説明

水性下塗り塗料組成物

【課題】耐水性、研磨性に優れ、さらに被塗面に対する密着性にも優れる一液型として使用可能な水性下塗り塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)スチレン、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(d)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分として含有し、スチレンの使用量が、全モノマー中30重量%以上である乳化重合体、(B)水性ウレタン樹脂、(C)(e)有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(f)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とするアクリル樹脂及び(D)顔料を含み、該組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して顔料(D)を100〜350重量部含有し、且つ体質顔料を全樹脂固形分100重量部に対して50〜200重量部含有する水性下塗り塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、研磨性の優れた塗膜を形成でき、自動車補修塗装分野におけるプライマー又はプライマーサーフェーサーとして有用な水性下塗り塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車補修塗料用分野におけるプライマー又はプライマーサーフェーサー等の下塗り塗料組成物として、速乾性、密着性、耐水性、研磨作業性などの点から、有機溶剤型のアクリル系ラッカー塗料や2液型ウレタン塗料が使われていた。しかしながら、近年、環境保全の観点から自動車補修塗料の業界においても有機溶剤系塗料から水系塗料への転換が進められており、水性の下塗り塗料が種々提案されてきている。例えば、特許文献1において、本出願人は特定量のスチレンを共重合成分としたアクリル共重合体エマルションを皮膜形成成分とし、特定量の顔料を含む水性一液型下塗り組成物を提案した。かかる組成物によれば、水性、一液型でありながら耐水性、研磨性に優れた塗膜を形成できるが、没水後の塗膜の被塗面に対する密着性が不十分な場合があった。また、特許文献2において、特定のスチレンを共重合成分とした乳化重合体及び水分散性ポリイソシアネートを被膜形成成分とし、特定量の顔料を含む水性2液型下塗り塗料組成物を提案した。かかる組成物は耐水性、耐溶剤性、研磨性、そして上塗り塗装後の仕上がり性にも優れる下塗り塗膜を形成することができるが、2液型であることから、使用時に計量・混合しなければならないという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】特開平2001−131460号公報
【特許文献2】特開平2001−262053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐水性、研磨性に優れ、さらに被塗面に対する密着性にも優れる一液型として使用可能な水性下塗り塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定の乳化重合体、水性ウレタン樹脂、特定のアクリル樹脂及び特定組成の顔料を特定量含む水性下塗り塗料組成物により本発明に到達した。即ち本発明は、
1. (A)(a)スチレン、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(d)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分として含有し、スチレン(a)の使用量が、全モノマーの重量を基準にして30重量%以上であることを特徴とする乳化重合体、
(B)水性ウレタン樹脂、
(C)(e)有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(f)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする重量平均分子量が5,000〜100,000の範囲内であるアクリル樹脂
及び
(D)顔料を主成分とする塗料組成物であって、
該組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して顔料(D)を100〜350重量部含有し、且つ顔料(D)のうち体質顔料を全樹脂固形分100重量部に対して50〜200重量部含有することを特徴とする水性下塗り塗料組成物。
2. 乳化重合体(A)が、(a)スチレン30〜80重量%、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー1〜10重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー5〜30重量%及び(d)その他の重合性不飽和モノマー5〜64重量%からなるモノマー混合物(I)を乳化重合して得られる共重合体水分散液中に、(a)スチレン20〜70重量%、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー1〜10重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー5〜50重量%及び(d)その他の重合性不飽和モノマー5〜74重量%からなるモノマー混合物(II)を加えて、乳化重合して得られるものである1項に記載の水性下塗り塗料組成物、
