説明

水中検査システム

【課題】低コスト且つ簡易な方法で、水中にある構造物の亀裂や劣化等を検査することができる水中検査システムを提供する。また、既存の多くの水道管等の埋設管に対して、適用可能な水中管検査システムを提供する。
【解決手段】水中ロボット1と、前記水中ロボット1と複合ケーブル7を介して接続した制御装置5を有する水中の構造体を検査する検査システムであって、前記水中ロボット1が、検査対象物である前記構造体を打撃する打撃装置3と、前記打撃装置3の振動を受信する受信装置4を有しており、前記受信装置4で受信した少なくとも2回の前記打撃振動を、制御装置5で相互比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にある構造物の亀裂や劣化等を、検査することができる水中検査システムに関するものである。特に、水道管等の埋設管を、流体の流れている内部から検査する埋設管検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既存の建造物を有効に活用し、長寿命化を図る体系的な手法であるストックマネジメントが、盛んにうたわれるようになっている。例えば、水道管、工業用水路、農業用水路等の埋設管を、定期的に点検し、修理等を行い、長期に渡り維持管理することが求められている。特に、水道管等の埋設管は、劣化に伴い亀裂等が発生し、漏水等の問題を引き起こすことがあるため、定期的な点検が必要である。
【0003】
従来の漏水箇所の検査方法は、地上から漏水音を聞いたり、埋設管内にガスを供給し、管外に漏れたガスを検知したりする方法で行われていた。しかし、地上から漏水音を聞く方法は、周囲が静かな環境であることが必須条件となるため、車輛の通行を禁止する交通規制等が必要であった。そのため、検査を行う場所や時間帯に大きな制約があり、効率的に全ての水道管等の埋設管を検査することは、困難であった。
【0004】
上記の問題に対して、埋設管の漏水及び劣化等の異常を検査する方法が、いくつか提案されている。第1の方法として、弾性波入力装置と弾性波の受信装置を搭載した自走式ロボットを使用する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、まず、埋設管内を流れる水等の流体を堰き止め、埋設管内に自走式ロボットを配置する。そして、この自走式ロボットを移動させながら、埋設管の複数個所で弾性波の入力及び受信を行い、埋設管の劣化を検査する方法である。この方法により、弾性波を比較的静かな管内で受信できるため、地上を走行する車輛の交通規制等が不要となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、いくつかの問題点を有している。第1に、この方法は、埋設管内を流れる水等を堰き止める必要があるという問題を有している。この水等を堰き止める作業は、大掛かりなものとなり、多大な時間がかかってしまう。また、需要者に大きな影響がでる場合が多い。
【0007】
第2に、自走式ロボットが大型であるため、走行のために大きな動力が必要となり、検査システム全体が大規模になるという問題を有している。なお、この自走式ロボットは、自動車と同等程度の全長を有し、半分程度の高さを有している(特許文献1の図5参照)。
【0008】
第3に、自走式ロボットが大型であるため、検査可能な埋設管のサイズが、一定以上の大きさに制限されてしまうという問題を有している。また、自走式ロボットを埋設管内に投入する投入口も、一定規模以上の大きさが必要となる。そのため、自走式ロボットを投入する場所の自由度は、極めて低いものとなってしまう。つまり、既存の多くの水道管等の埋設管に対して、この自走式ロボットで検査を行うことができない。
【0009】
上記の検査方法の他に、第2の方法として、埋設管に予め水中マイク等を設置し、この水中マイクをセンサとして音や振動を取得し、埋設管における漏水の有無等を検知する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法により、上記の検査方法と同様、地上を
