説明

気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法

【課題】 本発明の気象レーダシステムは、信号処理工程を削減し構成を簡素化する。
【解決手段】 発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムである。受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相(I/Q)検波部11と、前記直交位相(I/Q)検波部11の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部12と、前記FFT処理部12の出力から不要信号を除去する地形エコー除去部13と、前記地形エコー除去部13の出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出部16とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雨量観測を行うことの可能な気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき気象観測を行うドップラ気象レーダシステムが開発されるに至り、比較的高精度な気象観測が可能となっている。
【0003】
このシステムでは、発射した電波が例えば雨滴により反射されることを利用して、反射信号を受信し、この信号を処理して雨量の観測など気象観測を行うことが特徴となっている。このシステムの一例として、特許文献1には、受信信号を高次低域除去フィルタにてフィルタリングし、次にFFT処理を行ってパワースペクトルを取得し、更にパワースペクトルから観測対象のエコーのスペクトルを検出して観測対象のドップラ速度を算出するものが記載されている。
【特許文献1】特開2002−131421号公報
【0004】
上記に対し、雨量観測などには、反射信号の受信強度を算出して、これを用いる手法があり、現在システムの構成としては、図4に示されるようである。つまり、レーダ装置1により電波の発射を行い、反射信号(反射エコー)を取り込んで受信機2へ送る構成を採用している。受信機2では、所定周波数の反射信号の取り出しやダウンコンバートを行って得た信号を信号処理装置10へ送出する構成となっている。
【0005】
信号処理装置10は、直交位相(I/Q)検波部11、FFT処理部12、地形エコー除去部13、IFFT処理部14、地形エコー除去部15及び受信強度算出部16を具備している。直交位相(I/Q)検波部11は、受信した反射信号について直交位相検波を行うものであり、直交位相(I/Q)検波部11にて得られる出力は、ディジタルデータとされている。
【0006】
FFT処理部12は、上記直交位相(I/Q)検波部11により得られたI/Qデータについて高速フーリエ変換を行ってパワースペクトラムを求めるものである。地形エコー除去部13は、反射エコーに含まれる不要成分である地形エコー(建物等による反射エコー)成分を除去するものである。
【0007】
IFFT処理部14は、高速フーリエ変換を行って得られたパワースペクトラム(地形エコー除去されたもの)について高速フーリエ逆変換を行って元のI/Qデータへ戻すものである。IFFT処理部14の次段に設けられた地形エコー除去部15は、地形エコー除去部13によって取り除けなかった不要成分を除去するために補助的に設けられているもので、必ずしも必須の構成ではない。受信強度算出部16は、地形エコー除去部15により地形エコーの除去が行われたI/Qデータによる受信電力について総和を求める演算を行って受信強度情報を算出するものである。
【0008】
上記のように、現在のシステムでは、受信強度情報を算出するまでに、高速フーリエ変換を行ったものを再度元へ戻すために高速フーリエ逆変換を行っており、信号処理工程が多く構成が複雑であるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、信号処理工程が多く構成が複雑である現在のシステムを改良し、信号処理工程を削減し構成を簡素化した気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る気象レーダシステムは、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムにおいて、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波部と、前記直交位相検波部の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部と、前記FFT処理部の出力から不要信号を除去する不要信号除去部と、前記不要信号除去部の出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出部とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る気象レーダシステムでは、前記不要信号除去部は、地形エコーを除去する地形エコー除去部により構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る気象レーダシステムに用いられる信号処理方法は、発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムに用いられる信号処理方法において、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップと、前記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップと、前記FFT処理ステップの出力から不要信号を除去する不要信号除去ステップと、前記不要信号除去ステップの出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出ステップとを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る気象レーダシステムに用いられる信号処理方法では、前記不要信号除去ステップは、地形エコーを除去する地形エコー除去ステップにより構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、高速フーリエ逆変換を行わないために、信号処理工程を削減し構成を簡素化することが可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、受信した反射信号について直交位相検波を行い、直交位相検波により得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求め、高速フーリエ変換処理の出力から不要信号を除去し、不要信号除去の出力に基づき受信強度情報を算出することによって、高速フーリエ逆変換を行った場合と同様の受信強度情報を得ることにより、信号処理工程を削減し構成を簡素化するという目的を達成したものである。
【実施例1】
【0016】
以下添付図面を参照して、本発明に係る気象レーダシステム及びそれに用いられる信号処理方法の実施例を説明する。図1には、気象レーダシステムに係る実施例の構成が示されている。この実施例においても図4に示した現在のシステムと同様に、レーダ装置1により電波の発射を行って、雨滴などで反射した反射信号(反射エコー)を取り込み、受信機2へ送る構成を採用している。受信機2は、所定周波数の反射信号の取り出し、またダウンコンバートなどを行って、得られた信号を信号処理装置10Aへ送出する構成となっている。