3. 乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の配合割合が、乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の合計固形分重量に対して、乳化重合体(A)が10〜80重量%、水性ウレタン樹脂(B)が10〜80重量%及びアクリル樹脂(C)が10〜80重量%であることを特徴とする1項または2項に記載の水性下塗り塗料組成物、
4. シランカップリング剤(E)をさらに含有する1項ないし3項のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物、
5. 被塗面に、1項ないし4項のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法、
6. 被塗面に、1項ないし4項のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物を塗装した後、該塗面上にベースコート塗料を塗装し、該ベース塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装する塗装方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水性下塗り塗料組成物によれば、一液型として使用することができ、耐水性、耐溶剤性、被塗面又は上塗り塗膜との密着性に優れる下塗り塗膜を形成することができる。また、該下塗り塗膜は、特定の顔料濃度を有していることから下地隠蔽性に優れ、研磨性が良好であり表面の凹凸を少なくでき、また、該塗膜上に上塗り塗装した後の色調に悪影響を及ぼすことなく、仕上がり性に優れた外観の複層塗膜を形成できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
乳化重合体(A)
本発明において乳化重合体(A)は、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐水性、研磨性を向上させるために用いられるものであり、スチレン(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及びその他の重合性不飽和モノマー(d)を共重合成分として含有し、スチレンの使用量が全モノマーの重量を基準にして30重量%以上であることを特徴とする。
【0008】
また乳化重合体(A)は、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐溶剤性、及び該塗膜上に上塗り塗装をした際における該塗膜のチヂミを抑制する目的から、重量平均分子量が5万以上、好ましくは10万以上、さらに好ましくは10万〜50万の範囲内であることが望ましい。
【0009】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0010】
上記乳化重合体(A)は、モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)を共重合成分とする共重合体が水に分散されてなり、その共重合体分散粒子の平均粒子径としては、100〜500nm、好ましくは100〜300nmの範囲内とすることができる。
【0011】
本明細書において、平均粒子径は、粒度分布測定機「ナノマイザーN−4」(商品名、コールター社製)により測定したものとする。
【0012】
本発明において、スチレン(a)の使用量としては、全モノマー中30重量%以上であり、30重量%未満では、水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の研磨性及び耐水性が不十分となり、好ましくない。
【0013】
上記酸基含有重合性不飽和モノマー(b)は、乳化重合体(A)の分散粒子の安定性を向上させるために用いられるものであり、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、β−カルボキシエチルアクリレ−ト等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレ−ト及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー;「ライトエステルPM」(ライトエステル社製)などのリン酸基含有重合性不飽和モノマーなどが挙げられ、これらは1種又は2種以上併用して用いることができる。このうち(メタ)アクリル酸が好適である。
【0014】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)は、乳化重合体(A)の分散粒子の安定性を向上させるため、また本発明の組成物及び/又は上塗り塗料組成物に硬化剤を使用する場合などにおいて、該硬化剤と反応させるために用いられるものであり、例えば、2ーヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの炭素数2〜8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;Nーメチロールアクリルアミド;アリルアルコール;炭素数2〜8個のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性アクリルモノマー;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0015】
その他の重合性不飽和モノマー(d)は、上記モノマー(a)、(b)及び(c)と共重合可能なモノマーであり、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)、ラウリル(メタ)アクリレート等の直鎖状もしくは分岐状のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレン(メタ)アクリレート;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどの含窒素化合物;グリシジル(メタ)アクリレ−トなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン等のビニルモノマー、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多ビニル化合物などが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
