説明

水栓およびシステムキッチン

【課題】
広範囲に吐水させるとともに、着水後も、被洗浄物表面に水膜を広く形成させることのできるシャワー吐水流を放出する水栓を提供することにある。
【解決手段】
シャワー吐水部を備えた水栓であって、前記シャワー吐水部は、複数の散水孔を備えた散水板を備え、前記シャワー吐水部は、水平に対して、下方に傾斜した方向に吐水流を放出し、前記複数の散水孔は、前記散水板に、前記吐水流が着水時に広い水膜を形成するよう配置されていることを特徴とする水栓が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般に、水栓およびシステムキッチンに関する。より具体的には、水栓と、シンクと、カウンターと、を備えたシステムキッチンに関する。
【背景技術】
【0002】
調理中などにおいては、包丁や野菜、食器などに付着している汚れを落とすために、洗浄が行われる。このような洗浄における洗い動作は、2種類に分けることができる。一方は、汚れの少ないものを洗う動作であり、これを「簡単洗い」と呼ぶことにする。他方は、汚れの落ち難いものを洗う動作であり、これを「丁寧洗い」と呼ぶことにする。
【0003】
「簡単洗い」は、主にすすぎ洗いを行う動作であり、具体的には、包丁、まな板、あるいは汚れの少ない野菜などを洗う動作である。洗浄時間は短く、例えば約2秒程度である。これに対して、「丁寧洗い」は、主にこすり洗いを行う動作であり、具体的には泥汚れ、油汚れ、あるいは肉や魚の「ヌメリ」などを洗う動作である。洗浄時間は、「簡単洗い」よりも長く、例えば約10秒以上である。
【0004】
また、この他にも、泥付き野菜、葉物野菜などをまとめて洗う「準備洗い」、食器、鍋、フライパンなどを洗う「片付け洗い」などに分類することもできる。
この場合、いずれの洗い動作であっても、洗浄効果や作業性を向上させて、食器などの洗浄を素早く終了させることが好ましい。
【0005】
従来から、食器や調理器具、食材等の洗浄洗浄を行うための、複数の散水孔が設けられたシャワー吐水口と、水汲み等を行うための、整流吐水口と、を有する水栓が知られている。シャワー吐水口は、広範囲に吐水がかかるため、大きな調理器具、食器、食材等の洗浄に好適である。シャワー吐水口は、広範囲に吐水がかかるため、単位面積あたりの吐水量は少なくなり、箸やスプーンなど小さい調理器具、食器、食材等の洗浄を行う場合、返って時間がかかるといった問題がある。また、一般に、シャワー吐水口から放出されるシャワー吐水流は、散水孔の孔径が小さいため、吐出されてから着水するまでに、粒化される。そして、粒化された複数の水滴が断続的に、シンクや被洗浄物に着水するため、着水後にシンクや被洗浄物の表面に形成される水膜の安定性が悪く、着水後の水膜のぬれ広がりが小さい。したがって、シャワー吐水流が、吐水される範囲の洗浄効率はよいが、それよりも大きな調理器具、食器、食材等を洗浄する場合、洗浄効率が落ちるという問題もあった。
【0006】
これに対し、広範囲に水勢の強い吐水を行う水栓が提案されている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、特許文献1、2に開示された技術では、勢いのよい吐水が得られるものの、水の跳ね返りが大きくなり、不快に周囲をぬらすおそれがあった。
また、複数の散水孔が設けられた水栓の、散水孔の目詰まりを防止するとともに、吐出されたシャワー吐水流が、シンク底面に着水した際の、水の跳ね返りを防止する水栓も提案されている(特許文献3)。しかしながら特許文献3に開示された技術では、水の跳ね返りは防止されるものの、洗浄効率が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2000−27247号公報
【特許文献2】特開2002−004368号公報
【特許文献3】特開2001−279748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の態様は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、広範囲に吐水させるとともに、着水後も、被洗浄物表面に水膜を広く形成させることのできるシャワー吐水流を放出する水栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、シャワー吐水部を備えた水栓であって、前記シャワー吐水部は、複数の散水孔を備えた散水板を備え、前記シャワー吐水部は、水平に対して、下方に傾斜した方向に吐水流を放出し、前記複数の散水孔は、前記散水板に、前記吐水流が着水時に広い水膜を形成するよう配置されていることを特徴とする水栓が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、洗浄作業がし易く、洗浄効果を向上させることができ、水跳ねの少ない水栓が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明の実施形態は、シャワー吐水部を備えた水栓であって、前記シャワー吐水部は、複数の散水孔を備えた散水板を備え、前記シャワー吐水部は、水平に対して、下方に傾斜した方向に吐水流を放出し、前記複数の散水孔は、前記散水板に、前記吐水流が着水時に広い水膜を形成するよう配置されていることを特徴とする水栓である。
このシステムキッチンによれば、長手方向に広くかかり、着水後も広い水膜が形成できる。また、吐出された水が水膜を形成するため、水跳ねが抑制される。
【0011】
第2の発明の実施形態は、第1の発明の実施形態において、前記複数の散水孔は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に配置され、且つ、上方に向かって凸状に配置されていることを特徴とする水栓である。
この水栓によれば、吐出される方向と平行な方向に、広範囲に吐水されるとともに、着水後も広い水膜が形成されるため、洗いの作業を効率化することができる。また、吐出された水が水膜を形成するため、水跳ねが抑制させる。
【0012】
第3の発明の実施形態は、第1の発明の実施形態において、前記複数の散水孔は、前記散水孔の集合からなる散水孔群を複数形成し、個々の前記散水孔群において、前記散水孔は、上方に向かって凸状に配置され、前記散水孔群は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に複数配置されていることを特徴とする水栓である。
