説明

水処理システム、排水桝、水処理方法

【課題】 災害時における避難場所に設置された施設などにて排出される排水を合理的に取り扱うのに有効な技術を提供する。
【解決手段】 災害時において、施設等10から排出され流通経路を流通する排水を、防災桝110の下部領域112に設けられた貯留部113へと流すべく流路接続部材120を用いて当該排水の流路を切り換え、貯留部113に貯留された排水を浄化処理部150にて浄化処理したのちにトイレ用水として用いる構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理技術に係り、詳しくは災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を取り扱う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模な地震や火災などの災害に対する意識や取り組みの高まりによって、災害時の避難活動を検討する動きが活発化するなか、とりわけ各種の避難場所に設置された施設などから排出された排水を合理的に取り扱う要請がある。具体的には、大規模な震災のような災害時において下水管が破損することが想定されるが、このような場合には、施設などから排出された排水を下水道へと流すことが不能とされ、従って排水の排出先に困るという問題が生じる。そこで、このような問題を解消するためには、施設などから排出された排水を下水道へと流すことなく合理的に処理することが可能な技術が必要とされる。
例えば、下記特許文献1には、生活排水を処理するシステムの可能性が提示されているが、災害時における避難場所に設置された施設などにおいては、当該施設に見合った合理的な水処理システムを構築する要請が高い。
【特許文献1】特開平10−176348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を合理的に取り扱うのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域(以下、「災害時における施設等」或いは「施設等」ともいう)から排出された排水を再利用する技術に好適に用いられる。ここでいう「指定施設」として、典型的には学校施設、集会所(公民館)等が挙げられる。また、ここでいう「指定施設の付設領域」には、前記の指定施設に付随する他の施設(例えば体育館などの学校付属施設)をはじめ、指定施設の近傍に常設された他の施設(例えば集会所が属する或いは隣接する大規模集合住宅)、指定施設の近傍に仮設された他の施設(例えば、仮設プレハブや仮設トイレ)等が広く包含される。
【0005】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの水処理システムである。
請求項1に記載のこの水処理システムは、災害時における施設等から排出された排水を再利用するための水処理システムとして構成され、流通経路、貯留部、流路切換手段、再利用領域、第2の流通経路を少なくとも備える。
【0006】
本発明の流通経路は、災害時における施設等から排出された排水が流通する経路として構成される。この流通経路は、各種の浄化処理設備に連通する配管を用いて構成され、典型的には下水処理設備に連通する下水道を用いて構成される。
【0007】
本発明の貯留部は、流通経路上に配設されるとともに、当該流通経路を流通する排水を貯留するべく所定の容量を有する領域として構成される。この貯留部の所定の容量に関しては、典型的には再利用領域にて利用が予定される利用予想量等に対応した容積に基づいて規定される。
【0008】
本発明の流路切換手段は、流通経路上に配設されるとともに、災害時において、流通経路を流通する排水を貯留部へと流すべく当該排水の流路を切り換える手段として構成される。なお、ここでいう「流路の切り換え」に関しては、切り換えの前後で流路の全部或いは一部が変更されていればよく、災害時における流路の切り換えによって、例えば流通経路を流通する排水の全部が貯留部へと流れてもよいし、或いは流通経路を流通する排水の一部が貯留部へと流れてもよい。また、流路切換手段の具体的な構成に関しては、当該流路切換手段を構成する部材を流通経路に対し着脱することによって、流路を連通状態と非連通状態に切り換える構成を採用することもできるし、或いは流通経路上に常設された部材の回転動作やスライド動作によって流路を切り換える構成を採用することもできる。また、流路の切り換え動作は、災害時において作業者により手動で行われてもよいし、或いは災害発生の検知に基づいて自動で行われてもよい。
【0009】
本発明の再利用領域は、貯留部外に設定されるとともに、当該貯留部に貯留された排水を再利用に供するための領域として構成される。この再利用領域としては、典型的には施設等に設置されたトイレ或いはトイレ給水タンクが挙げられる。この再利用領域には、貯留部に貯留された排水の水質に応じて浄化処理機構が設けられるのが好ましい。
