説明

水処理方法

【課題】 濁度が10度以下の原水に対しても、撹拌動力が低く省エネルギーであり、高分子凝集剤を用いずに優れた凝集状態およびフロックの沈降性を得ることができ、凝集補助剤に掛かるランニングコストも低く、清澄な沈殿処理水を安定して得ることのできる水処理方法を提供すること。
【解決手段】 濁度が10度以下の原水に無機凝集剤を注入し、これらを撹拌部において撹拌翼によって撹拌してフロックを形成させ、該フロックを沈殿部で沈降分離し、沈降した該フロックをスラリとして沈殿部から撹拌部へ戻すとともに、沈殿部上部に生成した沈殿処理水を外部に取り出せるように構成された凝集沈殿装置を用いる水処理方法であって

前記原水に、更に105μm以下の粒子の重量割合が95%以上の固体粒子を添加し、
撹拌部での撹拌を前記撹拌翼の周辺速度を1m/秒以下、G値を100〜250秒−1とすることを特徴とする水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道水、工業用水などを製造する上水処理において利用できる、高速凝集沈殿処理装置を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水、工業用水などを製造する上水処理では、原水に含まれる不溶解性成分である濁度成分や藻類などの汚濁物質を凝集沈殿処理や砂ろ過などの固液分離技術で処理している。このうち、凝集沈殿処理は、不溶解性成分のみでなく、溶解性色度や溶解性有機物などの汚濁物質の除去に対しても有効な処理方法であり、広く使用されている。
【0003】
この凝集沈殿処理方法は、原水に無機凝集剤やpH調整剤を添加して原水中の汚濁物質を析出させたり、無機凝集剤から生成するフロックに汚濁物質を吸着させたりした後に、汚濁物質を含むフロックを原水から沈降分離する処理方法である。
【0004】
以前は、この凝集沈殿処理には、混和槽、フロック形成槽、沈殿槽を連続して設置し、混和槽で含水と無機凝集剤を混合し、これをフロック形成槽、沈殿槽と移しながらフロックを形成させて原水の浄化を図る、いわゆる横流式沈殿池が採用されていた。しかし、この方法は、フロックの沈殿速度が遅く、一定の原水を処理するのに広い面積が必要であるという欠点があった。
【0005】
これに対し、沈殿部の上昇流速を速くして沈殿部の設備面積を小さくする方法の一つは、高速凝集沈殿地であり、フロックの形成を既存フロックの存在下で行うことにより、凝集沈殿の効率を向上させることを目的とするものである(非特許文献1)。このものでは、混合槽で無機凝集剤と原水でフロックを形成させ、これを外側の凝集槽に溢流させて凝集槽中のフロックとさらに凝集させて大きなフロックとし、沈殿を速めるとともに、沈殿した一部のフロックは再度混合槽に戻して無機凝集剤と原水のフロック形成に寄与させることにより、フロックの凝集沈降を速める方法である。
【0006】
また、近年、別の方法としては、バラスト式超高速凝集沈殿地が知られている(特許文献1および特許文献2)。これらの水処理方法は、原水に無機凝集剤を添加、撹拌してフロックを形成した後、砂などのバラスト剤と有機性高分子凝集剤を添加することによって、フロックに砂を付着させてフロックの沈降速度を高める方法である。
【0007】
ところで、最近の河川水等を凝集沈殿処理して濁度成分等の除去を行う水処理においては、以下のような問題が生じていた。すなわち、近年の河川水の濁度は、上流にダムが建設された影響などにより昭和30年代や40年代に比べて低下しており、晴天時には10度以下となることが多く、1度前後まで低下することも珍しくない。このような濁度が低い原水に対して凝集沈殿処理を行うと、沈降性の悪いフロックが形成され、沈殿処理水濁度の悪化を招くという問題があった。これを防ぐためには、沈降性の悪いフロックを沈降させるために沈殿池の上昇流速、即ち沈殿池の水面積あたりの処理水量を下げざるを得ないという問題があった。
【0008】
特に、高速凝集沈殿地では、処理できる原水の濁度の範囲に制約があり、上記のような低い濁度の原水では、十分な水処理を行うことが難しいという欠点があった。また、特許文献1や2で示されるような、砂などのバラスト剤と高分子凝集剤を、無機凝集剤と併用するバラスト式超高速凝集沈殿地を用いる処理方法においても、濁度の低い原水を処理する場合には、無機凝集剤によるフロック形成が良好に進行せず、残留する濁度成分によって沈殿処理水濁度が上昇するという問題が生じる。砂などのバラスト剤をフロックに付着させるためには、バラスト剤を沈積させず槽内に分散させてフロックと衝突させなければならないが、バラスト剤の粒径が大きいほど大きな撹拌動力を要し、消費電力量が大きいという問題があった。また、バラスト剤を槽内に分散させることができても、バラスト剤を高分子凝集剤を用いずに無機凝集剤のフロックに付着させることは困難であるため、高分子凝集剤の使用が必須であり、その分、ランニングコストが高くなるという問題があった。更に、流入する原水に対してバラスト剤または凝集補助剤の効果を得るには、それらを常に添加し続けなければならず、運転管理の負荷及び添加に要する動力コストがかかるという問題もあった。
【0009】
一方、微細砂などの固体粒子を凝集補助剤として原水へ添加して濁度を上げ、高分子凝集剤を併用せずに凝集性を改善する方法も知られている(特許文献3および4)。しかし、この方法では、フロックに取り込まれる固体粒子の特性を見出し、これを選択使用することや、槽内に分散させて固体粒子と凝集剤とを効率よく会合させる条件を見出す必要があり、実用化には更なる検討が必要であった。また、凝集補助剤の使用は、凝集補助剤のランニングコストが生じ、更に汚泥発生量の増加による汚泥処理と処分のランニングコストを高くするという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開平01−270912
