説明

水処理装置

【課題】強酸性水生成手段を備え、比較的少ない強酸性水で水濾過手段を確実に除菌することのできる水処理装置を提供する。
【解決手段】水処理装置1は、原水を濾過する濾過手段(精密フィルタ4、逆浸透膜モジュール2)と、電解質を添加した電解液に直流電圧を印可して強酸性水原液を生成する強酸性水生成部17と、強酸性生成部17で生成された強酸性水原液を、透過水タンク9内の透過水で希釈して強酸性希釈水を生成する強酸性希釈水タンク50と、で強酸性希釈水タンク50内の強酸性希釈水を濾過手段へ供給するため、強酸性希釈水タンク50と濾過手段の原水入口側との間に設けられた注入経路と、濾過手段を通過した強酸性希釈水の酸化還元電位を計測するための電位計V1,V2と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水や河川水などの各種水を濾過する機能を備えた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理技術の一分野である海水淡水化技術として、近年、逆浸透膜を用いた逆浸透法が実施されている。逆浸透法はエネルギ消費が少なく、最も効率の良い海水淡水化方法として広く知られている。逆浸透方式の水処理装置においては、逆浸透膜モジュールが使用され、この逆浸透膜モジュールに対して原水(海水)を圧送して逆浸透させることにより、透過水と濃縮水とを生成する。
【0003】
しかしながら、逆浸透膜モジュールに注入される原水のpHが高い場合(例えば、pH6以上の場合)、原水に含まれるカルシウム、ナトリウム、マグネシウムなどがスケールとなって析出して、逆浸透膜の濾過能力を低下させることがある。そこで、逆浸透膜モジュールに注入する前の原水に塩酸や硫酸などの酸を添加して原水のpHを下げた状態で処理する方法が採られていた。この場合、逆浸透膜モジュールを通過した水に、苛性ソーダなどの強アルカリ性の還元剤を添加することによってpHを元の値に戻すという処理が行われている。
【0004】
スケール防止のため原水に塩酸などを添加する場合、逆浸透膜は耐酸性に優れた三酢酸セルロース系の素材で形成されたものが使用されているが、三酢酸セルロース系の逆浸透膜は原水中に存在するバクテリアに侵食され易い性質がある。このバクテリアは、原水に強酸を添加してpHを低くした水による洗浄のみで除菌することができないため、バクテリアが逆浸透膜の表面に繁殖して、その機能が低下することがある。そこで、バクテリアの繁殖を防止するため、塩酸や次亜塩酸などの塩素系の薬剤を用いて逆浸透膜モジュールの洗浄、除菌が常時または定期的に行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の処理方法は塩酸や硫酸などの劇薬を必要とするので、安全確保の観点から、これらの薬剤の運搬、保存には厳重な注意が必要である。また、これらの薬剤で構成部材を洗浄するためには、添加経路や排液経路など複雑な経路を構築しなければならず、その制御システムも複雑化するので、取り扱いが困難である。
【0006】
そこで、このような問題を解決するため、塩酸や硫酸などの薬剤を使用しない「濾過装置及び逆浸透膜の洗浄方法」が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2記載の濾過装置は、強酸性水を使用して逆浸透膜を洗浄することにより、逆浸透膜の除菌を行うとともに、スケールなどを除去する。
【0007】
【特許文献1】特開2000−42544号公報
【特許文献2】特開2003−103259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2記載の濾過装置の場合、逆浸透膜が収納された逆浸透膜モジュール内に強酸性水を注入して逆浸透膜を除菌したり、スケールを除去したりすることができるが、強酸性水の注入開始後、逆浸透膜モジュールの除菌が完了したか否かを確認することが困難である。このため、除菌が不完全な状態で強酸性水の注入が中止されたり、除菌が完了しているにもかかわらず強酸性水の注入が継続されたりすることがある。このため、逆浸透膜モジュールの濾過機能が十分に回復しなかったり、強酸性水が無駄に消費されたりすることがある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、強酸性水生成手段を備え、比較的少ない強酸性水で水濾過手段を確実に除菌することのできる水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