【0016】
上記モノマー(a)、モノマー(b)、モノマー(c)及びモノマー(d)の共重合は、これらモノマー混合物を水及び乳化剤の存在下で、重合開始剤を使用して乳化重合することにより製造することができる。
【0017】
該乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤が好適であり、該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられ、また、ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0018】
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用してもよい。
【0019】
該乳化剤は乳化重合体(A)の製造に使用されるモノマー合計重量を基準にして0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜12重量%の範囲内で使用することができる。
【0020】
上記重合開始剤としては、例えば、水溶性重合開始剤、油溶性重合開始剤が挙げられ、水溶性重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、 tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4'−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等等が挙げられ、油溶性重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。本発明においては上記重合性開始剤の中でも水溶性重合開始剤を使用することが好適である。上記重合開始剤の使用量は、一般に、乳化重合体(A)の製造に使用されるモノマーの合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、特に0.2〜3重量%の範囲内が好ましい。
【0021】
本発明において、上記乳化重合体(A)は、得られる水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の研磨性及び造膜性の点から、共重合成分である各モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)は、ガラス転移温度が、20〜70℃、好ましくは30〜60℃の範囲内となるように選択されることが望ましい。本明細書においてガラス転移温度(絶対温度)は、下式から算出した値とする。
1/Tg=W1/T1+W2/T2+...Wn/Tn
式中のW1、W2...Wnは各モノマーの重量%(=(各モノマーの配合量/モノマー全重量)×100)であり、T1、T2...Tnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。尚各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、Polymer Hand Book 4th Editionによる値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該ホモポリマーを重量平均分子量が5万程度になるように合成し、ガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定した値を使用するものとする。
【0022】
また本発明においては、水性下塗り塗料組成物の造膜性の点から乳化重合体(A)をコア−シェル構造とすることが望ましく、該乳化重合体(A)として、スチレン(a)30〜80重量%、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)1〜10重量%、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)5〜30重量%、及びその他の重合性不飽和モノマー(d)5〜64重量%からなるモノマー混合物(I)を乳化重合して得られる共重合体分散液中に、スチレン(a)20〜70重量%、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)1〜10重量%、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)5〜50重量%、及びその他の重合性不飽和モノマー(d)5〜74重量%からなるモノマー混合物(II)を加えて、乳化重合して得られるものであることが望ましい。
【0023】
本発明において、上記コア−シェル構造を有する乳化重合体におけるスチレン(a)の全使用量は、乳化重合体の製造に使用される全モノマーの重量を基準にして30重量%以上である。
【0024】
また、コア成分となりうるモノマー混合物(I)とシェル成分となりうるモノマー混合物(II)の重量比は、造膜性と耐水性のバランスの点から、モノマー混合物(I)100重量部に対してモノマー混合物(II)が25〜400重量部、好ましくは45〜230重量部となるようにするのが適当である。
【0025】
