説明

水処理システム及びその凝集剤注入方法

【課題】凝集剤注入率を高精度に制御でき、ファウリングの発生を有効に防止することができる水処理システム及びその凝集剤注入方法を提供する。
【解決手段】前処理装置3,11と、逆浸透膜モジュール6と、前処理装置に供給される海水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置10と、前処理装置よりも下流側において海水中のTEP量と他の水質測定項目とを測定する水質分析装置32と、2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録する記録装置23と、TEP量と凝集剤注入率との関係式と、他の水質測定項目と凝集剤注入率との関係式と、2つ以上の水質測定項目の相互間の関係式とをそれぞれ導出する関係式導出手段21-23と、過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに水質分析測定結果と複数の関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように凝集剤注入装置を制御する凝集剤注入率制御手段20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンや塩類などの溶質を含む汽水、海水、地下水又は埋立地浸出水、産業廃水などを逆浸透膜モジュールによりろ過を行う水処理システム及びその凝集剤注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンや塩類などの溶質を含む汽水、海水、地下水又は埋立地浸出水、産業廃水などから生活用水、工業用水、農業用水を得る方法として膜ろ過法が知られている。膜ろ過法の1つとして逆浸透膜を利用する方法がある。逆浸透膜(RO膜)は、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜のことで、溶質の濃度に応じた浸透圧以上の圧力をかけることにより水と溶質を分離する。
【0003】
こうした逆浸透膜モジュールを利用する水処理システムとして例えば海水淡水化システムでは、海水を逆浸透膜モジュールに通して脱塩する前に、取水した海水中に含まれる濁度、藻類、微生物などの懸濁物質を除去するために凝集剤を注入し、フロックを形成させ除去しやすくした後、砂ろ過や膜ろ過などの前処理を行う。この前処理には、砂ろ過が用いられる他、近年、膜モジュールである精密ろ過膜(MF膜)および限外ろ過膜(UF膜)などの膜ろ過が用いられる。
【0004】
従来、この凝集剤注入率の制御システムとしては、物理学的、化学的観点から凝集剤注入率を算出しているものが多くみられたが、例えば海水の膜ろ過処理においては、海水中の溶存有機物、微生物、特に微生物が放出する粘性の高い有機物、無機イオンなどが原因で、膜表面に生物的な汚れ、ファウリングが発生するという生物学的観点における課題もある。
【0005】
被処理水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、またファウリング要因物質もこれらの影響を受けるため、これらに応じて適切な凝集剤注入率も変動する。ファウリングのうち、ろ過性を著しく低下させるものは不可逆的な汚れであり、生成を抑制することが重要となる。
【0006】
ファウリングを抑制する手段としては、対象とする被処理水中にファウリングの要因となる物質がどの程度存在するかを把握し、ファウリング生成の危険性に応じて膜ろ過の運転条件やろ過膜の洗浄条件を制御する方法が種々提案されている。
【0007】
例えば特許文献1では、凝集監視装置を設置し、採取試料の濁度又は色度を測定し、その測定値に応じて凝集剤の注入量を制御する方法が提案されている。また、特許文献2では、原水の濁度と凝集剤注入率との相関から凝集剤注入率を求め、求めた注入率に基づいて凝集剤の注入量を制御する方法が提案されている。さらに、特許文献3では、凝集剤注入後のフロックを含有した状態の処理水中の残留凝集剤主成分濃度から、残留凝集剤主成分濃度の設定値との偏差に応じて凝集剤注入率を補正する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−146608号公報
【特許文献2】特開2007−029851号公報
【特許文献3】特開2010−137115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術のいずれも、凝集剤注入率を決定するためのプロセス条件項目が絶対的に少なく、特に従来技術ではプロセス条件項目として生物学的要因をまったく考慮していないため、凝集剤の注入率を高精度に制御するには不十分であるといわざるをえない。水処理プロセスにおいて生物学的要因の影響力は大きく、被処理水の水質が日間変動あるいは季節変動した場合に、安定した処理水質を得ることが難しくなり、過酷な条件で運転を続けると前段の前処理システムや後段の逆浸透膜モジュールが目詰まりするファウリングが発生し、運転を続けることが困難になり、稼働率の低下を招くことがある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、凝集剤注入率を高精度に制御でき、ファウリングの発生を有効に防止することができる水処理システム及びその凝集剤注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上述した生物学的要因も考慮した上で、物理的、化学的観点からの課題にも適応するため、被処理水及び前処理を施した被処理水における濁度、SDI、MFI、TOC、E260、生物学的視点からみたTEP(細胞外ポリマー粒子 Transparent Exopolymer Particle:以下TEPとする)量、クロロフィルa量、植物プランクトン数、蛍光強度、などの水質分析及び前処理膜及び後段の逆浸透膜の差圧上昇の抑制を考慮した膜差圧の測定を行い、これらの結果から少なくとも2つ以上の組み合わせにおいて、予め設定しておいた関係から、凝集剤注入率を算出することで最適化を図る。
【0012】
さらに、被処理水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、これに応じて適切な凝集剤注入率も変動するため、必要に応じて前記項目以外に、水温、塩濃度、pH、アルカリ度を考慮して水質指標の補正を行うこともできる。
【0013】
本発明は上述した生物学的視点からの考慮を新たに加えたものであり、上記課題を解決するために以下の解決手段を備えている。
【0014】
本発明に係る水処理システムは、溶質含有水をろ過して異物を除去する前処理装置と、前処理された溶質含有水を膜ろ過して溶質を分離除去する逆浸透膜モジュールと、前記前処理装置に供給される溶質含有水に対して凝集剤を注入添加する凝集剤注入装置と、前記前処理装置よりも下流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第1の水質分析装置と、前記水質分析装置から得られた少なくとも2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録する記録装置と、前記透明細胞外高分子粒子の量と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記他の水室測定項目と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記少なくとも2つ以上の水質測定項目の相互間の相関関係式と、をそれぞれ導出する関係式導出手段と、過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに前記記録装置から呼び出した前記水質分析測定結果と前記関係式導出手段により導出された前記相関関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置を制御する凝集剤注入率制御手段と、を具備することを特徴とする。
【0015】
本願明細書中の重要な用語を以下にそれぞれ定義する。
【0016】
