説明

水分散型粘着剤組成物及び粘着シート

【課題】十分な粘着特性を有し、端末剥がれを抑制可能な水分散型粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の水分散型粘着剤接着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な窒素含有単量体及びシラン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有することを特徴とする。これにより、多価金属イオンによる架橋反応を回避して溶剤不溶分の割合の上昇及び低分子量成分の染みだしを抑制することで、経時での粘着特性の低下、特に端末剥がれを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分散型粘着剤組成物、及び該水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層を基材の少なくとも片面に有する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、基材の少なくとも片面に粘着剤が塗布されたものであり、文具、包材、建材、家電製品、生活用品、医療用テープ、農業用テープ等の各種用途に幅広く利用されている。粘着剤としては、より良好な粘着特性が得られることからアクリル系粘着剤が主に用いられている。また、アクリル系粘着剤においては、ベースポリマーとして特にカルボキシル基のような酸残基を有するアクリル系共重合体を用いると、カルボキシル基等の酸残基は反応性が高く、また架橋点となることから更なる粘着特性の向上が可能になる。
【0003】
また、アクリル系粘着剤は、有機溶剤に溶解して液状にした溶剤型と、乳化剤等を利用して水に分散させた水分散型とに大別される。溶剤型粘着剤は、その使用後において揮発性有機溶剤(VOC)の残存量によりシックハウス症候群等の原因となる可能性があるため、VOCの使用が制限されるという問題がある。他方、水分散型粘着剤は、有機溶剤を用いないため環境衛生上望ましく、また耐溶剤性の点で優れる等の利点を有している反面、溶剤型に比べて粘着特性が一般的に劣り、粘着シートにした場合に被着体への接着性と保持性との両立が困難であり、また端部に剥がれ(以下、「端末剥がれ」という)を生じやすく実用面で溶剤型に劣るという問題がある。
【0004】
水分散型粘着剤における上記問題点を解決すべく、本発明者らは(メタ)アクリル酸エステルを主成分とし、かつシラン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られる重合体の水分散液に、フェノール骨格を含有する粘着付与剤を添加してなる水分散型粘着剤組成物を提案しており、かかる粘着剤組成物により接着性と保持性との両立が可能になることを報告している(特許文献1)。そして、本発明者らは、更なる粘着特性の向上を意図してカルボキシル基含有アクリル系共重合体を含む水分散型粘着剤組成物の開発を試みたところ、かかる粘着剤組成物を用いた粘着シートを細径の電線の結束をするために電線に巻き付けた場合に端末剥がれが発生し、粘着特性が著しく低下するという問題に遭遇した。
【0005】
しかしながら、かかる端末剥がれを抑制可能な水分散型粘着剤組成物は未だ存在せず、また端末剥がれの要因も未だ解明されていないのが実情である。
【特許文献1】特開2003−176469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は十分な粘着特性を有し、端末剥がれを抑制可能な水分散型粘着剤組成物、及びこれを用いる粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、前述した端末剥がれの要因が粘着シートを構成する基材及び/又は被着体に含まれる多価金属化合物によって粘着剤層中の溶剤に不溶の成分(以下、「溶剤不溶分」という)の割合が上昇し、低分子量成分が分離することにあるとの知見を得た。端末剥がれが発生するメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0008】
すなわち、粘着シートの基材等には難燃剤、放熱剤、補強剤等として多価金属化合物が多量に配合されることが多く、例えば、多価金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム)を配合した基材と、カルボキシル基含有アクリル系共重合体を含有する水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層とを備える粘着シートを保存した後に被着体に貼付すると、粘着シートが水分を吸着して多価金属化合物から多価金属イオンが生成する。そして、この多価金属イオンがカルボキシル基とイオン結合すると、粘着剤層中のベースポリマーの架橋反応が進行して溶剤不溶分の割合が上昇するとともに、低分子量成分が分離して粘着剤層の表面に染み出す。これにより、被着体との界面(その近傍を含む)における凝集力が低下して端末剥がれが発生する。なお、端末剥がれは、粘着シートを高温多湿下で保存した場合に特に顕著に現れる。このようにして、カルボキシル基に由来の良好な粘着特性が損なわれるものと本発明者らは推察する。
【0009】
ここで、多価金属イオンとカルボキシル基との反応を抑制する手段として金属イオン封鎖剤を添加する方法が考えられるが、比較的少量の多価金属化合物に対して有効であるものの、充填剤として多価金属化合物を多量に配合した場合には経時で多価金属イオンとカルボキシル基との反応抑制効果が失われ、溶剤不溶分の割合の上昇及び低分子量成分の染み出しを抑制できないという問題がある。また、ベースポリマーとして酸残基を含まないアクリル系粘着剤を用いる方法が考えられるが、酸残基を含有しないため接着性が低下し、また十分な架橋を得るために長時間のエージングが必要となるという問題が生ずる。
【0010】
