説明

水中物体への生物付着の防止及び抑制方法

ガスを放出可能な1種以上の有機または無機化合物が存在する水環境中に部分的または全体的に浸される物体への生物付着の形成を防止及び抑制する方法であって、ポリマー樹脂と1種以上の酵素と、または塗料及び被覆剤の少なくとも何れかと1種以上の酵素とを含む混合物を前記物体の表面に塗布する工程を有し、前記1種以上の酵素は、ガスを生成する前記1種以上の有機または無機化合物の反応に触媒作用を及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物付着現象を防止及び抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物付着は現象として知られており、長い間研究されてきた。生物付着は、水環境中に沈められる人工基材に様々な種類の微生物(単一タンパク質からバクテリアや原生動物等の微生物、カンザシゴカイやコケムシ等の肉眼で見える複雑な生物)が堆積することにある。一般的に、生物付着現象は水環境中に置かれる基材上に発生し、結果として物体の重大な技術上の変化をもたらす。1時間浸されるとすぐに、バクテリア及び他の微生物からなる初期段階の膜がボートの船殻に形成され始める。時間の経過に伴い、生物付着は、貿易船、遊覧船、競技船等の様々な分野の船舶に好ましくない影響を及ぼす。実際に、生物付着を構成する有機体は、生物付着を被る物体の劣化、変色、及び腐食を生じさせ、結果として性能の低下や燃料消費量を増大させてしまう。水環境中に直接接する状態にある物体の見た目の美しさの低下や構造上の劣化により生じる問題を避けるために、上述した物体を繰り返し修理し、休めることが必要である。
【0003】
生物付着に対抗するための最も効果的な方法は、生物付着を被る製品に汚れ止めの塗料を直接塗布することである。1960年代にさかのぼると、これらの塗料の初期の配合は、有機スズポリマーマトリックスで自己平滑化を図っている製品に基づいている。これらの処理を行われた物体は水中を良好に滑っていくが、環境に有害な影響を強く与えるという犠牲を払うことになる。実際に、これらの塗料は一般的に高い毒性を有するトリブチルスズ(TBT)を含有しており、TBTを主成分とする殺生物剤は、沈殿物中に蓄積したり食物連鎖で蓄積したりし、様々な生態系を不可逆的に変化させる。いくつかの共同体法規の序文には、他の有機金属や有機殺生物剤を主成分とする塗料の使用を課すことによって、この環境問題を食い止めようと試みた。
【0004】
一般に、他のタイプの殺生物剤を主成分とする環境適合性の汚れ止め塗料については、非常に多くの特許が存在するが、これら全ての製品は性能及び耐久性の少なくとも一方に、本質的で明らかな欠陥がある。例えば、自己平滑化(または水で浸食されうる)塗料並びに「ハイブリッド」塗料、より正確には、明らかに殺生物剤ではない自己平滑性/自己剥離性の汚れ止め薬品は、汚れ止め被覆の存続期間が短いため性能が不十分であり、水の環境状態及び作業状況の変わりやすさに応じて容易に予測したり管理したりすることができない。
【0005】
水環境中に被害を与えない(即ち被害を与えないと主張する)有機殺生物剤を含む塗料は、被覆の有効度が徐々に減少すると共に、自己平滑化塗料のように容易に管理できないだけでなく、重要な衛生上及び環境上の影響を示す。実際に、これらの製品は長期にわたって十分に研究されたり知られたりしていない環境への影響を有しており、製品の処理工程の間、オペレータの健康を害する潜在的な危険性を有するものであった。
【0006】
これに対し、表面張力の低い化学的に不活性または生体不活性な塗料は、完全に環境適合性を有しているが、その塗料が塗布される基材に良好に付着せず、機械的耐久性及び耐摩耗性が低い。
【0007】
結局のところ、多様な重合性を有して部分的にフッ化された表面張力の非常に低い化学的不活性及び生体不活性の塗料は有効ではあるものの、基材の大部分で被覆の凝集性の欠如及び低い付着性のため、耐久性に劣る。
【0008】
現在では、様々なタイプやブランドの汚れ止め製品が市場で見られ、そのような汚れ止め製品は、生理活性化合物を水に溶かすことのできる膜の形成に基づいている。これらの化合物の毒性によって、有機体を効率的に寄せ付けず、または付着した有機体を殺すことで、水中に浸された構造体に有機体が付着することを抑制することができる。
