説明

水中構造物およびその補強方法

【課題】 剛性を施工良く高めることのできる水中構造物およびその補強方法を提供することである。
【解決手段】 水中構造物1は、水底地盤2に適宜間隔をもって打設された杭3と、これら杭の頭部に形成された上部構造物4とからなるものであって、前記各杭3に鞘管7が設置され、該鞘管7に突設した中空の連結管8が、隣接した杭3に設置された鞘管7における中空の連結管8と接合されて補強用水平部材10が形成されて構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は水中構造物およびその補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杭式桟橋などの水中構造物において、船舶の接岸や荷下ろし作業での変位量や、地震の慣性力に対する水平耐力の問題を解決するには剛性を高める必要がある。この水中構造物の剛性を高めるには、種々の格点式ストラット工法が提案されており、ブレース材としてタイロッドタイプや鋼管タイプのものが使用されている。また、その他の水中構造物の剛性を高めるものとしては、例えば特開2004−308328号公報、特開2003−221816号公報、特開平9−235714号公報、特開2006−125152号公報の発明が知られている。
【特許文献1】特開2004−308328号公報
【特許文献2】特開2003−221816号公報
【特許文献3】特開平9−235714号公報
【特許文献4】特開2006−125152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の水中構造物の剛性を高める工法は施工性が悪いという問題があった。また既存の水中構造物を補強する場合は、構造物上における作業を極力損なわないようにすることが望ましい。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、剛性を施工良く高めることのできる水中構造物およびその補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための水中構造物は、水底地盤に適宜間隔をもって打設された杭と、これら杭の頭部に形成された上部構造物とからなる水中構造物であって、前記各杭に鞘管が設置され、該鞘管に突設した中空の連結管が、隣接した杭に設置された鞘管における中空の連結管と接合されて補強用水平部材が形成されたことを特徴とする。また補強用水平部材は上下に複数設置されたことを含む。また上部構造物と上部構造物近傍の鞘管との間にはブレース材が設置され、該ブレース材が所定の緊張力で緊張されたことを含む。また鞘管間にはブレース材が設置され、該ブレース材が所定の緊張力で緊張されたことを含む。また鞘管は、半割片の一端にヒンジが設置されて開閉自在であることを含む。またブレース材は可撓性があり、鞘管にUターンして設置されたことを含むものである。
また水中構造物の補強方法は、水底地盤に適宜間隔をもって打設された杭と、これら杭の頭部に形成された上部構造物とからなる水中構造物における各杭に、中空の連結管が突設された鞘管を設置し、これらの鞘管を、連結管内にバラスト水を注入して所定の深さに沈設した後、連結管同士を接合して補強用水平部材を形成することを特徴とする。また補強用水平部材は上下に複数設置することを含む。また上部構造物と上部構造物近傍の鞘管との間にブレース材を設置し、該ブレース材を所定の緊張力で緊張することを含む。また鞘管間にブレース材を設置し、該ブレース材を所定の緊張力で緊張することを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
各杭間にわたって補強用水平部材が形成されたことにより、水中構造物の剛性が高められる。また補強用水平部材は上下に複数設置され、さらに上部構造物と上部構造物近傍の鞘管との間、または鞘管間にブレース材がそれぞれ設置され、該ブレース材が所定の緊張力で緊張されたことにより、水中構造物の剛性がさらに高められる。また水中構造物の剛性が高められたことによって杭の応力が小さくなるため構造物の断面を小さくすることができる。また各杭に、中空の連結管が突設された鞘管を設置し、これらの鞘管を、連結管内にバラスト水を注入して所定の深さに沈設した後、連結管同士を接合して補強用水平部材を形成することにより、水中構造物の補強を施工良く行うことができる。また鞘管を水面に浮かせた状態で杭への取り付け作業ができるので効率的である。またブレース材の上部構造物への設置が、上部構造物の上面からできるので作業性が良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の水中構造物およびその補強方法の実施の形態について説明する。はじめに水中構造物について説明し、次に、その補強方法について説明するが、各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1は第1の実施の形態の水中構造物1である。この水中構造物1は杭式桟橋であり、水底地盤2に適宜間隔をもって立設した杭3と、水面から突出した杭の頭部に設置された上部構造物4とから構成されている。