この水栓によれば、散水孔群を形成する散水孔の配置が凸状のため、着水後の広い水膜が、実現される。また、同じ散水孔群の複数の散水孔から放出された水は着水後一体化するため、直径の大きい散水孔から放出された水とみなせる。したがって、吐出される方向と平行な方向の散水孔群どうしの間隔が広い場合でも、着水後の広い水膜が期待できる。
【0013】
第4の発明の実施形態は、前記複数の散水孔は、前記散水孔の集合からなる散水孔群を複数形成し、前記散水孔群は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に複数配置され、且つ、上方に向かって凸状に配置されていることを特徴とする水栓である。
この水栓によれば、同じ散水孔群の複数の散水孔から放出された水は、着水後一体化するため、直径の大きい散水孔から放出された水とみなせる。したがって、直径の大きい散水孔が、上下方向を長手方向とする偏平形状に配置され、かつ上方に向かって凸状に配置されたものと同様の効果が得られる。すなわち、吐出される方向と平行な方向、および垂直な方向の散水孔群どうしの間隔が広い場合でも、着水後の広い水膜が期待できる。
【0014】
第5の発明の実施形態は、第1乃至4のいずれか一つの発明の実施形態において、前記複数の散水孔は、第一の散水孔と第二の散水孔を備え、前記第二の散水孔は、前記第一の散水孔よりも大きな直径を有し、前記第二の散水孔は、前記散水板の上下方向の中央部より下方側に多く配置されることを特徴とする水栓である。
この水栓によれば、より大きい水滴を着水させることができるため、衝突力が高められ、洗浄効果が上がる。しかしながら、調理者側に位置する散水孔径は小さいままであるから、水跳ねの心配もない。
【0015】
第6の発明の実施形態は、第1乃至5のいずれか一つの発明の実施形態において、シンクと、前記シンクに吐水流を放出するよう配置された水栓と、を備えたシステムキッチンである。
このシステムキッチンによれば、シンクの前後方向に渡って、広範囲に吐水されるとともに、着水後も広い水膜が形成できるため、調理における洗いの作業を効率化することができる。また、吐出された水が水膜を形成するため、水跳ねが抑制される。
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態に係るシステムキッチンを例示するための模式斜視図である。
本実施の形態にかかるシステムキッチン10は、水栓20と、シンク30と、カウンター60と、を備えている。水栓20には、整流吐水部22と、シャワー吐水部24と、が設けられている。シンク30は、平滑かつ略水平なシンク底面34と、シンク前面36と、シンク左側面37と、シンク右側面39と、シンク後面38と、を備えている。また、システムキッチン10には、カウンター60の左側方および右側方の少なくともいずれかに延在する調理台(図示せず)を備えるようにすることもできる。なお、本願明細書において「整流」とは水流が略一本の吐水流となる場合を意味し、「シャワー」とは水流が複数本の吐水流となる場合を意味するものとする。また、「水」という場合には、「湯」や「温水」をも含むものとする。
【0017】
水栓20は、使用者から見てシンク30の奥側、すなわちシステムキッチン10の後方で、かつカウンター上面62に設けられている。水栓20の基端部、すなわちカウンター60に取り付けられている近傍の部分は、カウンター上面62に対して垂直になるように設けられている。そして、所定の寸法よりも上方に位置する支持部は、カウンター上面62に対して傾斜して設けられている。この場合、傾斜角度θは、例えば、カウンター上面62に対して60°程度とすることができる。なお、傾斜角度θについては後述する。傾斜した支持部の先端に吐水部が接続されており、吐水部には、整流吐水部22とシャワー吐水部24と、が設けられている。
【0018】
また、カウンター上面62とシンク後面38との連接部分(略稜線部分)に、ある一定の角度で傾斜した図示しない設置面を設け、この設置面に対して垂直に設けられる直線状の水栓とすることもできる。また、シンク後面38からカウンター上面62に対して水平方向に所定の寸法だけ延在させ、先端をさらにカウンター上面62に対して垂直方向に所定の寸法だけ延在させるとともに、所定寸法より上方に位置する部分をカウンター上面62に対して傾斜させたような形状の水栓とすることもできる。また、シンク30の後方であって、カウンター上面62に対して垂直な壁面に設けられ、この壁面から水平方向に所定の寸法だけ延在させ、先端をカウンター上面62に対して傾斜させたような形状の水栓とすることもできる。
【0019】
また、水栓の形状は例示したものに限定されるわけではなく、少なくともシャワー吐水口部からカウンター上面62(シンクの底面34)に対して傾斜した方向に吐水流が放出されるような形状であればよい。なお、水栓の形状と整流吐水部22、シャワー吐水部24とに関しては後述する。また、水栓の設置場所も適宜変更することができる。
また、水栓20は、シンク前面36より後方側であってカウンター60より上方側に位置する吐水部(整流吐水部22、シャワー吐水部24)を有している。また、整流吐水部22およびシャワー吐水部24は、カウンター上面62に対して傾斜した状態でシンク30に向かって設けられている。そのため、吐水部(整流吐水部22、シャワー吐水部24)からカウンター上面62に対して傾斜した方向から吐水流を放出することができる。
【0020】
図2は、水栓の吐水部を例示するための模式図である。
なお、図2(a)は、吐水部の模式正面図であり、図2(b)は、図2(a)におけるA−A矢視断面を表す模式断面図であり、図2(c)は、図2(a)におけるB−B矢視断面を表す模式断面図である。
【0021】
水栓20は、その先端近傍に設けられた整流吐水部22と、整流吐水部22の下方に設けられたシャワー吐水部24と、を備えている。また、水栓20は、整流吐水部22へ水を導くための整流用配水管23と、シャワー吐水部24へ水を導くためのシャワー用配水管25と、を備えている。
図2に示すように、シャワー吐水部24には、一端を開口し、上下方向を長手方向とする略直方体形状の貯留部24bが設けられている。そして、貯留部24bの開口部分を覆うように散水孔を有する図示しない散水板(図3、図5〜図9を参照)が設けられている。そのため、本実施形態の水栓20は、整流吐水とシャワー吐水と、を行うことができる。整流吐水とシャワー吐水との切替は、例えば水栓20の先端に設けられた図示しない切替部手段によって行うことができる。この切替部手段は、水栓20の根元や、カウンター上面62に設けられていてもよい。