上記コア−シェル構造を有する乳化重合体において、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐溶剤性、耐水性等の物性を向上させる目的で、モノマー混合物(I)中のその他の重合性不飽和モノマー(d)が、多ビニル化合物を、乳化重合体(A)の製造に使用されるモノマーの重量を基準にして10重量%以下、特に0.1〜8重量%の範囲内で含有することが望ましい。
【0026】
上記コア−シェル構造を有する乳化重合体において、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)の乳化重合は、従来公知の方法により水及び上記乳化剤の存在下で、上記重合開始剤を使用して行うことができる。
【0027】
水性ウレタン樹脂(B)
本発明において、水性ウレタン樹脂(B)は、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐水性、基材との密着性を向上させるために配合されるものであり、従来公知の水性ウレタン樹脂が制限なく使用できる。該水性ウレタン樹脂(B)としては、通常、ポリイソシアネート、ポリオール及びヒドロキシ酸を反応させることにより得られるウレタンプレポリマーを必要に応じて鎖伸長剤及び/または乳化剤の存在下で水中に分散させることにより得られる樹脂を挙げることができる。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−トルイジンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネ−ト化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0029】
上記ポリオールとしては、例えば重量平均分子量が200〜10,000の範囲内のものを使用でき、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ジカルボン酸(アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等)との縮重合させたポリオール、例えばポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルポリオール;ポリカプロラクトンポリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンポリオール;ポリカーボネートポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、1,6ヘキサンジオール等の低分子量グリコール類;等が挙げられ、単独で又は2種以上併用して使用することができる。
【0030】
上記ヒドロキシ酸としては、例えばジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸等が挙げられる。
【0031】
上記ウレタンプレポリマーの製造において、上記成分の配合割合は、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.1〜1.9の範囲内となるように配合することが望ましい。プレポリマーの合成反応は、従来公知の方法に基づいて行なうことができる。
【0032】
上記水性ウレタン樹脂(B)は、中和剤により中和することができる。中和剤としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア等を挙げることができる。中和剤はカルボキシル基1当量に対して、通常0.5〜2.0当量、好ましくは0.7〜1.3当量となる割合で、使用することが好ましい。
【0033】
本発明において、水性ウレタン樹脂(B)としては、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐水性と研磨性の点から、形成塗膜のガラス転移温度が−60℃〜20℃、好ましくは−50℃〜0℃の範囲内であることが望ましい。該水性ウレタン樹脂(B)から形成される塗膜のガラス転移温度は、走査型熱分析により昇温速度10℃/分にて測定した値とする。
【0034】
アクリル樹脂(C)
本発明において、アクリル樹脂(C)は、本発明の水性下塗り塗料組成物の造膜性及び基材に対する密着性を向上させるために配合されるものであり、有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(e)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、及びその他の重合性不飽和モノマー(f)を共重合成分とする重量平均分子量が5000以上且つ100,000、好ましくは10,000〜60,000の範囲内の樹脂である。
【0035】
有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(e)としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にイソボルニル(メタ)アクリレートが好適である。該モノマーの共重合により、形成塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0036】
本発明において、水性下塗り塗料組成物の貯蔵安定性、水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜の耐水性の点から、アクリル樹脂(C)を形成する各モノマーの使用割合は、アクリル樹脂(C)の製造に使用される全モノマーを基準として、
有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(e)が、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)が、1〜20重量%、好ましくは2〜5重量%、