強酸性水が除菌作用を発揮するには、その酸化還元電位が1000mV以上あることが必要であるとされている。このため、電解法などで生成された強酸性水原液をそのまま除菌対象物(例えば、逆浸透膜モジュールなど)に供給するのが従来の常識であった。
【0011】
一方、本発明者は、生成直後の強酸性水原液を水で希釈して強酸性希釈水を生成し、その希釈率と強酸性希釈水の酸化還元電位との関係を調べたところ、所定の希釈率の範囲であれば、強酸性希釈水の酸化還元電位は比較的高く(1000mV以上)に維持されることを発見し、本発明を成すに至った。強酸性水原液を水で希釈したとき、酸化還元電位が急激に除菌作用を失うレベルまで低下しない理由については不明な点が多いので、その解明は今後の課題の一つである。
【0012】
原水を濾過する濾過手段と、
電解質を添加した電解液を収容するためイオン透過性隔膜で区画された陰極室及び陽極室を有する電解槽と、前記陰極室内に配置された陰電極及び前記陽極室内に配置された陽電極と、前記陰電極と前記陽電極との間に直流電圧を印可する電圧印加部と、を有する強酸性水生成部と、
前記強酸性生成部で生成された強酸性水原液を水で希釈して強酸性希釈水を生成する希釈部と、
前記希釈部で生成された強酸性希釈水を前記濾過手段へ供給するため前記希釈部と前記濾過手段の原水入口側との間に設けられた注入経路と、
前記濾過手段を通過した強酸性希釈水の酸化還元電位を計測するための電位計と、
を備えたことを特徴とする水処理装置。
【0013】
このような構成とすれば、強酸性水生成部で生成された強酸性水原液を希釈部にて水で希釈して生成された殺菌作用を有する強酸性希釈水を注入経路を経由して濾過手段に供給すれば、塩酸や硫酸などの劇薬を使用することなく濾過手段を除菌することができる。強酸性原液を水で希釈して使用するので、強酸性水原液の使用量を低減することができる。
【0014】
また、濾過手段を通過した後の強酸性希釈水の酸化還元電位を電位計で計測し、その低下の程度を監視することにより、除菌に供された強酸性希釈液水の劣化の有無を判断することができるため、除菌処理の進行状況を正確に把握することができる。即ち、濾過手段を通過した後の強酸性希釈水の酸化還元電位が低下しているとき(例えば、1000mV未満に低下しているとき)は除菌未完了であり、前記酸化還元電位が注入前の強酸性希釈水のそれと同等以上(例えば、1000mV以上)であれば除菌完了である、と判断することができる。従って、除菌対象である濾過手段に対する強酸性希釈水の注入量あるいは処理時間が過剰となったり、逆に不足したりするのを防止することができ、濾過手段を確実かつ効率的に除菌することができ、強酸性希釈水の浪費を無くすことができる。
【0015】
ここで、前記強酸性希釈水の酸化還元電位を計測するための電位計を前記希釈部に設けることが望ましい。このような構成とすれば、希釈部で生成される強酸性希釈液の酸化還元電位を計測することが可能となり、強酸性水原液の希釈不足や希釈過剰を回避することができるため、確実な殺菌作用を備えた強酸性希釈水を安定的に生成することができ、強酸性水原液の浪費を回避することもできる。
【0016】
また、前記濾過手段として、原水を濾過して透過水及び濃縮水を生成する逆浸透膜を設けることができる。このような構成とすれば、海水を淡水化するための逆浸透膜を備えた水処理装置において、強酸性水生成部で生成され、希釈部にて水で希釈された強酸性希釈水を逆浸透膜に供給可能となるため、前述と同様、塩酸や硫酸などの劇薬を使用することなく逆浸透膜を除菌することができる。また、逆浸透膜内を通過した強酸性希釈水の酸化還元電位を電位計で計測することにより、除菌進行状況を監視して、除菌が完了したか否かを判断することができるため、強酸性希釈水の注入量、処理時間に過不足が生じるのを防止することができ、逆浸透膜を確実かつ効率的に除菌することができる。
【0017】
前記強酸性水原液を希釈する水として、前記透過水を使用することが望ましい。このような構成とすれば、逆浸透膜を透過して清浄化された透過水で強酸性水原液を希釈して得られた強酸性希釈水を得ることができるため、殺菌作用の向上に有効である。また、強酸性水原液を希釈するための給水手段を別に設ける必要が無くなるため、装置の複雑化、大型化を回避することできる。
【0018】
