説明

水性インク及びインクジェット記録用インクセット

【課題】自己分散性色材を含むインクで形成した画像の耐擦過性や耐マーカー性を高め、良好な画像品位と発色性の達成を実現すると同時に、画像安定性を達成し、2種以上の異なる色調のインク画像間の滲みを抑制できるインクの提供。
【解決手段】着色剤及び水を含むインクにおいて、該着色剤が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し、且つ該色材と該微粒子とが固着している分散性色材であり、インク中に更に、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)CO3(M1は、アルカリ金属、アンモニア又は有機アンモニウムのいずれかを示し、Phはフェニル基)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を含有している水系インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用に好適な分散性色材と、塩とを少なくとも含有する水系インク及び斯かる水性インクを用いたインクジェット記録用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性インクに用いられる色材としては、主に染料と顔料があり、従来から水性インクとしての扱い易さ、発色性の高さによって水溶性染料が主として用いられてきたが、近年、より高い画像の耐候性、耐水性を実現できる水性インクジェット記録用インクの色材として、本質的に水に不溶な色材、特に顔料を用いたインクの開発が精力的に進められている。
【0003】
水に不溶な色材、特に顔料を水性インクジェット記録用インクとして用いるためには、水中に色材を安定に分散させることが必要となる。この場合、一般的に界面活性剤若しくは高分子分散剤(以下、分散樹脂とも呼ぶ)を用いて分散安定化する方法が用いられてきた。しかしながら、このように分散剤を用いて顔料を安定化して分散した場合、特に、普通紙等のインクが浸透し易い記録媒体に記録を行った場合、インクが記録紙内部まで浸透してしまい、記録紙表面のセルロースが剥き出しになったり、インクがセルロースの繊維に沿って滲んでしまい、文字品位が低下したり、発色性を低下させたりすることがあった。
【0004】
このような問題を解決するために、水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。斯かる水不溶性色材は、通常自己分散顔料と呼ばれ、顔料の分散安定性は分散剤ではなく、修飾した官能基の静電気的な反発力により達成されている。この顔料を記録紙に付与すると、pH変化や水分の蒸発により急激に分散が不安定化するため、インクの記録紙への浸透や滲みが抑えられ、前記した分散剤を用いた水系インクの持つ課題を解決することができる。又、このような顔料を含有する水性インクは、高分子分散剤等の分散剤を用いる必要がないので、インクの粘度を低く抑えることができる、水分の乾燥が速い、等の特徴も有している。
【0005】
上記のようなインクの特徴は、インクジェット記録用水系インクにおいて好適に利用されている。例えば、分散剤を用いない水不溶性色材を含有する水系インクに塩を添加して記録紙上で瞬時に分散破壊が行われる構成とし、これによって、高い濃度を得ると共にインク滲みを抑え、良好な印字品位を実現する水系インクジェット記録用黒色インクが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、高分子分散剤等の分散剤を使用せず、又、記録紙表面で水不溶性色材を局在化せしめたインク構成の場合、色材が記録紙表面近傍に存在し、且つ樹脂がないため、記録画像の耐擦過性や耐マーカー性が低下しやすいという問題を有している。これに対して、画像の耐擦過性等を向上させるために、色材の結着剤として機能する高分子化合物をインクに添加することが考えられる。しかしながら、この場合には、特に、上記に挙げたような、塩を添加して文字品位の向上を図るインクの構成とした場合、水不溶性色材の結着剤として機能させる高分子化合物の添加は、塩による塩析効果を来たし、その保存安定性を著しく劣化させる。
【0007】
一方、水不溶性色材に対する化学修飾処理は、従来はカーボンブラックに適用される場合が多かった。これは、化学修飾処理によって生じる色調の変化が、色調がブラックの場合は殆ど問題にならないことに起因している。これに対して、イエローやマゼンタやシアン等の有機顔料の場合は、分散安定性を高めることを目的として、顔料表面の化学修飾の程度を高めると、色調が黒ずんでしまい、鮮明なフルカラー画像を実現できなくなることがあった。
【0008】
上記したように、分散剤を用いない自己分散型顔料を用いた水系インクの場合、形成画像は、良好な文字品位及び発色性を実現したものとなるが、耐擦過性や耐マーカー性等の画像堅牢性に問題が生じやすかった。又、前記した自己分散型顔料と塩を併用する水系インクの場合、形成画像の、文字品位や発色性を更に高めることが可能であるが、耐擦過性や耐マーカー性等の画像堅牢性は低下する方向であった。又、自己分散型顔料によって達成される良好な画像品位をブラック以外に適用した場合は、カラー顔料の色調が濁ってしまい、画像鮮明性を著しく低下させるという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開2000−198955公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、自己分散性色材を用いた水系インクにおいて、形成した画像の耐擦過性や耐マーカー性を高めることで、良好な画像品位と発色性の達成を実現すると同時に、優れた画像堅牢性を達成することにある。又、本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、インクジェット記録用インクの色材として好適な、充分に分散安定性が高く、且つ、樹脂成分の色材からの脱離がなく、長期に渡り安定である優れた分散性色材を用いることで画像堅牢性に優れた高品位画像を得ることができる、インクジェット記録に好適な水性インクを提供することにある。又、本発明の目的は、2種以上の異なる色調からなるインクセットに、自己分散性色材を含有する水系インクを適用した場合に、異なる色調間の境界領域における滲み(ブリード)の発生の少ない記録画像を実現すること(以下、このようなインクの特性を「ブリード特性」と呼ぶ)である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、新規な形態の分散性色材とすることで、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を用いずに高い分散安定性を保ち、且つ、樹脂成分が色材から脱離することなく長期的に保存安定性である新規な分散性色材の開発を実現した。そして、斯かる分散性色材と、これに加えて特定の塩を用いることで、インクジェット記録用途として十分な吐出安定性や分散安定性を有し、更に、高い画像品位及び、耐擦過性や耐マーカー性等の優れた画像安定性をもつ印字物を与えることができる、特にインクジェット記録に好適な水性インクが得られることを見いだした。即ち、本発明の目的は、以下のような具体的な手段によって達成される。
【0012】
本発明は、着色剤及び水を含有する水性インクにおいて、該着色剤が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し、該色材と該荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材であり、且つインク中に更に、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)CO3(但し、M1は、アルカリ金属、アンモニア又は有機アンモニウムのいずれかを示し、Phは、フェニル基を示す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の塩を含有してなることを特徴とする水系インクである。
【0013】
又、本発明の別の形態は、2種以上のインクを有するインクジェット記録用インクセットにおいて、少なくとも1種類のインクが、上記の水系インクであるインクジェット記録用インクセットである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インク滲みの少ない高品位の文字、画像特性及び高い発色性を有する画像が得られ、更に、耐擦過性、耐マーカー性等の画像堅牢性に優れる画像が得られる水性インク(以下、インクという)が提供される。又、本発明によれば、上記優れたインクを2種以上の異なる色調のインクセットを構成するいずれかのインクに適用することにより、色間滲み(ブリード)の少ない、高い発色性を有する画像記録が実現できるインクセットが提供される。斯かる効果は、水不溶性色材表面に、該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子が固着してなる分散性色材を使用していることによって達成される。即ち、該分散性色材は、色材表面に樹脂成分が存在し、且つ色材からの樹脂成分の脱離がないため、水不溶性色材が、樹脂の持つ高い官能基密度で充分に分散安定化され得る。更に、該微粒子を構成している樹脂によって、該インクを用いて形成された画像は、耐擦過性、耐マーカー性等の画像堅牢性に優れる画像となる。又、本発明に斯かるインクは、上記の分散性色材に加えて、特定の塩が含有されてなるため、該塩によって記録紙上で瞬時に分散破壊が行われ、インクの記録紙上への浸透や滲みが抑えられる結果、色間滲み(ブリード)の少ない、高い発色性を有する画像記録の実現を可能とする。
【0015】
