説明

水性消毒組成物

【課題】家庭内、施設などで簡単に調製することができ、消毒効果が高く、使用に際して泡状のヨウ素含有消毒液を供給して均一かつ広範囲の消毒を可能にすることである。
【解決手段】(a)密閉容器内で30〜100℃で加熱して、アセタール化度50〜90モル%のポリビニルアセタール系多孔質体に対して40〜400重量%の固体ヨウ素を吸着せしめたヨウ素放出材と、(b)前記ヨウ素放出材から遊離するヨウ素と安定な複合体を形成する界面活性剤と、(c)水を必須成分として含有する消毒組成物を、詰め替え可能なフォーマー容器に充填したことを特徴とする水性消毒組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭内などで簡単に調製できる泡状のヨウ素含有消毒液に係わり、特に密閉容器内で加熱してヨウ素を吸着させたポリビニルアセタール系多孔質体と、ヨウ素と安定な複合体を形成する界面活性剤と、水とをフォーマー容器に充填して、消毒液として有用な泡状のヨウ素消毒液を吐出させることのできる水性消毒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
泡状洗浄液は、界面活性剤溶液をフォーマー容器に充填し、該容器から押し出すことにより、泡を吐出させて使用するものであり、簡便にかつ少量を広い範囲に均一に塗布できるので、洗顔剤、毛髪用シャンプー、手指洗浄剤、ガラス洗浄剤などとして使用されている。また、界面活性剤だけでなく消毒剤としてイソプロピルメチルフェノール、プロピレングリコール、或いは塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどを配合して、洗浄だけでなく手指や皮膚の消毒も積極的に行うものもある。この泡状にする利点は、液状のままで使用するよりも適用範囲に対して均一にかつ素早く行き渡らせることができるということである。例えば液状のものを手のひらに塗布しても、指の間にまんべんなく広げるまでにそこから他所にこぼれ落ちることが多く、必然的に多量の液を使用することになり、薬液の無駄もさることながら皮膚への過剰な影響が憂慮されるが、泡状で提供できればこのような問題は容易に解決できるからである。
【0003】
このような泡状消毒液に関する提案として例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩化セチルピリジニウム及びそれらの混合物からなる群から選択される殺菌剤、15,000CS(25℃)以下の粘度を有するシリコーン樹脂及び噴射剤からなるエアゾール型発泡性傷口消毒剤(特許文献1:特開平8−99873号)がある。これは、傷口にスプレーした後、発泡することで傷口を機械的に洗浄し、汚れを浮き上がらせて、一定時間の後、速やかに消泡することにより汚れを傷口の外側へ移動させ汚れの再付着を防止するというもので、優れた機能を有する。また、カチオン荷電を有する殺菌剤及び界面活性剤を含有する液状殺菌洗浄剤組成物を、内容液に押圧力を付与することにより該内容液と空気とを混合せしめて、多数の細孔を有する泡形成部材を通して吐出口から泡状に吐出させるフォーマー容器に充填してなることを特徴とする泡状殺菌洗浄剤組成物(特許文献2:特開平10−330799号)もある。このものは、家庭内で適宜調製することができ、肌への安全性及び取り扱い性が良好であるというものである。これらはそれぞれ優れた特徴を有するが、広範囲の微生物に対する消毒効果という点で改良の余地があった。
【0004】
消毒効果に優れた薬剤としては塩素系の消毒薬がある。これは非常に殺菌力が強い反面、不安定で刺激臭などがあり取扱性において問題があり一般家庭での消毒用としては用いられていない。また、同じハロゲン系であるが取扱性が優れたヨウ素を利用したものとして、ポピドンヨード、塩化ベンザルコニウムなどとコラーゲン、および発泡剤としてアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などを配合した消毒剤をエアゾール容器に充填したもの(特許文献3:特開平4−282311号)がある。このものは消毒効果の高いヨウ素を使用する点で優れているが、ヨウ素の安定性に改善する余地が残されている。