【特許文献2】特開平9−141006
【特許文献3】特開昭58−14910
【特許文献4】特開2006−7086
【非特許文献1】「水道施設設計指針 2000」、第199〜201頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、濁度が10度以下の原水に対しても、撹拌動力が低く省エネルギーであり、高分子凝集剤を用いずに優れた凝集状態およびフロックの沈降性を得ることができ、凝集補助剤に掛かるランニングコストも低く、清澄な沈殿処理水を安定して得ることのできる水処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特に、処理できる原水の濁度の範囲に制約のある高速凝集沈殿地に着目し、低濁度の原水に対する固体粒子の使用に関し検討をおこなった。そして、低濃度の原水であっても十分なフロックを形成させるためには固体粒子の粒径を小さくして単位重量あたりの表面積を大きくし、固体粒子が凝集剤と接触する面積を大きくすると共に、適切な撹拌動力で撹拌する必要があることを知った。すなわち、撹拌動力が小さいと固体粒子や固体粒子を包含したフロックが撹拌槽に沈積してしまい撹拌槽内に十分に分散せず、固体粒子と凝集剤との接触が不十分になる一方、撹拌動力が大き過ぎると動力コストの増大を招き、さらにフロックが大きく成長せずに破壊されてしまう結果、撹拌力が小さくても大きくても、結果的に沈殿処理水濁度が悪化するという問題があることを知った。
【0013】
そこで更に、高速凝集沈殿地で連続して安定に運転しながら、十分な大きさのフロックが形成しうる条件を検討したところ、原水および無機凝集剤に特定の粒子径の固体粒子を加え、これを特定の撹拌条件で撹拌することにより、沈降性の高いフロックが得られ、十分に満足のゆく処理水が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明は、濁度が10度以下の原水に無機凝集剤を注入し、これらを撹拌部において撹拌翼によって撹拌してフロックを形成させ、該フロックを沈殿部で沈降分離し、沈降した該フロックをスラリとして沈殿部から撹拌部へ戻すとともに、沈殿部上部に生成した沈殿処理水を外部に取り出せるように構成された凝集沈殿装置を用いる水処理方法であって、
(a)前記原水に、105μm以下の粒子の重量割合が95%以上の固体粒子を更に
添加し、
(b)撹拌部での撹拌を前記撹拌翼の周辺速度を1m/秒以下、G値を100〜250
−1とすること
を特徴とする水処理方法である。
【0015】
また本発明は、前記固体粒子が、前記沈殿部及び/または前記撹拌部からのスラリを液体サイクロンで処理し、該スラリから分離回収された固体粒子である前記の水処理方法である。
【0016】
更に本発明は、前記スラリに含まれる固体粒子の分離回収を、前記液体サイクロンの前段に設けた液体サイクロン原液槽に該スラリを導入してから液体サイクロンへ供給し、スラリから分離回収した固体粒子を該液体サイクロンの濃縮液側に回収するとともに、該固体粒子を分離後のスラリを該液体サイクロン原液槽へ戻す循環処理を、該液体サイクロンの濃縮液中の固体粒子の濃度が所定値に低下するまで行う前記の水処理方法である。
【0017】
更にまた本発明は、前記循環処理を、循環処理の時間に対応する濃縮液中の固体粒子の濃度を予め求め、該固体粒子の濃度が所定値になる時間まで行う前記の水処理方法である。
【0018】
また更に本発明は、前記液体サイクロンで分離回収した前記固体粒子を、で処理した後撹拌部に添加する上記の何れかの水処理方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来技術および従来技術の組合せでは得ることの出来ない以下のような効果を得ることができる。すなわち、濁度が低くて凝集性の悪い原水に対して、凝集反応を促進して良好な凝集沈殿処理を促進することができ、かつ撹拌動力が低く消費電力量を低くするという省エネルギーな凝集沈殿法を提供することができる。
【0020】
しかも、高分子凝集剤を用いることなく、凝集補助剤を循環使用できるものであるため、凝集補助剤および汚泥処分に掛かるランニングコストが低く、運転管理の負荷を低減しながら、清澄な沈殿処理水を安定して得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の水処理方法は、撹拌部に原水と無機凝集剤を導入し、ここで撹拌翼によって撹拌してフロックを形成させ、該フロックを沈殿部で沈降分離し、沈降した該フロックがスラリとして沈殿部から撹拌部へ戻るように構成された凝集沈殿装置(いわゆるスラリ循環型高速凝集沈殿装置)を用いるものである。
【0022】
この凝集沈殿装置は、隅に擂り鉢状の壁を設け、自動的にスラリが撹拌部へ戻るように構成されたものであっても、また、掻き寄せ機を設置し、機械的にスラリが撹拌部へ戻るように構成されたものであっても良い。これら装置の例としては、前記非特許文献1に記載のものを挙げることができる。
【0023】