又、本発明によれば、インクの構成成分に、上記のような優れた分散性色材を用い、且つ特定の塩を用いることで、インクジェット記録用途として十分な吐出安定性や分散安定性を有し、高い画像品位及び優れた画像堅牢性をもつ印字物を与える優れた水性インク、及びこれを用いた、特に、異なる色間滲み(ブリード)の少ない、高い発色性を有する画像記録を実現できるインクセットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の最良と思われる実施の形態を挙げて、本発明を具体的に説明する。本明細書及び特許請求の範囲で用いる「分散性色材」の意味するところは、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を添加することなく、水又は水性インク媒体中に分散可能な、即ち、自己分散性を有する色材である。
【0017】
先ず、本発明に斯かるインクに使用される分散性色材は、色材と、該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、上記色材と上記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着していることを特徴とする。特に、該色材は、上記荷電性樹脂擬似微粒子が複数点在して上記色材に固着されているものであることが好ましい。本発明で使用する分散性色材については、後述する。
【0018】
本発明に斯かるインクは、上記分散性色材を用い、且つ該色材と併用して、下記に挙げる塩が含有されてなることを特徴とする。即ち、本発明で用いる塩は、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)CO3から選ばれる少なくとも1種類の塩(但し、M1はアルカリ金属、アンモニア又は有機アンモニウムを示し、Phはフェニル基を示す。)である。
【0019】
上記のアルカリ金属としては、具体的には、Li、Na、K、Rb及びCs等を適用することが可能である。又、上記有機アンモニウムとしては、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム及びトリエタノールアンモニウム等を挙げることができる。本発明において最も好適に適用できる塩としては、安息香酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、琥珀酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウム等である。これら塩はインク中では電離して存在する。例えば、安息香酸アンモニウムは、アンモニウムのカチオン成分と安息香酸のカルボキシルイオンのアニオン成分とに電離している。
【0020】
これら塩のインク中への添加量は、添加量を多くすればインクの滲みは抑えられ発色性も高くなるが、水系インクの分散安定性や保存安定性が劣化する傾向がある。従って、製品規格の観点から必要な保存安定性を実現できる範囲で、最も多量の添加量とすることが好ましい。斯かる観点からすれば、水系インク中に占める割合で0.05〜5質量%の塩を含有させることが好ましい。
【0021】
又、前記した分散性色材を構成する色材としては、水不溶性色材であって、色材の表面が親水性を有するものが好ましい。即ち、本発明で使用する分散性色材は、顔料等の色材表面に帯電性樹脂微粒子が固着することにより構成されているが、樹脂微粒子が固着していない色材表面は、下記に述べる理由から、親水性であることが好ましい。一般的なカーボンブラック等の色材は、顔料表面が疎水性であり、高分子分散剤や界面活性剤等の分散剤を吸着し、分散が安定化してしまう。このため、本発明で用いる分散性色材の製造工程、或いはインク処方等にて、これらの界面活性剤等を用いた場合には、本発明に斯かるインクの主たる特徴のである、色材表面に固着させた帯電性樹脂微粒子の静電気的な反発力で、該色材を水性媒体中に安定に分散せしめ、一方で、インク中に含有させた特定の塩の働きによって、該インクが記録紙上に付与された場合に、瞬時に分散破壊を起こすようにした構成が妨げられることが起こる恐れがある。即ち、この場合には、逆に、滲みの発生や発色性が劣化する場合もある。
【0022】
ここで、顔料表面の親水性の程度は、表面酸化の酸化度合いにより異なり、本発明者らの検討によれば、文字品位や発色性も、使用する色材の酸化度合いにより異なってくることがわかった。即ち、色材表面の酸化度合いが高い程、分散剤の吸着は弱くなり、この結果、得られるインクの印字特性は向上する。
【0023】
又、一般的な有機顔料の場合は、顔料の構成分子の極性により表面の親水性の程度が異なる。特に、顔料分子構造中に酸素や水酸基を有する顔料の表面の親水性は高い。又、顔料の製造工程の最後に行うフィニッシング工程の処理方法によっても表面親水性が異なる。例えば、水系溶剤に置換した後に顔料の乾燥工程を行ったり、水系樹脂等を含有する水系溶剤にてフィニッシングした場合、顔料の表面親水性は高くなる。
【0024】
先に述べたように、特に、カーボンブラックは一般的には疎水性表面を有しており、分散剤を吸着し易いため、滲みが発生し易い。特に、ファーネス法により製造されるカーボンブラックは、顔料表面にカルボキシル基や水酸基等の親水性基は殆どなく、その表面は疎水性である。このようなカーボンブラックの表面を親水性にするためには、酸化処理によりヒドロキシル基や水産基を付与せしめることが好ましい。一方、同じカーボンブラックであっても、比較的酸素が存在する環境下で生産されるデグッサ社等のガスブラックは、表面に親水基を有しており、界面活性剤を吸着し難い特性を有するものである。このようなガスブラックとしては、デグッサ社製のFW1、FW2及びFW200等を挙げることができる。
【0025】
このようなカーボンブラック表面の親水性(酸化)の度合いは、カーボンブラックの揮発分(%)として評価されている。通常、カーボンブラックを真空状態下に、1,000℃程度まで加熱を行うと、表面に存在する官能基の種類に応じたガスが発生し、該ガスの総量、或いはガス種を分析することにより、表面官能基の種類と量を知ることができる。又、加熱重量減少量の総和が高い程、親水基を大量に有するカーボンであることが分かる。
【0026】
上記した顔料表面にカルボキシル基や水酸基等の親水性基は殆どない、通常のファーネス法による疎水性カーボンブラックの揮発分は2質量%以下である。又、一般的に親水性カーボンとして上市されているカーボン(例えば、米国キャボット社製:BP−L)等は5質量%程度の揮発分である。このカーボンブラックに対して、更に乾式酸化処理を十分に行ったとしても、揮発分は10質量%以下である。
【0027】
これに対し、よりカーボンブラックの表面の酸化度合いを高めることのできる方法としては、湿式酸化法が挙げられる。該方法は、水相にカーボンブラックを含浸せしめ、ペルオキソ2酸或いはペルオキソ2酸塩等の酸化剤を添加して、60〜90℃程度で反応せしめ、表面酸化を行う方法である。このようなカーボンブラックに対する湿式酸化は、より具体的には、特開2003−183539公報に記載される方法等により実施できる。又、湿式酸化の別の方法としては特開2003−96372公報に記載されるように次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸類を用いて酸化する方法もある。この時、酸化するカーボンとしては、ガスブラックや酸性ブラック等の比較的親水性のカーボンを用いた場合の方がより均一な酸化が可能となる。更には、特許第3510897号公報に記載されるように、芳香族ジアゾニウム塩を用いて、カーボンに直接、カルボキシフェニル基やスルフォフェニル基を付加することも広義には本発明の湿式酸化反応と定義できる。
【0028】
このように、表面が疎水性のカーボンブラックである顔料表面を親水化することで、高分子分散剤や界面活性剤の吸着を抑えれば、界面活性剤の吸着による顔料の分散安定性は低下し、この結果、インク中に塩を含有させておくことにより記録紙上で色材を瞬時に凝集させることが、より良好に行われる。一方、顔料の分散安定性や、これをインクに用いて形成した画像の堅牢性は、本発明で使用する荷電性樹脂擬似微粒子を顔料に固着せしめることによって、従来の自己分散型顔料に比べて格段に向上せしめることが可能である。
【0029】
本発明で使用する分散性色材の第一の特徴は、色材と、荷電性樹脂擬似微粒子とからなる分散性色材であって、上記色材が、上記荷電性樹脂擬似微粒子を固着している点にある。図1に、本発明を特徴づける、色材1に、荷電性樹脂擬似微粒子2が固着している分散性色材の模式図を示した。図1(b)の2’の部分は、色材1の表面に固着した荷電性樹脂擬似微粒子2の一部が融着している状態を模式的に示した部分である。
【0030】
色材が荷電性樹脂擬似微粒子を固着することで、色材の表面に荷電性樹脂擬似微粒子による電荷が付与され、水又は水性インク媒体へ分散可能な分散性色材となる。又、同時に該分散性色材は、表面に固着している樹脂成分が存在することによって記録媒体への優れた接着性を有するものとなる。このとき、樹脂成分の単純な物理吸着ではなく、本発明で使用する分散性色材の特徴である、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着された状態としているため、荷電性樹脂擬似微粒子が色材表面から脱離することがないため、本発明で使用する分散性色材は長期保存安定性にも優れている。
【0031】
ここで、本発明における荷電性樹脂擬似微粒子とは、樹脂成分が強く凝集状態にある樹脂集合体であり、好ましくはその内部に物理的架橋が多く形成されているものである(樹脂集合体とは、樹脂成分が微粒子形態或いはそれに近い微小凝集体として安定な形態を有しているものである)。この荷電性樹脂擬似微粒子についての詳細は後述する。
【0032】
