説明

水性ウレタンモルタル組成物及び床

【課題】ポリウレタン系セメント組成物は、通常ポリオールの水分散エマルジョンに、有機イソシアネート化合物、セメント系骨材を施工現場にて混合し使用するが、アルカリ性の骨材を使用するために、イソシアネートの反応が促進され、混合後の使用可能時間が短いことや、水とイソシアネートとの反応が急激に起こり、発生した炭酸ガスにより塗膜が発泡して仕上がり不良となることがあり、特に高物性配合となるポリメリックMDIでは悪く、これを解消することが課題となっている。
【解決手段】リン酸トリアリールエステルを含むウレタンモルタル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐熱水性、耐磨耗性、耐衝撃性などに優れる床であって、ポリオール、水、イソシアネート、水硬性セメントを施工現場で混合して使用するポリウレタン系セメント組成物の使用可能時間や耐発泡性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厨房室、試験室、薬品・化学工場、電子回路の工場などの床には防水性、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性並びに耐衝撃強度などの機能を付加させるため、打設したコンクリート表面に強化樹脂を施工した複合床や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とセメントとを配合した樹脂モルタル系の床が施工されている。
【0003】
特に、水硬性セメント、水、ポリオールおよびイソシアネート化合物からなるポリウレタン系セメント組成物は、熱や機械的な衝撃強度に優れるため、大きな負荷のかかる部位の床に施工される。
【0004】
水硬性セメント(a)、骨材(b)、活性水素化合物(c)、イソシアネート化合物(d)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(e)および水(f)を含有してなり、(e)の配合量が(c)に対して0.1〜2.0重量%であり、全組成物に対して0.001〜0.20重量%である水性レジンモルタル組成物が開示され、可塑剤として、リン酸エステルを記載しているが、本願の効果を見出していない。(特許文献3)
【0005】
(a)活性水素含有化合物及び(c)セメント減水剤を、水に添加し、混合することからなる分散液、及び、該分散液に、有機ポリイソシアネート及び水硬性セメントを混合し、基材に塗布し、硬化させることを特徴とするセメント組成物の硬化方法で施工性、作業性の改善が開示されている。(特許文献4)
【0006】
下地、下地表面に設けられた下塗り層、及び下塗り層表面に設けられた上塗り層から構成される積層構造体において、(A)ポリオール、(B)水、(C)ポリイソシアネート化合物及び(D)セメント成分、さらに必要に応じて(E)抗菌剤及び/又は(F)骨材を含有する組成物を下地に塗布して硬化させて下塗り層を設けた後、(A)ポリオール、(B)水、(C)ポリイソシアネート化合物、(D)セメント成分及び(E)抗菌剤、さらに必要に応じて(F)骨材を含有する組成物を該下塗り層の表面に塗布して硬化させて上塗り層を設けることを特徴とする抗菌性ポリマーセメント硬化物の施工方法が開示され、E成分にリン酸エステルが開示されているが、抗菌性効果に関するものである。(特許文献5)
しかし、これらウレタンモルタル組成物は水硬性セメントと水を含むことにより、イソシアネート化合物と反応が進み、混合後の使用可能時間が短く、発泡による仕上がり不良が起こる。また、添加剤、組成物配合で、改良はされるものの解消には至らないものであった。特に、ポリメリックMDIを用いる場合は、強度・硬化性・耐熱性は他のイソシアネート化合物に比べ優れるものの、可使時間が短く、発泡することが多かった。
【特許文献1】特開2000−72507号公報
【特許文献2】特開2005−47719号公報
【特許文献3】特開2002−179454号公報
【特許文献4】特開平08−169740号公報
【特許文献5】特開2004−67463号公報
【0007】
ポリウレタン系セメント組成物は、通常ポリオールの水分散エマルジョンに、有機イソシアネート化合物、セメント系骨材を施工現場にて混合し使用するが、アルカリ性の骨材を使用するために、イソシアネートの反応が促進され、混合後の使用可能時間が短いことや、水とイソシアネートとの反応が急激に起こり、発生した炭酸ガスにより塗膜が発泡して仕上がり不良となることがあるという問題がある。
これは、混合物中の反応として、疎水相内でのイソシアネートとポリオールの反応にくらべて、疎水相と親水相界面でのイソシアネートと水の反応が充分に遅くないために起こる不具合であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリウレタン系セメント組成物において、使用可能時間を延長し、発泡による仕上り不良を無くする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明はポリオール、水、イソシアネート、水硬性セメントを成分とするポリウレタン系セメント組成物においてリン酸トリアリールエステルを含むことを特徴とする水性ウレタンモルタル組成物で使用可能時間を延ばし、発泡による仕上がり不良を生じさせない。
請求項2の発明はイソシアネートが多核ポリフェニレンポリメチルポリイソシアネートである請求項1記載の水性ウレタンモルタル組成物で、優れた強度・硬化性・耐熱性を有する組成物で使用可能時間を延ばし、発泡による仕上がり不良を生じさせない。
請求項3の発明は請求項1乃至2いずれか記載の水性ウレタンモルタル組成物からなる床で、可使時間が、長く、作業性が優れ、発泡による外観不良がない、強度・硬化性・耐熱性に優れた塗床材となる。
【発明の効果】
【0010】
リン酸トリアリールエステルを添加することで使用可能時間が延長され、発泡による仕上り不良が生じ難くなり、施工に起因する欠損が少なく良好な塗膜を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明はポリオール、水、イソシアネート、水硬性セメントを成分とするポリウレタン系セメント組成物にリン酸トリアリールエステルを含むことで使用可能時間が延長され、発泡による仕上り不良が生じ難くなることを鋭意検討の結果発明できた。
これは、リン酸トリアリールエステルが親水相と疎水相の界面を保護し、水とイソシアネート化合物の接触が困難になるためと考えられる。
【0012】
リン酸トリアリールエステルは、リン酸トリクレジル、リン酸クレジルジフェニル等のリン酸の活性水素が3つともフェノール誘導体と縮合した構造をもつトリエステルが使用できる。これらは水に不溶な性質を有する。
【0013】
本発明に係わるポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等で、二個以上の水酸基を持つポリオールやこれらの乳化物があげられ、好ましい例として、ひまし油変性ポリオールやこれらの乳化物があげられる。 具体的な製品として、住友バイエルウレタン(株):ディスモフェン1145、ディスモフェン1150、ディスモリットVPLS2248(いずれも商品名)などがある。
【0014】
イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメチレンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が使用できるが、好ましい例としては化1の一般式で表される多核ポリフェニレンポリメチルポリイソシアネート、(以下ポリメリックMDIと略す)を含有するものがあげられる。具体的な製品として、住友バイエルウレタン(株):スミジュール44V10、スミジュール44V20(いずれも商品名)や日本ポリウレタン(株):コロネート3520、MR−100(いずれも商品名)などがある。
【0015】
【化1】