【0022】
後述するように、シャワー吐水部24から放出された直後の水の吐水流断面は、上下方向を長手方向とする偏平形状を呈している。そして、前述したように、水栓20の上部はカウンター上面62に対して傾斜角度θだけ傾斜しているので、シャワー吐水部24から放出される水もカウンター上面62に対して斜め方向からシンク底面34に向けて吐水されることになる。そのため、カウンター上面62を横切る際の吐水流の水平方向断面は、カウンター前縁64に対して垂直な方向を長手方向とする偏平形状を呈することになる。
【0023】
整流用配水管23は、水栓20の左側方寄りを通って、貯留部22bの左側方かつ下方に接続されている。一方、シャワー用配水管25は、水栓20の右側方寄りを通って、貯留部24aの右側方かつ下方に接続されている。
【0024】
水栓20の左右方向の幅寸法L2は、洗浄物の大きさに応じて適宜変更することができる。例えば、洗浄する対象は一般的に手、包丁や鍋などの調理器具、あるいは食材などであるが、幅寸法L2とともに後述する横幅寸法L5(図3を参照)を長くしすぎると小さなものを洗う際に余分に水を消費してしまうおそれがある。一方、幅寸法L2とともに後述する横幅寸法L5を短くしすぎると、狭い範囲にしか水がかからないため、大きなものを洗浄する際に手を大きく動かさなければならなくなる。
【0025】
この場合、例えば、調理中頻繁に行われる手や包丁などを洗うことを考慮に入れて水栓20の左右方向の幅寸法L2を設定するようにすることができる。例えば、幅寸法L2を約40mm程度、横幅寸法L5を約20mm程度とすれば、手や包丁の刃の部分を左右方向に移動させること無く短時間で「簡単洗い」を行うことができる。ただし、例示をした寸法に限定されるわけではなく、洗浄物の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0026】
図3は、シャワー吐水部に設けられる散水板を例示するための模式図であり、正面から眺めた場合の模式図である。なお、図3(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図3(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。
図3(a)に例示をする散水板26は、貯留部24bの開口部分を覆うようにして水栓20のシャワー吐水部24に固定される。散水板26には、複数の散水孔群27が設けられている。図3(a)に示すように、例えば、散水孔群を2行に配列することができる。なお、散水孔群については、後述する。
散水孔が設けられる領域は、上下方向を長手方向とする偏平形状で、かつ凸状となっている。偏平形状とは、この場合、一方の幅よりもそれと直交する方向の幅が長いことを意味するものとする。幅とは、上下方向もしくは、左右方向の最外端に位置する散水孔どうしの垂直もしくは、水平方向に投影された距離のことである。また凸状とは、この場合、左端の散水孔と、右端の散水孔との距離、すなわち横幅において、下方より上方の横幅が狭い形状のことを意味するものとする。下方より上方の幅が狭い形状は、上方に向かって漸次、幅が狭くなる形状でも、単に上方が下方より狭い形状でもよい。上方に向かって、漸次、幅が狭くなる形状としては、例えば、V字状、円弧状、放物線状、台形状等があげられる。単に上方が下方より狭い形状としては、例えば、下方に正方形を横にして3つ並べ、上方に正方形を1つ並べた形状当をあげることができる。必ずしも左右の形状が対照的である必要はなく、例えば左右に偏った三角形でもよい。また、例えば、V字状のように、下方の中央部に、孔のない空間を有していてもよく、三角形のように、孔のない空間を有さなくてもよい。
デザイン性その他の理由により、最外郭に、水膜の形成に影響を与えない程度の散水孔が施される場合においては、水膜形成に有効な散水孔の左右方向もしくは上下方向の幅寸法を用いて、偏平形状および凸状を規定すればよい。水膜形成に影響を与えない程度とは、その散水孔の合計面積が、全散水孔の総面積に比べ、1割未満程度である。
【0027】
図3(b)に示す散水孔群27において、例えば、散水孔27aの数を120個程度とすることができる。貯留部24bを介して、散水孔27aから水を放出させることができ、放出された水は、シャワー吐水流となってシンク底面34に着水するようになっている。
【0028】
図4は、洗浄対象の形状を例示するための模式図である。なお、図4(a)は、一般的な包丁を例示するための模式図であり、図4(b)は、使用者の手を例示するための模式図である。
本発明者の得た知見によれば、一般的な包丁の刃の長さL10は170mm程度である。また、刃の幅L11は30mm程度である。また、20〜69歳の人の手の幅寸法L12は、男性では、最大114.6mm程度、最小90.4mm程度、平均102.6mm程度である。また、女性では、最大103.1mm程度、最小80.8mm程度、平均91.8mm程度である。また、手の長さ(指先から手首までの長さ)L13は、男性では、最大197mm程度、最小165.6mm程度、平均181m程度である。また、女性では、最大181.2mm程度、最小154.4mm程度、平均167.3mm程度である。
【0029】
ここで、散水孔27aが設けられる領域の横幅寸法L5と縦幅寸法L6とについて説明をする。なお、図3に示すように、横幅寸法L5は、配設された散水孔27aのうち、最左端と最右端に設けられたものの外縁の最も外側に位置する部分間の寸法である。また、縦幅寸法L6は、配設された散水孔27aのうち、最上端と最下端に設けられたものの外縁の最も外側に位置する部分間の寸法である。
【0030】
システムキッチン10に設けられるシャワー吐水部24としては、包丁などの調理器具や使用者の手に対して水を広範囲に放出できることが好ましい。
【0031】
その中でも幅寸法が短い包丁に対して、水が包丁の幅の略全体わたって放出され、かつ包丁に当たらずにシンク30に直接着水することを抑制することが好ましい。これは、洗浄物に当たらず無駄になる水を抑制するためである。本発明者の得た知見によれば、一般的な包丁の刃の幅寸法L11(30mm程度)に対して横幅寸法L5を20mm程度とすれば、放出された水が包丁に当たらずにシンク30に直接着水することを抑制することができる。これにより、放出された水を洗浄のための水として有効に利用することができ、洗浄に使われない無駄な水を削減することができる。
【0032】
