説明

水溶性、カチオン性および両親媒性の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム

水溶性、カチオン性および両親媒性の薬学的に活性な物質(API)を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム(DDS)。上記DDSは、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩および/またはN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩と共にAPIによって形成された水に難溶性のナノ粒子を含む。かかるDDSを含む医薬組成物。かかるDDSおよびかかる医薬組成物を調製するための方法。癌の治療用のかかるDDSおよび医薬組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性カチオン性の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システム、かかるドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物およびかかるドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法に関する。本発明はまた、癌の治療用の医薬品を調製するためのかかるドラッグ・デリバリー・システムの使用に関する。
【0002】
さらに、本発明はまた、両親媒性の薬学的に活性な物質の薬物効率を高めるための方法、および両親媒性の薬学的に活性な物質のバイオアベイラビリティを増大させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
薬物の有効性に関連する2つの重要なパラメータは、「治療係数」(「治癒比」としても知られている)および「治療域」である。治療係数は、治療効果を引き起こす治療薬の量の毒性作用を引き起こす量に対する比較である。定量的に、治療係数は毒性作用をもたらすのに必要な用量を治療用量で割ることによって得られた比である。一般的に用いられる治療係数の測定はLD50をED50で割ったものである。治療域は、安全域の範囲内を維持しながら有効に疾患を治療することができる薬物の用量を推定するためのパラメータである。治療域は、ED50とLD50曲線の開始点との間の範囲である。このパラメータの調整は、大部分の潜在的な副作用を避けるのに役立ち得ると考えられる。
【0004】
狭い治療域を有する医薬品はよく見られ、たとえば、抗不整脈薬、抗痙攣薬、強心配糖体、アミノ配糖体、細胞毒性薬、および免疫抑制薬などの群に多い。
【0005】
大部分の抗腫瘍薬は非常に狭い治療域を有する。かかる薬剤の治療係数を改善する1つの方法は、適当な注入レジメンを用いることである。理想的には、薬物濃度は、所望の時間範囲の治療域内で維持され、その後、速やかに体から排出される。長期の注入は、一般に、わずかの副作用を有する優れた効果を示している。たとえば、長期の注入は、主として用いられる抗癌薬の1つであるドキソルビシンの心毒性を軽減する最も効率的な方法である。しかし、長期の注入(時折、72時間まで)は、費用がかかり不都合である。したがって、様々な種類の薬物のデポ剤からの有効成分の緩徐放出を保証することができるドラッグ・デリバリー・システムを使用してかかる注入を模倣するための多大な努力がなされている。かかるデポ剤を含むドラッグ・デリバリー・システムは、通常、薬物を様々なポリマー、ポリマーソーム、リポソーム、またはマイクロエマルジョンのナノ粒子に封入する方法によって提供される。
【0006】
しかし、異なる種類(ウイルス、細菌および真菌胞子など)の敵対的な侵入者に対して防御するために、ヒトおよび動物の体は、約50nmよりも大きな粒子を除去するまたは崩壊させるための機構を発達させてきた。免疫系の一部である細網内皮系(RES)は、かかる粒子の最も有効な破壊者である。RESによって標的にされる粒子の確率は、粒子サイズが増加すると共に劇的に増加する。
【0007】
多くの薬物は、たとえばそれらの構造中に1つまたは複数のアミノ基を有する薬物など、カチオン性両親媒性の形態で提供される。酸性環境では、これらの薬物物質は、たとえば、塩酸塩、硫酸塩、乳酸塩または酒石酸塩などの塩に転換され、主にプロトン化型で存在する。かかる転換により、水溶液中で薬物の溶解性を増大させ、静脈内注入にこれらの溶液を使用することができる。注入後、血液のpHが約7.4であり、結果として薬物の脱プロトン化が起こるため、この環境はわずかに塩基性に切り替わる。今度はこれが物質の溶解性を低減させ、これによりタンパク質結合の程度を増加させ、物質の細胞への浸透を促進しならびに腎クリアランスを低下させることによって薬物のPK/PD特性を改善する。多くの抗新生物薬はカチオン性両親媒性の形態で提供され、記載の投与方法は、たとえば、ドキソルビシンおよびその類似体(エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン)、ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン)、アムサクリン、ミトキサントロン、トポテカンおよびイリノテカンなどの薬物に適用される。
【0008】
US2004048923は、数ある中でもとりわけ、N−(オール−トランス−レチノイル)−L−システイン酸メチルエステルのナトリウム塩およびN−(13−シス−レチノイル)−L−システイン酸メチルエステルのナトリウム塩を含むレチノイドの群を記載している。それらの物質はパクリタキセルおよびドセタキセルのような難溶性医薬化合物の新規なミセル製剤を製造することが可能であると述べている。US2004048923の教示は、水溶性が低下し封入容量が改善されたより小型のナノ粒子の形成を提供することを目的としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開2004048923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水溶性両親媒性カチオン性の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムを創出し、上記システムは水溶性が低下し封入容量が改善されたより小型のナノ粒子の形成を提供できることが望まれるはずである。これは、より優れたPK/PD特性を与え、投与される薬物の治療係数を改善する。