【0016】
水硬性セメントはポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどが単体若しくは混合して使用できる。なお、施工床の色調を特定色に設定したい場合には白色ポルトランドセメントが好適で、淡色の床に仕上ることが可能となる。又各種の顔料を添加することによって各種の着色床に仕上ることが容易に実施できる。
【0017】
ウレタンモルタル組成物には、希釈剤や消泡剤、流動化剤、界面活性剤等の添加剤さらに硅砂、消石灰、ガイシ粉末などの骨材が必要に応じて含むことができる。
【0018】
以下、本発明について実施例、比較例により詳細に説明する。
結果を表1に示した。配合について重量部を単に部として記載する。また、本発明は当然これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
ディスモフェン1145(住友バイエルウレタン(株)商品名、ひまし油変性ポリオール,水酸基価:230mgKOH/g)を60部にエマルゲン1118S−70((花王(株)、商品名、ノニオン系界面活性剤,ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB:16.4))を1部加え、ディスパー型撹拌機で撹拌しながら水道水を39部加え2分間撹拌してエマルジョンを得る。これにスミジュール44V20((住友バイエルウレタン(株)、商品名、ポリメリックMDI、NCO%:32%))を100部とリン酸トリアリールエステルとしてTCP5部((大八化学工業(株)商品名、トリクレジルホスフェート))を加え、ディスパー型撹拌機で撹拌ながら、あらかじめ白セメント160部と5号硅砂120部と6号硅砂120部を混合したプレミックス粉体を加え、2分間撹拌して実施例1の試料とした。
【実施例2】
【0020】
実施例1のTCP5部をCDP5部(大八化学工業(株)、商品名、クレジルジフェニルホスフェート)に変えた以外同じく行い実施例2の試料とした。
【実施例3】
【0021】
実施例1のTCP5部をTCP10部に変えた以外同じく行い実施例3の試料とした。
【実施例4】
【0022】
実施例1のTCP5部をCDP10部に変えた以外同じく行い実施例4の試料とした。
【実施例5】
【0023】
実施例1のTCP5部をTCP30部に変えた以外同じく行い実施例5の試料とした。
【実施例6】
【0024】
実施例1のTCP5部をCDP30部に変えた以外同じく行い実施例6の試料とした。
【0025】
比較例1
実施例1のTCP5部を添加しない以外同じく行い比較例1の試料とした。
【0026】
比較例2
実施例1のTCP5部をリン酸トリアルキルエステルとしてTMP10部(大八化学工業(株)、商品名、トリメチルホスフェート)に変えた以外同じく行い比較例2の試料とした。
【0027】
比較例3
実施例1のTCP5部をリン酸トリアルキルエステルとしてTEP10部(大八化学工業(株)、商品名、トリエチルホスフェート)に変えた以外同じく行い比較例3の試料とした。
【0028】
比較例4
実施例1のTCP5部をリン酸トリアルキルエステルとしてT0P10部(味の素ファインテクノ(株)、商品名、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート)に変えた以外同じく行い比較例4の試料とした。
【0029】
比較例5
実施例1のTCP5部をリン酸トリアルキルエステルとしてTIBP10部(味の素ファインテクノ(株)、商品名、トリイソブチルホスフェート)に変えた以外同じく行い比較例5の試料とした。
【0030】
比較例6
実施例1のTCP5部をリン酸トリアルキルエステルとしてKP140を10部(トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、味の素ファインテクノ(株)、商品名)に変えた以外同じく行い比較例6の試料とした。
【0031】
【表1】

