説明

水性ウレタン樹脂の製造方法

【課題】水性ウレタン樹脂の製造において、反応溶剤兼造膜剤としてNMPを使用した場合に比べて、低毒性で作業環境が改善された水性ウレタン樹脂の製造方法を提供し、且つ、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤、繊維処理剤などの用途に適したコーティング液を提供する。
【解決手段】少なくとも有機ポリイソシアネートとポリオールとをウレタン化反応させることから成る水性ウレタン樹脂を製造する方法であって、第3級アルコールの存在下にウレタン化反応を行うことから成る水性ウレタン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ウレタン樹脂の製造方法に関し、詳しくは、反応溶剤兼造膜剤として、第3級アルコールを使用した水性ウレタン樹脂の製造方法に関する。本発明により得られる水性ウレタン樹脂から成るコーティング液は、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤、繊維処理剤などの用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性ウレタン樹脂は、その機械的物性、基材に対する密着性、耐摩耗性、柔軟性、耐溶剤性などに優れている性質から、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤、繊維処理剤などに広く使用されている。
【0003】
水性ウレタン樹脂の製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドン(以後、NMPと略す)等の有機溶媒中で有機ポリイソシアネートとポリオールとをウレタン化反応させる方法、詳しくは、NMP等の有機溶媒中で有機ポリイソシアネートとポリオールとジメチロールアルカン酸とをウレタン化反応させ、得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和し、水に分散した後、鎖延長反応する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
上述の様に、NMPは、水性ウレタン樹脂の製造における反応溶剤および造膜助剤の最も適したものとして使用されてきたが、最近になって、NMPの毒性が問題となっている。このため、有機溶剤を使用せずに無溶剤で水性ウレタン樹脂を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特公平3−48955号公報
【特許文献2】特開平11−12339号公報
【0006】
しかしながら、無溶剤での水性ウレタン樹脂の製造方法には、(1)ウレタン樹脂反応時のイオン基形成化合物の溶解性が悪いこと、(2)無溶剤で製造できる樹脂組成が狭い範囲に制限されること、(3)樹脂の粘度が極めて高く、分散のための機械撹拌が困難となり、それによって水分散が困難または不可能になる欠点がある。
【0007】
上述の実情に鑑み、水性ウレタン樹脂の製造において、NMPに替わる反応溶剤兼造膜助剤について検討した結果、反応溶剤兼造膜剤として使用される有機溶剤には、次の様な性質が要求される。例えば、反応溶剤としては、(a)原料に対する溶解力が高いこと、(b)イソシネートに対し非反応性の溶剤であること、(c)水との相互溶解性が高いこと及び(d)沸点が適度に高いこと、そして、造膜助剤としては、前述の(c)及び(d)の特性に加えて、(e)蒸発速度が適度に小さいことが要求される。しかしながら、水性ウレタン樹脂の製造における反応溶剤兼造膜剤として、NMP以外で上述の諸性質を全て備えている有機溶剤は、未だ提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みて成されたものであり、その目的は、水性ウレタン樹脂の製造する方法において、反応溶剤兼造膜剤としてNMPを使用した場合と同等の諸特性を有し、且つ、NMPを使用した場合に比べて、低毒性で作業環境が改善された水性ウレタン樹脂の製造方法を提供するものである。また、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤、繊維処理剤などの用途に使用されるコーティング液を提供するものである。
【0009】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、反応溶剤兼造膜助剤として第3級アルコールを使用してウレタン化反応をすると、驚いたことに、第3級アルコールは、水酸基を有するにもかかわらず、無触媒でのウレタン化反応ではイソシアネートと反応せず、且つ、ウレタン原料に対して優れた溶解性を有して、均一なウレタンプレポリマーの分散液が製造され、それにより、造膜性が良好な水性ウレタン樹脂を得ることが出来ると共に、従来のNMPを使用した場合の作業環境上の欠点を改善することが出来ることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づき成されたものであり、その第1の要旨は、少なくとも有機ポリイソシアネートとポリオールとをウレタン化反応させることから成る水性ウレタン樹脂を製造する方法であって、第3級アルコールの存在下にウレタン化反応を行うことを特徴とする水性ウレタン樹脂の製造方法に存し、第2の要旨は、第1の要旨に記載の製造方法により得られた水性ウレタン樹脂から成るコーティング液に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水性ウレタン樹脂の製造において、NMPを使用した場合に比べて、ウレタンプレポリマーの反応、粘度の調節および水への分散性、並びに、得られた水性ウレタン樹脂の造膜性などの諸特性が同等であり、且つ、その作業環境を改善することが出来る。また、得られた水性ウレタン樹脂から成るコーティング液は、塗料、インキ、接着剤、コーティング材、バインダー、プライマー等の用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0013】