【0011】
本発明の一目的は、かかるドラッグ・デリバリー・システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の一態様は、単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムであって、ドラッグ・デリバリー・システムが、0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を含み、前記ナノ粒子が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと結合している前記物質によって形成される、ドラッグ・デリバリー・システムに関する。
【0013】
本発明のドラッグ・デリバリー・システムは、約50nmよりも小さいナノ粒子およびメチルエステル賦形剤の封入容量(これは賦形剤の重量対封入薬物の重量の比で表される)約1.2を提供する。
【0014】
本発明は、以下の説明、実施例および添付図面により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せを有するカチオン性両親媒性物質の結合による、本質的に水に不溶性のナノ粒子の形成を示すスキームである。
【図2】N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびドキソルビシン塩酸塩(重量/重量比2.3:1)によって形成された粒子のサイズのドキソルビシンの濃度への依存を示す図である。溶媒:NaCl(130mmol)、CaCl2(2mmol)およびMgCl2(0.8mmol)の水溶液。
【図3】N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびドキソルビシン塩酸塩の製剤を重量/重量比2.1:1で希釈した後の粒子を溶解する動態を示す図である。溶媒:NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)、酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)の水溶液。ドキソルビシン2〜0.04mg/mLまで希釈。
【図4】NaCl(9mg/mL)の溶液中に、ドキソルビシン濃度0.5mg/mlでドキソルビシン、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1.05:1.05)の凍結乾燥した混合物を再構成することによって得られた製剤の体積によるサイズ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明が開示され記載される前に、本発明は、本明細書に開示される特定の構成、プロセスステップおよび物質に限定されず、したがって、構成、プロセスステップおよび物質はいくらか変わり得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、個々の実施形態を記載する目的のために使用され、本発明の範囲は添付した特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるため、限定的でないことも理解される。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、別段文脈で明確に指示しない限り、単数形(「a」、「an」および「the」)は、複数の対象を含むことに留意しなければならない。
【0018】
本明細書において、別段の記載がない限り、ドラッグ・デリバリー・システムの成分または本発明のもしくは本発明の方法で使用される組成物の量を修飾する「約(about)」という用語は、たとえば、濃縮物を作製するために使用されるまたは現実世界で溶液を使用する典型的な測定および液体処理手順によって; これらの手順で不注意な誤りによって; ドラッグ・デリバリー・システムもしくは組成物を作製するためまたはこれらの方法を行うために使用される成分の製造、供給源または純度における相違などによって起こり得る、数量における変動を意味する。「約」という用語はまた、特定の初期の混合物から生じる組成物の異なる平衡条件によって異なる量を包含する。「約」という用語によって修飾されるか否かにかかわらず、特許請求の範囲にはそれらの量に相当する量が含まれる。
【0019】
本明細書において、別段の記載がない限り、「薬学的に許容される担体」という用語は、非毒性の不活性な固形、半固形もしくは液体の充填剤、希釈剤、封入材料または任意のタイプの補助的な製剤を意味する。
【0020】
本明細書において、別段の記載がない限り、「ドラッグ・デリバリー・システム」という用語は、1種(または複数)の治療薬を1箇所(または複数箇所)の所望の身体の部位にデリバリーするおよび/または適切な時機に1種(または複数)の治療薬の放出をもたらす製剤またはデバイスを意味する。
【0021】
本明細書において、別段の記載がない限り、「薬学的に活性な物質」という用語は、ヒトおよび動物を含めた宿主に投与されるとき、治療上有益な薬理学的反応をもたらす任意の物質を包含する。
【0022】
本明細書において、別段の記載がない限り、「粒子サイズ」という用語は、633nmの波長を有する赤色レーザーを用いて動的光散乱によって測定されたZ−平均直径を意味する。
【0023】
本明細書において、別段の記載がない限り、「ナノ粒子」という用語は、サイズがナノメートルで測定される顕微鏡的粒子を意味する。
【0024】
本明細書において、別段の記載がない限り、物質の「溶解性」という用語は、指定された溶媒に、約室温(約15℃〜約38℃の間を意味する)で溶解しようとする物質の能力を意味する。
【0025】
本明細書において、別段の記載がない限り、「細胞毒性化合物」という用語は、細胞の成長を停止させるまたは細胞を死滅させる能力を有する化合物を意味する。
【0026】
本明細書において、別段の記載がない限り、「細胞分裂阻害化合物」という用語は、細胞を、必ずしも溶解させないまたは死滅させないが、永続的な非増殖性状態にする能力を有する化合物を意味する。
【0027】
本明細書において、別段の記載がない限り、「誘導体」という用語は、元の構造の化学反応によって直接、または元の構造の部分置換である「修飾」によって、または設計および新規の合成によって元の構造から形成された化合物を意味する。誘導体は、合成であっても、細胞の代謝産物でもin vitro酵素反応でもよい。
