説明

水中生体位置特定システム、音波発信機、水中聴音機、基地局および水中生体位置特定方法

【課題】 水面下で回遊する水中生体の位置をリアルタイムに測位すると共に、その測位により得た位置情報をほぼリアルタイムに取得すること。
【解決手段】 魚F等の水中生体に音波発信機1(1(1),1(2))を取り付けて水中を回遊させ、その音波発信機1から発信される音波を水面に浮上している複数の水中聴音機2で受信して、各水中聴音機2が受信した音波の到来方位に関するデータ(到来方位データ)を基地局3に電波で送信し、その到来方位データを受信した基地局3で、到来方位の関係から各水中聴音機2に対する水中生体(音波発信機1)の位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中生体の水面下での位置を特定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ウミガメ、イルカ、鯨等の水中生体の位置を特定して動向を調査する方法としては、呼吸のために所定時間ごとに水面に浮上する習性を利用して、水面上に浮上しているときにGPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信し、測位を行って位置を特定するタグを取り付けて、タグに内蔵する記憶媒体に測位情報を記憶しておき、後に回収する方法が知られている。
【0003】
また、アルゴス送信機を搭載したタグを水中生体に取り付けて回遊させ、水面上に浮上しているときに電波を送信させ、NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)衛星等の気象衛星を経由して処理センタで測位結果等を受信するGPSアルゴスシステムが利用されることもある(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0004】
また、通常水面上に浮上しないマグロ等の魚の場合には、照度センサを用いて位置・経路を推定しつつ記憶するポップアップタグを取り付けておき、所定時間経過後に自動的に魚体から切り離して水面上に浮上させ、ポップアップタグに搭載されるアルゴス送信機を利用して測定データ等を取得する方法も知られている(例えば、非特許文献1,3参照)。
【0005】
【非特許文献1】宇宙科学研究所報告 特集 第45号 2003年3月 [平成17年3月19日検索] インターネット<URL:http://www.isas.ac.jp/publications/hokokuSP/hokokuSP45/11-22.pdf>
【非特許文献2】「明石で孵化したアカウミガメの放流と人工衛星での追跡」アカウミガメアルゴス追跡調査IN明石実行委員会 NPO法人 日本ウミガメ協議会 会長 亀崎 直樹 [平成17年3月19日検索] インターネット<URL:http://www.eonet.ne.jp/~argos-akashi/saisyuusoukatu.htm>
【非特許文献3】「ポップアップ式衛星通信型タグによるまぐろ・かじき類調査の現況」 海洋 No.112(May 2003) 18〜23ページ 高橋未緒 齋藤広和 [平成17年3月14日検索] インターネット<URL:http://ss.enyo.affrc.go.jp/EnyoNews/No112.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した水中生体の位置をGPS技術で特定する方法では、浮上時のみの測位となり後に回収するため、リアルタイムに水中での位置を特定することができない。また、非特許文献1,2の場合には、実際には、処理センタから計測データを取得する時間や解析時間等が掛かるため、数時間前までの位置と移動軌跡を特定するのが限界である。また、非特許文献1,3の場合には、照度センサによりリアルタイムに位置・移動を記憶できるが、所定期間(約1年)経過後にポップアップタグの測定データを回収するため、結果の取得という点からはリアルタイム性にかける。
【0007】