本発明の水処理方法は、基本的には従来のものと同様であり、使用される無機凝集剤は、凝集沈殿水処理方法において使用される一般的な凝集剤であれば何れであっても良い。例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸バンドなどのアルミニウム系凝集剤、塩化第二鉄などの鉄系凝集剤、その他の無機凝集剤を用いることが可能である。なお、無機凝集剤で凝集を行いフロックを形成した後に有機性高分子凝集剤で凝集を行う場合、前者の無機凝集剤での凝集を「凝結」と称し後者の凝集を「凝集」と称する場合があるが、本発明では有機性高分子凝集剤を用いず無機凝集剤のみを用いるので、明細書中においては無機凝集剤によるものでも「凝集」と称する。
【0024】
本発明方法の特徴の一つは、無機凝集剤と原水を混合し、フロックを形成させる際に、固体粒子を添加することである。
【0025】
この固体粒子としては、比重が2.0〜4.0の範囲で、水に不溶解性の粒状物質であれば良い。具体的な固体粒子の例としては、砂、活性炭、カオリンなどが挙げられ、これらの中でも砂が好ましい。更に、主成分がSiOである珪砂がより好ましい。この固体粒子は、105μm以下の重量割合が95%以上となる粒度分布であることが重要である。
【0026】
高分子凝集剤を用いない凝集沈殿方法において、固体粒子を無機凝集剤と反応させ、フロックに速やかに取り込ませるには、比重と粒径を適切に選定する必要がある。具体的には、固体粒子の粒径が大き過ぎると単位重量あたりの表面積が小さいために、凝集剤やフロックとの接触面積が小さくなってしまい、フロックに取り込まれずに沈殿処理水へ流出したり、撹拌部に沈積してしまうという問題が生じる。また、比重が小さいと、フロックに取り込まれた後にフロック同士が合体して大きなフロックに成長しても、フロックの沈降速度が遅く、沈殿部で十分に沈降しない結果となる。一方、比重が大きい固体粒子を用いる場合は、これを原水および撹拌部に均一に分散させるために撹拌強度を大きくしなければならず撹拌動力の増加、コスト増加となる。同様、撹拌動力の増加は粒径が大きい場合にも生じる。
【0027】
しかも、固体粒子の粒径が大きかったり、比重が大きい場合は、固体粒子やフロックが撹拌部に沈積してしまうことを防ぐために撹拌力を大きくすることが必要になるが、そうすると、フロックが剪断されて微細になってしまい、沈殿部で沈降し得るフロックが得られないという問題も生じる。
【0028】
このようなことから、本発明方法で用いる固体粒子は、単位重量あたりの表面積が大きく、凝集剤およびフロックと接触する面積が大きいものが好ましく、このようなものを選択することで反応効率を高めているのである。
【0029】
また、本発明の別の特徴は、上記粒径の固体粒子を、フロックあるいは無機凝集剤と反応させる際の撹拌力を適切に調整することである。
【0030】
この撹拌力は、具体的にはG値が100〜250秒−1で、撹拌翼周辺速度1m/秒以下に調整されるが、これによって、撹拌部に固体粒子やフロックを沈積させず、フロックを剪断せず、動力コストを低く抑えるということが可能となる。この撹拌を行う撹拌翼としては、剪断作用と吐出作用を兼ね備えたディスクタービン翼がよく、ディスクの下方のみに翼板が垂直に取り付いた平タービン翼がより好ましい。なお、ここでG値および撹拌翼周辺速度は、撹拌部の撹拌翼についての値である。G値は100〜150秒−1がより好ましい。
【0031】
ここでG値は以下のように定義される値である(日本水道協会 水道施設設計指針2000 P188)。
【数1】

P:単位時間単位体積あたりの仕事量 [J/(m・s)]
μ: 粘性係数 [kg/(m・s)]
G : 速度勾配 [1/s]
但し、Pは、下式から求められる。
【0032】
【数2】

W : 動力 [J/s]
n : 撹拌翼の回転数 [1/s]
T : 撹拌翼にかかるトルク [Nm]
V : 槽容積 [m
【0033】
ところで、原水の濁度が低い場合、混和池での凝集反応を促進する方法として、特許文献3に示されているような凝集補助剤(凝集助剤とも言う)を原水に添加する方法が知られている。原水の濁質は凝集反応の核になるため、凝集補助剤を加え、原水の濁度を高めることで凝集反応が促進される。
【0034】
濁度が低い原水に対して、砂などの凝集補助剤を添加して凝集反応を促進する場合、凝集補助剤の添加を中断すると、中断直後から凝集反応の促進が行われなくなる。このため、原水の濁質がフロックに十分に取り込まれない状態や、凝集反応が十分に進行しない状態の水が沈殿部へ流入し、沈殿処理水の水質悪化を招くことがある。一方、バラスト剤を添加してフロックの沈降速度を速める場合、バラスト剤の添加を中断すると中断直後からバラスト剤を含まないフロックが形成される。このため、沈降速度の遅いフロックが沈殿部へ流入して沈殿処理水の水質悪化を招く。
【0035】
これに対し本発明方法で用いるスラリ循環型高速凝集沈殿装置では、沈殿部の固体粒子包含スラリを常に撹拌部へ返送し、撹拌部と沈殿部を循環させている。このため、固体粒子の添加を中断しても、固体粒子を含むスラリが存在するため、処理性能は低下しない。そして、処理の継続に伴って装置内の汚泥量が増加するので排泥を行い、排泥とともに固体粒子が排出され、循環している固体粒子量は減少するが、凝集沈殿処理性能が保持される範囲でスラリが固体粒子を包含していれば固体粒子を連続添加する必要はなく、間欠的に固体粒子を補充すればよい。
【0036】
よって、本発明方法では固体粒子の添加を厳密に管理する必要はなく、簡易な運転管理で清澄な沈殿処理水を安定して得ることができる。
【0037】
