説明

水の再利用設備と有機化合物回収設備、及び方法

【課題】有機化合物を吸着と水蒸気による脱着とにより回収するにあたり、原料水のロスを低減して、脱着用の水蒸気になる純水の量を確保する。
【解決手段】第1回収ライン11は、純水39から水蒸気29を生成するボイラ30と、気体の有機化合物である溶剤ガスの吸着と脱着とを行う吸脱着装置31と、脱着蒸気36を凝縮する第1凝縮器37と、第1凝縮器37で得られた第1凝縮液38を分留する第1分留装置41と、第1分留装置41で溶剤13を取り出された水42を活性汚泥により浄化して浄水44にする膜分離活性汚泥処理装置43と、浄水44を精製して純水にする精製装置45とを備える。水42は膜分離活性汚泥処理装置43の生物反応槽で浄化され、フィルタで活性汚泥と分離されて浄水44として得られる。純水は、再び脱着用の水蒸気にして再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の再利用設備と有機化合物回収設備、及び水の再利用方法と有機化合物回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物は、多くの用途で用いられ、例えば溶剤として用いられる。具体的には、塗布、フィルム製造、印刷等の多くの場面で用いられる。また、その使用量は、年々増加している。有機化合物は、可能な限り再利用することが好ましく、その再利用率を高めるための回収率向上が図られている。
【0003】
溶剤等に用いる液体の有機化合物を回収する方法としては、気体となった有機化合物、すなわち有機ガスを凝縮することにより回収する凝縮法と、有機ガスを吸着物質に吸着させ、吸着された溶剤を水蒸気で脱着し、脱着に使用した水蒸気を凝縮することにより回収する吸脱着法とがある。後者は、少ない量であっても有機ガスを確実に回収する点で前者よりも優れる。なお、脱着とは、吸着状態の物質を吸着界面から離脱することを意味する。
【0004】
脱着に使用する水蒸気は純水から生成される。水蒸気を生成するために清澄度が低い水をつかうと、水蒸気を生成するボイラが、金属分を初めとする不純物により劣化してしまうからである。
【0005】
清澄度が低い水から純水を得る方法としては、砂によるろ過(砂ろ過)、フィルタによるろ過(フィルタろ過)、RO(Reverse Osmosis,逆浸透)膜やイオン交換による処理などがある。これらの方法を組み合わせることもある(例えば、特許文献1参照)。このような純水を得る方法は他にもあり、井水等の原料水の清澄度ならびに原料水に含まれる物質の種類等によって浄化の方法や工程数は異なる。しかし、清澄度が高い井水を原料水として用いる場合であっても、砂ろ過、フィルタろ過を行い、さらに、RO膜、イオン交換膜による処理を実施した後、イオンポリッシャ、紫外線(UV)照射による殺菌を順次行うというように、多くの工程が行われるのが実情である。なお、前述のフィルタによるろ過についても、目が粗いフィルタによるろ過を実施した後にいわゆるミクロフィルタによるろ過を実施するというように、孔径が大きいものから小さいものへと複数のフィルタを用いて、複数段のろ過が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−71099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、脱着に使用する水蒸気を生成するには、上記のように、多数の工程を要し、その工程は、原料水に含まれる異物の種類や含有量に応じて変わることが多い。また、各工程を実施するための装置も必要となるので、コスト的にも問題があるし、装置を配置するスペースの確保についても問題がある。また、水を浄化する各工程では、異物を除去するとともに水をもロスしてしまうことから、工程数が多いほど原料水をロスしてしまうという問題がある。また、そのロス分となった原料水は廃水となるので、ロス分が多くなるほど廃水処理費が嵩んでしまう。さらに、近年のフィルムの需要量の増大に従って、脱着に用いる水蒸気量も増す一方であり、この原料水のロスは大きくなる一方である。
【0008】
