説明

水性インキ組成物

【課題】筆記した後の筆跡の周囲に、ぼかし部分を作ることができる水性インキ組成物を提供する。
【解決手段】樹脂粒子、定着剤としての水溶性樹脂、および水を含む、水性インキ組成物を用いて、筆記した後、筆跡を擦ると、筆跡を構成する組成物の一部が筆跡の周囲に運ばれて、ぼかしが形成される。水性インキ組成物は、例えば、筆記具または描画材のインキの形態で提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記後、一定時間の間に、筆跡をこすると、筆跡をぼかすことができ、さらに一定時間経過した後には、筆跡およびぼかし部分とも筆記面に定着する、水性インキ組成物および当該水性インキ組成物を使用した筆記具および描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、盛り上がった立体状の筆跡を形成できる水性インキ組成物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。この水性インキ組成物に代表されるように、筆記具には、単に文字等を筆記する役割だけでなく、筆跡それ自体に意匠効果を付与する役割も求められている。
【特許文献1】特開2005−8873号公報
【特許文献2】特開2006−70236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、筆記具の分野においては、筆跡それ自体に意匠効果を付与することが要求されている。本発明者らは、筆跡の周囲に、ぼかし部分(または薄色部分もしくはパステル調部分)を形成できる筆記具は、筆跡の意匠性を向上させ得ると考え、筆跡の周囲に容易にぼかし部分を形成することが可能なインキ組成物を提供することを検討した。その結果、筆記直後の筆跡をこすることにより、ぼかし効果が得られると考えた。しかし、上述の特許文献1および2に記載の水性インキ組成物で筆記した筆跡を指等で擦っても、良好なぼかし効果は得られなかった。かかる実情に鑑み、本発明は、指等で筆跡を擦ることにより、容易にぼかし効果が得られ、かつ、ぼかし後の筆跡が十分に視認できる水性インキ組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、樹脂粒子、定着剤としての水溶性樹脂、および水を含む、水性インキ組成物を提供する。この水性インキ組成物は、筆跡を形成した直後は、筆記面に十分に定着していないため、指で擦ると、筆跡の表面の組成物が筆跡の周囲に広がって、ぼかし効果を得ることができる。この水性インキ組成物は、指等で筆跡を擦っても、筆跡の輪郭が過度に崩れることはなく、明瞭な筆跡を保持したまま、ぼかし効果を発揮する。
【0005】
本発明の水性インキ組成物は、好ましくは着色剤を含む。着色剤を含むことにより、より良好なぼかし効果を得ることができる。
【0006】
本発明の水性インキ組成物において、樹脂粒子は、好ましくは白色樹脂粒子である。白色樹脂粒子を含むと、黒画用紙および色紙上に筆記した場合でも良好な発色を得られる。
【0007】
本発明の水性インキ組成物において、樹脂粒子は、固形分で10重量%以上含まれることが好ましい。樹脂粒子の量が少ないと、良好なぼかし効果を得られない。
【0008】
本発明の水性インキ組成物において、水溶性樹脂は、デキストリン、デンプン、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンから選択される、少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。これらの水溶性樹脂は、筆記後数分経過した後の筆跡を、指でこすったときに、筆跡の輪郭が過度に崩れることなく、筆跡をぼかすことができるように、インキ組成物を定着させる。また、これらの水溶性樹脂は、筆記後数時間経過後、筆跡およびぼかし部分を筆記面に十分に定着させて、他の紙等へインキが移ることを防止する。
【0009】
本発明の水性インキ組成物において、水溶性樹脂は、0.3〜3.0重量%含まれることが好ましい。水溶性樹脂の割合が小さすぎると、筆跡が筆記面等に十分に定着せず、大きすぎると、筆跡が短時間で筆記面に定着して、筆跡を擦ってもぼかし効果を得られないことがある。
【0010】
本発明はまた、ペン先とインキ筒を備え、インキ筒内部に上記本発明の水性インキ組成物を収容した筆記具であって、ペン先からのインキの流出量が50mg/10m以上である、筆記具を提供する。
【0011】