また、ヨードホール(アルコール、酸、粘性向上剤及び界面活性剤等が配合された有効ヨウ素1%から10%のヨウ素含有製剤)1〜50wt%;特定の陰イオン界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミドまたはアルキルアミンオキシドである非イオン界面活性剤から選ばれた1種以上の発泡剤1〜40wt%;アルコールエーテル類1〜20wt%;及び水からなる泡スプレー用発泡殺菌剤(特許文献4:特開平5−306206号)がある。このものは用途が食品工場内の殺菌であり比較的高濃度のヨードホール(逆に高濃度で使用するからこそ安定性が高いのであるが)を使用している点で、家庭用例えば手指などの消毒用に転用するには難しい面がある。このようにハロゲン系の消毒剤は、殺菌力が強い点で前記塩化ベンザルコニウムなどの化合物系より優れているが、安定性について課題を有しているのである。
【0005】
前記ヨウ素を安定して保存・供給する方法としては、ヨウ素と複合化したアセタール化ポリビニルアルコールを含んでなる組成物であって、水の存在下で遊離ヨウ素を放出することができる組成物(特許文献5:特開平2−299662号)がある。このヨウ素複合体は、ヨウ素水溶液にアセタール化ポリビニルアルコールを浸漬してヨウ素を吸着させるという方法であり、ヨウ素吸着量は1〜25wt%程度である。また、使用に際してはゆっくりとヨウ素を放出するものであり、消毒用に高濃度のヨウ素を放出するような用途は想定されていない。
【0006】
また、血液、血液画分、酵素及びワクチンのような、タンパク質を含有する溶液を消毒するためにヨウ素を使用する方法として、ヨウ素を徐放する高分子粒子とヨウ素を吸着しうる高分子粒子の混合物を前記タンパク質含有溶液に接触させ、消毒と同時に過剰のヨウ素を除去する方法(特許文献6:特表2003−512136号)が提案されている。ここでは、ヨウ素化されたポリビニルアセタールをヨウ素源として使用し得るとの記載があるが、ヨウ素化の方法および付加量についての記載はなく、ヨウ素水溶液にQセファロースを浸漬して10重量%のヨウ素を吸着させる方法が記載されているのみであり、ポリビニルアセタールに大量のヨウ素を吸着させ、ヨウ素を大量に放出させようとする思想は示されていない。
【0007】
さらに、ヨウ素と錯体を形成するポロキサマー等の界面活性剤を含む殺菌性組成物が記載されたもの(特許文献7:特表平10−506631号)や、無機担体に担持された安定なヨードホールに関するもの(特許文献8:特開平9−151106号)や、ヨウ素と錯体を形成する両性界面活性剤と他の界面活性剤とを併用するもの(特許文献9:特表2002−525418号)などの提案がある。これらのヨウ素安定化の方法は優れているが、それぞれの製品として供給を前提とするものであり、ヨウ素を含有した消毒液を各家庭で必要なときに調製するというような思想のものではない。
【特許文献1】特開平8−99873号公報
【特許文献2】特開平10−330799号公報
【特許文献3】特開平4−282311号公報
【特許文献4】特開平5−306206号公報
【特許文献5】特開平2−299662号公報
【特許文献6】特表2003−512136号公報
【特許文献7】特表平10−506631号公報
【特許文献8】特開平9−151106号公報
【特許文献9】特表2002−525418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術において全く考慮されていなかった、新しい用途を課題として検討した結果なされたものであり、その目的とするところは、家庭内、施設などで簡単に調製することができ、消毒効果が高く、使用に際して泡状のヨウ素含有消毒液を供給して均一かつ広範囲の消毒を可能にすることであり、特に手指の消毒に適した比較的低濃度で安定に使用できるものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のアセタール化度のポリビニルアセタール系多孔質体にヨウ素を吸着させたものをヨウ素放出材として使用すると、界面活性剤と水との混合溶液中で、ヨウ素が迅速に放出され、かつヨウ素濃度が一定の状態で保存可能であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(a)密閉容器内で30〜100℃で加熱して、アセタール化度50〜90モル%のポリビニルアセタール系多孔質体に対して40〜400重量%の固体ヨウ素を吸着せしめたヨウ素放出材と、(b)前記ヨウ素放出材から遊離するヨウ素と安定な複合体を形成する界面活性剤と、(c)水を必須成分として含有する消毒組成物を、詰め替え可能なフォーマー容器に充填したことを特徴とする水性消毒組成物に関する。