そこで、本発明は、気体の有機化合物を吸着及び脱着により回収するにあたり、脱着用の水蒸気を生成する純水の量を確保して原料水のロスを低減する、及び廃水処理費用を低減する水の再利用設備及び方法と、有機化合物回収設備及び方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の水の再利用設備は、純水を水蒸気にする水蒸気生成装置と、案内された気体の有機化合物を吸着物質に吸着し、前記吸着物質に吸着した前記有機化合物を、供給された前記水蒸気により前記吸着物質から脱着する吸脱着装置と、前記脱着に使用した水蒸気を凝縮する水蒸気凝縮装置と、前記凝縮により得られた凝縮液を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化装置と、供給された前記浄水を精製して、前記水蒸気生成装置へ供給される純水にする精製装置とを備えることを特徴として構成されている。
【0010】
また、本発明の有機化合物回収設備は、純水を水蒸気にする水蒸気生成装置と、案内された気体の有機化合物を吸着物質に吸着し、前記吸着物質に吸着した前記有機化合物を、供給された前記水蒸気により前記吸着物質から脱着する吸脱着装置と、前記脱着に使用した水蒸気を凝縮する水蒸気凝縮装置と、前記凝縮により得られた凝縮液から前記有機化合物を分留する分留装置と、分留された水を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化装置と、供給された前記浄水を精製して、前記水蒸気生成装置へ供給される純水にする精製装置とを備えることを特徴として構成されている。
【0011】
上記の有機化合物回収設備においては、前記浄化装置は、前記活性汚泥を収容し、導入された前記水を前記活性汚泥で浄化する活性汚泥処理部と、前記活性汚泥処理部からの活性汚泥の流出を抑止する流出抑止手段とを有することが好ましく、活性汚泥処理部における活性汚泥の濃度は、前記流出抑止手段により、MLVSSで2000mg/L以上10000mg/未満の範囲に保持されてあることがより好ましい。MLVSSについては後述する。前記水の有機物の濃度が1mg/L以上10mg/L以下の範囲である場合に、本発明は特に効果がある。
【0012】
前記吸脱着装置は、ポリマーが液体の前記有機化合物に溶解した溶液からフィルムを製造する製膜装置に接続、または、前記有機化合物が含まれる液からなる塗膜を乾燥する塗布装置に接続する場合に、本発明は特に有効である。
【0013】
前記吸脱着装置が製膜装置に接続する場合においては、有機化合物回収設備は、前記気体の有機化合物を、冷却することにより凝縮する有機化合物凝縮装置をさらに備え、製膜装置は、走行する支持体上に前記溶液を流延して、前記液体の有機化合物を含む湿潤フィルムとして剥がし、この湿潤フィルムの幅を規制した状態で乾燥する第1製膜部と、前記乾燥部の下流に配され、湿潤フィルムの乾燥を進めて前記フィルムとする第2製膜部とを有し、有機化合物凝縮装置は第1製膜部と接続し、第2製膜部は吸脱着装置と接続することが好ましい。
【0014】
本発明の水の再利用方法は、純水を気化させて水蒸気を生成する水蒸気生成工程と、気体の有機化合物を吸着物質に吸着する吸着工程と、吸着した前記有機化合物を前記水蒸気により脱着する脱着工程と、脱着に使用した前記水蒸気を凝縮する凝縮工程と、前記凝縮により得られた凝縮液を、活性汚泥により浄化して浄水にする浄化工程と、前記浄水を精製して、水蒸気を生成するための純水にする精製工程とを有することを特徴として構成されている。
【0015】
また、本発明の有機化合物回収方法は、純水を気化させて水蒸気を生成する水蒸気生成工程と、気体の有機化合物を吸着物質に吸着する吸着工程と、吸着した前記有機化合物を前記水蒸気により脱着する脱着工程と、脱着に使用した前記水蒸気を凝縮する凝縮工程と、前記凝縮により得られた凝縮液を分留して、前記有機化合物と水とに分ける分留工程と、分留された水を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化工程と、前記浄水を精製して、水蒸気を生成するための純水にする精製工程とを有することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水の再利用設備及び方法と有機化合物回収設備及び方法とによると、気体の有機化合物を吸着と水蒸気による脱着とにより回収する際に、脱着用水蒸気になる純水を得るための原料水のロスを低減して、純水の量を確保することができ、廃水処理費を低減することができる。