本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法は、少なくとも有機ポリイソシアネートとポリオールとをウレタン化反応させることから成る水性ウレタン樹脂を製造する方法であって、第3級アルコールの存在下にウレタン化反応を行うことが重要である。
【0014】
すなわち、本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法としては、少なくとも(a)有機ポリイソシアネートと(b)ポリオールとを(d)第3級アルコール存在下で反応させる工程を含む方法であれば、特に制限されず、例えば、(1)溶液法、(2)プレポリマーミキシング法、(3)強制乳化法または(4)これらを組み合わせた方法や応用した方法の何れでもよい。
【0015】
溶液法(1)及びプレポリマーミキシング法(2)は、基本的に、ウレタン樹脂に親水基を結合させることにより自己乳化性が付与された、水に乳化・分散するウレタン樹脂を製造する方法である。また、強制乳化法(3)は、基本的に、親水基を含まないウレタン樹脂であって、ノニオン型界面活性剤などの外部乳化剤の存在下で機械的に強力なせん断力、高速撹拌によって乳化・分散するウレタン樹脂を製造する方法である。
【0016】
例えば、溶液法(1)としては、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)イオン基形成化合物および必要により鎖延長剤を反応させて、高分子量のポリウレタン有機溶剤溶液を生成するウレタン化工程、必要により中和する工程、次いで、水を加えて分散液として、使用した低沸点溶剤を除去する工程から成る方法を例示できる。
【0017】
プレポリマーミキシング法(2)は、2つに分類できる。その1つの方法としては、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)イオン基形成化合物および必要により鎖延長剤を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを生成するウレタン化工程、必要により中和する工程、次いで、水を加えて分散液を形成する工程、鎖延長剤を添加して、ウレタンプレポリマーを鎖延長反応させ、高分子量のポリウレタン分散液を生成する工程、使用した低沸点溶剤を除去する工程から成る方法(2−1)を例示できる。
【0018】
プレポリマーミキシング法(2)の別の方法としては、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオールおよび必要により親水基含有化合物を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを生成するウレタン化工程、水を加えて分散液を形成する工程、(c)イオン基形成化合物および必要により鎖延長剤を反応させ、高分子量のポリウレタン分散液を生成する工程、次いで、使用した低沸点溶剤を除去する工程から成る方法(2−2)を例示できる。
【0019】
また、強制乳化法(3)も2つに分類できる。その1つの方法としては、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオールおよび必要により鎖延長剤を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを生成するウレタン化工程、水を添加し、イオン性またはノニオン性の乳化剤の存在下、機械的な強力撹拌で分散液を形成する工程、鎖延長剤を反応させて高分子量のポリウレタン分散液を生成する工程、次いで、使用した低沸点溶剤を除去する工程から成る方法(3−1)を例示できる。
【0020】
強制乳化法(3)の別の方法として、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオールおよび必要により鎖延長剤を反応させて、高分子量のポリウレタンを生成するウレタン化工程、水を添加し、イオン性またはノニオン性の乳化剤の存在下、機械的な強力撹拌で分散液を形成する工程、次いで、使用した低沸点溶剤を除去する方法(3−2)を例示できる。
【0021】
上述の方法の中で、有機溶剤の使用量を減らすことが出来ると共に、生成したポリウレタン粒子が水へ分散し易く、ポリウレタン粒子の粒経が小さく、且つ、分散液の安定性が良い点から、プレポリマーミキシング法(2)が好適である。さらに、プレポリマーミキシング法(2)の中で、製造方法が容易で簡便な点から、(2−1)の方法がより好適である。
【0022】
以下、本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法をプレポリマーミキシング法(2−1)により説明する。その方法は、(d)第3級アルコール存在下で必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)イオン基形成化合物および必要により鎖延長剤を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを生成するウレタン化工程、必要により中和する工程、次いで、水を加えて分散液を形成する工程、鎖延長剤を添加してウレタンプレポリマーを鎖延長反応させ、高分子量のポリウレタン分散液を生成する工程、使用した低沸点溶剤を除去する工程から成る。
【0023】
ウレタン化工程における原料の仕込みおよび反応手順としては、特に制限されるものではなく、例えば、次の方法が挙げられる。なお、低沸点有機溶剤は、いずれの段階で添加
してもよい。
【0024】
(イ)(b)ポリオールと(c) イオン基形成化合物と(d)第3級アルコールとを仕込み均一に溶解した後、(a)有機ポリイソシアネートを添加して反応させる方法、
(ロ)(a)有機ポリイソシアネートと(b)ポリオールとを反応させた後、(c) イオン基形成化合物および(d)第3級アルコールを添加して(c) イオン基形成化合物を反応させる方法、
(ハ)(a)有機ポリイソシアネートと(c) イオン基形成化合物と(d)第3級アルコールとを仕込み(a)有機ポリイソシアネートと(c) イオン基形成化合物とを反応させた後、(b)ポリオールを添加して反応させる方法、
(ニ)(a)有機ポリイソシアネートと(b)ポリオールと(c) イオン基形成化合物と(d)第3級アルコールの原料全てを一括して仕込み反応させる方法、
