説明

水変色性布帛シート及びそれを用いた水変色性描画玩具セット

【課題】液体を用いた多孔質層への像形成が可能なシートに、織物からなる布帛を支持体として用いた場合であっても、液体吸収による布帛端部のほつれの発生やシート外部への水漏れが生じ難い水変色性布帛シートとそれを用いた水変色性描画玩具セットを提供する。
【解決手段】織物からなる布帛2上の少なくとも一部に、低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層3を設けてなる水変色性布帛シート1において、前記布帛2の外周部分に、全周にわたって耐水性樹脂を用いた耐水性樹脂層4を設けてなる。前記水変色性布帛シート1と、水付着具とからなる水変色性描画玩具セット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水変色性布帛シートとそれを用いた水変色性描画玩具セットに関する。更には、乾燥した状態と、水を付着させた吸液状態で異なる様相を示す水変色性布帛シートとそれを用いた水変色性描画玩具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、TCブロードの織物からなる布帛上に、低屈折率顔料を含む多孔質層を設けた水変色性布帛シートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
前記水変色性布帛シートは、多孔質層に水等の液体を吸液させることにより透明化して下層の色調を視認させることで像を形成できるものであるが、織物からなる布帛を用いた場合、外周部分(布帛端部)からのほつれが生じ易く、特に、綿を含む布帛においては外周部分に水が付着することで膨潤するため、ほつれの発生頻度が高くなる。
そこで前記シートでは、布帛の外周部分を縫製してほつれ止め効果を付与している。
しかしながら、縫製作業を用いる場合には、多孔質層を印刷する工程の前後での作業が必要になるため製造コストが高くなると共に、シート端部近傍に付着した水がシート外周部分(縫い代)に移動し易くなるため、外周部分から水が漏れてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3096167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液体を用いた多孔質層への像形成が可能なシートに、織物からなる布帛を支持体として用いた場合であっても、液体吸収による布帛端部のほつれの発生やシート外部への水漏れが生じ難い水変色性布帛シートとそれを用いた水変色性描画玩具セットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、織物からなる布帛上の少なくとも一部に、低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層を設けてなる水変色性布帛シートであって、前記布帛の外周部分に、全周にわたって耐水性樹脂を用いた耐水性樹脂層を設けてなる水変色性布帛シートを要件とする。
また、織物からなる布帛の表面に低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層を設けてなり、前記多孔質層の外周の布帛表面に耐水性樹脂を用いた耐水性樹脂層を形成した後、前記耐水性樹脂層又はその外周に沿って栽断することで形成される水変色性布帛シートを要件とする。
更に、前記耐水性樹脂層が顔料を含むこと、前記耐水性樹脂層が、湿潤状態での摩擦堅牢度が4級以上であること、前記耐水性樹脂層内周且つ多孔質層外周に、前記耐水性樹脂層に用いた樹脂と同様の耐水性樹脂をバインダーとした着色像が形成されること、前記耐水性樹脂がウレタン樹脂であること、前記耐水性樹脂層の布帛への浸透率が50%以上であること、前記布帛の目付量A(g/m)と、耐水性樹脂層の目付量B(g/m)が、0.1≦B/A<1.0の関係を満たすこと、前記布帛が、綿を30%以上含有することを要件とする。
更に、前記いずれかの水変色性布帛シートと、水付着具とからなる水変色性描画玩具セットを要件とし、前記水付着具は、連続気孔を有するプラスチック多孔体又は繊維加工体をペン先部材として適用した筆記具又は塗布具形態であることを要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、液体による多孔質層への像形成が可能なシートに、織物からなる布帛を支持体として用いた場合であっても、縫製等の高コストな技術を用いることなく、液体吸収による布帛端部のほつれの発生やシート外部への水漏れを抑制することができる。その際、布帛の外周部分が水付着手段である塗布具等のペン先での摩擦によって色移りや破損を生じることなく、長期的に性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の水変色性描画玩具セットの実施例の説明図である。