さらに、本発明によると、純水を得るためにイオン交換樹脂やRO膜を使用する場合には、これらの使用期間を長期化することができる。したがって、イオン交換樹脂やRO膜等の交換コストも削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の有機溶剤回収設備の概略図である。
【図2】膜分離活性汚泥処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、実施形態を挙げて説明する。ただし、本実施形態は、本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1の溶剤回収設備10は、第1回収ライン11と第2回収ライン12とを備える。第1回収ライン11と第2回収ライン12とは、蒸発して気体になった有機化合物からなる溶剤、すなわち溶剤ガスを回収する。この実施形態は、溶剤13を使用した溶液14からフィルム17を製造する溶液製膜装置(以下、単に製膜装置と称する)18で蒸発した溶剤13を回収する一例である。本実施形態では、第1回収ライン11と第2回収ライン12とは製膜装置18に接続する。これにより、溶剤13は製膜装置18と第1回収ライン11、第2回収ライン12とを循環し、繰り返し再利用される。
【0020】
製膜装置18は、溶液14を調製する溶液調製ライン19と、溶液14からフィルム17をつくる製膜ライン20とから構成される。溶液調製ライン19は、ポリマー23を溶剤13に溶解して溶液14とする。溶液14の固形成分として、ポリマー23の他に添加剤24を使用する場合もある。
【0021】
第1回収ライン11と第2回収ライン12とは、回収すべき溶剤ガスの濃度の高低に応じて使い分けることが好ましい。溶剤ガスの濃度が低い気体からの溶剤ガスの回収は、第1回収ライン11で実施し、溶剤ガスの濃度が高い気体からの溶剤ガスの回収は、第2回収ライン12で実施することが好ましい。
【0022】
例えば、図1に示すように、製膜装置18に溶剤回収設備10が接続する場合には、第2回収ライン12は、製膜装置18のうち大量に溶媒が蒸発して雰囲気における溶剤ガスの濃度が非常に高い流延部26とテンタ27とに第2回収ライン12を接続し、流延部26とテンタ27とに比べて溶剤13の蒸発量が少なく雰囲気における溶剤ガスの濃度が低い乾燥部28に第1回収ライン11を接続することが好ましい。
【0023】
ただし、第2回収ライン12を使用せずに、第1回収ライン11のみで溶剤ガスを回収してもよい。
【0024】
第1回収ライン11と第2回収ライン12とは、下記の通り互いに異なる方法で溶剤13を回収するように構成されている。このように溶剤ガスの濃度に応じた回収方法を採ることにより、溶剤ガスをより効果的に回収することができるとともに、第1回収ライン11で使用する水蒸気29の量をより少なく抑えることができる。したがって、水蒸気29を生成する純水の使用量を減少させ、純水をつくる原料水の使用量を削減することができる。
【0025】
第1回収ライン11は、製膜装置18の製膜ライン20から案内された溶剤ガスを吸着し、吸着した溶剤ガスを、ボイラ30から供給された水蒸気29により脱着する吸脱着装置31を備える。吸脱着装置31は、溶剤ガスを吸着する吸着物質としての活性炭を、内部に収容する。吸脱着装置31は、熱交換器32を介して乾燥部28に接続し、熱交換器32は、乾燥部28から吸脱着装置31に案内される雰囲気と、吸脱着装置31で溶剤ガスを除去され、乾燥部28へと案内される気体との間で熱交換を行う。
【0026】
吸脱着装置31では、導入された乾燥部28の雰囲気が、活性炭からなる活性炭層を通過し、これにより雰囲気が活性炭に接触する。この接触により、雰囲気中の溶剤ガスを活性炭に吸着させる。この工程を、吸着工程と称する。
【0027】