【0009】
この杭3は鋼管杭であり、頭部に上部構造物4である鉄筋コンクリート板5が鉄筋コンクリート梁6を介して設置されている。また、これらの杭3の水中部、すなわち水面から適宜深さの箇所には鞘管7が設置され、この鞘管7に突設した連結管8が、隣接した杭の鞘管7における連結管8とグラウト9で接合されて補強用水平部材10を形成している。
【0010】
この補強用水平部材10は、図1の(2)において杭間の縦方向および横方向に形成されて格子を構成し、この格子の交点に杭3が位置している。また鞘管7は、半割片11の一端にヒンジ12が設置されて開閉自在に形成され、他端には半割片11を閉じたときに合わさる接合片13が形成され、これらがボルト14で締め合わされる。
【0011】
そして、このヒンジ12を中心に半割片11を回転させて開いた状態にし、杭3を取り巻くようにして半割片11を閉じて接合片13をボルト14で締め合わせると、杭3に嵌め合わされ、該杭3と鞘管7との間隙部15にグラウト9を充填して杭3に固定する。
【0012】
この鞘管7には三本または四本の連結管8が突設され、三本の連結管8が突設した鞘管7は外側の杭に設置され、四本の連結管8が突設された鞘管7は内側の杭に設置されている。また鞘管7は連結管8が中空であるため、杭3に設置する際には水面に浮くが、連結管8の上面における注入口16からバラスト水を注入することにより、杭3の任意の深さに沈設することができる。
【0013】
また鞘管7の上部にはブレース材を取り付けるプレート17が設置されているが、このプレート17にブレース材を取り付けない場合は、補強用水平部材10として水中構造物1を補強する。
【0014】
また図4は第2の実施の形態の水中構造物19である。この水中構造物19は補強用水平部材10が多段状、すなわち上下に二段設置されたものであり、これ以外は、第1の実施の形態の水中構造物1と同じ構成である。このように補強用水平部材10を上下に二段設置する場合は、杭3の長さが長い場合、または杭3を必要以上に補強する場合に設置するものとする。
【0015】
また図5は第3の実施の形態の水中構造物20である。この水中構造物20は第1の実施の形態の水中構造物1にブレース材21が設置され、これに所定の緊張力が付与されたものであり、これ以外は第1の実施の形態の水中構造物1と同じ構成である。
【0016】
このブレース材21はタイワイヤ、PC鋼線、アラミド繊維線、炭素繊維線、格子状連結繊維線のいずれかであり、鞘管7と上部構造物4との間に交差状に架設されている。このブレース材21の上端部は、図5の(2)に示すように、上部構造物4の貫通孔22に挿入され、定着溝23の定着板24に定着されたことにより、水中での定着作業ではなく地上での定着作業ができ、しかもポストテンションによって緊張力を付与することができる。一方、ブレース材21の下端部は、同図の(3)および(4)に示すように、鞘管7のプレート17にピンで固定されている。
【0017】
このブレース材21は引張力のみに作用するものであり、地震時における剛性をさらに高めるものとなる。なお、このブレース21は第2の実施の形態の水中構造物19における鞘管3間に架設することもできる。
【0018】
また図6は第4の実施の形態の水中構造物25である。この水中構造物25は可撓性のあるブレース材31が鞘管7にUターンして設置されたものであり、これ以外は第3の実施の形態の水中構造物20と同じ構成である。
【0019】
このブレース材31の下端部は、図7に示すように、鞘管背面のアイプレート26に挿入されUターン状に巻き掛けられ、鞘管7の両側面における多段状の偏向装置(四枚の高さが異なって階段状になった板で構成された)27に設けたスリーブ32で湾曲して上側に折り曲げられ、上端部が上部構造物4の貫通孔22に挿入されて定着溝23の定着板24に定着されて所定の緊張力が付与されている。よって鞘管7と上部構造部4とにかけて二本一組のブレース材21が交差して架設されている。なお、このブレース材21は、第2の実施の形態の水中構造物19における補強用水平部材10の鞘管7間に掛け渡すこともできる。なお、このブレース材31は鞘管7にUターンして巻き掛けているが、これは鞘管7にではなく、杭3に直接Uターンして巻き掛けることもでき、この場合も上記と同じ構成になる。