【0011】
本発明のヨウ素放出材は、ポリビニルアセタール系多孔質体と固体ヨウ素とを密閉容器内で加熱し、固体ヨウ素が昇華することによって分子状ヨウ素がそのまま多孔質体と結合する。従って、溶液中に溶存するヨウ素溶液に浸漬して結合させる方法とは異なり多量のヨウ素を固定することができるのである。また、多孔質体を使用するために、対ヨウ素蒸気との接触面積を広くすることができるので結合させる条件(熱・時間・体積比など)を適宜設定することにより、ヨウ素の放出量、放出速度を自由に調整することができる。
【0012】
また、ヨウ素放出材中の吸着したヨウ素の質量が水100mlに対して0.015〜0.20gの割合であることが好ましい。この範囲内で使用することにより水性消毒組成物調製当初より適度な濃度のヨウ素が放出されるからである。さらに、同時に混合する界面活性剤の量は水100mlに対して0.05〜2gの割合で含有することが適当である。この範囲の濃度であれば起泡力、洗浄性、ヨウ素との複合体形成において適当だからである。
【0013】
そして、手指などの消毒部位の皮膚を保護するための皮膚保護剤を、水100mlに対して0.1〜4g含有することが好ましい。消毒剤は微生物を除去するものであるが、微生物を殺菌する作用があるということは、皮膚細胞にとっても少なからず影響を及ぼし得るということであり、使用者によっては敏感肌の人や若年者或いは老齢者などへも配慮すれば、皮膚保護剤を使用して人に優しい消毒組成物を提供できるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヨウ素放出材は、水中へのヨウ素の放出速度が速いので、フォーマー容器内で消毒組成物を素早く調製することができる。しかも、放出材の浸漬溶液中のヨウ素濃度がある程度に達すると、ヨウ素の放出速度が遅くなるので一定の濃度範囲に保持することができる。また、外液中の界面活性剤との複合体形成により、遊離ヨウ素の場合よりもヨウ素が安定化され、使用に際してはこの複合体が消毒作用を発現するので、遊離ヨウ素を作用させるよりも皮膚などに対する影響がマイルドである。
【0015】
本発明の消毒組成物によれば、抗菌スペクトルの広いヨウ素を使用して泡状にして供給することができるので、広い範囲に均一に消毒組成物を適用できる。そして泡状であるために、液体の塗布に比較して周囲に漏れたり飛散することがなく、狙った位置に適用することができるのである。また泡状であるために、塗布後に周囲に広げることも容易である。
【0016】
消毒組成物としては、固体のヨウ素放出材と、界面活性剤溶液、および水とを配合するだけでよいので、場所を選ばずに調製可能であり、使用直前までヨウ素放出材を単独かつ固体状で保存することができ、最も不安定なヨウ素を長期間安定して保存することが可能である。従って、緊急時に備えて各家庭にそれぞれを別個に保管しておくか、あるいはフォーマー容器内に水と界面活性剤を保存し、ヨウ素放出材を別途保存しておくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明に使用するヨウ素放出材の製造にあたり、ヨウ素を吸着する基材としてポリビニルアセタール系多孔質体を用いる。多孔質体であることにより水との接触面積を多くし、吸着したヨウ素の放出効率を向上させるためである。該多孔質体の気孔率は50〜95%が好ましく、特に好ましくは60〜93%である。気孔率が前記範囲より低いとヨウ素の吸着に時間がかかるとともに、目的とするヨウ素の放出速度が得難くなり、前記範囲以上では、多孔質体の機械的強度が低下する場合がある。また気孔の径は40〜1000μm、好ましくは50〜800μmである。気孔径が前記未満である場合には、水と接触させたときの水の浸透性が悪くなり、所望のヨウ素の放出速度が得難くなる場合があり、また気孔径が前記より大きくなると、多孔質体の機械的強度が低下する場合があるからである。
【0018】
前記ポリビニルアセタール系多孔質体は、アセタール化度が50〜90モル%のものが適当であり、好ましくは55〜80モル%である。90モル%より多くなるとヨウ素の吸着量が不十分となり、50モル%より低くなると、耐水性が劣るからである。また、ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアセトアルデヒドを縮合反応させて得られるが、ホルムアルデヒドや、ブチルアルデヒドなどを用いることも可能である。ホルムアルデヒドを用いると、ガラス転移温度が高くなり、耐熱性に優れることが知られている。またブチルアルデヒドを使用すると、溶剤に対する溶解性に優れるので高アセタール化度のものが得られるが、耐熱性に劣るようになる。なお、ポリビニルアセタール系多孔質体としては、例えばアイオン株式会社製のベルイーターDシリーズまたはベルクリンを用いることができる。