本発明における荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した状態は、色材表面と荷電性樹脂擬似微粒子との強い相互作用によるものであり、次のような状態で達成されていると考えられる。図4に、荷電性樹脂擬似微粒子の色材と接する界面を拡大した模式図を示した。先ず、荷電性樹脂擬似微粒子2は様々なモノマーユニット組成(図中に9−1及び9−2で示した)で構成されるポリマーが絡み合って形成されている。色材との界面において、ポリマーは局所的に多様な構造をとっているため、その局所的な表面エネルギーも多様な状態が分布している。色材の、化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーと、ポリマーの化学構造及び表面構造から生じる表面エネルギーとが、局所的によく一致する点において、色材とポリマーは強固に結合することとなる(図中に黒丸で示した部分)。更に、一つの荷電性樹脂擬似微粒子が色材と接する界面には、図4に示したように、10に示される、両者の表面エネルギーが局所的に一致する点が複数ある。この複数個所の強固な相互作用によって本願の固着状態は成り立っていると予想される。尚、本発明においては、図1(b)中の2’のような、荷電性擬似微粒子の表面積の例えば30%以上が色材と接するような状態を便宜上「融着」と称するが、これは固着の一形態であり、荷電性擬似微粒子と色材とが界面で溶け合っている必要はない。
【0033】
特に、荷電性樹脂擬似微粒子の内部は構成するポリマー間に強い相互作用が働いており、場合によっては構成するポリマーは互いに絡まりあって物理架橋を形成している。このため、荷電性樹脂擬似微粒子が多くの親水性基を有する場合にあっても、固着した前記荷電性樹脂擬似微粒子が色材から脱離したり、前記荷電性樹脂擬似微粒子から親水性基を有する樹脂成分が溶出しつづけたりすることがない。これに対し、前記した特許文献2のようなカプセル化方法においては、親水性の高い樹脂は色材と強く結合できないために、樹脂が色材から脱離し、結果として長期保存安定性が充分に得られない場合がある。
【0034】
又、本発明で使用する分散性色材が、色材に荷電性樹脂擬似微粒子を固着していることによるメリットとして、その形態によって分散性色材の比表面積が増大し、色材表面の多くの部分に荷電性樹脂擬似微粒子が表面に有する電荷を分布させることができることが挙げられる。この結果、分散性色材が高い比表面積を有することによって、荷電性樹脂擬似微粒子の有する電荷を極めて高い効率で分散性色材の表面電荷とすることができる。即ち、本発明で使用する分散性色材の形態は、より多くの表面電荷をより効率的に分散性色材の表面に配する形態であり、特許文献2に代表されるような、色材を樹脂で被覆する形態に比して、樹脂成分の実質酸価又はアミン価がより小さい場合においても高い分散安定性を付与できる。
【0035】
一般的に、有機顔料は、発色性の色材分子が強い相互作用によって結晶化することによって不溶化(顔料化)したものである。本発明で使用する色材を有機顔料とした分散性色材の場合は、前述したように、荷電性樹脂擬似微粒子と色材との界面に複数の相互作用点が分布しているので、荷電性樹脂擬似微粒子11は、顔料粒子中のいくつかの色材分子1aにまたがって固着する(図5参照)。従って、図6(a)、(b)で説明される、局所的に色材分子1aが、親水性基12によって親水化されることによる「顔料剥離」は、本発明において起こることはない。好ましくは、有機顔料を色材として用いる場合においては、前記荷電性樹脂擬似微粒子の大きさを、顔料の分散粒径よりは小さく、且つ色材分子よりは大きい範囲に制御することによって、顔料の結晶構造を壊さずに、高い分散性を付与した有機顔料の分散性色材を得ることができる。
【0036】
本発明において、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を「固着」している状態は、簡易的には次のような三段階の分離を伴う手法で確認することができる。先ず、第一の分離にて、確認する対象の色材と、インク又は水分散体中に含まれるその他の水溶性成分(水溶性樹脂成分も含む)とを分離し、次に、第二の分離にて、第一の分離における沈澱物中に含まれる色材と水不溶性樹脂成分とを分離する。更に第三の分離にて、弱く吸着されている樹脂成分と、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材とを分離し、第三の分離の上澄みに含まれる樹脂成分の定量、及び第二の分離の沈澱物と第三の分離の沈澱物との比較、を行うことによって色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着を確認する。
【0037】
具体的には、例えば、次のような条件で確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体20gをとり、全固形分質量が約10%程度となるように調整し、遠心分離装置にて、12,000回転、60分の条件で第一の分離を行う。分離したうちの、色材を含んでいる下層の沈降物を、該沈降物のほぼ3倍量の純水に再分散し、続いて、80,000回転、90分の条件にて第二の分離を行う。色材を含んでいる下層の沈降物を3倍量の純水に再分散したものを、再び80,000回転、90分の条件にて第三の分離を行い、色材を含んでいる下層の沈降物を取り出す。第二の分離における沈降物と、第三の分離における沈降物をそれぞれ固形分で0.5g程度となるようにとり、30℃、18時間にて減圧乾燥させたものを、走査型電子顕微鏡にて5万倍で観察する。そして、観察された分散性色材が、その表面に微粒子様物質又はそれに準ずる微小集合体を複数付着している様子が確認され、且つ第二の分離と第三の分離からのそれぞれの沈降物が同様の形態を有していれば、この色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断される。更に、第三の分離における上層の上澄み分を上から静かに体積で半分程度となるようにとり、60℃、8時間にて乾燥させた前後の質量変化から固形分率質量を算出し、その変化が1%未満であれば、分散性色材から樹脂擬似微粒子の脱離がないと考えられ、分散性色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断できる。
【0038】
上記した分離条件は好ましい例であり、その他のどのような分離方法又は分離条件にあっても、上述した第一の分離及び第二、第三の分離の目的を達する手法であれば、本発明で使用する分散性色材であるか否かの判定方法として適用することができる。即ち、第一の分離は、インク及び水分散体中に含まれる色材及びそれに吸着している樹脂成分と、水溶性成分とを分離することが目的であり、第二の分離は、色材及び色材に固着している樹脂成分と、色材に吸着しているその他の樹脂成分とを分離することが目的である。更に、第三の分離は、色材に固着している樹脂成分が脱離しないことを確認することが目的である。勿論、第一、第二及び第三の分離のそれぞれの目的を達する分離手法であれば、その他、公知或いは新しく開発されるどのような分離手法でもよく、その手順も三段階より多くても、又、少なくても適用できる。
【0039】
本発明で使用する分散性色材の第二の特徴は、水不溶性色材1が荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態で、単独で水性媒体中に分散し得る分散性色材である点にある。前述したように、本発明で使用する分散性色材は、本質的には他の界面活性剤や高分子分散剤等の助けがなくとも、安定に水及び水性インク中に分散できる、自己分散性色材である。この定義及び判定方法については後に詳細に述べる。従って、本発明で使用する分散性色材は、長期的に脱離する可能性がある高分子分散剤やその他の樹脂成分、或いは界面活性剤成分を色材の分散安定化を目的として添加する必要がない。その結果、本発明で使用する分散性色材を水性インクとして用いた場合には、分散性色材以外の成分に関する設計の自由度が大きくなり、例えば、普通紙のようなインクの浸透性が高い記録媒体上においても充分に高い印字濃度を得られる水性インクとすることも可能である。
【0040】
本発明で使用する分散性色材の自己分散性については、例えば、次のように確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮する。この濃縮液を遠心分離装置にて12,000回転、2時間の条件で分離し、沈降物を取り出して純水に再分散させる。このとき、沈降物が良好に再分散し得るものが、自己分散性を有すると判断される。良好に再分散しているかどうかは、目で見て均一に分散していること、1〜2時間静置している間に目立った沈降物が発生しないか、あっても軽く震蕩すれば元に戻ること、動的光散乱法にて分散粒径を測定した際に、平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であること、等から総合的に判断できる。
【0041】
前述したように、本発明で使用する分散性色材は、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を固着することによって高い比表面積を有する形態をとり、その広大な表面に多くの電荷を有することで、優れた保存安定性を実現する。従って、荷電性樹脂擬似微粒子は、色材に対して多数、且つ点在して固着していることにより更に好ましい結果が得られる。特に、固着している荷電性樹脂擬似微粒子間に一定の距離があり、好ましくは均一に分布していることが望ましい。更に好ましくは、荷電性樹脂擬似微粒子間に色材の粒子表面が一部露出していることが望ましい。このような形態は、本発明に斯かる水性インクを透過型電子顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡で観察することにより確認される。即ち、色材表面に固着している荷電性樹脂擬似微粒子が、一定の距離をおいて複数固着しているか、或いは固着している荷電性樹脂擬似微粒子間に、色材表面が露出している状態が観察できる。尚、荷電性樹脂擬似微粒子は、時に部分的に近接し、場合によっては融着しているものも観察され得るが、この場合であっても、全体として荷電性樹脂擬似微粒子間に距離があり、又は色材表面が露出している部分があり、尚且つ、これらの状態が分布している場合には、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に対して点在して固着していると見なされることは、当業者には明白である。