【0028】
一実施形態では、本発明のドラッグ・デリバリー・システムのナノ粒子は、0.01mg/ml未満の水中で溶解性を有する。
【0029】
他の実施形態では、薬学的に活性な物質は、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと非共有結合で結合する。
【0030】
カチオン性の薬学的に活性な物質は、たとえば、1種または複数のアミノ基を有することができ; カウンターのアニオンは、たとえば、塩酸イオン、硫酸イオン、乳酸イオンまたは酒石酸イオンとなることもある。物質は、天然、合成、または半合成由来となり得る。
【0031】
一実施形態では、薬学的に活性な物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であり; この実施形態の一態様では、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物は、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せであり; 具体的な態様では、前記化合物は、プロトン化型のドキソルビシンであり; 他の態様では、前記化合物は、プロトン化型のミトキサントロンである。
【0032】
本発明の他の実施形態によれば、
−癌の治療用の医薬品を調製するための本発明のドラッグ・デリバリー・システムの使用および本発明のドラッグ・デリバリー・システムが、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与される癌の治療方法への使用; および
−癌の治療用の医薬品を調製するための本発明の医薬組成物の使用および本発明の医薬組成物が、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与される癌の治療方法への使用がまた提供される。
【0033】
本発明の他の実施形態は、薬学的に許容される担体およびこの種類のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物に関する。この実施形態の一態様では、薬学的に活性な物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であり; この実施形態の一態様では、医薬組成物は、水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤または軟質ゲルの形態で提供することができる。
【0034】
かかる組成物は、たとえば、塩酸塩、硫酸塩、乳酸塩、または酒石酸塩などの1種または複数のプロトン化されたアミノ基を含む薬学的に活性な物質の水溶液をアミノ基当たりN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、またはそれらの組合せの2当量以上と、たとえば、混合することによって調製することができる。これは、塩酸塩の例を示す以下の式によって例示される。
(薬物−NH3n+Cln+n AnSurfact−ONa→(薬物−NH3n+AnSurfact−On+n NaCl
式中、
「AnSurfact−O」という用語は、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのアニオン、またはN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのアニオン、またはそれらの組合せのアニオンを意味し;
「(薬物−NH3n+」という用語は、1つ(または複数)のプロトン化されたアミノ基を有する薬学的に活性な物質を意味する。
【0035】
見られるように、n当量のAnSurfact−Oは(薬物−NH3n+に結合し、式に従って本質的に水に不溶性の複合体を形成し、残りの量のAnSurfact−Oは、得られた複合体の溶解性を保証するのに適用される。
【0036】
AnSurfact−Oの過剰量は、0.2〜10当量の範囲となり得る。純水または異なる水溶液は、この方法において溶媒として用いることができる。薬物のアンモニウム塩をAnSurfact−Oと混合することによって得られたこれらの新規な組成物は、直接用いることもさらなる使用のために凍結乾燥することもできる。
【0037】
本発明のさらなる実施形態は、かかるドラッグ・デリバリー・システムの調製におけるN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、またはそれらの組合せの使用に関する。
【0038】
本発明のさらなる実施形態は、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlであるカチオン性両親媒性物質を疎水化するための、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの使用に関し; この実施形態の一態様では、前記カチオン性両親媒性物質は、細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物である。
【0039】
本発明の他の実施形態は、単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである少なくとも1種の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムを調製するための方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水中で溶解性を有するナノ粒子を形成する方法に関し; この実施形態の一態様では、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している。この実施形態のさらなる態様では、上記物質を約0.2〜10当量の過剰量の前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合する。上記実施形態の具体的な実施形態では、ナノ粒子は、0.01mg/ml未満の水への溶解性を有する。
【0040】