本発明はまた、インキを収容するインキ収容部、およびインキ収容部と連続して形成され、先端に孔が設けられた先細部を有し、インキ収容部を押すと、先細部からインキが流出する描画材であって、筒状部に上記本発明のインキ組成物を収容した描画材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性インキ組成物は、インキ組成物を筆記面に定着させるバインダーとして、水溶性樹脂を用いることを特徴とする。この特徴により、筆記または描画後、数分経過したときに、筆跡を擦ると、筆跡の輪郭を明瞭に保ったまま、ぼかし効果を得ることが可能となる。また、ぼかした筆跡は、数時間経過すると、筆記面または描画面に固定されるので、筆記面等に他の紙等が重ねられても、インキが移らない。よって、本発明の水性インキ組成物は、ぼかし効果を与えるインキとして、種々の筆記具及び描画材の形態で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、樹脂粒子、水溶性樹脂および水を少なくとも含む、水性インキ組成物である。この水性インキ組成物は、樹脂粒子を含むため、盛り上がった筆跡を形成する。この筆跡を、筆記または描画後、数分(例えば2〜3分)以内擦ると、筆跡の表面に存在する樹脂粒子の塊が崩れるようにして、周囲に広がると共に、筆記面または描画面に近い側のインキ組成物は水溶性樹脂により固着されて、筆跡の輪郭を保っていると考えられる。さらに、筆記後または描画後、数時間(例えば、6時間程度)経過すると、筆跡及びぼかし部分はともに筆記面または描画面に定着する。そのような本発明の水性インキ組成物を構成する成分は、下記のとおりである。以下の説明を含む本明細書において、「筆跡」とは、筆記面または描画面に筆記または描画された線図および塗りつぶしを指す。
【0014】
本発明の水性インキ組成物を構成する樹脂粒子は、無色樹脂粒子または着色樹脂粒子であってよい。樹脂粒子は、好ましくは白色樹脂粒子である。白色樹脂粒子を含む水性インキ組成物は、例えば、黒画用紙および種々の色の色紙上に筆記した場合でも、良好に発色された(着色剤を含まない場合には、良好に認識できる)筆跡を与えるので好ましい。また、着色剤を含む場合には、着色されたぼかし効果を与えることから、好ましく用いられる。
【0015】
白色樹脂粒子として、球状、偏平状、および中空状などの各種の白色樹脂粒子を用いることができる。特に、球状、および中空状のものを好適に用いることができる、またかかる白色樹脂粒子は分散体としてインキに配合することができる。また、球状、偏平状、および中空状などの2種以上の樹脂粒子を混合して用いることができる。分散体には水を含めることが可能である。また白色樹脂粒子は平均粒子径が0.05〜15μmのものを用いることができる。好ましくは、白色樹脂粒子の平均粒子径の下限は0.1μm以上であり、上限は10μm以下である。
【0016】
本発明に用いられる白色樹脂粒子としては、例えば、商品名「MR2G」(綜研化学(株)製、中実(密実)白色樹脂粒子、平均粒子径1.0μm)が挙げられる。また、商品名「ミューティクルPP240D」(三井東圧化学社製、偏平状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径:0.5μm)、商品名「ローペイクウルトラ」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径:0.3μm)を挙げることができる。また、商品名「ローペイクHP1055」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径1.0μm)、商品名「ローペイクHP91」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径1.0μm)、商品名「ローペイクOP84J」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.55μm)、商品名「ローペイクHP433J」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.40μm)、商品名「ミューティクル110C」(三井東圧化学社製、微粒子集合体状粒子、分散体、平均粒子径1.0μm)、商品名「MH5055」(日本ゼオン社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.5μm)、商品名「LX407BP」(日本ゼオン社製、密実(中実)白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.4μm)、商品名「LX407BP6」(日本ゼオン社製、密実(中実)白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.2μm)を挙げることができる。