なお、ここでいう「再利用」とは、災害時に施設等から一旦排出された排水を、再び利用する態様を広く含む趣旨である。この場合、当該排水は、同一領域或いは別領域において、同じ用途或いは異なる用途で再利用される。具体的には、災害時に施設等から一旦排出された排水を、所定の方法で処理し或いは未処理のままでトイレ用水として再利用する第1の態様や、災害時に施設等から一旦排出された排水を、当該排水の浄化処理のための被処理水として再利用する第2の態様などが、本発明における「再利用」の範疇に含まれる。上記第1の態様では、少なくともトイレ或いはトイレ給水タンクによって再利用領域が構成され、上記第2の態様では、少なくとも浄化処理部によって再利用領域が構成される。この浄化処理部にて処理されたあとの水は、更に別の再利用領域(例えばトイレ或いはトイレ給水タンク)に移送されてもよいし、或いはそのまま側溝などに放流されてもよい。また、ここでいう「再利用」に関し、再利用に供される水は、所定の処理がなされた処理後の水を含んでもよいし、汚濁物質濃度や清澄度等の性状によっては処理前の被処理水そのものであってもよい。
【0010】
本発明の第2の流通経路は、貯留部と再利用領域との間に延在して、貯留部に貯留された排水を再利用領域へと移送する、前記の流通経路とは異なる流通経路として構成される。なお、この第2の流通経路及び前述の流通経路は、配管部材、バルブ部材、ポンプ、コネクタ等を適宜組み合わせることによって構成され得る。
【0011】
このような構成によれば、流路切換手段の流路切り換えによって、例えば通常時モードと災害時モードが少なくとも形成され得る。通常時モードでは、施設等から排出された排水は、そのまま流通経路を流通して所定の浄化処理設備(例えば下水処理設備)へと流れる。災害時モードでは、施設等から排出された排水は、一旦貯留部に貯留されたのち、第2の流通経路を通じて再利用領域へと移送される。
【0012】
従って、請求項1に記載の発明によれば、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を合理的に取り扱うことが可能な水処理システムが提供される。すなわち、本発明においては、流路切換手段の流路切り換えにより災害時モードに設定されることによって、施設等から排出された排水を再利用する水処理システムを短時間で構築することが可能となる。また、本発明においては、施設等から排出された排水を再利用することによって、災害時における水不足を解消することができ、長期間にわたって避難民の生活環境の確保を図ることが可能となる。また、災害時モードにおいてのみ、施設等から排出された排水を貯留部に貯留することによって、通常時においては排水が貯留部に長期間にわたって貯留されることがなく、従って排水中の汚泥物に起因して生じる悪臭の発生を防止することが可能となる。
【0013】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの水処理システムである。
請求項2に記載のこの水処理システムでは、請求項1に記載の再利用領域は、貯留部から第2の流通経路を通じて移送された排水の浄化処理を行う浄化処理部を備える構成とされる。この浄化処理部として、固液分離処理、嫌気処理、好気処理、消毒処理など各種の浄化処理機能を含む処理部を好適に用いることができる。これにより、貯留部から第2の流通経路を通じて移送された排水は、浄化処理部における被処理水として再利用され、所定の浄化処理がなされたのち、更に別の再利用先に移送されて再利用されるか、或いはそのまま側溝などに放流される。本発明の浄化処理部は、災害時に現場に設置される仮設タイプとして構成されてもよいし、或いは災害時に備えて予め現場に設置される据置きタイプとして構成されてもよい。
従って、請求項2に記載の発明によれば、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を、当該排水の水質に応じて浄化処理にて再利用する合理的な水処理システムが提供される。
【0014】
(本発明の第3発明)
前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの水処理システムである。
請求項3に記載のこの水処理システムでは、請求項2に記載の再利用領域は、浄化処理部にて浄化処理された後の浄化処理水を、指定施設または付設領域に設置された水洗トイレへと返送する返送手段を備える構成とされる。これによって返送手段により返送された浄化処理水が水洗トイレにおけるトイレ用水として再利用に供される。
従って、請求項3に記載の発明によれば、災害時における施設等の水洗トイレから排出された排水を、浄化処理したのちに再びトイレ用水として再利用することが可能な合理的な水処理システムが提供される。
【0015】
(本発明の第4発明)
前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの排水桝である。