活性炭を通過し、溶剤ガスが除去された気体は、熱交換器32により昇温されて乾燥部28へ送られる。なお、本実施形態では、熱交換器32と乾燥部32との間に送風コントローラ33を設け、熱交換器32による加熱に加えて、送風コントローラ33による加熱をさらに実施するとともに、この送風コントローラ33により、湿度の調整と乾燥部28への気体の流量とを調整している。
【0028】
活性炭による溶剤ガスの吸着量には限りがあるので、所定時間経過後に吸着工程を終了させ、水蒸気29を吸脱着装置31に送り込む。導入された水蒸気29が活性炭層を通過する。これにより、溶剤ガスを活性炭から脱着させる。この工程を、脱着工程と称する。
【0029】
脱着工程を所定時間実施した後に、吸着工程を再び所定時間実施する。このように、吸着工程と脱着工程とを交互に実施する。
【0030】
第1回収ライン11には、脱着に使用した水蒸気(以下、脱着蒸気と称する)36を凝縮する第1凝縮器37が備えられてある。これにより、脱着蒸気36を液化して第1凝縮液38とする。脱着蒸気36には、水蒸気29と溶剤ガスとが含まれており、また、第1回目の脱着工程で用いる水蒸気29は純水39から生成したものである。したがって、第1凝縮液38は純水39に近い清澄度の水と溶剤13とを含む。なお、本明細書において「純水」とは、電気伝導度が7μS/cm以上15μS/cm以下の範囲である水を意味する。
【0031】
第1凝縮器37の下流には、第1凝縮液38を分留する第1分留装置41が備えられる。この第1分留装置41により、第1凝縮液38を溶剤13と水42とに分ける。溶剤13は、溶液調製ライン19に供され、溶液14の原料として再利用する。
【0032】
第1凝縮液38には、水42と溶剤13との他に、添加剤24や添加剤24の分解物、溶剤13の分解物等の各種有機物がそれぞれ微量に含まれる。そこで、第1分留装置41で溶剤13と分けられた水42を、第1分留装置41の下流に配する膜分離活性汚泥処理装置(MBR,Membrane Bioreactor)43に案内し、これらの有機物を活性汚泥により除去する。この有機物の除去により、水42は浄化され、浄水44が得られる。なお、本明細書において「浄水」とは、衛生上無害とみなせる水である。
【0033】
膜分離活性汚泥処理装置43に案内される水42、すなわち、活性汚泥処理前の水42は、もともと水蒸気29が液化したものである。したがってこの水42は、水蒸気29を生成するために既にカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)が除去されており、これらの各種金属分等はほとんど含まない。このため、膜分離活性汚泥処理装置43の活性汚泥により有機物を除去することで、河川水、湖沼水、地下水などの純水原水よりも純水39に近い清澄度の浄水42が得られる。浄化すべき水に無機物が含まれている場合には、水をイオン交換樹脂またはイオン交換膜を使用する必要があり、浄化すべき水に固形物が含まれている場合には、フィルタを使用する必要がある。しかも、無機物や固形物が多いほど、イオン交換樹脂やイオン交換膜、フィルタの寿命が短い。これに対し、本発明では、浄化すべき水42に無機物や固形物がほとんど含まれず、含まれているのは主にVOC(volatile organic compounds)なので、活性汚泥による浄化処理で、これらVOCを容易に分解して除去する。このため、高い清澄度の浄水44が得られ、膜分離活性汚泥処理装置43の下流に備える後述の精製装置45の連続使用期間をより長期化することができるとともに、精製装置45のイオン交換樹脂やRO膜の交換コストも大幅に低減することができる。
【0034】
従来は、第1分留装置41で溶剤13を取り出した後の水42は、廃棄処分としていた。これに対し、本発明では、第1凝縮液38の水には、各種の金属分等がほとんど含まれていないことに着目し、第1分留装置41で溶剤13を取り出した後の水42から有機物のみを除去することで純水39に近い清澄度をもつ浄水44を得る。したがって、原料水から新たに純水39を生成することなく、あるいはその生成量を従来よりも大幅に抑えて純水39を確保することができる。この方法によると、水蒸気29とする純水39を、脱着蒸気36から生成することができるので、原料水の使用量を大幅に低減することができる。また、この方法によると、第1分留装置41からの水42を膜分離活性汚泥処理という一工程のみで純水39に近い清澄度の浄水44にすることができるので、純水39を得るときのロス分も従来より大幅に少なく、ほぼ100%近くの割合で純水39を再利用することができる。さらに、井水等の原料水を用いるのは、水蒸気29を生成する際に膜分離活性汚泥処理装置43からの水が不足した場合の不足分のみであることから、井水等の原料水の使用量も大幅に低減することができる。