【0009】
殺生物剤の離脱には、実質的に3つの形態がある。
1.水和による離脱
2.浸食による離脱
3.基質の加水分解による離脱
【0010】
水中に浸されるボートや物体のタイプと、使用方法と、ボートや物体が配置される水質及び主に利用する水質の少なくとも一方とに応じ、4つのタイプの殺生物剤塗料に区分することができる。
1.可溶性の基質を有する従来の塗料であり、結合ポリマーの浸食により殺生物剤の離脱が生じる。
2.部分的に可溶性の基質を有する塗料(長持ちする)であり、膜の水和及び浸食により殺生物剤の離脱が生じる。
3.耐久性のある、即ち不溶性の基質を有する塗料であり、水和により殺生物剤の離脱が生じる。
4.自己平滑化型または自己研磨型塗料であり、基質の加水分解により殺生物剤の離脱が生じる。
【0011】
これらの塗料は、いずれもトリブチルスズ化合物とは異なる殺生物剤を含み、銅を主成分とする化合物が重要な役目を担うが、TBTを主成分とする製品と比較すると少ないものの、本質的に環境への被害を与えてしまう。このため、今日一般に利用されているこれらの殺生物剤は、地域的な法律または世界的な法律によって、近い将来禁止されるか、利用を制限される可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した全ての理由により、環境に対して悪影響を及ぼす製品の利用(殺生物剤に関して現在の法律に違反する可能性がある)を避けて、水環境中で生じる生物付着の形成を防止及び抑制する環境適合性を有した方法が非常に望まれている。
【0013】
本発明の狙いは、TBTまたは環境に悪影響を及ぼす他の化合物を用いることなく、水環境中に部分的または全体的に浸される物体上への生物付着の形成を防止し、抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この狙いは、請求項1に従い、水環境中に部分的または全体的に浸される物体への生物付着の形成を防止し、抑制する方法によって達成される。
【0015】
本発明のさらなる特徴及び利点は、生物付着の形成を防止し、抑制する方法の、好ましいが限定されない実施形態に関する以下に示す詳細な説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ガスを放出可能な1種以上の有機または無機化合物が存在する水環境中に、部分的または全体的に浸される物体に対する生物付着の防止及び抑制するための革新的な方法が開発された。この方法は、ポリマー樹脂と1種以上の酵素と、または1種以上の酵素を含む塗料及び被覆剤の少なくとも一方を備える混合物を上記物体の表面に塗布する工程を有し、上記1種以上の酵素は、上記1つ以上の有機または無機化合物がガスを生成する反応に触媒作用を及ぼすのに適していることを特徴とする。部分的または全体的に浸される物体は静止状態または非静止状態にあり、これは、エンジンまたは他の推進タイプ、例えば、帆、ペダル、オール等によって移動する、水に浮かぶあらゆる種類の物体を含む。水環境は、例えば海洋環境、湖環境、または川環境といった異なる種類のものとすることができる。この環境適合性製品は酵素を含む製剤の利用を基本としており、環境に対し影響が少なく、水系に環境適合するという特徴を有している。上述した方法は、酵素による触媒反応後に得られるガスを利用するものであり、生物付着を防止し、抑制するという動的な作用をもたらす。本発明に係る、生物付着の形成を防止し、抑制する方法は、閉じた湖沼や開いた水環境系にかかわらず、部分的または全体的に水環境中に浸される物体の表面に塗布するものであり、上記水環境中に存在し、ガスを放出できる有機物または無機物に対して触媒反応することが可能な1種以上の酵素を有して機能が与えられたポリマー樹脂を含む混合物を物体の表面に塗布するものである。特に、製品は水環境中に配置された物体に塗布することのできる製剤として調製される。当該製品は、濃度変化に関わらず一般化学式(M)x(XOz)yで表される混合物を常に有し、X=C、N、S、O、P、H、Br、Cl、B、Fであり、Mは金属イオンまたは陽イオンであり、x、y、zは塩類が中性であり平衡状態にあるような配分である。一般的に、これらの化合物は、炭酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、及び硫酸塩である。このようにして、化学結合を壊し、水環境中にガスを放出する酵素反応が可能となる。泡が放出されると、部分的または全体的に浸されている物体の面に乱流が生じ、これにより、上記物体上への生物付着の形成を抑制したり、妨害したりする。