溶質含有水とは、イオンや塩類などの溶質を含む汽水、海水、地下水、埋立地浸出水、産業排水などをいう。とくに溶質としてイオンや塩類などの無機質の成分を多く含む海水や汽水などをいう。
【0017】
透明細胞外高分子粒子とは、トランスパレント・エキソポリマー・パーティクル(Transparent Exopolymer Particle;略称TEP)のことであり、物体の表面に粘り気のあるヌルヌルした所謂ぬめりを生じさせる物質をいう。TEPは、膜の表面に単に付着するばかりでなく、微細孔を塞いで膜のろ過性を著しく低下させ、不可逆的な目詰まりを生じさせるファウリングの原因物質の1つである。TEPは、種々の原因で発生する物質であるが、生物学的視点からみた場合に生きた細胞から出される透明細胞外高分子粒子と死んだ細胞から出てきた透明細胞外高分子粒子とが包括的に含まれる。
【0018】
シルト・デンシティ指数とは、Silt Density Index(略称SDI)のことであり、ASTM D4189で規定された水質指標の1つをいう。
【0019】
モディファイド・ファウリング指数とは、Modified Fouling Index(略称MFI)のことであり、膜ろ過を行おうとする液が膜にどの程度ファウリングを起こさせるかを示す半定量的な水質指標をいう。ちなみにファウリング指数はJIS K3802で規定されている。
【0020】
全有機炭素とは、トータル・オーガニック・カーボン(Total Organic Carbon;略称TOC)のことであり、水中の酸化されうる有機物の全量を炭素の量で示した水質指標をいう。TOCは従前のBODやCODにとって代わる水質指標の1つである。
【0021】
紫外線吸光度とは、水に波長260nmの紫外光を照射したときの光の吸収の程度を示す水質指標の1つをいい、E260で表記される。ちなみにE260は二重結合を有する有機物が水中にどのくらい含まれているかを示す指標になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図6】本発明の第6の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図7】本発明の第7の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図8】本発明の第8の実施形態に係る水処理システムを示す構成ブロック図。
【図9】本発明の方法において凝集剤注入率を選定するときに用いる特性線図。
【図10】本発明の方法において凝集剤注入率を選定するときに用いる特性線図。
【図11】従来の方法において凝集剤注入率を選定するときに用いる特性線図。
【図12】本発明の方法を実施するためのフローチャート。
【図13】本発明の方法において凝集剤注入率の選定手順を説明するための特性線図。
【図14】本発明の方法において凝集剤注入率の選定手順を説明するための特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、水処理システムの運転におけるプロセス条件と生物的要因に関する水質項目との関係について鋭意研究した結果、被処理水中の膜のファウリングの要因となる物質は単一の物質ではなく、複数の物質が相互に作用しあってファウリングを形成していることが判明した。さらに、本発明者らは、被処理水の生物的要因に関する水質項目を掘り下げて分析し、数ある生物的要因の水質項目のうちの少なくとも2つ以上を組み合わせることで、凝集剤注入率の最適化を図ることを見出した。
【0024】
本発明はかかる知見に基づいて成されたものであり、以下にその好ましい実施の形態を説明する。
【0025】
(1)本発明の実施形態に係る水処理システムは、溶質含有水をろ過して異物を除去する前処理装置(3,11)と、前処理された溶質含有水を膜ろ過して溶質を分離除去する逆浸透膜モジュール(6)と、前記前処理装置に供給される溶質含有水に対して凝集剤を注入添加する凝集剤注入装置(10)と、前記前処理装置よりも下流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第1の水質分析装置(32)と、前記水質分析装置から得られた少なくとも2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録する記録装置(23)と、前記透明細胞外高分子粒子の量と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記他の水質測定項目と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記少なくとも2つ以上の水質測定項目の相互間の相関関係式と、をそれぞれ導出する関係式導出手段(21-23)と、過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに前記記録装置から呼び出した前記水質分析測定結果と前記関係式導出手段により導出された前記相関関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置を制御する凝集剤注入率制御手段(20)と、を有することを特徴とする。
【0026】
本実施形態では、溶質含有水の生物学的要因に関する水質測定項目を分析し、これらのうち少なくとも2つ以上の結果を組み合わせることで、凝集剤注入率の最適化を図ることができる。
【0027】
ここで、水質測定項目を2つだけに絞ってその組合せの優先順位を考察してみると、TEPと濁度との組合せが最も好ましく、TEPとMFIとの組合せが次に好ましく、TEPとE260との組合せがその次に好ましい。さらに3つ又は4つ以上の水質測定項目を組み合わせれば、凝集剤注入率をより高精度に制御することができるのは勿論である。
【0028】
(2)上記(1)において、前記前処理装置が砂ろ過層を有する砂ろ過装置であり、前記前処理装置よりも上流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第2の水質分析装置をさらに有することが好ましい。
【0029】
本実施形態によれば、溶質含有水中に含まれる異物、例えば砂粒子や繊維などの不溶性固形物を砂ろ過層により迅速かつ確実に除去することができ、下流側の機器や装置の負荷が軽減されるとともに、逆浸透膜装置のRO膜の寿命延長が図られる。
【0030】
また、本実施形態によれば、第2の水質分析装置を用いて前処理装置の上流側の水質測定項目を測定分析することができ、凝集剤注入率をさらに高精度に制御することができる。
【0031】
(3)上記(1)において、前記第1の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することが好ましい。
【0032】
本実施形態によれば、フィードバック制御手段により凝集剤注入率をフィードバック制御することで、初期値から最適値に至るまでの凝集剤注入率の最適化時間が短縮されるという利点がある。
【0033】
(4)上記(2)において、前記第2の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することが好ましい。
【0034】
本実施形態においても上記(3)と同様に、フィードバック制御手段により凝集剤注入率をフィードバック制御することで、初期値から最適値に至るまでの凝集剤注入率の最適化時間が短縮されるという利点がある。
【0035】
さらに本実施形態によれば、前処理装置の下流側の水質測定項目ばかりでなく上流側の水質測定項目も凝集剤注入率の最適化に寄与させているため、上記(3)よりも凝集剤注入率をさらに高精度にフィードバック制御することができる。
【0036】
(5)上記(1)において、前記前処理装置としてろ過膜を有する膜ろ過装置を用いることが好ましい。本実施形態の膜ろ過装置として、精密ろ過膜(MF膜)または限外ろ過膜(UF膜)などを用いることができる。
【0037】
本実施形態によれば、目詰まりなどによりろ過機能が低下したときに、機能低下したろ過膜を容易に交換することができるため、砂ろ過装置に比べて保守点検時間が短くなり、保守点検コストが低減される。
【0038】