また、図4において例示をしたように、調理器具や手などの洗浄物は170mm程度の長さを有するものが多い。しかしながら、これらの洗浄物の略全長に一度に水を放出すると、大流量の水を消費してしまう。本発明者の得た知見によれば、洗浄物の全長の略半分の長さに対して水を放出し、洗浄物上を流れる水によって残りの略半分の長さを洗い流すようにすれば、水の使用量を抑制しつつ洗浄効果を向上させることができる。
【0033】
ここで、使用者が「簡単洗い」を行う場合、洗浄物をシャワー吐水部24(散水孔27a)から放出された水に差し出し、洗浄を行うと同時に、洗浄の状態を目で確認したいため、洗浄物の差し出される角度は、自然とカウンター上面に対し、略並行となり、水の進行方向に対し、斜めに差し出されるため、縦幅寸法L6を洗浄物の全長の略半分の長さよりも短くしても、洗浄物上においては洗浄物の全長の略半分の長さ程度に水があたるようになる。本発明者の得た知見によれば、例えば、縦幅寸法L6を65mm程度とすれば、70mm程度から75mm程度の長さに相当する水を洗浄物にあてることができる。その結果、洗浄物の広範囲に水を当てることができるとともに、水の使用量を抑制することができる。
また、例えば、散水孔群27の縦幅寸法L60を、33mm、横幅寸法L50を20mmとすることができ、散水孔群の間隔L7を、14mmとすることができる。この場合、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法L6は、65mmとすることができる。
【0034】
ただし、散水孔27aが設けられる領域の横幅寸法L5と縦幅寸法L6は例示をした寸法に限定されるわけではない。この場合、縦幅寸法L6が横幅寸法L5よりも大きくなるようにすれば、洗浄物の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0035】
次に、シャワー吐水部24に固定される散水板の変形例について例示をする。
図5〜図9は、シャワー吐水部24に固定される散水板の変形例を例示するための模式図である。
【0036】
図5に示すように、散水板26cには、図3に例示をした散水孔群27に換えて、散水孔群27cが、設けられている。この場合、散水孔群は、複数ではなく、1つのみであり、散水孔の数は、例えば250個程度とすることができる。散水孔群とは、最隣接の散水孔間隔が、散水孔の直径の6倍の長さ以内である散水孔の集合のことを意味するものとする。散水孔より水が吐出されると、せん断応力により粒化され、水滴の状態で、固体表面もしくは、固体表面上に形成された液膜、に衝突し、その衝撃で変形する。水滴の変形量は、水滴径、衝突速度、衝突角度、粘性、密度、固体の表面状態、液膜厚等により異なるが、キッチンでの一般的な使用条件では、概ね3倍以内と見積もれる。よって異なる散水孔より吐出された水滴どうしの相互作用を考えると、孔径の6倍以内では、着水後、一体化し、水膜を形成できる確率が高くなるが、6倍を超えると、水膜を形成する可能性が低くなる他、互いの影響が小さくなると考えられる。
【0037】
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5cは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6cは、例えば65mm程度とすることができる。また、上方の横方向(図の左右方向)の寸法L30cは、例えば7mm程度とすることができ、下方の縦方向(図の上下方向)の寸法L20cは、例えば16mm程度とすることができる。なお、図5に例示したものの場合には、寸法L5cが前述した横幅寸法L5に該当し、寸法L6cが縦幅寸法L6に該当することになる。
【0038】
図5に例示をしたもののように、1つの散水孔群27cを備えた散水板26cを用いれば、より密集した領域に、水滴が着水することになるため、着水後、広い水膜が形成できるようになる。すなわち、フライパンや平皿のような、平面的な形状を有する調理器具、食器等に対して、効率よく水ですすぐことができるため、水の使用量を抑制することができる。
【0039】
図6に示すように、散水板26dには、図3で例示した散水孔群27に換えて、散水孔群27dが、設けられている。この場合、散水孔群は、複数ではなく、1つのみであり、散水孔の数は、例えば250個程度とすることができる。
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5dは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6dは、例えば、65mm程度とすることができる。また、上方の横方向(図の左右方向)の寸法L30dは、例えば3mm程度とすることができ、下方の孔の空いていない空間の高さL21dは、例えば30mm程度とすることができる。
【0040】
散水孔群27dを備えた散水板26dを用いれば、長手方向に、広い範囲に吐水をかけることができる。散水孔群が設けられる領域は、図5に例示をした散水板26cと比べ、漸次幅が狭くなる形状になっているため、より着水後の水膜が広がるようになるため、効率よく洗浄を行うことができ、水の使用量を抑制することができる。
【0041】
図7は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。
なお、図7(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図7(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。
図7(a)に示すように、散水板26eには、散水孔群27eが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、例えば、1行×12列に配列することができる。
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5eは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6dは、例えば、65mm程度とすることができる。また、散水孔群27eの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7eは、例えば、5mmとすることができる。
【0042】
また、図7(b)に示すように、例えば、散水孔群を横方向(図の左右方向)が長手方向とする偏平形状にし、図の上方に向かって凸状形状にすることができる。散水孔群27eの横方向(図の左右方向)の寸法L50eは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L60eは、例えば、9mm程度とすることができる。