【0017】
即ち、酵素−有機/無機化合物反応の生成物は、生物付着の形成の遅延、及び低減の少なくとも一方の作用をもたらす連続的な発泡を生じる。従って、製剤は一般的に定義される殺生物剤を主成分とするものではなく、反応ガスによって生じる物理的作用によるものである。処理対象の面に混合物を直接塗布することにより、生物付着が悪影響を与える部分にだけ製剤の有効性を局所的に集中させることが可能となるので有利である。さらに、環境に対する重大な毒性効果を何ら及ぼすことなく、物体の表面に形成され得る生物付着をなす有機体に対して、このようなガスは殺生物性の効果を得ることができる。
【0018】
このような反応に触媒作用を及ぼすことのできる酵素は、酸化還元酵素、リアーゼ、及び加水分解酵素からなる群から選択されるのが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態において、リアーゼ類に属する酵素は炭酸脱水酵素の下位分類に属するのが好ましく、ウシ炭酸脱水酵素であるのがより好ましい。自然に存在する炭酸塩により、特に水環境に適したこのような酵素を利用することで、CO2等のガスが生成され放出される。混合物が塗布された物体の表面を取り巻く水の中にガスを放出することにより、上述したように生物付着の形成を遅らせ、防止することができる。従って、製品の有効性は有効成分の毒性に全く依存せず、水中に存在する塩類の変化する濃度に依存するものであるのは明らかである。この濃度は、特定の添加物を製品に加えることで調製可能である。このような特徴により、世界中のより多様な地域に製品を適合させることが可能となる。
【0020】
上述した反応に触媒作用を及ぼし得る活性酵素の量は、重量パーセントで表すと、0.001〜30%w/wの範囲であるのが好ましい。特に、活性酵素の量は、0.06〜3%w/wの範囲であるのが好ましい。活性酵素の量は、0.06〜0.1%w/wの範囲であるのがより好ましい。即ち、上述した反応に触媒作用を及ぼすことのできる酵素の量は、処理対象面の3000〜1500000U/m2であり、処理対象面の11000〜80000U/m2であるのが好ましく、10000〜70000U/m2であるのがより好ましい。
【0021】
活性酵素は、基質を変質させる能力を維持する酵素を意味する。活性酵素は、その反応速度を加速する作用を及ぼすので、より速く熱力学的平衡状態に到達する。
【0022】
酵素は基質(分子または反応に加わる分子)と自身の活性部位(反応が生じる酵素の部位)との間の相互作用を介して反応を促進することによってその作用を及ぼし、合成物を形成する。反応が生じると、生成物は酵素から移動し、酵素は引き続き新しい生成物を生成することが可能となる。事実上、この反応中、酵素は消費されない。
【0023】
所定の実験条件下で、設定時間内に、少なくとも1つの基質分子を変質可能なとき、酵素は活性であると定義する。
【0024】
炭酸脱水酵素が用いられる場合、一般化学式R−XOz−R1を有する有機化合物群から選択される1種以上の官能基を有するのが特徴の生体触媒の有機化合物であって、好ましくは、
i)上記有機化合物はH+イオンの発生源であり、
ii)XはC、N、S、O、P、Cl、B、F、Brのグループから選択され、
iii)zは1〜4の範囲からなる数値であり、
iv)R及びR1は、水素、飽和炭化水素群、不飽和炭化水素群、分岐鎖の炭化水素群、または直鎖の炭化水素群からなる群から選択され、上記R1は化学式から省略可能である。
【0025】
即ち、上述した化学式の官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、アセタール基、ケタール基、及びそれらの化合物からなる群から選択されるのが好ましい。