そこで、本発明は、水面下で回遊する水中生体の位置をリアルタイムに測位すると共に、その測位により得た位置情報をほぼリアルタイムに取得するという課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水中生体位置特定システムは、対象の水中生体に装着させた音波発信機から音波を発信させ、水面に浮かせた少なくとも2台の水中聴音機により聴音し、各水中聴音機で受信した音波の到来方位を特定し、音波に乗せて送信された水中生体を識別する信号と到来方位データとを電波に乗せて発信し、基地局で受信して、各水中聴音機で受信した音波の到来方位の関係から対象の水中生体に装着させた音波発信機の存在する水域を推定して、対象の水中生体の位置を特定する。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明によれば、水面下で回遊する水中生体の位置をリアルタイムに測位すると共に、その測位により得た位置情報をほぼリアルタイムに容易にかつ高精度に取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の水中生体位置特定システムは、魚FやウミガメT等の対象の水中生体に音波発信機1(1(1),1(2))を取り付けて海や川等の水中を回遊させ、その音波発信機1から発信される音波を水面に浮上している複数の水中聴音機2で受信して、各水中聴音機2が受信した音波の到来方位に関するデータ(到来方位データ)を基地局3に電波で送信し、その到来方位データを受信した基地局3で、到来方位の関係から各水中聴音機2に対する水中生体(音波発信機1)の位置を特定するものである。
【0011】
そして、基地局3は特定した位置情報を観光船4に送る。位置情報を受けた観光船4は、特定した位置に向けて移動し、搭乗する観光客に対象の水中生体を観賞させる。
なお、この実施形態の水中生体位置特定システムは、このように、観光船4に乗船する観光客に魚Fやウミガメ等の対象の水中生体を観賞させる水中観光ビジネスに適用する場合を例にして説明するが、その適用例はこれに限らず、例えば調査を目的としたものに適用してもよい。
【0012】
次に、図2に従って、水中生体位置特定システムにおける測位方法を説明する。
各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、魚Fに取り付けられた音波発信機1(1)から発信された音波が略球面波状に伝播されることを利用し、その音波の到来方位を所定の広がりを持って特定する。図2では、到来方位の範囲は、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))と魚Fの音波発信機1(1)との間を、前者から後者に向かって次第に離間する(広がる)2本の線で表しているが、3次元空間上では略円錐台形状に広がる範囲である。
【0013】
そのため、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、到来方位を、その範囲として特定することになる。そして、基地局3は、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))から各到来方位の範囲を受け取り、各範囲が重なる領域Q内に音波発信機1(1)が存在するため、その領域Qを求め、その範囲を対象の位置として特定する。
【0014】
ところで、その領域Qは、例えば、次のように求めることができる。
前提として、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、後記するように、アンカにより係留され、その位置を固定されている。そのため、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))同士の間の距離もそれぞれ決定されている。その上で、前記したとおり、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、音波発信機1(1)からの音波の到来方位の範囲を特定する。そのため、1辺とその両端の角度との関係から三角法に基づいて、魚F(音波発信機1(1))の存在する点の群が算出できる。その結果、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))について、その点の群を算出し、全てが重なる点の群を求めると、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))に対する領域Qの位置(位置座標群)を算出することができる。
【0015】
ここで、到来方位を測定する場合に生じる測定誤差の要因1〜4について説明する。
1.水中聴音機2の方位測定能力(方位分解能)、2.波浪やうねり、船舶の通過、更には風による水中聴音機2の動揺、3.水温、塩分濃度などの水の分布、4.後記アンテナを回転させる機構の場合の測定時間差等の要因が挙げられる。いずれの要因も無くすことは困難であるが、少なくすることは考慮に値する。
そこで、1.の要因は技術的な観点からも、コスト的な観点からも限界があるが水中聴音機2の性能をよくすればよい。2.の要因も水面にある以上動揺は無くなることは無いが、固定を強固にすればよい。3.の要因は水中生体と水中聴音機2との間の距離が短ければ無視できる範囲である。4.の要因はアンテナの回転を速くすればよい。