本発明には、掻き寄せ機を持たないスラリ循環型高速凝集沈殿装置を採用することによって、沈殿部から撹拌部へ固体粒子包含スラリを返送するためにポンプなどの設備および動力を要しない方法も含む。この方法では、撹拌翼は撹拌翼中央から槽周部へ向かう水平方向の噴出水流を形成する構造を有し、撹拌翼からの噴出水流によって撹拌部からその上部のフロック形成部経由で沈殿部へ原水量を超える水量が流れる。原水量を超える分の水量は沈殿部から撹拌部へ固体粒子包含スラリとなって自然に返送される。
【0038】
本発明の更に別の特徴としては、固体粒子の循環利用を挙げることができる。すなわち、有機性高分子凝集剤を用いずに固体粒子をフロックに素早く取り込ませ、かつ固体粒子の沈積を防止するためには、固体粒子として上記したような粒径の細かい粒子が適している。しかし、粒径の細かい粒子をフロックから高い収率で分離回収することは難しく、固体粒子が排泥とともに排出され、汚泥処理系で処分されることになるが、その場合は、固体粒子にかかるランニングコストと廃棄物増加のランニングコストの双方の増加を招く結果となる。
【0039】
これに対し本発明では、液体サイクロンを用いて固体粒子を排泥から分離回収して再利用することが可能となる。
【0040】
すなわち、本発明においては、固体粒子として粒径105μm以下が重量割合で95%以上となる粒度分布のものを選定しており、このような細かい物質を液体サイクロン処理で効率的に回収することは難しい。そこでまず、排泥を液体サイクロンで処理する場合、液体サイクロン流入液のSS濃度が高すぎると液体サイクロンの閉塞を生じ易くなるので、液体サイクロン流入液のSS濃度を15w/V%(150,000mg/L)を越えないように管理し、必要に応じて排泥を希釈して液体サイクロン処理することで、上記問題を回避できる。
【0041】
また、本発明では、沈殿部または撹拌部から排出する排泥を一旦液体サイクロン原液槽へ受け入れた後、ポンプによって排泥を液体サイクロンに通水する。液体サイクロンから排出されるスラリを液体サイクロン原液槽へ返送し、分離した固体粒子は固体粒子貯留槽へ受ける。液体サイクロン原液槽の排泥を液体サイクロンに循環通水することによって固体粒子の回収率を向上させることが可能になる。
【0042】
この循環処理によって排泥中の固体粒子濃度は低下するので、一定濃度以下に達した時点で排泥からの固体粒子回収処理を終了する。液体サイクロン処理において固体粒子の多くは排泥側ではなく濃縮液側へ分離されるため、濃縮液の固体粒子濃度は排泥よりも高くなる。よって固体粒子濃度の測定は濃縮液を対象に行った方が試料量が少なくてよく、測定の処理も簡易に行うことができる。このような理由により、この固体粒子濃度の測定は、排泥中に低濃度で存在する固体粒子量を測定するよりも、液体サイクロンから分離されて固体粒子貯留槽へ流入する固体粒子濃度を測定することが容易であるので、これを測定することが好ましい。また、処理対象排泥量と液体サイクロン処理液量とから、予め固体粒子回収率が所定の値に達するまでの時間を確認しておき、処理時間に基づいて処理の終了を判断しても良い。
【0043】
固体粒子を包含している排泥から固体粒子を回収する場合、固体粒子からフロックを物理的に剥離しても、固体粒子表面にはフロックが完全には除去されておらず付着していることがある。このようなフロックが付着した固体粒子は、フロックが付着していない固体粒子に比べ、凝集剤との反応性が低い。このため、このような固体粒子を撹拌部に添加しても、フロックに取り込まれないまま沈殿部へ流下して沈殿処理水へ流出する危険がある。
【0044】
そこで本発明では、液体サイクロンで分離回収した固体粒子を再利用するに際して、表面に付着しているフロックを処理、除去する手段を併用することが好ましい。
【0045】
固体粒子の再利用にあたって用いられる手段としては、浄水場のpH調整剤として使用される酸である硫酸や炭酸の溶液が望ましい。そして、沈殿部から排出した排泥に酸を添加するとフロックを溶解するために大量の酸が必要になるので、液体サイクロンで排泥から分離された固体粒子へ酸を添加することが望ましい。分離した固体粒子にもフロックは混在しているが、混在するフロックを完全に溶解する必要はないため、使用する酸の量も少なくてよく経済的である。更に、固体粒子の表面にフロックが強固に固着してしまうことを防止する観点から、アルミニウム系凝集剤の場合、pHをフロックの溶解が増加するpH6以下にすればよく、pH5〜6に調整することがより好ましい。具体的な方法としては、スラリを液体サイクロンで処理して得られる固体粒子を、固体粒子貯留槽へ受け入れた後、固体粒子貯留槽内のpHを5〜6になるように槽内を撹拌しながら酸を添加すれば良い。pHを所定の値に保つ時間は長く必要なく、5分以上であればよい。
【0046】
また、酸添加処理後の酸性液を撹拌部でのpH調整剤として用いることも可能である。この際、酸性液から固体粒子を分離して用いる必要はなく、固体粒子を含んだままの酸性スラリとして添加することもできる。
【0047】
なお、浄水処理においてアルミニウム系凝集剤を用いた場合、凝集時のpHが7.5を越えるとアルミニウムはアルミン酸イオン(AlO)として溶解し、濃度が急激に増加することが知られている(例えば、藤田賢二著;水処理薬品ハンドブック(2003) の図−2.1.3など)。浄水処理においては、水道水質基準におけるアルミニウム及びその化合物基準値はアルミニウムとして0.2mg/L以下であり、pHが7.5を越える場合にはAlOとして溶解するアルミニウム濃度が増加するために基準値を逸脱する可能性が高くなる。
【0048】