【0026】
炭酸脱水酵素を用いる場合、生体触媒の無機化合物は、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩であり、異なる濃度であっても、これらのいずれも水環境中で特性が一定であるのが好ましい。
【0027】
好ましい実施形態において、混合物はさらに、上記1種以上の酵素の触媒作用による上記1種以上の有機または無機化合物における反応の後に、ガスを放出可能な1種以上の有機または無機化合物を有する。
【0028】
炭酸脱水酵素を用いる方法は、CO2の追加用発生源をさらに含むこともできるのが好ましい。このようにすることで、炭酸脱水酵素の触媒作用がCO2の生成を促進する。
【0029】
CO2の追加用発生源は、塩素、ナトリウム、マグネシウム、硫黄、カルシウム、カリウム、臭素、炭素、ストロンチウム、ホウ素、珪素、フッ素、アルゴン、及び窒素の塩からなる無機塩群、または酢酸塩群及びエステル結合の少なくとも一方を含む物質で構成される有機化合物群から選択される。
【0030】
また、酵素による触媒作用により反応して生成される物質は、例えば窒素及び一酸化窒素、酸化硫黄、酸化リン並びに水素、酸素を含む他のガス状物質であってもよい。この場合、このような物質の発生源は、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、亜リン酸塩、リン酸塩、及びH+イオンの発生源等の対応する無機塩である。
【0031】
好ましい実施形態において、ポリマー樹脂を構成するポリマーは、エポキシポリマー、ビニルポリマー、アクリルポリマー、ポリシロキサンタイプのポリマーからなる群から選択され、ポリマーは、エポキシ樹脂、アクリル(メタクリル)、ビニル、高分子量のホモポリマー及びコポリマーを含む多機能の反応性化合物から得るIPNタイプのハイブリッド格子構造の最終生成物を含む。高分子量のホモポリマー及びコポリマーは、エステル群またはウレタン群、部分的にフッ化されたポリビニルエステル及びポリウレタン、フルオロアルキル群若しくは系列を含むポリシロキサンタイプのコポリマー、またはメチルメタクリレート(MMA)コポリマーによって結合されるペルフルオロアルキル側鎖若しくはオキシアルキル側鎖を有するアクリレート共重合体(メタクリレート共重合体)等のフルオロアルキル基の側鎖及び化学基の少なくとも一方を有する。
【0032】
好ましい実施形態において、ポリマー樹脂は共有結合、イオン結合、及び他の化学的相互作用の結合によって、機能が与えられた1種以上の酵素を内部に含む格子構造を有する。製品は、重合されたポリマーマトリックスを既に含んでいてもよいし、水に浸される物体の表面への塗料の塗布後に格子構造が得られるようにしてもよい。いずれの場合においても、酵素はポリマーマトリックス内に閉じ込められたままである。このような格子構造は、酵素の活性部位を遊離したままにするという特徴を有するので、酵素の活性部位は、基質と接触して、水中に存在する基質からCO2及び他のガス状物質を生成する反応に触媒作用を及ぼすことができる。マトリックスによる閉じ込めを行う場合、この方法は、他の酵素固定化技術と共に後述される既知の酵素固定化技術であって、具体的には、このような過程が汚れ止め製品を塗布する工程中に生じるものであって、特にカプセル状の酵素が物体の表面に塗布される製品中に溶けている間にそのような現象が起こりうるものであり、それが物体の表面に塗布されるうちに発生しうる。
【0033】
このようにして網状組織の樹脂は、水分子、有機化合物、無機化合物、及び酵素の触媒作用によって放出されたガスの通過を可能にする。この固定化技術の主な利点は、本発明によって得られた方法が、既に公知の方法や適用技術を変更することなく利用できるということである。
【0034】
好ましい実施形態において、1種以上の酵素により機能付与されたポリマー樹脂は、1種以上の酵素が化学結合によって機能付与された面に樹脂層を有する。酵素の固定化は、酵素の不活性部位と基質との結合を介して行われる。この場合、酵素は遊離状態にないが、その一方で触媒として機能することができる。このようにして結合した酵素は塗料に入れられ、当該酵素が結合された基質により塗料が塗布された面にこのような酵素を結合させることが可能となり、使用時に水中に存在する基材に対して酵素が機能する。前述した酵素の固定化とは異なるこのタイプの製品は、2つの工程の方法が用いられる(1つは樹脂の工程、もう1つは活性元素の工程)ので、用いる方法に変更を要する。とはいえ、表面に塗布される酵素が直接水環境中に接し、その機能をさらに発揮することが可能となるので、この技術は有利である。