【0016】
ただ、測定誤差を少なくするために一番簡易で有効な方法は、水中聴音機2の設置数を増やすことである。2方向の到来方位では誤差は大きく水中生体の測定位置は大きな範囲となってしまうが、例えば3方向に増やすことでその範囲を小さくなる。さらに、設置数を4・5・・台(方向)と増やしていけば測定位置はさらに小さくなっていく。
【0017】
以上のことから、水中生体の方位は特定できると考えられる。但し、水中は3次元であるため、生体の位置を特定するためには深さに関しても特定する必要がある。一つには、水中生体に深度計を取り付け、発信する音波情報としてその深度を発信する方法がある(特開平8−61952号公報参照)。
【0018】
そこで、水中聴音機2を複数の深度にならべ、その中でもっとも早い時間に受信した深度を水中生体の深度とするようにしてもよい。例えば、深度5m、10m、15m・・・というように配置する。そして、10m、15mの水中聴音機2の順に早く受信したとすれば、10〜12.5mの間の深さにあり、二つの水中聴音機2が受信した時間の差が大きい程深度は10mに近いことになり、その値は計算によって求めることができる。
また、望ましい水中聴音機2の配置に関しては、水中の透明度、要するに水のにごりぐあいにより何m先まで見渡せるのかという点と、水中聴音機2の到来方位の角度測定誤差に応じて異なるものとなる。なお、当然透明度が高い程、また、角度誤差が小さい程、水中聴音機2の配置間隔は広くするようにしてもよい。
【0019】
また、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、GPS衛星等からの測位情報を受信し、経度・緯度を測位しておくことにより、領域Qの位置を経度・緯度で表すことができる。また、各水中聴音機2(2(1),2(2),2(3),2(4),2(5))は、陸上の位置が特定された地点を基準としてトランシットなどにより測量し、経度・緯度を求めておくようにしてもよい。なお、以下では、各水中聴音機2は、位置が特定されており、水により流されることもない理想的な場合を想定して説明する。
【0020】
次に、図3に示す概略斜視図に従って、水中聴音機2の外観を説明する。
この水中聴音機2は、フロート部2aと、水面下筐体部2bと、聴音部筐体部2cと、ケーブル2dと、アンカ2eと、アンテナ筐体部2fとを主に備えている。フロート部2aは、水に対する浮力を与えるものであり、水面(海面)の境界に位置する状態を図示してある。水面下筐体部2bは、制御基板や電池等が収納されるものであり、水密性を持たせて構成されている。聴音部筐体部2cは、音波を受信する後記聴音部を収容するものである。なお、水中聴音機2を水面上にフロート部2aにより浮上させているのは、アンテナ筐体部2f内の後記アンテナを水面上に配置させなければならないからである。
【0021】
ケーブル2dおよびアンカ2eは、水中聴音機2本体を水面の定位置に停留させるものである。ケーブル2dに水密性を持たせ、その内側に電気ケーブルを通し、アンカ2eの部分に後記聴音部を内蔵して接続するようにしてもよい。この場合、水底に聴音部(2c)を配するため、水の深さ方向に伝播する音波を受信することになり、深さ方向の位置をより正確に特定することができるようになる。
アンテナ筐体部2fは、後記アンテナが内蔵され、基地局3(図1参照)との電波による通信を可能にする。また、必要に応じてGPS衛星からの電波を受信する衛星用アンテナを内蔵するようにしてもよい。
【0022】
次に、図4を参照して、水中生体への音波発信機1の取り付け例を説明する。図1にも示してあるが、(A)に示すように、魚Fの場合には、尾ひれのくびれた部分に輪状の音波発信機1(1)を取り付けるものとする。なお、輪状の音波発信機1(1)には、後記音波発信部等を含む電子部品を内蔵して水密性を持たせてある。
また、魚F等の水中生体には、音波発信機1(1)に固着した針などで打ち込んで取り付けるようにしてもよいが、生命尊重の観点や流れる血により天敵(サメ)などを呼び寄せる観点からも望ましくない。特に、観賞用として水中生体に取り付ける場合には、美観的にも望ましくない。そのため、図に示すように、尾ひれなどのくびれた部分に嵌めたり、口内部の歯に打ち込むなどの方法によることが望ましい。
【0023】
また、(B)ウミガメTのように硬い平らな面をもつ水中生体の場合には、音波発信機1(2)を接着剤により接着するようにしてもよい。なお、甲羅の成長などから所定の期間経過後は剥がれるようにするのが望ましい。