この場合、散水孔群は、横方向を長手方向とする偏平形状であるが、散水孔群が、縦方向に配列されているため、図6に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。同じ散水孔群の複数の散水孔から放出された水は、着水後一体化して水膜となり、さらに別の散水孔群から生じた水膜と一体化する。このため、散水孔群が縦に配列されている場合は、直径の大きい散水孔が縦方向を長手方向とする偏平形状に配置されている場合と同様の効果が得られる。すなわち、後述するように、凸状の効果に加えて、吐出する方向を長手方向とする偏平形状の効果も加わるため、着水後も広い水膜を形成させることが可能となり、洗いの作業を効率化することができる。
ただし、散水孔群の間隔が極端に大きい場合、互いの散水孔群の散水孔から吐出され、着水し、形成された水膜どうしの影響が弱まる。
【0043】
図8は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。
なお、図8(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図8(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。
図8(a)に示すように、散水板26fには、散水孔群27fが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、2行に配列され、上方1行目は1列、下方2行目は2列に配列することができる。
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5fは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6fは、例えば、30mm程度とすることができ、散水孔群27fの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7fは、例えば12mmとすることができる。この場合、散水板26fに、設けられた散水孔群は、縦方向(図の上下方向)を長手方向とする偏平形状に配置されている。
また、図8(b)に示すように、例えば、散水孔を、同心円上に2列配列することができる。例えば、散水孔の数を合計30個程度とすることができる。
前述したように、散水孔群は、直径の大きい散水孔とみなせることから、直径の大きい散水孔が、縦方向を長手方向とする偏平形状に、且つ上方に向かって凸状に配置されている場合と同様の効果が得られる。すなわち、縦方向に広範囲に吐水されるとともに、着水後も広い水膜が形成される。
散水孔群の、上下方向と左右方向の寸法を等しく、例えば、円状とした場合においても、散水孔群が、凸状で、かつ縦方向を長手方向とする偏平形状に配列することで、図6に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。
【0044】
図9は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。なお、図9(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図9(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。
図9(a)に示すように、散水板26gには、散水孔群27gが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、例えば、1行×12列に配列することができ、上から7列の散水群の散水孔直径を、例えば、0.4mm程度とすることができ、下から5列の散水孔群の散水孔直径を、例えば、0.5mm程度とすることができる。
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5gは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6gは、例えば、65mm程度とすることができる。また、散水孔群27gの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7gは、例えば、5mmとすることができる。
また、図9(b)に示すように、例えば、散水孔群を横方向(図の左右方向)が長手方向とする偏平形状にし、図の上方に向かって凸状形状にすることができる。散水孔群27gの横方向(図の左右方向)の寸法L50gは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L60gは、例えば、9mm程度とすることができる。
この場合、散水孔群は、横方向を長手方向とする偏平形状であるが、散水孔群が、縦方向に配列されているため、図6に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。また、下方向の散水孔群の散水孔直径は、大きくなっており、より大きな水滴が衝突するため、衝撃力が大きくなり、さらに洗い易くなる。大きな水滴の場合、水跳ねが生じるおそれがあるが、上方向に小さい散水孔直径の散水孔が配列されているため、上方向の散水孔から吐出されるシャワー吐水流に遮られ、調理者側に飛び散ることもなくなる。
【0045】
ただし、図5〜9に例示をした寸法に限定されるわけではなく、洗浄物の大きさなどに応じて適宜変更することができる。また、散水孔群の配設数や配設ピッチなども図示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、任意の曲線、傾斜や屈折した直線などに沿って散水孔を設けるようにすることもできる。また、散水孔の形状も図8に例示をした円形に限定されるわけではなく任意の形状とすることができる。
また散水孔の孔の角度を中心から外側に向けて形成させることで、L5dまたはL6dの寸法を小さくしながらも、広い吐水範囲の吐水を得ることもでき、その場合、散水板の寸法を小さくできるため、デザイン性が向上する。
【0046】
次に、散水孔および散水孔群の配列と、着水後に形成される水膜の関係について、説明する。なお、便宜上、水膜が形成される表面が平面の場合のみ行うが、湾曲した表面においても、同様の効果を示す。
