説明

水性化成処理液および化成処理ステンレス鋼板

【課題】高温熱水下での塗膜密着性に優れた塗装鋼板を与える表面処理ステンレス鋼板、およびその化成処理液を提供する。
【解決手段】硝酸セリウムを、金属Ce濃度にして1〜12g/L含む、水性化成処理液。前記水性化成処理液は、好ましくは、シリカを0.5〜10g/Lさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性化成処理液および化成処理ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、近年、自動車のエンジンのシリンダーヘッドガスケット等のより過酷な条件下で使用される部材への適用が検討されている。このような用途では、ステンレス鋼板は、表面にゴム塗膜が形成された塗装ステンレス鋼板として用いられることが多い。この際、ステンレス鋼板と塗膜の密着性が十分でないと、高熱かつ高湿潤な過酷な環境において、塗膜が剥離し、所期のシール性能が発現されないという問題があった。
【0003】
ところで、特許文献1には、ステンレス鋼板と有機系接着剤の接着性を向上させるために、ステンレス鋼板に特定の表面処理を施す方法が開示されている。具体的には、オキシ硝酸ジルコニウムを含む化成処理液で表面を処理する方法が開示されている。これにより、沸騰水で72時間煮沸した後でも、接着剤と良好に接着したステンレス鋼板が得られるとされる。
【特許文献1】特開2007−46097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、前記特許文献に開示されているオキシ硝酸ジルコニウムを含む化成処理液で処理したステンレス鋼板について、その表面に塗装を施した塗装ステンレス鋼板を調製した。そして、この塗装ステンレス鋼板を50%ロングライフクーラントを含有する120℃の熱水に浸漬して、過酷な条件下での塗膜密着性を検討した。その結果、このような塗装ステンレス鋼板は、過酷な条件においては塗膜密着性が十分でないことが確認された。
すなわち、高温熱水下での塗膜密着性に優れた塗装鋼板を与える表面処理ステンレス鋼板が求められていたが、未だこれらの性能を満足する表面処理ステンレス鋼板は存在しなかった。かかる事情に鑑み、本発明は、高温熱水下での塗膜密着性に優れた塗装鋼板を与える表面処理ステンレス鋼板、およびその化成処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は鋭意検討した結果、硝酸セリウムを含む化成処理液により上記課題が解決できることを見出した。すなわち上記課題は以下の本発明により解決される。
【0006】
[1]硝酸セリウムを、金属Ce濃度にして1〜12g/L含む、水性化成処理液。
[2]0.5〜10g/Lのシリカをさらに含む、[1]記載の水性化成処理液。
[3]ステンレス鋼板の表面に、[1]または[2]記載の水性化成処理液により形成された化成処理皮膜を有する、化成処理ステンレス鋼板。
[4][3]に記載の化成処理ステンレス鋼板の上に、第1の塗膜、および第2の塗膜を有する塗装ステンレス鋼板。
[5]前記第1の塗膜は、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含み、
前記第2の塗膜は、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含む、[4]記載の塗装ステンレス鋼板。
[6]前記[4]または[5]の塗装ステンレス鋼板を含んでなる、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット。
[7]ステンレス鋼板の表面に、[1]または[2]に記載の水性化成処理液を塗布する工程、および
前記水性化成処理液が塗布されたステンレス鋼板を100〜300℃で加熱する工程を含む、表面処理ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高温熱水下での塗膜密着性に優れた塗装ステンレス鋼板が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.水性化成処理液
本発明の水性化成処理液(以下単に「化成処理液」ともいう)は、特定量の硝酸セリウムを含むことを特徴とする。水性化成処理液とは、鋼板の化成処理に用いられる液であって、水性である液をいう。すなわち、本発明の水性化成処理液は、水を溶媒とすることが好ましい。
【0009】
(A)硝酸セリウム