一方、前記強酸性生成部で生成された前記強酸性水原液を注出するための原液注出路と、前記希釈部で生成された強酸性希釈水を注出するための希釈水注出路と、を設けることが望ましい。このような構成とすれば、必要に応じて、原液注出路や希釈液注出路からそれぞれ強酸性水原液や強酸性希釈液を取り出せるようになるため、濾過手段の除菌以外の目的に強酸性水原液や強酸性希釈液を使用することが可能となり、利便性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、強酸性水生成手段を備え、比較的少ない強酸性水で水濾過手段を確実に除菌することのできる水処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である水処理装置を示す構成図、図2は図1に示す水処理装置を構成する強酸性水生成部を示す構成図である。なお、本実施形態は一例であって、本発明の水処理装置はこれに限定するものではない。
【0021】
図1に示すように、水処理装置1は濾過手段である逆浸透膜モジュール2を備え、この逆浸透膜モジュール2の容器体2a内に逆浸透膜(図示せず)が収納されている。逆浸透膜は、直線状またはU字形状などに束ねられ、端部を合成樹脂などで連結固定して中空糸状に形成されている。この逆浸透膜は耐酸性を有する三酢酸セルロース系であるが、これに限定するものではない。容器体2aは密閉構造であり、原水の流入側及び透過水、濃縮水の排出側には管口(図示せず)が開設され、それぞれの管口に、後述する原水流路、透過水流路、濃縮水流路が接続される。原水は逆浸透膜モジュール2内において、逆浸透膜を透過した透過水と、逆浸透膜を透過しない濃縮水とに分離される。
【0022】
逆浸透膜モジュール2の前段には、原水を逆浸透膜モジュール2に流入させる前に粒子などを取り除くための精密フィルタ4が配置され、精密フィルタ4で除去される粒子などを排出する精密フィルタ用排出路4aが設けられ、精密フィルタ用排出路4aの下流側に排出用開閉弁4bが設けられている。精密フィルタ4は機械的強度が高く且つ耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデンなどで形成されたものを用いている。精密フィルタ4の微細孔の孔径は0.1μm〜1.0μm程度であるため、原水中に含まれる外径1μm以上の粒子は原水の10%程度と共に精密フィルタ用排出路4aから排出される。なお、精密フィルタ用排出路4aから粒子と共に排出される原水の量は、排出用開閉弁4bの開度を調節することにより、任意に設定することができる。
【0023】
原水供給口(図示せず)から原水供給弁5a及び精密フィルタ4を経由して逆浸透膜モジュール2に原水流路5が接続され、原水流路5の精密フィルタ4の上流側に、原水を送水するフィードポンプ6が配置されている。逆浸透膜モジュール2に流入する原水を加圧するための高圧ポンプ7が、原水流路5の逆浸透膜モジュール2の上流側に配置されている。高圧ポンプ7で原水を加圧することにより、原水は逆浸透膜モジュール2の逆浸透膜で逆浸透された透過水と、逆浸透されなかった濃縮水とに分離される。分離される透過水と濃縮水との流量比は、逆浸透膜モジュール2の透過水の出口側及び濃縮水の出口側に流量調整弁を設け、この流量調整弁により設定される。なお、本実施形態においては、高圧ポンプ7による原水の加圧は6MPa程度の圧力に設定し、分離される透過水と濃縮水との流量比は4:6に設定した。
【0024】
原水流路5の逆浸透膜モジュール2の上流側には逆洗用下流側三方弁8が配設され、逆浸透膜モジュール2を透過した透過水が貯留される透過水タンク9が設けられている。また、透過水タンク9に貯留された透過水を他の系統(図示せず)へ送水するための透過水送水流路9aが設けられ、透過水送水流路9aの途中に透過水送水用開閉弁9bが配設されている。逆浸透膜モジュール2と透過水タンク9との間には両者を接続する透過水流路10が設けられ、その途中に透過水流路用三方弁11aが設けられている。透過水流路用三方弁11aは、逆浸透膜モジュール2から排出された透過水の流路を、透過水流路10の下流に配設された透過水タンク9または透過水排出用三方弁11に切り替えるためのものである。透過水排出用三方弁11は、透過水の流路を、循環用バイパス路23または排出流路45に切り替えるためのものである。
【0025】