【0042】
更に、本発明で使用する上記した特徴を有する分散性色材を含む水性インクは、記録媒体上で優れた速乾性を示すことが明らかとなった。この理由は定かではないが、次のようなメカニズムに基づくと考えられる。前記分散性色材は上述したように、色材表面に荷電性樹脂擬似微粒子を固着した形態にてインク中に分散している。このインクが記録媒体上に到達したとき、インク中の水性溶媒(以下、インク溶媒)は、毛細管現象により記録媒体上の細孔(普通紙の場合はセルロース繊維間の空隙であり、コート紙や光沢紙の場合は受容層の細孔である)へ吸収される。このとき、本発明で使用する分散性色材は、その形態的特徴から、色材同士が接した部分に荷電性樹脂擬似微粒子が点在して細かい隙間を多く形成する。このため、色材間に存在するインク溶媒に毛細管現象が働いて、速やかに記録媒体中に吸収される。本発明に斯かる水性インクにおいて、荷電性樹脂擬似微粒子が表面に点在した形態の分散性色材を使用しているものが、より好ましい速乾性を示すことからも、上述したメカニズムによって速乾性が達成されていることが予想される。
【0043】
本発明者らの検討によれば、このときに、インク溶媒中に、先に挙げた有機アンモニウム等の特定の塩を添加せしめることにより、インク溶媒の記録紙への浸透及び水の蒸発と共に、急激にインク溶媒中の塩濃度が上昇し、この結果、顔料の分散安定化が損なわれ顔料の凝集が発現されることがわかった。即ち、特定の塩をインク中に添加することにより、顔料等の不溶性色材が、記録紙の繊維に沿って滲んだり、記録紙内部へ浸透していくことが抑えられるため、滲みの少ない高品位な文字品位、高い発色性を実現した画像の形成が可能となる。特に、本発明においては、着色剤の凝集が非常に効率良く行われる。その理由は、以下のように推測することができる。通常の樹脂分散剤等は色材から分散媒に向かって伸びた状態であるので、塩によって電荷が消失しても、着色剤間に立体障害が生じやすい。これに対し、本発明の荷電性樹脂擬似微粒子は粒子状であるため、着色剤の見かけの粒径がより小さくなるので、塩によって荷電性樹脂擬似微粒子の電荷が消失した後に着色剤間での立体障害が生じにくい。
【0044】
ここで、前記したように、荷電性樹脂微粒子を固着させていない状態での顔料等の水不溶性色材の表面が、高い疎水特性を有するものである場合には、インク溶媒に添加される界面活性剤や、本発明で使用する分散性色材を製造する際に用いられる水溶性高分子等の分散剤が顔料表面に吸着し、これに起因して分散性色材の速乾性が阻害される場合が考えられる。このような分散剤が吸着することによる弊害を防止するためには、色材として、表面親水性の高い顔料を選択するか、顔料製造時のフィニッシング工程で親水性の化合物にて顔料表面を被覆するか、或いは、顔料を予め湿式又は乾式酸化を行うことによって顔料表面の酸素原子の比率を高めた顔料を用いることが有効である。
【0045】
次に、本発明で使用する分散性色材を構成する各成分について説明する。
[色材]
本発明で使用する分散性色材の構成成分である色材について以下に説明する。本発明で用いられる色材としては公知又は新規に開発された色材のうち、水に不溶な色材で、分散剤とともに水中にて安定に分散できるものを使用することが望ましい。このようなものとしては、疎水性染料、無機顔料、有機顔料、金属コロイド、着色樹脂粒子等が挙げられる。好ましくは、分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲となる色材を使用する。この範囲に分散された色材を用いた分散性色材は、水性インクとして用いた場合に、高い着色力と高い耐候性を有する画像を与える好ましい分散性色材となる。
【0046】
本発明において、色材に有効に用いることのできる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。
【0047】
本発明において有効に用いることのできる有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の各種顔料が挙げられる。
【0048】
その他、本発明で用いることのできる有機性の不溶性色材としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、フタロシアニン系、カルボニル系、キノンイミン系、メチン系、キノリン系、ニトロ系等の疎水性染料が挙げられる。これらの中でも分散染料が特に好ましい。
この時、請求項3、4、5項に記載するように、顔料表面は酸素原子が剥き出しになった親水性表面を有する顔料であることが更に好ましい。このような親水性表面には、分散体生産時或いはインク処方にて適用される界面活性剤や高分子分散剤の吸着が起こらず、荷電性樹脂擬似微粒子の静電気的な反発力のみで顔料が分散しており、速乾性が極めて向上しブリードし難い構成となる。
【0049】
[荷電性樹脂擬似微粒子]
本発明で使用する分散性色材のもう一つの構成成分である荷電性樹脂擬似微粒子は、水に対し実質的に不溶であり、固着する対象である色材の水中(或いはインク中)での分散単位(分散粒径)は小さく、充分に重合度の高い樹脂成分が集合してなる微小体と定義される。微小体の形態としては擬似的に球体に近いか、又は複数の微小体(荷電性樹脂擬似微粒子)の大きさが一定範囲内で揃っているものである。好ましくは荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、互いに物理的に又は化学的に架橋されていることが望ましい。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分が互いに架橋されているかどうかについては、例えば、以下のような手法を用いることで確かめられる。荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分を予め公知の分析方法にて推定し、同じ化学構造となる(又は同じモノマーユニット組成となる)直鎖型ポリマーを溶液重合にて合成し、そのポリマーに対して良溶媒である有機溶媒に荷電性樹脂擬似微粒子及びポリマーをそれぞれ浸漬させてその溶解性を比較したとき、荷電性樹脂擬似微粒子の溶解性がポリマーの溶解性よりも低い場合に、荷電性樹脂擬似微粒子の内部が架橋されていることが確かめられる。
【0050】
又、別の好ましい様態としては、荷電性樹脂擬似微粒子の水中での分散粒径が、例えば、動的光散乱法にて測定可能な場合においては、好ましくはその分散粒径の平均値が10nm以上200nm以下の範囲にあることが望ましい。更に、分散性色材の長期保存安定性の観点からは、分散粒径の多分散度指数が0.2未満に抑えられることが更に好ましい。分散粒径の中心値が200nmより大きい場合又は多分散度指数が0.2より大きい場合には、色材を微細に分散安定化するという本来の目的が充分達成されない場合がある。又、分散粒径の平均値が10nmより小さい場合には、荷電性樹脂擬似微粒子としての形態を充分に維持できず、樹脂が水に溶解し易くなるために、本発明のメリットが得られない場合がある。一方、10nm以上200nm以下の範囲にて、更にその粒子径が色材粒子そのものよりも小さいことによって、本発明における荷電性樹脂擬似微粒子の固着による色材の分散安定化が効果的に発現される。上記の好ましい様態は、荷電性樹脂擬似微粒子の分散粒径が測定不可能な場合においても同様であり、その場合は、例えば、電子顕微鏡観察における前記荷電性樹脂擬似微粒子の平均径が、上記した好ましい範囲か又はそれに準ずる範囲と考えられる。
【0051】
又、色材が有機顔料である場合においては、上記の範囲に加えて、前述したように荷電性樹脂擬似微粒子が顔料の分散粒径よりは小さく、且つ色材分子より大きい範囲とすることによって、構造的に極めて安定で且つ高い分散性を有する分散性色材が得られるので、特に望ましい。
【0052】
本発明における荷電性とは、水性媒体中においてそのもの自身が何らかのかたちでイオン化した官能基を保持しており、望ましくはその荷電性によって自己分散可能である状態をいう。従って、荷電性樹脂擬似微粒子であるかどうかについては、公知且つ任意の手法にて、荷電性樹脂擬似微粒子の表面ゼータ電位を測定する方法、後述するような手法にて電位差滴定を行い、官能基密度として算出する方法、荷電性樹脂擬似微粒子の水系分散体中に電解質を添加して分散安定性の電解質濃度依存性を確かめる方法、又は、荷電性樹脂擬似微粒子の化学構造分析を公知の手法にて行い、イオン性官能基の有無を調べる方法、のいずれかの方法で確認することができる。
【0053】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、一般的に用いられるあらゆる天然又は合成高分子、或いは本発明のために新規に開発された高分子等、いかなる樹脂成分であっても制限なく使用できる。使用できる樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類等が挙げられる。特に、一般的に使用でき、荷電性樹脂擬似微粒子の機能設計を簡便に行える観点から、アクリル樹脂やスチレン/アクリル樹脂が類される、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー成分の重合体或いは共重合体が、好ましく使用できる。
【0054】
本発明で好ましく用いられるラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー(以降、ラジカル重合性モノマー或いは単にモノマーとして表記する)としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。疎水性モノマーと分類される、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ベンジル等の如き(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0055】