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)が、1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%含有することが望ましい。
【0037】
また、その他の重合性不飽和モノマ−(f)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)、ラウリル(メタ)アクリレート等の直鎖状もしくは分岐状のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレン(メタ)アクリレート;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどの含窒素化合物;グリシジル(メタ)アクリレ−トなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン等のビニルモノマー等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
【0038】
上記アクリル樹脂(C)は、場合によっては後述の顔料(D)の分散剤としても用いることができる樹脂であり、水性下塗り塗料組成物の貯蔵安定性及びアクリル樹脂(C)を顔料分散剤として用いた場合における顔料分散性の点から、その他の重合性不飽和モノマー(f)が、その成分の一部としてアルコキシポリアルキレン(メタ)アクリレートを含んでいることが望ましい。
【0039】
上記アルコキシポリアルキレン(メタ)アクリレートにおいて、オキシアルキレン基の繰り返し単位としては2〜100の範囲内であることが望ましい。
該アルコキシポリアルキレン(メタ)アクリレートを使用する場合は、その使用量としては、アクリル樹脂(C)の製造に使用されるモノマーの合計重量を基準にして、1〜40重量%、好ましくは3〜20重量%の範囲内が好適である。
【0040】
上記アクリル樹脂(C)の製造は、既知の方法で行なうことができ、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、ベンゾイルパ−オキシド、過硫酸アンモニウムなどのラジカル重合触媒を用いて有機溶剤中で重合をすることにより製造することができる。また、ここで得られるアクリル共重合体の酸基を中和剤により中和をすることが望ましい。
【0041】
中和剤としては、例えばアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミンなどのアミン化合物が挙げられ、特にジメチルエタノールアミンが好適である。
【0042】
上記アクリル樹脂(C)は、重量平均分子量が、5,000〜100,000の範囲内であり、好ましくは10,000〜60,000の範囲内であることが望ましい。重量平均分子量が5,000未満では、塗膜の耐水性や耐水付着性が低下することがあり、一方100,000を超えると塗膜外観が低下する傾向があるので好ましくない。
【0043】
本発明において、上記乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の配合量としては、乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の合計固形分重量に対して、乳化重合体(A)が10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%、水性ウレタン樹脂(B)が10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%、及びアクリル樹脂(C)が10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲内であることが望ましい。
【0044】
乳化重合体(A)の量が、10重量%未満では、形成塗膜の耐水性が不十分になることがあり、80重量%を超えると形成塗膜が硬くなり被塗面又は上塗り塗膜に対する密着性が不十分になることがある。水性ウレタン樹脂(B)が、10重量%未満では、被塗面又は上塗り塗膜に対する密着性が不十分になることがあり、80重量%を超えると本発明の組成物から形成される塗膜を研磨する際において研磨しにくくなることがある。アクリル樹脂(C)が、10重量%未満では、形成塗膜が硬くなり、被塗面又は上塗り塗膜に対する密着性が不十分になることがあり、80重量%を超えると形成塗膜の耐水性が不十分となることがある。
【0045】
顔料(D)
本発明において顔料(D)は、下地隠蔽性及び研磨性を向上させるために配合されるものであり、例えばチタン白、カーボンブラック、ベンガラなどの着色顔料;微細アルミニウム粉末などのメタリック顔料;炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、バリタ、シリカなどの体質顔料;トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸亜鉛などのリン酸系顔料などの防錆顔料など従来公知の顔料を組み合わせて使用することができる。また、該顔料(D)は、上記アクリル樹脂(C)に分散されて配合されることが望ましい。
【0046】
本発明において該顔料(D)は、上記本発明の組成物中に含まれる樹脂固形分100重量部に対して、100〜350重量部、好ましくは120〜250重量部配合される。該配合量が100重量部未満では研磨性が劣り、一方350重量部を超えると造膜性が不十分となり、本発明の水性下塗り塗料組成物による塗膜上に上塗り塗装した場合における塗膜外観や耐水性等の塗膜性能が低下するので好ましくない。また、体質顔料は組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して、50〜200重量部、好ましくは70〜160重量部配合される。50重量部未満では、研磨性が劣り、200重量部を超えると耐水性、密着性が低下するので好ましくない。