(ホ)(a)有機ポリイソシアネートと(b)ポリオールと(c) イオン基形成化合物とを仕込み、無溶剤または少量の(d)第3級アルコールの存在下で反応させ、得られた生成物の高粘度化に伴って、(d)第3級アルコールを添加する方法、
【0025】
次に、本発明の方法において使用する原料成分を説明する。
有機ポリイソシアネート(a)としては、芳香族系(黄変タイプ)と脂肪族または脂環式系(無黄変タイプ)が挙げられる。例えば、芳香族系ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート及びこれと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物(略してTDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)等が挙げられる。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、TDIの水素添加物などが挙げられる。さらに、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)の芳香環含有脂肪族イソシアネート等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは、単独または混合物として使用することが出来る。また、必要に応じて、上記TDI、HMDI、IPDI等の3量体、又はトリメチロールプロパン等との反応物である多官能性イソシアネートを少量併用してもよい。
【0026】
上記有機ポリイソシアネート中、ウレタンプレポリマーの粘度、水に分散する際のイソシアネート基と水との反応性、および得られるウレタン樹脂の耐候性の点から、脂環式系イソシアネート、芳香環含有脂肪族イソシアネートが好適で、各原料、溶剤などとの相溶性の点から、脂環式イソシアネートがより好適である。
【0027】
ポリオール(b)としては、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等が挙げられる。具体的には、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、低分子量ジオールと二塩基酸の重縮合より得られる化合物、低分子量ジオールを開始剤として開環反応により得られる化合物などが挙げられる。そして、前者の場合の低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等が例示され、二塩基酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが例示される。後者の場合の低分子量ジオールとしては、ポリε−カプロラクトン、ポリβ−メチル−δ−バレロラクトン等が例示される。
【0028】
また、ポリカーボネートポリオールとしては、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール系ポリカーボネートポリオール、炭素数4〜6の混合ジオール系ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。ポリブタジエンポリオールとしては、1,4−ポリブタジエンと1,2−ポリブタジエンから成るポリオールが挙げられる。水添ポリブタジエンポリオールとしては、ポリブタジエンポリオールを水素添加し、パラフィン骨格を持ったポリオールが挙げられる。
【0029】
上述のポリオール類の中で、扱い易さの点から、非結晶性または液状のものが好適である。また、必要に応じて、高分子ポリオールと後述する低分子量ジオール、又は、トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオールとを併用することも可能である。前記のポリオール類は、単独または混合物として使用することが出来る。
【0030】
ポリオールの平均分子量は、通常500〜6,000、好ましくは500〜3,000である。平均分子量が500未満の場合は、ポリオールとしての機能が発揮されず、平均分子量6,000を超える場合は、得られたウレタンプレポリマーの水への分散性が悪くなり、水分散時に凝集物の発生や、転相不良を引き起こすことがあり、また、得られる樹脂の機械的物性、耐久性が悪化することがある。
【0031】
本発明において使用するイオン基形成化合物(c)とは、分子中にイソシアネート基と反応する活性水素基を通常2個以上有し、アニオン基またはカチオン基を形成する、或いは、中和によってイオン基を形成可能な化合物を意味する。このイオン基形成化合物は、ウレタン樹脂の骨格中に組み込まれ、ウレタン樹脂に親水性を付与する働きをする。これによって、ウレタン樹脂が十分な水分散性を発揮することができる様になる。
【0032】
イオン基形成化合物(c)としては、アニオン型のイオン基形成化合物、カチオン型のイオン基形成化合物が使用できる。そして、アニオン型のイオン基形成化合物としては、カルボキシル基を含有する化合物、スルホン酸塩基を有する化合物が挙げられる。
【0033】
カルボキシル基を含有する化合物としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールノナン酸などのジメチロールアルカン酸、1−カルボキシ−1,5−ペンチレンジアミン、ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジアミノ安息香酸、ポリオキシプロピレントリオールと無水マレイン酸や無水フタル酸とのハーフエステル化合物、リシン、アルギニン、ヒスチジン等の多価アミノ酸化合物などが挙げられる。
【0034】
また、上記カルボキシル基含有化合物には、グリシン、アラニン、ロイシン、チロシン、セリン、シスチン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのモノアミノ酸化合物、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸などのモノヒドロキシカルボン酸なども併用することが出来る。
【0035】
