説明

水性組成物、飲料、及び化粧料

【課題】リン脂質を含有する水性組成物において、分散系をより安定に保つことができる技術を提供する。
【解決手段】リン脂質を除く脂質の含有量が0.5重量%以下であり、リン脂質、キトサン、及び有機酸を含有する水性組成物により、前記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用又は化粧料用の水性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質は大豆や卵黄など天然の動植物中に存在し、そのほとんどが安全性の高いものである。ヒトの生体内においては、細胞膜の構成要素として、また、情報伝達系や膜蛋白質の活性調節など種々の生命活動の調節に必要な生体因子として、機能している。このため、生体内成分や生体内で役割を担っている物質を食餌的に補給するという観点で、リン脂質を、食餌療法や医学的な治療に用いることは古くから関心が深かった。近年では、リン脂質に、脳低下機能の予防といった生理機能も認められるなど、種々の用途への展開が期待される(非特許文献1、2)。
【0003】
さらに、リン脂質は保湿性を有すること、外用剤に配合すると経皮吸収を促進することも知られている。
【0004】
そのため、リン脂質は、飲食料等の種々の製品への適用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】栄養学雑誌、VOL.52、No.2、P.43〜54、1994年、柳田晃良 “リン脂質代謝と栄養”
【非特許文献2】FOOD RESEARCH 2008年4月号 P.34〜38 矢澤一良 “ブレインフードとしてのホスファチジルセリンの有用性”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リン脂質は一般的に水に不溶の物質なので、水中に分散させると、保存中にリン脂質の沈殿が生じやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の技術の問題点に鑑み、分散系の安定性に優れた水性組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン脂質、キトサン、及び有機酸を含有することにより、水性組成物での分散系を安定に保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(9)等を提供する。
【0010】
(1)
リン脂質、キトサン、有機酸、及び水を含有し、
前記リン脂質以外の脂質の含有量が0.5重量%未満であり、
前記水の含有量が70重量%以上である飲料用又は化粧料用水性組成物。
【0011】
(2)
有機酸は、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、リン酸、イタコン酸、α-ケトグルタル酸、グルコノデルタラクトン、及びアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1の化合物である前記(1)に記載の水性組成物。
【0012】
(3)
有機酸の含有量が、0.05重量%以上である前記(1)又は(2)に記載の水性組成物。
【0013】
(4)
リン脂質の含有量が、0.005重量%以上5重量%以下である前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水性組成物。
【0014】
(5)
キトサンの含有量が、0.01重量%以上10重量%以下である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の水性組成物。
【0015】
(6)
リン脂質/キトサンの重量比が、0.05以上50以下である前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の水性組成物。
【0016】
(7)
有機酸/キトサンの重量比が、0.02以上である前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の水性組成物。
【0017】
(8)
前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の水性組成物を含有する飲料。
【0018】
(9)
前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の水性組成物を含有する化粧料。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リン脂質を含有する分散系を安定に保つことができ、飲料や化粧料等の用途に好適な水性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔1〕水性組成物
本発明の水性組成物は、リン脂質、キトサン、有機酸、及び水を含有する。
【0021】
水の含有量は、70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0022】
リン脂質としては、具体的にはグリセロリン脂質が好適に用いられる。グリセロリン脂質には、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリン等が含まれるが、本発明の水性組成物には、リン脂質として、これらの化合物を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