逆浸透膜モジュール2に接続された濃縮水流路13の下流に、逆浸透膜モジュール2により濃縮された濃縮水を貯留するための濃縮水タンク12が配置され、濃縮水タンク12内の濃縮水を他の系統(図示せず)へ送水するための濃縮水送水流路12a及び濃縮水送水用開閉弁12bが設けられている。14は濃縮水流路13に配設された濃縮水排出用三方弁であり、15は強酸性水を貯留する強酸性水タンクである。また、必要に応じて強酸性水タンク15内の強酸性水を取り出すために強酸性水注出路53及び開閉弁53aが設けられ、強酸性水注出路53を流れる強酸性水の酸化還元電位を計測するための電位計V3が配置されている。
【0026】
透過水タンク9に貯留された透過水を強酸性水生成部17へ供給するための透過水供給路16が設けられ、その一端部が透過水タンク9に接続され、他端部が強酸性水生成部17に接続されている。透過水供給路16に配設された供給路用三方弁16aにバイパス路19が接続されている。
【0027】
強酸性水注入流路18の一端部は、原水流路5に配設された注入用三方弁18aに接続され、原水流路5を介して精密フィルタ4及び逆浸透膜モジュール2に連通され、他端部は、強酸性水タンク15に接続されている。強酸性水タンク15と強酸性水生成部17とは陽極水流路38によって連通されている。強酸性水生成部17で生成された強酸性水原液は、陽極水流路38を経由して強酸性水タンク15へ供給される。
【0028】
強酸性水タンク15には、原液供給路25、原液流入路52及び原液注出路53が設けられている。原液供給路25は三方弁60aに接続され、原液流入路52は開閉弁52aを経由して希釈水タンク50へ接続され、原液注出路53には電位計V3及び開閉弁53aが設けられている。三方弁60aは、強酸性希釈水流路60または原液供給路25と、注入経路18との接続を切り替えるためのものである。強酸性希釈水流路60の途中に電位計V6が配設されている。
【0029】
強酸性水タンク15に貯留された強酸性水原液は、原液流入路52を経由して希釈水タンク50へ供給したり、原液供給路25から三方弁60aを経由して注入流路18へ供給したり、注出路53を経由して外部へ注出したりすることができる。注入流路18には、ここを流れる強酸性希釈水または強酸性水原液の酸化還元電位を計測するための電位計V2が配置されている。
【0030】
19は透過水供給路16と注入流路18とを接続するバイパス路であり、注入流路18とバイパス路19とはバイパス用三方弁20を介して接続されている。逆流用下流側三方弁8と透過水供給路16とを接続する逆流用バイパス路21は逆流用上流側三方弁21aを介して透過水供給路16に接続されている。逆流用バイパス路21の途中には逆流ポンプ22が配設されている。透過水流路10と透過水供給路16との間に循環用バイパス路23が設けられ、循環用バイパス路23は循環用三方弁24を介して透過水供給路16に接続されている。
【0031】
濃縮水排出用三方弁14と連通する排出流路44には、洗浄に供された後、ここを通過して排出される強酸性希釈水(または強酸性水原液)の酸化還元電位を測定する電位計V1が配置されている。透過水タンク9内の透過水を希釈水タンク50に流入させるため透過水流入路51及び開閉弁51aが設けられ、強酸性水タンク15内の強酸性水原液を希釈水タンク50に流入させるための強酸性水流入路52及び開閉弁52aが設けられている。希釈水タンク50内において、強酸性水生成部17で生成された強酸性水原液を、透過水タンク9から送給される透過水で希釈することによって強酸性希釈水が生成される。
【0032】
希釈水タンク50には、内部に貯留されている強酸性希釈水の酸化還元電位を測定するための電位計V7が設けられているため、電位計V7の測定値が所定値(例えば、1000mV)を維持していることを確認しながら、強酸性水生成部17で生成された強酸性水原液と、透過水タンク9から送給される透過水との希釈を行うことができる。このため、希釈水タンク50内に貯留されている強酸性希釈水の酸化還元電位を必要なレベルに保持することができる。
【0033】
希釈水タンク50内の強酸性希釈水は、強酸性希釈水流路60及び三方弁60aを経由して注入流路18へ供給することができ、強酸性希釈水流路60を通過する強酸性希釈水の酸化還元電位は電位計V6で計測することができる。また、希釈水タンク50内の強酸性希釈水は、必要に応じて開閉弁54aを開けば希釈水注出路54から注出することができ、注出される強酸性希釈水の酸化還元電位は電位計V4で計測することができる。