スルホン酸塩基を有する化合物としては、2−スルホ−1,4−ブタンジオールナトリウム塩、5−スルホ−ジ−β−ヒドロキシエチルイソフタレートナトリウム塩、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノエチルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノエチルスルホン酸テトラエチルアンモニウム塩、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノエチルスルホン酸ベンジルトリエチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0036】
カルボキシル基を含有する化合物を使用する場合、カルボキシル塩基を形成しイオン化するための中和剤としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物が使用できる。カルボキシル基に対する中和率は、通常50〜120モル%である。
【0037】
スルホン酸塩基を含有する化合物は、有機溶剤に溶け難いために、プレポリマー製造時にウレタン樹脂中に導入し難い場合がある。この場合は、鎖延長時にスルホン酸塩基を含有する化合物を水に溶解させ、プレポリマー末端のイソシアネート基と反応させることにより、ウレタン樹脂中に組み込むことが出来る。また、スルホン酸塩基を含有する化合物は既に塩になっているので中和の必要はない。
【0038】
カチオン型のイオン基形成化合物としては、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。これら3級窒素化合物を使用する場合は、中和剤として塩酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸などを使用する。また、3級窒素をアルキルハライド等で4級化してもよい。3級窒素に対する中和率は、通常50〜120モル%である。
【0039】
本発明でウレタンプレポリマーの反応時に溶剤として使用する第3級アルコール(d)としては、tert-ブチルアルコール(凝固点25.5℃、沸点82.8℃)、tert-アミルアルコール(凝固点−8.4℃、沸点102℃)、ジアセトンアルコール(凝固点−44℃、沸点167.9℃)、α-テルピネオール(凝固点38〜40℃、沸点219〜221℃)等が挙げられる。中でも、凝固点が低く沸点が高い、ウレタン樹脂原料の溶解性が良い、且つ、得られる水性ウレタン樹脂の造膜性が良い点から、ジアセトンアルコールが好適である。
【0040】
第3級アルコールの使用量は、特に制限はないが、通常、第3級アルコール:ウレタン樹脂固形分=1:99〜70:30(重量比)の範囲である。ウレタン樹脂固形分に対する第3級アルコールの使用量が重量比で1:99より少ない場合は、ウレタンプレポリマーの粘度が低下し、造膜性付与の効果が不足することがあり、第3級アルコールの使用量が重量比で70:30より多い場合は、水分散安定性や塗膜の乾燥性が悪化することがある。
【0041】
ウレタンプレポリマー反応時に第3級アルコールと併用可能な低沸点有機溶剤としては、樹脂分散液を製造した後に除去し易いように沸点が50〜120℃の化合物を使用できる。例えば、、アセトン(沸点56.3℃)、メチルエチルケトン(沸点79.6℃)、メチルイソブチルケトン(117℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、1,4−ジオキサン(沸点101.4℃)、酢酸エチル(沸点76.8℃)、トルエン(110.6℃)等が挙げられる。
【0042】
ウレタンプレポリマーの鎖延長反応の際に使用される鎖延長剤としては、活性水素を有する公知の鎖延長剤を使用することが出来、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1.6−ヘキサンジオール等のジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン及びこれらのプロピレンオキサイド付加物、ラクトン付加物などのトリオール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、シクロヘキシルメタンジアミン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類、ヒドラジン、ジカルボン酸ジヒドラジド類、水などがあげられる。必要に応じては、ウレタン樹脂の分子量調節のために、第1級または第2級のモノアルコール類やモノアミン類を鎖延長反応時に併用することが出来る。
【0043】
本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法においては、先ず、(d)第3級アルコール存在下、必要により低沸点溶剤を併用して、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオールおよび必要より親水基含有化合物を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを生成する。
【0044】
本発明の水性ウレタン樹脂の製造方法における(a)有機ポリイソシアネートのNCO基量と、(b)ポリオール及び(c)イオン基形成化合物が含有する活性水素基の合計量との比率(モル比)は、通常1.1:1〜3:1であり、NCO基が過剰な条件でウレタン化反応を実施する。
【0045】
ウレタン化反応時の温度は、通常30〜100℃、好ましくは40〜90℃である。反応時間は、通常1〜20時間である。温度が30℃未満の場合は、原料の溶解性が悪化し、反応速度が遅くなる。また、温度が100℃を超える場合は、カルボキシル基を含有するイオン基形成化合物を使用した際に、カルボキシル基とイソシアネート基との反応が起き易くなり、プレポリマー中にゲル状物を生じたり全体がゲル化する危険性が大きくなる。
【0046】
