説明

水処理装置

【課題】水の連続浄化を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量有害有機物質を高効率且つ安定に除去することができる処理装置を提供することを課題とするものである。
【解決手段】有機物質を含有する水から有機物質を吸着除去して水を浄化する装置であって、有機物質を含有する水を、活性炭素繊維を含む吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通気させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程とを、交互に行うことを特徴とする水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質を含有する水から有機物質を除去して浄化する装置に関し、特に各種工場、研究施設等から排出される有機溶剤等の有機物質を含有した産業排水の浄化に用いられる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有害有機物質を水から除去して浄化する装置としては、活性炭等の吸着材を用いた交換式吸着装置が広く用いられている。すなわち、活性炭等の吸着材を充填した槽に有機物質を含有した水を通流させ、吸着材により水中の有害有機物質を効率的に除去する事ができるシンプルな処理装置である。
【0003】
しかしながら、交換式吸着装置は有害有機物質を一定時間吸着し続け、吸着材の吸着能力が飽和に達すれば、新品への交換、もしくは一度装置から吸着材を取り出して再生が必要となって連続浄化ができず、更に、水の浄化は、空気の浄化と異なり、微生物の繁殖が不可避であり、吸着材の寿命を縮めることもあって、交換および再生への労力、コスト増大が問題であった。
かかる問題を解決するために、多量の吸着材を用いることで、交換周期を延長させる事も考えられるが、装置の大型化、設備投資が不可避となる。また、吸着材である活性炭の表面を適度に疎水化させる等の吸着能力を向上させることも検討されているが(例えば特許文献1参照)、微量の有害物質を除去するには有効であっても、多量の有害有機物質を高効率で処理する事が要請される場合には根本的な解決手段にはなっておらず、特に研究所や工場等で用いる場合に満足できるものではなかった。
また、従来の浄化装置では、吸着材使用開始時と使用終了前(吸着材取替え直前)では有害物質吸着性能が変化しており、安定に浄化処理する事ができないという問題点も有していた。
【0004】
【特許文献1】特開平9−77508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、水の連続浄化を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量有害有機物質を高効率且つ安定に除去することができる処理装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来技術の課題を解決するため、鋭意検討した結果、ついに本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の通りである。
1.有機物質を含有する水から有機物質を吸着除去して水を浄化する装置であって、有機物質を含有する水を、活性炭素繊維を含む吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通気させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程とを、交互に行うことを特徴とする水処理装置。
2.有機物質を含有する水を、活性炭素繊維を含む吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通流させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程の間に、ガスの通流により吸着素子内の水を除去するパージ工程を有することを特徴とする上記1記載の水処理装置。
3.前記ガスの通流により吸着素子内の水を除去するパージ工程にて発生した水を水処理装置の入口に戻すように構成されていることを特徴とする上記1または2に記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明による水処理装置は、多量の有害有機物質を高い効率で連続的に除去する事ができ、基本的に吸着材の交換の必要が無いため、低コストで、安定に、高い能力で水中の有害有機物質を除去する事ができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明にかかる水処理装置は、有機物質を含有する水を吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程設備と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通流させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程設備を備え、かかる工程を交互に行う水処理装置であることが好ましい。かかる構造を採用する事により、処理を連続的に行うことができるからである。