リン脂質として、レシチンを用いてもよい。レシチンとは、複数種類のグリセロリン脂質の混合物、特にホスファチジルコリンを主成分とするグリセロリン脂質の混合物であり、鶏卵又は大豆等を原料として製造されたレシチンが広く市販されている。このような製品として、辻製油株式会社製のSLPホワイト(商品名)、日清オイリオ株式会社製の大豆レシチン(商品名)、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOL レシノール(商品名)、日本シイベルヘグナー社製のメタリンP(商品名)、及び、日清オイリオ株式会社製のベイシス(商品名)等が挙げられる。これらのレシチン中に含まれるリン脂質の量は、辻製油株式会社製のSLP‐ホワイトリゾ(商品名)で92%以上、日光ケミカルズ株式会社製のレシノールS‐10E(商品名)で75〜85%、日清オイリオ株式会社のベイシスLP‐20(商品名)で20〜30%、日本シイベルヘグナー社製のメタリンPで53〜70%、日清オイリオ株式会社のベイシスLP‐20H(商品名)で91%以上などが例示される。
【0024】
なお、以上に述べたリン脂質の一部又は全部は、リゾリン脂質(レシチン分解物を含む)であってもよい。また、リン脂質の一部又は全部は、水素添加による酸化安定化等のさらなる処理を行ったもの(水素添加レシチンなど)であってもよい。
【0025】
本願発明の水性組成物におけるリン脂質の含有量は、好ましくは0.005重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上0.5重量%以下である。特に、水性組成物を飲料として使用する場合、リン脂質の含有量は好ましくは0.1重量%以下である。
【0026】
キトサンとは、キチン(β−1,4−ポリ−N−アセチルグルコサミン)の脱アセチル化物であり、β−1,4−ポリグルコサミン構造を主とする多糖類である。
【0027】
キトサンは、当該分野で公知の任意の方法により調製され得る。たとえば、キトサンは、カニ、エビ、オキアミなどの甲殻類の甲皮や、カブトムシ、バッタなどの昆虫類の甲皮などの原材料を脱カルシウム処理し、除タンパク処理をして得られるキチンを、アルカリ処理(例えば、苛性ソーダ処理)で脱アセチル化することなどによって得ることができる。また、キトサンの原材料としては、上述の甲皮等に代えて、キノコ類、微生物、イカの中骨等を用いてもよい。
【0028】
キトサンとしては、種々の分子量のものが知られている。本発明の水性組成物において、キトサンの分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1000〜200000の範囲にあることが好ましく、10000〜100000の範囲にあることがより好ましい。重量平均分子量は、「重量平均絶対分子量」と言い換えてもよい。
キトサンの重量平均分子量をこの範囲とすることによって、水性組成物の粘度を、飲料や化粧料への利用に適した範囲に調製しやすいという利点がある。
【0029】
キトサンの重量平均分子量は、当該分野で公知の任意の方法で測定することができる。例えば、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー−多角度レーザー光散乱分析法(GPC−MALS法)、蒸気圧式絶対分子量測定、メンブレン式絶対分子量測定などの方法によって測定可能である。キトサンの重量平均分子量は、少なくとも、いずれかの測定方法及び測定条件において前記数値範囲内に含まれればよく、全ての測定方法及び測定条件下で前記数値範囲内に含まれる必要はない。
【0030】
本発明の水性組成物に含まれるキトサンにおいて、キチンからの脱アセチル化の程度は、好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0031】
キトサンの含有量は、好ましくは0.01重量%以上10.0重量%以下、好ましくは、0.2重量%以上0.5重量%以下、更に好ましくは、0.04重量%以上0.2重量%以下である。
【0032】
有機酸としては、生理的または薬学的に許容される種々の有機酸が使用できる。有機酸として、好ましくは、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、リン酸、及びアスコルビン酸、特に好ましくは、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、及び、アスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1の化合物が用いられる。
【0033】
有機酸の含有量は、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.2重量%以上、さらに好ましくは0.4重量%以上である。また、有機酸の含有量の上限は、好ましくは2重量%以下であり、より好ましくは1.5重量%以下であり、さらに好ましくは1.0重量%以下である。
【0034】
また、水性組成物において、リン脂質/キトサンの重量比は、好ましくは0.05以上50以下であり、より好ましくは0.05以上10以下であり、さらに好ましくは0.14以上2.5以下である。
【0035】