この対策として、凝集処理、特に撹拌部或いはその上流で酸を添加してpHを低減することが有効であるが、本発明で行う処理後の酸性液を撹拌部でのpH調整剤として用いる方法は、原水の低濁度対策とpH低減対策を併せて行うことができる。更に、固体粒子に付着していたフロックが酸で溶解されて再び添加されることから、凝集剤添加率を低減する効果もある。
【0049】
次に本発明の実施形態のいくつかを、図面を用いてより具体的に説明する。なおこれは本発明の実施の形態を例示的に説明するためのものであって、本発明の態様をこれに限定することを意図したものではないことはいうまでもない。
【0050】
図1は、スラリ循環型高速凝集沈殿装置を用いた本発明水処理方法の一実施態様を示す模式図である。本図において、1は凝集沈殿装置(スラリ循環型高速凝集沈殿装置)、2は原水、3は撹拌モーター、4は沈殿部、5は沈殿処理水、6は無機凝集剤、7は固体粒子、8は排泥、9は液体サイクロン原液槽をそれぞれ示す。また、10は排泥移送ポンプ、11は液体サイクロン、12は固体粒子貯留槽、13は固体粒子移送ポンプ、14は液体サイクロン処理汚泥を示し、15は撹拌部、16はフロック形成部、17は撹拌翼、18は擂り鉢状部、22は外側ドラフトチューブ、23は内側ドラフトチューブ、28はスラリ界面、29はスラリブランケットを示す。また、Aはフロック形成部から沈殿部へ溢出するスラリ(以下、「溢出スラリ流」という)を、Bは沈殿部から撹拌部へ流入するスラリ(以下、「流入スラリ流」という)を示す。
【0051】
本態様においては、無機凝集剤6は、原水2の装置への流入前に添加され、その後に凝集沈殿装置1の撹拌部15へ流入する。撹拌部15では、撹拌モーター3によって駆動する撹拌翼17によって原水2、沈殿部4からの流入スラリ流Bが撹拌されており、ここへ固体粒子7を添加し、原水2に添加した無機凝集剤6による凝集を起こさせる。生成するフロックは固体粒子7を包含した状態で、撹拌翼17の回転による上昇力で、フロック形成部16に引き上げられ、更に沈殿部4へ流入する溢出スラリ流Aとなり、沈殿部4へ流入する。撹拌部15で生成したフロックは、内側ドラフトチューブ23で囲まれたフロック形成部16を緩やかに水流撹拌されながら上昇し、その後、外側ドラフトチューブ22と内側ドラフトチューブ23の隙間を通過して沈殿部4へ流下する。フロック形成部16と該隙間はどちらも、撹拌部15で形成したフロック同士を合体させて大きく成長させるために存在し、フロック形成部16ではフロックが沈降しない程度の撹拌を行う。この撹拌は撹拌部15での撹拌より弱く、撹拌部15から撹拌翼17によって噴出される水流による撹拌でよく、別の撹拌翼を設けて撹拌しても良い。
【0052】
フロック形成部16でより大きく凝集したスラリは、撹拌部15から次々上昇してくるフロックにより、内側ドラフトチューブ23の上部から溢流し、フロック形成部16から沈殿部4へ向かう下降流となり、沈殿部4の底部へ向かって流入する。沈殿部4では、処理水5の上昇流速とつり合う終端速度のフロックが、スラリブランケット29を形成しており、スラリブランケット29を通過して清澄化された水は、スラリ界面28を経て上部へ流れ沈殿処理水5として外部へ流出する。一方、沈殿部4へで沈降するスラリは、更に沈殿部から撹拌部への流入スラリ流Bとなり、撹拌部15へ戻る。
【0053】
撹拌部15からフロック形成部16へ流れる水量は、撹拌部15へ原水2が流入する水量よりも大きいが、これは撹拌翼17による水の噴出し作用によるものである。このため、フロック形成部16から沈殿部4へ流れる水量の一部は、沈殿部4の底部において撹拌部15へ吸込まれる。この沈殿部4の底部における撹拌部15への流れが流入スラリ流Bであり、沈殿部4の底部のスラリは、ポンプなどの流体移送手段を用いることなく撹拌部15へ返送される。
【0054】
上記した水処理に伴って装置内の汚泥総量が増加した時点で、増加分を沈殿部4の下部から排泥8として液体サイクロン原液槽9へ排出する。排泥8は、固体粒子7を包含しており、それらの混合スラリを排泥移送ポンプ10で液体サイクロン11へ導出し、液体サイクロン処理汚泥14と固体粒子7に分離する。固体粒子7は、固体粒子貯留槽12に貯留され、必要により酸溶液20により、フロックの除去を行うことができる。そして、必要に応じて固体粒子移送ポンプ13によって撹拌部15へ注入される。
【0055】
本態様において使用する固体粒子7は、前記の通り、粒度分布が105μm以下の重量割合が95%以上のものであり、更に10μm以下の重量割合が30%以下であって、比重が2.0以上かつ4.0以下が好ましい。固体粒子7の材質は溶出物が極力少ない材質とすべきであり、具体的には珪砂などが挙げられる。また固体粒子貯留槽12では、必要に応じて酸溶液20を添加して固体粒子7の表面に付着した無機凝集剤6由来のフロックを溶解除去することが可能である。ここで使用する酸溶液としては、硫酸、炭酸等の溶液を挙げることができる。また、固体粒子7の補充は、固体粒子貯留槽12へ行うことが出来る。
【0056】
固体粒子貯留槽12から固体粒子移送ポンプ13を介して撹拌部15へ固体粒子7を間欠注入する場合、注入停止時には固体粒子7を含む液がこの配管内に残留することになる。この固体粒子7の配管内での沈積・固着を防止するためには、注入停止に併せて配管内をフラッシングすればよい。フラッシングに用いる水としては、沈殿処理水でもよく、汚泥処理からの返送水でもよい。
【0057】