【0035】
精製装置45は、イオン交換樹脂とRO膜との少なくともいずれか一方を備える。イオン交換樹脂は、イオン交換膜であってもよい。精製装置45は、供給された浄水44を、イオン交換膜とRO膜との少なくとも一方により、さらに精製して純水39にする。
【0036】
以上のように、第1回収ライン11は、水蒸気を生成する水蒸気生成装置としてのボイラ30と、吸脱着装置31と、第1凝縮器37と、膜分離活性汚泥処理装置43と、精製装置44とが環状に接続している水の再利用ラインを含む構成としてある。
【0037】
第1凝縮器37は、その下流側が第1分留装置41と膜分離活性汚泥処理装置43との両方に接続する。すなわち、第1凝縮器37の下流側配管は分岐しており、分岐した一方の配管L1は第1分留装置41に、他方の配管L2は膜分離活性汚泥処理装置43にそれぞれ接続する。分岐位置には、第1凝縮液38の送り先を第1分留装置41と膜分離活性汚泥処理装置43とのいずれか一方に切り替える切替弁Vが備えてある。第1凝縮液38における溶剤13の濃度が0(ゼロ)に近いために溶剤13の回収が不要または不能である場合には、第1凝縮液38を膜分離活性汚泥処理装置43に送るとよい。
【0038】
第2回収ライン12は、回収すべき溶剤ガスを含む気体が導入されると、その気体を所定の温度に冷却することにより、気体中の溶剤ガスを凝縮する第2凝縮器47と、第2凝縮器47で得られた第2凝縮液48を蒸留する蒸留装置とを備える。溶剤回収設備10が製膜装置18に接続する場合には、流延部26とテンタ27との雰囲気を第2凝縮器47に案内し、この第2凝縮器47で雰囲気中の溶剤ガスを凝縮する。本実施形態では、溶液14を構成する溶剤13は、複数の液の混合物としてあるので、流延部26とテンタ27との雰囲気に含まれる溶剤ガスは複数の物質から成る。したがって、第2凝縮液48も複数の物質の混合液である。そこで、蒸留装置は、これら複数の物質を蒸留することにより分ける、すなわち分留する第2分留装置49としてある。
【0039】
第2凝縮器47で凝縮しないものは、気体のまま送風コントローラ52に送られ、送風コントローラ52で所定の温度及び湿度に調整される。送風コントローラ52は、第2凝縮器47から導入された気体を、流延部26とテンタ27とに供給すべき気体の温度及び湿度に独立して調整する調整部(図示無し)を備える。各調整部で調整された気体は、それぞれ流延部26またはテンタ27に所定流量で送られる。
【0040】
第2分留装置49で得られた溶剤13は、溶液14を調製する溶液調製ライン19で再利用される。
【0041】
なお、製膜ライン20の流延部26は、溶液14を流延して溶剤13を含む状態の湿潤フィルム53とする。テンタ27は、湿潤フィルム53の幅を規制した状態でこの湿潤フィルム53を乾燥する。乾燥部30は、幅の規制を解除して複数のローラ54により支持しながら搬送し、この搬送の間にさらに乾燥を進めてフィルム17とする。製膜ライン20は、さらに、長尺のフィルム17をロール状に巻き取る巻取部57を有する。なお、添加剤24が溶剤13に不溶あるいは溶けにくいものである場合には、溶液14中で添加剤24は分散した状態とされている。
【0042】
流延部26は、溶液14が流延される無端の流延支持体58と、流延支持体58の上に溶液14を流出する流延ダイ59とを備える。流延支持体58は図1のように無端のバンドであってもよいし、バンドに代えてドラムであってもよい。走行する流延支持体58の上に溶液14が流出されることにより、流延支持体58の上で溶液14が流延され流延膜61が形成される。流延支持体58としてバンドを用いた場合には、図1のように、1対のバックアップローラ62の周面にバンドを巻きかけ、1対のバックアップローラ62のうち少なくとも一方が回転することによりバンドを走行させる。