図10は、吐水流と、着水後に形成される水膜を例示するための模式図である。図10(a)は、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より大きい場合の水膜を例示する模式図であり、図10(b)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きい場合の水膜を例示する模式図であり、図10(c)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きく、さらに縦方向の上方に向かって凸状である場合の水膜を例示するための模式図である。
散水孔の中心軸方向が一致している場合、散水孔から吐出された水が着水する着水部の形状は、散水孔が設けられる領域の形状が反映される。着水部とは、水が着水する場所である。したがって、図10(a)に示すように、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より広い場合、着水部45aの形状も横幅寸法が大きくなる。着水面に対し、斜め方向に吐水しているため、着水後、水は略進行方向(図の上方向)に流れようとする。水の表面張力により、進行方向と直交する方向(図の左右方向)にも、流れの向きを変えようとするが、直交方向(図の左右方向)には、密に水が着水しているため、直交方向(図の左右方向)へ向かおうとする流れが抑制され、結果として、直交方向(図の左右方向)への拡がりは少ない。
【0047】
図10(b)に示すように、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より広い場合、着水部45bの形状も、縦幅寸法が大きくなる。着水後、水は略進行方向(図の上方向)に流れようとするが、着水後に、着水面上を流れる速さは、散水孔から吐出され、着水する前の水の流れる速さに比べ遅いため、略進行方向(図の上方向)に、水が密集することになる。着水部が、略進行方向を長手方向とする偏平形状の場合、特に水の密集が激しいため、進行方向の向きが、図の左右方向に変えられ、結果として、図の左右方向への拡がりが大きくなる。
【0048】
図10(c)に示すように、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より広く、かつ縦方向の上方に向かって凸状である場合、着水部45cの形状も、進行方向(図の上方向)を長手方向とする偏平形状で、かつ凸状となる。この場合、略進行方向を長手方向とする偏平形状であるため、図10(b)に示したのと同様に、進行方向の向きが左右方向に変えられるが、横幅が段階的に拡がっているため、左右方向への流れの向きの変換がより顕著となるため、さらに左右方向に拡がることとなる。
【0049】
図11は、水膜の面積を調べる試験の概要を例示するための模式図である。なお、図11(a)は、試験の様子を例示するための模式断面図、図11(b)は、図11(a)における矢視方向から見た模式平面図である。
図11(a)に示すように、カウンター上面62に対して15°傾斜させたアクリル板(縦500mm×横500mm)をシンク30内に挿入し、カウンター上面62の高さを横切る水40を受けるようにした。そして、図11(b)に示すように、形成された水膜の形状を測定し、その面積を求めた。また、散水孔および散水孔群の配列を替えて、形成される水膜の形状および面積を、それぞれ求めた。なお、吐水量は、5.0L/minで、吐水し、散水孔の合計面積は、それぞれの散水板で等しい。
【0050】
図12は、散水孔および散水孔群の配列、形成された水膜の形状、水膜の面積を示した表である。図12(a)〜(e)は本発明の実施の形態に係る散水板を例示するための試験結果であり、図12(f)〜(j)は、比較の散水板を例示するための試験結果である。
図12(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、図6、図5、図7、図9に示した散水板26d、26c、26e、26gを用いて吐水した場合の、水膜の形状および面積を示している。図12(a)〜(e)に示した水膜の形状は、進行方向と直交する方向(図の左右方向)の拡がりが大きく、水膜の面積も大きい。これは図10(c)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れが、顕著に促進されたためである。
これに対し、図12(f)は、図6に示した散水板26dを上下方向を逆にして取付けた散水板を用いて、吐水した場合に、形成された水膜の形状および面積を示している。左右方向の拡がりが抑制されたため、水膜の面積は小さい。
また、図12(g)、(h)は、散水孔群の間隔の広い散水板を用いて吐水した場合に、形成された水膜の形状および面積を示している。散水孔群の間隔が大きすぎるため、着水した水滴どうしの影響が弱まるため、水膜の面積は小さい。
図12(i)は、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より大きい散水板を用いて、吐水した場合の水膜の形状および面積を示している。図10(a)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れが抑制されるため、水膜の面積は小さい。
図12(j)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きい散水板を用いて、吐水した場合の水膜の形状および面積を示している。図10(b)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れは促進されているものの、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、上下方向に等しいため、凸状ほど広い面積を形成することはできない。
【0051】
「簡単洗い」や「丁寧洗い」などの洗い動作を行う際には、吐水範囲の広いシャワー吐水流とすることが好ましい。この場合、前述したように、カウンター上面62に対して傾斜した方向にシャワー吐水流が形成されれば、水栓20で視界を遮られることがないため、洗浄面が見やすく作業性がよい。また、傾斜した方向にシャワー吐水流が形成されれば、水平面内における洗浄面積を大きくすることができる。また、洗浄物の全長方向に対して効率よく水を当てることができるので、水の消費量を抑制することができる。また、システムキッチン10の前方への張り出しも少なくすることができるので、使用者はシンク30内およびその上方の領域を広く使用することができる。