【0009】
より好ましい装置の構造としては、吸着素子が幾つかに分割されており、それらの吸着工程と脱着工程をダンパー等にて切替操作を行い、吸着と脱着を連続的に行う水処理装置であり、または、吸着素子が回転することができ、吸着工程で有機物質を吸着した吸着素子の部位が、吸着素子の回転により、脱着工程へ移動する構造を有する水処理装置である。
【0010】
以下、図面を参照して、本発明にかかる水処理装置について詳細に説明する。図1は本発明の好ましい実施形態の例である。図1に例示した水処理装置は、有害有機物質を含有した水を、原水導入ライン11を通じて吸着素子12は吸着領域13に送られ、吸着材により有機物質を吸着除去して浄化水として排出する吸着工程を有する。
【0011】
一方で吸着素子21はパージ領域14に送られ、ガスの通流により吸着素子表面に残存する水滴を除去するパージ工程を有することが好ましい。水滴を気流で除去することにより、加熱による有害有機物質の脱着が容易になるからである。パージガスを高温加熱気流とすることにより、後述する脱着工程を同時におこなってもよいが、エネルギーコスト等から考えて、パージ工程と脱着工程を別にすることが好ましい。
【0012】
ここで除去された水は、有機物質を含むものであり、集積して焼却等してもよいが、戻りライン15より装置入口の有機物質を含有する原水に戻すことが好ましい。かかる方法によれば、工程数を省略でき、効率的だからである。
【0013】
また、吸着素子12は回転し、パージ工程の後工程で脱着領域16にて加熱ガスにより吸着素子を加熱する事で吸着した有害物質を脱着して再度吸着が行える状態に再生される脱着工程を有することが好ましい。加熱により有害有機物質を脱着した後、連続的に吸着工程に移動することができるからである。脱着工程により発生した有機物質を含有したガスは、直接燃焼装置や触媒燃焼装置、蓄熱式燃焼装置等の燃焼装置や活性炭素繊維を使用した溶剤回収装置等の一般的に用いられるガス処理装置にて処理する事ができる。
【0014】
上記の吸着工程→パージ工程→脱着工程を連続的に繰り返す事で、有機物質を含有する水から有機物質を経済的に吸着除去できる装置となる。かかる連続的な吸着−加熱脱着により、低コストで、安定に、高い能力で水中の有害有機物質を除去処理することができ、更には藻等の発生を防ぐことができる。
【0015】
本発明にかかる吸着素子の構造は、粒状、粉体状、ハニカム状の活性炭やゼオライトがあるが、特に性能面から活性炭素繊維である事が好ましい。つまり、活性炭素繊維は表面にミクロ孔を有する事と繊維状構造である事で水との接触効率が高い事で、特に水中の有機物質の吸着速度が速くなり、他の構造に比べて極めて高い除去効率を発現でき、更にはパージ工程においてガスの流通により吸着素子表面の水滴を除去する際にも、容易に水滴の除去が可能となるからである。
【0016】
本発明にかかる、吸着素子の運転は、連続的であることが好ましいが、除去すべき有害有機物質の量、処理水の量等を勘案して、間欠運転としてもよい。有害有機物質の量があるいは処理水の量が少ないような条件では、連続運転であることまで要求されず、運転コストを削減できるからである。
【0017】
本発明で用いる活性炭素繊維の物性は特に限定されるものではないが、BET比表面積が900〜2000m/gで、細孔容積が0.4〜0.9cm/gで平均細孔経が17〜18Åのものが好ましい。それはBET比表面積900m/g以下、細孔容積0.4cm/g、細孔径が17Å以下では、有機物質の吸着量が低くなり、BET比表面積2000m/g以下、細孔容積0.9cm/g、細孔径が18Å以上なると、細孔径が大きくなる事で、分子量の小さい物質などの吸着能力が低下したり、強度が弱くなり、また素材のコストが高くなり経済的では無くなるからである。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によりさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、評価は下記の方法によりおこなった。
(BET比表面積)
BET比表面積は、液体窒素の沸点(−195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0〜0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより試料単位質量あたりの表面積(m/g)を求めた。
(細孔容積)