【図2】図1の水変色性布帛シートの要部縦断面図である。
【図3】本発明の水変色性布帛シートの他の実施例の縦断面図である。
【図4】本発明の水変色性布帛シートの他の実施例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前記水変色性布帛シートは、支持体となる布帛表面の少なくとも一部に、低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層を設けたものであり、更に、前記布帛の外周部分に対して、全周に亘って耐水性樹脂層を形成したものである。
【0009】
前記布帛としては、織物が用いられる。
前記布帛の構成繊維としては、綿、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系の合成繊維、アセテート系の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維が挙げられる。尚、好適に用いられる繊維は、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系合成繊維、アセテート系の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維及び綿が挙げられる。
また、前記構成繊維のうちで綿を30%以上用いたものは、布帛基材に適度な吸水性を有するため汎用性の高いものであるが、液体吸収による膨潤が大きくなりほつれが発生し易くなるため、本願発明の効果がより顕著なものとなる。
【0010】
前記布帛の目付量としては30〜1000g/mのものが好適に用いられる。
目付け量が30g/m未満では、布帛上に形成される多孔質層が粗になるため、明瞭な像を形成し難くなる。一方、目付け量が1000g/mを超えると、布帛が必要以上に肉厚となり、加工性に乏しくなる。また、布帛が大面積の場合、折り畳み保存性や軽量性を損ない易くなる。
【0011】
前記布帛上に形成される多孔質層は、低屈折率顔料をバインダー樹脂と共に分散状態に固着させた層である。
前記低屈折率顔料としては、珪酸及びその塩、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、タルク、アルミナホワイト、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
前記低屈折率顔料は、屈折率が1.4〜1.8の範囲にあり、液体を吸液すると良好な透明性を示すものである。
なお、前記珪酸の塩としては、珪酸アルミニウム、珪酸アルミニウムカリウム、珪酸アルミニウムナトリウム、珪酸アルミニウムカルシウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、珪酸カルシウムナトリウム、珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウムカリウム等が挙げられる。
前記低屈折率顔料の粒径は特に限定されるものではないが、0.03〜10.0μmのものが好適に用いられる。
また、前記低屈折率顔料は二種以上を併用することもできる。
尚、好適に用いられる低屈折率顔料としては珪酸が挙げられる。
前記珪酸は、乾式法により製造させる珪酸(以下、乾式法珪酸と称する)であってもよいが、湿式法により製造される珪酸(以下、湿式法珪酸と称する)が好適である。
この点を以下に説明する。
珪酸は非晶質の無定形珪酸として製造され、その製造方法により、四塩化ケイ素等のハロゲン化ケイ素の熱分解等の気相反応を用いる乾式法によるものと、ケイ酸ナトリウム等の酸による分解等の液相反応を用いる湿式法によるものとに大別される。
乾式法珪酸と湿式法珪酸とでは構造が異なり、前記乾式法珪酸は珪酸が密に結合した構造であるのに対して、湿式法珪酸は、珪酸が縮合して長い分子配列を形成した構造部分を有している。
従って、湿式法珪酸は乾式法珪酸と比較して分子構造が粗になるため、湿式法珪酸を多孔質層に適用した場合、乾式法珪酸を用いた系と比較して乾燥状態における光の乱反射性に優れ、常態での隠蔽性が大きくなるものと推察される。
また、多孔質層は水を吸液させるものであるから、湿式法珪酸は乾式法珪酸に比べて粒子表面にシラノール基として存在する水酸基が多く、親水性の度合いが大であり、好適に用いられる。
尚、前記多孔質層の常態での隠蔽性と吸液状態での透明性を調整するために、湿式法珪酸と共に、他の低屈折率顔料を併用することもできる。
【0012】