さらに、水性組成物において、有機酸/キトサンの重量比は、好ましくは0.005以上10以下であり、より好ましくは0.02以上10以下であり、より好ましくは0.5以上7以下であり、さらに好ましくは2以上5以下である。
【0036】
本発明の水性組成物において、リン脂質を除く脂質の含有量は、0.5重量%以下であり、好ましくは0.3重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以下である。
【0037】
また、水性組成物において、リン脂質を除く脂質/水の重量比は、好ましくは0.007以下であり、より好ましくは0.006以下であり、さらに好ましくは0.005以下である。
【0038】
脂質とは、水に不溶であって、ベンゼン、エーテル、又はクロロホルム等の有機溶媒に可溶な物質である。リン脂質を除く脂質として、アシルグリセロール等の単純脂質、リン脂質を除く複合脂質(糖脂質等)、コレステロール等の誘導脂質、遊離脂肪酸等が挙げられる。
【0039】
言い換えると、本発明の水性組成物は、リン脂質以外の脂質を上述の範囲で含んでもよい。このような脂質は、25℃で液体であることが好ましい。例えば、水性組成物は、その用途に応じて、ビタミンA、E、D、及びK等の脂溶性ビタミンなどの生理活性物質を含有してもよい。
【0040】
本発明の水性組成物は、用途に応じてさらなる成分を含んでいてもよい。さらなる成分としては、ビタミン類、無機塩類、アミノ酸、酸化防止剤、香料、色素類、甘味料、調味料、乳化剤、保存料、pH調整剤、安定剤、増粘剤等が挙げられる。
【0041】
水性組成物の粘度は、その使用に適した範囲で適宜設定されるが、飲料又は化粧料としての使用に特に適した範囲は0.1Pa・s以下である。なお、「粘度」とは、25℃において、第15改正 日本薬局方 一般試験法 2.53 粘度測定法 第二法 回転粘度計法 (3)円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート型)に沿って測定されたものである。
【0042】
言い換えると、本発明の水性組成物は、25℃において、全体として液体であることが好ましい。「液体」は、全体が均一であって、固体を含まない状態であってもよいし、水に不溶の成分が、水中に分散した状態で含まれている状態であってもよい。水に不溶の成分を含む「液体」としては、例えば全体がピューレ状のものが挙げられる。
【0043】
飲料として用いられる場合の水性組成物の25℃におけるpHは、好ましくは2以上7以下であり、より好ましくは2以上4以下である。また、化粧料として用いられる場合の水性組成物のpHは、好ましくは4以上7以下であり、より好ましくは5以上7以下である。
【0044】
本発明の水性組成物は、リン脂質、キトサン、及び有機酸の含有量が上述のように設定されていることによって、分散系が安定な状態となっている。
【0045】
また、本発明の水性組成物は、キトサンを含有するが、キトサンのエグ味がリン脂質によって低減されるために、飲料として非常に適している。
【0046】
なお、本明細書において、特に断らない限り、「重量%」は水性組成物全体に占める割合を示し、重量濃度(W/W%)のことである。
【0047】
〔2〕水性組成物の製造方法
本発明の水性組成物の製造方法としては、従来の飲料用組成物や化粧料用組成物の製造に用いられてきた方法を好適に用いることができるが、例えば以下のような方法で製造される。
【0048】
本製造方法は、水、リン脂質、キトサン、及び有機酸を混合する混合工程を含む。
【0049】
混合工程に用いられる水は、純水に限られず、イオン交換水等、生体への適用が可能な水であればよい。なお、果実若しくは野菜等のジュース又はピューレなども、水を含有する液体であるため、混合工程に用いることができる。
【0050】
混合工程における各成分の添加順序は特に限定されるものではないが、例えば、混合工程は、水、キトサン、及び有機酸を混合してキトサンを溶解させる工程と、こうして得られたキトサン水溶液にリン脂質を加えて混合する工程と、を含んでもよい。
【0051】
各成分の混合時の撹拌速度、撹拌時間、撹拌時の温度条件等は、特に限定されるものではない。
【0052】
また、リン脂質、キトサン、及び有機酸以外の各種の成分の添加のタイミングや混合方法は、特に限定されるものではなく、各成分の特性に合わせて、適宜設定すればよい。
【0053】
水、リン脂質、キトサン、及び有機酸等の各成分の配合量については、前記〔1〕で「含有量」として述べた数値が適用される。
【0054】
また、本製造方法は、混合工程の他に、ろ過工程、加熱工程、及び殺菌工程等の他の工程をさらに含んでもよい。
【0055】
本製造方法において、各成分の配合量は、水性組成物における前記〔1〕欄で説明した各成分の「含有量」と同一とすることができる。
【0056】
〔3〕水性組成物の利用
前記〔1〕欄で述べた水性組成物は、飲料又は化粧料の製造に利用可能である。
【0057】
飲料及び化粧料は、水性組成物を含んでいればよく、水性組成物そのものをそのまま飲料又は化粧料として用いることもできるし、その他の成分を含有していてもよい。
【0058】
飲料は、25℃において全体として液体であってもよいし、果肉片、野菜片、寒天片、ゼリー片等の可食の固形物を含有してもよい。例えば、飲料は、上述の水性組成物中にこれらの固形物が混合されたものであってもよい。
【0059】