(6)上記(5)において、前記前処理装置よりも上流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第2の水質分析装置をさらに有することが好ましい。
【0039】
本実施形態によれば、第2の水質分析装置を用いて前処理装置の上流側の水質測定項目を測定分析することができ、凝集剤注入率をさらに高精度に制御することができる。
【0040】
(7)上記(5)において、前記第1の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することが好ましい。
【0041】
本実施形態によれば、フィードバック制御手段により凝集剤注入率をフィードバック制御することで、初期値から最適値に至るまでの凝集剤注入率の最適化時間が短縮されるという利点がある。
【0042】
(8)上記(6)において、前記第2の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することが好ましい。
【0043】
本実施形態によれば、前処理装置の下流側の水質測定項目ばかりでなく上流側の水質測定項目も凝集剤注入率の最適化に寄与させているため、凝集剤注入率をさらに高精度にフィードバック制御することができる。
【0044】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかにおいて、前記前処理装置の上流側と下流側とにおいて溶質含有水の連続的な水質及びプラントの状態をそれぞれ計測する手段と、凝集剤注入率を自動で変更する手段と、処理の良否を判定する手段と、前記凝集剤注入装置の注入開始時、水質変動時、および/またはプラントの条件を変化させた時、のようにイベントが生じた際に、適正な注入率を求める演算装置と、をさらに有することが好ましい。
【0045】
本実施形態によれば、オペレータがいない無人監視下においても有人監視下と同等程度に凝集剤注入率を最適値に制御することができる。
【0046】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかにおいて、前記他の水質測定項目は、濁度、シルト・デンシティ指数(SDI)、モディファイド・ファウリング指数(MFI)、全有機炭素(TOC)量、紫外線吸光度(E260)、クロロフィルa量、植物プランクトン数、および蛍光強度からなる群のうちから選択される1つ又は2つ以上であることが好ましい。
【0047】
本実施形態では、TEP以外の他の水質測定項目として生物学的視点から濁度、SDI、MFI、TOC、E260、クロロフィルa量、植物プランクトン数、蛍光強度に着目し、これらのうちから少なくとも1つの測定結果とTEP量測定結果とを組合せたものと相関関係式とを用いて演算により凝集剤注入率の最適値を求めることができる。
【0048】
水質測定項目の組合せとして最も好ましいものはTEPと濁度の組合せであり、次に好ましいものはTEPとE260の組合せであり、その次に好ましいものはTEPとMFIの組合せである。
【0049】
(11)本発明の実施形態に係る水処理システムの凝集剤注入方法は、(a)前処理装置により溶質含有水をろ過して異物を除去し、(b)前記前処理された溶質含有水を逆浸透膜モジュールにより膜ろ過して溶質を分離除去し、(c)前記前処理装置よりも下流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定し、(d)測定した少なくとも2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録装置に記録し、(e)前記透明細胞外高分子粒子の量と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記他の水室測定項目と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記少なくとも2つ以上の水質測定項目の相互間の相関関係式と、をそれぞれ導出し、(f)過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに前記記録装置から呼び出した前記水質分析測定結果と前記相関関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように前記前処理装置に供給される溶質含有水に対して注入される凝集剤の量を制御することを特徴とする。
【0050】
本実施形態では、溶質含有水の生物学的要因に関する水質測定項目を分析し、これらのうち少なくとも2つ以上の結果を組み合わせることで、凝集剤注入率の最適化を図ることができる。
【0051】
以下、添付の図面を参照して本発明を実施するための好ましい種々の形態の一例として海水淡水化プラントシステムの例を説明する。
【0052】
(第1の実施形態)
先ず図1を参照して第1の実施の形態に係る水処理システム1を説明する。
【0053】
本実施形態の水処理システム1は、配管ラインに沿って上流側から順に直列に配設された原水槽2、供給ポンプP1、流量計31、前処理装置としての砂ろ過装置3、第1の水質分析装置32、調整水槽4、送水ポンプP2、保安フィルター5、高圧ポンプP3、逆浸透膜モジュール6、および処理水槽7を備えている。さらに、水処理システム1は、周辺機器として凝集剤注入装置10を有し、砂ろ過装置3の入口直前の上流側ラインL2に凝集剤が注入されるようになっている。
【0054】
水処理システム1は、現場サイトから離れたところにある管理棟のコントロール室内に設けられた制御システム20を含むものである。制御システム20は、凝集剤注入率制御手段としてのCPU21と、関係式導出手段の構成の一部をなす入出力インターフェース22と、記録装置としてのデータベース23とを有するものである。この制御システム20により現場サイトの機器や装置が常時監視下におかれ、水処理システムにおける全体プロセスが統括的に制御されるようになっている。
【0055】
原水槽2は、海中に引き込まれた配管ラインL1を通って図示しないポンプによって汲み上げられた海水を貯留するタンクである。
【0056】
砂ろ過装置3は、ポンプP1および流量計31が取り付けられた供給ラインL2を介して原水槽2に接続されている。砂ろ過装置3は、原水槽2から送られてくる海水に含まれる異物(固形物など)をろ過して除去するための砂ろ過層を有し、下流側の機器4,5,6の負担を軽減するための前処理装置として機能する。
【0057】
流量計31は、ラインL2を通流する海水の流量を計測し、制御システム20の入力部にある入出力インターフェース22に流量検出信号S1を送るようになっている。
【0058】
原水槽2から砂ろ過装置3までの間のラインL2には凝集剤注入装置10からのラインL10が接続され、砂ろ過装置3に供給される直前の海水に凝集剤が注入されるようになっている。凝集剤の注入制御については後述する。
【0059】
第1の水質分析装置32は、海水の水質を測定して分析する機能を有しており、本実施形態ではTEPおよび濁度の2つの水質測定項目をそれぞれ計測し、その信号S2を制御システム20の入出力インターフェース22に送るようになっている。
【0060】
調整水槽4は、ラインL3を介して砂ろ過装置3から送られてきた前処理水を一時的に貯留し、凝集剤の作用により懸濁物質を沈殿させる機能を有する。調整水槽4の出口はラインL4を介して保安フィルター5に接続され、送水ポンプP2により調整水槽4から上澄み水が保安フィルター5に送られるようになっている。
【0061】
送水ポンプP2と高圧ポンプP3の間には、保安フィルター5が設置されており、逆浸透膜モジュール6の膜の目詰まりを抑制するために、ある程度粒径の大きな濁質等を取り除くようになっている。保安フィルター5の出口は高圧ラインL5を介して逆浸透膜モジュール6に接続され、高圧ポンプP3により保安フィルター5から逆浸透膜モジュール6内のRO膜に約6MPaの高圧海水が印加されるようになっている。
【0062】
逆浸透膜モジュール6の一次側は圧力回収ラインL62に連通し、ラインL62を通って高圧の濃縮海水(ブライイン)が逆浸透膜モジュール6から排出され、図示しない圧力回収装置に送られるようになっている。また、逆浸透膜モジュール6の二次側は処理水排出ラインL61に連通し、ラインL61を通って処理水(淡水)が処理水槽7に送られるようになっている。