【0017】
また、商品名「SX866(A)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.3μm)、商品名「SX866(B)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.3μm)、商品名「SX866(C)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.3μm)、商品名「SX866(D)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径0.3μm)、商品名「SX8782(D)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径1.0μm)、商品名「SX8782(A)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径1.1μm)、商品名「SX8782(P)」(JSR社製、中空状白色樹脂粒子、分散体、平均粒子径1.1μm)を挙げることができる。
【0018】
さらに、MP−300(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径0.1μm)、MP−2200(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径0.35μm)、MP−1000(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径0.4μm)、MP−4009(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径0.6μm)、MP−1600(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径0.8μm)、MX−300(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径3.0μm)、MX−1000(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径10.0μm)、MX−1500H(綜研化学(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径15.0μm)、ラブコロール215(M)(大日精化工業(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径8.5μm)、ラブコロール818(3M)(大日精化工業(株)製、密実白色樹脂粒子、粉体、平均粒子径3.0μm)を挙げることができる。
【0019】
樹脂粒子は必ずしも白色である必要はなく、例えば、無色樹脂粒子、または白以外の色に着色された樹脂粒子を用いてよい。それらの樹脂粒子を使用する場合も、その好ましい平均径は、白色樹脂粒子に関連して、先に説明したとおりである。
【0020】
樹脂粒子はインキ全量に対して10.0〜50.0重量%含まれることが好ましく、15〜40重量%含まれていることが好ましい。樹脂粒子が分散体である場合は、固形分でインキ全量に対して、好ましくは10.0〜50.0重量%、より好ましくは15〜40重量%含まれる。樹脂粒子がインキ全量に対して10.0重量%未満である場合、盛り上がった筆跡が得にくく、十分なぼかし効果を得ることが出来ない可能性がある。樹脂粒子がインキ全量に対して50重量%を超えると、樹脂粒子が過剰に存在するため、インキの経時安定性が低下する傾向にある。
【0021】
水溶性樹脂は、筆記後または描画後の水性インキ組成物を、筆記面または描画面(例えば、紙の表面)に定着させる、バインダーとして機能する。水溶性樹脂は、そのような役割を果たす限りにおいて、特に限定されない。水溶性樹脂は、好ましくは、デキストリン、デンプン、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンから選択される、少なくとも1種の樹脂であることが好ましく、デキストリンであることがより好ましい。これらの水溶性樹脂は、筆記または描画後、数分程度(例えば、1〜5分程度)経過した後に、筆跡を擦ると、樹脂粒子の塊が崩れて、ぼかし効果を与えるが、筆跡の輪郭が保たれるほどの、接着力を有する。即ち、水溶性樹脂は、ぼかしに適した接着力を有する。
【0022】
