説明

水性1液型塗料及び複層塗膜形成方法

【課題】硬化性、塗膜硬度、耐酸性、耐擦り傷性等の塗膜性能、塗面平滑性及び水分散安定性等に優れる水性1液型塗料を提供すること。
【解決手段】特定の長鎖の1級水酸基を架橋官能基として有する溶解性パラメータ値が9.30〜11.20のアクリル樹脂及び、溶解性パラメータ値が9.00〜11.50のブロック化ポリイソシアネート化合物を含有し、アクリル樹脂の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物の溶解性パラメータ値(SP2)との差ΔSP(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が、−0.80〜1.50であることを特徴とする水性1液型塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性、塗膜性能、塗面平滑性及び水分散安定性等に優れる水性1液型塗料及び該水性1液型塗料を用いた複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模で環境問題に大きな関心が寄せられているが、自動車産業においても製造工程における環境問題対策に向けての取り組みが積極的に進められている。自動車の製造工程からは、地球温暖化、産業廃棄物、揮発性有機化合物(VOC)の排出などの問題が発生し、特にVOCについては、そのほとんどが塗装工程から発生するものであり、この対策が急務となってきている。
【0003】
自動車車体の外板部は、防食及び美感の付与を目的として、通常、カチオン電着塗料による下塗り塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜からなる複層塗膜により被覆されているが、
VOC削減の観点から、中塗り塗料及び上塗り塗料においても水性化が進められている。 例えば上塗り塗料におけるクリヤ塗料としては、塗膜性能及び塗面平滑性等の観点から、ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする水性2液型クリヤ塗料組成物が検討され、例えば、特定のポリオール成分中に乳化の形でポリイソシアネート成分が存在することを特徴とする2成分系塗料用組成物(例えば、特許文献1)が開示されているが、2液型塗料であるため、架橋剤であるポリイソシアネート化合物を塗料の使用直前に混合する必要があり、装置及び使用上の制約の問題がある。また、該塗料により得られる塗膜は耐侯性等の塗膜性能が不十分である等の問題もあった。
【0004】
ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする1液型塗料においては、ブロック化ポリイソ
シアネート化合物が使用されている。ブロック化ポリイソシアネート化合物は、一般に疎
水性であるため、水性塗料中での分散安定性が不十分となる問題があり、塗料中に均一に
分散させることが難しく、例えば、特許文献2には、特定のウレタン基を含むポリオール
により水分散することも試みられているが、安定な分散安定性を得るためには多量のポリ
ウレタン樹脂を必要とするため、十分な硬化性が得られず、塗膜の物性が不十分であると
いう問題がある。また、特定ブロック剤を用いた水分散性のブロック化ポリイソシアネー
ト化合物も開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、該ブロックイソシア
ネート化合物は、水分散基の導入にあたり、該化合物のイソシアネート基との反応を利用
するため、イソシアネート基の濃度が減少して硬化性が低下し、また、該化合物が高極性
となるため、基体樹脂との相溶性が低下して仕上がり性が低下するという問題点があった。
【0005】
また、ブロック化ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする水性1液型塗料は、ブロッ
ク剤の脱離後に硬化反応が開始するので、ブロック剤の脱離が不十分であると十分な硬化
性が得られず、塗膜性能が不十分となるという問題もあった。さらには、ブロック剤の脱
離・揮散が起こりやすい塗膜表層の反応が進行しやすく、付着性に関与する塗膜表面の官
能基濃度が低下することにより、硬化塗膜の上層に更に塗料を塗装した場合、該上層塗膜
との付着性が不十分となりやすいといった問題もあった。
【0006】
【特許文献1】特公平8−32851号公報
【特許文献2】特表2004−515571号公報
【特許文献3】特表平11−512772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、硬化性、塗膜硬度、耐酸性、耐擦り傷性等の塗膜性能、塗面平滑性及び水分散安定性等に優れる水性1液型塗料及び該水性1液型塗料を用いた複層塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水性1液型塗料における基体樹脂及び疎水性のブロック化ポリイソシアネート化合物と、硬化性、付着性、塗面平滑性及び水分散安定性等との関係につき、鋭意検討を重ねた結果、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシアルキル基、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基等の長鎖の水酸基を架橋官能基として有する特定の溶解性パラメータ値範囲のアクリル樹脂及び、特定の溶解性パラメータ値範囲のブロック化ポリイソシアネート化合物を含有し、アクリル樹脂の溶解性パラメータ値とブロック化ポリイソシアネート化合物の溶解性パラメータ値との差の値が、特定範囲であることを特徴とする水性1液型塗料によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)(a)下記式(I)で表わされる少なくとも1種の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル 20〜60質量%、
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素原子数4以上の1級ヒドロキシアルキル基、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基又は下記式(II)で表わされる有機置換基を表わす。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、lは2〜5の整数、kは1〜7の整数をそれぞれ表す。)
(b)少なくとも1種のカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を含有するビニル系単量体 0.7〜15質量%、及び(c)少なくとも1種の共重合可能な他のビニル系単量体 25〜79.3質量%を共重合して得られる、水酸基価が110〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)と、
(2)少なくとも1種のブロック化ポリイソシアネート化合物(B)を含有する塗料であって、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)が9.30〜11.20、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)が9.00〜11.50であり、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差ΔSP(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が、−0.80〜1.50であることを特徴とする水性1液型塗料を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、被塗物に少なくとも1層のベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する方法であって、最上層のトップクリヤコート塗料として上記の水性1液型塗料を塗装することを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、被塗物に、熱硬化性水性塗料組成物をベースコート塗料として塗装し、その未硬化の塗面上に上記の水性1液型塗料をクリヤコート塗料として塗装してベースコート及びクリヤコートを同時に硬化させることを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性1液型塗料は、基体樹脂であるアクリル樹脂の溶解性パラメータ値(SP1)および架橋剤であるブロック化ポリイソシアネート化合物の溶解性パラメータ値(SP2)が特定範囲であり且つ、各々の溶解性パラメータ値の差(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が、−0.80〜1.50の範囲の小さい値であることから、相溶性が良好であり、通常のブロック化ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする水性1液型塗料に比べ、ブロック化ポリイソシアネート化合物を水性塗料中に安定に分散させることができるので水分散安定性に優れ、さらに塗面平滑性にも優れている。
【0017】
さらには、基体樹脂であるアクリル樹脂が、架橋官能基として、炭素原子数4以上の1
級ヒドロキシアルキル基、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基等の長鎖の水酸基を一定量以上有する樹脂であるので、十分な硬化性が得られ、また、ブロック化ポリイソシアネート化合物の溶解性パラメータ値が特定範囲であることから、塗膜硬度、耐酸性等の塗膜性能にも優れた塗膜を得ることができ、さらには、付着性に関与する塗膜表面の残存水酸基の反応性も高くなるため、該硬化塗膜の上層に更に塗料を塗装した場合、該上層塗膜との付着性(リコート付着性)も良好となるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の水性1液型塗料(以下、「本塗料」ということがある。)及び複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