【0019】
前記ポリビニルアセタール系多孔質体を適当な形状に加工する。例えばシート状、棒状、球状など加工できる限り任意の形態が可能である。以下の工程(ヨウ素を吸着させる工程など)後に、所望の形状にすることもできるが、多量のヨウ素を吸着させてから取り扱うよりも、前もって適当な形状にしておく方が作業性に優れ、実際使用する各放出材の表面に均一に吸着できるからである。好ましい形態の一つはシート状の小片であり、例えば厚さ2〜10mm、好ましくは3〜6mmであり、1辺が5〜15mmの正方形または矩形が適当である。なお、その他の不規則な形状のものであっても実用上問題はない。
【0020】
前記ポリビニルアセタール系多孔質体を、固体ヨウ素とともに容器に密封する。このとき固体ヨウ素は前記多孔質体に対して40〜400重量%、好ましくは50〜350重量%とする。固体ヨウ素はその全量が基本的に密閉容器内で気化して、前記多孔質体に吸着されるから、密封する際の量を調整することにより、吸着量も必然的に決定されるため、所望量を添加すれば良い。勿論、添加固体ヨウ素の全量が気化する前に反応を終了させることも可能であるが、残存する固体ヨウ素の分別や、気相中にあるヨウ素蒸気の問題などを考慮すれば、全量反応させることが望ましい。このように、反応後に不要な成分が生じないことは、このヨウ素放出材の特徴である。通常、化合物を製造する工程では何らかの不純物や、副反応物、未反応原料などの残留により、精製工程や、分別工程などが必要とされることが多いのであるが、この製造方法では、そのような別工程を敢えて設けることなく製造することができるので、製造コストの著しい削減を可能にするものである。ポリビニルアセタール系多孔質体に対するヨウ素の吸着量は40重量%以下では水と接触した時のヨウ素放出速度が不十分となり、400重量%以上になると吸着に長時間を要するほか、乾燥時でもヨウ素の昇華が激しくなり、取り扱い性が悪くなる。特に好ましいヨウ素吸着量は100〜300重量%であり、最も好ましくは150〜250重量%である。
【0021】
前記のように容器に密封したのち、容器ごと乾燥器など加熱可能な機械に入れ、30〜100℃、好ましくは40〜70℃で加熱することによりヨウ素を気化させる。この時の温度条件としては、固体ヨウ素を150重量%添加した場合について例示すれば、90℃で1〜4時間、80℃で3〜8時間、60℃では10〜30時間程度とされるが、これ以上の時間加熱しても特に差し支えないが、過度に加熱時間を延長すると、ヨウ素の放出効率が低下するので好ましくない。また、加熱温度は一定温度である必要はなく、所定間隔で温度を昇温させたり、連続的に昇温することもできる。ただし製造コストに直接影響するために、必要最小限の温度および時間を選択することが望ましい。ここでいう必要最小限とは、容器の外から観察して固体ヨウ素が確認できなくなるまでの時間と考えれば良い。なお、この時の設定温度はあまり高いとポリビニルアセタール系多孔質体が劣化するおそれがあるので100℃を超える温度は適当でなく、また30℃より低いとヨウ素の気化が非常に遅いために製造に長時間を要するので好ましくない。
【0022】
本発明に使用するヨウ素放出材の製造方法の一つとして、前記ポリビニルアセタール系多孔質体に湿潤剤を含浸させてからヨウ素を吸着させる方法がある。この場合の湿潤剤の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、酸化エチレン・酸化プロピレンブロック共重合体、アルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビトールエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ポリグリセリンエステルおよび脂肪酸ショ糖エステルからなる一群が挙げられる。前記ポリビニルアセタール系多孔質体が上記湿潤剤を含むことにより、ヨウ素放出材製造のワーキングレンジが著しく広くなり製造が容易になるとともに、保存時の熱に対する安定性が著しく向上する。この理由は未だ明らかではないが、上記湿潤剤がヨウ素とポリビニルアセタール系多孔質体とが過度に強固に結合するのを抑制する効果があるためではないかと考えられる。