前記バインダー樹脂としては、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、及び前記各樹脂エマルジョン、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
前記低屈折率顔料とこれらのバインダー樹脂の混合比率は、低屈折率顔料の種類及び性状に左右されるが、好ましくは、低屈折率顔料1質量部に対してバインダー樹脂固形分0.5〜2質量部であり、より好ましくは、0.8〜1.5質量部である。低屈折率顔料1質量部に対してバインダー樹脂固形分が0.5質量部未満の場合には、前記多孔質層の実用的な皮膜強度を得ることが困難であり、2質量部を越える場合には、前記多孔質層内部への水の浸透性が悪くなる。
前記多孔質層は、一般的な塗膜と比較して着色剤に対するバインダー樹脂の混合比率が小さいため、十分な皮膜強度が得られ難い。そこで、前記のバインダー樹脂のうち、ナイロン樹脂又はウレタン系樹脂を用いて耐擦過強度を高めることが好ましい。
前記ウレタン系樹脂としては、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂等があり、2種以上を併用することもできる。又、前記樹脂が水に乳化分散したウレタン系エマルジョン樹脂や、イオン性を有するウレタン樹脂(ウレタンアイオノマー)自体のイオン基により乳化剤を必要とすることなく自己乳化して、水中に溶解乃至分散したコロイド分散型(アイオノマー型)ウレタン樹脂を用いることもできる。
尚、前記ウレタン系樹脂は水性ウレタン系樹脂又は油性ウレタン系樹脂のいずれを用いることもできるが、本発明においては水性ウレタン系樹脂、殊に、ウレタン系エマルジョン樹脂やコロイド分散型ウレタン系樹脂が好適に用いられる。
前記ウレタン系樹脂は単独で用いることもできるが、布帛の種類や皮膜に必要とされる性能に応じて、他のバインダー樹脂を併用することもできる。ウレタン系樹脂以外のバインダー樹脂を併用する場合、実用的な皮膜強度を得るためには、前記多孔質層のバインダー樹脂中にウレタン系樹脂を固形分質量比率で30%以上含有させることが好ましい。
前記バインダー樹脂において、架橋性のものは任意の架橋剤を添加して架橋させることにより、さらに皮膜強度を向上させることができる。
前記バインダー樹脂には、水との親和性に大小が存在するが、これらを組み合わせることにより、多孔質層中への浸透時間、浸透度合い、浸透後の乾燥の遅速を調整することができる。更には、適宜分散剤を添加して前記調整をコントロールすることができる。
前記多孔質層の塗布量は5〜50g/m、好ましくは、10〜30g/mである。
5g/m未満では、常態で十分な隠蔽性を得ることが困難であり、又、50g/mを越えると吸液時に十分な透明性を得ることが困難である。
【0013】
尚、前記多孔質層中には、一般染料や蛍光染料、着色顔料を添加して色変化を多様化することができる。
前記着色顔料は、一般顔料や蛍光顔料の他、二酸化チタン被覆雲母、酸化鉄−二酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、グアニン、絹雲母、塩基性炭酸鉛、酸性砒酸鉛、オキシ塩化ビスマス等の金属光沢顔料を例示できる。
また、温度変化により可逆的に色変化する可逆熱変色材料を混在させて、環境温度や付着させる水温により色変化させることができる。
【0014】
前記多孔質層と布帛の間(即ち多孔質層の下層)には、着色層を設けて多孔質層が吸液状態で着色層の色調を視認可能に構成することもできる。
更に、前記多孔質層の上層や多孔質層の周囲の布帛上に絵柄等の着色像(図柄層)を配設して様相変化を更に多様化させたり、シートの装飾性を向上することもできる。この場合、多孔質層は布帛の中央部分に設けられ、且つ、多孔質層の周囲の布帛上(即ち、布帛上の多孔質層と耐水性樹脂層の空間部)に着色像を配設することが好ましい。前記着色像(図柄層)の像としては、絵柄の他、文字、記号、模様等が挙げられる。
尚、前記着色像は、耐水性樹脂層に用いる樹脂と同様の耐水性樹脂をバインダーとして適用することが好ましい。
【0015】
前記多孔質層が設けられた布帛の外周部分(端部又は端部を含むその近傍部分)には、全周に亘って連続帯状に耐水性樹脂層が形成される。
耐水性樹脂層に用いられる樹脂としては、バインダー効果のある樹脂のうちで耐水性を備えたものであれば前述のバインダー樹脂から適宜選択して用いることができるが、強度や柔軟性に優れている点からウレタン系樹脂が好適である。また、前記樹脂と共に任意の架橋剤を併用して硬化させたものも好適である。
更に、前記樹脂と共に着色剤を用いて耐水性樹脂層を着色することもできる。その場合、着色剤としては染料であってもよいが、耐水性に優れる顔料を用いることが好ましい。