走行する車輛の規制等が不要となる。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、いくつかの問題点を有している。第1に、この方法は、予め水中マイク等を設置していない埋設管には、適用することができないという問題を有している。つまり、限られた範囲内における検査のみに利用することができる。
【0011】
第2に、水等の流体の流れる音の中から、漏水音を検出する必要があるため、複雑な音声解析ソフト及びその装置が必要となるという問題を有している。更に、漏水音を解析して検出するため、ソフトにより処理を行う時間が必要となる。つまり、漏水音をリアルタイムで検知することは不可能である。
【0012】
以上より、現在は、多数存在している埋設管の多くに対して、漏水や劣化の有無を検査することができていない。また、埋設管を検査する際には、交通規制や、埋設管内の堰き止め作業等、多大なコストと時間が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−189229号公報
【特許文献2】特開平11−64151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、低コスト且つ簡易な方法で、水中にある構造物の亀裂や劣化等を検査することができる水中検査システムを提供することにある。また、既存の多くの水道管等の埋設管に対して、適用可能な埋設管検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係る水中検査システムは、水中ロボットと、前記水中ロボットと複合ケーブルを介して接続した制御装置を有する水中の構造体を検査する検査システムであって、前記水中ロボットが、検査対象物である前記構造体を打撃する打撃装置と、前記打撃装置の振動を受信する受信装置を有しており、前記受信装置で受信した少なくとも2回の前記打撃振動を、制御装置で相互比較することを特徴とする。
【0016】
この構成により、打撃振動のサンプルデータ等を予め準備することが不要となり、且つ、サンプルデータと収集した打撃振動のデータを比較解析する必要がなくなるため、簡易な水中検査システムとすることができる。つまり、検査対象物の構造体から取得した複数の打撃振動を相互比較することで、容易に劣化や亀裂等が発生している箇所を特定することができる。
【0017】
ここで、複合ケーブルとは、水中ロボットと制御装置の間で、データの送受信、電力の供給等を行うケーブルである。
【0018】
上記の目的を達成するための本発明に係る埋設管検査システムは、水中ロボットと、前記水中ロボットと複合ケーブルを介して接続した制御装置を有しており、埋設管内に前記水中ロボットを投入し、前記水中ロボットにより不断水で埋設管を内部から検査する埋設管検査システムであって、前記水中ロボットが、検査対象物である前記埋設管の内壁を打撃する打撃装置と、前記打撃装置の打撃振動を受信する受信装置を有しており、前記受信装置で受信した少なくとも2回の前記打撃振動を、制御装置で比較することを特徴とする

【0019】
この構成により、前述と同様、簡易な埋設管検査システムを提供することができる。つまり、少なくとも打撃振動の収集と相互比較が行える構成を有していればよいため、埋設管検査システムを小規模化し、水中ロボットを小型化することができる。そのため、既存の埋設管のほとんどを検査対象として検査することができる。
【0020】
上記の検査システムにおいて、前記打撃装置が、前記水中ロボットの移動に伴い、連続的に前記検査対象物を打撃し、前記受信装置で受信した複数回の打撃振動を、前記制御装置で相互比較することを特徴とする。
【0021】
この構成により、取得する打撃振動の数が増加し、検査対象物の劣化や亀裂を高い精度で検出することができる。
【0022】
上記の検査システムにおいて、前記水中ロボットが、流体の流れを受けて、前記流れの下流方向に移動する推進装置を有していることを特徴とする。
【0023】
この構成により、水中ロボットが推進するための駆動装置等が不要となるため、水中ロボットを小型化することができる。この水中ロボットの小型化により、検査対象が拡大し、例えば、直径の小さい埋設管等の検査も可能となるため、既存の埋設管のほとんどを検査対象として検査することが可能となる。
【0024】
上記の検査システムにおいて、前記制御装置が、前記打撃振動を表示するオシロスコープ、又はAD変換機を介して接続したパソコンを有していることを特徴とする。