請求項4に記載のこの排水桝は、災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域から排出された排水が流通する流通経路上に配設される構造体として構成される。この排水桝は、排水桝内において上下方向に二層状に配設された上部領域及び下部領域を有する。
下部領域は、貯留部及び第2の流通経路を含む構成とされる。これら貯留部及び第2の流通経路は、請求項1に記載の水処理システムの構成要素である貯留部及び第2の流通経路と実質的に同様の機能を有する。
上部領域には、流通経路の各部位のうち、排水桝よりも上流側の上流側流通路と当該排水桝よりも下流側の下流側流通路とを接続する流路接続部材が着脱可能に設けられている。そして、この流路接続部材の装着時においては、上流側流通路及び下流側流通路が流路接続部材を介して連通状態とされる。一方、この通路接続部材の脱着時においては、上流側流通路及び下流側流通路が分断によって非連通状態とされて上流側流通路を流れた排水が貯留部へと流入する。これによって、災害時において流路接続部材が脱着された際には、下流側流通路に対し非連通状態である上流側流通路を流れた排水が貯留部に貯留され、第2の流通経路を通じて再利用領域へと移送されることとなる。なお、通路接続部材の脱着操作に関しては、この脱着操作によって上流側流通路と下流側流通路の分断が実現されればよく、当該通路接続部材を取り外す態様のほか、当該通路接続部材を切断ないし破壊する態様などによって、当該通路接続部材の脱着操作が可能とされる。
【0016】
このような構成によれば、流路接続部材の着脱によって、例えば通常時モードと災害時モードが少なくとも形成され得る。通常時モードでは、装着状態の流路接続部材を介して上流側流通路及び下流側流通路が連通状態とされ、施設等から排出された排水は、そのまま下流側流通路を流通して所定の浄化処理設備(例えば下水処理設備)へと流れる。一方、災害時モードでは、流路接続部材の脱着によって上流側流通路及び下流側流通路が非連通状態とされ、施設等から排出された排水は、一旦貯留部に貯留されたのち、第2の流通経路を通じて再利用領域へと移送される。
【0017】
従って、請求項4に記載の発明によれば、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を合理的に取り扱う水処理システムに好適に用いることが可能な排水桝が提供される。すなわち、本発明においては、流路接続部材の簡便な脱着操作により災害時モードに設定されることによって、施設等から排出された排水を再利用する水処理システムを短時間で構築することが可能となる。また、本発明においては、施設等から排出された排水を再利用することによって、災害時における水不足を解消することができ、長期間にわたって避難民の生活環境の確保を図ることが可能となる。また、災害時モードにおいてのみ、施設等から排出された排水を貯留部に貯留することによって、通常時においては排水が貯留部に長期間にわたって貯留されることがなく、従って排水中の汚泥物に起因して生じる悪臭の発生を防止することが可能となる。
【0018】
(本発明の第5発明)
前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの排水桝である。
請求項5に記載のこの排水桝では、請求項4に記載の貯留部は、再利用領域として排水の浄化処理を行う浄化処理部に第2の流通経路を通じて接続された構成とされる。これによって、災害時において当該貯留部に貯留された排水が第2の流通経路を通じて浄化処理部へと移送され、この浄化処理部にて浄化処理に供される。この浄化処理部は、請求項2に記載の水処理システムの構成要素である浄化処理部と実質的に同様の機能を有する。
従って、請求項5に記載の発明によれば、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を、当該排水の水質に応じて浄化処理にて再利用する水処理システムに好適に用いることが可能な排水桝が提供される。
【0019】
(本発明の第6発明)
前記課題を解決する本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの水処理方法である。
請求項6に記載のこの水処理方法は、災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域から排出された排水を再利用するべく水処理を行う水処理方法である。この水処理方法に際しては、排水が流通する流通経路上に、排水を貯留するべく所定の容量を有する貯留部と、流通経路を流通する排水を貯留部へと流すべく当該排水の流路を切り換え可能な流路切換手段と、貯留部に貯留された排水を再利用に供するための再利用領域へと移送する、流通経路とは異なる第2の流通経路が設置される。これら貯留部、流路切換手段及び第2の流通経路は、請求項1に記載の水処理システムの構成要素である貯留部、流路切換手段及び第2の流通経路と実質的に同様の機能を有する。
