説明

水力機械のランナ

【課題】ランナの内径側の狭隘部や羽根入口部に対し溶射等によるコーティングを容易に施工可能とするとともに、羽根面全面へのコーティングも容易に施工可能とする。
【解決手段】外側ランナ1と中間ランナ2と内側ランナ3とからなる水力機械のランナであって、前記外側ランナ1と中間ランナ2を分離可能に締結する締結部材7、8と、前記中間ランナ2と内側ランナ3を分離可能に締結する締結部材9、10を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水車等の水力機械に用いられるランナに関し、特に、加工及びメンテナンスが容易なランナに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水力発電設備に用いられる水力機械1としては、いわゆるフランシス型の水車が比較的多く用いられている。フランシス型の水車は、図6に示すように、主に、渦巻きケーシング32、ランナ33、クラウン35、ランナバンド36、羽根37、38、ガイドベーン39、スピードリング40、ステーベーン42、吸出し管(ドラフトチューブ)44、主軸46、から構成されている。そして、ランナ33は、主軸46を介して図示しない発電機に連結される一方、上池(図示せず)からの水が、渦巻きケーシング32に導かれ、さらにこの渦巻きケーシング32の内周側の環状のスピードリング40、ステーベーン42及びガイドベーン39を通過する過程で増速しつつ角運動が付与されてランナ33内に流入し、ランナ33を回転させる。ランナ33の回転運動は主軸46を介して発電機を回転させて電気を発生させる。一方、ランナ33を回転させた水は出口側(内周側)から流出し、吸出し管44を経て下流の下池(図示せず)へと流れる。
【0003】
ところで、水車等の水力機械は動作流体に土砂などの固体を含む河川水を使用するため、ランナ部において土砂摩耗による損傷が生じやすい。特に、フランシス型水車のようなランナ形状では、流水がランナに流入する羽根入口部や、羽根の厚さが薄くなり摩耗による影響が大きい羽根出口部の損傷が大きな問題となっている。
【0004】
このような土砂摩耗等による損傷の対策として、従来から羽根表面に塗装や溶接、溶射等のコーティングによる土砂摩耗対策が施工されている。近年では、フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)によるコーティング技術が開発され、タングステンカーバイド(WC)材料等の高硬度材料が耐土砂摩耗に有効であることが知られている。
【0005】
しかしながら、フレーム溶射(以下、「溶射」という)を行う際、フランシス水車のようなランナの形状の場合は、機材の寸法による制約から土砂摩耗の著しい内径側(羽根出口側)の狭隘部や羽根入口部位への施工が困難であることから、各部材に溶射を施工した後にクラウン、バンド及び羽根を溶接組立する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−193568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のランナに対する溶射等によるコーティング方法では、コーティング後に溶接組立を実施するが、母材とコーティング材とが異材で熱膨張率が異なることから、高温になるとコーティング材の割れ、剥離等が生じる危険性があるため、必要な応力除去のための焼鈍処理ができないという課題があった。
また、長期運用を開始した後に発生したコーティング損傷部に対しては、溶射コーティングによる再補修ができない等の課題があった。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、ランナの内径側の狭隘部や羽根入口部に対する溶射等によるコーティングを容易に施工可能とするとともに、羽根面全面へのコーティングも容易に施工可能とし、かつ、溶射後の各部材の溶接施工を不要とする水力機械のランナを提供することを目的とする。
【0009】
さらに、長期運用を開始した後のコーティング損傷部の補修に対しても、内径側と外径側を分割することにより容易にコーティング部を再補修可能とする水力機械のランナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る水力機械のランナは、外側ランナと中間ランナと内側ランナとからなる水力機械のランナであって、前記外側ランナと中間ランナを分離可能に締結する締結部材と、前記中間ランナと内側ランナを分離可能に締結する締結部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ランナの内径側の狭隘部や羽根入口部に対し溶射等によるコーティングを容易に施工可能とするとともに、羽根面全面へのコーティングも容易に施工でき、かつ、溶射後の各部材の溶接施工を不要とすることができる。また、長期運用を開始した後のコーティング損傷部の補修に対しても、ランナを分割構造としたことによりコーティングの再補修を簡便に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るランナの構成図。