【0019】
水性1液型塗料
本発明の水性1液型塗料は、基体樹脂として、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシアルキル基、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基等の長鎖の水酸基を架橋官能基として有する特定の溶解性パラメータ値範囲のアクリル樹脂(A)、及び架橋剤として、特定の溶解性パラメータ値範囲のブロック化ポリイソシアネート化合物(B)を含有し、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差の値が、特定範囲であることを特徴とする塗料である。
アクリル樹脂(A)
本塗料で用いるアクリル樹脂(A)は、特定の1級水酸基を架橋官能基として有するアクリル樹脂であり、前記(a)、(b)、(c)の各モノマーを共重合させて得られる。
【0020】
これらのうち、(a)の一般式(I)で表わされる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの例としては、具体的には、Rが、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシアルキル基のものとしては、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、1−メチル−4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1−メチル−5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、7−ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、9−ヒドロキシノニル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。Rが、1級ヒドロキシアルキル基の場合、炭素原子数は、4〜12、特に、4〜10であるのが好ましい。
【0021】
これらのうち、硬化性及びアクリル樹脂のガラス転移温度の観点から4−ヒドロキシブ
チル(メタ)アクリレートを好ましいものとしてあげることができる。
【0022】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。
【0023】
が、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基のものとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートへのポリアルキレンオキシド付加物等をあげることができる。Rが、1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基の場合、炭素原子数は、4〜14、特に、4〜10であるのが好ましい。
【0024】
上記において、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等をあげることができる。ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリエチレンオキシドとポリブチレンオキシドの共重合化合物、ポリプロピレンオキシドとポリエチレンオキシドの共重合化合物等をあげることができる。具体的には、日本油脂社製のブレンマーPE−90、PE−200、55PET−400などをあげることができる。
【0025】
が、一般式(II)で表わされるものとしては、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートもしくは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートへのε−カプロラクトンまたはγ−ブチロラクトンの付加物等をあげることができる。より具体的には、ダイセル化学社製のプラクセルFM1、プラクセルFM2、プラクセルFA2、プラクセルFM6等のプラクセルシリーズモノマーをあげることができる。
【0026】
上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)は、単独で、又は2種以上を使用することができる。
【0027】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の使用量は、(a)、(b)、(c)各モノマー成分の合計質量に基き、20〜60質量%、好ましくは25〜55質量%、さらに好ましくは25〜45質量%である。
【0028】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の使用量が、20質量%未満であると、硬化性が不十分となり、塗膜硬度等の塗膜性能が不十分となったり、リコート付着性が低化する場合があり、60質量%を超えると塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0029】
アクリル樹脂(A)において、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)の使用量20〜60質量%は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)に基く水酸基価で、概ね80〜200mgKOH/gに相当する。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)に基く水酸基価は、80〜200mgKOH/g、特に90〜180mgKOH/g、さらに特に110〜180mgKOH/gであるのが好ましい。
【0030】
アクリル樹脂(A)の製造に用いる第2の成分である、カルボキシル基、スルホン酸基又は、リン酸基を含有するビニル系単量体(b)は、1分子中に1個以上、好ましくは1〜12個、さらに好ましくは1〜8個のカルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基を含む単量体である。
【0031】
カルボキシル基を含む単量体としては例えば、(メタ)アクリル酸、フマール酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、マレイン酸及び無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、マレイン酸モノオクチルエステルなどをあげることができる。
【0032】
スルホン酸基を含む単量体としては例えば、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0033】
リン酸基を含む単量体としては例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクロイルオキシエチルフェニルリン酸等の酸性リン酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。具体的商品名としては、日本化薬社製のカヤマーPM21、共栄油脂社製のライトエステルPMなどをあげることができる。
【0034】
上記ビニル系単量体(b)は、単独で、又は2種以上を使用することができる。
【0035】
これらの置換基を有するビニル系単量体(b)の使用量は、(a)、(b)、(c)各モノマー成分の合計質量に基き、0.7〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは2〜6質量%である。
【0036】
ビニル系単量体(b)の使用量が、0.7質量%未満であると、アクリル樹脂(A)の水分散安定性及び塗料の硬化性が不十分となる場合があり、15質量%を超えると塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0037】
また、アクリル樹脂(A)において、ビニル単量体(b)の使用量0.7〜15質量%は、アクリル樹脂(A)の酸価で、概ね5〜50mgKOH/gに相当する。アクリル樹脂(A)の酸価は、5〜50mgKOH/g、特に10〜40mgKOH/g、さらに特に20〜35mgKOH/gであるのが好ましい。
【0038】
アクリル樹脂(A)において、カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基は主として、樹脂に水分散性を付与し、又、アクリル樹脂(A)が、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)と架橋反応する時の内部触媒としても作用する。
【0039】
アクリル樹脂(A)の製造に用いる共重合可能な他のビニル系単量体(c)の具体例を以下、(1)〜(9)に列挙する。
【0040】
(1)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の水酸基含有モノマー:該モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0041】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の水酸基含有モノマーを使用する場合、その使用量は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)と併せて、アクリル樹脂(A)の水酸基価が、110〜200mgKOH/g、好ましくは120〜180mgKOH/g、より好ましくは130〜170mgKOH/gとなる量とすることができる。
【0042】
(2)アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1〜20、特に1〜12の1価アルコールとのモノエステル化物:例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等。
【0043】
(3)スチレン誘導体:例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。
【0044】