この実施形態の一態様では、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せを、ドキソルビシンの塩酸塩、硫酸塩、乳酸塩もしくは酒石酸塩またはその類似体であるエピルビシン、ダウノルビシン、またはイダルビシン; トポテカン; イリノテカン; またはアムサクリンなどとモル/モル比1:1で混合して、水に本質的に不溶性であるナノ粒子を用意する。
【0041】
たとえば、ミトキサントロンおよびビンカアルカロイドなどの2つ以上のアミノ基を有する薬学的に活性な物質の場合では、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、またはそれらの組合せの量は、プロトン化されたアミノ基の数に対応するべきである。
【0042】
本発明の他の実施形態は、薬学的に許容される担体および請求項1から8のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物を調製する方法であって、前記ドラッグ・デリバリー・システムが、ドラッグ・デリバリー・システム中の両親媒性物質のカチオン電荷に基づいて約0.2〜10当量の量である、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合される方法に関する。
【0043】
本発明の他の実施形態は、単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである少なくとも1種の薬学的に活性な物質の薬物効率を高めるための方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を形成する方法に関し; この実施形態の一態様では、前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している。
【0044】
この実施形態のさらなる態様では、前記物質を約0.2〜10当量の過剰量の前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合する。上記実施形態の具体的な実施形態では、ナノ粒子は、0.01mg/ml未満の水への溶解性を有する。
【0045】
本発明の他の実施形態は、単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである少なくとも1種の薬学的に活性な物質のバイオアベイラビリティを増大させる方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を形成する方法に関し; この実施形態の一態様では、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している。この実施形態のさらなる態様では、前記物質を約0.2〜10当量の過剰量の前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合する。上記実施形態の具体的な実施形態では、ナノ粒子は、0.01mg/ml未満の水への溶解性を有する。
【0046】
本発明のドラッグ・デリバリー・システムのナノ粒子により、極性がより低くなり水溶性が低下し、これによって細胞膜の浸透が改善されタンパク質により強く結合し、効力が増大する。
【0047】
本発明は、以下の限定しない実施例においてより詳細に例示される。
【実施例】
【0048】
材料および方法
使用した製剤は、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せを伴った、凍結乾燥した薬学的に活性な物質を、再構成のために指定された溶液によって再構成することによって、新たに調製または取得された。
【0049】
ドキソルビシンをメルシャン株式会社、日本から購入した。ミトキサントロン、トポテカンおよびイリノテカンをChemtronica KB、Swedenから購入した。アドリアマイシンおよびドキシルを薬局から購入し製造業者の添付文書に従って再構成した。
【0050】
製剤の粒子サイズを赤色レーザー(633nm、Nano−ZS、Malvern Instruments Ltd)を用いる動的光散乱法によって測定した。粒子サイズをプロットするために3つの独立した測定値の平均値を算出した。Y誤差棒は測定値の+/−標準偏差によって構成される。
【0051】
in vitroで細胞毒性を評価するため、異なるヒトの腫瘍細胞系の細胞をATCC(American Type Culture Collection)(Rockville、Md.、USA)から購入した。すなわち、ヒト乳腺癌細胞系MDA−MB−231(ATCC−HTB−26、ロット番号3576799)、ヒト卵巣腺癌細胞系SKOV−3(ATCC−HTB−77、ロット番号3038337)およびヒト非小細胞肺癌細胞系A549(ATCC−CCL−185、ロット番号3244171)である。MDA−MB−231細胞を2mM L−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FBS)および抗生物質添加MEM培養培地で増殖した。SKOV−3細胞を1.5mM L−グルタミン、10%FBSおよび抗生物質を補充したマッコイの5A培養培地中で培養した。すべての培地およびサプリメントをSigma−Aldrich Co.(St. Louis、Mi.、USA)から購入した。すべての系の細胞増殖をBD Falcon(商標)25もしくは75cm2培養フラスコ(Becton Dickinson Labware)中で実施した。A549細胞を1mM L−グルタミン、10%FBSおよび抗生物質添加HamのF−12培養培地中で培養した。すべての系の細胞増殖をBD Falcon(商標)25もしくは75cm2培養フラスコ中で実施した。
【0052】
薬物細胞毒性試験を接着細胞用のBD Falcon(商標)96ウェル培養プレート(Becton Dickinson Labware)を用いて実施した。これらのプレートを1ウェル当たりの体積200μl中でMDA−MB−231が1ウェル当たり8×103細胞、SKOV−3が1ウェル当たり10×103細胞、または1ウェル当たりA549が6×103細胞で細胞ごとに播種した。フラスコおよび培養プレートを細胞増殖のために空気95%およびCO25%の加湿された雰囲気中で37℃でインキュベートした。
【0053】