そのため、洗い動作を行う際には、カウンター上面62に対して傾斜した方向にシャワー吐水流が形成されるようなシャワー吐水流の形態とすることが好ましい。
【0052】
また、傾斜した吐水部を有する水栓において、吐水量を少量とした場合、水の表面張力により、水栓本体に水が伝ってしまい、洗面ボウルやシンクの外に水が流出するという問題がある。一般的に、シャワー吐水部は、広範囲に水を吐水したいときに使うものであるから、少量の水を吐水させたいシーンは少ないと考えられるが、吐水の初期段階、止水の終了間際においては、水流の勢いが十分でないため、シャワー板に沿って水伝いが生じるおそれがある。
したがって、傾斜したシャワー吐水部を有する水栓においては、水伝い防止部を設けることが好ましい。
【0053】
次に、水跳ねについて説明をする。
図13〜図15は、着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
また、図16〜図18は、着水面に対し斜め方向から吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
尚、図14(a)、図17(a)は一本の水流を例示するための模式図であり、その他の図は複数の水流を例示するための模式図である。この場合、水流には粒化された水滴の集団も含むものとする。
【0054】
図13〜図15に示すように、水栓20から吐水された水40が着水面100に対して垂直に着水すると、水40は、あらゆる方向に対して略同等に流れようとする。すなわち、水40は着水面100の全体に広がろうとする。一本の水流しか存在せず、かつ着水部に障害物が存在しない場合、水40は着水部から遅延なく排出される。着水部とは、水40が着水する場所のことである。しかしながら、シャワー吐水のように複数の水流の吐水が行われた場合には、図13や図14(b)に示すように隣り合う水流との間の領域44において、互いの進行方向を打ち消し合うように水40が流れようとする。その結果、水40は流れを失い、その場に滞留しようとするか、もしくは上方にその方向を変えられ、滞留する水がちぎれ、水滴として、飛び散ろうとする。水滴として飛び散るほどのエネルギーを有さない場合においても、領域44の水面は著しく乱れ、乱れは近傍に伝播される。そして、図14に示すように、乱れが伝播され、波を打った水40bの水面に略垂直方向から水40が着水すると、さらに乱れが増幅され、波が大きくなり、ある曲率以上に変形された水面は、水滴として周囲に放出される。
【0055】
この場合、隣り合う水流との間の領域48においては、跳ねた水滴どうしが合体し、大きな水滴となることもあれば、水滴どうしが衝突によりさらに細かな水滴に分裂することもあり、その態様はさらに複雑となる。さらに、滞留した水40bに対して垂直に着水した水40は、一方向に水跳ねを生じさせるわけではなく、あらゆる方向に水跳ねを生じさせる。そのため、例えば、領域50や領域52において生じた水跳ねは打ち消されることはない。
【0056】
これに対し、図16〜図18に示すように、水栓20から吐水された水40が着水面100に対して斜め方向から着水すると、水40は略進行方向である矢印C、矢印D、矢印Eの方向に流れようとする。すなわち、着水面に略一方向に流れる水の流れを有する水膜が形成されることになる。
また、この場合、略進行方向に向かうエネルギーが大きいため、着水した大部分の水40が略進行方向に流れようとする。この場合、同一の方向に向かう流れとなり、水面の乱れが軽減されるため、水滴として放出される確率が低くなる。また、図18に示したように、水の流れができ、安定している水面40bに、斜め方向から水40が着水すると、流れと同一方向であることから、衝突の衝撃が緩和され、水面の乱れが抑制されるため、水跳ねが軽減される。また、図17(b)に示したように、水40は略一方向(略進行方向)に合流するようにして流れる。すなわち、吐水部から着水面100(例えば、シンク底面34)に対して傾斜した方向に吐水流を放出することで、着水面100を略一方向に流れる水の流れを形成させることができる。尚、この場合においても、図18に示すように、隣り合う水流との間の領域46においては、干渉し合い、水面が乱れ、水跳ねが生じることもあるが、進行方向に向かうエネルギーの方が大きいため、干渉する方向に向かうエネルギー量は小さくなる。そのため、水面の乱れも小さくなり、水跳ね量は少なくなる。
【0057】
ここで、本発明者の得た知見によれば、着水面100に対し斜め方向から水40を着水させることで生じさせた水40の流れの上に次の水40を着水させるようにすれば、水跳ねを抑制することができる。この原因は、必ずしも明らかではないが以下のことが考えられる。すなわち、斜め方向から水40を着水させることで着水時の衝撃を緩和することができる。また、すでに着水している水40の上に着水する場合においても、進行方向が一致するため、水面の乱れが生じにくい。尚、水跳ねを抑制することができるとともに、着水音をも抑制することができる。また、斜め方向から水40を着水させることで一方向の水の流れを強制的に作り出すことができる。そのため、水勢を高めることができるので滞留する水40の量が少なく、すでに着水している水40が水跳ねを起こすことを抑制することができる。この場合、水の滞留を少なくして水跳ねを抑制するためには、着水面100(例えば、シンク底面34)は平滑、略水平であることが好ましい。
【0058】
次に、傾斜角度θと水跳ねとの関係を説明する。
水跳ね試験は、前述した水膜の面積を調べる試験と同様にして、図11(a)に示すように、カウンター上面62に対して15°傾斜させたアクリル板(縦500mm×横500mm)をシンク30内に挿入し、カウンター上面62の高さを横切る水40を受けるようにした。そして、図11(b)に示すように、水膜(滞留する水)が形成されていない領域110aに水跳ねした水滴量を測定した。この場合、吐出時間は150秒としている。また、傾斜角度θを0°〜90°の範囲で変化させて、水跳ねした水滴量を測定している。尚、アクリル板の傾斜角度15°は、吐水された水40がシンク底面34に着水した時の着水の角度との差を考慮したものである。すなわち、シンク底面34に着水した時の着水の角度に合わせるための補正値である。
【0059】
図19は、傾斜角度θと水跳ねとの関係を例示するためのグラフ図である。
尚、横軸は傾斜角度θを表し、縦軸は図11に例示をした水跳ね試験により測定した水滴量を水跳ね量として表したものである。
【0060】