【0025】
この構成により、取得した打撃振動のデータのピークのみを相互比較し、検査対象物の亀裂や劣化等を検査することができる。つまり、複雑なデータ解析等を不要とした、簡易な検査システムとして構成することができる。
【0026】
上記の検査システムにおいて、前記受信装置を、筒状体の一端に水中マイクを設置し、他端を拡開した集音形水中マイクであることを特徴とする。
【0027】
この構成により、打撃振動を確実に、且つ高精度に収集することができるため、検査対象物の亀裂や劣化等を検出する精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る水中検査システムによれば、低コスト且つ簡易な方法で、水中にある構造物の亀裂や劣化等を検査することができる水中検査システムを提供することができる。また、既存の多くの水道管等の埋設管に対して、適用可能な埋設管検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る実施の形態の埋設管検査システムの概要を示した図である。
【図2】本発明に係る埋設管検査システムの水中ロボットを示した図である。
【図3】本発明に係る水中ロボットの受信装置を示した図である。
【図4】本発明に係る水中ロボットの推進装置を示した図である。
【図5】本発明に係る水中ロボットの推進装置を示した図である。
【図6】本発明に係る受信装置で得られる波形の概要を示した図である。
【図7】本発明に係る異なる実施の形態の水中ロボットを示した図である。
【図8】本発明に係る異なる実施の形態の水中ロボットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態の水中検査システム、特に埋設管検査システムについて、図面を参照しながら説明する。図1に、埋設管検査システムの概略を示す。埋設管検査システムは、水中ロボット1と、この水中ロボット1を複合ケーブル7及びケーブルドラム8を介して接続している制御装置5と、この制御装置5に接続したコントローラ6を有している。この水中ロボット1は、埋設管2の内壁面(2a、2b等)を打撃する打撃装置3と、この打撃振動(打撃音)を取得するための受信装置4を有している。
【0031】
また、埋設管検査システムは、水中ロボット1を浮上制御し、埋設管2の天井部2aを検査する方法、水中ロボット1を沈降制御し、埋設管2の底部2bを検査する方法、及び水中ロボット1を中性浮力に制御し、埋設管2の側面を検査する方法等を行えるように構成している。なお、図1の矢印は、埋設管2内の流体の流れ方向を示している。なお、コントローラ6は、水中ロボット1の姿勢制御や、浮上、沈降の制御を行うために設置している。
【0032】
次に、埋設管検査システムの動作に関して説明する。例えば、水道管の検査であれば、まず、マンホールや空気弁等の枝管(投入口11)から、水中ロボット1を投入する。そして、水中ロボット1は、打撃装置で埋設管の内壁面(2a、2b等)を打撃し、この打撃振動(打撃音)を受信装置で取得しながら、下流方向に移動する。
【0033】
このとき、取得した複数の打撃音を相互比較し、変化のある箇所を検出する。この場所に、漏水やコンクリートの劣化、又は埋設管の外側周辺の地盤の異常がある。この埋設管の異常箇所を、複合ケーブル7の繰り出し量等から特定し、記録する。この打撃音の取得及びその比較を繰り返しながら、水中ロボット1は、埋設管2内を下流方向に移動する。検査完了後に、ケーブルドラム8で、複合ケーブル7を巻き取り、水中ロボット1を回収する。
【0034】
なお、水中ロボット1の前進の速度は、流体の流れの速さにより決定される。しかしながら、複合ケーブル7の繰り出し速度の調整により、水中ロボット1の前進速度を遅くする制御を行うことはできる。
【0035】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、埋設管2内を流れる流体を堰き止めずに、埋設管2における漏水や劣化等を検査することができる。このため、埋設管2の検査を、低コスト且つ簡易な方法で実現することができる。
【0036】