水溶性樹脂としては、具体的には、例えば、商品名「ペノンPKW」(日澱化学社製、デキストリン)、商品名「プルランPF20」(林原商事社製、デンプン)、商品名「INSTANT GUM SB IRX 41600」および商品名「INSTANT GUM BA」(ともにコロイドナチュレジャパン社製、アラビアガム)、商品名「セロゲン5A」(第一工業製薬社製、カルボキシメチルセルロース」、および商品名「PVP K−30」(ISP社製、ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0023】
水溶性樹脂が本発明の水性インキ組成物全量に占める割合は、固形分で、0.3〜3.0重量%であることが好ましく、固形分で0.5〜1.5重量%であることがより好ましい。水溶性樹脂の割合が0.3重量%未満であると、水性インキ組成物の筆記面または描画面に筆跡または描画を定着させにくくなり、その上に重ねられた他のもの(例えば、紙)を汚すことがある。水溶性樹脂の割合が3重量%を越えると、水性インキ組成物が筆記面または描画面に強く定着して、ぼかし効果を得られないことがある。
【0024】
本発明の水性インキ組成物は、樹脂粒子および水溶性樹脂ならびに他の成分を、分散および/または溶解させるための分散媒および/または溶剤として機能する、水を含む。水として、通常用いられる水、例えば、イオン交換水および蒸留水等を使用することができる。樹脂粒子等が水に分散した分散体として供給される場合、分散体の分散媒としての水も、最終的に水性インキ組成物を構成するから、ここでいう水に含まれる。水の含有量は特に限定されず、樹脂粒子、水溶性樹脂、および他の成分の含有量、および得ようとする粘度に応じて、適宜選択される。例えば、水の含有量は、50重量%〜90重量%の範囲内であってよく、好ましくは60重量%〜85重量%程度である。
【0025】
本発明の水性インキ組成物は、さらに着色剤を含んでよい。着色剤は、水性インキ組成物中にて、良好に溶解または分散する限りにおいて、特に限定されず、染料および顔料のいずれであってよい。着色剤としての染料は、例えば、水溶性の染料であってよい。着色剤としての顔料は、無機顔料または有機顔料であってよい。具体的には、着色剤として、例えば、顔料(例えば、酸化チタン、ジンクホワイト、カーボンブラック、銅フタロシアニン系、スレン系、アゾ系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、イソインドレノン系、アゾメチン系の顔料、蛍光顔料、エチレンビスメラミン、およびエチレンビスメラミン誘導体等)、染料(アントラキノン系染料、メチン系染料、カルボニウム系染料、および金属錯塩系染料等)、プラスチックピグメントを顔料又は染料により着色した着色剤等を用いてよい。着色剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してよい。さらに、着色剤とともに又はこれに加えて、ガラスフレークおよびパール顔料のような、光輝剤を使用してよい。
【0026】
本発明の水性インキ組成物は、着色剤を含む場合、着色剤を、好ましくは0.01重量%〜10重量%含み、より好ましくは0.1〜5重量%含む。着色剤の含有量が少なすぎると、着色剤の発色が十分でないことがある。着色剤の含有量が多すぎると、流動性および粘度に悪影響が生じることがある。もっとも、着色剤の含有量は、これらの範囲に限定されず、使用する着色剤の種類に応じて、適宜選択してよい。本発明の水性インキ組成物は、光輝剤を含む場合には、光輝剤の量は特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%であってよい。
【0027】
本発明の水性インキ組成物は、水溶性有機溶剤を含んでよい。水溶性有機溶剤は、ペン先での乾燥防止とインキの凍結防止のために添加される。水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類である。これらの有機溶剤は1種または2種以上を混合して使用してよい。
【0028】
水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されず、水溶性有機溶剤の種類等に応じて、適宜選択される。例えば、水溶性有機溶剤の含有量は、1重量%〜50重量%の範囲内であってよく、好ましくは5重量%〜30重量%程度である。水溶性有機溶剤の含有量が少なすぎると、インキ組成物が乾燥しやすく、筆記具または描画材とする場合に、目詰まりが起こり、筆記性が低下することがある。水溶性有機溶剤の含有量が多すぎると、筆跡ないし描画が乾燥しにくくなる。
【0029】
(その他の成分)