(4)エポキシ基含有モノマー:1分子中にグリシジル基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物で、具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル、メタグリシジル(メタ)アクリル酸エステル等。
【0045】
(5)重合性不飽和アミド類:例えば、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等。
【0046】
(6)塩基性モノマー:ジメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸等。
【0047】
(7)その他のビニル化合物:例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、バーサティック酸ビニルエステル等。バーサティック酸ビニルエステルとしては、市販品である「ベオバ9」、「ベオバ10」(以上、商品名、ジャパンエポキシレジン社製)等をあげることができる。
【0048】
(8)重合性不飽和ニトリル類:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
【0049】
(9)ポリオキシアルキレン基を含む単量体((a)成分に含まれるものを除く):例えば、分子側鎖末端がメトキシ基であるポリオキシエチレン基を有する(メタ)アクリレート等などをあげることができる。具体的な商品名としては、日本油脂社製のブレンマーPME−400、ブレンマーPME−4000などをあげることができる。
【0050】
上記のような分子側鎖末端がメトキシ基であるポリオキシアルキレン基を含む単量体は、例えば、アクリル樹脂(A)が低酸価((b)成分の含有量が少ない)である場合において、該樹脂の水分散安定性を向上させるために使用することができる。
【0051】
共重合可能な他のビニル系単量体(c)は、1種又は2種以上を用いることができる。
アクリル樹脂(A)の水酸基価は、硬化性及び塗膜の耐水性、平滑性等の観点から、110〜200mgKOH/g程度、好ましくは120〜180mgKOH/g程度、さらに好ましくは130〜170mgKOH/g程度である。
【0052】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、耐酸性等の塗膜性能及び塗面平滑性等の観点から、2000〜30000程度、好ましくは3000〜17000程度、さらに好ましくは4000〜15000程度である。
【0053】
本明細書において、アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。
【0054】
後記製造例等における測定においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0055】
アクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、塗膜硬度及び塗面平滑性等の観点から、通常、−30℃〜40℃程度が好ましく、−20℃〜30℃程度であるのがより好ましい。
本明細書において、ガラス転移温度はDSC(示差走査型熱量計)でJISK7121(プラッスチックの転移温度測定方法)に基づいて10℃/分の昇温スピードで測定した値である。後記製造例等における測定は、DSCとして、「SSC5200」(商品名、セイコー電子工業社製)を用い、試料をサンプル皿に所定量秤取した後、130℃で3時間乾燥させてから行なった。
【0056】
アクリル樹脂(A)において、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)、ビニル系単量体(b)及び共重合可能な他のビニル系単量体(c)の配合割合は、全モノマー量に対して、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(a)が、20〜60質量%、好ましくは25〜55質量%、さらに好ましくは25〜45質量%、ビニル系単量体(b)が、0.7〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは2〜6質量%、共重合可能な他のビニル系単量体(c)が、25〜79.3質量%、好ましくは35〜75質量%、さらに好ましくは49〜73質量%である。
【0057】
前記各モノマーを重合させてアクリル樹脂(A)を得る方法としては、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できるが、特に溶液重合法を好適に採用することができる。溶液重合法による場合、有機溶剤及び重合開始剤の存在下に、前記モノマーの混合物を共重合させる。使用する有機溶剤としては、水分散性の観点から、イソプロピルアルコール等のアルコール系、酢酸ブチル等のエステル系、エチレングリコールエーテル系、ジエチレングリコールエーテル系等の親水性の有機溶剤を好適に使用することができる。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、ジ−tert−アミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−アミル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート、クメンヒドロペルオキシドなどの通常用いられる重合開始剤を使用することができる。必要に応じて、2−メルカプトエタノール、n−オクチルメルカプタンなどの連鎖移動剤を使用することができる。
【0058】
アクリル樹脂(A)の重合方法は、一括重合法又は2段階以上の多段階重合法のいずれであってもよい。通常、溶液重合法においては、溶剤の存在下、モノマー成分及び重合開始剤を一括で一定時間かけて滴下する一括重合法により重合反応が行なわれるが、多段階重合法とは、一括でモノマー成分を滴下するのではなく、モノマー成分を2以上のモノマー成分に分け、順次、各モノマー成分を滴下する方法である。
【0059】
アクリル樹脂(A)の水分散性及び塗料とした時の水分散安定性向上等の観点から、アクリル樹脂(A)として、2段階以上の多段階重合法で合成されたものを好適に使用することができる。
【0060】
具体的には、例えば水分散安定性の良好なアクリル樹脂(A)として、最初に親水性基含有モノマーを全く又は殆んど含有しないモノマー成分を重合し、その後、さらに親水性基含有モノマーを含有するモノマー成分を加えて(滴下して)2段階で重合されたアクリル樹脂をあげることができる。
【0061】
アクリル樹脂(A)は、1種単独で、又は2種以上を併用して使用することができる。
ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)
ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)は、本塗料の架橋剤であって、1分子中に2個以上の遊離のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックすることにより得られる化合物である。
【0062】
ポリイソシアネート化合物としては、ポリウレタン製造用として公知のもの、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及びこれらポリイソシアネートの誘導体(ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基、オキサゾリドン基含有変性物など)などをあげることができる。
【0063】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0064】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレートなどの脂環族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどをあげることができる。
【0065】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネートまたはその混合物、ω,ω’−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−または1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどをあげることができる。
【0066】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジイソシアナトビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4’−または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)もしくはその混合物、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、例えば、トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート、例えば、4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどをあげることができる。
【0067】
また、ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン等の各種誘導体をあげることができる。
【0068】
これらポリイソシアネート化合物は、1種で又は2種以上を使用することができる。これらポリイソシアネート化合物のうち、硬化塗膜の耐候性等に優れる点から、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート及びこれらの誘導体を好適に使用することができる。これらのうち特に、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及びイソホロンジイソシアネートの誘導体を特に好適なものとして挙げることができる。
【0069】
ブロック化ポリイソシアネート化合物の数平均分子量は、仕上がり性及び水分散性の観点から、3000以下、特に300〜2000、さらに特に500〜1500の範囲内であることが好ましい。
【0070】
本明細書において、ブロック化ポリイソシアネート化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。