この水処理方法は、第1のステップ及び第2のステップを少なくとも有する。第1のステップは、災害時において、流路切換手段による流路に切り換えを行うことによって、流通経路を流通する排水を貯留部に貯留する手順とされる。第2のステップは、第1のステップによって貯留部に貯留された排水を、第2の流通経路を通じて再利用領域へと移送して再利用する手順とされる。
従って、請求項6に記載の発明によれば、第1のステップ及び第2のステップを順次遂行することによって、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を合理的に取り扱うことが可能な水処理方法が提供される。
【0020】
(本発明の第7発明)
前記課題を解決する本発明の第7発明は、請求項7に記載されたとおりの水処理方法である。
請求項7に記載のこの水処理方法に際しては、第2の流通経路上に、排水の浄化処理を行う浄化処理部が設置される。この浄化処理部は、請求項2に記載の水処理システムの構成要素である浄化処理部と実質的に同様の機能を有する。
この水処理方法では、請求項6に記載の第2のステップに際し、再利用領域へと移送される前の排水を浄化処理部において浄化処理する。
従って、請求項7に記載の発明によれば、災害時における避難場所に設置された施設などにて排出された排水を、当該排水の水質に応じて浄化処理して再利用する合理的な水処理方法が提供される。
【0021】
(本発明の第8発明)
前記課題を解決する本発明の第8発明は、請求項8に記載されたとおりの水処理方法である。
請求項8に記載のこの水処理方法では、浄化処理部にて浄化処理された後の浄化処理水を、第2のステップにおいて、指定施設または付設領域に設置された水洗トイレへと返送し、この水洗トイレにおけるトイレ用水として再利用する。
従って、請求項8に記載の発明によれば、災害時における施設等の水洗トイレから排出された排水を、浄化処理したのちに再びトイレ用水として再利用することが可能な合理的な水処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、特に災害時において、施設等から排出され流通経路を流通する排水を貯留部へと流すべく当該排水の流路を切り換え、貯留部に貯留された排水を再利用に供する構成を採用することによって、施設等にて排出された排水を合理的に取り扱うのに有効な技術を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態は、災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域(以下、「施設等10」ともいう)から排出された排水(洗面、トイレなどにおける排水)を、災害時において再利用する水再利用システムについて説明するものである。本実施の形態における「指定施設」として、典型的には学校施設、集会所(公民館)等が挙げられる。また、本実施の形態でいう「指定施設の付設領域」には、前記の指定施設に付随する他の施設(例えば体育館などの学校付属施設)をはじめ、指定施設の近傍に常設された他の施設(例えば集会所が属する或いは隣接する大規模集合住宅)、指定施設の近傍に仮設された他の施設(例えば、仮設プレハブや仮設トイレ)等が広く包含される。
【0024】
本発明における「水処理システム」の一実施の形態である水再利用システム100の概略構成が図1に示される。図1に示すこの水再利用システム100は、施設等10から排出され下水道(下水処理設備)へと流れる排水を、災害時において再利用する水再利用システムである。
なお、施設等10から排出される排水としては、トイレから排出される屎尿を含む排水や、洗面から排出される界面活性剤などを含む排水、またこれらの排水が混合された排水などが典型的である。この排水は、施設等10の各箇所から排出管12を通じて下水管14へと排出される。この下水管14は、施設等10から排出された排水が流通する流通経路であり、本発明における「流通経路」に相当する。
【0025】
本実施の形態の水再利用システム100は、概括的に見て、排水桝110、取水部130、浄化処理部150、返送部170を少なくとも備える。
【0026】
排水桝110は、排水が下水道へと流れる下水管14上に介在する桝状の構造体として構成される。この排水桝110が、本発明における「排水桝」に相当する。この排水桝110は、排水桝内の空間において上下方向に二層状に配設された上部領域111及び下部領域112を有する。また、この排水桝110の空間の上部に形成された上部開口は、蓋状部材によって適宜覆われる。
【0027】
排水桝110の下部領域112には、下水管14上に配設されるとともに、下水道へと流れる排水を貯留するべく所定の容量を有する貯留部113と、この貯留部113に貯留された排水を再利用に供するための浄化処理部150へと移送する取水部130を含む構成とされる。貯留部113の所定の容量に関しては、典型的には浄化処理部150において処理される処理予定量や、浄化処理部150にて処理された後の処理水を利用する場合の利用予想量等に対応した容積に基づいて規定される。ここでいう下部領域112が、本発明における「下部領域」に相当し、この下部領域112の貯留部113が、本発明における「貯留部」に相当する。