本発明の水性インキ組成物は、必要に応じて、上記以外の成分を含んでよい。具体的には、潤滑剤として、ポリオキシエチレンアルカリ金属塩、ジカルボン酸アミド、またはN−オレイルサルコシン塩等を添加してよく、湿潤剤として、多価アルコールまたはその誘導体(グリセリン等)を添加してよく、防錆剤として、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、またはジシクロヘキシルアンモニウムナイトレート等を添加してよく、防腐・防錆剤として、ベンゾイソチアゾリン系化合物、ペンタクロロフェノール系化合物、またはクレゾール等を添加してよく、防カビ剤として、パラオキシ安息香酸メチル、アモルデンHS(商品名、大和化学工業(株)製)を添加してよい。その他、各種の分散剤(例えば、水溶性アクリル樹脂、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン−アクリル共重合体、水溶性スチレン−マレイン酸共重合体)、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、pH調整剤、および界面活性剤を添加してよい。
【0030】
本発明の水性インキ組成物の粘度は、特に限定されず、例えば、1mPa・s〜200mPa・sの粘度を有してよい。ここで、水性インキ組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’(R24)コーン 回転数2.5〜50rpm(20℃)の条件下で測定した値として示す(粘度70〜200mPa・s程度で回転数2.5rpm、粘度35〜70mPa・s程度で回転数5rpm、粘度20〜35mPa・s程度で回転数10rpm、粘度10〜20mPa・s程度で回転数20rpm、粘度10mPa・s以下で回転数50rpmとして測定)。粘度をこの範囲内にすることにより、優れた筆記性と経時安定性を有する筆記具を、例えばボールペンの形態で提供することができる。粘度は、水溶性樹脂の種類および含有量、ならびに水の含有量により調整することができる。
【0031】
本発明の水性インキ組成物は、当該分野で常套的に採用されている、公知のインキの製造方法により製造できる。具体的には、水性インキ組成物の成分をすべて投入し、ディゾルバーで30分〜1時間、撹拌することにより、水性インキ組成物を得ることができる。
【0032】
あるいは、本発明の水性インキ組成物は、好ましくは、先に水溶性樹脂を水に溶解させてから、調製することが好ましい。他のインキ組成物が投入された状態で、水溶性樹脂を投入し、混合すると、水溶性樹脂の混合が不均一になることがある。特に、この手順は、水溶性樹脂がデキストリンである場合に好ましく採用される。
【0033】
本発明の水性インキ組成物は、好ましくは、各種筆記具のインキとして用いられる。筆記具は、例えば、インキをペン先から滲出させる、マーカー及びサインペンのような中芯式筆記具、またはボールペンの形態であることが好ましく、ボールペンであることがより好ましい。ボールペンは、インキを装填したインキ収容管が軸内に設けられ、小さい球を装着したペン先から、インキを滲出させて筆記を行う筆記具である。中芯式筆記具は、インキ収容部として繊維束が収束された中芯、および中芯に貯蔵されたインキを流出するペン先(チップ)を有し、ペン先として、例えば、ボール、繊維、プラスチック芯、ブラシ状物、または筆状物を備える筆記具である。
【0034】
筆記具は、公知の部材を使用して、組み立てることができる。例えば、ボールペンは、公知の材料で公知の寸法に形成されたインキ収容管に、インキを装填して、公知の材料から成る公知の構造のボールペンチップとともに、公知の組立方法で組み立てて作製できる。インキ収容管は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の合成樹脂製パイプ、または金属製パイプである。ボールペンチップは、通常のものであってよく、ボール直径とボールハウス内径との差が、例えば、ボールの両側(即ち、ボールの直径の両端(2箇所)とボールハウス内径との差)の合計で0.05mm以上、好ましくは0.06〜0.08mmのものを使用できる。ボール直径とボールハウス内径との差を0.05mm以上と大きくすることによって、ぼかしに適した、盛り上がった筆跡または描画を得ることができる。
【0035】
あるいは、本発明の水性インキ組成物は、好ましくは、描画材として用いられる。描画材は、具体的には、インキを収容するインキ収容部、およびインキ収容部と連続して形成され、先端に孔が設けられた先細部を有し、インキ収容部を押すと、先細部の孔からインキが流出する描画材である。このような描画材では、より太い線の筆跡を形成することが可能であり、したがって、より広い範囲でぼかし効果を得ることができる。
【0036】
本発明の水性インキ組成物は、他の形態の筆記具または描画材であってよい。例えば、本発明の水性インキ組成物は、インキ収容筒状体とペン先を含み、インキ筒状体を必要に応じて押すことにより、インキをペン先から流出させる構成体のインキとして用いてよい。