【0043】
流延支持体58の走行路の近傍には、ローラ63が配され、このローラ63の周面に湿潤フィルム53を巻きかける。湿潤フィルム53を搬送方向に引っ張ることにより、流延膜61はローラ63に支持されて湿潤フィルム53として剥ぎ取られる。
【0044】
テンタ27は、湿潤フィルム53の側端部を保持する保持手段64を複数有し、保持手段64が走行することにより湿潤フィルム53は搬送される。保持手段64は湿潤フィルム53の幅を所定のタイミングで広げたり、狭めたりするように、湿潤フィルム53の幅方向にも変位し、湿潤フィルム53の幅を規制する。このように幅を規制して搬送する間に、湿潤フィルム53を乾燥する。
【0045】
乾燥部28の搬送路には、前述の通り複数のローラ54が配される。これらのローラ54の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により、湿潤フィルム53は搬送される。このように、乾燥部28においては、湿潤フィルム53はテンタ27において為されていた幅の規制が解除されている。
【0046】
流延部26とテンタ27と乾燥部28とは、いずれも外部空間と仕切られている。流延部26とテンタ27と乾燥部28とには、所定の温度及び湿度に調整された空気がそれぞれ送り込まれる。これにより、各内部空間の雰囲気における溶剤ガスの濃度が所定範囲となるように制御され、流延膜61と湿潤フィルム53との乾燥がより効果的に進められる。
【0047】
図2に示すように、膜分離活性汚泥処理装置43は、水42が導入され、活性汚泥を収容し、活性汚泥により処理された浄水44を得る処理槽本体71と、平膜形状のフィルタ72とを備える。フィルタ72は、処理槽本体71の内部を2つのエリアに分けるように、起立した姿勢で配されてある。このフィルタ72により形成された2つのエリアのうち、一方は、活性汚泥を含み水42を浄化する生物反応槽73であり、他方は、浄水44が貯留する浄水貯留槽74である。
【0048】
生物反応槽73には、活性汚泥と水42とが収容される。収容された活性汚泥と水42との混合物(以下、反応液と称する)77には、活性汚泥に含まれる微生物や菌等のために酸素を適宜供給する。ただし、酸素供給手段については、図示を略す。この生物反応槽73で、水42に含まれていた有機物は活性汚泥で分解処理される。
【0049】
浄水貯留槽74には、フィルタ72と対向する壁面に、浄水44を吸引して抜き取る開閉自在な抜き取り口74aが設けられてある。この抜き取り口74aは、浄水44を吸引する吸引部78に接続する。また、処理槽本体71の上部には、吸引部78で浄水44を吸引すると浄水貯留槽74の内部の圧力を低下させることができるように浄水貯留槽74の上部を塞ぐ蓋部材71aが設けられてある。これにより、吸引部78で浄水44を吸引すると、浄水44が生物反応槽73からフィルタ72を通過して浄水貯留槽74に導かれる。
【0050】
排水を浄化する方法として、膜分離活性汚泥処理MBR(Membrane Bioreactor)を採用することは従来行われている。しかし、膜分離活性汚泥処理の被処理液は、通常、有機物の濃度が非常に高い(例えば、100mg/L以上の濃度)。そのため生物反応槽における活性汚泥濃度も非常に高くされ、例えば、MLVSSで10000mg/L以上の濃度とされていた。これに対して、本発明における被処理液である水42の有機物の濃度は、1mg/L以上10mg/L以下の範囲と、従来の被処理液における濃度よりも非常に低い。また、従来の膜分離式活性汚泥処理は、有機物の中でも分子量が大きいものが含まれる排水を浄化するものであった。これに対して、本願では浄化すべき水42における有機物はVOCであるので、従来処理対象としてきた有機物よりも分子量が極めて小さい。以上のように有機物の濃度が低く、さらに分子量が小さな有機物が含まれる被処理液、すなわち低負荷の被処理液を活性汚泥で処理することは、従来はなかったことである。これは、有機物濃度が低く、しかも有機物の分子量が小さい被処理液を処理する場合には、活性汚泥における微生物や菌等の繁殖を保持することができず、活性汚泥の濃度を保持することができないと考えられていたからである。