【0028】
排水桝110の上部領域111には、下水管14の各部位のうち、排水桝110よりも上流側の上流側配管16と、排水桝110よりも下流側の下流側配管18とを接続する流路接続部材120が着脱可能に設けられている。この流路接続部材120は、通常時(「通常時モード」ともいう)において装着され、災害時(「災害時モード」ともいう)において脱着される。ここでいう上部領域111が、本発明における「上部領域」に相当する。また、上流側配管16が、本発明における「上流側流通路」を構成し、下流側配管18が、本発明における「下流側流通路」を構成する。
【0029】
通常時に流路接続部材120が装着されると、上流側配管16及び下流側配管18がこの流路接続部材120を介して連通状態とされる。従って、この連通状態では、上流側配管16を流れた排水は、そのまま下流側配管18側へと流れ、この下流側配管18を流通したのち下水道へと移流することとなる。
【0030】
一方、大規模な震災のような災害時においては、下水管14の下流側配管18が破損することが想定され、このような場合には、施設等10から排出された排水を下流側配管18を通じて下水道へと流すことが不能とされる。また、大規模な災害時においては、施設等10に避難する避難民の数が相当に増えることが予想され、このような場合に施設等10における水不足が発生し得る。
【0031】
そこで、災害時に流路接続部材120が脱着されると、上流側配管16及び下流側配管18が分断によって非連通状態とされる。従って、この非連通状態では、上流側配管16を流れた排水は下流側配管18へと流れることなく貯留部113へと流入して貯留される。かくして、施設等10から排出された排水を、下流側配管18を通じて下水道へと流す必要がなくなる。また、施設等10から排出された排水を浄化処理部150によって浄化処理したのちに再利用することが可能となる。
【0032】
このように、本実施の形態の流路接続部材120は、災害時において、流通経路を流通する排水を貯留部113へと流すべく当該排水の流路を切り換える手段であり、本発明における「流路切換手段」に相当する。また、本実施の形態の流路接続部材120は、排水桝110よりも上流側の上流側配管16と当該排水桝110よりも下流側の下流側配管18とを接続するべく着脱可能に設けられており、この流路接続部材120が、本発明における「流路接続部材」に相当する。
【0033】
ここで、本発明における「流路切換手段」或いは「流路接続部材」の第1実施形態である流路接続部材120の具体的構成が図2に示される。
【0034】
図2に示す流路接続部材120は、上流側配管16及び下流側配管18の管外径に対応した管内径を有するパイプ状部材として構成される。この流路接続部材120は、樹脂材料やゴム材料などを用いて形成される。通常時において作業者は、この流路接続部材120を上流側配管16と下流側配管18の間に介在させたうえで、一端を上流側配管16に挿設し、他端を下流側配管18に挿設する手動操作によって、この流路接続部材120を装着状態とすることができる。これによって、流路接続部材120自体が、上流側配管16及び下流側配管18を連通する流路を形成することとなる。一方、災害時において作業者は、この流路接続部材120の両端における上流側配管16及び下流側配管18との挿設を解除する手動操作によって、この流路接続部材120を脱着状態とすることができる。或いは、この流路接続部材120が作業者によって切断ないし破壊されることによって、上流側配管16と下流側配管18との連通が解除される。
【0035】
また、本発明における「流路切換手段」或いは「流路接続部材」の実施形態に関し、第2実施形態である流路接続部材220の具体的構成が図3に示され、第3実施形態である流路接続部材320の具体的構成が図4に示される。
【0036】
図3に示す流路接続部材220は、上流側配管16及び下流側配管18を接続可能な、ねじ込み式の管継手として構成される。この流路接続部材220は、樹脂材料やゴム材料などを用いて形成される。通常時において作業者は、この流路接続部材220を上流側配管16と下流側配管18の間に介在させたうえで、一端を上流側配管16にねじ込み、他端を下流側配管18にねじ込む手動操作によって、この流路接続部材220を装着状態とすることができる。これによって、流路接続部材220自体が、上流側配管16及び下流側配管18を連通する流路を形成することとなる。一方、災害時において作業者は、この流路接続部材220の両端における上流側配管16及び下流側配管18とのねじ込みを解除する手動操作によって、この流路接続部材220を脱着状態とすることができる。或いは、この流路接続部材220が作業者によって切断ないし破壊されることによって、上流側配管16と下流側配管18との連通が解除される。
【0037】