【0024】
次に、図5に示すブロック図に従って、水中生体位置特定システムの構成を説明する。
この水中生体位置特定システムは、水中生体Xに装着する音波発信機1と、水面(海面)に浮上させる水中聴音機2と、基地局3と、観光船4と、GPS衛星5とにより構築されるものである。以下、各装置ごとに説明する。なお、水中聴音機2等は、便宜上1台しか示していない。
【0025】
音波発信機1は、聴音部10と、音波発信部11と、電池12とを内蔵している。
聴音部10は、後記するように、水中聴音機2や基地局3、さらには必要に応じて観光船4から発信された音波を受信するものである。音波発信部11は、所定の周波数の音波を出力するものである。ここで、所定の周波数とは、区別したい水中生体Xごとに異なるものを設定することとする。電池12は、聴音部10や音波発信部11に電力を供給するものである。なお、音波発信機1は、一つの水中生体に一生装着させるのも酷とも考えられるため、水中生体の寿命が数年の種の場合には、1年位をめどに同一種の他の水中生体に交換するのが望ましい。また、この電池の寿命に合わせて、自動的に魚F等の水中生体から音波発信機1自体が外れるようにしてもよい。
【0026】
また、電池12は、蓄電池とし、図示しない水車式の発電機を音波発信機1に取り付け、魚F等の水中生体が水面下を回遊するときの水流により発電させ、充電させるようにしてもよい。なお、電池を設けず、発電機のみとしても構わない。
水中であっても、比較的浅瀬を回遊する水中生体に関しては、太陽光線により充電可能な場合があるため、このような場合には太陽電池を用いてもよい。但し、この場合も、夜間は発電できないため、蓄電池や夜間のみ作動する電池を備えることが望ましい。
【0027】
また、音波発信機1の電源は、頻繁に充電や電池交換は困難であるため、消費する電力を少なくすることが望ましい。例えば、その方法として、以下二つの方法が考えられる。一つは、音波の送信は定期的に運用モードに移行して行うこととし、そのときのみ電源を投入し、それ以外は待機モード、つまり、時刻カウント部のみ電源が投入されている低消費電力状態にしておく方法である。但し、この方法では、使用者が望むときにデータを得ることができない。
【0028】
そのため、もう一つは、待機モードとして常時送信側電源は切断し、受信側のみ電源を投入する低消費電力状態にしておく。そして、基地局3から水中聴音機2を通して送信要求があった場合のみ運用モードに移行して送信側電源を投入、音波を送信する方法である。この場合、位置が特定しており水上にあるため比較的電源の確保が容易な基地局3や水中聴音機2の送信電力を大きくすることで、音波発信機1の受信時の消費電力を少なくすることができ、充電やバッテリ交換の期間を延ばすことができる。
【0029】
ところで、水中聴音機2は、前記したような外観を有し、聴音部20と、音波発信部21と、変調部22と、周波数変換部23と、無線部(送信部)24と、アンテナ25と、電池26と、記憶部27と、計時部28とを備えている。聴音部20は、音波発信機1に受信させるための音波を水中に向けて発信するものである。音波発信部21は、音波を発信するものである。変調部22は、音波として受信した信号を変調し、信号を所定の音波として音波発信部21から発信するように変調するものである。周波数変換部23は、音波として出力するための信号を高周波帯の信号に変換し、高周波帯の信号を所定周波数の信号に変換するものである。
【0030】
無線部24は、アンテナ25を介して基地局3に電波を送信し、基地局3から送信された電波をアンテナ25を介して受信するのを制御するものである。アンテナ25は、基地局3との間の無線通信のための電波を送受信するものである。そのため、前記したとおり、GPS衛星5の電波を受信する場合などには専用アンテナをさらに備えるものとする。また、電池26は、各部に電力を供給するものである。この電池26は、太陽電池とするのが望ましい。その他、交換型のものでもよい。なお、アンテナ25は、水中聴音機2が水面上に浮いた状態にて運用されることにより、波浪やうねり、船舶の通過、更には風にて動揺することがあるため、指向性が無いか指向性の広いものが望ましい。記憶部27は、各種データを記憶するものである。計時部28は、時を計るものであり、例えば、音波発信機1からの音波を受信した時刻(時間)を計る。
【0031】
基地局3は、音波発信部30と、聴音部31と、演算処理部32と、無線部33と、アンテナ34と、記憶部35と、表示部36と、入力部37と、商用電源部38と、計時部39とを備えている。なお、基地局3は、陸地に設置されるものとするが、音波発信部30および聴音部31は、配線ケーブルなどを介して水中に設置されるものとする。また、音波発信部30および聴音部31を備えた基地局3は、陸固定型の水中聴音機として機能するものとする。