ウレタン化反応は、可能であれば無触媒で実施することが好ましい。しかしながら、反応時間の短縮などのために、触媒を使用してもよい。ウレタン化反応の触媒としては、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクトエート、スタナスオクトエート等の有機スズ化合物、有機ビスマス化合物、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の第3級アミン化合物等が挙げられる。なお、第3級アルコールは、触媒存在下でNCO基と反応することがあるので、目的とするウレタン化反応に支障がないように触媒添加量を調節することが必要である。また、ウレタン化反応時に分子量や粘度を調節するために、第1級または第2級のモノアルコール類やモノアミン類を使用してもよい。
【0047】
生成したウレタンプレポリマーの平均分子量は、樹脂の溶解性や粘度の点から、通常10,000以下、好ましくは6,000以下、より好ましくは4,000以下である。なお、平均分子量は、NCO基含有量の測定によって計算される数平均分子量である。
【0048】
本発明で使用する第3級アルコール(d)は、反応溶剤及び造膜助剤として作用するので、水性ウレタン樹脂製造後に脱溶剤する必要はない。なお、第3級アルコール(d)は、ポリウレタン樹脂の構成成分として含まれるポリオールとは異なり、反応溶剤兼造膜助剤として作用する。なお、第1級アルコールや第2級アルコールは、本発明のウレタン化反応においてイソシアネートと反応するため、反応用の溶剤として使用することは出来ない。
【0049】
上述のウレタン化反応によって、イオン基形成化合物をウレタンプレポリマー分子鎖に組み込むことにより、イオン基がウレタンプレポリマーに導入されて、ウレタンプレポリマーに自己乳化性を付与する。そして、得られたウレタンプレポリマーは、水分散性の良好な、すなわち、水を加えて転相・乳化し易いものである。形成するイオン基の種類は、特に限定されるものではないが、カルボキシル基を含有するアニオン型のイオン基が取扱い易さ、樹脂の製造し易さの点から好適である。そして、前述のアニオン型のイオン基形成化合物の中で、ジメチロールアルカン酸が好ましく、原料の入手の点から、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸がより好ましく、更に、各原料に対する溶解性、樹脂設計処方の自由度の広さ、樹脂製造し易さ、物性などの点から、ジメチロールブタン酸が特に好ましい。
【0050】
イオン基の含有量は、イオン基1個あたりのウレタンプレポリマーの平均分子量が、通常500〜10,000である。イオン基1個あたりのウレタンプレポリマーの平均分子量が500未満の場合は、得られるウレタン樹脂の皮膜物性や耐水性が悪化する。また、10,000を超える場合は、ウレタンプレポリマーの自己乳化性が不足し分散粒子の平均粒子径が大きくなり分散安定性が悪化するばかりでなく、緻密な皮膜が形成し難くなる。
【0051】
なお、ウレタンプレポリマー製造時に、本発明の趣旨を超えない範囲で前述した低沸点有機溶剤を併用してもよい。低沸点有機溶剤の使用量は、第3級アルコールと低沸点有機溶剤との重量比で、通常100:0〜10:90である。低沸点有機溶剤を使用した場合は、最終的に低沸点有機溶剤を除去することが望ましい。
【0052】
また、上述のウレタン化反応には、水性ウレタン樹脂塗膜の柔軟性や伸びを向上させるため、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、エポキシ系などの可塑剤を添加することも出来る。
【0053】
次に、得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを必要により中和し、水を加えて分散液を形成し、鎖延長剤を添加して、ウレタンプレポリマーを鎖延長反応させ、高分子量のポリウレタン分散液を生成し、次いで、使用した低沸点溶剤を除去する。
【0054】
イオン基を形成するための中和処理は、通常、ポリウレタンまたはウレタンプレポリマーを水に分散する前に行われるが、水に分散すると同時または水に分散した後に行ってもよい。
【0055】
例えば、中和処理によって、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのカルボキシル基は、カルボキシル塩基に変換されてイオン化される。使用される中和剤としては、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン類、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属化合物、アンモニアが挙げられる。カルボキシル基に対する中和率は、通常50〜120モル%、好ましくは60〜100モル%である。
【0056】
次いで、中和処理されたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを水に分散させる。水に分散させる方法としては、通常の撹拌機による分散方法が挙げられるが、より粒子径の細かい均一な水分散体を得るためには、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー、ラインミキサー、衝突混合を利用した分散装置、超音波振動を利用した分散装置などの装置を使用する方法ある。
【0057】
そして、水に分散されたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを鎖延長して高分子量のポリウレタン分散液を形成し、分散安定性と機械的物性を両立した水性ウレタン樹脂を生成する。なお、鎖延長反応の方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が採用される。次いで、使用した低沸点溶剤を除去する。なお、低沸点溶剤の除去方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が採用される。
【0058】
本発明の製造方法は、ウレタンプレポリマー製造時に、ウレタン原料にアクリルモノマーを添加してウレタン化反応し、中和し、水に分散した後に、ウレタンプレポリマーの鎖延長反応とアクリルモノマーのラジカル反応によるアクリル変性水性ウレタン樹脂の製造においても適用できる。
【0059】
また、本発明の製造方法において、ウレタンプレポリマー製造の際に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、各種ゴムラテックス等を加えて、水性ウレタン樹脂の変性またはブレンドをすることも出来る。