【0047】
本発明の水性下塗り塗料組成物は、形成塗膜の耐食性、付着性の点から防錆顔料を含むこともできる。該防錆顔料を配合する場合はその配合量としては、一般に、組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは1〜6重量部となるように配合することができる。
【0048】
また、本発明において上記顔料の配合組成は、基材や上塗り塗膜の種類に応じて適宜調整できるが、上塗り塗装後の仕上がり性に悪影響を及ぼすことなく、被塗面に対する良好な下地隠蔽性を得るためには、本発明の水性下塗り塗料組成物から形成される塗膜のJIS Z 8729に規定されるL*a*b*表色系に基づく明度(L値)が50〜95、好ましくは55〜80となるようにすることが望ましい。
【0049】
ここで、L値とは、塗膜の明度を意味しており、例えばL値100は真っ白を意味し、L値0は真っ黒を意味する。本明細書では、Lは、測色計(商品名、「カラーコンピュータSM−7」、スガ試験機(株)製)を使用して測定した値とする。
【0050】
シランカップリング剤(E)
本発明の水性下塗り塗料組成物においては、形成塗膜の被塗面に対する密着性を向上させるためにシランカップリング剤を含有することができる。該シランカップリング剤としては、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;トリアルコキシシリルイミダゾールシラン等のイミダゾール系シランカップリング剤等を挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上併用してもよい。該シランカップリング剤を配合する場合はその配合量としては、被塗面に対する密着性と本発明の組成物の貯蔵安定性の点から、組成物の全樹脂固形分に対して15重量%以下、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは3〜10重量%の範囲内が好適である。
【0051】
また、本発明においては、上記アクリル樹脂(C)の水に対する溶解性又は分散性を向上させ、本発明の水性下塗り塗料組成物の造膜性及び仕上がり性を向上させる目的で、親水性有機溶剤を組成物中の全樹脂固形分を基準として、1〜200重量%、好ましくは5〜100重量%含有することができる。かかる親水性有機溶剤の配合は、いずれの段階において配合されてもよく、上記アクリル樹脂(C)の合成段階における反応溶媒に使用される有機溶剤として配合することもできる。
【0052】
該親水性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3−メトキシブチルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられ、これらは単独で、又は併用して使用できる。
【0053】
本発明組成物には、さらに必要に応じて、上記親水性有機溶剤以外の有機溶剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、防腐剤、防錆剤等の添加剤を配合することができる。また、本発明の水性下塗り組成物は、一液型として塗装に供することができるものであるが、組成物中に水酸基等の官能基を有していることから、イソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂等の水酸基と反応可能な硬化剤を適宜配合することも可能であり、必要に応じて2液型とすることもできる。
【0054】
塗装
本発明方法は、被塗面に上記の通り得られる水性下塗り塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法である。
【0055】
本発明組成物を適用する被塗面としては、特に制限されるものではなく、例えば金属又はプラスチック等の基材;該基材に塗膜が設けられてなる塗膜面等を挙げることができ、特に自動車車体の補修塗装面に好適である。補修塗装を行う際にはまず損傷箇所を研磨し、必要に応じてパテ塗り充填した後、本発明組成物を乾燥膜厚が10〜100μmとなるようにスプレー塗装など従来公知の方法によって塗装することができる。
【0056】
また、本発明方法は、被塗面に、上記水性下塗り塗料組成物を塗装した後、該塗面上にベースコート塗料を塗装し、該ベース塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装する塗装方法である。
【0057】
本発明方法において、ベースコート塗料を塗装する前の上記下塗り塗膜面は、通常、耐水研磨紙などで適宜研磨されることが望ましい。
【0058】
ベースコート塗料及びトップクリヤー塗料としては、従来公知の硬化型、ラッカー型のものが制限なく使用でき、例えば水酸基などの架橋性官能基を含有するアクリル樹脂やフッ素樹脂を主剤とし、ブロックポリイソシアネート、ポリイソシアネートやメラミン樹脂などを硬化剤として含有する硬化型塗料、セルロースアセテートブチレート変性のアクリル樹脂を主成分とするラッカー塗料などが好適に使用できる。
【0059】
これらベースコート塗料及びクリヤー塗料には、必要に応じて顔料類、繊維素誘導体類、添加樹脂、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、硬化触媒などの塗料用添加剤を含有することができる。
【0060】
このうちトップクリヤー塗料としてポリイソシアネート硬化剤を含有する塗料を用いた場合、トップクリヤー塗膜からベースコート塗膜中にポリイソシアネート硬化剤が一部しみ込んでくるので、ベースコート塗料による塗膜が水酸基を含有する場合は、該水酸基と反応することができ、水性塗料中に硬化剤成分を用いない或いは減量できる上、ベースコート塗膜とトップクリヤー塗膜間の付着性が向上させることができ、好適である。