【0032】
音波発信部30は、音波発信機1に受信させるための音波を水中に向けて発信するものである。聴音部31は、音波を受信するものである。演算処理部32は、各種プログラムにより基地局3の全体の処理を司るものである。無線部33は、水中聴音機2や観光船4との間の無線通信の制御を行うものである。アンテナ34は、水中聴音機2や観光船4との間の電波の送受信を行うものである。なお、ここでも、GPS衛星5からの電波を受信する場合には、衛星用アンテナを備えるようにすればよい。また、基地局3では、変調部22や周波数変換部23を備えていないが、演算処理部32がそれらの機能のプログラムを実行することにより実現できる。
【0033】
記憶部35は、水中生体X、音波発信機1、水中聴音機2、基地局3、観光船4等を識別する識別情報や各位置情報等の各種データや各種プログラムを記憶するものである。表示部36は各種情報を表示するものであり、特に、地図(海図)データと共に、各水中聴音機2、基地局3、観光船4および音波発信機1の現在位置を重ねて表示させるためのものである。入力部37は、オペレータの指示で各種データの入力を行うものである。商用電源部38は、入力される交流電力を直流電力に変換して、基地局3を構成する各部に電力を供給するものである。計時部39は、計時部28と同様に、時を計るものである。
【0034】
観光船4は、聴音部40と、演算処理部41と、無線部42と、アンテナ43と、GPS受信部44と、アンテナ45と、記憶部46と、表示部47と、入力部48とを備えている。なお、図示しない音波発信部を設けてもよい。各部は、観光船4に一つの装置として備えられているというよりも、別体のものとして備え付けられているものとする。聴音部40は、音波を受信するものである。演算処理部41は、全体の処理を司るものである。
【0035】
無線部42は、水中聴音機2や観光船4との間の無線通信の制御を行うものである。アンテナ43は、水中聴音機2や観光船4との間の電波の送受信を行うものである。GPS受信部44は、GPS衛星5からの測位信号を用いて測位を行うものである。アンテナ45は、GPS衛星5からの電波を受信するものである。記憶部46は、各種データやプログラムを記憶するものであり、基地局3の記憶部35と略同様のデータを記憶する。表示部47は、各種情報を表示するものであり、特に、基地局3の表示部36と略同様の内容を表示させるためのものである。入力部48は、オペレータの指示で各種データの入力を行うものである。電源49は、観光船4の動力源から供給されるようにしても、太陽電池で構成してもかまわない。
【0036】
次に、図6に示す模式図に従って、水中観光ビジネスに水中生体位置特定システムを利用する場合の概略を説明する。
ここでは、基地局3と、水中聴音機2(1),2(2),2(3)とが、海岸線L上に略等間隔に配置され、陸固定型の水中聴音機として機能するようになっている。なお、水中聴音機2(1),2(2),2(3)は、ボルトで陸上に固定されている。また、水中聴音機2(4),2(5),…,2(9)が、海面上に適宜配置され、基地局3と、水中聴音機2(1),2(2),2(3)とで囲まれる通常観光海域L1内の水中生体Xを測位するようになっている。ここで、通常観光海域L1は、観光船4が規定の時間内で遊覧するのに必要充分な範囲としている。つまり、この通常観光海域L1から離れると、規定の時間以上の時間が必要となることとしている。
【0037】
さらに、水中聴音機2(10),2(11),2(12)が、通常観光海域L1から離れた海域に設けられている。これらの水中聴音機2(10),2(11),2(12)は、特別観光海域L2の海域の水中生体Xを測位するようになっている。この特別観光海域L2は、通常観光海域L1から外れるが、人気のあるまたはめずらしい水中生体Xの餌場などである。例えば、ウミガメT、イルカ、鯨等の水中生体が表れたときに、水中聴音機2(10),2(11),2(12)で音波を受信して、基地局3に音波の到来方位を電波で送信し、測位し、観光船4に通知することで、観光船4を特別観光海域L2に導くことができる。そのため、本発明の水中生体位置特定システムは、このような特別観光海域L2での水中生体Xの測位に有用である。なお、観光船4で表示部47(図5参照)の海図画面上に、時間に対する位置の関係をプロットすれば水中生体の動向を把握することもできる。
【0038】
次に、図7に示すフローチャートに従って、前記構成の水中生体位置特定システムの全体の処理の一例を説明する。