【0063】
処理水槽7は、RO膜を透過してきた処理水(淡水)を一時的に貯留するタンクであり、出口が送水ラインL7を介して図示しない後工程の機器や装置に送水するようになっている。
【0064】
次に本実施形態の作用を説明する。
【0065】
供給ポンプP1により、砂ろ過装置3へ海水を供給して前処理を行い、一旦、調整水槽4に貯留する。その後、送水ポンプP2により高圧ポンプP3へ調整水槽4の海水を送水し、高圧ポンプP3は海水を高圧な状態(6MPa程度)まで昇圧して逆浸透膜モジュール6へ送水する。保安フィルター5は、逆浸透膜モジュール6の膜の目詰まりを抑制するために、ある程度粒径の大きな濁質等を取り除く。
【0066】
逆浸透膜モジュール6は、原水に含まれるイオンや塩類などの溶質を除去し、処理水槽7に貯留され、さらに良好な水質を得るために、もう一段逆浸透膜モジュール(図示せず)へ送水することもある。なお、逆浸透膜モジュール6で除去した溶質は濃縮水として排水される。この濃縮水は高圧であるので、エネルギー回収の観点から、動力回収装置へ送水され利用される方法が多く採用されている(図示せず)。
【0067】
前処理装置としての砂ろ過装置3と調整槽4との間のラインに第1の水質分析装置32が前処理システム後の海水の水質分析を行うために設置されている。本実施形態において、凝集剤注入率制御は2つ以上の水質分析結果を組み合わせることで最適化しているため、第1の水質分析装置32は、その用途に応じて複数台の水質分析装置が設置されてもよい。この水質分析装置32は、決められた周期で定期的に計測し、また、あるイベントが生じた際にも測定を行うようになっている。
【0068】
制御システム20は、第1の水質分析装置32からの前処理後の被処理水水質結果から凝集剤注入率を制御するものであって、例えば、水質項目xと水質項目yの2つの結果から最適な凝集剤注入率Kを求める場合、まずそれぞれの水質項目の最適値を抽出する。例えば水質項目xにおいて、最適な凝集剤注入率を図12に示すように、あるイベントが発生した際に、図13のような方法(記憶手段)に沿って、前回値などの適切な凝集剤注入率を初期値として設定して注入する。その後、自動で一定間隔n倍ずつ注入率を上げていき、水質項目xの特性曲線f(Kx)を作成して記録装置に加えていく。その際のf(Kx)において、dX / dKx = 0となる凝集剤注入率を抽出し、これを水質項目xの最適凝集剤注入率とする。ただし、図14に示すように凝集剤注入率が減少し続けた場合は、設けてある閾値に到達した時点で最適値とする。さらに、水質項目yにおいても前記手順で水質項目yにおける最適な凝集剤注入率を求める。このようにそれぞれの最適凝集剤注入率がKx(水質項目x)、Ky(水質項目y)と定まったうえで、例えば下式(1)のような関係から新たなKzを求めるものである。
【0069】
Kz= a・Kx+ b・Ky ……(1)
a:水質項目xの重み係数 、b:水質項目yの重み係数
ただし、 a + b = 1である。
【0070】
水質項目が2つより多い場合は、式(1)の代わりに下式(2)を用いて、任意のn個を選別し、n個の水質項目結果を考慮した最適な凝集剤注入率を抽出する。
【0071】
K=w1・K1 + w2・K2 + ・・・+ wn・Kn ・・・・・・(2)
供給ポンプP1と砂ろ過装置3との間のラインL10に凝集剤注入装置10が設置されている。凝集剤注入装置10は、制御システム20によって動作が制御される流量調整弁を内蔵している。
【0072】
水質分析装置32により被処理水の水質分析が行われ、その結果を、制御システム20において制御を行い、前記手順により凝集剤注入率を演算し注入率を抽出し、流量計31で測定した流量に応じて、凝集剤注入装置10から注入量の凝集剤を注入する。
【0073】
本発明は、オペレータの思考パターンと同様に前処理システム後の水質分析装置32を用いて目標値の最適値を探索したものである。
【0074】
逆浸透膜モジュール6を用いた水処理システム1では、例えば、海水を逆浸透膜モジュールに通して脱塩する前に、取水した海水中に含まれる濁度、藻類、微生物などの懸濁物質を除去するために、凝集剤を注入した後、砂ろ過装置3を用いて前処理を行う。
【0075】
本実施形態では、第1の水質分析装置32により前処理装置より下流側で海水の水質分析を行い、その結果を制御システム20において制御を行い、前記手順により凝集剤注入率を演算し注入率を抽出し、流量計31で測定した流量に応じて、凝集剤注入装置10により注入量の凝集剤を注入する。
【0076】
本実施形態の効果を説明する。
【0077】
本実施形態の水処理システム1では、溶質含有水としての海水の水質分析を行いその結果を少なくとも2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となり、また海水の水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0078】
本実施形態は、前処理システム後の被処理水の水質分析により凝集剤注入率を算出することで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することで、より厳密な凝集剤注入率を算出することができ、コスト低減が可能となる。
【0079】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10のように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、前記のように予め設定しておいた関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目AとB(問題の重大度、優先度:B>A)がある時、凝集剤注入率は水質項目Aの最適値Xと水質項目Bの最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目Bの値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0080】
本実施形態では、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0081】
(第2の実施形態)
図2を参照して第2の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0082】
本実施形態の水処理システム1Aでは、砂ろ過システム3と流量計31との間のラインL2に第2の水質分析装置33を新たに設置した点が異なる。第2の水質分析装置33は、第1の水質分析装置32と同様に、TEPおよび濁度の2つの水質測定項目を計測するようになっている。
【0083】
本実施形態の作用を説明する。
【0084】
制御システム20Aは、上流側の水質分析装置33と下流側の水質分析装置32からの被処理水水質結果から凝集剤注入率を制御するものであって、例えば、水質項目xと水質項目yの2つの結果から最適な凝集剤注入率Kを求める場合、まず前処理システム前の被処理水におけるそれぞれの水質項目の最適値を抽出する。例えば水質項目xにおいて、最適な凝集剤注入率を図12のように、あるイベントが発生した際に、図13のような記憶手段に沿って注入率を初期値として設定して、凝集剤を注入する。その後、自動で一定間隔n倍ずつ注入率を上げていき、水質項目xの特性曲線f(Kx)を作成して記録装置に加えていく。その際のf(Kx)において、dX / dKx = 0となる凝集剤注入率を抽出し、これを水質項目xの最適凝集剤注入率とする。ただし、図14のように凝集剤注入率が減少し続けた場合は、設けてある閾値に到達した時点で最適値とする。さらに、水質項目yにおいても前記手順で水質項目yにおける最適な凝集剤注入率を求める。このようにそれぞれの最適凝集剤注入率がKx(水質項目x)、Ky(水質項目y)と定まったうえで、例えば式(1)のような関係から新たなKzを求める。
【0085】
Kz= a・Kx+ b・Ky ……(1)