硝酸セリウムとは、Ce(NO・6HOで表される化合物である。硝酸セリウムの含有量は、水性化成処理液中、金属Ce濃度にして1〜12g/Lである。金属Ce濃度とは、硝酸セリウムに由来するCe元素の化成処理液中の濃度である。Ce(NO・6HOの分子量は434、Ceの原子量は140である。例えば、1Lの純水に硝酸セリウムを10g溶解すると、その溶液は、10g×140/434=3.2gのCe元素と、10g×6×18/434=2.5gの水を新たに含むことになる。よって、この溶液の金属Ce濃度は、3.2/(1+0.0025)=3.2g/Lとなる。
【0010】
硝酸セリウムは、Ce−O結合からなるネットワークを有する化成処理皮膜を形成する。この際、化成処理皮膜の表面にはCeの酸化物や水酸化物が存在する。これらの酸化物や水酸化物は、塗膜中の水酸基、カルボキシル基またはエステル基等と親和性が高く、場合によっては水素結合やエステル結合を起こして化学的に結合しうる。よって本発明の化成処理皮膜は、塗膜との密着性が良好となり、耐熱水性に優れた塗装ステンレス鋼板を与える。
水性化成処理液中の金属Ce濃度(以下単に「Ce濃度」ともいう)が、前記下限値未満であると、化成処理皮膜と塗膜の密着性が十分でない。一方、Ce濃度が前記上限値を超えると、化成処理皮膜が脆くなる。
【0011】
従来、Ce等の金属元素を含む化成処理皮膜を生成する方法として、金属の塩化物や硫酸塩を用いる方法が知られている。塩化セリウムは、Ce3+とClに、硫酸セリウムはCe3+とSO2−に電離して水に溶解する。表面に形成された化成処理皮膜が加熱される際に、ClやSO2−は揮発する可能性があるが、完全に揮発させるには時間を要し、工業的な生産設備を使用した短時間加熱では困難である。ClやSO2−は皮膜乾燥後も皮膜中に残留して、水分と結びつきやすい状態となり、皮膜自体の溶解を促進させたり、これらのイオンがステンレス鋼板の表面に存在する不動態皮膜を破壊したりする。このため、ClやSO2−の残留は腐食発生の原因となると考えられる。さらに、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして使用されるときに接触する冷却水には、ロングライフクーラントが数10%含有されている。ロングライフクーラントには主成分としてエチレングリコールが使用されていることから、エチレングリコールと接触することによる作用も考慮する必要がある。化成処理皮膜にClやSO2−が残留していると、エチレングリコールには塩化物、炭酸塩などの無機塩を溶解させる作用があるため、皮膜の溶解を促進することが考えられる。
【0012】
一方、本発明では、Ceの塩化物や硫酸塩ではなく、硝酸塩を用いる。硝酸セリウムは、Ce3+とNOに電離して水に溶解する。加熱により、NOはNOとなってほぼ完全に揮発すると考えられる。Ce3+は乾燥過程でCeの水和物および酸化物の皮膜を形成し、系中に皮膜の溶解促進やステンレス鋼板を腐食させる陰イオンを残留させにくい。Ceの塩酸塩を含む化成処理液は、エチレングリコールを含有する冷却水に対しても難溶性が高く、耐食性に優れる皮膜を形成しやすいと考えられる。そのため、本発明の化成処理ステンレス鋼板は、高温熱水下に放置されても健全な皮膜が基材と塗膜との密着性を保持するため、耐熱水性に優れた塗装ステンレス鋼板を与えると考えられる。
【0013】
(B)シリカ
本発明の化成処理液は、シリカの微粒子をさらに含んでいてもよい。これらは化成処理皮膜に微分散して、皮膜の強度を向上させるとともに、皮膜の表面積を増大させて塗膜の密着性を向上させる。シリカの微粒子の例には、シリカゾル、コロイダルシリカ、および溶融シリカが含まれる。これらは、水性化成処理液中、0.5〜10g/L添加されることが好ましい。
【0014】
(C)その他の添加剤
本発明の化成処理液は、発明の効果を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例には、有機樹脂、シランカップリング剤、アルミナ、およびCeとキレート結合可能な化合物が含まれる。
【0015】
最も好ましい添加剤として挙げられるのは有機樹脂であり、その好ましい例には、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂が含まれる。本発明においてはシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂とは、シロキサン骨格を含む樹脂をいう。シリコーン樹脂の例として、側鎖にメチル基やフェニル基を持ったシリコーンワニスの水溶性エマルジョンが使用できる。シリコーン樹脂は、シロキサン骨格の結合エネルギーが高く、耐熱性が優れる。また、末端に水酸基を有するため、塗膜中の極性基と親和しやすく、場合によっては塗膜中の官能基と反応しうることから、塗膜と化成処理皮膜の密着性を向上させる。