本実施形態では、沈殿部4から返送された流入スラリB、原水2および無機凝集剤6と、固体粒子7が撹拌部15において撹拌翼17の撹拌力によって混合され、凝集反応が行われる。しかし、固体粒子7の粒径が大きい場合、凝集反応によって生成するフロックは沈殿部4から返送されたスラリと固体粒子7を包含して沈降性が増す。このため、撹拌部15の撹拌を強力に行わなければ、フロックおよび固体粒子7が撹拌部15に沈積してしまい処理不良を招く。このため、本実施形態では、固体粒子7の粒度分布を105μm以下の粒子の重量割合が95%以上とすることによって、G値が100〜250秒−1かつ撹拌翼17の周辺速度が1m/秒以下の弱い撹拌で、フロックおよび固体粒子7が撹拌部15に沈積することを抑制している。
【0058】
また本態様では、沈殿部4のスラリは沈殿部から撹拌部への流入スラリ流Bとなり撹拌部15へ返送され、返送のためにポンプなどの流体移送手段を用いる必要がない。返送されるスラリは固体粒子7を包含しているため、固体粒子7を常時注入する必要はなく、スラリが包含している固体粒子7の濃度が低下した時点で注入を行えばよい。
【0059】
図2は、図1とは別のタイプである掻き寄せ機付きスラリ循環型高速凝集沈殿装置への本発明方法の適用態様を模式的に示す図面である。図中、19は掻き寄せ機を、21は底部ピットを示し、他の数字は、図1と同じである。
【0060】
本態様においては、無機凝集剤6が混和された原水2は、撹拌部15へ中央低部から流入される。また、沈殿部4の底部に堆積するスラリは、掻き寄せ機19によって撹拌部15へ戻される。撹拌部15の底部ピット21に溜まるスラリは、排泥8としてを排出する。この底部ピット21からの排泥8は、一旦液体サイクロン原液槽9に貯留された後、排泥移送ポンプ10を介して液体サイクロン11へ送られ、ここで排泥8は、固体粒子7と液体サイクロン処理汚泥14とに分離される。そして、固体粒子7は固体粒子貯留槽12で貯留され、図1の態様と同様、必要に応じて撹拌部15へ添加される。
【0061】
本実施態様では、沈殿部4のスラリを撹拌部15へ戻すために、掻き寄せ機19を用いている点に特徴があり、水流のみでは撹拌部15へ返送されないスラリを確実に返送することが可能である。このことによって、図1の実施態様で必要になる沈殿部4の底部に擂鉢状部18を設ける必要がなく、沈殿部4を大きくし、ひいては装置の大型化が可能である。
【0062】
図3は、図1のスラリ循環型高速凝集沈殿装置において、固体粒子貯留槽12を省いた簡易型の実施態様のものである。この態様では、液体サイクロン11で分離した固体粒子7を貯留せず、すぐに撹拌部15へ添加する形態である。この固体粒子7を包含するフロック(排泥8)は液体サイクロン原液槽9に貯留し、必要に応じて液体サイクロン11で処理を行って添加する。液体サイクロン原液槽9に十分な量の排泥8を貯留している場合は、排泥8の一部は廃棄排泥8bとして固体粒子7を包含したままで汚泥処理設備(図なし)へ排出する。
【0063】
この態様の装置では、液体サイクロン11で分離回収した固体粒子7をすぐに撹拌部15へ注入するものであるため、固体粒子貯留槽12と固体粒子移送ポンプ13を設ける必要がない。また、分離回収した固体粒子7を一旦貯留する場合には、固体粒子貯留槽内12での固体粒子7の沈積を防止するためには撹拌を行う必要があるが、固体粒子7を貯留しない本態様ではそのような撹拌が不要になり、撹拌動力を要しないという利点がある。
【0064】
図4は、図1のスラリ循環型高速凝集沈殿装置において、液体サイクロン原液槽9を省いた簡易型の実施態様のものである。この態様では、排泥8は貯留せず、沈殿部4からの排出後すぐに液体サイクロン11で固体粒子7を排泥8から分離回収する態様である。分離回収後の固体粒子7は固体粒子貯留槽12へ貯留し、必要に応じて撹拌部15へ添加する。
【0065】
この態様では、排泥8を貯留するための液体サイクロン原液槽9が存在しないため、液体サイクロン原液槽9内での排泥8の沈積を防止するための撹拌が不要になり、撹拌動力を要しないという利点がある。
【0066】
図5は、1台の液体サイクロン11を用いながら、固体粒子7の回収率を向上させるシステムの実施態様を示すもので、沈殿部4からの排泥8から、固形粒子7を撹拌部15に戻す間の構成のみを示している。図中、26は液体サイクロン流入弁、27は液体サイクロン流出弁を示す。
【0067】
この態様は、1台の液体サイクロン11で、排泥8を二段処理する形態である。すなわち、排泥8をまず、第1液体サイクロン原液槽9aに受け、2つの液体サイクロン流入弁26のうち、26aを開、26bを閉とし、2つの液体サイクロン流出弁27のうち、27aを開、27bを閉とする。この状態で、排泥移送ポンプ10を作動させ、排泥8を液体サイクロン11に圧送する。この工程で分離された固形粒子7は、固体粒子貯留槽12に送られ、排出される液体サイクロン処理汚泥14は、第2液体サイクロン原液槽9bで受ける。その後、液体サイクロン流入弁26aを閉、液体サイクロン流入弁26bを開、液体サイクロン流出弁27aを閉、液体サイクロン流出弁27bを開とし、排泥移送ポンプ10を作動させて、第2液体サイクロン原液槽9bから液体サイクロン処理汚泥14を液体サイクロン11に圧送する。この工程で分離された固形粒子7は、固体粒子貯留槽12に送られて貯留され、排出される液体サイクロン処理汚泥14bは汚泥処理設備(図示せず)へ排出する。
【0068】