図4に示す流路接続部材320は、排水桝110の上部開口を塞ぐように架設可能な蓋状部材として構成される。この流路接続部材320は、上流側配管16及び下流側配管18の延在方向に沿って延在する断面U字状の溝321を備える。この流路接続部材320は、樹脂材料やゴム材料などを用いて形成される。通常時において作業者は、この流路接続部材320を上流側配管16と下流側配管18の間に架設する手動操作によって、この流路接続部材320を装着状態とすることができる。これによって、流路接続部材320の溝321が、上流側配管16及び下流側配管18を連通する流路を形成することとなる。一方、災害時において作業者は、取っ手322を掴んでこの流路接続部材320を取り外す手動操作によって、この流路接続部材320を脱着状態とすることができる。
【0038】
図1に戻って、取水部130は、取水ポンプ131及び取水配管132を少なくとも備える。取水ポンプ131は、貯留部113に設置される水中設置式のポンプ、いわゆる「水中ポンプ」として構成される。この取水ポンプ131が設置される貯留部113は、ポンプを収容する「ポンプピット」とも称呼される。取水配管132は、取水ポンプ131と浄化処理部150との間に延在する流通経路であり、下水管14とは異なる別系統の流通経路として構成される。従って、貯留部113に貯留された排水(「汚水」ともいう)は、取水ポンプ131のポンプ機能によって汲み上げられて取水配管132へと吐出され、この取水配管132を通じて浄化処理部150へと移送される。
【0039】
浄化処理部150は、後述する浄化処理機構を搭載しており、この浄化処理機構において浄化処理された浄化処理水(「処理水」ともいう)は、返送部170に送られる。この返送部170は、返送ポンプ171、返送配管172及び放流配管173を少なくとも備える。この浄化処理部150は、災害時に現場に設置される仮設タイプとして構成されてもよいし、或いは災害時に備えて予め現場に設置される据置きタイプとして構成されてもよい。
【0040】
返送ポンプ171は、ポンプ槽170aに設置される、取水ポンプ131と同様の水中設置式の水中ポンプとして構成される。返送配管172は、返送ポンプ171と施設等10のトイレ用水給水部との間に延在する流通経路として構成される。従って、ポンプ槽170aに貯留された処理水は、返送ポンプ171のポンプ機能によって汲み上げられて返送配管172へと吐出され、この返送配管172を通じて施設等10のトイレ給水タンク11へと移送される。これら返送ポンプ171及び返送配管172によって、本発明における「返送手段」が構成される。
【0041】
通常時においては、施設等10のトイレ給水タンク11へは上水道からの給水がトイレ用水として使用されるが、本実施の形態のように浄化処理部150からの処理水をトイレ用水として再利用することによって、上水道からトイレ給水タンク11へと供給される給水量を抑えることが可能となる。これにより、少なくとも災害時において取水部130、浄化処理部150及び返送部170を稼動することによって、施設等10における水不足を解消するのに特に効果的である。このトイレ給水タンク11は、貯留部113に貯留された排水を再利用に供するための領域であり、本発明における「再利用領域」を構成している。このトイレ給水タンク11に、その上流側の構成要素である浄化処理部150及び返送部170を含めて、本発明における「再利用領域」とすることもできる
なお、浄化処理部150において得られる処理水が、トイレ用水として使用される処理水よりも多い場合に余剰となる余剰水は、放流配管173を通じて側溝などに適宜放流される。
【0042】
上記のように、貯留部113と施設等10のトイレ給水タンク11との間には、取水部130、浄化処理部150及び返送部170を通じて、貯留部113に貯留された排水の再利用のための一連の流通経路が形成されており、当該流通経路が、本発明における「第2の流通経路」を構成している。
また、災害時における流路接続部材120の脱着操作は、排水の流路を下流側配管18側から貯留部113側へと切り換えることによって、当該排水を貯留部113に貯留する手順であり、本発明における「第1のステップ」に相当する。また、災害時における取水部130、浄化処理部150及び返送部170を稼動することによって、貯留部113に貯留された排水がトイレ給水タンク11にて再利用されることとなり、貯留部113の排水を浄化処理したのちにトイレ給水タンク11へと返送するこの一連の手順が、本発明における「第2のステップ」に相当する。
【0043】
ここで、本実施の形態の浄化処理部150の構成が図5に示される。
図5に示すように、浄化処理部150は、流入口151から流出口158との間に、浄化処理機構を搭載している。この浄化処理機構は、夾雑物除去槽152、嫌気処理槽153、生物処理槽154、処理水槽155、消毒槽(消毒室)156、貯留槽157によって構成されている。
【0044】