そして、これらの知見に基づき水分散型粘着剤組成物の組成を検討したところ、ベースポリマーとして特定の単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、かつカルボキシル基等の酸残基を実質的に含有しない重合体を水分散型粘着剤組成物に含有せしめることで多価金属イオンと酸残基との反応を回避して溶剤不溶分の割合の上昇、及び低分子量成分の染み出しを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な窒素含有単量体及びシラン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有することを特徴とする水分散型粘着剤組成物。
(2)シラン系単量体の含有量が(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して0.005〜1重量部であることを特徴とする、上記(1)記載の水分散型粘着剤組成物。
(3)シラン系単量体がアルコキシ基含有シラン系単量体であることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載の水分散型粘着剤組成物。
(4)窒素含有単量体の含有量が(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して0.5〜50重量部であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水分散型粘着剤組成物。
(5)重合体が(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な反応性乳化剤の存在下に単量体混合物を乳化重合して得られるものであることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水分散型粘着剤組成物。
(6)基材の片面又は両面に、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層が積層されていることを特徴とする、粘着シート。
(7)基材が多価金属化合物を含むことを特徴とする、上記(6)記載の粘着シート。
(8)多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、上記(7)記載の粘着シート。
(9)被着体に貼付するための粘着剤組成物であって、粘着剤組成物が上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水分散型粘着剤組成物であり、かつ被着体が多価金属化合物を含むことを特徴とする、粘着剤組成物。
(10)多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、上記(9)記載の粘着剤組成物。
(11)被着体に貼付するための粘着シートであって、粘着シートが上記(6)〜(8)のいずれかに記載の粘着シートであり、かつ被着体が多価金属化合物を含むことを特徴とする、粘着シート。
(12)多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、上記(11)記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水分散型粘着剤組成物によれば、多価金属イオンによる架橋反応を回避して溶剤不溶分の割合の上昇及び低分子量成分の染みだしを抑制することで、経時での粘着特性の低下、特に端末剥がれを防止することが可能になる。また、本発明の粘着シートによれば、粘着剤層が本発明の水分散型粘着剤組成物により構成されているため、十分な粘着特性を有し、端末剥がれを抑制可能な粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0014】
まず、本発明の水分散型粘着剤組成物について説明する。
本発明の水分散型粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な窒素含有単量体及びシラン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有することを特徴とする。
【0015】
前述のように、従来のカルボキシル基含有アクリル系共重合体を含有する水分散型粘着剤組成物においては、カルボキシル基等の酸残基が架橋点となるため凝集力及び接着力の向上に有効である反面、粘着剤層中のベースポリマーの架橋反応進行による溶剤不溶分の割合の上昇及び低分子量成分の染み出しにより端末剥がれを惹起するという問題がある。このため、本発明においては、水分散型粘着剤組成物のベースポリマーとして、特定の単量体混合物を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有する。ここで、「酸残基」とはカルボキシル基、スルホン酸基等の酸性残基を意味する。また、「酸残基を実質的に含まない」とは、粘着剤層中の溶剤不溶分の割合に影響を与える量の酸残基を含まないことを意味し、かかる酸残基を有する単量体(例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、スチレンスルホン酸等の酸性単量体)を、単量体混合物の全重量を基準として0.04重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上含まないことをいう。
【0016】
以下、重合体の構成単位について説明する。
本発明に係る重合体は、その構成単位の主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好適に使用される。式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2〜14のアルキル基を示す。
CH=C(R)COOR (1)
【0017】