本実施態様を採用することにより、排泥8からの固体粒子7の回収率を高くすることが可能である。すなわち、固体粒子7を包含する排泥8を、液体サイクロン11に1回通して得られる固体粒子7の回収率は、固体粒子7の粒径が大きいほど高いことが知られている。本発明で用いる固体粒子7のように粒径が小さい場合には、液体サイクロン11での回収率が低下し、1回の処理では分離されない固体粒子7が、液体サイクロン処理汚泥14へ流出してしまう。しかし、本実施態様のように、分離されなかった固体粒子7を含む液体サイクロン処理汚泥14を第2液体サイクロン原液槽9bへ一旦回収し、再び液体サイクロン11での処理を行うことによって、固体粒子7の回収率が向上し、新規に注入する固体粒子7に掛かるコストを抑制することが可能である。
【0069】
上記のような効果は、液体サイクロン11を2台使用し、1回目の処理と2回目の処理をそれぞれ別の2台の液体サイクロン11で行うことが可能であるが、本実施形態のように、複数の液体サイクロン流入弁26および液体サイクロン流出弁27を使い分けることにより、サイクロン11と排泥移送ポンプ10を共有することが可能になり、設備の削減、装置の省スペース化が可能になる。
【0070】
図6は、1台の液体サイクロン11で排泥8を循環処理することにより、固体粒子7の回収率を向上させるシステムの実施態様を示すもので、図5と同様、沈殿部4からの排泥8から、固形粒子7を撹拌部15に戻す間の構成のみを示している。
【0071】
この態様では、2つの液体サイクロン流出弁27のうち、27aを開、27bを閉とした状態で、液体サイクロン原液槽中の排泥8を、液体サイクロン11に圧送する。この工程で分離された固形粒子7は、固体粒子貯留槽12に送られ貯留されるが、液体サイクロン処理汚泥14は、最初の液体サイクロン原液槽9に戻り、再び液体サイクロン11へ圧送され、循環処理が行われる。再度の液体サイクロン11処理で分離回収された固体粒子7は、固体粒子貯留槽12に貯留され、液体サイクロン処理汚泥14は、再度最初の液体サイクロン原液槽9に戻り、再び液体サイクロン11へ圧送され、処理される。この操作を繰り返し、液体サイクロン処理汚泥14に含まれる7固体粒子の濃度が低減した後、液体サイクロン流出弁27bを開、液体サイクロン流出弁27aを閉として液体サイクロン処理汚泥14bを排出する。
【0072】
本態様では、液体サイクロン11での処理時間と液体サイクロン処理汚泥14に含まれる固体粒子7の濃度との関係を予め確認しておいたり、液体サイクロン11での処理時間と液体サイクロン11から固体粒子貯留槽12へ分離回収されるスラリに含まれる固体粒子7の濃度との関係を予め確認しておけば、液体サイクロン処理汚泥14に含まれる固体粒子7の濃度をその都度測定する必要はない。すなわち、液体サイクロン処理汚泥14に含まれる固体粒子7の濃度または分離回収されるスラリに含まれる固体粒子7の濃度が所定の目標値以下になるまで、予め求めた処理時間との関係に基づいて処理を所定時間継続すれば良く、所定時間処理した後に液体サイクロン流出弁27aと27bの開閉切替を行うことで、適切に循環処理が可能となる。
【0073】
なお、液体サイクロン11での処理時間と液体サイクロン処理汚泥14に含まれる固体粒子7の濃度との関係は、液体サイクロン原液槽内9の排泥量によって異なる。このため、液体サイクロン原液槽9内の排泥量ごとに、前記の関係を確認しておくことが望ましい。また、液体サイクロン原液槽9内の排泥が、液体サイクロン11を循環する見かけの循環回数と液体サイクロン処理汚泥14に含まれる固体粒子7の濃度との関係を予め確認しておき、固体粒子7の濃度が目標値以下になるまでの循環回数に対応する時間まで処理することも可能である。液体サイクロン原液槽9内の排泥が、液体サイクロン11を循環する見かけの回数は、液体サイクロン原液槽9内の排泥量V、液体サイクロン11の処理流量υ、処理時間tによって決まり、υt/Vで表される。この場合、液体サイクロン原液槽9内の排泥量が任意の値でも処理時間を決めることが可能である。
【0074】
本実施態様のように液体サイクロン11で循環処理することによって、固体粒子7の回収率の向上が可能であり、更に設備の削減、装置の省スペース化が可能になる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0076】
実 施 例 1
図7に示す実験装置を用い、本発明方法を実施した。実験装置の仕様と運転条件を表1に示す。なお、原水としては水道水にカオリンを添加した人工原水であり、濁度を3度に調整して用いた。また、無機凝集剤としてはPAC(ポリ塩化アルミニウム)を用い、固体粒子としては、粒径が105μm以下の重量割合が97%、80%、56%の3通りの珪砂を用いて試験を行った。撹拌動力は、撹拌機モーターに取り付けたトルク計の値から算出した。実験装置で用いた撹拌翼は、ディスクタービン翼であり、ディスクの下方のみに翼板が垂直に取り付いた平タービン翼を用いた。この実験結果は表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
この結果から明らかなように、いずれの処理条件でも沈殿処理水の濁度に有意な差はなく0.7度未満を得ることができた。砂の粒径105μm以下の割合が97%である実施例1、実施例2および比較例1を比べると、いずれの処理でも砂またはフロックの沈積が生じていない。よって、撹拌は、撹拌翼の周辺速度0.63m/秒、撹拌部のG値は175秒−1で十分であり、G値が310分−1では無駄に撹拌動力を消費することになる。
【0080】
一方、実施例1、比較例2および比較例5を比べると、砂粒径105μm以下の割合が少なくなるに従い、即ち粒径が大きくなるに従い、砂および砂含有フロックが撹拌部に沈積し易くなる。このことは、砂およびフロックの沈積を防止するには、粒径が大きい砂を用いるほど大きな撹拌動力が必要になることを意味する。