【0071】
後記製造例等における測定においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0072】
ブロック剤は遊離のイソシアネート基を封鎖する化合物である。ブロックされたイソシアネート基は、例えば100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱すると、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基が再生され、水酸基などと容易に反応させることができる。
【0073】
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチルなどのフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコールなどの脂肪族系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノールなどのエーテル系;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチルなどのグリコール酸エステル;乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアルコール系;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミンなどアミン系;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素などの尿素系;N−フェニルカルバミン酸フェニルなどのカルバミン酸エステル系;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリなどの亜硫酸塩系;アゾール系の化合物をあげることができる。アゾール系の化合物としては、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−ベンジル−3,5−ジメチルピラゾール、4−ニトロ−3,5−ジメチルピラゾール、4−ブロモ−3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−フェニルピラゾール等のピラゾール又はピラゾール誘導体;イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾールまたはイミダゾール誘導体;2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン等のイミダゾリン誘導体などをあげることができる。
【0074】
上記のブロック剤のうち、低温硬化性、耐黄変性等の観点から、ピラゾール又はピラゾール誘導体等のアゾール系化合物が好適であり、その中でも、3,5−ジメチルピラゾールを好適に使用することができる。
【0075】
溶解性パラメータ値
本発明の水性1液型塗料は、アクリル樹脂(A)と、少なくとも1種のブロック化ポリイソシアネート化合物(B)とを含有する。
【0076】
本発明の水性1液型塗料は、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)が9.30〜11.20、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)が9.00〜11.50であり、かつ、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差ΔSP(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が、−0.80〜1.50であることが必要である。
【0077】
アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)が11.20を超えると、極性が高いため、ブロック化ポリイソシアネート化合物の水分散性が低下したり、塗膜の耐酸性が低下する場合があり、9.30未満であると、極性が低いため、ブロック化ポリイソシアネート化合物の水分散性が低下する場合がある。
【0078】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)が11.50を超えると、極性が高いため、耐水性や耐酸性が低下したり、アクリル樹脂による水分散性が低下する場合があり、9.00未満であると、極性が低いため、アクリル樹脂による水分散性が低下する場合がある。
【0079】
アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差であるΔSP(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が−0.80未満であるとアクリル樹脂の極性が低いため、ブロック化ポリイソシアネート化合物の水分散性が低下する場合がある。また、(A)成分と(B)成分の相溶性が低下して、塗膜の平滑性が低下する場合がある。
【0080】
また、ΔSPの値が1.50を超えると、(A)成分と(B)成分の相溶性が低下して、塗膜の平滑性が低下したり、アクリル樹脂によるブロック化ポリイソシアネート化合物の水分散性が低下する場合がある。
【0081】
本発明の水性1液型塗料に用いるアクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)は、9.30〜11.20、特に9.50〜11.00、さらに特に9.70〜10.60であるのが好ましい。また、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)は、9.00〜11.50、特に9.20〜10.50、さらに特に9.20〜10.00であるのが好ましい。
【0082】
さらに、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差であるΔSPの値は、水分散性、塗膜平滑性の観点から、−0.80〜1.50、特に−0.20〜1.30、さらに特に0.50〜1.20であるのが好ましい。
【0083】
本発明における(A)成分及び(B)成分の溶解性パラメ−タ値(SP値)は、簡便な実測法である濁点滴定によって測定されるもので、下記K.W.SUH、J.M.CORBETTの式(Journal of Applied Polymer Science,12,2359,1968)に準じて計算した値である。
【0084】
【数1】

【0085】
本方法は、内径50mmのトールビーカー(内容積100ml)に乾燥させたアクリル樹脂又はブロック化ポリイソシアネート化合物(固形分)0.5gを採り、アセトン10mlに溶解した溶液中に、25℃において撹拌しながら、n−ヘキサンを滴下していき、底面の下に置いた新聞の4号活字が該ビーカー上部から透視し判読できる限界を濁点とし、濁点における滴定量H(ml)を読み、同様にアセトン溶液中にn−ヘキサンにかえて脱イオン水を滴下したときの濁点における滴定量D(ml)を読んで、これら滴定量から、下記式により得られたVH 、VD 、δH 、δD を上記K.W.SUH、J.M.CORBETTの式に適用することより、溶解性パラメータ値を算出するものである。尚、各溶剤のSP値はn−ヘキサン:7.24、脱イオン水:23.43、アセトン:9.75である。
【0086】
H=H/(10+H)
D=D/(10+D)
δH=9.75×10/(10+H)+7.24×H/(10+H)
δD=9.75×10/(10+D)+23.43×D/(10+D)
本発明の水性1液型塗料において、アクリル樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)との割合は、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基とアクリル樹脂(A)の水酸基の当量比(NCO/OH)が、一般に0.5〜1.0、特に0.6〜0.9、さらに特に0.7〜0.9であるのが好ましい。当量比が0.5未満であると、本塗料の硬化性が低下する場合があり、1.0を超えると塗膜表面の水酸基の残存量が少なくなり、ノンサンドリコート付着性が低下する場合がある。
【0087】
また、(A)成分と(B)成分との割合は、両者の合計固形分100質量%に基いて、(A)成分が50〜75質量%、特に55〜70質量%、さらに特に60〜70質量%、(B)成分が25〜50質量%、特に30〜45質量%、さらに特に30〜40質量%であるのが好ましい。
【0088】
本塗料には、架橋剤として、メラミン樹脂を使用することもできる。メラミン樹脂としては、具体的には、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメチロールメラミン;これらのメチロールメラミンのアルキルエーテル化物又は縮合物;メチロールメラミンのアルキルエーテル化物の縮合物等をあげることができる。メチロールメラミンのアルキルエーテル化は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等のモノアルコールを用いて、公知の方法により行うことができる。
【0089】
メラミン樹脂としては、市販品を使用することができる。市販されている商品名として、例えば、日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル303、サイメル323、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル380、サイメル385、サイメル212、サイメル251、サイメル254、マイコート776;モンサント社製のレジミン735、レジミン740、レジミン741、レジミン745、レジミン746、レジミン747;住友化学社製のスミマールM55、スミマールM30W、スミマールM50W;三井化学社製のユーバン20SB、ユーバン20SE−60、ユーバン28−60等をあげることができる。
【0090】
メラミン樹脂を使用する場合、メラミン樹脂の配合量としては、アクリル樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)との固形分合計100質量部に対して、15質量部以下、特に0〜10質量部であるのが好ましい。
【0091】
本塗料の触媒として、有機錫化合物及び/又はビスマス化合物を好適に使用することができる。有機錫化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエートなどのジアルキル錫の脂肪族または芳香族カルボン酸塩;モノブチル錫トリオクチレートなどのモノアルキル錫の脂肪族または芳香族カルボン酸塩、テトラ−n−ブチル−1,3―ジアセトキシ−ジスタノキサンなどのジスタノキサン類等を挙げることができる。
【0092】
ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマスなどの無機ビスマス化合物が挙げられる。
【0093】
また、ビスマス化合物として、酢酸、オクチル酸、グリコール酸、グリセリン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸、酒石酸、リンゴ酸、ヒドロキシマロン酸、ジヒドロキシコハク酸、トリヒドロキシコハク酸、メチルマロン酸、安息香酸、クエン酸などの有機酸と、上記の無機ビスマス化合物とを反応させてなる有機酸系のビスマス化合物も用いることができる。上記の有機酸と無機ビスマス化合物とを反応させてなる有機酸系のビスマス化合物のうち、特に、水酸化ビスマスとオクチル酸とを反応させて得られるビスマストリオクチレートを好適なものとしてあげることができる。
【0094】
上記触媒を使用する場合、その使用量は、通常、アクリル樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の固形分合計100質量部に対して、0.01〜10質量部、特に0.05〜8質量部、さらに特に0.05〜2質量部であるのが好ましい。
【0095】
本塗料においては、必要に応じて紫外線吸収剤を使用することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等をあげることができる。耐熱黄変性の観点から、トリアジン系化合物を特に好適に使用することができる。
【0096】
トリアジン系化合物(D)としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名、「TINUVIN 1577FF」)、2−[4−[6(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと2−[4−[6(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンの混合物(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名、「TINUVIN 400」)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−iso−オクチルオキシフェニル)−s−トリアジン(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名、「TINUVIN 411L」)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(たとえば三井サイテック株式会社製、商品名、「CYAGARD UV1164L」)などを挙げることができる。
【0097】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−(1,1−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−イソアミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0098】
上記紫外線吸収剤は単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0099】
紫外線吸収剤は、アクリル樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)との固形分合計100質量部あたり0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.8〜3質量部の範囲内で使用することができる。
【0100】
本塗料には、必要に応じて、光安定剤を使用することもできる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤を使用することができ、具体的には、例えば、ビス−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテ−ト、4−ベンゾイルオキシ−2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジンなどを挙げることができる。上記光安定剤は単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0101】
光安定剤を使用する場合、その使用量は、アクリル樹脂(A)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)との固形分合計100質量部あたり0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.8〜3質量部の範囲内である。
【0102】
その他の成分
本発明の水性1液型塗料においては、更に必要に応じて、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の基体樹脂又はメラミン樹脂等の架橋剤等のその他の樹脂成分、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、消泡剤、酸化防止剤などの添加剤、着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料などの顔料を含有させることができる。本塗料をクリヤ塗料とする場合は、上記添加剤及び顔料は塗膜の透明性を阻害しない範囲の量で使用することができる。
【0103】
本塗料の調整方法及び塗装方法
本発明の水性1液型塗料は、(A)成分及び(B)成分に、必要に応じて使用される触媒、紫外線吸収剤、光安定等の任意成分を加え、これらを水と混合し、分散せしめることによって調整することができる。水への混合及び分散にあたっては、中和剤により中和して行なうのが、水分散性を向上させる観点から好ましい。また、この混合及び分散にあたっては、分散性向上の観点から、必要に応じて乳化剤を併用することもできる。
【0104】
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、などの第1級モノアミン化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミンなどの第2級モノアミン化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどの第3級モノアミン化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどのポリアミン化合物;ピリジン;モルホリン等をあげることができる。これらのうち、第1級モノアミン化合物、第2級モノアミン化合物、第3級モノアミン化合物、ポリアミン化合物を使用するのが好ましい。
【0105】
中和剤の添加量は適宜選択することができるが、(A)成分中の酸基の総量に対して0.6〜1.2当量程度であるのが分散安定性の向上の観点から好ましい。中和剤の添加量は、0.7〜1.1当量程度であるのがより好ましい。
【0106】
上記の調整において、アクリル樹脂(A)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(B)は、通常、有機溶剤に溶解した溶液状態で混合及び分散に供されるので、本塗料のVOC削減の観点から、可能な限り、有機溶剤を減圧溜去等により、溜去するのが好ましい。減圧溜去等による脱有機溶剤時に発生する泡立ちを抑制するために適宜、消泡剤を添加しても良い。
【0107】
本発明の水性1液型塗料は、通常、VOCが、0〜300g/l、特に0〜200g/l、さらに特に0〜150g/lであるのが好ましい。ここで、VOCは、世界保健機構(WHO)により定義されている「高揮発性有機化合物」及び「揮発性有機化合物」に分類される揮発性有機物質である。
【0108】
また、得られた水性1液型塗料は、その塗料中に存在する分散粒子の平均粒子径が100〜500nm、特に100〜400nm、さらに特に100〜300nmであることが好ましい。本塗料は、通常、ブロック化ポリイソシアネート化合物及び必要に応じて使用される疎水性の任意成分がアクリル樹脂を分散媒とする分散粒子として水中に分散する形態となっている。分散粒子の平均粒子径が500nmを超えると、本塗料の貯蔵安定性が低下し、塗膜の平滑性が低下する傾向にあるので好ましくない。また、100nm未満であると本塗料が高粘度化し、塗料固形分濃度が低下する傾向にあるので好ましくない。水性1液型塗料の平均粒子径は、100〜300nm程度であるのがより好ましい。
【0109】
本明細書において、水性1液型塗料の平均粒子径は、該塗料を脱イオン水で分散した後、20℃で、サブミクロン粒度分布測定装置を用いて測定した値である。サブミクロン粒度測定装置としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、「COULTER N4型」(商品名、ベックマン・コールター社製)を挙げることができる。
【0110】
本発明の水性1液型塗料は、通常、塗装するに際して、必要に応じて脱イオン水で希釈して、例えば、フォードカップ粘度計No.4を用いて、20℃で測定して、好ましくは15〜60秒、より好ましくは20〜50秒の粘度に調整することができる。この場合、固形分濃度は、40〜60質量%程度であるのが好ましく、45〜55質量%程度であるのがより好ましい。固形分濃度が40質量%未満であると、塗膜のタレが発生しやすくなる傾向がある。また、60質量%を越えると、高粘度になったり、水分散性が低下する傾向がある。
【0111】
また、本発明の水性1液型塗料のpHは、水分散安定性の観点から、6.0〜8.5程度であるのが好ましく、6.5〜8.0程度であるのがより好ましい。後記製造例等において、pHの測定はpHメーターを使用して行なった。pHメーターとしては、例えば「F−22」(商品名、堀場製作所製)を使用することができる。
【0112】
本発明の水性1液型塗料は、公知の方法、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、回転霧化塗装などにより、各種被塗物の上塗り塗膜形成用として、塗装することができる。塗装の際、静電印加することもできる。塗装膜厚は、通常、硬化塗膜で20〜50μm程度が好ましく、25〜45μm程度がより好ましい。塗膜の硬化は、通常、120〜170℃程度、好ましくは130〜170℃程度で、10〜40分間程度加熱することにより行うことができる。加熱は公知の手段により行うことができる。例えば、熱風炉、電気炉、赤外線加熱炉等の乾燥炉を適用できる。
【0113】
上記加熱硬化を行なう前に、塗料組成物中の水、有機溶剤等の媒体を揮発させて、乾燥させるため、予備乾燥を行うことが好ましい。予備乾燥は、通常、50〜100℃程度の温度で3〜30分間程度行なわれる。この予備乾燥により、塗膜の固形分濃度を80質量%以上とするのが好ましい。
複層塗膜形成方法
本発明の水性1液型塗料によれば、硬化性、塗膜硬度、耐酸性、耐擦り傷性等の塗膜性能及び塗面平滑性等の仕上がり外観に優れた塗膜を形成することができ、さらにブロック化ポリイソシアネート化合物の分散安定性にも優れているので、水性塗料として、広く使用することができる。特にトップクリヤコートを形成するクリヤ塗料として好適に使用することができる。
【0114】
本発明の塗膜形成方法は、被塗物に少なくとも1層のベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する方法であって、その最上層のトップクリヤコート塗料として、本発明の水性1液型塗料を用いることを特徴とするものである。
【0115】
被塗物としては、特に制限はないが、例えば、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、錫メッキ鋼板等の鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等の金属基材;各種プラスチック素材等が好ましい。また、これらにより形成される自動車、二輪車、コンテナ等の各種車両の車体等であってもよい。
【0116】
また、被塗物は、金属基材や上記車体等の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0117】
なお、これらの被塗物はあらかじめ、下塗塗装(例えばカチオン電着塗装など)及び場合によりさらに中塗り塗装などを必要に応じて行なっておくことが好ましい。
本発明の複層塗膜形成方法を適用する被塗物としては、特に、自動車車体及びその部品が好ましい。
【0118】
上記の複層塗膜形成方法としては、より具体的には、例えば、下記方法a〜cの複層塗膜形成方法において、トップクリヤコート塗料として本発明の水性1液型塗料を使用する方法を挙げることができる。
【0119】
方法a:被塗物に、ベースコート塗料及びトップクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する2コート方式の複層塗膜形成方法。
【0120】
方法b:被塗物に、ベースコート塗料、クリヤコート塗料及びトップクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する3コート方式の複層塗膜形成方法。
方法c:被塗物に、第1ベースコート塗料、第2ベースコート塗料及びトップクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する3コート方式の複層塗膜形成方法。
【0121】
これらの方法a、方法b、方法cの各複層塗膜形成方法について、詳細に説明する。
【0122】
上記方法aにおいて、ベースコート塗料としては、公知のベースコート塗料を使用することができる。上記ベースコート塗料としては、自動車車体等を塗装する場合に用いられる着色ベース塗料組成物を用いるのが好適である。
【0123】
上記着色ベース塗料組成物は、基体樹脂、架橋剤及び顔料(例えば、着色顔料、光輝性顔料等)を含有する有機溶剤型又は水性の塗料組成物である。着色ベース塗料組成物としては、低VOCの観点から、水性塗料組成物であるのが好ましい。
【0124】
基体樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂は、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシシリル基等の架橋性官能基を有している。架橋剤としては、例えば、アルキルエーテル化メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基化合物等の少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂及び架橋剤は、両成分の合計量を基準にして、基体樹脂50〜90質量%、架橋剤10〜50質量%の割合で使用することが好ましい。
【0125】
各方法において、ベースコート塗料及びクリヤコート塗料の塗装方法としては、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の塗装方法を採用することができる。これらの方法は必要に応じて静電印加していてもよい。
【0126】
方法aにおいては、被塗物に、上記ベースコート塗料を、通常、硬化膜厚で10〜50μm程度となるように塗装する。塗装されたベースコート塗料は、通常、100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度で、10〜40分間程度加熱して硬化させるか、又は塗装後硬化させることなく室温で数分間放置もしくは40〜100℃程度で、1〜20分間程度プレヒートする。
【0127】
次いで、トップクリヤコート塗料として、本発明の水性1液型塗料を硬化膜厚で、通常、20〜50μm程度になるように塗装し、加熱することによって、硬化複層塗膜を形成することができる。加熱は、通常、120〜170℃程度、好ましくは130〜170℃程度で、10〜40分間程度行なうのが好ましい。
【0128】
上記において、ベースコート塗料を塗装し加熱硬化することなく、トップクリヤコート塗料を塗装し、両塗膜を同時に硬化する場合は2コート1ベーク方式であり、又ベースコート塗料を塗装し加熱硬化後、トップクリヤコート塗料を塗装し、クリヤ塗膜を硬化する場合は2コート2ベーク方式である。
【0129】
方法bにおけるベースコート塗料としては、方法aの項で説明したベースコート塗料と同様のものを使用することができる。また、クリヤコート塗料としては、透明塗膜形成用塗膜であればよく、例えば、上記公知のベースコート塗料から顔料のほとんど又はすべてを除去してなる塗料組成物を使用することができる。そして、トップクリヤコート塗料として本発明の水性1液型塗料を使用する。また、クリヤコート塗料として、本塗料を使用してもよい。
【0130】
方法bにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、ベースコート塗料を塗装し加熱硬化させてから、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、ベースコート塗膜上に、クリヤコート塗料を硬化膜厚で、通常、10〜50μm程度となるように塗装し、通常、100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度で、10〜40分間程度加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行なう。次いで、トップクリヤコート塗料として、本発明の水性1液型塗料を硬化膜厚で、通常、20〜50μm程度になるように塗装し、加熱することによって、硬化複層塗膜を形成することができる。加熱条件は方法aの場合と同様である。
【0131】
上記において、ベースコート塗料を塗装し加熱硬化することなく、クリヤコート塗料を塗装し、これを硬化することなくトップクリヤコート塗料を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は3コート1ベーク方式である。又、ベースコート塗料を塗装し加熱硬化することなく、クリヤコート塗料を塗装し、これらの塗膜を同時に加熱硬化し、トップクリヤコート塗料を塗装し、これを硬化する場合は3コート2ベーク方式である。又、ベースコート塗料を塗装し加熱硬化した後、クリヤコート塗料を塗装し、これを加熱硬化し、トップクリヤコート塗料を塗装し、これを加熱硬化する場合は3コート3ベーク方式である。
【0132】
方法cにおいて、第1ベースコート塗料としては、方法aの項で説明したベースコート塗料と同様のものを使用することができる。第2ベースコート塗料としては、第1ベースコート塗料の塗面に塗装するものであることから、通常、該第2ベースコート塗膜を通して第1ベースコート塗膜の色調が視認できる程度の低隠蔽性の着色ベース塗料組成物が使用される。
【0133】
方法cにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、第1ベースコート塗料を塗装し、加熱硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、第1ベースコート塗膜上に、第2ベースコート塗料を硬化膜厚で、通常、10〜50μm程度となるように塗装し、通常、100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度で、10〜40分間程度加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行なう。次いで、トップクリヤコート塗料として、本発明の水性1液型塗料を硬化膜厚で、通常、20〜50μm程度になるように塗装し、加熱することによって、硬化複層塗膜を形成することができる。加熱条件は方法aの場合と同様である。
【0134】
上記において、第1ベースコート塗料を塗装し加熱硬化することなく、第2ベースコート塗料を塗装し、これを加熱硬化することなくトップクリヤコート塗料を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は3コート1ベーク方式である。又、第1ベースコート塗料を塗装し加熱硬化し、第2ベースコート塗料を塗装し、これを加熱硬化することなく、トップクリヤコート塗料を塗装し、これらの塗膜を同時に硬化する場合は3コート2ベーク方式である。又、第1ベースコート塗料を塗装し加熱硬化し、第2ベースコート塗料を塗装し、これを加熱硬化し、トップクリヤコート塗料を塗装し、これを加熱硬化する場合は3コート3ベーク方式である。
【0135】
さらなる本発明の塗膜形成方法は、被塗物に、熱硬化性水性塗料組成物をベースコート塗料として塗装し、その未硬化の塗面上に本発明の水性1液型塗料をクリヤコート塗料として塗装してベースコート及びクリヤコートを同時に硬化させることを特徴とする複層塗膜形成方法である。
【0136】
これは、上記の方法aにおいて、ベースコート塗料として、水性の着色ベース塗料組成物を使用し、2コート1ベーク方式で加熱硬化する場合に相当するものである。
【実施例】
【0137】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらによって限定されるものではない。尚、「部」及び「%」は、いずれも質量基準による。また、特にことわらない限り、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基くものである。
アクリル樹脂(A)の製造
製造例1
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器を備えた4つ口フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを30部仕込み、窒素ガス通気下で145℃に昇温した後、窒素ガスの通気を止め、1段目として、スチレン15部、n−ブチルアクリレート10部、iso−ブチルメタクリレート18部、4−ヒドロキシブチルアクリレート13部、プラクセルFA−2 12部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7部、ジ−t−ブチルパーオキサイド3.0部を4時間かけて滴下した。その後30分間、同温度で保持した。更に、2段目として、iso−ブチルメタクリレート6部、4−ヒドロキシブチルアクリレート6部、プラクセルFA−2 6部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3部、アクリル酸4部、ジt−ブチルパーオキサイド1.0部を30分間かけて滴下した後同温度で1時間熟成させた。その後、固形分濃度が95%以上となるまで溶剤を減圧留去し、メチルエチルケトン38部で希釈して固形分70%のアクリル樹脂(A−1)の溶液を得た。得られたアクリル樹脂(A−1)の水酸基価は147mgKOH/g、酸価は31mgKOH/g、重量平均分子量は10000、実測SP値は、10.30、Tgは0℃であった。
【0138】
製造例2〜15
表1に示す原料を用いて、製造例1と同様にして、アクリル樹脂(A−2)〜(A−15)を得た。
【0139】
表1に、アクリル樹脂(A−1)〜(A−15)の原料組成、固形分及び樹脂特性を示す。
【0140】
【表1】

【0141】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の製造
製造例16
攪拌機、加熱装置、冷却装置、減圧装置を備えた4つ口フラスコに、スミジュールN3300(注1)250部及びメチルエチルケトン125部を仕込み、30℃に加熱した。次いで、3,5−ジメチルピラゾール126部を攪拌しながら2時間かけて徐々に添加し、攪拌下、その反応混合物を赤外分光法によって、遊離のイソシアネート基が検出されなくなるまで30℃にて反応させた。反応終了後、固形分70%のブロック化ポリイソシアネート化合物(B−1)の溶液を得た。得られたブロック化ポリイソシアネート化合物(B−1)の実測SP値は9.33、NCO量は14.4%、数平均分子量は1000であった。なお、本明細書において、NCO量は、樹脂固形分100質量部に対するNCO基の量(%)を意味する。
【0142】
(注1)スミジュールN3300:住化バイエルウレタン社製、商品名、ヘキサメチレンジイソシアヌレート
製造例17
攪拌機、加熱装置、冷却装置、減圧装置を備えた4つ口フラスコにヘキサメチレンジイソシアネート272部、メチルエチルケトン214部を仕込み、60℃に加熱した。次いで、メチルエチルケトオキシム169部を攪拌しながら1時間かけて徐々に添加した。その後、60℃で2時間反応させた後、トリメチロールプロパン59部を温度が70℃以上にならないように徐々に添加した。攪拌下、その反応混合物を赤外分光法によって、遊離のイソシアネート基が検出されなくなるまで60℃にて反応させた。反応終了後、固形分70%のブロック化ポリイソシアネート化合物(B−2)の溶液を得た。得られたブロック化ポリイソシアネート化合物(B−2)の実測SP値は12.19、NCO量は16.4%、数平均分子量は950であった。
水性1液型塗料の製造
実施例1
アクリル樹脂(A−1)の溶液88.6部及びブロック化ポリイソシアネート(B−1)の溶液54.4部(NCO/OH比は0.8)を回転翼式攪拌機(商品名「デスパMH−L」、浅田鉄工(株)製)を用いて攪拌混合した。その後攪拌下、さらに、ベンゾイン1部、ネオスタンU−100(注2)1部、チヌビン1130(注3)1.4部、サノールLS−292(注4)1部を順次、添加し混合した。その後、ジメチルアミノエタノール3.05部(アミンによるカルボキシル基の中和当量が1.0となる量)を徐々に添加して、さらに5分間攪拌した。その後、脱イオン水101部を均一に分散するように徐々に滴下することにより、水分散をおこなった。
【0143】
得られた上記水分散物を攪拌機、加熱装置、冷却装置及び減圧装置を備えた4つ口フラスコに仕込み、50℃にて減圧条件下で脱溶剤を行って、溶剤および水を溜去した。溜去量が60部に達したところで、減圧脱溶剤を終了し、室温まで冷却した。更に脱イオン水を添加して、フォードカップ粘度計No.4を用いて、20℃で30秒の粘度に調整することにより水性1液型塗料No.1を得た。得られた水性1液型塗料No.1の固形分は50%、平均粒子径は220nmであった。
【0144】
(注2)ネオスタンU−100:日東化成社製、商品名、ジブチル錫ジラウレート
(注3)チヌビン1130:チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
(注4)サノールLS−292:三共ライフテック社製、商品名、ヒンダードアミン系光安定剤
実施例2〜13及び比較例1〜11
表2及び表3に示す原料を用いて、実施例1と同様にして、各水性1液型塗料No.2〜24を得た。なお、表2及び表3のブロック化ポリイソシアネート化合物(B−2)(注5)、ネオスタンU−600(注6)の詳細は以下のとおりである。
【0145】
(注5)ブロック化ポリイソシアネート化合物(B−3):TPA−B80E(旭化成ケミカルズ社製、商品名、メチルエチルケトオキシムでイソシアネート基をブロックしたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化合物、固形分80%、NCO量は15.6%)、なお、SP値を測定したところ、実測SP値は11.45であった。
【0146】
(注6)ネオスタンU−600:日東化成社製、商品名、ビスマストリオクチレートの溶液(有効成分57%)
粘度調整後の各水性1液型塗料について、以下の方法により、固形分、VOC量、平均粒子径の測定及び貯蔵安定性の試験を行なった。尚、比較例4、9及び10(水性1液型塗料No.17、22及び23)は水分散性が不良であり、水分散物が得られなかったため、評価を行なうことができなかった。
【0147】
塗料の固形分(%):直径5cmのアルミニウム製の皿に、粘度調整後の水性1液型塗料を約2g測りとり、十分全体に伸ばした後、110℃で1時間乾燥させ、初期重量と乾燥後の重量から塗料の固形分(%)を算出した。
【0148】
VOC量(g/l):比重(JIS K−5400 4.6.2による比重カップ法によって測定)、水分量(自動水分測定装置(商品名「KF−100」、カールフィッシャー法、三菱化学社製)によって測定)及び塗料の固形分から下記式(1)に従って、粘度調整後の水性1液型クリヤ塗料のVOC量を算出した。
【0149】
VOC量(g/l)={[100−(S+W)]×ρ}/[100−(W×ρ)] (1)
式(1)において、Sは塗料の固形分(%)を、Wは塗料の水分量(%)を、ρは塗料の比重(g/l)をそれぞれ示す。
【0150】
塗料の平均粒子径(nm):粘度調整後の水性1液型塗料を脱イオン水で分散した後、20℃で、「COULTER N4型」(商品名、ベックマン・コールター社製、サブミクロン粒度分布測定装置)を用いて測定した塗料の平均粒子径(nm)の値である。
貯蔵安定性:粘度調整後の水性1液型塗料を40℃にて10日間貯蔵した後の、塗料の状態を下記の基準に基いて評価した。
○:粘度変化及び沈降が認められず良好。
○△:若干の沈降が認められるが、攪拌により復元する。
△:若干の沈降が認められ、攪拌しても復元しない。
×:沈降による層分離が生じ、攪拌しても復元しない。
【0151】
表2及び表3に、各水性1液型塗料の成分組成(固形分、部)、中和当量、NCO/O
H比、アクリル樹脂特数値、SP値、SP差、塗料の固形分、VOC量、塗料の平均粒子径及び貯蔵安定性の評価結果を示す。
試験板の作製1
実施例1〜13及び比較例1〜11で得られた各水性1液型塗料No.1〜24について、以下の様にして試験板を作製した(比較例4、9及び10(水性1液型塗料No.17、22及び23)については、塗料の製造ができなかったため、以下の試験板の作製を行うことができなかった)。
【0152】