で示されるアルキル基は、炭素数2〜14であれば、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよい。Rとしては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、イソアミル基、へキシル基、へブチル基、2−エチルへキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基等が挙げられる。なかでも、Rとしては、炭素数2〜10のアルキル基が好ましく、ブチル基、2−エチルへキシル基等の炭素数4〜8のアルキル基がより好ましい。Rの炭素数が上記範囲外であると、粘着力が不十分となり粘着剤として機能し難くなる。なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、アクリル酸ブチルを単独で、又はアクリル酸ブチルとアクリル酸2−エチルへキシルとを組み合わせて使用できる。タック感を得るにはガラス転移温度を低くすることの可能なアクリル酸2−エチルへキシルのような単量体が優れているが、端末剥がれ抑制の点からガラス転移温度を比較的高くすることの可能なアクリル酸ブチルが好適に使用される。
【0018】
また、本発明に係る重合体は、その構成単位として上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な窒素含有単量体(以下、単に「窒素含有単量体」という)を含有する。窒素含有単量体は、エマルション粒子に機械的安定性を付与することができ、また凝集力及び接着力の向上にも寄与する。また、窒素含有単量体は、酸残基を有しないため多価金属化合物との反応による悪影響を排除できるとともに、塩基性であるため多価金属化合物による影響を緩和することができる。
【0019】
窒素含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体;その他、(メタ)アクリロニトリル、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−シクロへキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0020】
窒素含有単量体の配合量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、通常0.5〜50重量部、好ましくは0.7〜30重量部、より好ましくは1〜10重量部である。かかる使用量が0.5重量部未満であるとエマルション粒子の機械的安定性が損なわれ、また凝集力不足になる傾向にあり、他方50重量部を超えると、低温特性が損なわれる傾向にある。
【0021】
さらに、本発明に係る重合体は、その構成単位として(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なシラン系単量体を含有する。シラン系単量体としては、ケイ素原子を有するラジカル重合性化合物であれば特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの反応性に優れる点で(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン誘導体等の(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物が好適である。また、本発明においては、シラン系単量体として、Si−ORで表されるアルコキシ基を含有するシラン系単量体を用いることが好ましく、ORで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましい。中でも、シラン系単量体として、メトキシシラン系単量体を用いることがより好ましい。
【0022】
シラン系単量体としては、例えば、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
また、上記以外のシラン系単量体として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−ビニルブチルトリメトキシシラン、4−ビニルブチルトリエトキシシラン、8−ビニルオクチルトリメトキシシラン、8−ビニルオクチルトリエトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン、10−アクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン等も使用できる。これらのシラン系単量体は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
シラン系単量体の配合量は(メタ)アクリル酸アルキルエステルの種類や用途等に応じて適宜選択できるが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、通常0.005〜1重量部、好ましくは0.008〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.2重量部である。かかる使用量が0.005重量部未満であると十分な凝集力を得難くなる傾向にあり、他方1重量部を超えると硬くなり過ぎて、粘着剤としての機能が損なわれる傾向にある。
【0024】
シラン系単量体は、乳化時及び/又は乳化重合時に加水分解を起こし、重合後に水分散型粘着剤組成物として非常に安定な状態で存在する。水分散型粘着剤組成物を基材等に塗布し水分等の揮発成分を乾燥機等で蒸発させる際に、シラン系単量体に由来のシラノール基同士が縮合反応を起こし、重合体が架橋する。この縮合反応は非常に速い反応であり、乾燥が完了すると同時に架橋反応もほぼ完了している。したがって、乾燥後に加熱エージングをする必要がないため、製造工程の短縮、製造コストの低減に非常に有利である。特にメトキシシラン系単量体を使用した場合には、加水分解速度が非常に速く、乳化時及び/又は乳化重合時に大部分のメトキシ基がシラノール基に加水分解されるため、乾燥時に重合体に取り込まれたシラン系単量体に由来のシラノール基の大部分が架橋反応に消費される。そのため、架橋密度が高い上に、乾燥後の粘着特性の安定性が極めて高くなる。また、水分散型粘着剤組成物をそのまま乾燥するだけで架橋反応まで行えるため、配合ミスや分散不良等による粘着特性への影響を排除できる。
水分散型粘着剤組成物の架橋反応は、通常エマルション粒子の外側のみで反応が起こるため凝集性に劣るが、シラン系単量体による架橋反応はエマルション粒子の内外で均一に起こるため、凝集性はもとより、系全体の物性のバランスが非常に良好となる。
【0025】