【0016】
尚、布帛上に形成した際の耐水性樹脂層の布帛への浸透率としては50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上である。50%未満では布帛外周部に対する固着力が弱く、ほつれ防止効果が乏しいものとなる。
【0017】
また、前記耐水性樹脂層は、湿潤状態での摩擦堅牢度が4級以上となることが好ましい。前記摩擦堅牢度が4級以上であれば、多孔質層に筆記するために適用する塗布具(ペン先から液体塗布される状態)で耐水性樹脂層を擦過した場合であっても、ペン先への色移りや耐水性樹脂層の損傷等を発生することなく、もとの状態を維持できる。
尚、前記摩擦堅牢度はJIS L0849に記される方法で、摩擦試験機2形を用いて測定される湿潤状態の値から導かれるものである。
【0018】
前記布帛上に形成される多孔質層、着色層、図柄層、耐水性樹脂層は、いずれも公知の手段、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等により適宜形成できる。
【0019】
前記水変色性布帛シートは、所望形状の布帛の外周部分に耐水性樹脂層が形成されることで得られる他、大判の織物に多孔質層が形成できる空白部分を残した状態で耐水性樹脂層を形成した後、或いは、多孔質層と前記耐水性樹脂層を形成した後、前記耐水性樹脂層内部又はその外周に沿って栽断することで得られるものである。
【0020】
前記水変色性布帛シートにおいては、支持体となる布帛の目付量A(g/m)と、布帛外周に形成される耐水性樹脂層の目付量B(g/m)が、0.1≦B/A<1.0の関係を満たすように形成される。
前記範囲内で各目付量を設定することで、布帛の目付に応じた強度の耐水性樹脂層が形成できるので、折り曲げによる耐水性樹脂層の損傷を生じることなく、ほつれ防止や外周部分からの余剰液体の漏れ出しを抑制できる。
【0021】
更に、前記水変色性布帛シートの背面には、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等からなるエマルジョンを印刷したり、これらの軟質樹脂からなる水非浸透性シート材を貼着又は縫合させることもできる。前記水非浸透性シート材を背面に設けることにより、誤って水をこぼしたり、過飽和の水を吸収させた際の布帛背面からの水漏れによる汚染を回避できると共に、滑り止め機能を付与することもできる。
【0022】
前記水変色性布帛シートに像を形成する水付着具は、連続気孔を有するプラスチック多孔体又は繊維加工体をペン先部材として適用した筆記具又は塗布具、スタンプ具を挙げることができる。
前記連続気孔を有するプラスチック多孔体又は繊維加工体は、水を適宜量、吸収し、吐出させるものであればよく、汎用のポリオレフィン系、ポリウレタン系、その他各種プラスチックの連続気孔体や繊維を集束させた毛筆状のもの、繊維の樹脂加工又は熱溶着加工によるもの、フェルト、不織布形態のものを挙げることができ、形状、寸法は目的に応じて任意に設定できる。
更に、前記した各種材料をペン先部材として適用し、水収容容器の先端に取り付けた筆記具又は塗布具形態のものが有効である。
前記水変色性布帛シートと、水付着具を組み合わせることにより、携帯性に優れた任意の像を簡便に形成可能な水変色性描画玩具セットが得られる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例と比較例を示すが、本発明は実施例に限定されない。尚、実施例中の部は重量部を示す。また、摩擦堅牢度はJIS L0849に記される方法に準じて、湿潤状態の値(湿潤試験)について摩擦試験機2形を用いて測定した。
【0024】
実施例1
水変色性布帛シートの作製(図1、2参照)
布帛2として白色のポリエステルが65%、コットン35%からなる織物(ブロード生地、目付量:120g/cm)の上面に、青色の非変色性インキを用いて、60cm×80cmの大きさの長方形状にベタ印刷して非変色層5を形成し、次いで、前記非変色層5上に、湿式法珪酸〔商品名:ニップシールE−200、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW−930、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕30部、水40部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合、攪拌してなる白色スクリーン印刷用インキを用いて、100メッシュのスクリーン版にて61cm×81cmの大きさでベタ印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層3を形成した。