【0023】
前記湿潤剤の含浸方法は、例えば湿潤剤を直接多孔質体の表面に接触させて圧縮する方法や、湿潤剤水溶液中で多孔質体を圧搾して吸い込ませたのち、乾燥する方法など適当な方法が採用されうる。湿潤剤は、ポリビニルアセタール系多孔質体に対して1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%とする。含有量が1重量%より少ない場合には、多孔質体の表面を均一に被覆することが困難なために、含浸させることによる効果(水と接触させたときの素早いヨウ素の放出)が得難くなり、また50重量%よりも多くしてもそれ以上の効果は少なく、経済的にも不利である。
【0024】
前記湿潤剤の中で特に好ましいのはグリセリン、エチレングリコールおよびポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは分子量200〜350万のものを用いることができ、好ましくは分子量200〜3000である。これらは、ヨウ素とともに放出されて、得られるヨウ素水中に浸出し、傷口の消毒に使用されたとしても安全性の高い物質だからである。このような湿潤剤を用いた場合でも、これを用いない場合とヨウ素の吸着方法自体は大きく変わるところはない。ただ、湿潤剤を用いた場合の方が吸着工程における諸条件、例えば前記容積比や以下に述べる熱履歴などを厳密に管理しなくても、迅速にヨウ素を放出するヨウ素放出材が得られる傾向がある。
【0025】
以上のようにして得られるヨウ素放出材の適量に、界面活性剤および水を加えてフォーマー容器に充填する。本発明で使用する界面活性剤としては前記ヨウ素放出材から遊離するヨウ素と安定な複合体を形成するものが採用され、具体的にはポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アルキルフェノキシポリオキシ−エチレンアルコール等の非イオン性界面活性剤、プロピルアミンオキシドアミドプロピルベタイン等の両性界面活性剤などがある。本発明に特に好ましいのはポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体である。これは例えばBASF社よりプルロニック(登録商標)の名称で、或いは株式会社ADEKAからアデカプルロニックとして市販されている。これらの中でポリオキシエチレンに対してポリオキシプロピレンの割合の高いものは起泡性に劣るので該界面活性剤単独で使用する場合には本発明にとって好ましくない。より具体的には、アデカプルロニックP−85(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=1.25)、アデカプルロニックL−64(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=0.83)、アデカプルロニックF−68(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=5.30)、アデカプルロニックF−108(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=5.55)は単独で好適に使用できるが、アデカプルロニックL−72(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=0.34)、アデカプルロニックL−71(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン=0.14)などは前記界面活性剤との組み合わせによって起泡性を確保しうる限りにおいて使用することができる。界面活性剤の添加量は水に対して0.05〜2重量%が適当であり、好ましくは0.15〜1重量%である。前記量より少ないと泡状にすることが困難で、前記量より多くしても特に起泡性には影響することがなく、過剰量となるからである。
【0026】