また、本発明に係る重合体は、凝集力等の特性を高めるために、必要に応じて上記以外の官能基含有単量体を構成単位として含有することができる。かかる官能基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;シクロぺンチルジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有単量体等が挙げられる。これらの単量体は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記官能基含有単量体の配合量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜2重量部である。かかる配合量とすることで、凝集力及び粘着力の向上が可能になる。
【0027】
また、重合体を得るための重合方法としては公知の方法を採用することができるが、乳化重合が好ましい。乳化重合の方式としては、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合等を採用できる。重合温度は、例えば20〜100℃程度である。
重合に用いる重合開始剤としては、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロビオンアミジン)二硫酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;フェニル置換エタン等の置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等のレドックス系開始剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、例えば0.005〜1重量部程度である。
【0029】
重合に用いる乳化剤としては特に制限されず、公知の乳化剤を用いることができる。具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤;ボリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン系乳化剤等が挙げられる。
【0030】
また、これら(ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン系乳化剤等)に、プロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性基(ラジカル反応性基)を導入した反応性乳化剤を用いることもできる。反応性乳化剤を用いることで乳化剤が重合体の分子鎖に結合するため、粘着剤層の表面への乳化剤の染み出しによる粘着特性の低下、特に端末剥がれを抑制することができる。乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
乳化剤の使用量は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.4〜5重量部である。乳化剤の使用量を上記範囲内とすることにより、耐水性、接着特性の他、重合安定性や機械的安定性等を良好にすることができる。なお、乳化剤は、前述のように重合体を乳化重合により調製する際や、他の各種重合方法により予め調製された重合体を水に分散してエマルジョン化する際に用いることができる。また、乳化剤は一部を乳化重合の際に用い、残部を重合後に添加してもよい。なお、上記乳化重合によって得た重合体を、例えば酢酸エチルのような有機溶剤に浸漬させると、有機溶剤に溶解する成分と、溶剤不溶分とに分かれることがある。重合反応は、微小なエマルション粒子中で起こるため、粒子内での分子鎖の絡み合いが起こりやすい。そのため、溶剤不溶分が生成しやすいと考えられる。
【0032】
また、本発明においては、連鎖移動剤を重合体の分子量を調節するために必要により含有することができる。連鎖移動剤としては、乳化重合に通常使用される連鎖移動剤を用いることができる。例えば、1−ドデカンチオール、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2,3−ジメチルメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、適宜、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、連鎖移動剤の配合量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して、通常0.001〜0.2重量部、好ましくは0.005〜0.15重量部、より好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0033】
乳化重合により得た重合体を含む水分散型粘着剤組成物には、単量体混合物の重合段階で溶剤不溶分を非常に多く含むものがあり、架橋剤を用いて架橋せずとも粘着シートの製造初期から端末剥がれが発生する場合もある。そのため、単量体混合物の重合時に連鎖移動剤を用いて、得られる重合体の分子量の絶対値を下げることにより、重合後の溶剤不溶分を低減することが望ましい。また、重合後の溶剤不溶分を低減できれば、エマルション粒子の内部と外部でより均一に架橋できるため、粘着剤層の系全体の物性がより安定化すると予測される。したがって、連鎖移動剤を用いて重合後の溶剤不溶分をより低減することにより、端末剥がれを抑制することが可能になる。
【0034】
本発明においては、水分散型粘着剤組成物の用途に応じて架橋剤を含有することができる。架橋剤としては、当該技術分野において通常用いられている架橋剤を使用することができ、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、油溶性及び水溶性のいずれであってもよい。なお、溶剤不溶分は、重合体を架橋する際にも増加するが、通常架橋剤の添加量により水分散型粘着剤組成物の調製初期の溶剤不溶分を決定することができる。ここで、「溶剤不溶分」とは、所定量(約500mg)の試料を秤量し(そのうちの不揮発分の重量をWmgとする)、これを酢酸エチル中に室温で3日間浸漬した後、不溶物を取り出し、この不溶物を100℃で2時間乾燥して重量(Wmg)を測定し、下記式にしたがって算出したものをいう。