又、以下のような親水性モノマーとして分類されるものも好ましく用いられる。例えば、アニオン性基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸等の如きカルボキシル基を有するモノマー及びこれらの塩、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチルアクリルアミドスルホン酸等の如きスルホン酸基を有するモノマーとこれらの塩、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル、アクリル酸−2−ホスホン酸エチル等の如きホスホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリル酸及びメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0056】
[荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への固着]
荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法、及び色材への固着方法は、その手順及び方法は公知である荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法や、荷電性樹脂擬似微粒子と色材の複合化方法によって実施し得る。これに対して、本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明の特徴である、色材と、該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、該色材に、該荷電性樹脂擬似微粒子が固着している状態の散性色材を簡便に得ることができる製造方法を発明するに至った。以下、本発明で使用する分散性色材が容易に得られる、分散性色材の好適な製造方法について説明する。
【0057】
本発明者らの検討の結果、上述したような特性を有する本発明で使用する分散性色材は、下記の条件で水系析出重合法を適用することによって、極めて簡便に製造できることが明らかとなった。斯かる製造方法では、先ず、分散剤にて水不溶性色材を分散することによって該水不溶性色材の分散水溶液を調製する。次いで、この分散水溶液にて、水性ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合性モノマーを水系析出重合する工程によって、色材に荷電性樹脂擬似微粒子を固着させる。この水系析出重合する工程を経て得られた分散性色材は、水系析出重合過程にて合成された荷電性樹脂擬似微粒子が、均一且つ点在した状態で色材に強力に固着した水不溶性色材となり、単独での分散安定性に優れたものとなる。又、上記した水系析出重合過程において、荷電性樹脂擬似微粒子の特性を、これまで述べたような好ましい形態に簡便に制御することができるが、その際にも、本発明の特徴である色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着状態が良好に達成される。以降、上記製造方法における好ましい実施形態を更に詳しく述べる。
【0058】
(水不溶性色材の分散)
先ず、前述したような本発明に好ましく用いられる水不溶性色材を分散剤にて分散して、水分散体とする。色材を水溶液に分散させるための分散剤としては、イオン性、ノニオン性等、いずれのものも使用できるが、その後の重合工程での分散安定性を保つ観点から、高分子分散剤又は水溶性高分子を用いることが望ましい。特に、充分な水溶性を示し、色材微粒子表面及び重合工程で加えられるラジカル重合性モノマー、特に疎水性モノマーの油滴界面への吸着サイトとなる、疎水部分を有しているものが好ましく用いられる。更に望ましくは、その後の重合工程で用いる疎水性モノマーのうちの少なくとも1種類が、分散剤を構成するユニットとして存在しているようにすることが、その後の重合工程において荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着を誘起し易い観点から、好ましい。
【0059】
本発明で使用できる分散剤として機能する、高分子分散剤及び水溶性高分子の製造方法は、特に限定されず、例えば、イオン性基を有するモノマーと、他の重合し得るモノマーとを、非反応性溶媒中で、触媒の存在下又は不存在下で反応させることにより製造できる。特に、前述したようなイオン性基を有するモノマーと、スチレンモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるスチレン/アクリル系高分子化合物、又はイオン性基を有するモノマーと、炭素原子の個数が5以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを必須成分として重合させることによって得られるイオン性基含有アクリル系高分子化合物から、選ばれる分散剤を用いると良好な結果となることが明らかとなっている。この際、得られる分散性色材が特にアニオン性基を有することを目的としている場合には、アニオン性の分散剤を、一方、得られる分散性色材が特にカチオン性基を有することを目的としている場合には、カチオン性基を有するか或いはノニオン性の分散剤を、それぞれ選択することが望ましい。
【0060】
後の水系析出重合の過程で、荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着を促進することと、重合過程での色材の分散安定性を保持することを両立する観点から、アニオン性分散剤を用いる場合には酸価100以上250以下のもの、カチオン性分散剤を用いる場合にはアミン価150以上300以下のもの、をそれぞれ用いることも望ましい形態である。酸価及びアミン価がこの範囲より小さい場合には、水系析出重合の際に、疎水性モノマーと分散剤との親和性が、色材と分散剤との親和性より高くなり、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着するより前に分散剤が色材表面から脱離して、分散状態を保てなくなる場合がある。又、酸価及びアミン価がこの範囲より大きい場合には、色材表面での分散剤の排除体積効果及び静電反発力が強くなり過ぎるために、色材への荷電性樹脂擬似微粒子の固着が阻害される場合がある。アニオン性分散剤を用いる場合には、色材への樹脂微粒子の固着を阻害しない観点から、アニオン性基としてカルボキシル基を有する分散剤を選択することが好ましい。
【0061】
水不溶性色材を分散剤にて分散水溶液とする過程において、色材は、好ましくは分散粒径が0.01μm以上0.5μm以下(10nm以上500nm以下)の範囲、特に好ましくは0.03μm以上0.3μm以下(30nm以上300nm以下)の範囲に分散する。この過程での分散粒径が、得られる分散性色材の分散粒径に大きく反映し、前述した着色力や画像の耐候性の観点、及び分散安定性の観点から、上記の範囲が好ましい。
【0062】
又、本発明で使用する水不溶性色材の分散粒径分布は、なるべく単分散であることが好ましい。一般的には、帯電樹脂擬似微粒子が固着して得られる分散性色材の粒径分布は、図2(b)に示した重合工程よりも前の、分散水溶液の粒径分布よりも狭くなる傾向にあるが、基本的には、上記した分散水溶液の粒径分布に依存する。又、色材と帯電樹脂擬似微粒子とのヘテロ凝集による固着を確実に誘起するためにも、色材の粒径分布を狭くすることは重要である。本発明者らの検討によれば、色材の多分散度指数が0.25以下の範囲にあるものを使用したときに、得られる分散性色材の分散安定性が優れたものとなる。
【0063】
ここで、分散状態にある色材の粒径は各種測定方式で異なり、特に、有機顔料は球形粒子である場合は極めて少ないが、本発明においては、大塚電子工業社製ELS−8000にて動的光散乱法を原理として測定し、キュムラント解析することによって求められた平均粒径と多分散度指数を用いた。
【0064】
水不溶性色材を水に分散させる方法は、前記したような条件で色材が水に安定に分散できる方法のうち、前記したような分散剤を用いた方法であればいずれでもよく、従来知られているいずれの方法にも限定されない。或いは本発明のために新規に開発された分散方法であってもよい。使用する高分子分散剤の添加量としては、一般的には、例えば、水不溶性色材が顔料である場合は、顔料に対し10質量%以上130質量%以下とすることが適している。
【0065】
本発明で用いられる色材の分散方法としては、例えば、ペイントシェイカー、サンドミル、アジテーターミル、3本ロールミル等の分散機やマイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルチマイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波分散機等、それぞれの色材に一般的に用いられる分散方法であれば、どのような手法でも制限されない。
【0066】
(水系析出重合)
続いて、本発明の特徴である荷電性樹脂擬似微粒子を合成し、色材に固着させる工程である、水系析出重合の好ましい実施形態について述べる。尚、本発明は以下に述べる実施形態によって何ら制限されるものではない。図2は、上記製造方法の工程フローを模式的に記載した工程図である。本工程によって分散性色材を得るまでの過程は、次のように考えられる。先ず、図2(a)に示したように、水溶液中に色材1を分散剤3によって分散した分散水溶液を用意する。このとき、色材は、分散剤の吸着によって分散安定化されていて、この吸着は熱的に平衡状態にある。次に、図2(a)で用意した分散水溶液を撹拌しながら昇温し、この中に、モノマー成分4を、例えば、水性ラジカル重合開始剤5と共に添加する(図2(b)参照)。添加された水性ラジカル重合開始剤は、昇温することにより解裂してラジカルを発生し、分散水溶液中に添加されたモノマー成分のうち、微量に水相に溶解した疎水性モノマーと、水相中の水溶性モノマーとの反応に寄与する。
【0067】