【0035】
本発明のもう1つの特徴は、生物付着の防止及び抑制のための酵素合成物に関するものであり、上記酵素合成物は、包括法の技術、または化学相互作用を介し1種以上の酵素を用いる樹脂の機能化によって樹脂に固定化された酵素からなる。
【0036】
本発明の酵素合成物は、研究論文があって公知の酵素固定化技術を用いて作り上げることができる。これらの全ての酵素固定化技術には様々な用途があるが、これまで生物付着の分野で用いられてはいない。
【0037】
酵素固定化の代表的な形態は、包括法である。この方法は格子構造内、ポリマーマトリックス内、または薄膜内の酵素の局在化に基づく。この方法は酵素の保持を考慮すると共に、基質への浸透も考慮したものである。この技術は以下のタイプに区分することができる。
1)格子型
2)マイクロカプセル型
【0038】
包括法は酵素のタイプに応じて変化する。格子型の方法において、酵素は水に溶解しない架橋結合を有するポリマーの格子間の隙間内に閉じ込められる。ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、及び場合によっては澱粉を含むいくつかの合成高分子が、この方法を用いて酵素を固定化するために利用される。
【0039】
マイクロカプセル化法は、半不浸透性の高分子膜内に酵素を閉じ込めるものである。マイクロカプセル化法は、以下のように区分することができる。
【0040】
1)界面重合法:酵素及び親水性のモノマーが、疎水性の溶媒内で混合される。モノマーの重合は、2つの層(溶媒−水)の界面で生じる。
【0041】
2)水中乾燥法:ポリマーを疎水性の有機溶媒に溶解させる。酵素の水溶液を有機相中に分散させ、最初は油−水型のエマルジョンを形成する。次に、このエマルジョンは、ゼラチンを含む保護コロイド性の基質と界面活性剤とを含む水相中に分散される。こうして2次エマルジョンが生成される。その結果、有機溶媒が除去される。最後に、高分子膜が生成されてマイクロカプセル化酵素が得られる。
【0042】
3)相分離法:相分離法は有機溶媒中へのポリマーの溶解及びその再沈殿からなる。この狙いは、有機溶媒と混和するがポリマーとは混和しないもう1つの有機溶媒を加えることで達成される。
【0043】
これらの技術に用いられる担体は、有機体または無機体である。幾つかの担体には、多糖、タンパク質、炭素、ポリスチレン、ポリアクリレート、無水マレイン酸を主成分とする共重合体、ポリペプチド、ビニルポリマー、アリルポリマー、及びポリアミドポリマーが含まれる。
【0044】
酵素固定化技術として知られている他の方法として、以下が挙げられる。
【0045】
・担体結合法:この方法を用いることにより、酵素は水に不溶性の基質と結合する。基質の選択は、酵素の物理化学的性質、酵素の分子の大きさ、化学組成、及び親水性群と疎水性群との間の関係に依存する。用いる結合タイプに基づき、担体結合法は、さらに物理的吸着法、イオン結合法、及び共有結合法といった下位分類に区分することができる。
【0046】
・架橋法:架橋法は2つ以上の官能基を有する試薬を介して酵素分子間の架橋結合に関する。このような技術は別のタンパク質との分子間結合を介して適用されるが、より興味深いことは、不溶性マトリックスと官能基群とが結合することである。
【0047】
本発明の酵素製剤は、水環境中に部分的または全体的に浸される静止物体または非静止物体に適用することができ、これらの物体は、例えば、帆船、モーターボート、蒸気船、手こぎ舟、または人力推進するボートの部類に含まれる。
【0048】
以下は本発明に含まれる、いくつかの限定されない実例となる実施例である。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
以下はいくつかの製品の配合である。
(配合1)
【0050】
【表1】