夾雑物除去槽152においては、被処理水中の固形物等の夾雑物が固液分離されて当該被処理水から除去処理される。嫌気処理槽153内には、特に図示しないものの、被処理水中の有機汚濁物を嫌気処理(還元処理)する嫌気性微生物が付着する濾材が設けられており、この嫌気処理槽153においては、被処理水中の有機汚濁物が嫌気性微生物によって嫌気処理される。生物処理槽154内には、特に図示しないものの、被処理水中の有機汚濁物を好気処理(酸化処理)する好気性微生物が付着する粒状担体が流動可能に充填された生物処理領域が形成されており、この生物処理槽154においては、散気エアの供給によって被処理水が好気処理される。処理水槽155においては、固形成分の沈降が促され、これによって被処理水の沈静化が行われる。なお、処理水槽155内の被処理水の一部をエアリフトポンプ等によって夾雑物除去槽152等の上流側処理槽に還流し、再度上流側より処理を受ける構成としてもよい。消毒槽156においては、被処理水の消毒処理が行われる。貯留槽157においては、被処理水が暫時貯水されることによって、当該貯水の際に固形成分の更なる沈降が促される。
なお、浄化処理部150に流入する排水の汚濁物質濃度が比較的低い場合には、上記夾雑物除去槽152、嫌気処理槽153等の構成を適宜省略するとともに、曝気槽や沈殿槽等を適宜配置して構成することも可能である。
【0045】
以上のように、本実施の形態の水再利用システム100及び当該水再利用システム100を用いた水処理方法によれば、災害時に施設等10にて排出された排水を再利用によって合理的に取り扱うことが可能となる。すなわち、流路接続部材120,220,320の簡便な脱着(流路切り換え)により災害時モードに設定されることによって、施設等10から排出された排水を再利用に供する水処理システムを短時間で構築することが可能となる。また、施設等10から排出された排水を再利用することによって、災害時における水不足を解消することができ、長期間にわたって避難民の生活環境の確保(水洗トイレの使用)を図ることが可能となる。また、災害時モードにおいてのみ、施設等10から排出された排水を貯留部113に貯留することによって、通常時においては排水が貯留部113に長期間にわたって貯留されることがなく、従って排水中の汚泥物に起因して生じる悪臭の発生を防止することが可能となる。
また、本実施の形態によれば、災害時に施設等10にて排出された排水を、当該排水の水質に応じて浄化処理部150にて浄化処理して再利用する合理的な水処理技術を提供することが可能となる。更に、災害時に施設等10の水洗トイレから排出された排水を、浄化処理部150にて浄化処理したのちに再びトイレ用水として再利用することが可能な合理的な水処理技術が提供される。
【0046】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0047】
上記実施の形態では、施設等10にて排出された排水を再利用する一形態として浄化処理部150における被処理水として浄化処理する場合について記載したが、本発明では、排水の水質によっては浄化処理部150のような浄化処理機能を省略或いはバイパスすることもできる。
【0048】
また、上記実施の形態では、排水の流路を切り換える流路切換手段として、下水管14に対し着脱される流路接続部材120,220,320を用いる場合について記載したが、本発明では、流通経路上に常設された部材の回転動作やスライド動作によって流路を切り換える構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における「水処理システム」の一実施の形態である水再利用システム100の概略構成を示す図である。
【図2】本発明における「流路切換手段」或いは「流路接続部材」の第1実施形態である流路接続部材120の具体的構成を示す図である。
【図3】本発明における「流路切換手段」或いは「流路接続部材」の実施形態に関し、第2実施形態である流路接続部材220の具体的構成を示す図である。
【図4】本発明における「流路切換手段」或いは「流路接続部材」の実施形態に関し、第3実施形態である流路接続部材320の具体的構成を示す図である。
【図5】本実施の形態の浄化処理部150の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10…施設等
11…トイレ給水タンク
12…排出管
14…下水管
16…上流側配管
18…下流側配管
100…水再利用システム
110…排水桝
111…上部領域
112…下部領域
113…貯留部
120,220,320…流路接続部材
130…取水部
131…取水ポンプ
132…取水配管
150…浄化処理部
151…流入口
152…夾雑物除去槽
153…嫌気処理槽
154…生物処理槽
155…処理水槽
156…消毒槽
157…貯留槽
158…流出口
170…返送部
170a…ポンプ槽
171…返送ポンプ
172…返送配管
173…放流配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域から排出された排水が流通する流通経路と、
前記流通経路上に配設されるとともに、当該流通経路を流通する排水を貯留するべく所定の容量を有する貯留部と、
前記流通経路上に配設されるとともに、前記災害時において、前記流通経路を流通する排水を前記貯留部へと流すべく当該排水の流路を切り換える流路切換手段と、