図3は、モノマー4が重合し、分散性色材を生成するまでの過程を記載した模式図である。前記したようなモノマー4の反応が進行すると、モノマー成分の重合反応によって生成したオリゴマー7は水に不溶となり、水相より析出して析出物8となる。しかし、このとき析出したオリゴマー7は、十分な分散安定性を有していないため、合一して荷電性樹脂擬似微粒子2を形成する。荷電性樹脂擬似微粒子2は更に、分散水溶液中の色材の有する疎水性表面を核としてヘテロ凝集を起こし、色材1の表面と荷電性樹脂擬似微粒子2を構成する樹脂成分が疎水性相互作用によって強く吸着する。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部では重合反応が進行しつづけており、色材1との吸着点を増やしながら、よりエネルギー的に安定する形態へ変化する。同時に、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部は高度に物理架橋が形成されるため、色材1と最も安定に吸着する形態を固定して固着状態となる。一方、色材1は、複数の荷電性樹脂擬似微粒子2が固着していくことによって安定化され、平衡状態にあった分散剤3は、色材1の表面から脱離する。
【0068】
図4に、上記のようにして得られた荷電性樹脂擬似微粒子2の、色材1との固着界面側の模式図を示した。図4に示したように、樹脂成分の集合体である荷電性樹脂擬似微粒子は、親水性モノマーユニット9−1、疎水性モノマーユニット9−2等が任意に分布して存在するため、その局所的な表面エネルギーには分布があり、色材の表面エネルギーと一致する吸着点10が多数存在する。
【0069】
図5に、荷電性樹脂擬似微粒子11の一部と色材粒子の一部1aとの固着界面部分の拡大模式図を示したが、荷電性樹脂擬似微粒子の界面11は、図4に示した吸着点10を吸着しながら、色材の一部1aの表面形状に応じた形態をとって安定に固着する。前述したようにこの過程においても荷電性樹脂擬似微粒子内での重合反応が進行しているため、吸着が安定化した形態で固定化されることで色材への固着を達成する。以上のような過程により、前記した構成の分散性色材が、容易に形成される(図2(d)参照)。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子が充分な表面電荷を有して自己分散性を達成している系においては、ヘテロ凝集による色材への吸着及び固着過程にて、荷電性樹脂擬似微粒子間に相互に静電斥力が働くことによって、荷電性樹脂擬似微粒子は、色材に対して点在して固着し、前述した好ましい形態となる。
【0070】
重合反応条件は、使用する重合開始剤及び分散剤、モノマーの性質によっても異なるが、例えば、反応温度は100℃以下とし、好ましくは40℃以上80℃以下の範囲である。又、反応時間は、1時間以上、好ましくは6時間以上30時間以下である。反応中の撹拌速度は、50rpm以上500rpm以下、好ましくは150rpm以上400rpm以下とするのが望ましい。
【0071】
前述した工程において、特に、少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類の親水性モノマーを含むモノマー成分を重合させて荷電性樹脂擬似微粒子を得る際には、好ましくは前記モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤をあらかじめ含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することが望ましい。又は、水不溶性色材の分散水溶液中に、水性ラジカル重合開始剤と同時又は別々に滴下して加えることも望ましい形態である。疎水性モノマーと親水性モノマーのように性質の異なるモノマーの混合物から、所望の荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得るためには、前記性質の異なるモノマーの共重合比率を常に一定に保つことが望ましい。前記モノマーの混合物を一定時間内に重合反応で消費されるモノマー量に比して過剰に重合系内に添加した場合、特定のモノマー種のみが先行して重合し、残りのモノマーは先行で重合したモノマーが消費されてから重合する傾向があり、この場合には、生成される荷電性樹脂擬似微粒子の性質に大きな不均一が生じる。こうして生成した荷電性樹脂擬似微粒子のうち、特に親水性モノマー成分の含有量の大きいものは、色材の表面に固着できない場合がある。
【0072】
更に、親水性モノマー成分の含有量の大きい樹脂成分に至っては、その高い親水性によって析出できず、荷電性樹脂擬似微粒子が形成されずに水溶性樹脂成分として系内に残存してしまう場合がある。一方、モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤を含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することによって、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合比率が常に一定に保たれた、所望の共重合比率で構成される荷電性樹脂擬似微粒子を均一に得ることができる。
【0073】
又、親水性モノマーとして、特に、アクリル酸、メタクリル酸等のアニオン性モノマーを重合系内に添加する際に、色材を分散している高分子分散剤の特性によっては部分的に不安定化し、凝集を引き起こす場合もある。これを防ぐために、アニオン性モノマーを予め中和し、ナトリウム塩やカリウム塩の状態で添加することも好適な実施形態である。
【0074】
上述した工程にて得た、本発明に斯かる、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した水不溶性色材を用いて水性インクを調製する際には、上記の工程に加えて、更に精製処理を行うことが望ましい。特に、上記において、未反応の重合開始剤、モノマー成分、分散剤、固着に至らなかった水溶性樹脂成分及び荷電性樹脂擬似微粒子等について精製処理を行うことは、分散性色材の保存安定性を高く維持する点で重要である。使用する精製方法としては、通常一般的に用いられている精製方法から最適なものを選択して用いればよい。例えば、遠心分離法や、限外ろ過法を用いて精製することも好ましい実施形態である。
【0075】
上述した工程を経れば、多くの制御因子をコントロールすることによって、色材の表面に所望の共重合体からなる荷電性樹脂擬似微粒子が固着されてなる分散性色材を得ることができる。特に、高い分散安定性を目的としてアニオン性モノマーを使用する場合には、本発明の工程を経た分散性色材は、上記の工程で用いるアニオン性モノマーが比較的少ない量であっても大きな表面官能基密度を得ることができ、高い分散安定性を付与することができる。この結果、長期保存安定性を損なうことなく、荷電性樹脂擬似微粒子の分散安定性を高くすることが可能となる。
【0076】
この理由は明らかでないが、本発明者らは次のように考えている。水中で発生したラジカルにより重合が開始され、オリゴマーが析出して荷電性樹脂擬似微粒子を形成する際、アニオン性モノマー由来成分の多い部分が優先的に水相側、即ち、荷電性樹脂擬似微粒子の表面付近に配向する。この状態は、前記荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した後にも維持され、構造的に大きな比表面積を有する本発明で使用する分散性色材では、更に、アニオン性モノマー成分由来のアニオン性基が多く存在し、結果として、上記した製造方法によって得られる分散性色材は、より少ないアニオン性モノマー成分で安定化されると予想される。
【0077】
[水性インク]
本発明に斯かる水性インクは、以上説明した分散性色材を含むことを特徴とする。使用する色材が顔料である場合には、一般的には顔料含有量がインクに対して0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.3質量%以上15質量%以下とする。更に、水性媒体としては、水、又はこれに水溶性の有機溶媒を必要に応じて含む混合媒体も好ましい。又、記録媒体への浸透性を助けるための浸透剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。
【0078】
本発明で使用する分散性色材は、図1に示したように、色材1の表面に、荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態でインク中に存在している。従って、色材は、表面に固着している荷電性樹脂擬似微粒子を介して、記録紙上で、記録媒体及び隣り合った色材と相互に接着する。従って、本発明の水性インクを用いて得られる印字物は、優れた耐擦過性を有するものとなる。より好ましい実施様態としては、上記した構成に加えて、更に、自己分散性樹脂微粒子が分散して存在する水性インクとすることにより、通常では顔料等の水不溶性色材では難しかった、光沢媒体上への高光沢印字が可能となる。この場合に、更に好ましくは、色材に固着している荷電性樹脂擬似微粒子(A)と、インク中に分散して存在する自己分散性樹脂微粒子(B)とが存在する様態とした場合に、荷電性樹脂擬似微粒子(A)を構成するモノマー成分と、自己分散性樹脂微粒子(B)を構成するモノマー成分とが、1種以上の共通のモノマー成分を含んでなることにより、荷電性樹脂擬似微粒子(A)を固着した分散性色材と、自己分散性樹脂微粒子(B)との親和性が大きくなり、接着力が増大するため、特に、上記した態様によれば、光沢媒体上に形成された印字物の耐擦過性が大きく向上する。
【0079】