【0060】
本発明の方法により得られた水性ウレタン樹脂の樹脂固形分は、全量に対して60重量%以下である。60重量%を超える場合は、水分散化が困難になり、凝集物が生成し易く均一で安定な分散体になり難くなる。
【0061】
本発明の方法で得られた水性ウレタン樹脂の分散粒子の平均粒径は、通常10〜800nmの範囲である。平均粒径が10nm未満の場合は、水性ウレタン樹脂中の親水基の量が多くなり、耐水性などが不良となる傾向がある。平均粒径が800nmを超える場合は。製膜性が悪くなる傾向がある。水性ウレタン樹脂の不揮発分は、通常20〜70重量%、好ましくは25〜60重量%である。
【0062】
本発明のコーティング液は、上述の方法で製造された水性ウレタン樹脂から成る。本発明のコーティング液には、必要に応じて、顔料、染料、フィラー、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、耐光安定剤、難燃剤、黄変防止剤、他の造膜助剤、有機溶剤などの公知の添加剤を配合して、不揮発分が20〜70重量%程度の範囲で使用することが出来る。
【0063】
さらに、公知の水分散性のイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤などの架橋剤を組み合わせて、耐傷性、耐水性、耐溶剤性、耐熱性、耐候性、接着性などの各種耐久性を向上させることが出来る。
【0064】
本発明の水性ウレタン樹脂から得られるコーティング液は、基材への濡れ性、造膜性、密着性、機械的物性などに優れることから、塗料、インキ、接着剤、各種バインダー樹脂およびコーティング剤、プライマーとして使用すことが出来る。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断らない限り「%」は重量%、「比」は重量比を意味する。
【0066】
実施例1:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の2Lセパラブルフラスコにジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(住化バイエルウレタン社製、「デスモジュールW」(商品名))131.0g、1,6−ヘキサンジオールアジペート系ポリエステルポリオール(日立化成ポリマー社製、「テスラック2461」(商品名)、平均分子量2000)250g、ジメチロールブタン酸(日本化成社製)(以下、DMBAと略す)33.3g、ジアセトンアルコール(以後、DAAと略す)138.1gを仕込み、60℃まで昇温しウレタン反応を行なった。反応液は、均一溶液となり、7時間で反応が完結して、NCO基含有量2.3%のウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0067】
次いで、反応液を30℃まで冷却し、トリエチルアミン18.2gを加えて均一に混合した。強力に撹拌しながら20分で脱塩水657.7gを滴下し、ウレタンプレポリマーを転相させて水に分散した。転相が円滑に終了した後、イソホロンジアミン(デグサ・ジャパン社製、「VESTAMIN IPD」(商品名))22.9gを脱塩水206.1gに溶解したイソホロンジアミン10%溶液を分散液に20分で滴下し、ウレタンプレポリマーを鎖延長して、固形分30%の水性ウレタン樹脂Aを得た。原料および製造結果を表1に示す。
【0068】
実施例2:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の2Lセパラブルフラスコにメチルメタクリレート188.4g、イソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、「VESTANAT IPDI」(商品名))52.6g、3−メチル−1,5−ペンタンジオール系ポリカーボネートポリオール(クラレ社製、「クラレポリオールC−2090」(商品名)、平均分子量2000)94.6g、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製、「PTMG2000」(商品名)、平均分子量2000)23.7g、DMBA17.5g、DAA66.5g、p−メトキシフェノール0.009gを仕込み、60℃まで昇温してウレタン反応を行なった。反応液は、均一溶液となり、7時間で反応が完結して、NCO基含有量1.1%のウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0069】
次いで、反応液を40℃まで冷却し、トリエチルアミン12.0gを加えて均一に混合した。脱塩水572.8gを20分で滴下しウレタンプレポリマー溶液を転相させて水に分散した。転相が円滑に終了した後、80%ヒドラジン水和物3.3gを脱塩水13.9gに加えて稀釈した稀釈液を添加し、ウレタンプレポリマーを鎖延長した。次いでフラスコに窒素ガスを導入しながら、過硫酸カリウム1.9gを脱塩水36.1gに溶解した溶液を分散液に添加し、温度を75℃に保ち3時間反応し、アクリルモノマーの重合を行なって、固形分35%のアクリル変性した水性ウレタン樹脂Bを得た。原料および製造結果を表1に示す。
【0070】
実施例3:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の2Lセパラブルフラスコにジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(住化バイエルウレタン社製、「デスモジュールW」(商品名))120.9g、イソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、「VESTANAT IPDI」(商品名))51.2g、1,6−ヘキサンジオール系液状変性ポリカーボネートポリオール(旭化成ファインケム社製、「CX−4720」(商品名)、平均分子量2000)153.8g、DMBA33.0g、シクロヘキサンジメタノール(新日本理化社製、「SKY CHDM」(商品名))22.2g、1,4−ブタンジオール6.9g、DAA166.3gを仕込み、60℃まで昇温しウレタン反応を行なった。反応液は、均一溶液となり、9時間で反応が完結して、NCO基含有量2.4%のウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0071】