観光船4では、水中生体の観賞リクエストが観光客からあると、添乗員等が入力部48を操作して、無線部42により、観光船4を識別する船ID、対象の水中生体Xの測位要求、対象の水中生体Xを識別する水中生体IDを電波に乗せて発信する(S1)。
基地局3では、観光船4から船ID、無線部33により測位要求、水中生体IDを受信すると(S2)、全ての水中聴音機2に対して順番に、測位要求、水中生体IDを発信する(S3)。
【0039】
水中聴音機2では、無線部24により測位要求、水中生体IDを受信すると(S4)、所定周波数の音波を音波発信部21から発信する(S5)。
そして、音波発信機1では、聴音部10により所定周波数の音波を受信すると(S6)、所定周波数の音波を音波発信部11から発信する(S7)。このとき、音波発信機1は、複数の水中聴音機2からの音波を受信することになるため、最初に受信してから所定時間経過後に音波を発信するように設定しておけばよい。
【0040】
次に、水中聴音機2では、聴音部20が所定周波数の音波を受信すると(S8)、到来方位を測定し、聴音部20は到来方位を特定し、計時部27が音波の到来した到来時刻を計る(S9)。そして、無線部24により、到来方位、到来時刻、水中生体ID、聴音機IDを電波として発信する(S10)。
【0041】
そして、基地局3では、無線部33により、到来方位、到来時刻、水中生体ID、聴音機IDを受信すると(S11)、演算処理部32により、水中生体Xの位置を解析する(S12)。その解析後は、無線部33により、水中生体IDおよび水中生体の位置情報の解析結果は、観光船4に向けて送信する(S13)。
【0042】
これにより、観光船4では、無線部42により、水中生体IDおよび水中生体の位置情報を受信すると(S14)、GPS受信部44により、GPS測位処理を行って(S15)、現在の観光船4の位置(経度・緯度)を特定し、表示部46に表示している海図画面上に、対象の水中生体Xの位置(経度・緯度)と観光船4の位置(経度・緯度)とをプロットする(S16)。
【0043】
したがって、観光船4では、対象の水中生体Xの位置を表示部47の海図画面上で確認できるため、対象の水中生体Xの位置までの航程を容易に把握することができるようになる。
【0044】
次に、図8〜図10を参照して、実施形態の変形例を説明する。
図8に示すように、水中生体Xに装着する音波発信機1には、聴音部10、音波発信部11、電池12の他に、演算処理部13、記憶部14、計時部15などを備えるようにしてもよい。演算処理部13は、計時部15により計られた時刻に、音波発信部11からの音波の発信や、記憶部14から自らを識別する発信機IDの記憶などの処理を実行する。
【0045】
図9に示すフローチャートに従って、計時部15により計られた時刻に、音波発信部11による音波の発信処理を説明する。
計時部15は、電源オン(Sa1)から時刻を計り始める(Sa2)。したがって、水中生体Xに装着されたときに、計時部15の時刻合わせを行っておく。次に、演算処理部13は発信時刻になったか否かを判定する(Sa3)。この発信時刻は、例えば、観光船4が遊覧を開始する時刻などを記憶部14に登録しておき、演算処理部13がそれを読み出して、判断することができる。そして、演算処理部13は、その時刻になるまでステップSa2に戻り(Sa3のNo)、その時刻になったら(Sa3のYes)、音波発信部11に通電して待機状態から復帰させ(Sa4)、音波を発信させる(Sa5)。
【0046】
次に、図10に示すフローチャートに従って、識別情報に基づいて水中生体Xを区別する場合の水中聴音機2と音波発信機1との処理を説明する。なお、図7と異なる処理のみ説明する。
水中聴音機2では、測位要求、水中生体IDを受信すると(S4)、音波発信部21から測位要求、水中生体IDを送信する(S17)。
音波発信機1では、聴音部10により、音波に乗せて送信された、測位要求、水中生体IDを受信すると(S18)、音波発信部11により、水中生体IDを発信する(S19)。
一方、水中聴音機2では、聴音部20が水中生体IDの音波を受信すると(S20)、到来方位を測定し、聴音部20は到来方位を特定し、計時部27が音波の到来した到来時刻を計る(S21)。そして、到来方位、到来時刻、水中生体ID、聴音機IDを無線部24により電波として発信する(S10)。
【0047】
ところで、水中聴音機2が、音波の到来方位を特定するためには、理論的には特定の方向からの音波しか聴き取れないため、現実的には特定の方向からの音波の受信音量が最大になる指向性があるものが望ましい。
そこで、最後に、図11および図12を参照して、水中聴音機2の変形例を説明する。