【0020】
次に、第1の実施の形態の水中構造物の補強方法を、上記の第1の実施の形態の水中構造物1に基づいて説明する。これは水底地盤2に適宜間隔ごとに立設した杭(鋼管杭)3と、水面から突出した杭3の頭部に設置された上部構造物4とから構成された水中構造物1、例えば杭式桟橋を補強するものである。
【0021】
はじめに、補強用水平部材10を形成する鞘管7を杭3に設置するが、外側(沖側)の杭に設置する三本の連結管8を備えた鞘管7と、内側(岸側)の杭に設置する四本の連結管8を備えた鞘管7とを使用する。
【0022】
この鞘管7は連結管8が中空であるため水面に浮かべることができ、かつ一端のヒンジ12を中心に半割片11が回転自在であるため、図8の(1)に示すように、半割片11をヒンジ12で回転させて他方を開いた状態にして水面に浮かべる。そして、この浮かべた状態で杭3を巻き込むようにして、半割片11の接合片13を合わせてボルト14で締め付けると鞘管7が杭3に取り付けられて、これらの間に適宜間隙部15が形成される。このとき連結管8は、図8の(2)に示すように、隣接したもの同士が適宜間隙部28をもって向き合った状態になる。
【0023】
次に、図9に示すように、鞘管7の各連結管8に注水口16からバラスト水29を注入すると、鞘管7が杭3をガイドに沈下して突起片30で止められる。そして、図10に示すように、鞘管と杭との間隙部15にグラウト9を充填すると共に、向き合った連結管8同士の間隙部28にグラウト9を充填すると鞘管7が杭3に固定され、かつ連結管8同士が一体接合される。
【0024】
そして、この作業を順次繰り返して各杭3に鞘管7を設置するとともに、これら鞘管7の連結管8同士を連結すると、格子の交点に杭3が位置した平面格子状の補強用水平材10が形成されて水中構造物1が補強される。また第2の実施の形態の水中構造物19、すなわち上下に補強用水平部材10が設置されたものも同じ方法で形成する。
【0025】
次に、第2の実施の形態の水中構造物の補強方法について説明する。これは上記の第1の実施の形態の補強方法によって形成した補強用水平部材10と上部構造物4との間にブレース材21を架設するものであり、補強用水平部材10を形成するまでは第1の実施の形態の補強方法と同じ方法である。
【0026】
このように上記と同じ方法で水補強用平部材10を形成した後、図5の(1)に示すように、外側の杭3における鞘管7と、この杭2に対向した内側の杭3における上部構造物4との間と、内側の杭3の鞘管7と、この杭3に対向した外側の杭3における上部構造物4との間とにブレース材21と交差して掛け渡す。
【0027】
このブレース材21の下端部は鞘管のプレート17に接続するとともに、上端側は上部構造物4の貫通孔22に貫通して定着溝23の定着板24に定着して、所定の緊張力を付与する。このブレース材21は外側の杭3から内側の杭3にかけて、すなわち図5の(5)において横方向に並んだ杭3に順次掛け渡すが、同図において縦方向に並んだ杭に掛け渡すこともできる。このように杭3と上部構造物4との間にブレース材21を掛け渡すことによって、第3の実施の形態の水中構造物20が構築される。なお、第2の水中構造物19にブレース材21を掛け渡す場合も同じ方法で行うものとする。
【0028】
次に、第3の実施の形態の水中構造物の補強方法について説明する。これは第3の実施の形態の水中構造物20を補強するものであり、ブレース材21を鞘管7に巻き付ける以外は、第2の実施の形態の水中構造物の補強方法と同じ方法である。
【0029】
上記と同じ方法で補強用水平部材10を形成した後、図7に示すように、可撓性のあるブレース材31を鞘管のアイプレート26に挿入してUターン状に巻き付け、両側面における多段状の偏向装置27のスリーブ32に挿入して上側に湾曲状に折り曲げ、その両端部(上端部)を上部構造物の貫通孔22に貫通して定着溝23の定着板24に定着して所定の緊張力を付与する。このブレース材31はUターン状に巻かれた二本が一組になっているが、これが上記と同じように交差状に掛け渡されている。このブレース材31も図5の(5)において横方向に並んだ杭3にわたって掛け渡す他、同図において縦方向に並んだ杭にわたって掛け渡すこともできる。なおこの場合もブレース材31は鞘管7にUターンして巻き掛けているが、これは鞘管7にではなく、杭3に直接Uターンして巻き掛けることもでき、上記と同じ構成になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施の形態の水中構造物であり、(1)は縦方向の断面図、(2)は水平方向の断面図である。