【図2】(a)は第2の実施形態に係るランナの構成図、(b)はA−A断面図。
【図3】(a)は第3の実施形態に係るランナの構成図、(b)はB−B断面図。
【図4】(a)は第4の実施形態に係るランナの構成図、(b)はC−C断面図。
【図5】第5の実施形態に係るランナの平面図
【図6】従来のランナの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る水力機械のランナの実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係るランナを図1により説明する。
(構成)
本第1の実施形態のランナは、外側ランナ1、中間ランナ2及び内側ランナ3から構成されている。外側ランナ1と中間ランナ2は締結ホルダー4、5を介してボルト等の締結部材7、8により分離可能に締結されている。又、中間ランナ2と内側ランナ3は、ボルト等の締結部材9、10により分離可能に締結されている。
【0014】
このような締結構造を採用することにより、従来のランナと同等の構造及び同等の水力性能を実現している。また、これらの締結構造により一体となったランナはボルト等からなるランナ締結部材11によって水車の主軸12と締結され、主軸12は図示しない発電機または発電電動機等に直結されている。
【0015】
外側ランナ1は外側ランナ羽根1aおよびそれと溶接により一体化された外側ランナクラウン1b、外側ランナバンド1cから構成されている。又、中間ランナ2は中間ランナ羽根2aおよびそれと溶接により一体化された中間ランナクラウン2b、中間ランナバンド2cから構成されており、内側ランナ3は内側ランナ羽根3aおよびそれと溶接により一体化された内側ランナクラウン3b、内側ランナバンド3cから構成さている。また、中間ランナ2と内側ランナ3との間にはノックピン等の位置決め部材13が挿入されている。
【0016】
(作用)
このように構成された第1の実施形態において、外側ランナ1と内側ランナ3は中間ランナ2に対して分離可能であり、また再組立時には位置決め部材13やホルダー5に設けた段差による嵌め合い構造の作用により組立時の状態を容易に再現できる。
【0017】
また、ランナを外中内に3分割することにより、羽根幅が短い内径側の狭隘部に対し両側からのコーティング施工が可能となり、また、外径側も内径側部分が無いことにより作業性が向上する。これにより、羽根およびクラウンやバンド部全面のコーティングを容易に実施することができる。
【0018】
また、羽根内径側の狭隘部への溶射等によるコーティング作業を溶接組立および応力除去焼鈍後に施工できるため、従来のランナの材料強度を保持したまま、ランナの耐摩耗特性を向上させることができる。
【0019】
さらに、コーティングの損傷部の補修時に、土砂摩耗の著しい外側ランナ1と内側ランナ3を分解することにより溶射等によるコーティングの再補修が容易に実施可能となり、再組立時にも位置決め部材や嵌め合い構造により当初の組立状態を容易に再現できるため、当初のランナ構造、および水力性能を確実かつ簡便に復元することが可能となる。
【0020】
(効果)
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、外側ランナと内側ランナを簡単に分離及び再組立可能としたことにより溶射等によるコーティング作業の作業性が向上し、ランナの材料強度を保持したまま、耐摩耗特性を向上させることができる。また、コーティングの損傷部の補修も外側ランナと内側ランナを分解可能としたことにより簡便に行うことができる。
【0021】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係るランナを図2(a)、(b)により説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
本第2の実施形態に係る水力機械のランナは、外側ランナ1に締結部材挿入孔14、15を設け、この挿入孔14、15に挿入されたボルト等の締結部材7、8により中間ランナ2と外側ランナ1を接合することを特徴としている。
【0023】
これにより、第1の実施形態と同様に、内径側の狭隘部や羽根入口部に対し溶射等によるコーティングが容易に施工可能となるとともに、羽根面全面へのコーティングも容易に施工できる。また、コーティング損傷部の補修に対しても、ランナを分割構造としたことにより容易にコーティングの再補修が可能となる。