図11に示すように、この変形例1の水中聴音機2は、海面下で軸部2gを回転させて、軸部2gに取り付けた聴音部2hを回転させて音波の受信を行う構成である。この構成によれば、水中聴音機2の数は各場所ごとに一つでよく、安価に製造することが可能である。
【0048】
図12に示すように、この変形例2の水中聴音機2は、聴音部筐体部2cに複数の聴音部2iを同心円状に配列した構成である。この構成によれば、聴音部2iとしては受信するのみであるため消費電力は少なくて済み、各聴音部2 iで受信する時刻が同一となり測定誤差に対する影響を無くせるという利点がある。
【0049】
前記実施形態によれば、水面下で回遊する水中生体の位置をリアルタイムに測位すると共に、その測位により得た位置情報をほぼリアルタイムに容易にかつ高精度に取得することができる。また、観光の目玉になるような希望の水中生体に、容易に顧客を遭遇させることができる。また、危険な水中生体等を避けることもできる。
【0050】
また、例えば、モバイル端末における視聴率データを収集して、顧客ニーズのある水中生体にあらかじめ音波発信機を取り付けて水中を回遊させておくようにしてもよい。この場合には、顧客ニーズにあった観光案内を行うことができるため、新しい市場とニーズを開拓することもできる。
【0051】
なお、前記実施形態では、水中生体として魚FやウミガメTを例に説明したが、これらに限るものではなく、位置特定の用途に応じて、適宜な水中生体を対象とすればよい。例えば、熱帯魚、イルカ、鯨、サメであってもよい。また、さらに、人(ダイバ)であってもよい。
【0052】
また、本発明では、鳴き声を発しない水中生体に対して有効な位置の特定を行うものであって、水中生体に対して音波発信機1を取り付けて、その音波発信機1からの音波を受信することで位置を特定するものであるが、イルカや鯨等のように鳴き声を発する水中生体の場合には、その鳴き声を水中聴音機2で受信して、位置を特定するようにしてもよい。しかし、これらの鳴き声を発する水中生体に対しても、本発明の場合には、装着させる音波発信機1の周波数や信号に含まれる識別ID等を異なるものとすることにより、イルカや鯨等の個体自体を識別することもできる。
【0053】
また、GPSアルゴスシステムなどを併用することにより、水中での位置の補正を行うようにしてもよい。つまり、水中聴音機2で水中での位置を略リアルタイムに特定しても、誤差が生じることがあるため、GPS衛星5からの電波が受信可能な深さまで水中生体が浮上した場合には、そのときの基地局3で特定した位置を測位信号に基づいて測位した位置と比較して補正するようにしてもよい。また、同様に、水中聴音機2の補正を行うようにしてもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、水中聴音機2と基地局3との間は、無線により通信を行う場合を説明したが、有線であってもよい。有線には、光ファイバも含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態における水中生体位置特定システムの概略を説明する図である。
【図2】図1に示した水中生体位置特定システムにおける測位方法を説明する図である。
【図3】図1に示した水中生体位置特定システムに用いる水中聴音機の外観を説明する概略斜視図である。
【図4】図1に示した水中生体位置特定システムに用いる音波発信機の取り付け例を説明する図である。(A)は魚への取り付け例、(B)はウミガメへの取り付け例を示している。
【図5】図1に示した水中生体位置特定システムの構成を説明するブロック図である。
【図6】図1に示した水中生体位置特定システムの利用例の概念を説明する模式図である。
【図7】図1に示した水中生体位置特定システムの利用例における各装置間の情報の流れを考慮した全体の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図1に示した水中生体位置特定システムに用いる音波発信機の他の例の構成を説明するブロック図である。
【図9】図9に示した音波発信機の処理を説明するフローチャートである。
【図10】図8に示した音波発信機および図10に示した水中聴音機を用いた水中生体位置特定システムの利用例における各装置間の情報の流れを考慮した流れを説明するフローチャートである。
【図11】図1に示した水中生体位置特定システムに用いる水中聴音機の変形例1の外観を説明する概略斜視図である。
【図12】図1に示した水中生体位置特定システムに用いる水中聴音機の変形例2の外観を説明する概略斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 音波発信機