【0016】
ついで、良好な耐熱性を有することが特徴であるフェノール樹脂も使用できる。フェノール樹脂の例には、フェノールノボラック樹脂およびレゾール樹脂が含まれる。フェノール樹脂は水溶性であることが好ましい。水溶性のフェノール樹脂の好ましい例としては、レゾール樹脂、および特開2004−107432に開示されるアミン変性メタクレゾールノボラック樹脂が挙げられる。また、本発明においては、水性化成処理液中、フェノール樹脂の配合量は数%以下であるため、通常使用されるフェノール樹脂(例えば群栄化学工業製レヂトップPL−4667等)やエマルジョンタイプのフェノール樹脂(例えば住友ベークライト製スミライトレジンPR−14170等)を使用してもよい。
【0017】
有機樹脂の添加は化成処理皮膜の強度を向上させる。さらに、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂は極性基である水酸基を有するため、塗膜中の極性基と親和しやすく、場合によっては塗膜中の官能基と反応しうることから、塗膜と化成処理皮膜の密着性を向上させる。
化成処理皮膜は、冷却水に侵されないことも必要である。前述したように、冷却水にはエチレングリコールが主成分のロングライフクーラントが添加されている。ポリマーの耐溶剤性は、溶解度パラメータ(以下、SP値)で説明できる。水のSP値は23.4、エチレングリコールは14.6と極性が非常に高い。有機樹脂のSP値は、シリコーン樹脂が7.3、アクリル樹脂が9.2、フェノール樹脂が11.5であり、水およびエチレングリコールに比較して小さいため、冷却水によって樹脂が膨潤されにくいことが推測される。この中でフェノール樹脂は比較的エチレングリコールに近いSP値であるが、非常に安定したベンゼン環を骨格に有するため、架橋されたフェノール樹脂は耐溶剤性に優れる。一方、SP値が非常に小さい有機樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(SP値:6.2)が知られている。ポリテトラフルオロエチレンは溶剤により膨潤されにくいが、他の物質との反応しにくく、塗膜としたとき、鋼板との密着性が十分でない。以上から、耐溶剤性と塗膜密着性の両方の性能を勘案し、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、およびアクリル樹脂が好ましい。
有機樹脂の添加量は、水性化成処理液中、0.3〜20g/Lが好ましい。有機樹脂の添加量が前記下限値未満であると、塗膜との十分な密着性が得られないことがある。また有機樹脂の添加量が前記上限値を超えると、化成処理皮膜の硬度が高くなりすぎて、加工時や衝撃時の密着性が低下したり、凝集破壊の原因となったりする。
【0018】
シランカップリング剤とは、分子内に加水分解でシラノール基(Si−OH)を与えるアルコキシ基等と、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基やアルキル基等の有機基を有する化合物をいう。
シランカップリング剤は、Si−O結合を含むネットワークを形成するので化成処理皮膜の強度を向上させると同時に、有機基により塗膜との密着性を向上させる。
本発明においては反応性に優れるアミノ基を分子内に含むアミノ系シランカップリング剤、またはエポキシ基を分子内に含むエポキシ系シランカップリング剤が好ましい。
【0019】
このような観点から、シランカップリング剤の添加量は、水性化成処理液中、0.5〜50g/Lが好ましい。シランカップリング剤の添加量が前記下限値未満であると、塗膜との十分な密着性が得られないことがある。またシランカップリング剤の添加量が前記上限値を超えると、化成処理皮膜が脆くなることがある。
【0020】
アルミナとしてはアルミナゾル等を用いてよい。アルミナは、シリカと同様に化成処理皮膜に微分散して、皮膜の強度を向上させるとともに、皮膜の表面積を増大させて塗膜の密着性を向上させる。アルミナの添加量はシリカと同様にすることが好ましい。
【0021】
Ceとキレート結合可能な化合物は、化成処理皮膜の強度を向上させる。このような化合物の例には、タンニン酸が含まれる。タンニン酸の添加量は、水性化成処理液中、0.3〜20g/Lが好ましい。
【0022】
2.水性化成処理液の製造方法
本発明の水性化成処理液は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造できる。すなわち、各成分を公知の混合手段で混合して得てよい。公知の混合手段の例には、ディスパーザー、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機が含まれる。