【0051】
(配合2)
【0052】
【表2】

【0053】
(配合3)
【0054】
【表3】

【0055】
(配合4)
【0056】
【表4】

【0057】
<実施例2>
海水環境(エミリア・ロマーニャ海岸で収集)で、pH7.6の三硫酸化物(trisulfate)の緩衝剤15mlを加えて試験した酵素:
・牛赤血球(原料0.04%、1000U/mL)から得た炭酸脱水酵素
海水中の酵素の濃度:
・50単位の酵素(最終的な濃度は0.002%)
【0058】
以下の2つの方法で活性度を測定した。
1)p−ニトロフェニル酢酸エステルの吸光度の変化を波長348nmで計測してこの物質の分解を測定した。
2)酵素を含む海水溶液のCO2生成を、脱塩した同様の溶液と比較して測定した。
【0059】
<結果>
1)海水中における酵素の濃度
・50単位の酵素(最終的な濃度は0.002%)
(10分後の活性度)
【0060】
【表5】

【0061】
(1時間後の活性度)
【0062】
【表6】

【0063】
(15時間後の活性度)
【0064】
【表7】

【0065】
理想溶液(海水なし)と比較した割合:
10分後の酵素活性度:48.67%
1時間後の酵素活性度:56.45%
15時間後の酵素活性度:56.17%
【0066】
2)海水からCO2を生成する酵素の能力の測定:これはガスクロマトグラフィー(GC)によって測定することができる。pH5.5〜7.5の溶液では、脱水反応が逆反応と比較して発生しやすくなる。酵素を加えてから5分後に、GCの頭隙に5002μLの空気が存在する状態でCO2の生成を測定した。
【0067】
・最終的な酵素の濃度は0.06%、5000単位であった。
【0068】
海水環境中にpH7.2の三塩酸塩0.1Mの緩衝剤と炭酸塩溶液とを加えた。
【0069】
【表8】

【0070】
酵素が存在する海水でのCO2の生成は、酵素のない海水より2.42倍多かった。
【0071】
本件が優先権を主張する基礎となるイタリア国の特許出願番号BO2009A000333における開示は参照によりここに編入される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを放出可能な1種以上の有機または無機化合物が存在する水環境中に部分的または全体的に浸される物体への生物付着の形成を防止及び抑制する方法であって、
ポリマー樹脂と1種以上の酵素と、または塗料及び被覆剤の少なくとも何れかと1種以上の酵素とを含む混合物を前記物体の表面に塗布する工程を有し、
前記1種以上の酵素は、ガスを生成させる前記1種以上の有機または無機化合物の反応に触媒作用を及ぼすことを特徴とする物体への生物付着の形成を防止及び抑制する方法。
【請求項2】
前記部分的または全体的に浸される物体は、静止物体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分的または全体的に浸される物体は、非静止物体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の有機または無機化合物は、一般化学式(M)x(XOz)yを有する化合物からなる群から選択され、
Xは、C、N、S、O、P、H、Br、Cl、B、Fから選択され、
Mは、金属イオンまたは陽イオンの存在であり、
x、y、zは、塩類が中性であり平衡となるような配分である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上の酵素は、酸化還元酵素、リアーゼ、及び加水分解酵素からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の酵素は、炭酸脱水酵素の下位分類に属するリアーゼであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭酸脱水酵素は、ウシ炭酸脱水酵素であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応に触媒作用を及ぼすことが可能な活性酵素の量は、0.001〜30%w/wの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記反応に触媒作用を及ぼすことが可能な活性酵素の量は、0.06〜3%w/wの範囲にあり、好ましくは0.06〜1%w/wの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
生体触媒化された前記有機化合物は、一般化学式R−XOz−R1を有する化合物群から選択される1種以上の官能基を有し、
i)前記有機化合物はH+イオンの発生源であり、
ii)Xは、C、N、S、O、P、Cl、B、F、Brからなる群から選択され、
iii)zは、1〜4の範囲の数値であり、
iv)R及びR1は、水素、飽和炭化水素群、不飽和炭化水素群、分岐鎖の炭化水素群、または直鎖の炭化水素群からなる群から選択され、前記R1は前記一般化学式から省略可能である
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物は、前記1種以上の酵素の触媒作用による前記1種以上の有機または無機化合物における反応の結果、ガスを放出可能な1種以上の有機または無機化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記混合物は、CO2の発生源をさらに有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマー樹脂を構成するポリマーは、エポキシポリマー、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ビニルポリマー、ポリシロキサンタイプのポリマー、ホモポリマー、並びにフルオロアルキル側鎖及び化学基の少なくとも一方を有する高分子量のコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
1種以上の酵素を用いて機能化された前記ポリマー樹脂は、共有結合、イオン結合、及び他の化学相互作用によって前記1種以上の酵素を内部に含む格子構造を有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
1種以上の酵素を用いて機能化された前記ポリマー樹脂は、前記1種以上の酵素が化学結合によって結合する面に樹脂層を備えることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
包括法、または化学相互作用により1種以上の酵素を用いて樹脂を機能化する方法によって、樹脂に固定化される酵素を含むことを特徴とする生物付着の防止及び抑制のための酵素合成物。

【公表番号】特表2012−527507(P2012−527507A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511276(P2012−511276)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056870
【国際公開番号】WO2010/145905
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511282782)アルキメデ アールアンドディー ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (2)
【氏名又は名称原語表記】ARCHIMEDE R&D S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Viale Giovanni Fanin, 48, I−40127 Bologna, ITALY
【Fターム(参考)】