また、化粧料は、例えば化粧水、乳液、ジェル等、25℃において全体として液体であってもよいし、これらを浸み込ませたシート状の化粧料等、固形物(シート等)を含んでいてもよい。
【0060】
本願発明の水性組成物は、リン脂質とキトサンを含有するため、飲料として用いる場合には、高コレステロール血症、動脈硬化、肥満などを予防するため、またはこれらの症状を緩和するのによい。化粧料として用いる場合には、経皮吸収性や保湿効果が高く、しわ、肌荒れ、敏感肌などの症状を予防するため、またはこれらの症状を緩和するのによい。
【実施例】
【0061】
〔A〕水性組成物
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の一例であり、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0062】
<A−1.第1試験群>
[水性組成物の調製]
(実施例1〜3)
実施例1の水性組成物を、以下の操作により得た。
【0063】
ガラスビーカーに、60gの蒸留水を入れ、撹拌しながらキトサン(重量平均分子量約5万、脱アセチル化度約80%以上)0.2gを加えた。さらに撹拌しながら、クエン酸0.8gを加え、次いで卵レシチン(和光純薬工業(株)社製、カタログNo.126−00812)0.1gを加えた。その後、蒸留水により全体を100gとした。マグネチックスターラーでさらに30分間撹拌して、水性組成物を得た。
【0064】
以上の操作において、撹拌にはマグネチックスターラーを用いた。
【0065】
こうして得られた水性組成物を、実施例1の組成物として後述の評価に供した。
【0066】
また、実施例2及び3の水性組成物を、有機酸としてクエン酸に代えて、それぞれ50重量%グルコン酸水溶液及びリンゴ酸を用いると共に、それぞれの配合量を1.0g(グルコン酸自体の添加量は0.5g)及び0.9gとした以外、実施例1と同様の操作により得た。なお、有機酸の配合量は、キトサンが溶解する量とした。
【0067】
なお、全ての実施例及び比較例において、使用したキトサンは、重量平均絶対分子量が約5万、脱アセチル化度が80%以上であった。
【0068】
(比較例1)
キトサン及び有機酸を配合しない以外、実施例1と同様の操作により、比較例1の水性組成物を得た。
【0069】
(比較例2)
有機酸を配合しない以外、実施例1と同様の操作により、比較例2の水性組成物を得た。
【0070】
(比較例3〜5)
キトサンを配合しない以外、実施例1と同様の操作により、比較例3〜5の水性組成物を得た。
【0071】
[評価]
ガラス容器に充填、密栓した各水性組成物を、40℃75%RHにて保存し、沈殿の有無を目視により確認した。
【0072】
評価は、製造直後、製造から3日後(約72時間経過時)、及び7日後(約168時間経過時)の組成物について、目視で性状を観察した沈殿量が微量であれば“+”、沈殿量が少量であれば“++”、沈殿量がやや多量であれば“+++”、沈殿量が多量であれば“++++”として評価した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

[結果]
実施例1〜3の水性組成物はすべて、製造直後は、白色の均一な懸濁液であった。特に実施例1では、製造直後から7日後まで沈殿は見られなかった。実施例2及び実施例3では、製造直後から3日後までは沈殿は見られず、7日後には、微量の沈殿物がガラス容器の底に堆積しているのが認められた。
【0074】
比較例3〜5では、比較例1とほぼ同様の結果が得られ、製造直後には沈殿は見られなかったものの、3日後には微量の沈殿物が認められ、7日後には沈殿量が増加した。
【0075】
比較例2では、キトサンが溶解せずに沈殿していると共に、卵レシチンに由来する多量の沈殿物が見られた。
【0076】
<A−2.第2試験群>
[水性組成物の調製]
(実施例4〜6)
実施例4〜6の水性組成物を、卵レシチンに代えて、水素添加大豆レシチンa(商品名:ベイシスLP−20H、日清オイリオ社製、リン脂質93%含有)、水素添加大豆レシチンb(商品名:レシノールS−10E、日光ケミカルズ社製、リン脂質82%含有)、及びリゾレシチン(商品名:SLP−ホワイトリゾ、辻製油株式会社製、リン脂質97%含有)をそれぞれ0.1部用いる以外、実施例1と同様の操作により得た。
【0077】
(比較例6〜8)
比較例6〜8の水性組成物を、キトサンを配合しない以外、実施例4〜6と同様の操作により得た。
【0078】
[評価]
第1試験群と同様に、目視により沈殿の有無を評価した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

[結果]
実施例4〜6では、製造直後には、水性組成物として白色の均一な懸濁液が得られた。
【0080】
実施例4と比較例6、実施例5と比較例7、実施例6と比較例8とをそれぞれ比較すると、リン脂質とクエン酸だけを配合するよりも、キトサンをさらに配合した方が、沈殿の量が少なく分散系が安定であった。
【0081】
また、実施例4〜6は、上述の第1実施例とほぼ同様の結果を示し、リン脂質の種類が異なっても、キトサン及び有機酸を配合することにより、安定な分散系が形成された。つまり、いずれのリン脂質でも、キトサン及び有機酸を配合することにより、分散系が安定化された。
【0082】
<A−3.第3試験群>
[水性組成物の調製]
(実施例7)