【0034】
ここで、本実施形態の水処理装置1における原水の濾過処理について説明する。原水としては、淡水化を目的とした海水、あるいは浄化を目的とした河水や水道水などが使用されるが、本実施形態では、原水である海水を透過水である純水と、濃縮水とに分離する工程について説明する。
【0035】
原水供給弁5aを開くことにより、原水供給口(図示せず)から原水流路5に供給された原水は、フィードポンプ6により精密フィルタ4に送られ、原水中に含まれるゴミ、砂、土などの粒子及び精密フィルタ4の孔径より大きな微生物などが除去される。なお、除去される粒子などは、精密フィルタ4に流入する原水の10%程度と共に精密フィルタ用排出路4aから排出される。精密フィルタ4を通過した原水は、高圧ポンプ7により逆浸透膜モジュール2に圧送される。逆浸透膜モジュール2において、原水中に含まれる塩分、カルシウム、マグネシウムなどが除去され、逆浸透膜モジュール2の逆浸透膜と透過した透過水が透過水流路10を通って透過水タンク9に流入し、その中に貯留される。
【0036】
一方、逆浸透膜モジュール2の逆浸透膜により真水から除去された塩分、カルシウム、マグネシウムなどは、逆浸透膜モジュール2に流入する原水の60%程度とともに濃縮水として、濃縮水流路13を通って濃縮水タンク12に貯水される。このとき、透過水流路10、濃縮水流路13を通過する透過水、濃縮水は各々のタンクに貯水することなく、透過水は透過水流路用三方弁11aを介して透過水排出用三方弁11から、濃縮水は濃縮水排出用三方弁14から排出することもできる。このようにして、逆浸透膜モジュール2を用いた原水の濾過処理が行われる。
【0037】
前述したように、逆浸透膜モジュール2を使用して原水の濾過を行っていくと、バクテリアの繁殖や無機物質塩の堆積により逆浸透膜の機能が低下していき、これが進行すると、逆浸透膜モジュール2における原水流入側と透過水流出側の圧力差が大きくなったり、逆浸透膜モジュール2を透過する透過水流量が減少したりするなどの不具合が生じる。このため、強酸性水を使用して逆浸透膜モジュール2の除菌やスケールなどの洗浄を行う。除菌やスケールなどの洗浄に使用される強酸性水は、強酸性水生成部17において生成された強酸性水原液またはこれを透過水で希釈した強酸性希釈水のいずれかを選択して使用することができる。
【0038】
次に、図2に基づいて強酸性水生成工程について説明する。
【0039】
図2に示すように、強酸性水生成部17は、電解質を添加した電解液を収容するためイオン透過性隔膜32で区画された陽極室33及び陰極室34を有する電解槽31と、陽極室33内に配置された陽電極35及び陰極室34内に配置された陰電極36と、陽電極35と陰電極36との間に直流電圧を印可する電圧印加部37と、を備えている。また、透過水に電解質を添加して電解液とする電解質添加部40と、透過水供給路16から電解槽31に透過水を供給する透過水供給ポンプ41と、が設けられている。
【0040】
陽極室33に生成された陽極水(強酸性水原液)を強酸性水タンク15(図1参照)へ供給するため陽極室33に陽極水流路38が接続され、陰極室34に生成された陰極水(強アルカリ電解水)を排出するための陰極水流路39が設けられている。
【0041】
強酸性水生成工程においては、まず、図1に示す供給路用三方弁16a、逆流用上流側三方弁21a、循環用三方弁24を切り換えて、透過水タンク9から透過水供給路16を介して強酸性水生成部17へ透過水が供給される流路を連通し、透過水供給ポンプ41を駆動して、図2に示す透過水タンク9に貯水された透過水を強酸性水生成部17の電解槽31へ供給する。このとき、電解質添加部40により所定量の電解質が透過水に添加され電解液が生成される。なお、本実施形態においては、電解質として塩化ナトリウムを使用した。
【0042】
電解質を添加した電解液が供給された電解槽31において、陰電極36と陽電極35との間に電圧印加部37により直流電圧を印加すると、電解液が電気分解され、陽極室33には陽極水である強酸性水原液が生成される。生成された強酸性水原液は、陽極水流路38を介して図1に示す強酸性水タンク15に貯留される。一方、陰極室34には陰極水である強アルカリ電解水が生成され、陰極水流路39から所定場所へ排出される。
【0043】