a:水質項目xの重み係数 、b:水質項目yの重み係数
ただし、 a + b = 1である。
【0086】
水質項目が2つより多い場合は、式(1)が式(2)となり、任意のn個を選別し、n個の水質項目結果を考慮した最適な凝集剤注入率を抽出する。
【0087】
K=w1・K1 + w2・K2 + ・・・+ wn・Kn ・・・・・・(2)
本実施形態では、オペレータの思考パターンと同様に前処理システム後の水質分析装置32を用いて目標値の最適値を探索したものである。
【0088】
逆浸透膜モジュールを用いた水処理システムでは、例えば、海水を逆浸透膜モジュールに通して脱塩する前に、取水した海水中に含まれる濁度、藻類、微生物などの懸濁物質を除去するために、凝集剤を注入した後、砂ろ過システムを用いて前処理を行う。
【0089】
本実施形態では、第2の水質分析装置33により前処理装置3よりも上流側で溶質含有水の水質分析を行い初期値を設定し、第1の水質分析装置32により前処理装置3の下流側で溶質含有水の水質分析を行い、その結果を制御システム20において制御を行い、前記手順により凝集剤注入率を演算し注入率を抽出し、流量計31で測定した流量に応じて、凝集剤注入装置10で注入量の凝集剤を注入する。
【0090】
本実施形態の効果を説明する。
【0091】
本実施形態の水処理システム1Aでは、前処理装置の上流側および下流側の海水の水質分析を行い、その結果を少なくても2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となる。また、前処理システム前の被処理水水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0092】
本実施形態では、前処理装置の下流側の海水の水質分析を行うことで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することができるので、コスト低減が可能となる。また、前処理装置より上流側の海水の水質分析を行い、その分析結果と予め記録された記憶手段により初期値を設定することにより、初期値をその時の最適な凝集剤注入率により近い値に設定できるので、注入率の最適値を抽出するまでにかかる時間の短縮と、振らせる注入量も少なくてすむので、よりコスト低減に貢献できる。
【0093】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10に示すように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、予め設定しておいた例えば式1のような関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0094】
次に図12を参照して上述の水処理システムを用いて凝集剤注入率を最適に制御するための凝集剤注入制御方法について説明する。
【0095】
水処理システムは管理棟の制御室が有人、無人にかかわらずモニタリング装置により常時監視下におかれている。このような常時監視下の水処理システムにおいて、制御システム20は水処理システム系内に何らかのイベントが発生しているか否かを判定する(工程K1)。
【0096】
水処理システム系内に何らかのイベントが発生したと判定すると、次に水質分析装置A(第2の水質分析装置)があるか否かを判定する(工程K2)。ここで水処理システムにおいて発生するイベントとは、例えば暖流の流れ込みにより取水される海水の温度が急上昇するなどのようなプロセス条件の急激な変化のことである。
【0097】
水質分析装置Aが有ると判定した場合は、海水の水質分析結果より初期値を設定し、その初期値に従う凝集剤注入率で前処理装置3により前処理する前の海水に凝集剤の注入を開始する(工程K3)。
【0098】
水質分析装置Aが無いと判定した場合は、過去の実績データのなかから同月の最適な凝集剤注入率を初期値として凝集剤の注入を開始する(工程K4)。
【0099】
次いで、凝集剤注入後の分析結果を記録手段に記録する(工程K5)。
【0100】
凝集剤注入率を初期値とは異なる数値に変えて凝集剤を注入する(工程K6)。例えば初期値よりも凝集剤を減少させる方向へ凝集剤注入率を変える
凝集剤注入後において海水の水質測定項目の分析結果を記録手段に記録する(工程K7)。
【0101】
次いで、その水質測定項目と凝集剤注入率との相関関係式に対応する特性曲線f(k)の変化率が増加するか否かを判定する(工程K8)。
【0102】
特性曲線f(k)の変化率が増加すると判定した場合は、凝集剤注入率を初期値より増加させる方向へ変化させて凝集剤を注入する(工程K9)。
【0103】
次いで、凝集剤注入後の分析結果を記録手段に記録する(工程K10)。
【0104】
前回に凝集剤注入率を変化させたのと同じ方向に凝集剤注入率をさらに変化させる(工程K11)。すなわち、凝集剤注入率を初期値より増加させる方向へさらに変化させて海水に凝集剤を注入する。
【0105】
その水質測定項目と凝集剤注入率との相関関係式に対応する特性曲線f(k)の変化率が増加するか否かを判定する(工程K12)。
【0106】
特性曲線f(k)の変化率が増加すると判定した場合は、dX/dK=0となる凝集剤注入率を水質項目Xの最適凝集剤注入率とする(工程K13)。その後に少なくとも2つの水質項目に対するそれぞれの凝集剤注入率が決定し、それらより新たに最適な凝集剤注入率をそれぞれ決定する。凝集剤注入後における海水の水質測定項目の分析結果を記録手段に記録する(工程K15)。
【0107】
特性曲線f(k)の変化率が増加しないと判定した場合は、次に特性曲線f(k)の変化率が図14に示す閾値に到達したか否かを判定する(工程K14)。この閾値は、制御目標値を決めるための判定基準となるものであり、過去の実績データを参照して設定される値である。
【0108】
特性曲線f(k)の変化率が閾値に到達したと判定した場合は、閾値を水質項目Xの最適凝集剤注入率とする(工程K16)。その後に少なくとも2つの水質項目に対するそれぞれの凝集剤注入率が決定し、それらより新たに最適な凝集剤注入率をそれぞれ決定する。凝集剤注入後における海水の水質測定項目の分析結果を記録手段に記録する(工程K17)。
【0109】
本実施形態によれば、ファウリングの要因の一つと考えられるTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物化学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0110】
(第3の実施形態)
図3を参照して第3の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0111】
本実施形態の水処理システム1Bでは、制御システム20B内にフィードバック制御手段として機能するフィードバック制御回路24を新たに設けた点が異なる。
【0112】
第1の水質分析装置32は、海水の水質を測定して分析する機能を有しており、本実施形態ではTEPおよびE260の2つの水質測定項目を計測するようになっている。
【0113】
本実施形態の作用を説明する。
【0114】
制御システム20Bは、第1の水質分析装置32からの前処理装置より下流側の海水の水質結果から凝集剤注入率を制御するものであって、例えば、水質項目xと水質項目yの2つの結果から最適な凝集剤注入率Kを求める場合、まずそれぞれの水質項目の最適値を抽出する。例えば水質項目xにおいて、最適な凝集剤注入率を図12のように、あるイベントが発生した際に、図13のような記録手段がある場合は、その記録手段に沿って凝集剤注入率を設定して、凝集剤を注入する。一方、記憶手段がない場合は、前回値などの適切な凝集剤注入率を初期値として設定して注入する。その後、自動で一定間隔n倍ずつ注入率を上げていき、水質項目xの特性曲線f(Kx)を作成して記録装置に加えていく。その際のf(Kx)において、dX / dKx = 0となる凝集剤注入率を抽出し、これを水質項目xの最適凝集剤注入率とする。ただし、図14のように凝集剤注入率が減少し続けた場合は、設けてある閾値に到達した時点で最適値とする。さらに、水質項目yにおいても前記手順で水質項目yにおける最適な凝集剤注入率を求める。このようにそれぞれの最適凝集剤注入率がKx(水質項目x)、Ky(水質項目y)と定まったうえで、例えば式(1)のような関係から新たなKzを求める。このKzを目標値として、前処理後の被処理水水質項目x及びyにおいて、フィードバック制御で補正を行い、凝集剤注入率を制御するものである。