【0061】
次に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0062】
乳化重合体の製造
製造例1
攪拌機、温度計、冷却管を装備した2リットルのガラス製反応容器に、脱イオン水300部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1部を仕込み、内部の空気を窒素置換した後、攪拌しつつ内部温度を82℃まで上げて溶解させた。別容器に、脱イオン水320部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20部、過硫酸アンモニウム1部を添加し、よく攪拌し、その中にスチレン280部、n−ブチルアクリレート20部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート40部、アクリル酸20部及び1.6−ヘキサンジオールジアクリレート40部からなるモノマー混合物を加え攪拌して乳化物を作り、該乳化物を先程の反応容器中に2時間かけて連続滴下した。滴下終了後、同温度で30分間熟成後、別容器にて脱イオン水160部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ20部、過硫酸アンモニウム1部を添加しよく攪拌した中にスチレン200部、n−ブチルアクリレート60部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート120部及びアクリル酸20部からなるモノマー混合物を加え攪拌して作った乳化物を、該ガラス製反応容器に2時間かけて連続滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成し、次いで、40℃まで冷却し、平均粒子径150nm、固形分50%の乳化重合体(A−1)を得た。該乳化重合体(A−1)のガラス転移温度は58℃、重量平均分子量は30万であった。
【0063】
製造例2
製造例1において、モノマー組成を表1に示す通りとする以外は製造例1と同様にして乳化重合体(A−2)を得た。
【0064】
【表1】

【0065】
ウレタン樹脂エマルションの製造
製造例3
数平均分子量2000のポリブチレンアジペート115.5部、数平均分子量2000のポリカプロラクトンジオール115.5部、ジメチロールプロピオン酸23.2部、1,4−ブタンジオール6.5部及びイソホロンジイソシアネート120.1部を重合容器に仕込み、撹拌下に窒素気流中で85℃で7時間反応せしめてNCO含有量4.0%のプレポリマーを得た。次いで該プレポリマーを50℃まで冷却し、アセトン165部を加え均一に溶解した後、撹拌下にトリエチルアミン15.7部を加え、50℃以下に保ちながら脱イオン水600部を加え、得られた水分散体を50℃で2時間保持し、水伸長反応を完結させた後、減圧下70℃以下でアセトンを留去し、トリエチルアミンと脱イオン水でpHを8.0に調整し、固形分35%のウレタン樹脂エマルション(B−1)を得た。該ウレタン樹脂エマルション(B−1)の塗膜のガラス転移温度は−40℃であった。
【0066】
アクリル樹脂の製造
製造例4
反応容器にエチレングリコールモノブチルエーテル500部を加え、窒素気流下で115℃に昇温した。115℃に達した後、メチルメタクリレート200部、n−ブチルアクリレート200部、イソボルニルアクリレート300部、スチレン110部、ヒドロキシエチルアクリレート50部、アクリル酸40部、「NFバイソマーS20W」(注1)100部およびアゾビスイソブチロニトリル10部の混合物を3時間かけて加え、2時間熟成を行った。反応終了後、ジエチルメタノールアミンで当量中和し、さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテル250部を加えて、重量平均分子量45000、固形分50%のアクリル樹脂溶液(C−1)を得た。
(注1)「NFバイソマーS20W」:商品名、第一工業製薬社製、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(分子末端がメトキシ基であり、分子内にCO基の45量体を含有するメタクリレート)
顔料分散ペーストの作成
製造例5
脱イオン水170部に、「JR806」(商品名、テイカ社製、チタン白)40部、「MA−7」(商品名、三菱化学社製、カーボンブラック)1部、「軽質炭酸カルシウム」(商品名、竹原化学工業社製、炭酸カルシウム)80部、「MICRO ACE S−3」(商品名、日本タルク社製、タルク)75部、「K−WHITE 140W」(商品名、テイカ社製、防錆顔料)5部及びアクリル樹脂溶液(C−1)60部を加え、ディスパーにより15分間撹拌混合し、さらにサンドミルにて30分間分散処理し、顔料分散ペースト(D−1)を得た。
【0067】
製造例6
上記製造例5において、アクリル樹脂溶液(C−1)60部に換えて「BYK181」(商品名、ビッグケミー社製、多官能ポリマーのアルカノールアンモニウム塩系分散剤、有効成分65%、有橋脂環式重合性不飽和モノマー共重合量なし)46部を用いる以外は製造例5と同様にして顔料分散ペースト(D−2)を得た。
【0068】
プライマーサーフェーサー組成物の作成
実施例1〜5及び比較例1〜6
下記表2に示す組成配合にて、各乳化重合体及びウレタン樹脂エマルション(B−1)とエチレングリコールモノブチルエーテルを30分間撹拌し、ついで製造例5又は6で得られた各顔料分散ペーストを添加してさらに1時間撹拌を続けた。この中に、表2に示す組成配合にて消泡剤、シランカップリング剤を加え、塗料pHが8.0になるようにトリエチルアミンで調整した後、さらに1時間撹拌を続けて各プライマーサーフェーサーを作成した。また、各プライマーサーフェーサーから形成される塗膜のL値を明細書記載の方法に準じて測定し、表2に併記した。