前記界面活性剤は、ヨウ素と安定な複合体を形成するので遊離ヨウ素が消毒効果のない単なるヨウ素イオンに還元されることを抑制する。従って、界面活性剤は泡状にするためだけに使用されるのではなく、同時にヨウ素の消毒効果を持続させるのである。また、本発明では、外液のヨウ素濃度が所定の濃度に達するまでヨウ素放出材から継続的にヨウ素を放出するので、市販されているヨウ素水(ポピドンヨード)よりも低濃度でも安定したヨウ素含有消毒組成物が得られる。つまり、市販のヨウ素水は初期のヨウ素濃度よりも下がることはあっても上がることはないのに対して、本発明の消毒組成物では、ヨウ素が供給される構成であるので、仮に溶液中のヨウ素が還元されて消失しても新に遊離ヨウ素が供給され、この状態がバランスを取りつつ維持されるのである。そしてこの所定の濃度は先のヨウ素放出材に吸着されたヨウ素量と、消毒組成物中の該ヨウ素放出材の混合量並びに界面活性剤の添加量などにより調整することができる。
【0027】
本発明では、さらに皮膚保護剤を加えることができる。皮膚保護剤としてはグリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステルなどが使用でき、エモリエント効果を向上させる。これらは単独で或いは2種以上を組み合わせて使用しても良く、その使用量は水に対して0.1〜4重量%、好ましくは0.3〜2重量%である。前記濃度未満では、添加しても目的の効果が得がたくなり、前記濃度以上添加した場合でもエモリエント効果に影響はなく必要量以上となるからである。なお、これらのうち、グリセリンは皮膚に柔軟性を与え、経済的にも有利であるという点で最も好ましいものである。
【0028】
本発明では前記以外の他の添加成分として、増粘剤、緩衝剤、等張化剤などを併用することができる。増粘剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらは皮膚に本発明の泡状消毒組成物を塗布した場合にこすり合わせたりあるいは塗布面積を拡げたりする場合に有効である。その使用量は、0.01〜2重量%である。
【0029】
また、前記緩衝剤は、えられる消毒組成物のpHを皮膚にとって好ましい弱酸性に調整するためのものであり、とくに限定はないが、その代表例としては、たとえばホウ酸とそのナトリウム塩、リン酸とそのナトリウム塩、乳酸とそのナトリウム塩、グリシン、グルタミン酸などのアミノ酸とそのナトリウム塩、などがあげられる。これらは、0.01〜1重量%の範囲で使用され、緩衝効果を付与する。
【0030】
本発明では、前記各成分を適量の水とともにフォーマー容器に充填する。水の量は前記各成分を加えて全体が100%となるように調整される。使用する水は水道水、井戸水、市販の飲料水などの何れを使用することもできる。なお、非常時には河川水を使用しても良い。
【0031】
前記フォーマー容器に充填する際に使用するヨウ素放出剤の量は、ポリビニルアセタール系多孔質体に吸着しているヨウ素の量および消毒組成物としたときの目標とするヨウ素濃度、液量、あるいは消毒組成物準備の緊急性にもよるが、その範囲としては水100mlあたり、吸着したヨウ素量として0.015〜0.20gに相当する量であり、好ましくは0.02〜0.15g、さらに好ましくは0.03〜0.10gである。前記量未満では、消毒に適したヨウ素濃度が得難く、前記より多量の吸着ヨウ素量である場合には、液のヨウ素濃度が過剰となる傾向があるからである。前述の組成比で混合して充填されたフォーマー容器内では、ヨウ素放出剤からヨウ素が放出され30分から1時間程度で消毒に使用可能な濃度に達し、24時間後から2週間以上に渡ってほぼ一定の濃度を維持することができる。
【0032】
本発明に用いる詰め替え可能なフォーマー容器としては、ノズルを押すことにより泡状の消毒組成物を噴出するポンプ式フォーマー、ボトル胴部を手で圧縮することにより泡状に噴出するスクイズ式フォーマーのいずれを用いることもできる。発泡機構としては、多孔質膜を備えたものが好ましく、前記水性消毒組成物が通過する厚さが0.1〜2mm程度で、50〜500メッシュ程度のスポンジ、焼結体、ネットなどの多孔質膜体が、単層あるいは複数層で備えているものが一般的である。この発泡機構を界面活性剤およびヨウ素放出剤から放出されたヨウ素を含む消毒組成物が通過することによって、空気と混合してクリーミーな泡状で、目的とする消毒部位に吐出される。本発明ではこの泡状で吐出することが非常に有効な消毒効果、すなわち均一な塗布量が得られること、消毒部位以外への飛散を防止すること、吐出後に消毒組成物を広い面積へ行き渡らせることが容易であるなどの優れた効果をもたらすのである。
【0033】
(実施例1)
以下に具体的な例を示しつつヨウ素放出剤の製造方法および本発明の消毒組成物についてさらに詳述する。