2 水中聴音機
3 基地局
15 計時部
20 聴音部
24 無線部(送信部)
32 演算処理部
33 無線部(送信部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面下を回遊する水中生体の水面下での位置を特定する水中生体位置特定システムであって、
水面下を回遊中の当該水中生体に装着させた状態で音波を発信する音波発信機と、
前記音波発信機からの音波を受信し、その音波の到来方位を特定する聴音部、および、この聴音部により特定された音波の到来方位を音波受信結果として、有線または無線で送信する送信部を有する、水面に所定間隔離して浮上させる少なくも2台の水中聴音機と、
前記各水中聴音機から送信された当該音波受信結果を受信して、少なくとも2方向の音波の到来方位の関係から当該水中生体の水面下での位置を特定する基地局と、
を備えたことを特徴とする水中生体位置特定システム。
【請求項2】
当該水中生体ごとに異なる周波数の音波を発信する前記音波発信機を当該水中生体ごとに装着させ、
前記基地局では、音波の周波数に対応させて当該水中生体に関する情報を記憶する記憶部を備え、前記水中聴音機からの当該音波受信結果に基づいて、音波の周波数の違いに応じて識別した当該水中生体の位置を特定すること、
を特徴とする請求項1に記載の水中生体位置特定システム。
【請求項3】
当該水中生体ごとに異なる識別情報を音波に乗せて発信する前記音波発信機を当該水中生体ごとに装着させ、
前記基地局では、当該識別情報に対応させて当該水中生体に関する情報を記憶する記憶部を備え、当該識別情報を含む当該音波受信結果を前記水中聴音機から受信し、当該識別情報に応じて識別した当該水中生体の位置を特定すること、
を特徴とする請求項1に記載の水中生体位置特定システム。
【請求項4】
前記音波発信機は、時を計る計時部を備え、前記計時部により計れる所定時ごとに前記音波発信部から音波を発信すること、
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水中生体位置特定システム。
【請求項5】
前記水中聴音機は、測位衛星からの測位情報を受信して測位を行う手段を備え、水面上の位置を特定すること、
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水中生体位置特定システム。
【請求項6】
水面下を回遊する水中生体の水面下での位置を特定する水中生体位置特定システムに用いる、音波発信機であって、
水面下を回遊中の当該水中生体に装着させた状態で音波を発信する構成を備えたこと、
を特徴とする音波発信機。
【請求項7】
水面下を回遊する水中生体の水面下での位置を特定する水中生体位置特定システムに用いる、水中聴音機であって、
水面下を回遊中の当該水中生体に装着させた状態で音波を発信する音波発信機からの音波を受信し、その音波の到来方位を特定する聴音部と、
この聴音部により特定された音波の到来方位を音波受信結果として、有線または無線で送信する送信部とを有し、
水面に所定間隔離して少なくとも2台浮上させて配置すること、
を特徴とする水中聴音機。
【請求項8】
水面下を回遊する水中生体の水面下での位置を特定する水中生体位置特定システムに用いる、基地局であって、
水面下を回遊中の当該水中生体に装着させた状態で音波発信機から発信された音波を受信し、その音波の到来方位を特定して、その到来方位を音波受信結果とし、水面に所定間隔離して浮上させる水中聴音機の少なくも2台から有線または無線で送信される当該音波到来結果を受信する構成を備えたこと、
を特徴とする基地局。
【請求項9】
水面下を回遊する水中生体の水面下での位置を特定する水中生体位置特定システムに用いられる水中生体位置特定方法であって、
水面下を回遊中の当該水中生体に装着させた音波発信機から音波を発信させ、
前記音波発信機からの音波を受信し、その音波の到来方位を特定する聴音部、および、この聴音部により特定された音波の到来方位を音波特定結果として、有線または無線で送信する送信部を有する少なくとも2台の水中聴音機を、水面に所定間隔離して浮上させ、
前記音波発信機から発信された音波を受信する少なくとも2台の水中聴音機では、当該音波を受信して、その到来方位を特定し、特定した到来方位を音波特定結果として、有線または無線で送信し、
前記各水中聴音機から送信された当該音波特定結果を受信する基地局では、少なくとも2方向の音波の到来方位の関係から当該水中生体の水面下での位置を特定するようにしたこと、
を特徴とする水中生体位置特定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate