説明

水平軸風車

【課題】水平軸風車の基本構成に対しナセルのヨー運動に抵抗トルクを作用させる特別な設備を付加することなく、ナセルのヨー運動に対する抵抗トルクをナセル方位角の変化率に応じて作用させ、効果的にナセルのヨー運動を抑制する。
【解決手段】本発明の水平軸風車WTGに備わる制御装置Cは、ナセルNの方位角Ψの変化率Ψ及びブレードB1,B2,B3のロータアジマス角φに基づき、各ブレードのピッチ角指令値enを算出し、当該ブレードのピッチ角を周期的に変角制御することによりロータRにヨー軸周りのトルクを発生させ、当該トルクによりナセルの方位角の変化率を抑制する。その変角値は、変化率Ψの入力値の増大に従って増大する値に演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平軸風車のヨー角制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水平軸風車は1枚又は2枚以上のブレードがハブから放射状に取付けられてなるロータと、ハブに接続されるとともに略水平方向に延在された主軸を介してこのロータを回転自在に軸支するナセルと、ナセルをヨー回転自在に支持するタワーとを有して構成される。
水平軸風車をヨー回転自由にして運転する場合、ナセル方位角が急速に変化すると、ロータ(ブレード、主軸)等に大きなジャイロモーメントが生じ、ロータ等の損傷の原因となる。
したがって、ナセル方位角の急速な変化を抑制する必要がある。
特許文献1記載の発明は、タワーに対するナセルのヨー回転動作を緩衝することを目的として、オイル粘性方式等のロータリダンパにより抵抗トルクをナセルのヨー回転に負荷する。
特許文献2記載の発明は、強風時や停電時において急激なヨー運動による、水平軸風車の衝撃荷重を低減させて損傷を防止することを目的として、所定値を超える風速の風が吹いた場合又は停電が発生した場合にナセルの風下側への回動を許容する一方、ブレーキキャリパによりナセルの風下側でのヨー運動を安定させる特定の制動力(最大制動力の50%の制動力)を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−198167号公報
【特許文献2】特開2006−307653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の発明にあっては、ロータリダンパが必要となり、製作コストやその保守・点検負担が増大する。また、ロータリダンパの場合、入力に応答する抵抗トルクはダンパの特性により一定するから、一定の入力に対して抵抗トルクの大きさを制御することはできない。ロータリダンパがナセルのヨー回転軸付近に設置されるので、大きな入力が得られ難く、従って大きな抵抗トルクを得られがたい。
特許文献2記載の技術にあっては、ブレーキの摩耗に注意しなければならず、さらにブレーキによる一定の摩擦抵抗によりナセルのヨー運動に抵抗トルクを与えるので、静摩擦力を超えた時に急激なナセル方位角の変化があり得るとともに、より速いナセル方位角の変化に対してより大きい抵抗トルクを発生させ、より遅いナセル方位角の変化に対してより小さい抵抗トルクを発生させるという性質がなく、効果的にナセル方位角の急速な変化を抑制し、衝撃や振動を効果的に緩和、減衰することができない。
【0005】
本発明は以上の従来技術に鑑みてなされたものであって、水平軸風車の基本構成に対しナセルのヨー運動に抵抗トルクを作用させる特別な設備を付加することなく、ナセルのヨー運動に対する抵抗トルクをナセル方位角の変化率に応じて作用させ、効果的にナセルのヨー運動を抑制し、衝撃や振動を効果的に緩和、減衰することができる水平軸風車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、ブレードとこれを保持するハブとを有するロータと、前記ハブに接続された主軸を介して前記ロータを軸支するナセルとを備え、前記ナセルがヨー回転自在に支持され、前記ブレードのピッチ角をそれぞれ独立に駆動制御可能に構成された水平軸風車において、
前記ナセルの方位角の変化率及び前記ブレードのアジマス角に基づき、当該ブレードのピッチ角を周期的に変角制御することにより前記ロータにヨー軸周りのトルクを発生させ、当該トルクにより前記ナセルの方位角の変化率を抑制する制御装置を備えることを特徴とする水平軸風車である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記制御装置は、前記ナセルの方位角の変化率を抑制するための前記ブレードの変角値を、前記ナセルの方位角の変化率の入力値の増大に従って増大させることを特徴とする請求項1に記載の水平軸風車である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記制御装置は、その周期的な変角制御に基づく前記ブレードの揚力が、当該ブレードのアジマス角が±90度となる位相において相反する極値となり、前記トルクが前記ナセルのヨー回転軸回りに前記ナセルの方位角の変化方向と逆方向に働くように、前記ナセルの方位角の変化率を抑制するための前記ブレードの変角値を制御する請求項1又は請求項2に記載の水平軸風車である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナセルのヨー運動に対する抵抗トルクをナセル方位角の変化率に応じて適切に計算して作用させ、効果的にナセルのヨー運動を抑制することができる、すなわち、ナセル方位角の急速な変化を効果的に抑制することができ、衝撃や振動を効果的に緩和、減衰してロータ等を保護することができるという効果がある。
また本発明によれば、ヨー運動に抵抗トルクを作用させる設備としてロータを利用するので、水平軸風車の基本構成に対しナセルのヨー運動に抵抗トルクを作用させる特別な設備を付加することなく実施できるという効果がある。したがって、すべての独立ピッチ制御方式の水平軸風車に低コストに導入可能であり、機械的要素の保守・点検負担が増加しない。
また本発明によれば、ナセル方位角の変化率に応じたナセルのヨー運動に対する抵抗トルクを何ら機械的要素を変更することなく設定し、設定変更することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明一実施形態に係る3枚翼式水平軸風車の模式図であって、(a)は側面図、(b)は後面図、(c)は平面図、(d)はヨー角が変化した状態の平面図である。
【図2】本発明一実施形態における制御例を示すブロック線図である。
【図3】本発明の効果を確認するためのシミュレーションに適用したハブ付近の風速WS・風向WDの変化を示すグラフである。
【図4】シミュレーションに適用した本発明の制御による各ブレードのピッチ角変化を示すグラフP1,P2,P3と、本発明に係る制御無しの場合の全ブレードのピッチ角変化を示すグラフPAである。
【図5】本発明の制御の有無によるシミュレーション結果を比較したナセル方位角の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の制御の有無によるシミュレーション結果を比較したナセル方位角速度の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の制御の有無によるシミュレーション結果を比較したロータのノッディング曲げの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0012】
図1に示すように本水平軸風車は、ブレードB1,B2,B3がハブHに取付けられてなるロータRと、主軸を介してロータRを回転自在に軸支するナセルNと、ナセルNをヨー回転自在に支持するタワーTとを備えて構成される。本水平軸風車はダウンウィンド型水平軸風車であり、タワーTより風下に配置したロータRに風Wを受けロータRを回転させる。図1(b)に示すようにφはロータアジマス角であり、ブレードB1のアジマス角と同一のものである。本水平軸風車は、3枚のブレードB1,B2,B3を有する。ブレードB1,B2,B3がそれぞれアジマス角を有するが、ブレードB1,B2,B3は既知の相対角でハブHに保持されているのでロータRの一のアジマス角が制御装置に入力されれば足りる。
また、本水平軸風車は、3枚のブレードB1,B2,B3毎にそのピッチ角を変角させるピッチ駆動装置を備えており、制御装置から各ピッチ駆動装置に制御信号を与えて3枚のブレードB1,B2,B3を独立して制御する。
図1(c)に示すように、Ψをナセル方位角とする。
本水平軸風車を適用して風力発電機が構成される。
【0013】
図2は、本水平軸風車に搭載される制御装置の演算・制御内容を示したブロック線図である。図2においてWTGは、制御装置Cを除く風力発電機の全体を示すブロックであり、本水平軸風車本体、各種計測装置及び各ブレードB1,B2,B3のピッチ駆動装置が含まれる。制御装置Cのみ別ブロックで示す。制御装置Cは、風力発電機WTGに搭載された計測装置からナセル方位角Ψ、ロータアジマス角φを取得する。
【0014】
発電に適した風速範囲下において各ブレードB1,B2,B3はロータRを効率的に回転させるピッチ角に一律に制御されている。
ナセルNは固定されずヨー回転自由にされているので、風速、風向、ロータ回転速度、各ブレードのピッチ角等の運転条件により、ナセル方位角Ψが変化する。
【0015】
このような運転状況下において、まず制御装置Cは、計測装置から入力されたナセル方位角Ψに基づきブロックC1内に示すように、ナセル方位角Ψを時間微分してナセル方位角Ψの変化率ΨDを算出する。この微分計算は擬似的な微分計算で置き換えてもよい。なお、適宜、ブロックC1の入力信号(ナセル方位角Ψ,ロータアジマス角φ)にはローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等のフィルタを適用する。
次に、制御装置Cは、ブロックC1で算出したΨDを用いて、ブロックC2内に示す数式の通りに計算して、角度ゲインKAを算出する。
次に、制御装置Cは、ブロックC2で算出したKAと、計測装置から入力されたロータアジマス角φとを用いて、ブロックC3内に示す数式の通りに計算して、PD制御による各ブレードB1,B2,B3のピッチ角指令値en(=e1,e2,e3)を算出し、対応するピッチ駆動装置に出力する。
【0016】