この水中ロボット1は、埋設管2内の流体の流れを利用して移動するように構成している。そのため、水中ロボット1が前進するための動力が不要となる。ここで、水中ロボット1にモータとスクリュー等の推進装置を搭載してもよいが、この推進装置を搭載しない方が、水中ロボット1を小型化することができる。小型の水中ロボット1であれば、直径の細い埋設管等の検査も可能となり、検査範囲が広がる。
【0037】
また、水中ロボット1を先ず、下流方向に流し、その後、複合ケーブル7又は牽引ロープ9の巻き取りにより、水中ロボット1を上流方向に牽引しながら、打撃音を取得するように構成してもよい。
【0038】
更に、複合ケーブル7の他に、牽引ロープ9を水中ロボット1に連結する構成としてもよい。この構成により、水中ロボット1の回収等を牽引ロープ9で行うことができる。このため、複合ケーブル7に過度の力がかかり、内部の光ファイバーや通信用の信号線等を破断する事故を防止することができる。
【0039】
図2に水中ロボット1の1例を示す。水中ロボット1は、筐体20と、筐体20に設置した打撃装置3及び水中マイク(受信装置)4を有している。また、筐体20の後端に、複合ケーブル7を接続している。
【0040】
この打撃装置3は、アーム22の先端にハンマー21を設置した構成を有しており、複数のハンマー21及びアーム22を放射状に構成し、回転型の打撃装置3としている。また、水中ロボット1の先端に、ドーム状の推進装置23を設置している。この推進装置23には、カメラ24及び照明装置(図示しない)を設置している。更に、筐体2の側面及び上下面に、姿勢制御のためのスラスター25を、側面に傾動翼26を設置している。
【0041】
次に、水中ロボット1の動作に関して説明する。水中ロボット1は、埋設管2内の流体の流れを推進装置23で受け、図2の左方に前進する。この前進に伴い、回転型の打撃装置3が回転し、底部2bを打撃する。この打撃音を水中マイク4で取得し、複合ケーブル7を経由して、地上の制御装置5に打撃音のデータとして送信する。
【0042】
この水中ロボット1により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、水中ロボット1は、埋設管2内に流体が充満している状態で使用できるため、流体の堰き止め等の作業が不要となる。第2に、流体の流れを利用して水中ロボット1の移動を行う構成により、水中ロボット1は移動のための駆動装置が不要となり、小型化が可能となる。
【0043】
第3に、回転型の打撃装置3を利用する構成により、連続的な打撃音を取得することができ、埋設管の検査の精度を向上することができる。つまり、制御装置5では、この複数の打撃音を相互比較して、埋設管3の異常を検出するように構成しているため、取得する打撃音の数が多いほど、正確な検査をすることができる。
【0044】
ここで、ハンマー21の材料は、埋設管2等の打撃対象となる管や路の材質により適宜選択することが望ましい。つまり、埋設管2等の材質は、鉄管、塩ビ管、コンクリート管、FRP管等、様々の種類があるため、この材質に合わせてハンマー21の材料を選択するとよい。このとき、ハンマー21の打撃振動(打撃音)が周波数の高いものとなることが望ましい。なお、ハンマー21は複数の材料の物を準備しておき、調査対象となる埋設管2等に合わせて、適宜交換可能に構成してもよい。また、この打撃装置3が能動的に回転するように、水中ロボット1に小型のモーターを搭載するように構成してもよい。
【0045】
第4に、ドーム状の推進装置23を設置する構成により、水中ロボット1は、流体の流れを効率的に利用し、前進することができる。つまり、水中ロボット1は、前進のための駆動装置を搭載していなくても、推進装置23が図2に示す流体の流れを受けて、前進する方向の力を効率的に得ることができ、更に、水中ロボット1による検査速度を向上することができる。この推進装置23の材料は、例えば、検査対象が上水道管等である場合は、食品衛生上の制約等があるため、検査対象となる管や路に合わせて適宜選択することができる。
【0046】
なお、推進装置23には、カメラ24及び照明装置(図示しない)を設置しており、地上の制御装置5に取得した画像を送るように構成している。この照明装置及びカメラ24は、オペレータが、水中ロボット1の姿勢制御のために行うコントローラ6の操作や、水中ロボット1の前進を制御するために行う複合ケーブル7及び牽引ロープ9の送り出しの操作を補助する役目を有している。