【0051】
MLVSSは、周知のように、Mixed Liquor Volatile Suspended Solidsの略であり、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)の中の有機物分をいう。MLVSS値は、MLSSのVS(強熱減量)をmg/リットルで表すものである。MLSSとは、活性汚泥法のばっ気槽内の混合液中の浮遊物質をいい、活性汚泥中の有機物分解に関与する生物量を代表して通常mg/L値で表わす。
【0052】
なお、被処理液における有機物の上記濃度の値は、JIS B9944による。また、活性汚泥の上記濃度の値は、JIS B9944のMLSSとして規定された値である。
【0053】
フィルタ72は、生物反応槽73から浄水貯留槽74への活性汚泥の流出を防止する。これにより、生物反応槽73における活性汚泥の濃度は、MLVSSで2000mg/L以上10000mg/L未満という従来の生物反応槽における活性汚泥濃度よりも非常に低い濃度でほぼ一定と保持される。このように活性汚泥濃度を低く保持することにより、生物反応槽73において微生物が自己以外の微生物を食べることを、より確実に抑制することができる。本実施形態では、フィルタ72として、除菌フィルタ並みの高分離能をもつミクロフィルタを用いている。
【0054】
生物反応槽73の底部には、沈殿した活性汚泥を抜き取るための抜き取り口(図示無し)が形成されており、この抜き取り口から、不要となった活性汚泥を抜き取る。抜き取った活性汚泥は、水42に含まれていた有機物を含み、これを廃棄する。
【0055】
本発明における活性汚泥処理装置は、図2に示す膜分離活性汚泥処理装置MBR43に限定されず、公知のものを用いることができる。また、膜分離活性汚泥処理装置43に代えて、活性汚泥処理装置と、活性汚泥の処理済液を固液分離するミクロフィルタとを用いてもよい。ただし、膜分離活性汚泥処理装置を用いることがより好ましい。
【0056】
また、上記の実施形態では、平膜形状のフィルタ72を用いているが、例えば中空糸フィルタ等の各種のフィルタに代えてもよい。
【0057】
なお、上記の実施形態は、製膜装置18で気体となった溶剤13を回収する例であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶剤13を含む塗布液を被塗布物に塗布して塗布膜を乾燥させる塗布装置(図示せず)を、製膜装置18に代えて溶剤回収設備10に接続する態様が挙げられる。この場合には、塗布装置で蒸発した気体となった塗布液の溶剤成分を、溶剤回収設備10で回収する。溶剤回収設備10を塗布装置に接続する場合にも、製膜装置18に接続する場合と同様に、第1回収ライン11と第2回収ライン12との両方を用い、溶剤ガス濃度の高低に応じて両ラインを使い分けてもよいし、第2回収ライン12を用いずに第1回収ライン11のみを用いてもよい。塗布装置としては、走行する支持体に塗布液を塗布して乾燥し、支持体と乾燥した塗布膜とを有する複層フィルムを製造する塗布装置が挙げられる。
【0058】
さらに、製膜装置18と塗布装置との他に、印刷装置や、石油化学プラントや化学プラントでも、溶剤ガスが発生し、かつ水蒸気を使用した脱着で溶剤ガスを回収する場合には溶剤回収設備10を用いることができる。特に、水蒸気の使用量が多い場合に大きな効果が得られる。さらにまた、本発明は、井水用途の工業用水にも適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 溶剤回収設備
13 溶剤
20 製膜ライン
30 ボイラ
37,47 第1,第2凝縮器
41 第1分留装置
43 膜分離活性汚泥処理装置
45 精製装置
72 フィルタ
73 生物反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水を水蒸気にする水蒸気生成装置と、
案内された気体の有機化合物を吸着物質に吸着し、前記吸着物質に吸着した前記有機化合物を、供給された前記水蒸気により前記吸着物質から脱着する吸脱着装置と、