次いで、前記布帛2上の多孔質層3の全周を囲むように布帛端部を含むその近傍部分に、赤色顔料とウレタン樹脂エマルジョンとイソシアネート系架橋剤からなる赤色インキを100メッシュのスクリーン版にて印刷することで耐水性樹脂層4(幅3cm、目付量20g/m)を形成し、更に、該耐水性樹脂層4内側の多孔質層3の周囲の布帛2上に黒色、青色、赤色、黄色、緑色、紫色からなる非変色性インキを用いて図柄層6を形成した。尚、前記図柄層6を形成するバインダー樹脂は、耐水性樹脂層4で用いた樹脂と同様のものを適用した。
前記各層を積層した布帛2を、耐水性樹脂層4の外側5mmの位置(即ち、耐水性樹脂層4の幅が2.5cmとなる位置)に沿って裁断することで、大きさ80cm×100cmの水変色性布帛シート1を得た。
【0025】
前記水変色性布帛シート1は多孔質層3が乾燥状態では白色を呈しているが、水の適用により多孔質層3が透明化して非変色層5の青色が視認される。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々に青色は視認されなくなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記水変色性布帛シート1の耐水性樹脂層4は、布帛2に対する浸透率が75%であり、湿潤状態の摩擦堅牢度は5級であった。
更に、布帛2の目付量Aと耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.17であった。
【0026】
水変色性描画玩具セットの作製
前記水変色性布帛シート1と、水付着手段として先端部に砲弾型の繊維ペン体(ナイロン樹脂製、直径7mm)を有し、軸筒内に水を収容可能に構成したペン7とを組み合わせて水変色性描画玩具セットを得た。
前記水変色性描画玩具セットでは、水付着具7を用いて水変色性布帛シート1の多孔質層3に筆記すると5〜6mm幅の明瞭な青色の筆跡71が形成された。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々に青色は淡くなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記ペン7の繊維ペン体で耐水性樹脂層4を擦過しても剥がれたり、色移りすることはなく、更に、ペン先から塗布される水がシート2の外側に漏れ出すこともなかった。その際、布帛2の外周部分からのほつれは生じなかった。
【0027】
実施例2
水変色性布帛シートの作製(図3参照)
布帛2として青色のポリエステルが35%、コットン65%からなる直径80cmの円形織物(ツイル生地、目付量:225g/cm)の上面の略中心に、湿式法珪酸〔商品名:ニップシールE−200、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW−930、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕30部、水40部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合、攪拌してなる白色スクリーン印刷用インキを用いて、100メッシュのスクリーン版にて直径50cmの大きさの円形状にベタ印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層3を形成した。
次いで、前記布帛2の外周部分に、赤色顔料を含むウレタン樹脂エマルジョンとイソシアネート系架橋剤からなるインキを用いて全周に亘って印刷することで耐水性樹脂層4(幅5cm、目付量45g/m)を形成し、更に、該耐水性樹脂層4内側の多孔質層3の周囲の布帛2上に黒色、青色、赤色、黄色、緑色、紫色からなる非変色性インキを用いて図柄層6を形成することで直径80cmの円形水変色性布帛シート1を得た。尚、前記図柄層6を形成するバインダー樹脂は、耐水性樹脂層4で用いた樹脂と同様のものを適用した。
【0028】
前記水変色性布帛シート1は多孔質層3が乾燥状態では白色を呈しているが、水の適用により多孔質層3が透明化して布帛2の青色が視認される。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々に青色は視認されなくなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記水変色性布帛シート1の耐水性樹脂層4は、布帛2に対する浸透率が75%であり、湿潤状態の摩擦堅牢度は5級であった。
更に、布帛2の目付量Aと耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.20であった。