【0024】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係るランナを図3(a)、(b)により説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
本第3の実施形態に係る水力機械のランナは、外側ランナ1、中間ランナ2及び内側ランナ3のそれぞれの羽根間の接合部に、ノックピン等からなる変形防止部材16、17を各接合部につき1本以上挿入した構成にしている。
【0026】
これにより、水車運転状態での羽根接合部の水圧による変形を抑止することができるとともに、羽根に対する負荷が大きな大流量運転時でも効率が低下することなく、安定した運転が可能となる。
【0027】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係るランナを図4(a)、(b)により説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
本第4の実施形態に係るランナは、外側ランナ1、中間ランナ2及び内側ランナ3のそれぞれの羽根間の接合部を、図4(b)に示すように、段差構造とし相互に嵌め合うように構成されている。
【0029】
これにより、第3の実施形態と同様に、水車運転状態での羽根接合部の水圧による変形を抑止することができ、翼負荷の大きな大流量運転時でも効率低下する事なく、安定した運転が可能となる。
【0030】
[第5の実施形態]
第5の実施形態に係るランナを図5により説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0031】
本第5の実施形態に係るランナは、ランナを周方向に複数に分割し、分割されたランナのフランジ部18〜21をボルト等(図示せず)により締結した構造にしている。
これにより、分割された各ランナのサイズは小さくなり、河川土砂と比較して硬度が格段に高いDLC(ダイアモンドライクカーボン)のコーティング炉に入れることが可能となる。したがって、ランナ構成要素にDLCをコーティングすることにより、補修することなく永久的に土砂摩耗しないランナ構造を実現することができる。
なお、本実施形態では、ランナは4つに分割されているが、これに限定されず、任意の数に分割することができる。
【0032】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組合せ、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1…外側ランナ、1a…外側ランナ羽根、1b…外側ランナクラウン、1c…外側ランナバンド、2…中間ランナ、2a…中間ランナ羽根、2b…中間ランナクラウン、2c…中間ランナバンド、3…内側ランナ、3a…内側ランナ羽根、3b…内側ランナクラウン、3c…内側ランナバンド、4、5…締結ホルダー、7,8,9,10…締結部材、11…ランナ締結部材、12…水車主軸、13…位置決め部材、14,15…締結部材、16,17…変形防止部材、18,19,20,21…フランジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側ランナと中間ランナと内側ランナとからなる水力機械のランナであって、前記外側ランナと中間ランナを分離可能に締結する締結部材と、前記中間ランナと内側ランナを分離可能に締結する締結部材を有することを特徴とする水力機械のランナ。
【請求項2】
前記外側ランナと中間ランナを分離可能に締結する締結部材は締結ホルダーを介して前記外側ランナと中間ランナに締結されることを特徴とする請求項1記載の水力機械のランナ。
【請求項3】
前記外側ランナに締結部材の挿入孔を設け、前記外側ランナと中間ランナを前記挿入孔に挿入された締結部材によって分離可能に締結することを特徴とする請求項1記載の水力機械のランナ。
【請求項4】
前記外側ランナと中間ランナと内側ランナの各ランナ羽根の接合部に位置決め部材を設けたことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の水力機械のランナ。
【請求項5】
前記位置決め部材は前記各ランナ羽根を接続するピンであることを特徴とする請求項4いずれかに記載の水力機械のランナ。
【請求項6】
前記外側ランナと中間ランナと内側ランナの各ランナ羽根の接合部を段差構造としたことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の水力機械のランナ。
【請求項7】
前記ランナを周方向に複数に分割したことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の水力機械のランナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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