【0047】
第5に、回転翼を有するスラスター25を設置する構成により、水中ロボット1は、埋設管2内における姿勢制御を行うことができる。また、平板状の傾動翼26を設置する構
成により、水中ロボット1は、埋設管2内を流れる水流から、水中ロボット1を底部2b(又は天井部2a)に押さえつける力(ダウンフォース)を得ることができる。このスラスター25の姿勢制御や、傾動翼26のダウンフォースにより、水中ロボット1が、確実に埋設管2の内壁面(天井部2a、底部2b)に沿って移動するため、打撃音の取得効率を高めることができる。
【0048】
なお、スラスター25及び傾動翼26の制御は、制御装置5により自動的に行うように構成してもよく、また、制御装置5に接続したコントローラ6でオペレータが制御するように構成してもよい。
【0049】
ここで、図2の水中ロボット1は、沈降制御をしており、埋設管2の底部2bを検査するように構成している。この沈降制御は、水中ロボット1が埋設管2内の流体よりも比重が重くなるように、ウェイト等を搭載して行う。また、補助的に水中ロボット1の上下面に搭載したスラスター25を利用してもよい。
【0050】
図3に、受信装置4の1例である集音型の水中マイク(受信装置4)の部分断面図を示す。集音型水中マイクは、筒状体27の一端に水中マイク4を設置し、他方を拡開して構成している。この集音型水中マイクは、この筒状体27の拡開した端部を、埋設管の内壁面(底部2b、天井部2a等)に接近又は接触した状態で、打撃音(打撃振動)を取得するように構成している。この構成により、打撃音を確実に、且つ高精度に収集することができるため、埋設管2の亀裂や劣化等を検出する精度を向上することができる。
【0051】
図4に、推進装置23の1例である開閉自在の推進装置(傘型推進装置)23Aを示す。傘型推進装置23Aは、水中ロボット1の筐体20の前方に設置した中心軸34(図示しない)と、この中心軸34の前方端部に傾動自在に設置した複数のロッド31と、このロッド31の間に固定したシート状物30を有している。また、ロッド31の後端にワイヤ32を連結している。このワイヤ32を、係止金具33a、33bを介して筐体20に係止している。なお、中心軸34の先端には、カメラ24を設置している。
【0052】
この傘型推進装置23Aは、拡開した複数のロッド31とシート状物30により形成した空洞部に、矢印で示す流体の流れを受け、水中ロボット1が前進するように構成している。そして、水中ロボット1の前進(検査作業)が完了し、地上に回収する際には、地上からのコントロール等により、係止金具33a、33bを開放し、ワイヤ32の連結を解除する。
【0053】
図5に、ワイヤ32の連結を解除した状態を示す。ワイヤ32を解除すると、傘型推進装置23Aは、矢印で示す流体の流れにより、反転する。この構成により、水中ロボット1を牽引ロープ9等で牽引して回収する際、傘型推進装置23Aは、流体の流れに対する抵抗とならない。このため、水中ロボット1の回収を容易且つ迅速に行うことができる。
【0054】
また、傘型推進装置23Aを利用する構成により、水中ロボット1の前進する速度を制御することができる。つまり、ワイヤ32の長さを短く調整し、シート状物30及びロッド31の開度を小さくすると、水中ロボット1が流体の流れから得る推進エネルギーを小さくすることができる。逆に、ロッド31等の開度を大きくし、推進装置23Aを大きく開いた場合は、水中ロボット1の前進する速度は上昇する。
【0055】
なお、シート状物30は、シート状であり、変形可能であり、また、流体の流れを受けることができるものであればよい。例えば、ビニールシートや、網目の細かい布状物でもよい。
【0056】
図6に水中マイク(受信装置4)で受信する打撃振動の波形のイメージを示す。縦軸は音の振幅を示し、横軸は時間経過を示している。W1は打撃装置3により発生する音のイメージ波形を示しており、W2は流体の流れる音のイメージ波形を示している。
【0057】
この波形のイメージは、以下の方法で取得する。先ず、複数の打撃振動を水中マイク4で収集する。この打撃振動のデータを、複合ケーブル7を経由して、地上の制御装置5に送信する。この制御装置5には、例えばオシロスコープ、又はAD変換装置を搭載したパソコン等を接続して、この波形を観察するように構成することができる。次に、この取得した打撃振動のデータの波形同士を比較し、埋設管の劣化箇所等を特定する。