更に、色材として顔料を用いる場合において、顔料と荷電性樹脂擬似微粒子との割合(樹脂質量/顔料質量=B/Pと表す)を、0.3以上4.0以下の範囲となるようにすることも、色材によって形成される印字物の耐擦過性を高める上で、本発明の望ましい実施形態であると言える。B/P比を0.3以上とすることで、色材間、及び色材と記録媒体間との接着性を高めることで、印字物に優れた耐擦過性を付与し得る。特に、ガラス転移温度が−40℃以上60℃以下となる共重合体成分を含んで構成される荷電性樹脂擬似微粒子を固着してなる分散性色材を用いた水性インクにおいては、その造膜性をより効果的に発現することができ、光沢紙における耐擦過性をより高める結果となる。B/Pが4.0より著しく大きい場合には、全体として粘性の高いインクとなり、特にインクジェット記録装置に用いる場合には、吐出安定性を損なう場合がある。又、色材に対して樹脂量が極端に多いために、記録媒体上で色材の発色性を妨げ、印字濃度が充分に得られない場合がある。B/Pの値を上述した0.3以上4.0以下の範囲に制御することによって、優れた耐擦過性を有し、インクジェット記録装置においては吐出安定性を両立した水性インクとすることができる。
【0080】
ここでいう樹脂質量とは、本発明に斯かるインク中に含まれる荷電性樹脂擬似微粒子の全量のことであり、その他に明らかに顔料表面に強く吸着している樹脂成分についても含まれる場合がある。ただし、顔料と容易に分離可能な水溶性樹脂成分については含まれないものとする。
【0081】
上述したB/Pの値は、一般的には、示差熱重量分析法によって求めることができるが、本発明では、METTLER社製のTGA/SDTA851にて測定、算出した値とする。即ち、本発明では、本発明に斯かる、分散性色材又は該色材を含有する水性インクジェット記録用インクを80,000回転、2時間の条件にて遠心分離した沈降物を乾燥、秤量し、窒素雰囲気、或いは大気中において昇温を行ったときの、顔料及び樹脂成分のそれぞれの分解温度前後での質量変化を求め、B/Pを算出した。
【0082】
[記録画像]
本発明に斯かるインクは、後述するようなインクジェット記録装置を用いた記録の際に好適に用いることができる。この際に使用する記録媒体は、インクジェット記録可能等のような媒体でも制限なく用いることができる。この際に形成されるインクジェット記録画像において、本発明で使用する分散性色材は、その特徴的な形状による作用として、図7のa)、b)、c)に示したような、好ましい形態を含んで画像を構成する(最も好ましくはb)又はc)のみとなるが、実施レベルとしてはこれらが同時に含まれる)。a)は、特に、本発明に斯かる水性インク中に、更に自己分散性樹脂微粒子Bを添加した場合に起こりやすく、記録媒体上での色材間の凹凸を埋めるように荷電性樹脂擬似微粒子或いは自己分散性樹脂微粒子Bが堆積することで、光沢性を有する記録媒体上でも高光沢な画像が実現される。又、b)は、隣あった色材間に存在するそれぞれの色材に固着した荷電性擬似微粒子2が、更に隣接した色材の夫々に対しても固着することで、強固な着色膜を形成し、高い耐擦過性を有する記録画像を形成した状態である。更に、色材表面に対して荷電性樹脂擬似微粒子の固着する割合を相対的に小さくすることで、色材同士の凝集を部分的に許容しつつ、b)の機能も利用することで、c)のような好ましい形態がとられる。c)は、記録媒体上に付着されたインク中の分散性色材が凝集する過程において、荷電性樹脂擬似微粒子の静電斥力(図中15の矢印で示される)と、色材表面の凝集力とのバランスによって、その凝集形態が制御されている様子を表している。このような制御を行うことにより、記録媒体上での色材の凝集制御による画像濃度又はインクのにじみを制御することが可能となる。
【0083】
[画像記録方法及び記録装置]
本発明で使用する分散性色材、及び該色材を含有する水性インクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインクタンクとしても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明は、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらす。
【0084】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一に対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明である米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0085】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0086】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも、本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体、或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【実施例】
【0087】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0088】
[実施例1]
実施例1に斯かる記録インク1を下記の要領で作製した。先ず、カーボンブラック10部、グリセリン6部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤10部、及び水74部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて、1,500rpmで5時間分散し、顔料分散液1を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。本実施例で使用したカーボンブラックは、米国Cabot社より上市されているBlack Pearls 880(以下、BP880と略す)であり、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤には、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170のものを使用した。斯かるスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤は、予め、水及び、上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃にて撹拌し、水溶液としたものを使用した。得られた顔料分散液1は、平均分散粒径98nmで安定に分散されており、多分散度指数は0.16であった。
【0089】
次に、上記で得た顔料分散液1を500部として、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで撹拌しながら下記の3つの添加液を各液ごとに徐々に滴下して加え、5時間重合を行った。各添加液は、(1)メタクリル酸メチル28.5部からなるモノマー、(2)アクリル酸1.5部、水酸化カリウム0.36部及び水30部からなる親水性モノマーを含む混合液、(3)過硫酸カリウム0.05部と水30部からなる重合開始剤を含む混合液である。得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製して、沈降物である分散性色材1を得た。
【0090】
上記で得られた分散性色材1を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行った後、沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)で5万倍にて観察したところ、該分散性色材1では、色材としてのカーボンブラックの表面にカーボンブラックよりも小さい樹脂微粒子が固着している状態が観察された。尚、本実施例に記載されるこれ以降の色材についても、上記と同様の手法にて、色材の形態を確認した。
【0091】
上記で得た分散性色材1が、インク中に4%濃度で含まれるようにして、これに、下記の成分組成を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧濾過し、本実施例のインクを調製した。尚、インクの全量が100部となるように水で調整した。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミカ
ル社製) 0.2部
・安息香酸アンモニウム 0.5部
・イオン交換水 残部
【0092】
[比較例1]
実施例1で用いたインクの処方において、安息香酸アンモニウム塩を添加しない以外は実施例1と同様の方法及び処方によって比較用のインクを作製した。
【0093】
[評価]
実施例1及び比較例1で得たインクを用いて、キヤノン製インクジェットプリンターS−700で、下記のようにして印字試験を行った。各インクは、S−700に搭載されるBCI−3eBK用空インクタンクに注入し、そのまま印字試験を行った。その結果、安息香酸アンモニウムが含有されている実施例1のインクでは、文字品位、及びカラーインクとの境界領域の色調の滲み(ブリード)は、安息香酸アンモニウムを含有しない比較例1のインクに比べて格段に良好であった。
【0094】
[実施例2]
実施例1において、安息香酸アンモニウムの添加量を、0.01%から10.0%まで変化させた以外は実施例1と同様の方法で各インクを調製し、これらのインクについて、上記したと同様にして、ブリード特性、文字品位を評価した。結果を表1にまとめる。この結果、安息香酸アンモニウムの添加量が0.05%に満たない添加量では、文字品位の向上やブリードの低減の効果が、実施例1の場合に比較してやや劣っていた(表中「△」)。一方、安息香酸アンモニウムの添加量が5%を超える場合は、実施例1の場合に比較して吐出特性が劣化して、白スジが発生し易くなったり、60℃/3日の保存試験でゲル化物が発生し易くなる等、インクに安息香酸アンモニウムを添加することによって別の問題が生じる恐れがあることが確認された。
【0095】

【0096】
[実施例3]