次いで、反応液を40℃まで冷却し、トリエチルアミン22.6g、DAA20.0gを加えて均一に混合した後、脱塩水497.4gを滴下して、ウレタンプレポリマー溶液を転相させ水に分散した。転相は円滑に終了し、次いで、80%ヒドラジン・水和物10.1gに脱塩水41.6gを加えて稀釈した稀釈液を分散液に添加し、ウレタンプレポリマーを鎖延長して、固形分35%の均一な水性ウレタン樹脂Cを得た。原料および製造結果を表1に示す。
【0072】
実施例4:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の2Lセパラブルフラスコにイソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、「VESTANAT IPDI」(商品名))133.4g、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製、「PTMG1000」(商品名)、平均分子量1000)250.0g、DMBA7.4g、DAA69.0gを仕込み、50℃、8時間で反応が終結して、NCO基含有量5.4%のウレタンプレポリマーを得た。
【0073】
次いで、反応液を40℃まで冷却し、グリシンの粉末3.8gを加え1時間後、トリエチルアミン10.1gを加えて均一に混合した。脱塩水605.1gを滴下し、ウレタンプレポリマー溶液を転相させ水に分散した。転相が円滑に終了した後、80%ヒドラジン・水和物13.3gを脱塩水54.7g加えて稀釈した稀釈液を分散液に添加し、ウレタンプレポリマーを鎖延長して、固形分35%の均一な水性ウレタン樹脂Dを得た。原料および製造結果を表1に示す。
【0074】
実施例5:
実施例4と同様にして得られたウレタンプレポリマーの反応液を40℃まで冷却し、NaCO32.6gを粉末のまま加えて20分間静置した後、脱塩水613.0gを滴下しウレタンプレポリマー溶液を転相させて水に分散した。転相が円滑に終了した後、80%ヒドラジン・水和物13.3gを脱塩水54.7gに加えて稀釈した稀釈液を分散液に添加し、ウレタンプレポリマーを鎖延長して、固形分35%の均一な水性ウレタン樹脂Eを得た。原料及び製造結果を表2に示す。
【0075】
実施例6:
DMBAをジメチロールプロピオン酸(日本化成社製、「ニッカマーPA」(商品名))に変更し、ウレタンプレポリマーの固形分を同じ量にしてジアセトンアルコール量を調整した以外は実施例1と同様にして、固形分30%の均一な水性ウレタン樹脂Fを得た。原料及び製造結果を表2に示す。
【0076】
実施例7:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の2Lセパラブルフラスコにイソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、VESTANAT IPDI(商品名))115.6g、1,6−ヘキサンジオールアジペート系ポリエステルポリオール(日立化成ポリマー社製、テスラック2461(商品名)、平均分子量2000)を260.0g、ジメチロールプロピオン酸(日本化成社製、「ニッカマーPA」(商品名))31.4g、DAA174.4gを仕込み、60℃まで昇温してウレタン反応を行なった。反応液は、均一溶液となり、8時間で反応が完結して、NCO基含有量2.2%のウレタンプレポリマーを得た。
【0077】
次いで、反応液を50℃まで冷却し、トリエチルアミン23.6gを加えて均一に混合した後、脱塩水557.9gを滴下しウレタンプレポリマー溶液を転相させて水に分散した。転相が円滑に終了した後、50℃で水によりウレタンプレポリマーを鎖延長し、固形分35%の均一な水性ウレタン樹脂Gを得た。原料及び製造結果を表2に示す。
【0078】
比較例1〜3:
実施例1〜3においてウレタンプレポリマー製造時に使用したDAAの代わりに同量のアセトンを使用し、55℃で10時間反応し、転相時にアセトンと同量の脱塩水を追加し、鎖延長反応後に窒素を流しながら脱アセトンした以外は実施例1〜3と同様にして、それぞれ、固形分30%、35%、35%の水性ウレタン樹脂H、I、Jを得た。原料及び製造結果を表3に示す。
【0079】
比較例4:
実施例3におけるDAAの代わりにNMPを使用した以外は実施例3と同様にして、固形分35%の均一な水性ウレタン樹脂Kを得た。原料及び製造結果を表4に示す。
【0080】
比較例5:
実施例6におけるDAAの代わりにNMPを使用した以外は実施例6と同様にして、ウレタンプレポリマーを製造し中和して水に分散したが、VESTAMIN IPD水溶液を加えて鎖延長反応した際に、凝集物が多量に発生し不均一ではあるが、固形分35%の水性ウレタン樹脂Lを得た。使用原料及び製造結果を表4に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
<造膜性及びフィルム物性の評価>
実施例1〜7、比較例1〜5で得られた水性ウレタンウレタン樹脂を離型紙に200μmの間隙のドクターブレードで塗布し、(a)23℃でそのまま24時間乾燥、(b)23℃で30分放置後、60℃で3時間乾燥、(c)23℃で30分放置後、100℃で1時間乾燥、においてフィルムを形成する過程での造膜性を目視観察した。造膜性の評価基準を表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
フィルム物性測定は、上記(c)の条件で作成したものを使用し、フィルムを離型紙から剥がして23℃、60%RHで1日放置して、幅10mm、長さ100mmに切断して同じ環境下で、引張試験機(オリエンテック社製、「テンシロンRTM−500」(商品名))を使用し、試験片取り付け長さ50mm、引張速度50mm/分で引張物性測定を行った。結果を表6〜表9に示す。
【0088】