強酸性水生成工程で生成された強酸性水原液は、pH1.8〜3.5好ましくはpH2.0〜2.7程度を有し、ORP(酸化還元電位)は1100mV以上を有するように設定されている。図1に示すように、強強酸性水生成部17で生成された強酸性水原液は強酸性水原液タンク15内に貯留され、原液流入路52を経由して希釈水タンク50へ送給したり、原液供給路25から三方弁60aを経由して注入流路18へ供給したり、注出路53を経由して外部へ注出したりすることができる。
【0044】
強酸性水原液タンク15内に貯留された強酸性水原液をそのままの状態で逆浸透膜モジュール2内へ直接注入して、逆浸透膜モジュール2内の逆浸透膜を除菌することもできるが、以下、強酸性希釈水タンク50内で生成された強酸性希釈液を用いて逆浸透膜モジュール2内の逆浸透膜を除菌する工程について説明する。
【0045】
まず、逆浸透膜モジュール2を通過した後の強酸性希釈水の排出口となる濃縮水排出用三方弁14を逆浸透膜モジュール2から排出流路44方向へ切り換えた後、注入用三方弁18aを操作して注入流路18と原水流路5のフィードポンプ6とを連通させ、三方弁60aを操作して強酸性希釈水流路60と注入経路18とを連通させる。
【0046】
この後、フィードポンプ6を作動させると、強酸性希釈水タンク50内の強酸性希釈水は、強酸性希釈水流路60から注入用三方弁60a、注入流路18及び注入用三方弁18aを介して原水流路5に流入し、フィードポンプ6、精密フィルタ4、高圧ポンプ7及び逆流用下流側三方弁8を介して、逆浸透膜モジュール2に注入される。
【0047】
このとき、高圧ポンプ7において、通過する強酸性希釈水に0.5MPa程度の圧力を加圧すれば、強酸性希釈水が逆浸透膜モジュール2の逆浸透膜に逆浸透するので、中空糸状に形成された逆浸透膜内の除菌、スケールなどの洗浄を行うことができる。なお、逆浸透膜内部に強酸性希釈水を透過させる場合、透過水流路用三方弁11aを透過水排出用三方弁11側へ切り換え、逆浸透膜モジュール2を通過した強酸性希釈水を透過水排出用三方弁11を経由して排出流路45から排出できるようにする。
【0048】
フィードポンプ6を作動させた直後、濃縮水排出用三方弁14、透過水排出用三方弁11においては、原水流路5及び逆浸透膜モジュール2内に残存した原水が排出されるため、これらの三方弁11,14を所定時間、開放しておく。そして、所定時間が経過し、逆浸透膜モジュール2内が強酸性希釈水で満たされた時点で濃縮水排出用三方弁14、透過水排出用三方弁11を閉じ、さらに、フィードポンプ6、高圧ポンプ7の駆動を停止させることにより、逆浸透膜モジュール2内に強酸性希釈水を滞留させる(強酸性希釈水滞留工程)。本実施形態の強酸性希釈水滞留工程においては、逆浸透膜モジュール2内に強酸性希釈水を60分間滞留させた。
【0049】
強酸性水滞留工程で強酸性希釈水を逆浸透膜モジュール2内に滞留させた後、濃縮水排出用三方弁14から逆浸透膜モジュール2内の強酸性希釈水を排出する。排出の際には、供給路用三方弁16aを透過水供給路16からバイパス路19へ連通させ、更にバイパス用三方弁20をバイパス路19から強酸性水注入流路18へ連通させる。
【0050】
そして、フィードポンプ6を作動させると、透過水タンク9の透過水が、透過水供給路16、供給路用三方弁16a、バイパス路19、バイパス用三方弁20、注入流路18、注入用三方弁18aから原水流路5に注入され、フィードポンプ6、精密フィルタ4、高圧ポンプ7を介して逆浸透膜モジュール2に注入される。これにより、水処理装置1のライン内及び逆浸透膜モジュール2内に残存する強酸性希釈水を、濃縮水流路13から濃縮水排出用三方弁14を経て排出流路44から排出することができる(強酸性希釈水排出工程)。
【0051】
このとき、排出流路44に配置された電位計V1で、排出される強酸性希釈水の酸化還元電位を計測することにより、その劣化状況を監視することができる。即ち、逆浸透膜モジュール内を通過した強酸性希釈水の酸化還元電位が、電位計V2で計測した注入前の強酸性希釈水の酸化還元電位(例えば、1000mV)未満のときは除菌未完了と判断することができ、前記酸化還元電位が注入前の強酸性水のそれと同等(例えば、1000mV以上)であれば除菌完了と判断することができる。従って、強酸性希釈水の注入量、処理時間に過不足が生じるのを防止することができ、逆浸透膜を確実かつ効率的に除菌することができる。
【0052】