リン酸亜鉛処理(商品名「パルボンド#3020」、日本パーカライジング社製)による処理を施した冷延鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「エレクロンGT−10」、関西ペイント(株)製)を膜厚20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱し硬化させ電着塗膜を形成させた。該電着塗膜上に、有機溶剤型中塗塗料(商品名「アミラックTP−65−2」、関西ペイント(株)製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系自動車中塗塗料)を膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、室温で7分間放置してから、140℃で20分間加熱し硬化させ中塗塗膜を形成させた。
【0153】
この中塗塗膜上にアクリル樹脂・メラミン樹脂自動車用水性ベースコート塗料(商品名「WBC713T#1E7」(関西ペイント(株)製)を膜厚15μmとなるように塗装し、室温で5分間放置してから、80℃で10分間予備乾燥を行なった。この未硬化のベースコート塗膜上に、実施例及び比較例で得た水性1液型クリヤ塗料No.1〜24を膜厚35μmとなるように塗装し、室温で10分間放置してから、60℃で10分間予備乾燥を行なった後、140℃で20分間加熱してこの両塗膜を一緒に硬化させることにより試験板を得た。
【0154】
上記で得られた各試験板について、以下の性能試験を行なった。
【0155】
塗面平滑性:塗膜面の平滑性を「Wave Scan」(商品名、BYK Gardner社製)を用いて測定した。Wave ScanによりLong Wave値(LW)及びShort Wave値(SW)が測定される。
【0156】
Long Wave値は、1.2〜12mm程度の波長の表面粗度の振幅の指標であり、塗膜面のユズ肌等の大きな振幅を評価することができる。Short Wave値は、0.3〜1.2mm程度の波長の表面粗度の振幅の指標であり、塗膜面の微少肌である小さな振幅を評価することができる。
【0157】
各Wave Scan値は、測定値が小さいほど塗膜面の平滑性が高いことを示す。
【0158】
ツヤ感:目視でツヤ感の評価を行なった。○:良好、△:やや劣る、×:劣る
耐酸性:40%硫酸水溶液0.5mlを試験板塗膜面上に滴下し、「Gradientoven」(商品名、BYK Gardner社製)を用いて80℃で30分間加熱した後、水洗して塗膜面の状態を下記の基準に基いて評価した。
○:外観の変化及び塗膜の侵食が認められず良好。
○△:外観の変化はないが、わずかに塗膜の侵食が認められる。
△:外観の変化及びわずかに塗膜の侵食が認められる。
×:外観の変化及び塗膜の侵食が著しく認められる。
試験板の作製2(耐オーバーベーク黄変性)
電着塗膜の形成までは、上記試験板の作成1と同様に行なった。該電着塗膜上に水性中塗塗料(商品名「WP305T#062用第1ベース」(関西ペイント(株)製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂水性自動車中塗塗料(CIE等色関数に基づく白色度のL値が85)を膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、室温で5分間放置してから、80℃で10分間予備乾燥を行った後、150℃で30分間加熱し硬化させ中塗塗膜を形成させた。
【0159】
該中塗塗膜上に水性ベースコート塗料(商品名「WBC713T#062第2ベース」(関西ペイント(株)製)、アクリル樹脂・メラミン樹脂自動車マイカベースコート塗料)を膜厚15μmとなるように塗装し、室温で5分間放置してから、80℃で10分間予備乾燥を行なった。この未硬化のマイカベースコート塗膜上に、実施例及び比較例で得た水性1液型クリヤ塗料No.1〜24を膜厚40μmとなるように塗装し、室温で10分間放置してから、80℃で10分間予備乾燥を行なった後、140℃で30分間加熱してこの両塗膜を一緒に硬化させることにより試験板を得た。
【0160】
この試験板を一部切り分けて基準板とする。切り分けたもう一方の試験板をさらに160℃で50分間加熱した。
【0161】
160℃で50分間加熱した試験板の基準板に対するCIE等色関数に基づくΔb値を測定することにより、耐オーバーベーク黄変性を評価した。Δb値が小さいほど耐オーバーベーク黄変性が良好であることを表わす。Δb値の測定はカラーガイド45/0(商品名、BYKガードナー社製)を用いて行った。
試験板の作製3(ノンサンドリコート付着性)
上記試験板の作成1における最後のベースコート及びクリヤコート両塗膜の加熱条件を160℃で30分間のオーバーベークとする以外は、試験板の作製1と同様にして試験板を作製した。このオーバーベークされた試験板の塗膜面上に、再度、該試験板の作製に使用したのと同じベースコート塗料及び水性1液型クリヤ塗料を用いて、ベースコート及びクリヤコート両塗膜の加熱条件を130℃で30分間とする以外は試験板の作製1と同様にして、塗装、予備加熱及び加熱硬化を行なうことにより、ノンサンドリコート付着性評価用の試験板を得た。
【0162】
このノンサンドリコート付着性評価用の試験板の素地に達するようにカッターナイフで2mm方眼碁盤目が100個できるようカットを入れ、100個の碁盤目部分に粘着セロハンテープを貼着し、これを急激に剥がした後の碁盤目塗膜の残存数により、ノンサンドリコート付着性の評価を行なった。評価基準は以下のとおりである。
○:ゴバン目残存個数が100個
○△:ゴバン目残存個数が90個以上100個未満
△:ゴバン目残存個数が50個以上90個未満
×:ゴバン目残存個数が50個未満
表2及び表3に、上記の塗面平滑性、ツヤ感、耐酸性、耐オーバーベーク黄変性及びノンサンドリコート付着性の評価結果を併せて示す。
【0163】
【表2】

【0164】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)下記式(I)で表わされる少なくとも1種の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル 20〜60質量%、
【化1】


(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素原子数4以上の1級ヒドロキシアルキル基、炭素原子数4以上の1級ヒドロキシポリオキシアルキレン基又は下記式(II)で表わされる有機置換基を表わす。)
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、lは2〜5の整数、kは1〜7の整数をそれぞれ表す。)
(b)少なくとも1種のカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を含有するビニル系単量体 0.7〜15質量%、及び(c)少なくとも1種の共重合可能な他のビニル系単量体 25〜79.3質量%を共重合して得られる、水酸基価が110〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)と、
(2)少なくとも1種のブロック化ポリイソシアネート化合物(B)を含有する塗料であって、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)が9.30〜11.20、ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)が9.00〜11.50であり、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ値(SP1)とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)の溶解性パラメータ値(SP2)との差ΔSP(ΔSP=(SP1)−(SP2))の値が、−0.80〜1.50であることを特徴とする水性1液型塗料。
【請求項2】
ブロック化ポリイソシアネート化合物の少なくとも1種がアゾール系の化合物でブロックされたブロック化ポリイソシアネート化合物である請求項1に記載の水性1液型塗料。
【請求項3】
アゾール系の化合物が、3,5−ジメチルピラゾールである請求項2に記載の水性1液型塗料。
【請求項4】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基とアクリル樹脂(A)の水酸基の当量比(NCO/OH)が0.5〜1.0である請求項1〜3のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項5】
アクリル樹脂(A)の酸基の中和当量が0.6〜1.2である請求項1〜4のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項6】
さらに、有機錫化合物及び/又はビスマス化合物を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項7】
さらに、ヒンダードアミン系光安定剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項8】
塗料中に存在する分散粒子の平均粒子径が100〜500nmである請求項1〜7のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項9】
固形分質量濃度が40〜60%で、かつ、VOC含有量が0〜300g/lである請求項1〜8のいずれかに記載の水性1液型塗料。
【請求項10】
被塗物に少なくとも1層のベースコート塗料及び少なくとも1層のクリヤコート塗料を順次塗装して複層塗膜を形成する方法であって、最上層のトップクリヤコート塗料として請求項1〜9のいずれかに記載の水性1液型塗料を塗装することを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項11】
被塗物に、熱硬化性水性塗料組成物をベースコート塗料として塗装し、その未硬化の塗面上に請求項1〜9のいずれかに記載の水性1液型塗料をクリヤコート塗料として塗装してベースコート及びクリヤコートを同時に硬化させることを特徴とする複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2008−248237(P2008−248237A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53806(P2008−53806)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】