カーボンブラックを、実施例1で用いたBP880から独国デグッサ社のNIPEX180に変更した以外は実施例1と同様にして、インクに使用する分散性色材を調製した。ここで、使用したカーボンブラックの表面状態を比較するために、下記の方法でカーボンブラックの表面酸素量を測定した。カーボンブラックの表面酸素の量は、下記の加熱減量法にて測定した。該手法では、真空下950℃にてカーボンブラックを10分程度加熱し、その際に生じる重量減少から表面酸素量を推定する。即ち、上記条件下の加熱で発生するガスは一酸化炭素や二酸化炭素であり、これらのガスは、カーボン表面に存在するカルボキシル基、水酸基、キノン等に起因するため、該加熱の際に生じる加熱減量が大きいほど表面酸素量が多いと言える。測定の結果、実施例1で使用したBP880の場合は、1.5%の加熱減量であったのに対して、本実施例で使用したNIPEX180の加熱減量は5%であり、カーボンブラックの表面酸素量が実施例1で使用したものと比べて多いことが確認された。
【0097】
上記で調製した分散性色材を用い、実施例1と同様の方法及びインク処方にてインクを調製した。そして、実施例1と同様にして、得られたインクについて印字試験を行い、印字評価を行った。この結果、実施例1のインクの場合よりも更に良好な、文字品位とブリード特性を実現できることが確認された。
【0098】
[実施例4]
カーボンブラックを、実施例1で用いたBP880から東海カーボン(株)社製の湿式酸化カーボンとした以外は、実施例1で同様にして、分散性色材を調製した。本実施例で使用した湿式酸化カーボンは、酸化剤を用いて水相にてカーボンブラックを表面酸化したものである。実施例3の場合と同様に、この湿式酸化カーボンの表面酸素量を測定したところ、該カーボンの加熱減量は15%であり、本実施例で使用したカーボンの表面酸素量は、実施例1及び2で使用したものと比べて、格段に多いことが確認された。
【0099】
上記で調製した分散性色材を用い、実施例3と同様のインク処方にてインクを調製した。そして、実施例1と同様にして印字を行ったところ、実施例1〜3と比較して、極めて良好な文字品位とブリード特性を実現できた。
【0100】
[実施例5]
米国キャボット社製のCABOJET−200をカーボンブラック原料とした以外は実施例1と同様にして、分散性色材を調製した。このカーボンブラックは、カーボン表面にカルボニル基を付与した構成となっている。尚、当該製法は湿式酸化の手法の一つと言えるが、反応が単純な酸化剤を用いた酸化反応ではないため、コストは高くなるという実用上の課題はある。
【0101】
実施例1と同様にしてインクを調製し(但し、安息香酸アンモニウムの添加量は1%とした)、得られたインクを用いて実施例1の場合と同様に印字を行ったところ、極めて良好な印字を実現できた。その印字の程度は、CABOJET−200を分散剤で分散させてなるインク(以下、CABOJET−200インクと呼ぶ)と同等に、より良好な印字品位の記録物が得られた。
【0102】
本実施例で得たインクにて形成した文字と、CABOJET−200インクにて印字した文字について、それぞれ、指で擦っての擦り試験、及びマーカーペンでの耐マーカー試験を行った。その際、マーカーペンにはゼブラ社OPTEXを用いた。その結果、CABOJET−200インクによる文字は、擦り試験によって乱れが生じるとともに、耐マーカー試験では、マーカーペンがインクで汚れたが、本実施例のインクでは、このような問題は生じなかった。
【0103】
[実施例6]
カーボンブラックを、米国CABOT社製のBlack Pearls Lにした以外は、実施例1と同様にして分散性色材を調製した。このカーボンブラックはファーネス法によるカーボンブラックを乾式酸化した製品である。実施例3の場合と同様にして、この乾式酸化カーボンブラックの表面酸素量を測定したところ、加熱減量は5%であった。
【0104】
実施例1と同様の方法及び処方でインクを調製し、得られたインクを用いて印字を行ったところ、良好な文字品位とブリード特性を実現できた。しかし、文字品位及びブリード特性は、湿式酸化カーボンを用いた分散性色材が含有されている実施例4及び5のインクよりは劣るものであった。カーボンブラックを表面酸化する場合に、乾式酸化方法は、コスト的に、先に説明した湿式酸化よりも安価であるという利点があるが、表面の酸化の程度は湿式酸化の場合と比較して十分ではなく、加熱減量も低いため、文字品位やブリード性は、湿式酸化したカーボンブラックを用いたものよりは劣ることが確認された。
【0105】
[実施例7]
カーボンブラックに代えてクラリアント社製イエロー顔料PY−180(TONER YELLOW HG)を用いた以外は実施例1と同様にして、分散性色材を調製した。該顔料は、ベンズイミダゾロンの構造を有するイエロー顔料であり、極めて親水性の高い顔料である。
【0106】
上記で得た分散性色材を用いて、実施例1と同様にしてインクを調製した。そして、実施例1と同様に印字試験を行った。印字試験の際に、上記で得たイエローインクは、S−700のイエローインクタンクに充填した。これと同時に、S−700のブラックインクタンクには、実施例4で調製したブラックインクを注入して印字試験を行った。ブラック及びイエローとも良好な発色性を示した。ブラックとイエローの色調の境界部を観察したところ、混色滲みは殆ど発生しておらず、これらのインクの組み合わせによって、特に良好なブリード特性が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、新規な形態の分散性色材に、特定の塩を併用したインクとすることにより、極めて文字品位が高く、又、発色性及びブリード特性が良好である、インクジェット記録用として好適な水性インクが提供される。又、本発明に斯かるインクを用いて得られた記録物は、水不溶性色材を用いているにもかかわらず、耐擦過性、耐マーカー性において優れた特性を有する。本発明に斯かるインクは、分散性色材を用いるものでありながら、長期保存安定性に優れ、この点でも、インクジェット用インクとして好適な水性インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明による、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材の基本的構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法における代表的な工程の模式図である。
【図3】本発明の製造方法における荷電性樹脂擬似微粒子の精製と色材への固着過程を示す模式図である。
【図4】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子を、色材と固着する界面側から拡大した模式図である。
【図5】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子と色材が固着している界面を拡大した模式図である。
【図6】特許文献1に代表される、有機顔料に親水性基を直接修飾した際の、顔料剥離現象の模式図である。
【図7】記録媒体上での分散性色材の凝集状態を表した模式図である。
【符号の説明】
【0109】
1:色材
1a:色材の一部
2:荷電性樹脂擬似微粒子
3:分散剤
4:モノマー
5:重合開始剤水溶液
6:分散性色材
7:モノマーが重合して形成されたオリゴマー
8:オリゴマーが水に不溶化した析出物
9−1:荷電性樹脂擬似微粒子中の親水性モノマーユニット部分
9−2:荷電性樹脂擬似微粒子中の疎水性モノマーユニット部分
10:色材との結合部位
11:荷電性樹脂擬似微粒子の色材との界面部分
12:色材に直接修飾された親水性基
13:親水化された色材分子
14:記録媒体
15:荷電性樹脂擬似微粒子間に働く斥力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及び水を含有する水性インクにおいて、該着色剤が、色材と該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有し、該色材と該荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材であり、且つインク中に更に、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)CO3(但し、M1は、アルカリ金属、アンモニア又は有機アンモニウムのいずれかを示し、Phは、フェニル基を示す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の塩を含有してなることを特徴とする水系インク。
【請求項2】
前記塩が、インク中に0.05〜5質量%含有されている請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
前記分散性色材を構成する色材が、表面酸化されている色材である請求項1又は2に記載の水系インク。
【請求項4】
前記分散性色材を構成する色材が、湿式酸化されたカーボンブラックである請求項3に記載の水系インク。
【請求項5】
前記分散性色材を構成する色材が、乾式酸化されたカーボンブラックである請求項3に記載の水系インク。
【請求項6】
インクジェット記録用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系インク。
【請求項7】
2種以上の水性インクを有するインクジェット記録用インクセットにおいて、少なくとも1種類のインクが、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系インクであるインクジェット記録用インクセット。
【請求項8】
前記2種以上の水性インクが互いに異なる色調であり、且つ請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系インクである請求項7に記載のインクジェット記録用インクセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−37088(P2006−37088A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182981(P2005−182981)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】