【0037】
本発明の水性インキ組成物は、筆記具(特にボールペン)のインキとして用いられる場合、ペン先からのインキ流出量は50mg/10m以上であることが好ましい。ここでインキ流出量は、10m筆記したときの流出量を指す。インキ流出量が50mg/10m未満であると、盛り上がった筆跡を形成することが困難となり、筆跡を擦っても良好なぼかしを得られないことがある。ペン先からのインキ流出量の上限は特に制限されないが、好ましくは500mg/10m、より好ましくは250mg/10mである。
【0038】
本発明の水性インキ組成物は、所定の文字または図形等を筆記または描画すると、厚みのある筆跡を与える。この筆跡を擦ると、筆跡の表面の一部が剥がれて、筆跡の周囲に広がって、パステル調のぼかし効果を与える。筆跡は、指又はぼかし用の器具(例えば、適度な硬さを有する多孔質体)で擦る。ぼかしは、筆記または描画後、数分(例えば、2〜3分以内)に実施することが好ましい。それよりも早い時間に筆跡を擦ると、筆跡の筆記面または描画面への固着が弱いために、筆跡の輪郭も一緒に移動し、筆跡の輪郭が著しく不明瞭となる又は無くなることがある。ぼかし後の筆跡は、数時間(例えば、6時間程度)で、筆記面または描画面に定着して、擦っても広がらず、また、他の紙等を重ねても色写りしなくなる。
【0039】
ぼかし可能な時間(擦ったときに、インキ組成物が広がることができる時間)は、短くても長くても不都合であり、好ましくは、筆記後、約1時間程度である。ぼかし可能な時間は、水溶性樹脂の含有量を変化させることにより調節できる。
【0040】
本発明の水性インキ組成物を用いる場合、普通紙および画用紙を含む、いずれの紙に筆記または描写しても、良好なぼかし効果を得ることができる。特に、水分がしみこみにくく、かつ表面にエンボス加工が施されているような、さらっとした触感の紙において、特に良好なぼかし効果を得ることができる。
【0041】
図1に本発明の水性インキ組成物で筆記した筆跡を、筆記後2分後に指で擦って、筆跡の周囲をぼかした状態を示す。図1に示すように、本発明の水性インキ組成物は、筆跡の輪郭を明瞭に保ったまま、ぼかしを形成し、筆跡にこれまでにない意匠効果を付与する。ぼかし部分は、筆跡を擦るものが指であるか、多孔質体であるかによっても、その雰囲気が変化する。
【実施例】
【0042】
水性インキ組成物を構成する成分として以下のものを用意した。
(樹脂粒子)
「ローペイクウルトラ」(ローム&ハース社製、中空状白色樹脂粒子、固形分30%の水分散体、平均粒子径:0.3μm)
【0043】
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂1:
「INSTANT GUM BA」(コロイドナチュレジャパン社製、アラビアガム)
水溶性樹脂2:
「ペノンPKW」(日澱化学社製、デキストリン)、
水溶性樹脂3:
「セロゲン5A」(第一工業製薬社製、カルボキシメチルセルロース」
水溶性樹脂4:
「PVP K−30」(ISP社製、ポリビニルピロリドン)
【0044】
(樹脂エマルション)
「ポリゾールPSA SE1300」(昭和高分子社製、アクリル樹脂エマルション)
【0045】
(着色剤)
「ルミコールNKW6007E」(日本蛍光化学者製、固形分50重量%の桃色樹脂球分散体)
「ルミコールNKW6238E」(日本蛍光化学者製、固形分50重量%の青色樹脂球分散体)
(水溶性有機溶剤)
エチレングリコール
【0046】
上記成分を用いて、表1に示す組成の水性インキ組成物を製造した。まず、所定量の水に水溶性樹脂を溶解させた。次いで、他の成分を投入して、ディゾルバーを用いて、室温(20℃)で1時間撹拌した。
実施例1〜4は、水溶性樹脂の種類を代えた例である。比較例1は、水溶性樹脂を含まない例である。比較例2および3は、水溶性樹脂の添加量を変化させた例である。比較例4は、水溶性樹脂に代えて、造膜成分として、特許文献1および2に記載のような樹脂エマルションを使用した例である。
【0047】
得られた水性インキ組成物を、ステンレスボールペンチップ(ボール材質:炭化珪素、ボール径:0.8mm)を一端に取り付けたポリプロピレン製インキ収容管に水性インキ組成物を充填し、インキ逆流防止体(ポリブテンをゲル化したもの)を充填して、ボールペンレフィールを作製した。次に、本体にボールペンレフィールを取り付け、キャップを装着した後、遠心分離機により管中の空気を除去し、それから尾栓を装着して、ボールペンを得た。
【0048】
このボールペンを用いて、ぼかし効果およびインキの定着度合いを評価した。
(1)PPC用紙(上質紙)に筆記し、筆記してから、3分後に指で擦って、ぼかしたときの筆跡の状態を目視で評価した。
○:筆跡をぼかすことができ、パステル調の効果が見られる。
×:筆跡をぼかすことができない。
(2)筆記した後、6時間経過したときに、未使用のPPC用紙を、筆記したPPC用紙の上に重ね、500gの分銅をのせて、下の紙(筆記した紙)を固定し、未使用の紙をずらした後、未使用の紙の汚れ度合いを目視で評価した。
○:未使用の紙をほとんど汚さない。
×:未使用の紙を著しく汚す。
【0049】
また、目視による評価に加えて、下記の手順で、色差を測定することによって、ぼかし効果、およびインキの定着度合いを評価した。
(1’)PPC用紙に直径3cmの円を描き、筆記してから、3分後に指で擦って、ぼかしたときの円の内部と用紙との色差(ΔE)を、旧ミノルタ株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて求めることにより評価した。色差は、下記の式で表わされる。式中、Lは明度指数、aおよびbはクロマティクネス指数を示す。詳細は、同装置の取扱説明書(特に第77頁)に記載されている。ΔEが大きいほど、ぼかし効果が高いといえる。
【数1】

【0050】
(2’)PPC用紙に直径3cmの円を描き、筆記後、6時間経過したときに、未使用のPPC用紙を筆記したPPC用紙の上に重ね、500gの分銅をのせて、下の紙(筆記した紙)を固定し、未使用の紙をずらした後、未使用の紙と用紙との色差(ΔE)を、上記色彩色度計で求めることにより評価した。ΔEが小さいほど、汚れが少ないといえる。
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0051】
実施例1〜4の水性インキ組成物はいずれも、良好なぼかし効果を示し、また、インキの定着性も良好であった。これに対し、水溶性樹脂を含まない比較例1は、インキ組成物が紙に定着しないために、インキの定着度合いが悪かった。比較例2は、水溶性樹脂の割合が少なかったため、インキの定着度合いが悪かった。比較例3は、水溶性樹脂の割合が多かったため、インキが比較的早い段階で定着し、ぼかし効果を示さなかった。特許文献1および2で記載されているような、造膜性樹脂エマルションを使用したインキ組成物は、インキが比較的早い段階で定着し、ぼかし効果は最も小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の水性インキ組成物は、筆記した後に筆跡を擦ると良好なぼかしを形成するものであり、筆記具または描画材のインキとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の水性インキ組成物で筆記した筆跡をぼかした状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子、定着剤としての水溶性樹脂、および水を含む、水性インキ組成物であり、
水溶性樹脂が、デキストリン、デンプン、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンから選択される、少なくとも1種の樹脂であり、
水溶性樹脂が、0.3〜3.0重量%含まれる、
水性インキ組成物。
【請求項2】
着色剤をさらに含む、水性インキ組成物。
【請求項3】
樹脂粒子が白色微粒子である、請求項1または2に記載の水性インキ組成物。
【請求項4】
樹脂粒子が、固形分で10重量%以上含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項5】
ペン先とインキ筒を備え、インキ筒内部に請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インキ組成物を収容した筆記具であって、ペン先からのインキの流出量が50mg/10m以上である、筆記具。
【請求項6】
インキ収容部、およびインキ収容部と連続して形成され、先端に孔が設けられた先細部を有し、インキ収容部に請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インキ組成物を収容した描画材であって、インキ収容部を押すと、先細部の孔からインキが流出する描画材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266494(P2008−266494A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113087(P2007−113087)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】