【0029】
水変色性描画玩具セットの作製
前記水変色性布帛シート1と、水付着手段として先端部に砲弾型の繊維ペン体(ナイロン樹脂製、直径7mm)を有し、軸筒内に水を収容可能に構成したペン7とを組み合わせて水変色性描画玩具セットを得た。
前記水変色性描画玩具セットでは、水付着具7を用いて水変色性布帛シート1の多孔質層3に筆記すると5〜6mm幅の明瞭な青色の筆跡71が形成された。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々に青色は淡くなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記ペン7の繊維ペン体で耐水性樹脂層4を擦過しても剥がれたり、色移りすることはなく、更に、ペン先から塗布される水がシート2の外側に漏れ出すこともなかった。その際、布帛2の外周部分からのほつれは生じなかった。
【0030】
実施例3
水変色性布帛シートの作製(図4参照)
耐水層21用に裏面をエチレン酢酸ビニル樹脂コートしてなる、綿100%の白色織物(サテン生地、目付量:150g/cm)を布帛2として、該布帛の上面に、赤色の非変色性インキを用いて、直径60cmの大きさの円形状にベタ印刷して非変色層5を形成し、次いで、前記非変色層5上に、湿式法珪酸〔商品名:ニップシールE−200、日本シリカ工業(株)製〕15部、ウレタンエマルジョン〔商品名:ハイドランHW−930、大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%〕30部、水40部、シリコーン系消泡剤0.5部、水系インキ用増粘剤3部、エチレングリコール1部、ブロックイソシアネート系架橋剤3部を均一に混合、攪拌してなる白色スクリーン印刷用インキを用いて、100メッシュのスクリーン版にて直径61cmの大きさでベタ印刷し、130℃で5分間乾燥硬化させて多孔質層3を形成した。
次いで、前記布帛2上の多孔質層3の全周を星型状に囲むように、黄色顔料を含むウレタン樹脂エマルジョンを100メッシュのスクリーン版にて印刷することで耐水性樹脂層4(幅3cm、目付量40g/m)を形成し、更に、該耐水性樹脂層4内側の多孔質層3の周囲の布帛2上に黒色、青色、赤色、黄色、緑色、紫色からなる非変色性インキを用いて図柄層6を形成した。尚、前記図柄層6を形成するバインダー樹脂は、耐水性樹脂層4で用いた樹脂と同様のものを適用した。
前記各層を積層した布帛2を、耐水性樹脂層4の外側5mmの位置(即ち、耐水性樹脂層4の幅が2.5cmとなる位置)に沿って裁断することで、星型の水変色性布帛シート1を得た。
【0031】
前記水変色性布帛シート1は多孔質層3が乾燥状態では白色を呈しているが、水の適用により多孔質層3が透明化してピンク色が視認される。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々にピンク色は視認されなくなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記水変色性布帛シート1の耐水性樹脂層4は、布帛2に対する浸透率が80%であり、湿潤状態の摩擦堅牢度は5級であった。
更に、布帛2の目付量Aと耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.25であった。
【0032】
水変色性描画玩具セットの作製
前記水変色性布帛シート1と、水付着手段として先端部に砲弾型の繊維ペン体(ナイロン樹脂製、直径7mm)を有し、軸筒内に水を収容可能に構成したペン7とを組み合わせて水変色性描画玩具セットを得た。
前記水変色性描画玩具セットでは、水付着具7を用いて水変色性布帛シート1の多孔質層3に筆記すると5〜6mm幅の明瞭なピンク色の筆跡71が形成された。水が付着した状態では前記様相を呈していたが、乾燥するにつれて徐々にピンク色は淡くなり、完全に乾燥した状態では再び元の白色に戻った。前記様相変化は繰り返し行うことができた。
また、前記ペン7の繊維ペン体で耐水性樹脂層4を擦過しても剥がれたり、色移りすることはなく、更に、ペン先から塗布される水がシート2の外側に漏れ出すこともなかった。その際、布帛2の外周部分からのほつれは生じなかった。
【0033】
比較例1
水変色性布帛シートの作製
実施例2において、耐水性樹脂層4を形成しない以外は同様の方法にて水変色性布帛シート1を得た。
前記水変色性布帛シート1の多孔質層3への筆記では、実施例2と同様の色変化を呈するものの、布帛2に水が塗布された際には、シート2の外側に水が漏れ出してしまった。また、水が外周部分に付着することで、布帛2が膨潤して外周部分からのほつれが生じてしまった。
【0034】
比較例2