【0081】
撹拌部またはフロック形成部に砂やフロックが沈積すると、撹拌が不均一になり、そのまま放置すると沈殿処理水の水質悪化を招く。よって、砂添加時には、撹拌部またはフロック形成部への沈積が生じないように運転することが重要である。
【0082】
以上の結果より、添加する砂の粒径を適切に選定し、撹拌部のG値と撹拌翼の周辺速度を低く抑えることで、撹拌動力を低く抑えた省エネルギー運転が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、濁度が低くて凝集性の悪い原水に対して、高速凝集沈殿装置であっても十分な水処理を行うことができる。
【0084】
そして、この高速凝集沈殿法は、余分な高分子凝集剤を必要とせず、撹拌動力が少なく、消費電力量を低いものであるため、省エネルギーであり、かつ経済的な水処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】スラリ循環型高速凝集沈殿装置を用いた本発明方法の一態様を示す模式図である。
【図2】掻き寄せ機付きスラリ循環型高速凝集沈殿装置を用いた本発明方法の一態様を示す模式図である。
【図3】固体粒子貯留槽を省いた、簡易型のスラリ循環型高速凝集沈殿装置を用いた本発明方法の一態様を示す模式図である。
【図4】液体サイクロン原液槽を省いた、簡易型のスラリ循環型高速凝集沈殿装置を用いた本発明方法の一態様を示す模式図である。
【図5】1つの液体サイクロンで、排泥を二段処理する態様を示す模式図である。
【図6】1つの液体サイクロンで、排泥を循環処理する態様を示す模式図である。
【図7】実施例1で用いた実験装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0086】
1 … … 凝集沈殿装置
2 … … 原水
3 … … 撹拌モーター
4 … … 沈殿部
5 … … 沈殿処理水
6 … … 無機凝集剤
7 … … 固体粒子
8 … … 排泥
9 … … 液体サイクロン原液槽
10 … … 排泥移送ポンプ
11 … … 液体サイクロン
12 … … 固体粒子貯留槽
13 … … 固体粒子移送ポンプ
14 … … 液体サイクロン処理汚泥
15 … … 撹拌部
16 … … フロック形成部
17 … … 撹拌翼
18 … … 擂り鉢状部
19 … … 掻き寄せ機
20 … … 酸溶液
21 … … 底部ピット
22 … … 外側ドラフトチューブ
23 … … 内側ドラフトチューブ
24 … … トルク計
25 … … センターウエル
26 … … 液体サイクロン流入弁
27 … … 液体サイクロン流出弁
28 … … スラリ界面
29 … … スラリブランケット
A … … フロック形成部から沈殿部へ溢流するスラリ流
B … … 沈殿部から撹拌部へ流入するスラリ流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁度が10度以下の原水に無機凝集剤を注入し、これらを撹拌部において撹拌翼によって撹拌してフロックを形成させ、該フロックを沈殿部で沈降分離し、沈降した該フロックをスラリとして沈殿部から撹拌部へ戻すとともに、沈殿部上部に生成した沈殿処理水を外部に取り出せるように構成された凝集沈殿装置を用いる水処理方法であって、
(a)前記原水に、105μm以下の粒子の重量割合が95%以上の固体粒子を更に
添加し、
(b)撹拌部での撹拌を前記撹拌翼の周辺速度を1m/秒以下、G値を100〜250
−1とすること
を特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記固体粒子が、前記沈殿部及び/または前記撹拌部からのスラリを液体サイクロンで処理し、該スラリから分離回収された固体粒子である請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記スラリに含まれる固体粒子の分離回収を、前記液体サイクロンの前段に設けた液体サイクロン原液槽に該スラリを導入してから液体サイクロンへ供給し、スラリから分離回収した固体粒子を該液体サイクロンの濃縮液側に回収するとともに、該固体粒子を分離後のスラリを該液体サイクロン原液槽へ戻す循環処理を、該液体サイクロンの濃縮液中の固体粒子の濃度が所定値に低下するまで行う請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記循環処理を、循環処理の時間に対応する濃縮液中の固体粒子の濃度を予め求め、該固体粒子の濃度が所定値になる時間まで行う請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記液体サイクロンで分離回収した前記固体粒子を、酸溶液で処理した後、撹拌部に添加する請求項2ないし4の何れかに記載の水処理方法。
【請求項6】
酸溶液が硫酸または炭酸の溶液である請求項5に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−247957(P2009−247957A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97305(P2008−97305)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(308024395)荏原環境プラント株式会社 (8)
【Fターム(参考)】