前記貯留部外に設定されるとともに、当該貯留部に貯留された排水を再利用に供するための再利用領域と、
前記貯留部と前記再利用領域との間に延在して、前記貯留部に貯留された排水を前記再利用領域へと移送する、前記流通経路とは異なる第2の流通経路と、
を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理システムであって、
前記再利用領域は、前記貯留部から前記第2の流通経路を通じて移送された排水の浄化処理を行う浄化処理部を備える構成であることを特徴とする水処理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水処理システムであって、
前記再利用領域は、前記浄化処理部にて浄化処理された後の浄化処理水を、前記指定施設または付設領域に設置された水洗トイレへと返送する返送手段を備え、これによって前記返送手段により返送された前記浄化処理水が前記水洗トイレにおけるトイレ用水として再利用に供されることを特徴とする水処理システム。
【請求項4】
災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域から排出された排水が流通する流通経路上に配設される排水桝であって、
当該排水桝内において上下方向に二層状に配設された上部領域及び下部領域を有し、
前記下部領域は、前記流通経路を流通する排水を貯留するべく所定の容量を有する貯留部と、前記貯留部に貯留された排水を再利用に供するための再利用領域へと移送する、前記流通経路とは異なる第2の流通経路を含む構成であり、
前記上部領域には、前記流通経路の各部位のうち、当該排水桝よりも上流側の上流側流通路と当該排水桝よりも下流側の下流側流通路とを接続する流路接続部材が着脱可能に設けられており、前記流路接続部材の装着時においては、前記上流側流通路及び下流側流通路が前記流路接続部材を介して連通状態とされる一方、前記流路接続部材の脱着時においては、前記上流側流通路及び下流側流通路が分断によって非連通状態とされて前記上流側流通路を流れた排水が前記貯留部へと流入する構成であり、
これによって、前記災害時において前記流路接続部材が脱着された際には、前記下流側流通路に対し非連通状態である前記上流側流通路を流れた排水が前記貯留部に貯留され、前記第2の流通経路を通じて前記再利用領域へと移送されることを特徴とする排水桝。
【請求項5】
請求項4に記載の排水桝であって、
前記貯留部は、前記再利用領域として排水の浄化処理を行う浄化処理部に前記第2の流通経路を通じて接続された構成であり、これによって前記災害時において当該貯留部に貯留された排水が前記第2の流通経路を通じて前記浄化処理部へと移送され、この浄化処理部にて浄化処理に供されることを特徴とする排水桝。
【請求項6】
災害時における避難場所として指定された指定施設または当該指定施設の付設領域から排出された排水を再利用するべく水処理を行う水処理方法であって、
前記排水が流通する流通経路上に、前記排水を貯留するべく所定の容量を有する貯留部と、前記流通経路を流通する排水を前記貯留部へと流すべく当該排水の流路を切り換え可能な流路切換手段と、前記貯留部に貯留された排水を再利用に供するための再利用領域へと移送する、前記流通経路とは異なる第2の流通経路を設置し、
前記災害時において、前記流路切換手段による流路に切り換えを行うことによって、前記流通経路を流通する排水を前記貯留部に貯留する第1のステップと、前記第1のステップによって前記貯留部に貯留された排水を、前記第2の流通経路を通じて前記再利用領域へと移送して再利用する第2のステップを有することを特徴とする水処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水処理方法であって、
前記第2の流通経路上に、排水の浄化処理を行う浄化処理部を設置し、
前記第2のステップに際し、前記再利用領域へと移送される前の排水を前記浄化処理部において浄化処理することを特徴とする水処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水処理方法であって、
前記浄化処理部にて浄化処理された後の浄化処理水を、前記第2のステップにおいて、前記指定施設または付設領域に設置された水洗トイレへと返送し、この水洗トイレにおけるトイレ用水として再利用することを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−270536(P2007−270536A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98304(P2006−98304)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(390021348)フジクリーン工業株式会社 (71)
【出願人】(502071296)株式会社 極東技工コンサルタント (5)
【Fターム(参考)】