【0058】
具体的には、図6に示すポイントP1及びP2が、亀裂等を有する劣化箇所を示している。つまり、ポイントP1及びP2は、他の部分の波形のピークで形成する平均振幅Fよりも、大きく下回る振幅であるため、亀裂等の発生が疑われる。
【0059】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、流体の流れる音W2から、打撃音W1を抽出するためのデータ処理が不要となる。これは、流体の流れる音W2に比べて、打撃音W1の方が、波形の振幅が大きい(音が大きい)ためである。
【0060】
第2に、取得した打撃音のデータから、直接的に埋設管2における亀裂や劣化箇所を特定することが容易に行える。これは、取得した複数のデータ間の比較により、劣化箇所の特定ができるためである。つまり、オシロスコープやAD変換装置を搭載したパソコンにより、打撃音のピークを観察するため、従来のサンプルデータの作成及びそれとの比較等の特別なデータ解析が不要となる。そのため、埋設管検査システム自体を低コストで提供することができる。
【0061】
第3に、上記のデータ処理の方法を行うため、検査作業を容易且つ短時間に行うことができる。ここで、打撃音のデータの波形は、ハイパスフィルター等を利用すると、更に観察が容易となる。このハイパスフィルターにより、低い周波数を有している流水音等の不要な振動(音)を排除できるためである。
【0062】
なお、打撃音の発生間隔は等間隔である必要はない。但し、打撃音の相互比較により、埋設管2の問題箇所を検出する構成であるため、打撃音の取得データの数は多い方が望ましい。
【0063】
図7に、異なる実施の形態の水中ロボット1Aの概略を示しており、図7左方に側面図、右方に背面図を示す。水中ロボット1Aは、埋設管2の内壁に沿って移動するための滑走板40を有している。また、打撃装置3は、ハンマー21とスイングアーム22で構成している。更に、筐体20に、流水により回転する複数の回転翼41を設置している。
【0064】
次に、この水中ロボット1Aの動作に関して説明する。この水中ロボットは、流体の流れ、及びソリ状の滑走板40により、底面2bに沿って移動する。このとき、スイングアーム22は、水中ロボット1Aに内蔵した電源、又は地上から供給する電力を利用して動作するように構成している。このスイングアーム22の動作により、ハンマー21で内壁を複数回打撃して、打撃振動(振動音)を取得する。
【0065】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、ソリ状の滑走板40を設置する構成により、水中ロボット1Aの移動をスムーズに行うことができる。なお、滑走板40の材料は、ナイロン系の潤滑性を有する材料、又はテフロン(登録商標)等を利用することができる。また、この滑走板40により、スイングアーム22の支点から内壁までの距離を一定に保つことができる。このため、ハンマー21により得る打撃音のピ
ークを、内壁(底部2b等)の状態が均一であれば、一定に保つことができる。つまり、埋設管2の劣化や亀裂等の検出の精度を向上することができる。
【0066】
第2に、回転翼41を設置する構成により、この回転翼41を介して回収した流体の流れるエネルギーを、スイングアーム22の動力をはじめとして、水中ロボット1Aの動力に利用するように構成することができる。この構成により、検査装置全体で必要となる電力を小さくすることができる。そのため、埋設管検査システム全体の規模を小型化することができる。特に、下流側から上流側に、水中ロボット1Aを移動しながら検査をする場合、回転翼41により回収できるエネルギー量を増加することができる。
【0067】
図8に、異なる実施の形態の水中ロボット1Bの概略を示す。水中ロボット1Bは、埋設管2の内壁に沿って移動するための車輪42を有している。また、打撃装置3は、ハンマー21とスイングアーム22で構成している。更に、受信装置4は、一方を拡開した筒状体27を有する集音型の水中マイクで構成している。加えて、水中ロボット1Bの前方にカメラ24を設置し、後方にドーム状の推進装置23を設置した例を示している。なお、水中ロボット1Bは、浮上制御を行い、埋設管2の天井部2aを検査するように構成している。