【0069】
【表2】

【0070】
(注2)シランカップリング剤:「KBM−403」(商品名、信越化学社製、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
(注3)消泡剤:「BYK024」(商品名、ビック・ケミー社製)
性能試験
300×100×0.8mmの亜鉛めっき板を#240ペーパーで研磨後脱脂し、被塗板とした。この脱脂面上に実施例及び比較例のプライマーサーフェーサー組成物を乾燥膜厚で60〜70μmとなるようにスプレー塗装し、60℃で30分間乾燥した後、#400ペーパーで水研磨した。その上に、「PG2KメタリックベースNo123」(関西ペイント社製、水酸基含有アクリル樹脂含有ベースコート塗料)を乾燥膜厚で15μmとなるようにスプレー塗装し、10分間静置後60℃で10分間強制乾燥させ、ついで「PG2K クリヤーM」(商品名、関西ペイント社製、水酸基含有アクリル樹脂系塗料)にポリイソシアネート硬化剤を使用直前に混合したクリヤー塗料を乾燥膜厚で50μmとなるようにスプレー塗装し、60℃で20分間強制乾燥させて各試験塗板を得た。得られた各試験塗板を下記性能試験に供した。結果を表2に併せて示した。
(*1)研磨性:各プライマーサーフェーサー組成物塗装後に#400ペーパーで水研磨した時のペーパーへの目づまりの有無で評価した。(○:目づまりなく良好、△:若干目づまりあり、×:目づまりあり)
(*2)耐水付着性:各試験塗板を20℃の上水に7日間浸漬し取り出した後、塗膜を素地に達するようにクロスカットし、その塗面に粘着テープを貼り付け強く剥離した後の塗膜面を評価した。(◎:剥離なし、○:フチ欠けあり、△:部分的に剥離あり、×:全面剥離あり)
(*3)耐水性:各試験塗板を40℃の恒温水槽に10日間浸漬し取り出した後、1時間放置後の塗膜の状態を目視で評価した。(○:異常なし、△:ツヤビケあり、×:ツヤビケ・フクレあり)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)スチレン、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(d)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分として含有し、スチレン(a)の使用量が、全モノマーの重量を基準にして30重量%以上であることを特徴とする乳化重合体、
(B)水性ウレタン樹脂、
(C)(e)有橋脂環式炭化水素基含有重合性不飽和モノマー、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー及び(f)その他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする重量平均分子量が5,000〜100,000の範囲内であるアクリル樹脂
及び
(D)顔料を主成分とする塗料組成物であって、
該組成物中の全樹脂固形分100重量部に対して顔料(D)を100〜350重量部含有し、且つ顔料(D)のうち体質顔料を全樹脂固形分100重量部に対して50〜200重量部含有することを特徴とする水性下塗り塗料組成物。
【請求項2】
乳化重合体(A)が、(a)スチレン30〜80重量%、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー1〜10重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー5〜30重量%及び(d)その他の重合性不飽和モノマー5〜64重量%からなるモノマー混合物(I)を乳化重合して得られる共重合体水分散液中に、(a)スチレン20〜70重量%、(b)酸基含有重合性不飽和モノマー1〜10重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー5〜50重量%及び(d)その他の重合性不飽和モノマー5〜74重量%からなるモノマー混合物(II)を加えて、乳化重合して得られるものである請求項1に記載の水性下塗り塗料組成物。
【請求項3】
乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の配合割合が、乳化重合体(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル樹脂(C)の合計固形分重量に対して、乳化重合体(A)が10〜80重量%、水性ウレタン樹脂(B)が10〜80重量%及びアクリル樹脂(C)が10〜80重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性下塗り塗料組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤(E)をさらに含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物。
【請求項5】
被塗面に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
被塗面に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性下塗り塗料組成物を塗装した後、該塗面上にベースコート塗料を塗装し、該ベース塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装する塗装方法。

【公開番号】特開2006−117797(P2006−117797A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307199(P2004−307199)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】