図19に示すように、図11に例示をした水跳ね試験によれば、傾斜角度θが30°以下では、水跳ね量は略一定で多いことが分かる。これは図13〜15に関して前述したように、水が洗浄物に対して、略垂直に着水するため、着水面で水の滞留が起こり、水面が乱れるためである。
これに対し、傾斜角度θが40°以上では、水跳ねが単調的に減少していることが分かる。これは図16〜18に関して前述したように、水が洗浄物に対して、傾斜して着水した場合は、着水した水は、遅延なく排出され、水面の乱れが抑制されるためである。
なお、傾斜角度θが80°以上では、水面の乱れの抑制が頭打ちとなるため、水跳ね量の減少効果も、飽和し始める。
これにより、40°以上の場合には、水跳ねの減少効果が大きくなることが分かる。
また、傾斜角度を大きくしていくと、水の流速、流量を変えた場合の、吐水の軌跡の変動が大きくなり、作業効率が悪くなる恐れがあるのに加え、吐水がより遠くまで到達することからシンク30の前後方向の寸法が大きくなりすぎる恐れがあることから、80°以下が好ましい。
【0061】
図20は、シャワー吐水の軌跡を例示するための写真である。
図20に示す吐水の軌跡は、傾斜角度θが55°、流速が2.1m/secの場合である。この場合のシンク底面34に対する着水角度αは55°程度である。尚、流速が2.1m/secは、システムキッチンにおいて一般的な洗浄作業をする場合を考慮した値である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係るシステムキッチンを例示するための模式斜視図である。
【図2】水栓の吐水部を例示するための模式図である。
【図3】シャワー吐水部に設けられる散水板を例示するための模式図である。
【図4】洗浄対象の形状を例示するための模式図である。
【図5】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図6】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図7】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図8】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図9】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図10】吐水流と、着水後に形成される水膜を例示するための模式図である。
【図11】水膜の面積を調べる試験および水跳ね試験の概要を例示するための模式図である。
【図12】散水孔および散水孔群の配列、形成された水膜の形状、水膜の面積を示した表である。
【図13】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図14】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図15】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図16】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図17】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図18】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図19】傾斜角度と水跳ねとの関係を例示するためのグラフ図である。
【図20】シャワー吐水の軌跡を例示するための写真である。
【符号の説明】
【0063】
10 システムキッチン、20 水栓、22 整流吐水部、24 シャワー吐水部、27 散水孔群、27a 散水孔、30 シンク、34 シンク底面、36 シンク前面、38シンク後面、60 カウンター、62 カウンター上面、θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャワー吐水部を備えた水栓であって、
前記シャワー吐水部は、複数の散水孔を備えた散水板を備え、
前記シャワー吐水部は、水平に対して、下方に傾斜した方向に吐水流を放出し、
前記複数の散水孔は、前記散水板に、前記吐水流が着水時に広い水膜を形成するよう配置されている
ことを特徴とする水栓。
【請求項2】
前記複数の散水孔は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に配置され、
且つ、上方に向かって凸状に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の水栓。
【請求項3】
前記複数の散水孔は、前記散水孔の集合からなる散水孔群を複数形成し、
個々の前記散水孔群において、前記散水孔は、上方に向かって凸状に配置され、
前記散水孔群は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に複数配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の水栓。
【請求項4】
前記複数の散水孔は、前記散水孔の集合からなる散水孔群を複数形成し、
前記散水孔群は、前記散水板に、上下方向を長手方向とする偏平形状に複数配置され、
且つ、上方に向かって凸状に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の水栓。
【請求項5】
前記複数の散水孔は、第一の散水孔と第二の散水孔を備え、
前記第二の散水孔は、前記第一の散水孔よりも大きな直径を有し、
前記第二の散水孔は、前記散水板の上下方向の中央部より下方側に多く配置される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の水栓。
【請求項6】
シンクと、
前記シンクに吐水流を放出するよう配置された
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の水栓と、
を備えたシステムキッチン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2009−235779(P2009−235779A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83085(P2008−83085)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】