【0068】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、車輪42を設置する構成により、スイングアーム22の支点から、内壁(天井部2a等)までの距離を一定に保つことができる。そのため、ハンマー21により内壁を打撃する強さを一定に保つことができる。
【0069】
第2に、受信装置3に設置した筒状体27を、ハンマー21の方向に拡開する構成により、打撃音を効率的に収集することができる。この構成により、埋設管検査の精度を向上することができる。
【0070】
以上のように、水中ロボットのいくつかの例を示したが、いずれの水中ロボットも、埋設管2の天井部2a、側面部、底部2bを検査することができる。この水中ロボットの浮力の調整は、検査の前、又は検査の途中であっても、ウェイトを取り除く作業等により実現することができる。
【0071】
また、打撃装置3、受信装置4及び推進装置23等を組み合わせて、任意の水中ロボットを構成することもできる。つまり、検査対象となる埋設管2等の状況により、適宜、組合せを変更して、水中ロボットを最適な状態として、埋設管検査に利用することができる。
【0072】
以上、水中検査システムを、特に埋設管の検査に利用する埋設管検査システムとして説明したが、例えば、原子力発電所において冷却海水を取水する管や、暗渠等の検査に利用することも可能である。但し、流体の流れによる移動が困難な暗渠等で使用する場合には、スクリュー等の能動的な推進装置を設置する必要がある場合もある。
【符号の説明】
【0073】
1 水中ロボット
2 埋設管
2a 天井部
2b 底部
3 打撃装置
4 受信装置(水中マイク)
5 制御装置
7 複合ケーブル
8 ケーブルドラム
20 筐体
21 ハンマー
22 アーム
23 推進装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ロボットと、前記水中ロボットと複合ケーブルを介して接続した制御装置を有する水中の構造体を検査する水中検査システムであって、
前記水中ロボットが、検査対象物である前記構造体を打撃する打撃装置と、前記打撃装置の振動を受信する受信装置を有しており、前記受信装置で受信した少なくとも2回の前記打撃振動を、制御装置で相互比較することを特徴とする水中検査システム。
【請求項2】
水中ロボットと、前記水中ロボットと複合ケーブルを介して接続した制御装置を有しており、埋設管内に前記水中ロボットを投入し、前記水中ロボットにより不断水で埋設管を内部から検査する埋設管検査システムであって、
前記水中ロボットが、検査対象物である前記埋設管の内壁を打撃する打撃装置と、前記打撃装置の打撃振動を受信する受信装置を有しており、前記受信装置で受信した少なくとも2回の前記打撃振動を、制御装置で比較することを特徴とする埋設管検査システム。
【請求項3】
前記打撃装置が、前記水中ロボットの移動に伴い、連続的に前記検査対象物を打撃し、前記受信装置で受信した複数回の打撃振動を、前記制御装置で相互比較することを特徴とする請求項1又は2に記載の検査システム。
【請求項4】
前記水中ロボットが、流体の流れを受けて、前記流れの下流方向に移動する推進装置を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の検査システム。
【請求項5】
前記制御装置が、前記打撃振動を表示するオシロスコープ、又はAD変換機を介して接続したパソコンを有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の検査システム。
【請求項6】
前記受信装置を、筒状体の一端に水中マイクを設置し、他端を拡開した集音形水中マイクであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−203046(P2011−203046A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69509(P2010−69509)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】