【0115】
Kz= a・Kx+ b・Ky ……(1)
a:水質項目xの重み係数 、b:水質項目yの重み係数
ただし、 a + b = 1である。
【0116】
水質項目が2つより多い場合は、式(1)が式(2)となり、任意のn個を選別し、n個の水質項目結果を考慮した最適な凝集剤注入率を抽出する。
【0117】
K=w1・K1 + w2・K2 + ・・・+ wn・Kn ・・・・・・(2)
本実施形態では、オペレータの思考パターンと同様に前処理装置より下流側の第1の水質分析装置32を用いて目標値の最適値を探索したものである。
【0118】
逆浸透膜モジュールを用いた水処理システムでは、例えば、海水を逆浸透膜モジュールに通して脱塩する前に、取水した海水中に含まれる濁度、藻類、微生物などの懸濁物質を除去するために、凝集剤を注入した後、砂ろ過システムを用いて前処理を行う。
【0119】
本実施形態では、第1の水質分析装置32により前処理装置の下流側の水質分析を行い、その結果を制御システム20Bにおいて制御を行い、前記手順により凝集剤注入率を演算し注入率を抽出し、この値を目標値としてフィードバック制御を行い注入率を補正し、流量計31で測定した流量に応じて、凝集剤注入装置10で注入量の凝集剤を注入する。
【0120】
本実施形態の効果を説明する。
【0121】
本実施形態の水処理システム1Bでは、前処理装置の下流側の海水の水質分析を行いその結果を少なくとも2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となり、また抽出した注入率をフィードバック制御することで注入率を補正し一定に保つことができる。
【0122】
本実施形態では、前処理装置の下流側の海水の水質分析により凝集剤注入率を算出することで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することで、より厳密な凝集剤注入率を算出することができ、コスト低減が可能となる。
【0123】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10に示すように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、前記のように予め設定しておいた関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0124】
本実施形態によれば、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPやE260、あるいは植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0125】
(第4の実施形態)
図4を参照して第4の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0126】
本実施形態の水処理システム1Cでは、砂ろ過装置3と流量計31との間のラインL2に第2の水質分析装置33を新たに設置し、かつ制御システム20C内にフィードバック制御手段として機能するフィードバック制御回路24を設けた点が異なる。
【0127】
第2の水質分析装置33は、海水の水質を測定して分析する機能を有しており、本実施形態ではTEPおよびMFIの2つの水質測定項目を計測するようになっている。また、第1の水質分析装置32も同様に、TEPおよびMFIの2つの水質測定項目を計測するようになっている。
【0128】
本実施形態の作用を説明する。
【0129】
第4の実施形態は第2の実施形態に比べて、フィードバック制御手段24を新たに設置し、凝集剤注入率演算手段で抽出した注入率をフィードバック制御により補正する点が異なる。
【0130】
本実施形態の効果を説明する。
【0131】
本実施形態の水処理システム1Cでは、前処理装置の上流側および下流側で海水の水質分析をそれぞれ行い、その結果を少なくても2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0132】
本実施形態では、前処理装置の下流側で海水の水質分析を行うことで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することができるので、コスト低減が可能となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行い、その分析結果と予め記録された記憶手段により初期値を設定することにより、初期値をその時の最適な凝集剤注入率により近い値に設定できるので、注入率の最適値を抽出するまでにかかる時間の短縮と、振らせる注入量も少なくてすむので、よりコスト低減に貢献できる。このように抽出した最適な凝集剤注入率をフィードバック制御により補正し、一定に保つことが可能である。
【0133】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10に示すように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、予め設定しておいた例えば式1のような関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0134】
本発明は、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPやMFI、あるいは植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物化学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0135】
(第5の実施形態)
図5を参照して第5の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0136】
本実施形態の水処理システム1Dでは、第1の実施形態の砂ろ過装置の代わりに前処理装置として膜ろ過装置11を設置した点が異なる。膜ろ過装置11のろ過膜として、精密ろ過膜(MF膜)または限外ろ過膜(UF膜)を用いることができる。
【0137】
本実施形態の作用を説明する。
【0138】
逆浸透膜モジュールを用いた水処理システムでは、例えば、海水を逆浸透膜モジュールに通して脱塩する前に、取水した海水中に含まれる濁度、藻類、微生物などの懸濁物質を除去するために、凝集剤を注入した後、膜ろ過装置11を用いて前処理を行う。
【0139】
海水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、これに応じて適切な凝集剤注入率も変動するため、必要に応じて前記記載(課題を解決するための手段)の水質項目以外に、後段の逆浸透膜及び前処理である膜ろ過装置11の膜の差圧上昇を考慮して水質指標の補正を行うこともできる。
【0140】
本実施形態の効果を説明する。
【0141】
本実施形態の水処理システム1Dでは、海水の水質分析を行いその結果を少なくとも2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となり、また被処理水の水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0142】
本実施形態では、前処理装置の下流側の海水の水質分析により凝集剤注入率を算出することで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することで、より厳密な凝集剤注入率を算出することができ、コスト低減が可能となる。