本発明の水性化成処理液に用いられる溶剤は水であるが、水性の有機溶剤を含んでいてもよい。本発明の水性化成処理液は、固形分濃度が、3〜12質量%であることが好ましい。
【0023】
3.本発明の水性化成処理液により得られる化成処理ステンレス鋼板
本発明の水性化成処理液をステンレス鋼板の表面に塗布し、加熱すると、化成処理ステンレス鋼板が得られる。塗布された膜のうち、乾燥前の膜を「塗布膜」、乾燥後の膜を「化成処理皮膜」と呼ぶ。化成処理皮膜は片面または両面に形成される。
【0024】
ステンレス鋼板とは、板状のステンレスである。本発明においては、オーステナイト系またはフェライト系ステンレス鋼板を用いることが好ましい。
【0025】
鋼板表面に塗布される化成処理液の量は、化成処理皮膜に所望の量のCeが含まれるように調整してよい。
本発明の化成処理皮膜は、Ceを8〜50mg/m含むことが好ましく、10〜40mg/m含むことがより好ましい。化成処理皮膜中のCeの量は、蛍光X線分光法による検量線法により測定できる。
検量線の作成には、まず、成分濃度を変化させた処理液をサンプルと同一基材に塗布・乾燥して皮膜を形成し、Ce・Lα蛍光X線強度を測定した。その後、混酸液(塩酸+過酸化水素水+純水)で皮膜を完全に溶解し、溶解液に含有される皮膜由来の金属元素をICP−AES法により定量分析した。ICP−AES法で得られた定量値を用いて、サンプル面積当りの金属付着量を算出し、蛍光X線強度に換算した検量線を作成した。この方法で、蛍光X線の強度測定から、化成処理皮膜中のCe量を定量した。このようにして測定される化成処理皮膜中のCe元素の量は、酸化物の状態にあるCeや水酸化物の状態にあるCeの量を含んでいる。
【0026】
本発明の化成処理皮膜は、シリカを10〜60mg/m含むことが好ましく、30〜50mg/m含むことがより好ましい。ただし、本発明の化成処理皮膜が、有機樹脂やシランカップリング剤等を含む場合には、シリカ含有量は10〜40mg/mであることが好ましい。化成処理皮膜中のシリカの量は、蛍光X線分光法による検量線法により測定できる。
【0027】
本発明の化成処理皮膜は、有機樹脂を3〜50mg/m含むことが好ましく、5〜20mg/m含むことがより好ましい。化成処理皮膜中の有機樹脂の量は、赤外線分光法の吸光度法により測定できる。
【0028】
本発明の化成処理皮膜は、シランカップリング剤を3〜50mg/m含むことが好ましく、5〜20mg/m含むことがより好ましい。化成処理皮膜中のシランカップリング剤の量は、赤外線分光法の吸光度法によるシランカップリング剤の有機官能基(エポキシ基やアミノ基等)の赤外線吸収ピークから測定できる。シランカップリング剤は、化成処理皮膜中では、シランカップリング剤同士で反応したり、有機樹脂と反応したりして存在する場合が多い。本発明の化成処理皮膜がシランカップリング剤を含むとは、シランカップリング剤が、このような状態で化成処理皮膜中に存在することも含む。
【0029】
本発明の化成処理皮膜は、Ceとキレート結合可能な化合物としてタンニン酸を3〜50mg/m含むことが好ましく、5〜20mg/m含むことがより好ましい。化成処理皮膜中のタンニン酸の量は、赤外線分光法の吸光度法により測定できる。
【0030】
4.塗装ステンレス鋼板
本発明の塗装ステンレス鋼板は、化成処理液の塗布に先立って、ステンレス鋼板表面の清浄化、活性化を行うことが好ましい。具体的には、鋼板表面の汚染物質をアルカリ脱脂、溶剤脱脂などにより除去する清浄化、および、リン酸塩溶液や硫酸性溶液などをスプレーして弱酸洗して表面の活性化を実施し、最後に湯洗等によって酸洗液を洗い流す。
本発明の塗装ステンレス鋼板は、本発明の化成処理ステンレス鋼板の上に、第1の塗膜、および第2の塗膜を有する。
第1の塗膜はプライマとも呼ばれ、鋼板の耐食性を向上させるとともに、第2の塗膜との密着性を向上させる。第1の塗膜には公知のものを用いてよいが、第1の塗膜は、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸またはメタクリル酸エステルを重合してなる樹脂である。これらの化合物は公知のものであればよい。
エポキシ樹脂とは、分子内にエポキシ基を含む化合物を重合してなる樹脂である。これらの化合物は公知のものであればよい
ここで用いられるフェノール樹脂とは、フェノール骨格を含む樹脂であり、ノボラック型、レゾール型を問わず使用できる。プライマ用途のフェノール樹脂は水溶性の必要は無い。