培養プレート中の細胞培養物を24時間インキュベートして、接着させた。細胞播種後1日目に、適当な溶媒中で異なる濃度で試験しようとする製剤の4μl溶液を、培養物を含むウェルに加えた(用量反応実験)。対照培養物では、溶媒4μlを溶媒対照として加えた。細胞を連続2〜4日以内にインキュベートした。インキュベーション期間の終了時に、接着細胞をトリプシン処理によって解離し、生細胞数をトリパンブルー排除試験および血球計算盤を用いてカウントした。すべての実験を少なくとも3回実施し、それぞれ4重複の3回の測定の平均値からデータを導き出した。結果を平均細胞数±標準誤差およびスチューデントのt検定によって評価した対照と試験系との差として表した。薬物の細胞毒性を細胞増殖阻害の程度に基づいて評価した。被験薬物による細胞増殖阻害を以下のように算出した。
【0054】
【数1】

【0055】
対照系列では、薬物試験に用いる異なる溶媒4μlを陰性溶媒対照として培養物に加えた。これらの対照系列の間の差は小さく、したがって、陰性対照の平均値を算出に適用した。
【0056】
ドキソルビシン塩酸塩、ミトキサントロン二塩酸塩、トポテカン塩酸塩などの一般的な化合物の溶液、ならびにそれらの市販用の製剤を陽性対照として用いた。異なる溶媒中のこれらの薬物による増殖阻害における差は小さく、したがって、陽性対照の平均的な阻害を算出に適用した。
【0057】
平均IC50±標準誤差を少なくとも3つの別々の実験を基準にして算出した。
【0058】
対照比較薬物のIC50を本発明の製剤のIC50と分けて増強因子(EF)を算出した。
【0059】
(実施例1)
ドキソルビシン塩酸塩の脱プロトン化型への転換
25mg/ml超の量で水溶性である、ドキソルビシン塩酸塩(0.034mmol)20mgを、水10mlに溶解した。水酸化ナトリウム(0.01M)3.4mlを撹拌しながら溶液に加えた。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して沈殿物を分離した。上澄みを除去し、沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。アミンの形態のドキソルビシンの溶解性をUV法で495nmの波長で測定し、それは0.015mg/mlに等しかった。
【0060】
(実施例2)
ミトキサントロン二塩酸塩の脱プロトン化型への転換
ミトキサントロン二塩酸塩(0.05mmol)26mgを水10mlに溶解した。水酸化ナトリウム(0.01M)10mlを撹拌しながら溶液に加えた。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して沈殿物を分離した。上澄みを除去し、沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。アミンの形態のミトキサントロンの溶解性を、UV法で660nmの波長で測定し、それは0.03mg/mlに等しかった。
【0061】
(実施例3)
トポテカン塩酸塩の脱プロトン化型への転換
トポテカン塩酸塩(0.05mmol)23mgを水10mlに溶解した。水酸化ナトリウム(0.01M)5mlを撹拌しながら溶液に加えた。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して沈殿物を分離した。上澄みを除去し沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。アミンの形態のトポテカンの溶解性をUV法で385nmの波長で測定し、それは0.09mg/mlに等しかった。
【0062】
(実施例4)
プロトン化型のドキソルビシンおよび脱プロトン化型のN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルからなる粒子の形成
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の水溶液(2ml、5mg/mL)およびドキソルビシン塩酸塩の水溶液(6ml、2mg/ml)を10ml試験管中で混合した。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して沈殿物を分離した。上澄みを除去し沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。得られた粒子の溶解性をUV法で350nmの波長で測定し、それは0.0002mg/mlに等しかった。
【0063】
(実施例5)
脱プロトン化型のミトキサントロンおよび脱プロトン化型のN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル2当量からなる粒子の形成
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の水溶液(2ml、5mg/mL)およびミトキサントロン二塩酸塩の水溶液(5.2ml、1mg/ml)を10ml試験管中で混合した。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して、沈殿物を分離した。上澄みを除去し沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。得られた粒子の溶解性をUV法で660nmの波長で測定し、それは0.002mg/mlに等しかった。
【0064】
(実施例6)
プロトン化型のトポテカンおよび脱プロトン化型のN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルからなる粒子の形成
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の水溶液(2ml、5mg/mL)およびトポテカン塩酸塩の水溶液(4.7ml、2mg/ml)を10ml試験管中で混合した。混合中、微細な沈殿物が出現した。試験管を3000rpmで10分間遠心して沈殿物を分離した。上澄みを除去し沈殿物を水10mlで振盪し、その後新たに遠心した。上記の3回の追加の洗浄手順の後、上澄みを0.2mmフィルターでろ過して生成物の有り得る大型の凝集物を除去した。得られた粒子の溶解性をUV法で364nmの波長で測定し、それは0.024mg/mlに等しい。
【0065】
(実施例7)
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩を伴ったドキソルビシンの製剤の調製