【0143】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10のように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、前記のように予め設定しておいた関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0144】
本発明は、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0145】
(第6の実施形態)
図6を参照して第6の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0146】
本実施形態の水処理システム1Eでは、砂ろ過装置の代わりに前処理装置として膜ろ過装置11を設置し、かつ膜ろ過装置11と流量計31との間のラインL2に第2の水質分析装置33を新たに設置した点が異なる。
【0147】
本実施形態の作用を説明する。
【0148】
海水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、これに応じて適切な凝集剤注入率も変動するため、必要に応じて前記記載(課題を解決するための手段)の水質項目以外に、後段の逆浸透膜及び前処理である膜ろ過システムの膜の差圧上昇を考慮して水質指標の補正を行うこともできる。
【0149】
本実施形態の効果を説明する。
【0150】
本実施形態の水処理システム1Eでは、前処理装置の上流側および下流側の海水の水質分析をそれぞれ行い、その結果を少なくても2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0151】
本実施形態では、前処理装置の下流側の海水の水質分析を行うことで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することができるので、コスト低減が可能となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行い、その分析結果と予め記録された記憶手段により初期値を設定することにより、初期値をその時の最適な凝集剤注入率により近い値に設定できるので、注入率の最適値を抽出するまでにかかる時間の短縮と、振らせる注入量も少なくてすむので、よりコスト低減に貢献できる。
【0152】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10のように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、予め設定しておいた例えば式(1)のような関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0153】
本実施形態では、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物化学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0154】
(第7の実施形態)
図7を参照して第7の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0155】
本実施形態の水処理システム1Fでは、砂ろ過装置の代わりに前処理装置として膜ろ過装置11を設置し、かつ制御システム20C内にフィードバック制御手段として機能するフィードバック制御回路24を設けた点が異なる。
【0156】
本実施形態の作用を説明する。
【0157】
第7の実施形態は第3の実施形態に比べて、砂ろ過システム3を膜ろ過装置11に変えた点において異なる。
【0158】
海水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、これに応じて適切な凝集剤注入率も変動するため、必要に応じて前記記載(課題を解決するための手段)の水質項目以外に、後段の逆浸透膜及び前処理装置である膜ろ過装置11の膜の差圧上昇を考慮して水質指標の補正を行うこともできる。
【0159】
本実施形態の効果を説明する。
【0160】
本実施形態の水処理システム1Fでは、前処理装置の下流側の海水の水質分析を行い、その結果を少なくとも2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となり、また抽出した注入率をフィードバック制御することで注入率を補正し一定に保つことができる。
【0161】
本発明は、前処理装置の下流側の海水の水質分析により凝集剤注入率を算出することで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することで、より厳密な凝集剤注入率を算出することができ、コスト低減が可能となる。
【0162】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10のように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、前記のように予め設定しておいた関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0163】
本実施形態では、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0164】
(第8の実施形態)
図8を参照して第8の実施の形態に係る水処理システムを説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0165】
本実施形態の水処理システム1Gでは、砂ろ過装置の代わりに前処理装置として膜ろ過装置11を設置し、かつ膜ろ過装置11と流量計31との間のラインL2に第2の水質分析装置33を新たに設置し、かつ制御システム20G内にフィードバック制御手段として機能するフィードバック制御回路24を設けた点が異なる。
【0166】
本実施形態の作用を説明する。
【0167】
第8の実施形態は第5の実施形態に比べて、砂ろ過システム3を膜ろ過装置11に変えた点において異なる。
【0168】
海水の水質は時間や季節変動、さらには地理的差異があり、これに応じて適切な凝集剤注入率も変動するため、必要に応じて前記記載(課題を解決するための手段)の水質項目以外に、後段の逆浸透膜及び前処理である膜ろ過システムの膜の差圧上昇を考慮して水質指標の補正を行うこともできる。
【0169】
本実施形態の効果を説明する。
【0170】
本実施形態の水処理システム1Gでは、前処理装置の上流側および下流側の海水の水質分析をそれぞれ行い、その結果を少なくても2つ以上組み合わせて制御することで、より信頼性のある制御となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行うことにより、特定の水質に限定されることがないので幅広く応用でき、天候や地理的差異などによる水質変動にも適応できることから、凝集剤注入率の最適化を図ることが可能となる。
【0171】
本実施形態では、前処理装置の下流側の海水の水質分析を行うことで、注入した凝集剤注入率の適正を見極めることが可能であり、注入した凝集剤注入率が適当でない場合は、測定している水質項目と注入率の関係式を導き、新たな最適注入率を抽出することができるので、コスト低減が可能となる。また、前処理装置の上流側の海水の水質分析を行い、その分析結果と予め記録された記憶手段により初期値を設定することにより、初期値をその時の最適な凝集剤注入率により近い値に設定できるので、注入率の最適値を抽出するまでにかかる時間の短縮と、振らせる注入量も少なくてすむので、よりコスト低減に貢献できる。このように抽出した最適な凝集剤注入率をフィードバック制御により補正し、一定に保つことが可能である。
【0172】
図11のように1つの水質分析結果を基に凝集剤注入率を選定した場合よりも、図9と図10のように少なくとも2つ以上の水質分析結果を採用し、それぞれの水質結果に重み係数をつけ、予め設定しておいた例えば式(1)のような関係から演算を行うことで、薬品の過剰投与、コストの増加、生物増殖、などのより重大な問題を防止することができる。例えば図9のように、2つの水質分析項目A1とB1(問題の重大度、優先度:B1>A1)がある時、凝集剤注入率は水質項目A1の最適値Xと水質項目B1の最適値Yとから、予め設定しておいた関係より最適な凝集剤注入率Zを算出する。この例によると凝集剤注入率は増加するが、より重大な問題である水質項目B1の値を考慮して定めることで、水処理設備における他の問題を抑制するため、総合するとコスト低減などにつながる。さらに、図10のような場合には、凝集剤注入率を削減することができる。