一方、逆浸透膜モジュール2内が強酸性希釈水で満たされた後もフィードポンプ6を駆動し続け、逆浸透膜モジュール2を通過した強酸性希釈水を、濃縮水排出用三方弁14の排出流路44及び透過水排出用三方弁11の排出流路45から連続的に排出させながら除菌処理を行うこともできる。この場合、前述と同様に、排出流路44,45を通過して排出される強酸性希釈水の酸化還元電位を、それぞれ電位計V1,V5で計測することにより、除菌処理が完了したか否かの判断を行うことができる。従って、前述と同様、強酸性希釈水の注入量、処理時間の過不足を回避することができ、逆浸透膜を確実かつ効率的に除菌することができる。
【0053】
強酸性希釈水排出工程後、透過水タンク9に貯水された透過水を用いて、逆浸透膜モジュール2の逆浸透化膜のフラッシングなどを行うことができる(洗浄工程)。なお、洗浄工程は、強酸性水排出工程において使用した透過水の流路と同様の流路を用いて、強酸性水排出工程に続いて連続的に行うことができる。また、洗浄工程において、精密フィルタ4を逆流により洗浄することもできる。一方、逆浸透膜モジュール2は、逆浸透膜の性質上、逆流による洗浄を行うことはできない。
【0054】
一方、精密フィルタ4の逆流を行う場合、逆流用上流側三方弁21aを操作して、透過水タンク9側の透過水供給路16と逆流用バイパス路21とを連通させ、更に、逆流用下流側三方弁8を操作して逆流用バイパス路21と精密フィルタ4側の原水流路5とを連通させる。この後、逆流ポンプ22を作動させ、透過水タンク9の透過水を、透過水供給路16、逆流用上流側三方弁21a、逆流用バイパス路21、逆流ポンプ22、逆流用下流側三方弁8、高圧ポンプ7を介して、精密フィルタ4に注入する。これにより、透過水が精密フィルタ4を逆流して、精密フィルタ用排出路4aから排出される。
【0055】
このとき、高圧ポンプ7は停止しているので、透過水は高圧ポンプ7を抵抗なく通過することができる。また、強酸性希釈水タンク15から注入流路18、バイパス路19及び逆流用バイパス路21を経由して精密フィルタ4へ向かう流路を連通させた後、逆流ポンプ22を作動させ、強酸性希釈水タンク15内の強酸性希釈水を精密フィルタ4に注入して精密フィルタ用排出路4aから排出させることもできる。これにより、精密フィルタ4を強酸性希釈水で逆流洗浄することもできる。
【0056】
なお、逆浸透膜モジュール2に強酸性希釈水を注入する工程に続けて、逆浸透膜モジュール2に強酸性希釈水を循環させる工程を実行することもできる。強酸性希釈水を循環させる場合は、逆流用下流側三方弁8、透過水流路用三方弁11a、透過水排出用三方弁11、循環用三方弁24、逆流用上流側三方弁21aを操作して、逆浸透膜モジュール2から循環用バイパス路23、透過水供給路16、逆流用バイパス路21を通って逆浸透膜モジュール2へ循環する流路を形成し、逆流ポンプ22を駆動してこの流路に強酸性水を循環させる(強酸性希釈水循環工程)。
【0057】
これにより、逆浸透膜モジュール2に強酸性希釈水を循環させ、逆浸透膜の除菌やカルシウム分の洗浄を短時間で行うことができる。このとき、逆流ポンプ22では、循環する強酸性希釈水に所定圧力を印加して、逆浸透膜モジュール2へ強酸性希釈水を圧送する。また、逆浸透膜モジュール2の逆浸透膜を通過した強酸性希釈水は透過水流路10側へ流している。このとき、濃縮水排出用三方弁14は閉じられ、逆浸透膜モジュール2内の強酸性希釈水は濃縮水流路13側へ流れないようにする。なお、本実施形態では、透過水流路10側に循環路を形成したが、濃縮水流路13側に循環経路を形成し、この循環経路により逆浸透膜モジュール2に強酸性希釈水を循環させることもできる。
【0058】
また、本実施形態においては、強酸性希釈水を逆浸透膜モジュール2に注入するためにフィードポンプ6を使用したが、これに限定しないので、例えば、強酸性水注入流路18に注入ポンプなどを設け、注入ポンプを使用して強酸性希釈水を逆浸透膜モジュール2に注入してもよい。
【0059】
さらに、水処理装置1においては、図1に示すように、強酸性水生成部17で生成され強酸性水原液タンク15内に貯留された強酸性水原液を取り出し可能な注出路53を設けている。従って、必要に応じて開閉弁53aを開くことにより、注出路53から強酸性水原液を取り出すことができ、その酸化還元電位は電位計V3で計測することができる。このため、強酸性水生成部17で生成された強酸性水原液を、前述した逆浸透膜の除菌以外の目的に使用することも可能である。
【0060】