ドキソルビシン塩酸塩溶液(8.6mg/ml)50mlを、500ml丸底フラスコ中で撹拌しながらN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(3mg/mL)およびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(3mg/ml)を含む溶液200mlに滴下した。20分追加して撹拌を続けた。得られた製剤中のドキソルビシン濃度は1.6mg/mlであった。得られた溶液を、0.2mmフィルターでろ過し凍結乾燥した。ろ過してもドキソルビシン濃度は低下しなかった。
【0066】
(実施例8)
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩を伴ったトポテカンの製剤の調製
トポテカン塩酸塩(120ml、1.09mg/ml)のメタノール原液およびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(32ml、15mg/ml)のメタノール原液を500ml丸底フラスコ中で混合し真空中で蒸発させた。塩化ナトリウム溶液(9mg/ml)120mlを蒸発後に得られた残留物に加え、混合物を清澄かつ透明になるまで(約20分間)撹拌した。得られた溶液中のトポテカンの濃度は、1mg/mlであり、1.09mg/mlのトポテカン塩酸塩濃度に対応した。得られた溶液を0.2mmフィルターでろ過した。ろ過してもトポテカン濃度は低下しなかった。
【0067】
(実施例9)
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩を伴ったイリノテカンの製剤の調製
イリノテカン塩酸塩三水和物のメタノール原液(100ml、1.15mg/ml)およびN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩のメタノール原液(27ml、15mg/ml)を500ml丸底フラスコ中で混合し真空中で蒸発させた。水100mlを蒸発後に得られた残留物に加え、混合物を清澄かつ透明になるまで(約30分間)撹拌した。得られた溶液中のイリノテカンの濃度は1mg/mlであり、1.15mg/mlのイリノテカン塩酸塩三水和物濃度に対応した。得られた溶液を0.2mmフィルターでろ過し凍結乾燥した。ろ過してもイリノテカン濃度は低下しなかった。
【0068】
(実施例10)
N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびドキソルビシン塩酸塩(重量/重量比2.3:1)によって形成された粒子サイズのドキソルビシン濃度への依存の調査
溶液を、(130mmol)、CaCl2(2mmol)およびMgCl2(0.8mmol)を含む水溶液中で重量/重量比2.3:1のN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびドキソルビシンの混合物からなる凍結乾燥したサンプルを再構成することによって調製した。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例11)
粒子を溶解する動態の調査
出発溶液を、NaCl(5.9mg/mL)、KCl(0.3mg/mL)、CaCl2(0.295mg/mL)、MgCl2六水和物(0.2mg/mL)および酢酸ナトリウム(4.1mg/mL)の水溶液中で重量/重量比2.1:1のN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩およびドキソルビシン塩酸塩の混合物の凍結乾燥したサンプルを2mg/mlのドキソルビシン濃度まで溶解することによって調製した。出発溶液を0.04mg/mlのドキソルビシン濃度に対して50倍に希釈し、得られた溶液をボルテックスで10秒間強く撹拌し、平均粒子サイズを測定するために直接用いた。
【0071】
【表2】

【0072】
((生物学的評価−実施例12〜15))
乳腺癌、卵巣腺癌および非小細胞肺癌などの異なる悪性細胞培養系に関するin vitro実験では、カチオン性両親媒性化合物の製剤の活性は、カウンター・イオンの性質ならびにナノ粒子の形態に劇的に依存することが示された。N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、またはそれらの組合せの使用は、カチオン性両親媒性化合物の溶解性を低減し、化合物の細胞膜を介する輸送を促進し、その結果、かかる製剤の効力を増大させる。
【0073】
以下の市販の製剤を、以下の実施例に参照として用いた。すなわち、DOXIL(登録商標)(ペグ化リポソーム中に処方されたドキソルビシン塩酸塩)、NOVANTRONE(登録商標)(ミトキサントロン塩酸塩)、ADRIAMYCIN(登録商標)(ドキソルビシン塩酸塩)、HYCAMTIN(登録商標)(トポテカン塩酸塩)、およびCAMPTO(登録商標)(イリノテカン塩酸塩)である。
(実施例12)
【0074】
ヒト乳腺癌MDA−MB−231細胞系の培養物中での製剤の細胞毒性の比較評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナノ粒子の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を適当な水溶液に溶解することによって調製した。製造業者の指示に従って市販の製剤を希釈した。結果を下記の表3に記載する。
【0075】
【表3】

【0076】
(実施例13)
ヒト卵巣腺癌SKOV−3細胞系の培養物中での製剤の細胞毒性の比較評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナノ粒子の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を適当な水溶液に溶解することによって調製した。製造業者の指示に従って市販の製剤を希釈した。結果を下記の表4に記載する。
【0077】
【表4】

【0078】
(実施例14)
ヒト非小細胞肺癌細胞系A549の培養物中での製剤の細胞毒性の比較評価
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルおよびN−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナノ粒子の混合物を含む製剤を、凍結乾燥した粉末を適当な水溶液に溶解することによって調製した。製造業者の指示に従って市販の製剤を希釈した。結果を下記の表5に記載する。
【0079】
【表5】