溶剤不溶分(重量%)=W/W×100
【0035】
さらに、本発明においては、水分散型粘着剤組成物の用途に応じて粘着付与剤を含有することもできる。粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、キシレン樹脂、エラストマー等を挙げることができる。
さらに、本発明の水分散型粘着剤組成物は、必要に応じて粘着剤に通常使用される添加剤、例えば、老化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、pHを調整するための塩基(例えば、アンモニア水)等が添加されていてもよい。
【0036】
次に、本発明の粘着シートについて説明する。
図1は、本発明の粘着シートの一実施形態を示す断面図である。粘着シート10は、支持体1と、基材1の片面に形成された粘着剤層3とを備えるものである。粘着剤層3はそれ自体が粘着性を有しており、前述した本発明の水分散型粘着剤組成物から構成されていることを特徴とする。粘着シート10は、テープ、シート及びフィルムのいずれの形態であってもよい。
【0037】
基材1としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレンープロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム類;和紙、クラフト紙等の紙類;綿布、スフ布等の布類;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布類;金属箔等が挙げられる。上記プラスチックフィルムは、無延伸フィルム及び延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムのいずれであってもよい。
【0038】
基材1は多価金属化合物を含んでいてもよく、多価金属化合物を含む基材1としては、例えば上記材質に多価金属化合物を練り込んで成形された基材が挙げられる。多価金属化合物を構成する多価金属原子としては、Al、Cr、Zr、Co、Cu、Fe、Ni、V、Zn、In、Ca、Mg、Mn、Y、Ce、Sr、Ba、Mo、La、Sn、Ti等が挙げられ、これらの金属は2価又はそれ以上の価数の金属イオンとなりうる。多価金属化合物としては特に限定されるものではないが、具体的には、酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、珪酸アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、珪酸アルミン酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジアセテート、塩化第一鉄、安息香酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等が挙げられる。
【0039】
また、基材1の、水分散型粘着剤組成物を塗布すべき面には、通常使用される下塗剤やコロナ放電方式等による表面処理が施されていてもよい。
基材1の厚みは目的に応じて適宜選択できるが、端末剥がれの一因となる耐反発性は基材1の曲げ弾性率と厚さの影響を多分に受けるため、厚さを可及的に薄くした方がよい。一般的には、基材1の厚さは通常10〜500μm、好ましくは30〜400μm、より好ましくは50〜300μmである。
【0040】
粘着シート10は、例えば、前述した本発明の水分散型粘着剤組成物を基材1上に塗布、乾燥して粘着剤層3を形成することにより得られる。水分散型粘着剤組成物が架橋剤を含む場合には、通常、加熱により熱架橋して粘着剤層3を形成する。熱架橋は、慣用の方法、例えば、架橋剤の種類に応じて架橋反応が進行する温度にまで加熱することにより行われる。
基材1上に水分散型粘着剤組成物を塗布する場合には、慣用のコーター、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いることができる。この場合、乾燥後の粘着剤層3の厚みが、通常5〜100μm程度、好ましくは10〜60μm程度、より好ましくは15〜40μm程度となるように水分散型粘着剤組成物を塗布する。
【0041】
架橋後の粘着剤層3中の溶剤不溶分の割合は、例えば25〜85重量%程度である。溶剤不溶分の割合は、例えば、単量体混合物の総量に対する上記シラン系単量体又は官能基含有単量体の割合、連鎖移動剤や架橋剤の種類や量、特にシラン系単量体と連鎖移動剤の量を適宜調整することにより任意に設定することができる。また、(メタ)アクリル酸エステルの種類により、端末剥がれが発生する溶剤不溶分の割合が異なる。例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしてブチルアクリレートを単独で用いた場合には、他の単量体の種類、配合量、基材の種類、厚さ等に多少影響されるが、概ね溶剤不溶分の割合が85重量%程度まで端末剥がれの発生のないものが得られる。
【0042】
また、粘着剤層3上には剥離ライナーを備えていてもよい。剥離ライナーとしては、上記基材1で例示した材料等が挙げられる。剥離ライナーの表面には粘着剤層3からの剥離性を高めるため、必要に応じてシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理等の離型処理が施されていてもよい。なお、上記実施形態においては、基材1の片面に粘着剤層3が形成された粘着シート10について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、基材1の両面に粘着剤層3が形成された粘着シートであってもよい。
【0043】