厚さ4mmのポリビニルアセタールスポンジ(商品名:ベルイーターD(D)G、アイオン(株)製)を10×10mmの大きさに裁断し、この21g(裁断片300個)と、ヨウ素(フレーク状、日本天然ガス(株)製)36gを容量500mlのポリプロピレン製ボトルに入れて混合し、密栓した。ここで固形物:空気の容積比は約40:60であった。これを60℃のオーブン中で時々容器を振盪しながら24時間加熱した。この時外観上固体ヨウ素は消失していた。反応後のポリビニルアセタールスポンジの重量測定からヨウ素吸着量は約170重量%であることが判った。ヨウ素を吸着させたスポンジは手で触れても指が汚れるようなことはなく、取り扱い易い状態であった。
【0034】
得られたスポンジの小片を2等分して、その一つを内容量80mlのポンプ式フォーマー容器(携帯型ポンプフォーマーM1、大和製缶(株)製)に入れた。これに水道水80mlとアデカプルロニックL−64((株)アデカ製)の30重量%水溶液2mlを加え室温で30秒間振盪した。用いたスポンジの小片は0.095gであった。従ってこのスポンジ小片に吸着されたヨウ素は0.060gとなり、水100mlに対しては0.075gとなる。20分後に容器内の液のヨウ素濃度を測定したところ170ppmであった。また液は濃赤色に着色し、ヨウ素と界面活性剤が複合体を形成していることを示した。フォーマー容器のノズルを押すことによってクリーミーな泡状のヨウ素液が吐出された。その後、23日間容器内の液のヨウ素濃度を追跡した結果を図1に示す。液のヨウ素濃度は23日間約270ppmでほぼ一定に保たれていた。
【0035】
(実施例2)
実施例1で2等分したスポンジ小片の他方を内容量100mlのポンプ式フォーマー容器(ハンディポンプフォーマーF5S、大和製缶(株)製)に入れた。ヨウ素量としては水100mlに対して0.060gとなる。これに水道水100mlとアデカプルロニックP−85((株)アデカ製)の0.5gを加え30秒間振盪した。液は濃赤色に着色し、ヨウ素と界面活性剤が複合体を形成していることを示した。フォーマー容器のノズルを押すことによってクリーミーな泡状のヨウ素液が吐出された。20日間容器内の液のヨウ素濃度を測定した結果を図2に示す。液のヨウ素濃度は20日間約200ppmでほぼ一定に保たれていた。
【0036】
(実施例3)および(比較例1)
ポリビニルアセタールスポンジに対するヨウ素吸着量と水中へのヨウ素の経時的放出量の関係を調べた。
実施例1と同様のポリビニルアセタールスポンジを10×10mmに裁断したもの10gと、これに対して夫々20,30,50,75,100,150および180重量%に相当する重さのヨウ素を容量400mlのガラス製バイアルに入れて密栓し混合した。これを60℃のオーブン中で時々容器を振盪しながら20時間加熱した。この時ヨウ素は完全に消失し、各々のポリビニルアセタールスポンジの重量はほぼ添加したヨウ素の重量分増加していた。これらの、ヨウ素を吸着したポリビニルアセタールスポンジの小片各1個を容量100mlのガラス製バイアル瓶に入れ、水道水100mlを入れて密栓した。これを室温に放置し、1日後水中のヨウ素濃度を測定した。濃度測定後外液を捨て、再び水道水100mlを入れて室温で放置し、3日後に水中のヨウ素濃度を測定した。濃度測定後液を捨て新たに水道水を入れ、さらに3日後にヨウ素濃度を測定する操作を繰り返した。下記表1に、液のヨウ素濃度から換算した水中へのヨウ素放出量を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、ヨウ素を吸着したポリビニルアセタールスポンジからの水中へのヨウ素放出は1日目までに多くが放出され、その後は徐々に放出されることがわかる。またヨウ素吸着量が20および30重量%(対ポリマー)の場合は初期の放出が少ない他ヨウ素が徐放される期間も短いことが分かる。
【0039】
(実施例4)
実施例1と同様にして準備した、170重量%(対ポリマー)のヨウ素を吸着したポリビニルアセタールスポンジ2枚(重量0.202gおよび0.205g)を内容量500mlのポンプ式フォーマー容器(据え置き式ポンプフォーマーE3、大和製缶(株)製)に入れた。これはヨウ素量に換算すると0.257gであり、水100mlに対しては0.051gである。これに水道水500mlおよび実施例1と同様のアデカプルロニックL−64((株)アデカ製)の30重量%水溶液5mlを加え、30秒間振盪した。液は濃赤色に着色し、ヨウ素と界面活性剤が複合体を形成していることを示した。フォーマー容器のノズルを押すことによってクリーミーな泡状のヨウ素液が吐出された。20日間容器内の液のヨウ素濃度を測定した結果を図3に示す。液のヨウ素濃度は20日間約175ppm前後に保たれていた。