(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂は、架橋されていてもよい。
第1の塗膜の厚みは、限定されないが、0.05〜3μmが好ましい。
【0032】
本発明においては、第1の塗膜は(メタ)アクリル樹脂が好ましい。(メタ)アクリル樹脂は分子内にエステル基やカルボキシル基を有するので、化成処理皮膜中のCeの酸化物や水酸化物、フェノール樹脂、またはシランカップリング剤と化学反応を起こして、良好に密着する。そのため(メタ)アクリル樹脂を第1の塗膜とすると、耐熱水性に優れた塗装ステンレス鋼板が得られる。
【0033】
(メタ)アクリル樹脂を第1の塗膜とする塗装ステンレス鋼板は、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして用いられる場合、極めて優れた耐熱水性を有する。シリンダーヘッドガスケットは、高温において、不凍液(ロングライフクーラントともいう)であるエチレングリコールや水に接触させられる。エチレングリコールは水よりも塗膜を溶解させやすい。しかしながら、第1の塗膜を(メタ)アクリル樹脂とする塗装ステンレス鋼板は、化成処理皮膜と強固に密着しているため、高温下でエチレングリコールと接触させられても、塗膜はダメージを受けないと考えられる。
【0034】
第2の塗膜は、第1の塗膜の上に形成される。本発明において第2の塗膜は、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
フッ素ゴムは公知のものを用いてよいが、その好ましい例には、フッ化ビニリデン−フルオロプロペン共重合体のポリオール加硫型フッ素ゴムが含まれる。ニトリル−ブタジエンゴムは公知のものを用いてよい。
第2の塗膜の厚みは、限定されないが、10〜50μmが好ましい。
第1および第2の塗膜は片面または両面に形成される。
【0035】
本発明の塗装ステンレス鋼板は、発明の効果を損なわない程度で任意に製造できるが、以下その好ましい製造方法を記載する。
本発明の塗装ステンレス鋼板は、
(a)本発明の化成処理ステンレス鋼板に、第1の塗膜を形成する工程、
(b)前記第1の塗膜の上に、第2の塗膜を形成する工程、および
(c)前記鋼板を加熱する工程、を経て製造されることが好ましい。
【0036】
(a)、(b)の工程において、塗料を鋼板に塗布する方法の例には、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、ナイフコートによる方法が含まれるが特に限定されない。塗布膜の厚みは、最終的に得られる塗膜が所望の膜厚となるように調整される。
第1の塗膜を形成する塗料は、前述の(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含むことが好ましい。また第2の塗膜を形成する塗料は、フッ素ゴム塗料、またはニトリル−ブタジエンゴム塗料であることが好ましい。
【0037】
(c)の工程(「加硫工程」ともいう)は、150〜200℃において、20〜60分程度加熱して行われることが好ましい。
特に、後述するとおり、本発明の塗装ステンレス鋼板は、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして有用である。ガスケットは、高いパッキング性が求められるため、第2の塗膜には、高い耐久性が求められる。そのため、第2の塗膜は加硫されていることが好ましい。この加硫反応は公知の方法で行ってよいが、前述したように150〜300℃の高温で行われることが好ましい。
【0038】
図1は、本発明の塗装ステンレス鋼板の概要を示す断面図である。図中、10はステンレス鋼板、20は化成処理皮膜、30は第1の塗膜、40は第2の塗膜である。
【0039】
5.自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット
本発明の自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット(以下単に「ガスケット」ともいう)は、本発明の塗装ステンレス鋼板を含んでなる。
自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとは、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの間をシールするために使用される部品である。本発明のガスケットは、無垢のステンレス鋼板を、両面に化成処理皮膜と第1および第2の塗膜が形成された本発明の塗装ステンレス鋼板(「両面塗装ステンレス鋼板」ともいう)で挟んで構成されることが好ましい。ガスケットの形状は特に限定されず、公知の形状としてよい。