【0080】
(実施例15)
ラットにおける「ドキソルビシン−N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩−N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1.05:1.05)」製剤の1カ月の毒性試験
試験される製剤を、ドキソルビシン−N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩−N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩の凍結乾燥した混合物を食塩水中で再構成することによって調製した。実験をHanTac:WH系(GALAS)のSPFウィスターラットの雄58匹および雌58匹で実施した。動物を4群に割り当てた。すなわち、第1群(0.9%食塩水)、第2群(ドキソルビシン6mg/kg)、第3群(表題製剤4mg/kg)および第4群(表題製剤6mg/kg)である。第2群に第4群と同じ用量のドキソルビシンを投与し、第4群と直接比較するために陽性対照とする。静脈内注射によって週に1回治療を実施した。3回の投与後(1日目、8日目および15日目に投与した後)第2群および第4群で過酷な治療に関連した臨床徴候が見られたため、22日目にすべての動物に投与しなかったが、29日目に投与を再開した。再開したため、29日目の投与は許容されない臨床徴候をもたらし、数匹の動物を安楽死させなければならないと判断したため、33日目で第2群および第4群の早期の終了を決定した。第1群および第3群に36日目で第5の用量を投与し、39日目に終了した。臨床徴候、重量、摂餌量、眼底検査、臨床病理学、尿検査、尿に関する顕微鏡検査、骨髄の読み取り、臓器重量の記録、肉眼的検査および顕微鏡的検査を任意の副作用を開示するための基準として用いた。さらに、毒物動態学の評価のために1日目に血液サンプルを採取した。それぞれ4mg/kg/日の用量で1週間に1回5回の反復投与および6mg/kg/日の用量で1週間に1回4回の反復投与での表題製剤の静脈内投与は、臨床観察、重量記録、摂餌量記録において、血液学的および臨床化学的分析における知見、骨髄の読み取りにおいて、臓器重量の測定においておよび病理組織学的検査において過酷な治療に関連した知見をもたらした。ドキソルビシンを含む試験される細胞分裂阻害製剤について反復投与後の毒性学的知見を予想した。第2群、第3群および第4群のそれぞれにおいて過酷な治療に関連する臨床徴候により数匹の動物を安楽死させた。さらに、第2群および第4群のそれぞれにおいて動物1匹が死亡したことが判明した。対照動物と比較したとき表題製剤およびドキソルビシンで治療したすべての群で、体重の甚だしい低下および体重増加の低減が見られた。表題製剤の毒性プロファイルは、(自己に負わせる創傷を含めた)頸部周囲の重度のそう痒および引っ掻きなどの徴候が陽性対照である第2群においてより重度であったことを除いてドキソルビシンに類似した。また、毒性の重度の徴候は、体液で満たされた腹部であり、それは陽性対照である第2群で観察されたにすぎない。
【0081】
この実施例から、「ドキソルビシン−N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩−N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩(重量/重量/重量1:1.05:1.05)」ナノ粒子製剤が、従来のドキソルビシン製剤の同一の濃度に比べて毒性が低いことが実証される。
【0082】
本発明は、本発明者らに現在知られている最良の形態を含めた、いくつかの実施形態に関して記載しているが、当業者に明らかなはずである様々な変更および修正が、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、なされ得ることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムであって、ドラッグ・デリバリー・システムが、0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を含み、前記ナノ粒子が、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと結合している前記物質によって形成されることを特徴とするドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項2】
前記ナノ粒子が0.01mg/ml未満の水への溶解性を有することを特徴とする、請求項1に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項3】
前記物質がN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと非共有結合していることを特徴とする、請求項1または2に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項4】
前記物質が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項5】
前記細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物が、プロトン化型のドキソルビシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、トポテカン、イリノテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、アムサクリン、プロカルバジン、メクロレタミンまたはそれらの組合せであることを特徴とする、請求項4に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項6】
前記化合物がプロトン化型のドキソルビシンであることを特徴とする、請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項7】
前記化合物が、プロトン化型のミトキサントロンであることを特徴とする、請求項5に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項8】
癌治療に使用するための、請求項4から7のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項9】