【0032】
発熱ピーク時間
23℃雰囲気下で、調製した試料100gを100ml容量のポリカップに入れ、発熱計で時間毎の温度をプロットし、ピークが現れるまでの時間を測定した。
(発熱計:(株)シマデン製,SR107)
【0033】
フロー試験
23℃雰囲気下で、直径4cmのポリプロピレン製の筒をPETフィルム上に乗せ、この筒に調製した試料100gを入れた。そして、そのままの状態で0分、5分、10分それぞれ放置してから筒を取り去り、試料をフィルム上に自然に伸展させる。硬化後、伸展した材料の水平方向の直径を定規で測定した。
【0034】
発泡試験
23℃雰囲気下で、調製した試料をスレート板の上に約2mmの厚みになるように金属ベラで塗布し、硬化後の状態を目視にて確認した。
発泡による膨張が確認できないものを○、膨張が観察されたものを×とした。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は外観、作業性が直接影響する塗り床の他、内外壁,ピット,配管等の現場塗装・止水材,注入材,断面修復材等の現場補修材・その他、現場施工用接着剤にも応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、水、イソシアネート、水硬性セメントを成分とするポリウレタン系セメント組成物においてリン酸トリアリールエステルを含むことを特徴とする水性ウレタンモルタル組成物。
【請求項2】
上記イソシアネートが多核ポリフェニレンポリメチルポリイソシアネートである請求項1記載の水性ウレタンモルタル組成物。
【請求項3】
請求項1乃至2いずれか記載の水性ウレタンモルタル組成物からなる床。

【公開番号】特開2009−29682(P2009−29682A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197049(P2007−197049)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】