図2は、本発明のガスケットの一部の断面図である。図中、50は両面塗装ステンレス鋼板、60は無垢のステンレス鋼板である。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
硝酸セリウム・六水和物(和光純薬(株)製)を6.2g、1Lの純水に溶解して水性化成処理液(Ce:2g/L)を得た。
板厚0.2mmのSUS301Hステンレス鋼板の片面に前記化成処理液を塗布し、120℃で加熱して化成処理液を乾燥した。このようにして得た化成処理ステンレス鋼板を、蛍光X線分析装置を用いて表面分析した。その結果、化成処理皮膜中に、Ceは5mg/m存在することが確認された。
【0041】
前記の化成処理ステンレス鋼板の表面に、アクリル系塗料(DIC(株)アクリディックA−405)を定法により塗装して、乾燥膜厚が1μmの塗膜を形成した。
続いて、前記塗膜の上に、フッ素系ゴム塗料(ダイキン工業(株)製 ダイエルDPA−382)を定法により塗装して、乾燥膜厚が25μmの塗膜を形成した。
このようにして得られた塗装ステンレス鋼板は、以下のように評価された。
【0042】
1)初期の塗膜密着性
塗装ステンレス鋼板に塗装面を外側にして180度曲げ加工を施した。曲げ加工部にセロハンテープを貼付し、当該テープを剥離した。曲げ加工部の状態を観察して、剥離が観察されなかったものを○、テープ貼り付け面積に対して10%以下の剥離が観察されたものを△、剥離面積が10%を超えたものを×と判定した。
【0043】
2)熱水浸漬試験
曲げ加工を施していない塗装ステンレス鋼板を、120℃の熱水に240時間、500時間浸漬したサンプルを準備した。それぞれのサンプルについて、碁盤目試験(JIS−K5600 5−6に準拠)を実施した。カッターナイフによりステンレス鋼下地に達する間隔1mm、桝目100個の碁盤目状切込みを入れ、セロハンテープの貼り付け・引き剥がし後に塗膜の剥離状況をカウントした。桝目の残存率により、耐熱水性を評価した。
【0044】
3)熱クーラント液浸漬試験
トヨタ(株)製、ロングライフクーラント液と純水を体積比にして1:1混合して、クーラント液を調製した。
曲げ加工を施していない塗装ステンレス鋼板を、120℃の前記クーラント液に240時間、500時間浸漬したサンプルを準備した。それぞれのサンプルについて、2)熱水浸漬試験等同様に、碁盤目試験(JIS−K5600 5−6に準拠)を実施し、残存率により耐熱クーラント性を評価した。
【0045】
[実施例2〜3]
硝酸セリウム・六水和物(和光純薬(株)製)配合量を12.4〜25(Ce:4〜8g/L)に変化させて、化成処理皮膜中のCeが表1に示すような値となるようにした以外は実施例1と同様にして塗装ステンレス鋼板を得て評価した。
【0046】
[実施例4]
硝酸セリウム・六水和物を31g(Ce:10g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を15g(シリカ:3g/L)準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0047】
[実施例5〜7]
硝酸セリウム・六水和物(和光純薬(株)製)配合量を21.7〜6.2(Ce:7〜2g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)の配合量を10〜50g/L(シリカ:2〜10g・L)に変化させて、化成処理皮膜中のCeとシリカ含有量が、表1に示すような値となるようにした以外は実施例1と同様にして塗装ステンレス鋼板を得て評価した。
【0048】
[実施例8]
硝酸セリウムを・六水和物を12.4g(Ce:4g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を20g(シリカ:4g/L)、タンニン酸を2g準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0049】
[実施例9]
硝酸セリウム・六水和物を10g(Ce:3.2g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を18g(シリカ:3.8g/L)、アクリル樹脂(三井化学(株)製 アロマテックスXCE3240 固形分45%)を4.4g準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0050】
[実施例10]