薬学的に許容される担体および請求項1から8のいずれかに記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物。
【請求項10】
薬学的に許容される担体および請求項4から7のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物。
【請求項11】
水溶液、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、錠剤、カプセル剤、または軟質ゲルの形態である、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムの調製における、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの使用。
【請求項13】
水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlであるカチオン性両親媒性物質を疎水化するための、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せの使用。
【請求項14】
前記カチオン性両親媒性物質が細胞毒性化合物または細胞分裂阻害化合物であることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlのである少なくとも1種の薬学的に活性な物質を投与するためのドラッグ・デリバリー・システムを調製する方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を形成する方法。
【請求項16】
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子が0.01mg/ml未満の水への溶解性を有する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
薬学的に許容される担体および請求項1から8のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムを含む医薬組成物を調製する方法であって、前記ドラッグ・デリバリー・システムが、ドラッグ・デリバリー・システム中の両親媒性物質のカチオン電荷に基づいて約0.2〜10当量の量である、N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステル、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、またはそれらの組合せと混合される方法。
【請求項19】
単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlのである少なくとも1種の薬学的に活性な物質の薬物効率を高めるための方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を形成する方法。
【請求項20】
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記物質を約0.2〜10当量の過剰量の前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粒子が0.01mg/ml未満の水への溶解性を有する、請求項19から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
単独でカチオン性両親媒性物質であり、水へのそれ自体の溶解性が少なくとも4mg/mlである少なくとも1種の薬学的に活性な物質のバイオアベイラビリティを増大させるための方法であって、前記物質をN−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合して0.1mg/ml未満の水への溶解性を有するナノ粒子を形成する方法。
【請求項24】
N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せが前記物質に非共有結合している、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記物質を約0.2〜10当量の過剰量の前記N−オール−トランス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩、N−13−シス−レチノイルシステイン酸のメチルエステルのナトリウム塩またはそれらの組合せと混合する、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノ粒子が0.01mg/ml未満の水中で溶解性を有する、請求項23から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
癌の治療法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムが、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与されることを特徴とする方法。
【請求項28】
癌の治療用の医薬品を調製するための、請求項1から8のいずれか一項に記載のドラッグ・デリバリー・システムの使用。
【請求項29】
癌の治療方法であって、請求項9から11のいずれか一項に記載の医薬組成物が、かかる治療を必要とする患者に治療有効量で投与されることを特徴とする方法。
【請求項30】
癌の治療用の医薬品を調製するための、請求項9から11のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−507839(P2011−507839A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539386(P2010−539386)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051516
【国際公開番号】WO2009/078803
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510172893)アーデニア・インベストメンツ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】