【0040】
(実施例5)
実施例1と同様のポリビニルアセタールスポンジ小片21g(300個)および実施例1と同様のヨウ素31.5gを実施例1と同様の容器に入れて密栓し、オーブン中で60℃で12時間、次いで70℃で6時間、容器を時々振盪しながら加熱した。重量増加からポリビニルアセタールスポンジに対して150重量%のヨウ素が吸着したことがわかった。このヨウ素を吸着したポリビニルアセタールスポンジ小片1枚を2等分した。この小片1枚を実施例1と同様の携帯用ポンプフォーマー容器に入れ、これに水道水80mlおよびアデカポルロニックL−64を30重量%、およびグリセリン20重量%を含有する水溶液3mlを加え、30秒間振盪した。60分後に液のヨウ素濃度は160ppmであった。用いたヨウ素を吸着したポリビニルアセタールスポンジ小片の重量は0.085gであり、これに吸着しているヨウ素量は0.051g、水100mlに対しては0.064gとなる。フォーマー容器のノズルを押すことによりクリーミーな泡状のヨウ素液が吐出された。この泡状ヨウ素液を用いて両手の手指消毒を行ったところ約125回分の使用が可能であった。これに対し通常の液状供給ポンプの場合は約70回分の消毒操作しか出来なかった。
【0041】
(比較例2)
市販のポピドンヨード液(外用消毒剤イソジン液、明治製菓(株)製)を水で希釈し、ヨウ素濃度160ppmの液を調製した。この80mlを実施例1と同様の携帯用ポンプフォーマー容器に入れ、室温で放置し、経時的に液のヨウ素濃度を測定した。その結果を図4に示した。ヨウ素濃度は経時的に低下し、携帯用ポンプフォーマー容器中では安定性が不十分であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、家庭内などで簡単に調製できる泡状のヨウ素含有消毒液を供給することができる。特に密閉容器内で加熱してヨウ素を吸着させたポリビニルアセタール系多孔質体と、ヨウ素と安定な複合体を形成する界面活性剤と、水とをフォーマー容器に充填して、消毒液として有用な泡状のヨウ素消毒液を吐出させて使用するタイプの水性消毒組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】容器内消毒液のヨウ素濃度の経時変化を示すグラフである。(実施例1)
【図2】他の実施例による容器内消毒液のヨウ素濃度の経時変化を示すグラフである。(実施例2)
【図3】他の実施例による容器内消毒液のヨウ素濃度の経時変化を示すグラフである。(実施例3)
【図4】比較例による容器内消毒液のヨウ素濃度の経時変化を示すグラフである。(比較例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)密閉容器内で30〜100℃で加熱して、アセタール化度50〜90モル%のポリビニルアセタール系多孔質体に対して40〜400重量%の固体ヨウ素を吸着せしめたヨウ素放出材と、
(b)前記ヨウ素放出材から遊離するヨウ素と安定な複合体を形成する界面活性剤と、
(c)水を
必須成分として含有する消毒組成物を、詰め替え可能なフォーマー容器に充填したことを特徴とする水性消毒組成物。
【請求項2】
前記ヨウ素放出材中のヨウ素が水100mlに対して0.015〜0.20gであり、前記界面活性剤が水100mlに対して0.05〜2gの割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の水性消毒組成物。
【請求項3】
さらに、皮膚保護剤を水100mlに対して0.1〜4g含有することを特徴とする請求項1または2に記載の水性消毒組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179572(P2009−179572A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18372(P2008−18372)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000222473)株式会社トーメー (20)
【Fターム(参考)】