硝酸セリウム・六水和物を10g(Ce:3.2g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を18g(シリカ:3.8g/L)、フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製、レヂトップPL−4667 固形分50%)を4g準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0051】
[実施例11]
硝酸セリウム・六水和物を12.4g(Ce:4g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を20g(シリカ:4g/L)、シリコーン樹脂(信越化学(株)製 Polon MF−28 固形分17%)を12g準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0052】
[実施例12]
硝酸セリウム・六水和物を12.4g(Ce:4g/L)、コロイダルシリカ(日産化学(株)製 スノーテックスOS 固形分20%)を20g(シリカ:4g/L)、アミン系シランカップリング剤(信越化学(株)製 KBM−903)を2g準備して、1Lの純水に溶解して水性化成処理液を得た。
この化成処理液を用いて、実施例1と同様にして化成処理ステンレス鋼板を得て評価した。
【0053】
[比較例1]
板厚0.2mmのSUS301Hステンレス鋼板を準備して、化成処理を施さずに、実施例1と同様にして評価した。
【0054】
[比較例2]
硝酸セリウム六水和物の代わりにフッ化Zrアンモニウム(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例12と同様にして、塗装ステンレス鋼板を得て、同様に評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例と比較例から、本発明の塗装ステンレス鋼板は、耐熱水性、耐熱クーラント性に優れた塗装ステンレス鋼板を与えることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の水性化成処理液は、耐熱水性、耐熱クーラント性に優れた塗装ステンレス鋼板を与えるので、高熱水下等の加工の条件で用いられるステンレス鋼板の化成処理に好適である。さらに本発明の水性化成処理液で処理されてなる塗装ステンレス鋼板は、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の塗装ステンレス鋼板の一態様を示す断面図
【図2】本発明の本発明のガスケットの一部を示す断面図
【符号の説明】
【0059】
10 ステンレス鋼板
20 化成処理皮膜
30 第1の塗膜
40 第2の塗膜
50 両面塗装ステンレス鋼板
60 無垢のステンレス鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸セリウムを、金属Ce濃度にして1〜12g/L含む、水性化成処理液。
【請求項2】
0.5〜10g/Lのシリカをさらに含む、請求項1記載の水性化成処理液。
【請求項3】
ステンレス鋼板の表面に、請求項1または2に記載の水性化成処理液により形成された化成処理皮膜を有する、化成処理ステンレス鋼板。
【請求項4】
請求項3記載の化成処理ステンレス鋼板の上に、第1の塗膜、および第2の塗膜を有する塗装ステンレス鋼板。
【請求項5】
前記第1の塗膜は、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含み、
前記第2の塗膜は、フッ素ゴムまたはニトリル−ブタジエンゴムを含む、
請求項4記載の塗装ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項4の塗装ステンレス鋼板を含んでなる、自動車エンジンのシリンダーヘッドガスケット。
【請求項7】
ステンレス鋼板の表面に、請求項1または2記載の水性化成処理液を塗布する工程、および
前記水性化成処理液が塗布されたステンレス鋼板を100〜300℃で加熱する工程を含む、
表面処理ステンレス鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−106309(P2010−106309A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278540(P2008−278540)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】