前記脱着に使用した水蒸気を凝縮する水蒸気凝縮装置と、
前記凝縮により得られた凝縮液を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化装置と、
供給された前記浄水を精製して、前記水蒸気生成装置へ供給される純水にする精製装置とを備えることを特徴とする水の再利用設備。
【請求項2】
純水を水蒸気にする水蒸気生成装置と、
案内された気体の有機化合物を吸着物質に吸着し、前記吸着物質に吸着した前記有機化合物を、供給された前記水蒸気により前記吸着物質から脱着する吸脱着装置と、
前記脱着に使用した水蒸気を凝縮する水蒸気凝縮装置と、
前記凝縮により得られた凝縮液から前記有機化合物を分留する分留装置と、
分留された水を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化装置と、
供給された前記浄水を精製して、前記水蒸気生成装置へ供給される純水にする精製装置とを備えることを特徴とする有機化合物回収設備。
【請求項3】
前記浄化装置は、
前記活性汚泥を収容し、導入された前記水を前記活性汚泥で浄化する活性汚泥処理部と、
前記活性汚泥処理部からの活性汚泥の流出を抑止する流出抑止手段とを有することを特徴とする請求項2記載の有機化合物回収設備。
【請求項4】
前記活性汚泥処理部における前記活性汚泥の濃度は、前記流出抑止手段により、活性汚泥有機性浮遊物質MLVSSの値で2000mg/L以上10000mg/L未満に保持されてあることを特徴とする請求項3記載の有機化合物回収設備。
【請求項5】
前記水の有機物の濃度が1mg/L以上10mg/L以下の範囲であることを特徴とする請求項3または4記載の有機物回収設備
【請求項6】
前記吸脱着装置は、ポリマーが液体の前記有機化合物に溶解した溶液からフィルムを製造する製膜装置に接続することを特徴とする請求項2ないし5いずれか1項記載の有機化合物回収設備。
【請求項7】
前記吸脱着装置は、前記有機化合物が含まれる液からなる塗膜を乾燥する塗布装置に接続することを特徴とする請求項2ないし5いずれか1項記載の有機化合物回収設備。
【請求項8】
前記気体の有機化合物を、冷却することにより凝縮する有機化合物凝縮装置をさらに備え、
前記製膜装置は、
走行する支持体上に前記溶液を流延して、前記液体の有機化合物を含む湿潤フィルムとして剥がし、前記湿潤フィルムの幅を規制した状態で乾燥する第1製膜部と、
前記乾燥部の下流に配され、前記湿潤フィルムの乾燥を進めて前記フィルムとする第2製膜部とを有し、
前記有機化合物凝縮装置は前記第1製膜部と接続し、前記第2製膜部は前記吸脱着装置と接続することを特徴とする請求項6記載の有機化合物回収設備。
【請求項9】
純水を気化させて水蒸気を生成する水蒸気生成工程と、
気体の有機化合物を吸着物質に吸着する吸着工程と、
吸着した前記有機化合物を前記水蒸気により脱着する脱着工程と、
脱着に使用した前記水蒸気を凝縮する凝縮工程と、
前記凝縮により得られた凝縮液を、活性汚泥により浄化して浄水にする浄化工程と、
前記浄水を精製して、水蒸気を生成するための純水にする精製工程とを有することを特徴とする水の再利用方法。
【請求項10】
純水を気化させて水蒸気を生成する水蒸気生成工程と、
気体の有機化合物を吸着物質に吸着する吸着工程と、
吸着した前記有機化合物を前記水蒸気により脱着する脱着工程と、
脱着に使用した前記水蒸気を凝縮する凝縮工程と、
前記凝縮により得られた凝縮液を分留して、前記有機化合物と水とに分ける分留工程と、
分留された水を活性汚泥により浄化して浄水にする浄化工程と、
前記浄水を精製して、水蒸気を生成するための純水にする精製工程とを有することを特徴とする有機化合物回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−189227(P2011−189227A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55349(P2010−55349)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】