耐水性樹脂層4を形成する赤色顔料に変えて赤色染料を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて水変色性布帛シートと水変色性描画玩具セットを得た。
その際、前記耐水性樹脂層4の布帛への浸透率は75%であり、湿潤状態の摩擦堅牢度は3級に低下した。また、目付量は20g/cmであり、布帛2の目付量Aと、耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.17であった。
そのため、前記耐水性樹脂層4の強度は十分ではなく、ペン7での擦過により色移りを生じてしまった。
【0035】
比較例3
耐水性樹脂層4を形成するスクリーン版を180メッシュとした以外は、実施例1と同様の方法にて水変色性布帛シートと水変色性描画玩具セットを得た。
その際、前記耐水性樹脂層4の布帛への浸透率は30%と低下したが、湿潤状態の摩擦堅牢度は5級であった。また、目付量は10g/cmであり、布帛2の目付量Aと、耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.08であった。
そのため、前記耐水性樹脂層4の強度は十分ではなく、布帛2の外周端部からほつれを生じてしまった。
【0036】
比較例4
耐水性樹脂層4を形成する樹脂エマルジョンの濃度を50%とした以外は、実施例1と同様の方法にて水変色性布帛シートと水変色性描画玩具セットを得た。
その際、前記耐水性樹脂層4の布帛への浸透率は75%であり、湿潤状態の摩擦堅牢度は5級であった。しかし、目付量が10g/cmとなり、布帛2の目付量Aと、耐水性樹脂層4の目付量Bは、B/A=0.08であった。
そのため、前記耐水性樹脂層4の強度は十分ではなく、ペン7での擦過や折り畳みによって樹脂層4が剥がれを生じ、更に布帛2の外周端部からほつれを生じてしまった。
【符号の説明】
【0037】
1 水変色性布帛シート
2 布帛
21 耐水層
3 多孔質層
4 耐水性樹脂層
5 着色層
6 図柄層(着色像)
7 ペン(塗布具)
71 筆跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物からなる布帛上の少なくとも一部に、低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層を設けてなる水変色性布帛シートであって、前記布帛の外周部分に、全周にわたって耐水性樹脂を用いた耐水性樹脂層を設けてなる水変色性布帛シート。
【請求項2】
織物からなる布帛の表面に低屈折率顔料をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層を設けてなり、前記多孔質層の外周の布帛表面に耐水性樹脂を用いた耐水性樹脂層を形成した後、前記耐水性樹脂層又はその外周に沿って栽断することで形成される水変色性布帛シート。
【請求項3】
前記耐水性樹脂層が顔料を含む請求項1又は2に記載の水変色性布帛シート。
【請求項4】
前記耐水性樹脂層が、湿潤状態での摩擦堅牢度が4級以上である請求項3記載の水変色性布帛シート。
【請求項5】
前記耐水性樹脂層内周且つ多孔質層外周に、前記耐水性樹脂層に用いた樹脂と同様の耐水性樹脂をバインダーとした着色像が形成される請求項1乃至4のいずれかに記載の水変色性布帛シート。
【請求項6】
前記耐水性樹脂がウレタン樹脂である請求項1乃至5のいずれかに記載の水変色性布帛シート。
【請求項7】
前記耐水性樹脂層の布帛への浸透率が50%以上である請求項1乃至6のいずれかに記載の水変色性布帛シート。
【請求項8】
前記布帛の目付量A(g/m)と、耐水性樹脂層の目付量B(g/m)が、0.1≦B/A<1.0の関係を満たす請求項1乃至7のいずれかに記載の水変色性布帛シート。
【請求項9】
前記布帛が、綿を30%以上含有する請求項1乃至8のいずれかに記載の水変色性布帛シート。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の水変色性布帛シートと、水付着具とからなる水変色性描画玩具セット。
【請求項11】
前記水付着具は、連続気孔を有するプラスチック多孔体又は繊維加工体をペン先部材として適用した筆記具又は塗布具形態である請求項10記載の水変色性描画玩具セット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−5642(P2011−5642A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148250(P2009−148250)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】