カルボキシル基等の酸残基を有するアクリル系粘着剤組成物においては、酸残基に多価金属イオンが結合して重合体の架橋反応が進行して端末剥がれが起こり、粘着特性が低下する。基材や被着体に含まれる多価金属化合物は、標準状態のような比較的良好な状態であっても多価金属イオンを発生し粘着特性の低下を及ぼし、特に高温多湿等の悪条件になると粘着特性の低下が著しくなる。前述した多価金属化合物のうち、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムのような水酸化物は、水溶性で、しかも難燃剤として多量に使用される場合が多いため、粘着シートの基材及び/又は被着体に上記水酸化物が添加されている場合には、経時で粘着特性の低下が顕著に現れる。これに対し、本発明の粘着シートにおいては、粘着剤層を構成する水分散型粘着剤組成物のベースポリマーが特定の単量体単位からなり、かつカルボキシル基等の酸残基を含まないため、粘着剤層が多価金属化合物と接触するいかなる環境(保存又は使用する環境)においても、端末剥がれが十分に抑制されている。よって、本発明によれば粘着特性の変化が極めて少ない粘着シートとすることができる。なお、被着体としては、例えば、各種プラスチック材料、金属材料、紙材、繊維材料等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(粘着シート用基材の作製)
各実施例及び比較例において、水分散型粘着剤組成物の性能を公平に評価するために、使用する基材は全て同一のものを使用した。
エチレン−酢酸ビニル共重合体[商品名:エバフレックスEV270、三井デュポンポリケミカル(株)製]50重量部、低密度ポリエチレン[商品名:スミカセンG201、住友化学(株)製]50重量部、及び多価金属化合物としての水酸化マグネシウム(平均粒子径0.8μm)の表面を飽和脂肪酸で表面処理したもの[商品名:キスマ5A、協和化学工業(株)製]100重量部を配合し、加圧ニーダーにて混練して混和物を作製した。該混和物をカレンダー圧延機により0.16mmの厚さのフイルムに成形して粘着シート用基材を作製した。
【0046】
(水分散型粘着剤組成物及び粘着シートの製造)
(実施例1)
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル95重量部、N−イソプロピルアクリルアミド5重量部、及び3一メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン[商品名:KBM−503、信越化学工業(株)製]0.01重量部からなる単量体混合物を加えた。次いで、開始剤としての2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部を添加し、硫酸アンモニウム塩系反応性乳化剤[商品名:アクアロンHS−10、第一工業製薬(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整し重合体組成物を得た。
上記重合組成物の固形分100重量部に対し、粘着付与剤としての重合ロジン系樹脂[商品名:E−865、荒川化学工業(株)製]20重量部(固形分)、石油系炭化水素樹脂[商品名:AP−1085、荒川化学工業(株)製]10重量部(固形分)をそれぞれ加えて水分散型粘着剤組成物を得た。
次いで、上記で得られた基材の片面に下塗剤を施した後、水分散型粘着剤組成物を乾燥後の粘着剤層の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に上記で得られた別の基材を更に貼り合わせて粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は84重量%であった。
【0047】
(実施例2)
上記実施例1において、N−イソプロピルアクリルアミドの代わりに、N,N−ジエチルアクリルアミド5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は83重量%であった。
【0048】
(実施例3)
上記実施例1において、N−イソプロピルアクリルアミドの代わりに、N−シクロへキシルマレイミド5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は82重量%であった。
【0049】
(実施例4)
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル70重量部、アクリル酸2−エチルへキシル28重量部、N−イソプロピルアクリルアミド2重量部、及び3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン[商品名:KBM−503、信越化学工業(株)製]0.02重量部からなる単量体混合物を加えた。次いで、連鎖移動剤としての1−ドデカンチオール0.05重量部、及び開始剤としての2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部を添加し、硫酸アンモニウム塩系反応性乳化剤[商品名:アクアロンHS−10、第一工業製薬(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整して重合体組成物を得た。以下、実施例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は17重量%であった。
【0050】
(実施例5)
上記実施例4において、N−イソプロピルアクリルアミドの代わりに、N−シクロへキシルマレイミド2重量部を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は20重量%であった。
【0051】
(比較例1)
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル90重量部、N−イソプロピルアクリルアミド5重量部、アクリル酸5重量部、及び3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン[商品名:KBM−503、信越化学工業(株)製]0.01重量部からなる単量体混合物を加えた。次いで、開始剤としての2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部を添加し、硫酸アンモニウム塩系反応性乳化剤[商品名:アクアロンHS−10、第一工業製薬(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整して重合体組成物を得た。以下、実施例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は85重量%であった。