細孔容積は、相対圧0.95における窒素ガスの気体吸着法により測定した。
(平均細孔径)
平均細孔径は、以下の式で求めた。
dp=40000Vp/S(ただし、dp:平均細孔径(Å))
Vp:細孔容積(cc/g)
S:BET比表面積(m/g)
(平衡吸着量)
平衡吸着量(q*)は、50%破過時間を測定し、以下の式で求めた。
q*(g/g)=溶剤供給量×50%破過時間/吸着材重量
(吸着帯厚み)
吸着帯厚み(10%Za)は、10%破過する破過時間を測定し、以下の式で求めた。
10%Za=(50%破過時間−10%破過時間)×2/(50%破過時間)
(有機物質除去効果)
1000mg/Lの濃度の各種溶剤を含有する原水を温度30℃の水を空間速度(SV)25で流し、10時間後と500時間運転後の各水処理装置出口のイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という)濃度を測定した。
(溶剤濃度評価)
入口・出口の水濃度をガスクロマトグラフ法により分析し測定した。
【0019】
[実施例1]
吸着材として平均細孔径17.1Å、BET比表面積1100m/g、全細孔容積0.47(m/g)の活性炭素繊維を使用した50mmφで、厚み225mmの重量38gの吸着素子を2個作成し、図2のダンパー切替方式の水処理装置に設置して1000mg/LのIPAを含む原水を導入した。その際の出口濃度の経時変化を確認した結果、表1に示すように吸着帯厚み(Za10%)が42mmであり、平衡吸着量(q*)が0.13(g/g)と良好な吸着速度と破過時間であった。
【0020】
次に、水処理装置の脱着工程における加熱ガスとして130℃の空気を使用し、脱着の風速を50cm/secとした。吸着工程における吸着時間は10min、脱着工程における脱着時間は10minとして切替サイクルとした。その際の出口のIPA濃度は10mg/L以下であり、表1に示すように除去率は99%以上が可能であった。
【0021】
本実施例の水処理装置により浄化された水は、10時間後でも99%以上の効率で処理が可能であった。吸着と脱着を連続して行い処理するため、性能低下がなく安定して高い効率で処理ができる。
【0022】
[実施例2]
吸着材として平均細孔径17.3Å、BET比表面積1660m/g、全細孔容積0.72(m/g)の活性炭素繊維を使用した50mmφで、厚み225mmの重量38gの吸着素子を2個作成し、図2のダンパー切替方式の水処理装置に設置して1000mg/LのIPAを含む原水を導入した。その際の出口濃度の経時変化を確認した結果、表1に示す様な吸着帯厚み(Za10%)が49mmであり、平衡吸着量(q*)が0.11(g/g)と良好な吸着速度と破過時間であった。
【0023】
次に、水処理装置の脱着工程における加熱ガスとして130℃の空気を使用し、脱着の風速を50cm/secとした。吸着工程における吸着時間は10min、脱着工程における脱着時間は10minとして切替サイクルとした。その際の出口のIPA濃度は10mg/L以下であり、表1に示す様に除去率は99%以上が可能であった。
【0024】
本実施例の水処理装置により浄化された水は、10時間後でも99%以上の効率で処理が可能であった。吸着と脱着を連続して行い処理するため、性能低下がなく安定して高い効率で処理ができる。
【0025】
[実施例3]
吸着材として平均細孔径17.1Å、BET比表面積1100m/g、全細孔容積0.47(m/g)の活性炭素繊維を使用した50mmφで、厚み225mmの重量38gの吸着素子を2個作成し、図2のダンパー切替方式の水処理装置に設置して1000mg/Lのフェノールを含む原水を導入した。その際の出口濃度の経時変化を確認した結果、表1に示すように吸着帯厚み(Za10%)が39mmであり、平衡吸着量(q*)が0.38(g/g)と良好な吸着速度と破過時間であった。
【0026】
次に、水処理装置の脱着工程における加熱ガスとして130℃の空気を使用し、脱着の風速を50cm/secとした。吸着工程における吸着時間は20min、脱着工程における脱着時間は20minとして切替サイクルとした。その際の出口のIPA濃度は10mg/L以下であり、表1に示すように除去率は99%以上が可能であった。
【0027】
本実施例の水処理装置により浄化された水は、10時間後でも99%以上の効率で処理が可能であった。吸着と脱着を連続して行い処理するため、性能低下がなく安定して高い効率で処理ができる。
【0028】
[比較例1]
吸着材として平均細孔径17.9Å、BET比表面積1208m/g、全細孔容積0.52(m/g)で8/32メッシュの粒状活性炭を使用した50mmφで、厚み225mmの重量185gの吸着素子を2個作成し、図2のダンパー切替方式の水処理装置に設置して1000mg/LのIPAを含む原水を導入した。その際の出口濃度の経時変化を確認した結果、表1に示すように吸着帯厚み(Za10%)が248mmであり、平衡吸着量(q*)が0.04(g/g)と実施例に比べて著しく吸着速度が遅く、破過時間が短くなる結果となった。