また、強酸性希釈水タンク50内の強酸性希釈水は開閉弁54aを開いて注出路54から注出することができ、その酸化還元電位は電位計V4で計測することができるため、使用目的に適した酸化還元電位であるか否かを確認することができる。
【0061】
本実施形態の水処理装置1は、海水を淡水化するための逆浸透膜モジュール2を備えたものであるが、本発明はこれに限定するものではないので、逆浸透膜モジュール2以外の濾過機能を有する各種濾過手段を備えた水処理装置において広く利用することができ、前述と同様の作用、効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、海水を淡水化したり、河川水や地下水などを浄化したりする各種水処理設備などにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態である水処理装置を示す構成図である。
【図2】図1に示す水処理装置を構成する強酸性水生成部を示す構成図である。
【符号の説明】
【0064】
1 水処理装置
2 逆浸透膜モジュール
2a 容器体
4 精密フィルタ
4a 精密フィルタ用排出路
4b 排出用開閉弁
5 原水流路
5a 原水供給弁
6 フィードポンプ
7 高圧ポンプ
8 逆流用下流側三方弁
9 透過水タンク
9a 透過水送水流路
9b 透過水送水用開閉弁
10 透過水流路
11 透過水排出用三方弁
11a 透過水流路用三方弁
12 濃縮水タンク
12a 濃縮水送水流路
12b 濃縮水送水用開閉弁
13 濃縮水流路
14 濃縮水排出用三方弁
15 強酸性水原液タンク
16 透過水供給路
16a 供給路用三方弁
17 強酸性水生成部
18 注入流路
18a 注入用三方弁
19 バイパス路
20 バイパス用三方弁
21 逆流用バイパス路
21a 逆流用上流側三方弁
22 逆流ポンプ
23 循環用バイパス路
24 循環用三方弁
25 原液供給路
31 電解槽
32 イオン透過性隔膜
33 陽極室
34 陰極室
35 陽電極
36 陰電極
37 電圧印加部
38 陽極水流路
39 陰極水流路
40 電解質添加部
41 透過水供給ポンプ
44,45 排出流路
50 強酸性希釈水タンク
51 透過水流入路
52 原液流入路
53 注出路
54 希釈水注出路
51a,52a,53a,54a 開閉弁
60 強酸性希釈水流路
60a 三方弁
V1,V2,V3,V4,V5,V6,V7 電位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を濾過する濾過手段と、
電解質を添加した電解液を収容するためイオン透過性隔膜で区画された陰極室及び陽極室を有する電解槽と、前記陰極室内に配置された陰電極及び前記陽極室内に配置された陽電極と、前記陰電極と前記陽電極との間に直流電圧を印可する電圧印加部と、を有する強酸性水生成部と、
前記強酸性生成部で生成された強酸性水原液を水で希釈して強酸性希釈水を生成する希釈部と、
前記希釈部で生成された強酸性希釈水を前記濾過手段へ供給するため前記希釈部と前記濾過手段の原水入口側との間に設けられた注入経路と、
前記濾過手段を通過した強酸性希釈水の酸化還元電位を計測するための電位計と、
を備えたことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記強酸性希釈水の酸化還元電位を計測するための電位計を前記希釈部に設けた請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記濾過手段として、原水を濾過して透過水及び濃縮水を生成する逆浸透膜を設けた請求項1または2記載の水処理装置。
【請求項4】
前記強酸性水原液を希釈する水として、前記透過水を使用する請求項3記載の水処理装置。
【請求項5】
前記強酸性生成部で生成された前記強酸性水原液を注出するための原液注出路と、前記希釈部で生成された強酸性希釈水を注出するための希釈水注出路と、を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−64028(P2010−64028A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233903(P2008−233903)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(399102839)博多港管理株式会社 (16)
【出願人】(398018777)株式会社弁天 (15)
【Fターム(参考)】