【0052】
(比較例2)
上記比較例1において、N−イソプロピルアクリルアミドの代わりに、N−シクロへキシルマレイミド5重量部を用いたこと以外は、比較例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は86重量%であった。
【0053】
(比較例3)
冷却管、窒素導入管、温度計及び捜拝機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル70重量部、アクリル酸2−エチルへキシル29重量部、メタクリル酸1重量部、及び3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン[商品名:KBM−503、信越化学工業(株)製]0.02重量部からなる単量体混合物を加えた。次いで、連鎖移動剤としての1−ドデカンチオールを0.05重量部、開始剤としての2,2′−アゾビス[2−(5−メチルー2−イミダゾリンー2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部を添加し、硫酸アンモニウム塩系反応性乳化剤[商品名:アクアロンHS−10、第一工業製薬(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整して重合体組成物を得た。以下、比較例1と同様の方法により水分散型粘着剤組成物を得、粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は30重量%であった。
【0054】
(比較例4)
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル9重量部、アクリル酸2−エチルへキシル90重量部、メタクリル酸1重量部、及び開始剤として2,2′−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部からなる単量体混合物を添加し、硫酸アンモニウム塩系非反応性乳化剤[商品名:エマールAD−25R、花王(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整して重合体組成物を得た。上記重合組成物の固形分100重量部に対し、エポキシ系架橋剤[商品名:TETRAD−C、三菱ガス化学(株)製]0.01重量部、並びに粘着付与剤としてのロジン系樹脂[商品名:E−865、荒川化学工業(株)製]20重量部(固形分)、及び石油系炭化水素樹脂[商品名:AP−1085、荒川化学工業(株)製]10重量部(固形分)をそれぞれ加え、水分散型粘着剤組成物を得た。
次いで、上記で得られた基材の片面に下塗剤を施した後、水分散型粘着剤組成物を乾燥後の粘着剤層の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に上記で得られた別の基材を更に貼り合わせて粘着シートを作製した。更に架橋反応を完了させるため、60℃で24時間エージングを行うことにより、評価サンプルを得た。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は59重量%であった。
【0055】
(比較例5)
冷却管、窒素導入管、温度計及び捜拝機を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル70重量部、アクリル酸2−エチルへキシル29重量部、メタクリル酸1重量部からなる単量体混合物を加えた。次いで、連鎖移動剤としての1−ドデカンチオール0.1重量部、及び開始剤としての2,2′−アゾビス[2−(5一メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド0.05重量部を添加し、硫酸アンモニウム塩系非反応性乳化剤[商品名:エマールAD−25R、花王(株)製]2重量部を添加した水溶液100重量部を更に加えて、60℃で2時間、乳化重合を行った。そして、反応溶液に10%アンモニウム水を添加してpH8に調整して重合体組成物を得た。上記重合組成物の固形分100部に対し、エポキシ系架橋剤[商品名:TETRAD−C、三菱ガス化学(株)製]0.15重量部、並びに粘着付与剤としてのロジン系樹脂[商品名:E−865、荒川化学工業(株)製]20重量部(固形分)及び石油系炭化水素樹脂[商品名:AP−1085、荒川化学工業(株)製]10重量部(固形分)をそれぞれ加え、水分散型粘着剤組成物を得た。
次いで、上記で得られた基材の片面に下塗剤を施した後、水分散型粘着剤組成物を乾燥後の粘着剤層の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に上記で得られた別の基材を更に貼り合わせて粘着シートを作製した。更に架橋反応を完了させるため、60℃で24時間エージングを行うことにより、評価サンプルを得た。なお、粘着剤層の溶剤不溶分は21重量%であった。
【0056】
[評価試験]
作製直後の各粘着シートと、温度50℃、湿度92%の環境下で4週間保存し、更に温度23℃、湿度50%の標準状態で2時間放置した後の各粘着シートについて、以下に示す方法により端末剥がれ及び接着力を評価した。評価結果を表1及び2に示す。
【0057】
(端末剥がれの評価)
ASTM D1000−88(電気・電子用の感圧接着テープの試験方法)の端末剥がれ性試験法に準じて測定を行った。
具体的には次のような方法で評価を行った。
作製直後又は保存後の各粘着シートから、幅6.4mm、長さ300mmの試験片を切り取る。次いで、一方の基材を剥がし、試験片の方端に380gの荷重を付けて1分間荷重をかけた状態を保つ。その後、直径3.2mm径の鋼棒に試験片が重ならないように1層巻き付ける。
次いで、1層目と同様に、試験片の方端に380gの荷重を付けて1分間荷重をかけた後、1層目の試験片の上に2層目をハーフラップ(1/2重ね合わせ)で巻き付ける。
2層目の終点部に、長さ約3mm、幅約10mm程度の紙を挟み込んで巻き付け、紙を挟んだ直後の試験片をはさみ等で切り取る。
このように準備した試料を、他のものと接触しないように垂直に立てて固定して、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間保存した後、紙で挟んだ端部が巻き付け部位から剥がれている長さを測定する。そして、剥がれている長さ(端末剥がれ距離)が5.0mm以下のものを合格とした。