例えば以上のような演算処理内容によって、本水平軸風車は、ナセルNがヨー回転挙動を示す時、各ブレードB1,B2,B3の揚力が、当該ブレードのアジマス角が±90度となる位相において相反する極値となり、ロータRが発生するトルクがナセルNのヨー回転軸回りにナセルNの方位角の変化方向と逆方向に働くように制御する。即ち、ナセル方位角の変化により、ブレードは風上側又は風下側に移動する。このうち、風上側に移動するブレードは、より揚力を増加させるためピッチ角をファイン(ピッチ角度0°)側に、風下側に移動するブレードは、より揚力を減少させるためピッチ角をフェザー(ピッチ角度90°)側に各々制御する。したがって、各ブレードB1,B2,B3のピッチ角は当該ブレードのアジマス角90度の手前と、270度の手前とで極値となる。
例えば、図1(c)→(d)のようにナセルNが時計回りに回転する挙動を示す時、図1(c) (d)において反時計回りにロータRからのトルクをナセルNに入力して、ナセル方位角の変化率を抑制する。
同様に、図1(d) →(c)のようにナセルNが反時計回りに回転する挙動を示す時、図1(c) (d)において時計回りにロータRからのトルクをナセルNに入力して、ナセル方位角の変化率を抑制する。
その変角値は、ナセルNの方位角Ψの変化率の入力値の増大に従って増大する値に演算される。
したがって、効果的にナセルNのヨー運動を抑制し、衝撃や振動を効果的に緩和、減衰することができる。
本実施形態によれば、ロータリダンパ、油圧ヨーモータなどの機器の追加なしに、ナセル方位角の変化率を低減できる。その結果、ロータ(ブレード、主軸)の荷重を低減できるという効果もある。
【0017】
〔シミュレーション〕
以下に、本発明の適用による効果を確認するために行ったシミュレーションの内容を開示する。
本シミュレーションの対象とした水平軸風車は上記実施形態に従うものである。
さらに本シミュレーションにおいては、ロータ直径70m、ロータのティルト角-8deg、ロータのコーニング角5deg、定格出力1.5MWのダウンウィンド風車を対象とした。
図3に示した風況下において図2に示した制御内容に従った制御を実行するシミュレーションを行った。
本制御による各ブレードB1,B2,B3のピッチ角変化は、図4に示すグラフP1,P2,P3の通りとなった。
図5に示すように本制御によりナセル方位角の変化が抑制され、本制御によるグラフ11の振幅は、本制御の適用なしのグラフ12に比較して小さく抑えられていることが確認できた。
図6に示すように本制御によりナセル方位角速度の変化が抑制され、本制御によるグラフ21の振幅は、本制御の適用なしのグラフ22に比較して小さく抑えられていることが確認できた。
図7に示すように本制御によりロータのノッディング曲げが抑制され、本制御によるグラフ31の振幅は、本制御の適用なしのグラフ32に比較して小さく抑えられていることが確認できた。
【0018】
なお、以上の実施形態においては、本発明をナセルがタワーによってヨー回転自在に支持される水平軸風車に適用したが、本発明はこれに限定されず、ナセルが浮体上に支持されて浮体ごとヨー回転する浮体式洋上風車に適用してもよい。
【符号の説明】
【0019】
B1,B2,B3 ブレード
C 制御装置
en ピッチ角指令値
H ハブ
A 角度ゲイン
N ナセル
R ロータ
T タワー
W 風
WTG 風力発電機
φ ロータアジマス角
Ψ ナセル方位角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードとこれを保持するハブとを有するロータと、前記ハブに接続された主軸を介して前記ロータを軸支するナセルとを備え、前記ナセルがヨー回転自在に支持され、前記ブレードのピッチ角をそれぞれ独立に駆動制御可能に構成された水平軸風車において、
前記ナセルの方位角の変化率及び前記ブレードのアジマス角に基づき、当該ブレードのピッチ角を周期的に変角制御することにより前記ロータにヨー軸周りのトルクを発生させ、当該トルクにより前記ナセルの方位角の変化率を抑制する制御装置を備えることを特徴とする水平軸風車。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ナセルの方位角の変化率を抑制するための前記ブレードの変角値を、前記ナセルの方位角の変化率の入力値の増大に従って増大させることを特徴とする請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項3】
前記制御装置は、その周期的な変角制御に基づく前記ブレードの揚力が、当該ブレードのアジマス角が±90度となる位相において相反する極値となり、前記トルクが前記ナセルのヨー回転軸回りに前記ナセルの方位角の変化方向と逆方向に働くように、前記ナセルの方位角の変化率を抑制するための前記ブレードの変角値を制御する請求項1又は請求項2に記載の水平軸風車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256750(P2011−256750A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130582(P2010−130582)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】