卵レシチンに代えて、大豆レシチン(商品名:メタリンP、日本シイベルヘグナー社製、リン脂質65.6%含有)を用いた以外、実施例1と同様の操作によって実施例7の水性組成物を得た。
【0083】
(実施例8〜16)
クエン酸に代えて、グルコン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、リン酸、及び酢酸をそれぞれ用いた以外、実施例7と同様の操作によって実施例8〜16の水性組成物を得た。各有機酸の配合量は表3に示す通りとした。
【0084】
(比較例9)
大豆レシチン及び有機酸を配合しない以外、実施例7と同様の操作により、比較例9の水性組成物を得た。
【0085】
(比較例10)
有機酸を添加しない以外は、実施例7と同様の操作により、比較例10の水性組成物を得た。
【0086】
[評価]
実施例7〜16並びに比較例9〜10の水性組成物について、以下の試験を行った。
【0087】
(pH測定)
製造直後の水性組成物について、室温においてpHメーターによりpHを測定した。結果を表3に示す。
【0088】
(粘度測定)
製造直後の水性組成物について、25℃において、東機産業社製のデジタル粘度計DVM−Eを用いて測定した。結果を表3に示す。
【0089】
(沈殿の有無)
第1試験群と同様に、製造直後及び3日後の各水性組成物について、目視により沈殿の有無を評価した。結果を表3に示す。
【0090】
(刺激臭評価)
製造直後の水性組成物について、官能検査を行い、刺激臭の有無を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

[結果]
実施例7〜16でも、実施例1〜3と同様に、製造直後は、水性組成物として白色の均一な懸濁液が得られ、3日後まで沈殿は見られなかった。
【0092】
比較例9では、製造直後からキトサンが溶けずに沈殿していた。比較例10では、キトサンの配合量が比較例9と同一であるにもかかわらず、製造直後から比較例10よりも沈殿量が多いという結果になった。
【0093】
刺激臭の評価では、実施例7〜15並びに比較例9及び10は刺激臭がなかったが、実施例16では、酢酸による鼻を刺すような刺激臭があった。
【0094】
以上のように、いずれの有機酸でも、キトサンと共に配合することにより、リン脂質の分散が安定化された。
【0095】
〔B〕飲料
表4及び5に示す材料を混合することによって、飲料(実施例17〜37)を得た。混合にはマグネチックスターラーを用い、蒸留水60gに、撹拌しながらキトサン、有機酸、リン脂質、その他甘味料等の材料を加えて、蒸留水により総量を100gに調整した。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

〔C〕化粧料
表6に示す材料を混合することによって、化粧料(実施例38〜47)を得た。混合にはマグネチックスターラーを用い、蒸留水60gに、撹拌しながらキトサン、有機酸、リン脂質、その他の材料を加えて、蒸留水により総量を100gに調整した。
【0098】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の水性組成物は、良好な保存安定性を示し、飲料又は化粧料に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質、キトサン、有機酸、及び水を含有し、
前記リン脂質以外の脂質の含有量が0.5重量%未満であり、
前記水の含有量が70重量%以上である飲料用又は化粧料用の水性組成物。
【請求項2】
有機酸は、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、リン酸、イタコン酸、α-ケトグルタル酸、グルコノデルタラクトン、及びアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1の化合物である
請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
有機酸の含有量が、0.05重量%以上である
請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
リン脂質の含有量が、0.005重量%以上5重量%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項5】
キトサンの含有量が、0.01重量%以上10重量%以下である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項6】
リン脂質/キトサンの重量比が、0.05以上50以下である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項7】
有機酸/キトサンの重量比が、0.02以上である
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性組成物を含有する飲料。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性組成物を含有する化粧料。

【公開番号】特開2010−227082(P2010−227082A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88825(P2009−88825)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】