【0058】
(接着力の評価)
ASTM D1000−88(電気・電子用の感圧接着テープの試験方法)の接着力試験(A法)に準じて測定を行った。
具体的には次のような方法で評価を行った。
作製直後又は保存後の各粘着シートから、幅19mm、長さ150mmの試験片を切り出し、評価用サンプルを準備する。
次いで、最後に貼り合せた基材の裏側に、幅50mm、長さ150mm程度の鋼板を両面テープで貼り合わせる。
次いで、このサンプルの粘着剤層を基材から一旦剥がし、再度空気の混入がないように貼り付けた後に、重さ2kgのローラにて貼り合わせた箇所を1往復転がし、圧着させる。
次いで、20分間放置した後、粘着剤層と基材とが反対方向に引っ張られるように、引張試験機[AG−20KNG、(株)島津製作所製]のチャックに挟み、23℃、50%RHの雰囲気下、300m/minの速度で引っ張ることにより、180°方向の自背面接着力を測定する。そして、自背面接着力が2.0N/19mm以上である場合、接着性が良好であると判断する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜5においては、アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体が含まれていないため、温度50℃、湿度92%の条件で4週間保存した後にも端末剥がれが発生することなく、また接着力の低下や異常な上昇も見られなかった。
これに対し、窒素含有単量体と同量のアクリル酸が添加された比較例1及び2においては、初期値は良好であるものの、4週間保存後には端末剥がれが発生し、また接着力の低下も見られた。また、窒素含有単量体が未添加である比較例3〜5においても同様に、4週間保存した後の粘着特性は低下することが確認された。
以上のことから、粘着シートを構成する粘着剤層の形成に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、これと共重合可能な窒素含有単量体及びシラン系単量体を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有する水分散型粘着剤組成物を用いることにより、多価金属化合物による架橋反応の進行が回避されるため、端末剥がれを抑制し、経時での粘着特性の低下を防止可能な粘着シートが得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の粘着シートの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1…基材、3…粘着剤層、10…粘着シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な窒素含有単量体及びシラン系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、かつ酸残基を実質的に含まない重合体を含有することを特徴とする、水分散型粘着剤組成物。
【請求項2】
シラン系単量体の含有量が(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して0.005〜1重量部であることを特徴とする、請求項1記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項3】
シラン系単量体がアルコシキ基含有シラン系単量体であることを特徴とする、請求項1又は2記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項4】
窒素含有単量体の含有量が(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び窒素含有単量体の合計100重量部に対して0.5〜50重量部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項5】
重合体が(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な反応性乳化剤の存在下に単量体混合物を乳化重合して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項6】
基材の片面又は両面に、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層が積層されていることを特徴とする、粘着シート。
【請求項7】
基材が多価金属化合物を含むことを特徴とする、請求項6記載の粘着シート。
【請求項8】
多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、請求項7記載の粘着シート。
【請求項9】
被着体に貼付するための粘着剤組成物であって、
粘着剤組成物が請求項1〜5のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物であり、かつ
被着体が多価金属化合物を含むことを特徴とする、粘着剤組成物。
【請求項10】
多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、請求項9記載の粘着剤組成物。
【請求項11】
被着体に貼付するための粘着シートであって、
粘着シートが請求項6〜8のいずれか一項に記載の粘着シートであり、かつ
被着体が多価金属化合物を含むことを特徴とする、粘着シート。
【請求項12】
多価金属化合物が金属水酸化物であることを特徴とする、請求項11記載の粘着シート。


【図1】
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【公開番号】特開2007−112842(P2007−112842A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303244(P2005−303244)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】