【0029】
次に、水処理装置の脱着工程における加熱ガスとして130℃の空気を使用し、脱着の風速を50cm/secとした。吸着工程における吸着時間は10min、脱着工程における脱着時間は10minとして切替サイクルとした。その際の出口のIPA濃度は250mg/以下であり、表1に示すように除去率は75%と実施例に比べて初期除去効率が低い結果となった。
【0030】
本実施例の水処理装置により浄化された水は、脱着操作を行わなければ70分後には吸着材が飽和してしまい除去率は0%となり、安定して高い効率で処理する事ができなった。脱着操作を行えば、10時間後でも75%の効率での処理が可能であるが、初期性能が実施例に比べて低なる。
【0031】
[比較例2]
吸着材として平均細孔径17.2Å、比表面積1200m/g、全細孔容積0.51(m/g)の粒状活性炭をハニカム高さ1.5mm、ハニカムピッチ2.6mmに加工したハニカムを使用した50mmφで、厚み225mmの重量98gの吸着素子を2個作成し、図2のダンパー切替方式の水処理装置に設置して1000mg/LのIPAを含む原水を導入した。その際の出口濃度の経時変化を確認した結果、表1に示すように吸着帯厚み(Za10%)が800mmであり、平衡吸着量(q*)が0.02(g/g)と実施例に比べて著しく吸着速度が遅く、破過時間が短くなる結果となった。
【0032】
次に、水処理装置の脱着工程における加熱ガスとして130℃の空気を使用し、脱着の風速を50cm/secとした。吸着工程における吸着時間は10min、脱着工程における脱着時間は10minとして切替サイクルとした。その際の出口のIPA濃度は800mg/Lであり、表1に示すように除去率は20%と実施例に比べて初期除去効率が著しく低い結果となった。
【0033】
本実施例の水処理装置により浄化された水は、10時間後でも20%の効率で処理が可能であった。吸着と脱着を連続して行い処理しているので、初期除去率は低いが性能低下はなかったが、初期除去率が実施例に比べて低くなった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の水処理装置は、水の連続浄化を実現し、基本的に吸着剤の交換が必要なく、多量有害有機物質を高効率且つ安定に除去することができる処理装置であるため、設備増大を必要とせずに、吸着剤交換作業を省略でき、コスト低減、有害物質安定除去でき、特に研究所や工場等の幅広い分野に利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の好ましい一形態の例である、円柱型のハニカム構造状の吸着素子を用 いた場合の水処理装置。
【図2】ダンパー切替方式の水処理装置。
【符号の説明】
【0037】
11 原水導入ライン
12 吸着素子
13 吸着領域
14 パージ領域
15 戻りライン
16 脱着領域
21 原水
22 処理出口水
23 脱着空気
24 濃縮ガス
25 吸着素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質を含有する水から有機物質を吸着除去して水を浄化する装置であって、有機物質を含有する水を、活性炭素繊維を含む吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通気させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程とを、交互に行うことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
有機物質を含有する水を、活性炭素繊維を含む吸着素子に通流させて該吸着素子に有機物質を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通流させて該吸着素子に吸着された有機物質を脱着する脱着工程の間に、ガスの通流により吸着素子内の水を除去するパージ工程を有することを特徴とする請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記ガスの通流により吸着素子内の水を除去するパージ工程にて発生した水を水処理装置の入口に戻すように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の水処理装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−188493(P2008−188493A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22822(P2007−22822)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】