【0017】
信号処理装置10Aは、直交位相(I/Q)検波部11、FFT処理部12、地形エコー除去部13及び受信強度算出部16を具備している。図4に示したIFFT処理部14、地形エコー除去部15は具備されていない。
【0018】
直交位相(I/Q)検波部11は、受信した反射信号について直交位相検波を行うものであり、直交位相(I/Q)検波部11にてI(t)及びQ(t)が得られ、ディジタルデータとされてFFT処理部12へ送出される。
【0019】
FFT処理部12は、上記直交位相(I/Q)検波部11により得られたI(t)及びQ(t)のデータについて高速フーリエ変換を行ってパワースペクトラムを求めるものである。地形エコー除去部13は、反射エコーに含まれる不要成分である地形エコー(建物等による反射エコー)成分を除去して、受信強度算出部16へ送出するものである。
【0020】
FFT処理部12により得られるパワースペクトラム(I(f)2+Q(f)2)が図1の(b)の部分に示されるようであるとき、地形エコー除去部13によって地形エコー成分が除去されたパワースペクトラム(I’(f)2+Q’(f)2)は、図1の(c)の部分に示される如くなる。また、FFT処理部12による処理前のI(t)及びQ(t)を用いて受信電力(I(t)2+Q(t)2)を求めると、図1の(a)の部分に示されるようになる。
【0021】
受信強度算出部16は、地形エコー除去部13により地形エコーの除去が行われたパワースペクトラム(I’(f)2+Q’(f)2)について総和を得る演算を行って受信強度情報(Σ(I’(f)2+Q’(f)2))を算出するものである。受信強度算出部16により得られた受信強度情報(気象エコーのトータルパワー情報)は、雨量情報取得部20へ送られる。
【0022】
雨量情報取得部20では、レーダ方程式と称される計算式及びZ−R関係と称される統計的関係に基づき雨量情報を取得する。因みに、レーダ方程式は、Zをレーダ反射因子、受信電力をPr、レーダから雨滴までの距離をrとしたとき、Pr=(C・F・Z)/r2という式である。ここに、Cはレーダ定数、Fは総合補正係数であり、雨滴の状態、レーダ等のハードウエアの要因により定まる数値である。上記レーダ反射因子Zが受信電力をPrが求まると、このレーダ反射因子ZによりZ−R関係と称される統計的関係から、地上雨量Rgを求めることができる。
【0023】
現在のシステムでは、図4に示した如く、IFFT処理部14により元のI(t)及びQ(t)に戻して、受信電力情報(Σ(I’(t)2+Q’(t)2))を求めているが、本実施例では、図2に示すように、FFT処理部12へ送出するI(t)及びQ(t)を用いて計算した受信電力(I(t)2+Q(t)2)のトータル面積(図2(a))と、FFT処理部12により得られたパワースペクトラム(I(f)2+Q(f)2)のトータル面積(図2(b))とが等しくなるという関係を得たことに基づき、IFFT処理部14による高速フーリエ逆変換を行うことなく適切な受信電力を、地形エコー除去部13によって地形エコー成分が除去されたパワースペクトラム(I’(f)2+Q’(f)2)から得ている。
【0024】
これによって、適切なる受信電力を得る場合に、信号処理工程を削減し構成を簡素化することが可能である。なお、図1の例では、信号処理装置10Aが各処理部からなるように示したが、信号処理装置10Aとしては、1台のコンピュータまたは複数台のコンピュータによる構成とし、図3に示されるフローチャートに基づき信号処理を行うように構成される。
【0025】
図3のフローチャートでは、受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップ(S1)と、前記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップ(S2)と、前記FFT処理ステップの出力から不要信号を除去する不要信号除去ステップ(S3)と、前記不要信号除去ステップの出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出ステップ(S4)とを具備することにより、気象レーダシステムに用いられる信号処理方法が実現される。
【0026】
これにより、信号処理工程を削減して適切なる受信電力を得ることができ、信号処理装置10Aの出力した受信電力を用いて雨量情報取得部20では、地上雨量Rgを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る気象レーダシステムにおける実施例の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る気象レーダシステムにおいて、FFT処理を行う前の受信電力とFFT処理を行った後のスペクトラムのトータル面積が等しいことを示す図。
【図3】本発明に係る気象レーダシステムにおける信号処理工程のフローチャート。
【図4】現在の気象レーダシステムにおける構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0028】
1 レーダ装置
2 受信機
10A 信号処理装置
11 直交位相(I/Q)検波部
12 FFT処理部
13 地形エコー除去部
16 受信強度算出部
20 雨量情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムにおいて、
受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波部と、
前記直交位相検波部の出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理部と、
前記FFT処理部の出力から不要信号を除去する不要信号除去部と、
前記不要信号除去部の出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出部と
を具備することを特徴とする気象レーダシステム。
【請求項2】
前記不要信号除去部は、地形エコーを除去する地形エコー除去部により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の気象レーダシステム。
【請求項3】
発射した電波の反射信号を受信し、受信した信号に基づき受信強度情報を検出し、この受信強度情報を用いて気象情報を取得する気象レーダシステムに用いられる信号処理方法において、
受信した反射信号について直交位相検波を行う直交位相検波ステップと、
前記直交位相検波ステップにより得られた出力について高速フーリエ変換処理を行ってパワースペクトラムを求めるFFT処理ステップと、
前記FFT処理ステップの出力から不要信号を除去する不要信号除去ステップと、
前記不要信号除去ステップの出力に基づき受信強度情報を算出する受信強度算出ステップと
を具備することを特徴とする気象レーダシステムに用いられる信号処理方法。
【請求項4】
前記不要信号除去ステップは、地形エコーを除去する地形エコー除去ステップにより構成されていることを特徴とする請求項3に記載の気象レーダシステムに用いられる信号処理方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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