実施例1〜7で得られた水性ウレタン樹脂は、23℃、60℃、100℃の各温度での造膜性が良好であり、乾燥時の臭気も殆どなく、フィルム物性も良好であった.他方、比較例1〜3では、いずれの温度でも造膜性は悪く、均一な膜が得られなかった。また、NMPを使用した比較例4は、造膜性と物性が良好であるが、乾燥時に悪臭があった。実施例3の水性ウレタン樹脂は、造膜性、フィルム物性においてNMPを使用した比較例4と同等であり、乾燥時の臭気も殆どなく安全性の高い樹脂であった。
【0089】
比較例5で凝集物が多量発生した原因は、鎖延長剤であるイソホロンジアミン(VESTAMIN IPD)の塩基性が高いことや第1級アミノ基とウレタンプレポリマーのイソシアネート基との反応性が大きいこと、NMPが第3級窒素を含有し反応を速める傾向があること等により、ウレタン化反応が急激に起こり、且つ、主反応以外にビュレット反応などの副反応も起こり、凝集物を発生したと推測される。また、アセトン等のケトン系溶剤を使用した場合にも見られる現象であるが、実施例6で凝集物が発生しなかったのは、使用したDAAが上記の第1級アミノ基とイソシアネート基との反応または副反応を抑える効果があるためと推測される。
【0090】
他方、以下の参考例でイソシアネート基と第3アルコールまたは第2級アルコールとの反応性を調べた。結果を表10〜表11に示す。
【0091】
参考例1:
冷却管、温度計、仕込み口、撹拌装置を備えた4つ口の1Lセパラブルフラスコに、DAA150.0g、イソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、VESTANAT IPDI(商品名))144.0g、N−メチル−2−ピロリドン(NMPと略す)185.0gを仕込んで加熱し、温度を80℃に保ちイソシアネート基含有量の変化を測定した。この時、NCO/OH=1/2モル比、DAAの濃度を2.7モル/Kgとした。反応初期のNCO基含有量は11.3%であり、16時間まで加熱した後も11.2%(初期値に対する保持率99%)を維持していた。このように通常のウレタン化反応が十分完結し得る条件下においても、DAAのOH基はNCO基と反応していないことがわかり、反応溶剤として使用できることが確認できた。
【0092】
参考例2:
参考例1のDAAの代わりにtert−ブタノール101.0gを使用し、イソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、VESTANAT IPDI(商品名))150.3g、NMP250.0gを使用する以外は、参考例1と同様に処理をした。その結果、初期NCO含有量11.3%に対し、16時間後も11.1%(初期値に対する保持率98%)を維持していた。
【0093】
参考例3:
参考例1のDAAの代わりにイソプロピルアルコール75.0gを使用し、イソホロンジイソシアネート(デグサ・ジャパン社製、VESTANAT IPDI(商品名))139.0g、NMP250.0g使用する以外は、参考例1と同様に処理をした。その結果、初期NCO含有量11.3%に対し、3時間後に9.0%、6時間後に8.1%、16時間後に5.6%(それぞれ初期値に対する保持率80%、72%、50%)とNCO基含有量は低下し、イソプロピルアルコールのOH基が反応していることがわかり、反応溶剤としては不適当であることが確認できた。
【0094】
参考例4:
反応温度を100℃に保った以外は参考例1と同様に処理をした。その結果、初期NCO含有量11.3%に対し、6時間後も11.3%(初期値に対する保持率100%)を維持していた。
【0095】
参考例5〜6:
参考例1および2の処方で触媒としてジブチルチンジオクトエートを、IPDIとアルコールの合計重量に対し50ppm、それぞれ0.015g、0.013gを加えた以外は参考例1および2と同様に処理をした。その結果、NCO含有量は3時間後でDAAの場合は11.2%(初期値に対する保持率99%)を保っていたが、tert−ブタノールの場合は10.1%(初期値に対する保持率90%)と低下を示し、tert−ブタノールのOH基が一部反応することがわかった。
【0096】
以上の結果から、第3級アルコール、特にジアセトンアルコール(DAA)は、無触媒では実質的にイソシアネート基に対して不活性であり、触媒使用時も微量の範囲であればウレタン反応溶剤として十分使用可能である。また、水性ウレタン樹脂の造膜助剤としても有効であることが判明した。
【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
【表9】

【0101】
【表10】

【0102】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機ポリイソシアネートとポリオールとをウレタン化反応させることから成る水性ウレタン樹脂を製造する方法であって、第3級アルコールの存在下にウレタン化反応を行うことを特徴とする水性ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項2】
ウレタン化反応の際に、更にイオン基形成化合物を存在させ、得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和し、水に分散した後、鎖延長反応する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第3級アルコールがジアセトンアルコールである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
イオン基形成化合物がジメチロールアルカン酸である請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
イオン基形成化合物がジメチロールブタン酸である請求項2〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の製造方法により得られた水性ウレタン樹脂から成るコーティング液。

【公開番号】特開2006−306943(P2006−306943A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128885(P2005−128885)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】