【図2】鞘管であり、(1)は三本の連結管を突設した鞘管の斜視図、(2)は四本の連結管を突設した鞘管の斜視図、(3)は四本の連結管を突設した鞘管の断面図である。
【図3】補強用水平部材の断面図である。
【図4】第2の実施の形態の水中構造物の縦方向の断面図である。
【図5】第3の実施の形態の水中構造物であり、(1)は縦方向の断面図、(2)はブレース材上端部の拡大断面図、(3)および(4)はブレース材下端部の拡大断面図、(5)は水平方向の断面図である。
【図6】第4の実施の形態の水中構造物の縦方向の断面図である。
【図7】(1)はブレース材を鞘管にUターン状に巻き付けた側面図、(2)は同水平方向の断面図、(3)は同正面図である。
【図8】第1の実施の形態の水中構造物の補強方法であり、(1)は鞘管を杭に取り付ける水平方向の断面図、(2)は鞘管を杭に取り付けた縦方向の断面図である。
【図9】第1の実施の形態の水中構造物の補強方法であり、(1)は鞘管を杭に取り付けた水平方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図10】第1の実施の形態の水中構造物の補強方法であり、(1)は連結管同士を接合した水平方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、19、20、25 水中構造物
2 水底地盤
3 杭
4 上部構造物
5 鉄筋コンクリート板
6 鉄筋コンクリート梁
7 鞘管
8 連結管
9 グラウト
10 補強用水平部材
11 半割片
12 ヒンジ
13 接合片
14 ボルト
15、28 間隙部
16 注入口
17 プレート
21、31 ブレース材
22 貫通孔
23 定着溝
24 定着板
26 アイプレート
27 偏向装置
29 バラスト水
30 突起片
32 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤に適宜間隔をもって打設された杭と、これら杭の頭部に形成された上部構造物とからなる水中構造物であって、前記各杭に鞘管が設置され、該鞘管に突設した中空の連結管が、隣接した杭に設置された鞘管における中空の連結管と接合されて補強用水平部材が形成されたことを特徴とする水中構造物。
【請求項2】
補強用水平部材は上下に複数設置されたことを特徴とする請求項1に記載の水中構造物。
【請求項3】
上部構造物と上部構造物近傍の鞘管との間にはブレース材が設置され、該ブレース材が所定の緊張力で緊張されたことを特徴とする請求項1に記載の水中構造物。
【請求項4】
鞘管間にはブレース材が設置され、該ブレース材が所定の緊張力で緊張されたことを特徴とする請求項2に記載の水中構造物。
【請求項5】
鞘管は、半割片の一端にヒンジが設置されて開閉自在であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水中構造物。
【請求項6】
ブレース材は可撓性があり、鞘管にUターンして設置されたことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の水中構造物。
【請求項7】
水底地盤に適宜間隔をもって打設された杭と、これら杭の頭部に形成された上部構造物とからなる水中構造物における各杭に、中空の連結管が突設された鞘管を設置し、これらの鞘管を、連結管内にバラスト水を注入して所定の深さに沈設した後、連結管同士を接合して補強用水平部材を形成することを特徴とする水中構造物の補強方法。
【請求項8】
補強用水平部材は上下に複数設置することを特徴とする請求項7に記載の水中構造物の補強方法。
【請求項9】
上部構造物と上部構造物近傍の鞘管との間にブレース材を架設し、該ブレース材を所定の緊張力で緊張することを特徴とする請求項7に記載の水中構造物の補強方法。
【請求項10】
鞘管間にブレース材を設置し、該ブレース材を所定の緊張力で緊張することを特徴とする請求項8に記載の水中構造物の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−297815(P2008−297815A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145592(P2007−145592)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】