接触する気液接触装置において、
該中空糸の両端は開放しており、
該中空糸の上端は該ケーシング内の上部に位置しており、該中空糸の下端は、ケーシング外に連通しており、
該中空糸は、下部側においてのみ互いに結束され、それよりも上側において自由状態となっており、
該ケーシングの上部にガス導入口が設けられており、該ガス導入口から該ケーシング内に導入されたガスが、該中空糸内をその上端側から下端側に向けて通気されることを特徴とする気液接触装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ガス導入口にガスを送気する送気装置が設けられていることを特徴とする気液接触装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ガス導入口に供給されるガスの露点を低下させる手段が設けられていることを特徴とする気液接触装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項おいて、前記ガス導入口に供給されるガスのフィルタが設けられていることを特徴とする気液接触装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記液は水であり、前記中空糸は疎水膜よりなることを特徴とする気液接触装置。
【請求項6】
請求項5において、前記中空糸は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエチレン及びポリビニリデンジフロライドよりなる群の少なくとも1種よりなることを特徴とする気液接触装置。
【請求項7】
請求項5において、前記中空糸が精密濾過膜又は限外濾過膜よりなることを特徴とする気液接触装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記中空糸の外表面に生物膜が形成されていることを特徴とする気液接触装置。
【請求項9】
請求項8において、前記生物膜を剥離させる手段を設けたことを特徴とする気液接触装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の気液接触装置を用いた気液接触方法であって、
該ケーシング内の上部に気体溜まり部が形成され、前記中空糸の上端部が該気体溜まり部内に位置し、且つ該上端部よりも下側は液に没した状態となるように、前記流入口及び流出口を介して液を該ケーシング内に流通させると共に、該ケーシングの上部に前記ガス導入口からガスを導入し、該中空糸の上端側から下端側に向けてガスを通気させることを特徴とする気液接触方法。
【請求項11】
請求項10において、該中空糸内に供給されるガスの圧力が大気圧以上1.1atm以下であることを特徴とする気液接触方法。
【請求項12】
請求項10又は11において、気液接触によって前記中空糸の外表面に生物膜を形成させることを特徴とする気液接触方法。
【請求項13】
請求項12において、前記生物膜が所定以上に増殖したときに該生物膜を剥離させることを特徴とする気液接触方法。
【請求項14】
請求項13において、前記ケーシング内に気泡を供給するか、又は、前記ケーシング内の通液速度を増加させることにより、生物膜を剥離させることを特徴とする気液接触方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−221070(P2008−221070A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60332(P2007−60332)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】