【0173】
本実施形態では、ファウリングの要因の一つと考えられる例えばTEPや植物プランクトン、クロロフィルaなどの生物化学的視点からも凝集剤注入率を制御していることから、膜の目詰まりや配管における圧力損失などの問題も考慮しているので、コスト低減化を実現することができる。
【0174】
以上のように本発明によれば、被処理水の濁度、SDI、MFI、TOC、E260、生物学的視点からみたTEP量、クロロフィルa量、植物プランクトン数、蛍光強度などをそれぞれ分析し、これらの水質結果を少なくとも2つ以上組み合わせた結果を組み合わせることで、凝集剤注入率の最適化を図ることができ、特に生物学的要因物質を水質項目に加えることで、より最適な凝集剤注入率を算出することができる。
【符号の説明】
【0175】
1,1A〜1G…水処理システム、
2…原水槽、3…前処理装置(砂ろ過槽)、4…調整水槽、5…保安フィルター、
6…逆浸透膜モジュール(RO膜モジュール)、7…処理水槽、
10…凝集剤注入装置、
11…前処理装置(ろ過膜モジュール、MF膜モジュールまたはUF膜モジュール)、
20,20A,20B,20C,20D,20E,20F,20G…制御システム、
21…CPU(凝集剤注入率制御手段、関係式導出手段)、
22…入出力インターフェース(関係式導出手段)、
23…データベース(記録装置、関係式導出手段)、
24…フィードバック制御回路(フィードバック制御手段、関係式導出手段)、
31…流量計、
32…第1の水質分析装置(下流側の水質分析装置)、
33…第2の水質分析装置(上流側の水質分析装置)、
P1,P2…ポンプ、P3…ポンプ、L1〜L7,L10…ライン、
S1〜S4…信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質含有水をろ過して異物を除去する前処理装置と、
前処理された溶質含有水を膜ろ過して溶質を分離除去する逆浸透膜モジュールと、
前記前処理装置に供給される溶質含有水に対して凝集剤を注入添加する凝集剤注入装置と、
前記前処理装置よりも下流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第1の水質分析装置と、
前記水質分析装置から得られた少なくとも2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録する記録装置と、
前記透明細胞外高分子粒子の量と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記他の水室測定項目と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記少なくとも2つ以上の水質測定項目の相互間の相関関係式と、をそれぞれ導出する関係式導出手段と、
過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに前記記録装置から呼び出した前記水質分析測定結果と前記関係式導出手段により導出された前記相関関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置を制御する凝集剤注入率制御手段と、
を具備することを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
前記前処理装置が砂ろ過層を有する砂ろ過装置であり、
前記前処理装置よりも上流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第2の水質分析装置をさらに有することを特徴とする請求項1記載の水処理システム。
【請求項3】
前記第1の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載の水処理システム。
【請求項4】
前記第2の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することを特徴とする請求項2記載の水処理システム。
【請求項5】
前記前処理装置がろ過膜を有する膜ろ過装置であることを特徴とする請求項1又は3のいずれか1項記載の水処理システム。
【請求項6】
前記前処理装置よりも上流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定する第2の水質分析装置をさらに有することを特徴とする請求項5記載の水処理システム。
【請求項7】
前記第1の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することを特徴とする請求項5記載の水処理システム。
【請求項8】
前記第2の水質分析装置で得られた水質分析結果を制御目標値として設定し、設定した制御目標値を前記記録装置に記録し、記録した制御目標値を前記記録装置から呼び出し、呼び出した制御目標値を前記凝集剤注入率制御手段に送り、前記凝集剤注入率制御手段に前記制御目標値を用いて凝集剤注入率を求めさせ、求めた凝集剤注入率になるように前記凝集剤注入装置をフィードバック制御するフィードバック制御手段をさらに有することを特徴とする請求項6記載の水処理システム。
【請求項9】
前記前処理装置の上流側と下流側とにおいて溶質含有水の連続的な水質及びプラントの状態をそれぞれ計測する手段と、
凝集剤注入率を自動で変更する手段と、
処理の良否を判定する手段と、
前記凝集剤注入装置の注入開始時、水質変動時、および/またはプラントの条件を変化させた時、のようにイベントが生じた際に、適正な注入率を求める演算装置と、
をさらに有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の水処理システム。
【請求項10】
前記他の水質測定項目は、濁度、シルト・デンシティ指数(SDI)、モディファイド・ファウリング指数(MFI)、全有機炭素(TOC)量、紫外線吸光度(E260)、クロロフィルa量、植物プランクトン数、および蛍光強度からなる群のうちから選択される1つ又は2つ以上であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の水処理システム。
【請求項11】
(a)前処理装置により溶質含有水をろ過して異物を除去し、
(b)前記前処理された溶質含有水を逆浸透膜モジュールにより膜ろ過して溶質を分離除去し、
(c)前記前処理装置よりも下流側において溶質含有水の透明細胞外高分子粒子の量と少なくとも1つの他の水質測定項目とをそれぞれ測定し、
(d)測定した少なくとも2つ以上の水質測定項目を組み合わせた水質分析測定結果を記録装置に記録し、
(e)前記透明細胞外高分子粒子の量と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記他の水質測定項目と凝集剤の注入率との間の相関関係式と、前記少なくとも2つ以上の水質測定項目の相互間の相関関係式と、をそれぞれ導出し、
(f)過去の実績データから適切な凝集剤注入率の初期値を選択し、選択した初期値から凝集剤の注入を開始させ、さらに前記記録装置から呼び出した前記水質分析測定結果と前記相関関係式とを用いて凝集剤注入率を求め、求めた凝集剤注入率になるように前記前処理装置に供給される溶質含有水に対して注入される凝集剤の量を制御する、
ことを特徴とする水処理システムの凝集剤注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−170848(P2012−170848A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33440(P2011−33440)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】